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○国民年金法の一部を改正する法律の施行について
(昭和三六年一一月六日)
(年発第五〇九号)
(各都道府県知事あて厚生省年金局長通知)
国民年金法の一部を改正する法律(昭和三六年法律第一六七号)及びこれに伴う国民年金法施行令の一部を改正する政令(昭和三六年政令第三三七号)は先月三一日付で公布施行されたが、同日付をもつて国民年金法施行規則の一部を改正する省令(昭和三六年厚生省令第四六号)及び福祉年金支給規則の一部を改正する省令(昭和三六年厚生省令第四七号)もまた公布され、ここに国民年金法の一部を改正する法律の施行に伴う法制的措置は一応完了した。
今回の改正は、国民年金制度を補強充実することにより、これを将来のわが国の所得保障の分野における中核体となるにふさわしい実体のあるものにしようとする重要な意義を有するものであり、その運用の適否は、単に被保険者のみならず、すべての国民の福祉にも影響するところきわめて大なるものがあるので、その実施に当たつては、先に示された事務次官通達によるほか、左記事項に留意し、その目的達成に遺憾なきを期せられたい。
なお、この通達においては、国民年金法を「法」と、国民年金法の一部を改正する法律を「改正法」と、国民年金法施行令を「令」とそれぞれ略称する。
記
第一 拠出年金に関する事項
1 被保険者資格
(1) 年齢計算については、改正前の法は誕生日主義をとり出生日を年齢計算の期間に算入していなかつたが、改正法ではこれを改め、出生日も年齢計算の期間に算入することにした。これは年齢計算については「年齢計算に関する法律」及び民法の期間計算に関する規定があり、一般に、年齢は出生の日から起算され、誕生日の前日の終了をもつて満年齢に達するものとされていることによるものであること。
(イ) この結果、明治三九年四月一日に生まれた者は、拠出年金発足の際、すでに五五歳をこえていることとなるので一応国民年金制度の適用から除外されることとなる筈であるが、改正前の法第七条第一項又は附則第七条第一項の規定により、この制度に任意加入した者は、引き続き被保険者としての地位を保有するものとした点に注意すること(改正法附則第七項)。これは、これらの者についてはすでに一定の保険関係が成立しており、いまさらこれを解消することは、その保険関係をことさら混乱におとし入れるばかりではなく、被保険者に大きな不利益を及ぼすこととなるので、これを防止するために設けられた措置であること。
(ロ) また、明治四四年四月一日に生まれた者は、拠出年金発足の際すでに五〇歳をこえているので強制適用の被保険者から除外されることとなる。
しかし、これらの者が法施行の時において任意加入をしようとしてもその加入の申込期限がすでに経過しているため加入の申込をすることもできないので、明治四四年四月一日に生まれた者については、本人の加入意志の有無にかかわらず一律に任意加入の被保険者とすることとした。したがつて、強制適用の被保険者として資格取得の届出をした者はもちろん、届出をしなかつた者も、法第七条第一項の要件に該当し、同条第二項第一号の要件に該当しないかぎり、国民年金の任意加入の被保険者となるものとした点に注意すること(改正法附則第八項)。
(2) 改正前の法は、他の公的年金制度との関係においては、それらの制度の被保険者の配偶者についてのみこの制度に加入することを認めていた。これは、これらの者に対する公的年金制度による所得保障がきわめて不充分、かつ、不安定であることに基づくものである。しかし、年金的保護の不充分であることに着目するなら、任意加入の範囲をこれらの者に限定する積極的な理由がない。そこで、今回の改正ではこの範囲を広め公的年金制度の適用を受けている者以外の者はすべて任意加入することができることとした。
したがつて、公的年金制度から老齢(退職)年金又は障害年金を受けている者であつても本制度に任意加入をすることができるものであることに留意すること(法附則第六条第一項及び通算年金制度を創設するための関係法律の一部を改正する法律第一条)。
2 保険料の前納に関する事項
(1) 改正前の法においては、現金により保険料を前納するには都道府県知事の承認を受けることが必要であつたが、前納を一層簡便な形において、かつ、容易に行なわせるという見地から、今回の改正では、これを廃止することとした(法第九三条第一項)。したがつて、現金による保険料の前納は市町村役場等の窓口に備えつけられている納付書に現金を添え、日本銀行、出納官吏等の収納機関に払い込むことによつて直ちに完了するものであること。
(2) また、改正前の法においては、国民年金印紙によつて保険料を前納する場合には、保険料の割引を行なわれないこととなつていたが、今回の改正では、これを改め、現金前納の場合と同様、保険料の割引を行なうこととした(法第九三条第三項)。
したがつて、被保険者は、国民年金印紙により保険料を前納する場合にも、割引を受けることとなるが、この割引は、将来のすべての保険料を前納する場合を除き、年単位で納付される保険料についてのみ認められるものであること(令第八条第二項)。また、国民年金印紙によつて保険料を前納する場合の検認については、旅行者、行商人のように住所地を離れることが多い被保険者の利便を考慮し、都道府県知事にもこの検認を行なわせることとしたのでこれらの者は、住所地又は現在地の都道府県知事の検認を受けることによつて保険料を前納することができるようになつたことを周知させること(法第九三条第二項)。
3 年金給付に関する事項
今回の改正では、年金給付についても多大の改正が加えられ、あらたに通算老齢年金、特例老齢年金、準母子年金および死亡一時金制度の創設、老齢年金の繰上げ支給、障害年金、母子年金、準母子年金および遺児年金の受給資格期間の短縮等が行なわれることとなつたが、これらの給付の細目については追つて支給手続に関する省令の整備をまつて別途通達する予定であること。
なお、受給資格期間の短縮により障害年金、母子年金、準母子年金及び遺児年金は、来年の五月から支給される場合が生ずることとなるが、最低受給資格期間としてのこの一年間は、すべて保険料納付済期間で満たされていなければならない。したがつて、改正法の趣旨の徹底に当たつては、併せて保険料の納付の促進を強調し、被保険者が年金受給の機会を失なうことがないよう指導に遺漏のないようにすること。
第二 福祉年金に関する事項
1 母子福祉年金
母子福祉年金の減額改定の要件及び存続要件の一つとなつている受給権者とその子の「生計維持関係」が「生計同一関係」に改められたが(法第三九条第三項、第六三条第三項、第六四条第一項)、これは、母子世帯の実態等に照し、制度本来の趣旨によりよく合致させるための改正であつてその運用の実態はこの制度の実施以来行なつてきたものとほぼ同一であること。
2 準母子福祉年金
準母子福祉年金の基本的構造は、母子福祉年金とほとんど同様であるが、ただ、準母子世帯の実態が複雑多岐にわたつているため、年金額の調整、他の年金との支給の調整等特殊な取扱いが認められているものであること(法第四一条の五、第六四条の五、第六四条の六)。
なお、これらについては別途示される予定であるが、これら調整の根底となる基本的な考え方は、準母子世帯についても母子世帯と同様生計同一関係によつて結合さざるを得ない特殊の関係を認める立場に立ちつつ母子世帯との均衡及び構成において異なる準母子世帯相互間の均衡等を考慮し、そのうえで当該世帯に最も有利な取扱いをしてゆこうとするものであること。
また、母子年金と準母子年金とでは母子年金を優先させ、拠出年金と無拠出年金とでは拠出年金を優先させるという基本方針に基づき、調整が図られているものであること。
3 未支給福祉年金
未支給福祉年金の支給範囲も拠出年金の未支給年金の場合と同じく拡大されたが、後者と異なり、死亡した受給権者が生前年金の裁定請求をしていたときに限り、また、受給権者の死亡の日から起算して六箇月以内に限り、請求できるものとしている点に注意すること(法第一九条第二項ただし書、同条三項)。
4 事務の委任に関する事項
事務処理の敏速化に資するため、福祉年金に関する事務のうちの印鑑又は同一市町村の区域内における住所若しくは支払郵便局の変更に係る証書の記載事項の訂正に関する事務が、都道府県知事から市町村長に移された(令第二条第八号)が、このうち、印鑑の変更に関しては、これが運用の如何は、制度の発展に大きな影響を及ぼすことも考えられるので、不正受給の事態等が生じないよう、その事務の取扱につき十分市町村長を指導されたいこと。