○厚生年金保険の老齢年金、通算老齢年金及び脱退手当金に関する所得税の源泉徴収事務について
(昭和四一年五月三〇日)
(庁保険発第六号)
(各都道府県民生主管部(局)保険課(部)長あて社会保険庁年金保険部厚生年金保険・年金保険部業務課長連名通知)
厚生年金保険の老齢年金、通算老齢年金及び脱退手当金については、所得税法の規定により老齢年金及び通算老齢年金は給与所得と、脱退手当金は退職所得とみなされ、所得税の課税対象として源泉徴収を行なう建前になつている。
従来、老齢年金については年金額が九万円未満である場合は支払者における源泉徴収事務が免除され、脱退手当金については課税の対象とされていなかつたため源泉徴収の事務はなかつたのであるが昨年の厚生年金保険法の改正により年金額が大巾に増減され、また脱退手当金があらたに課税の対象とされたことに伴ない、老齢年金については本年二月期支払分(徴収事務は八月期以降)より、脱退手当金については本年八月以降請求分についてそれぞれ所定の手続きにより源泉徴収を行なうこととなつた。
脱退手当金の源泉徴収事務はその支払庁たる社会保険事務所において行なうこととなるので、別添(1)「脱退手当金に関する所得税の源泉徴収事務取扱いについて」により事務処理に遺憾のないよう期されたい。なお、脱退手当金の受給者の大部分が被保険者期間の短かい女子であるため、脱退手当金のほかに退職手当等の支給を受けていない場合は勿論、これを受けている場合でも退職所得控除額があるため実際に税を徴収する場合は極めて少ない見込みである。
老齢年金及び通算老齢年金の源泉徴収事務はその支払庁たる社会保険庁(年金保険部業務課)において処理することとなるが、その実施方法は、別添(2)「老齢年金及び通算老齢年金に関する所得税の源泉徴収事務取扱いについて」のとおりであるので、了知ありたい。なお、源泉徴収該当者は本年の所得税法の改正により、当分の間、年金額一四万円以上の者に限られるので、さしあたり通算老齢年金については該当者はなく、老齢年金については極めて少数の者が該当するものである。
おつて、社会保険事務所において事務処理に要する脱退手当金裁定請求書及び脱退手当金支給決定通知書は、今回限りの措置として、別途管理換えをする予定であるから、申し添える。
別添(1)
脱退手当金に関する所得税の源泉徴収事務取扱いについて
第一 事務取扱いの概要
1 脱退手当金は、他の公的年金制度における退職一時金と同じく所得税法(以下「税法」という。)上の退職所得とみなされており、退職所得に対する所得税は源泉徴収をすることになつているので、社会保険事務所において、脱退手当金支払の際、所定の所得税を徴収するものであること(税法第三〇条、第三一条、第一九九条)。なお、退職所得とは、退職手当、退職一時金及びこれらの性質を有する給与(以下「退職手当等」という。)にかかる所得をいうものであること。
2 脱退手当金支払の際徴収すべき所得税の額は
(1) 退職所得の受給に関する申告書(以下「退職所得受給申告書」という。)の提出がある場合であつて退職手当等が脱退手当金のみであるときは、脱退手当金の額から退職所得控除額(左記第二の3参照)を控除した残額に応ずる「退職所得の源泉徴収税額表(第二〇一条関係)(税法別表第八)」(以下「税額表」という。)に掲げる税額であり、脱退手当金のほかに、その年に支払いを受けるべきこととなつた退職手当等ですでに支払いを受けたものがあるときはその支払いを受けた退職手当等の額と脱退手当金の額との合計額につき所定の方式(左記第二の4(2)参照)により求めた税額であること(税法第二〇一条)。
(2) 退職所得受給申告書の提出がないときは、一律に脱退手当金の額の二〇%に相当する金額であること(税法第二〇一条)。
(注)退職所得の額は収入金額から退職所得控除額を控除した残額の二分の一に相当する額となつているが、税額表にはこの二分の一の計算が吸収されているので、源泉徴収を行なう場合は、収入金額から退職所得控除額を差し引いた額につきそのまま税額表を適用すればよい。
3 脱退手当金を支払う際、支払額及び徴収した税額を記載(徴収すべき税額がないときは税額〇円と記載)した支払明細書及び源泉徴収票をその支払を受ける者に交付すること(税法第二二六条、第二三一条)。なお、翌年の一月三一日までにその年における脱退手当金支払額及び徴収税額を記載した退職所得の源泉徴収票合計表を所轄税務署に提出すること。
4 徴収した所得税は翌月一〇日までに所轄の税務署に納付すること(税法第一九九条)。
5 源泉徴収事務の流れは、別紙のとおりであること。
第二 事務処理に関する事項
1 退職所得受給申告書
(1) 脱退手当金の裁定請求をする者については、その裁定請求の際に、退職所得受給申告書を社会保険事務所に提出させること。この場合において、その年に支払うべきことが確定した退職手当等で脱退手当金の裁定請求をするまでに支払いを受けたものがあるときは、その退職所得受給申告書にその旨を記載し、退職手当等にかかる源泉徴収票の添付を要すること。
(2) 退職所得受給申告書は、その提出手続の簡素化及び提出もれ防止のため(前記第一の2の(2)参照)脱退手当金裁定請求書の裏面に刷りこむこととしたので、脱退手当金請求の際は裏面の記載及び退職手当等にかかる源泉徴収票の添付につき指導すること。
2 源泉徴収の対象となる退職手当等の額
脱退手当金支払の際に徴収すべき所得税の額の算定の基礎となる退職手当等の額は、脱退手当金の支払いを受ける者が提出した退職所得受給申告書に
(1) 脱退手当金を支払うべきことが確定した年において他に支払うべきことが確定した退職手当等ですでに支払いがされたもの(以下「支払済みの退職手当等」という。)がない旨の記載がある場合は、その脱退手当金の額。(例一参照)
(2) 支払済みの退職手当等がある旨の記載がある場合は、その支払済みの退職手当等の金額と支払うべき脱退手当金の額との合計額。(例二参照)
であること。
なお、「脱退手当金の支払うべきことが確定した年」とは、便宜、脱退手当金の裁定請求があつた日の属する年として取り扱うこと。
(例)
一 昭和四〇年一一月に退職により退職金の支払を受けるべきことが確定し、同年同月に退職金の支払があつた者から昭和四一年八月に脱退手当金の裁定請求があつた場合は同じ年でないので脱退手当金のみの額とする。
二 昭和四一年一〇月に退職により退職金(B円)の支払を受けるべきことが確定し、同年一一月にその一部(B1円)につき支払を受けた者から、同年一二月に脱退手当金の裁定請求があつたときは、脱退手当金の額(A円)と支払済みの退職金の額(B1円)の合計額とする。
3 退職所得控除額
退職所得控除額は、次により算出すること。
(1) 勤続年数が二〇年以下である場合 二五万円に当該勤続年数を乗じて計算した金額(五〇万円に満たない場合 五〇万円)
(2) 勤続年数が二〇年を超える場合 五〇〇万円と五〇万円に当該勤続年数から二〇年を控除した年数を乗じて計算した金額との合計額
(3) 障害者(所得税法第二条第二八号に定める者)となつたために退職した場合 前記(1)又は(2)により計算した金額に一〇〇万円を加算した金額
勤続年数及び退職所得控除額の計算にあたつては、次の事項に留意すること。
ア 退職所得控除に係る勤続年数の計算
(ア) 所得税法第三〇条第三項第一号(退職所得)に規定する勤続年数は、同法第三一条の規定により退職手当等とみなされる厚生年金保険の脱退手当金等(以下「退職一時金」という。)については、その支払金額の計算の基礎となつた被保険者であつた期間等により計算すること。
(イ) 同一の年に二以上の所得税法第三〇条第一項の退職手当等(同法第三一条の規定により退職手当等とみなされるものを除く。以下「退職手当等」という。)の支給を受ける場合には、(ア)にかかわらず最も長い期間により勤続年数を計算し、さらにその最も長い期間以外の勤続期間の全部又は一部が、最も長い期間の計算の基礎となつた勤続期間と重複していないときは、その重複していない期間を最も長い期間に加算して、勤続期間を計算すること。
(ウ) (ア)及び(イ)によつて計算した勤続期間に一年未満の端数があるときは、これを一年として勤続年数を計算する。
イ 退職所得控除額の計算
退職所得控除額は、勤続年数に応じ所得税法第三〇条第三項の規定によつて計算した金額とされているが、脱退手当金の支払を受けるべきことが確定した年の前年以前四年以内に退職手当等又は退職一時金の支給を受けている場合において、その年に支給を受ける退職手当等又は退職一時金の計算の基礎となつた勤続期間の一部が、その年の前年以前四年内に支給を受けた退職手当等又は退職一時金に係る勤続期間と重複しているときは、その重複している部分の期間につき、所得税法第三〇条第三項の規定により計算した金額を、その年に受ける最も長い期間の退職手当等又は退職一時金について所得税法第三〇条第三項の規定により計算した金額から控除した金額であること。
(1) 勤続年数=146月×(1/12)=13年(1年未満の端数が生じたときは、1年として計算する。)
(2) 前年以前4年内に支給を受けた退職手当等と重複する期間=66月×(1/12)=5年(重複している部分に1年未満の端数があるときは切り捨てる。)
なお、支給を受けた退職手当等の額がその支給を受けた年の退職所得控除額に満たないときは、退職手当等の額をその年の退職所得控除額の単価で除して得た数を重複する期間とする。
設例の場合 A社にかかる退職金30万円は、その支給を受けた年の退職所得控除額(5万円×5年=25万円)を上回るので重複する期間は5年となる。
(3) 退職所得控除額=25万円×13年-25万円×5年=200万円
(4) この年の前年以前4年内に受けた退職手当等以外の退職手当等(例のC社にかかるもの)は、その額の多寡、勤続年数の長短にかかわらず調整の対象とならない。
4 所得税額
徴収すべき所得税の額は、税額表により次のとおりであること。
(1) 脱退手当金のほかに支払済みの退職手当等の額がない場合は、税額表の「退職所得控除額控除後の退職手当等の金額」が〇となるので、税額は〇となる。
(2) 脱退手当金のほかに支払済みの退職手当等がある場合は、支払済の退職手当等の額と脱退手当金の額との合計額から退職所得控除額を控除した残額に応ずる税額表に掲げる税額を求め、その税額から、支払済みの退職手当等につきすでに徴収された所得税の額を控除した残額に相当する税額となる。
(3) 退職所得受給申告書の提出がないときは、脱退手当金の額に二〇%の税率を乗じて計算した金額に相当する税額となる。
(前記第二の2の(2)によりこれを防止する。)
5 徴収税額の納付
徴収した所得税については、納付書を作成のうえ、翌月一〇日までに所轄の税務署に納付することとし、納付書の用紙は所轄の税務署から交付を受けること。
6 支払明細書及び源泉徴収票の交付
(1) 脱退手当金を支払う際に、脱退手当金の額及び徴収した所得税額を記載(徴収税額がないときは〇円と記載)した支払明細書を、支払を受ける者に交付することとなつているが、支払明細書は脱退手当金支給決定通知書(税額欄を設ける)をもつてこれを兼ねることとするので、別に支払明細書の作成交付は要しないこと。
(2) 脱退手当金を支払う際には、その支払を受ける者にかかる源泉徴収票を作成してこれをその支払を受ける者(徴収税額が〇である者を含む。)に交付することとなつているが、源泉徴収票も前記の脱退手当金支給決定通知書をもつてこれを兼ねることとするので、別に源泉徴収票の作成交付は要しないこと。
(3) 前記(1)及び(2)の取扱いについては、国税庁と協議済みであること。
(4) 源泉徴収票の所轄税務署への提出は、国税庁通達により、法人の代表者、特別職の国家公務員、地方公共団体の議員及び退職受給申告書の提出がないことによる二〇%の税率適用者以外の者については省略できること。
(5) 退職所得の源泉徴収票合計表の税務署への提出は、その年の支払にかかる源泉徴収票に記載した支給額及び徴収税額を合計して退職所得の源泉徴収票合計表を作成し、翌年一月三一日までに所轄の税務署に送付すること。このため、退職所得の源泉徴収票合計表用紙は所轄の税務署から交付を受けること。
別紙
別添(2)
老齢年金及び通算老齢年金に関する所得税の源泉徴収事務取扱いについて
厚生年金保険の老齢年金及び通算老齢年金は、所得税法において給与等とみなされ、所得税が課されることになつている。
年金の支払者である社会保険庁は所得税の源泉徴収を行なわなければならないので、本年からその事務を実施する。
年金については、当分の間、その年中に支払われる年金の額が、その年最初の支払日の前日の現況において、一四万円に満たない場合には、所得税の徴収及び納付並びに給与所得者の扶養控除等申告書の提出は要しないものとすることとされているので、年金の額が一四万円以上の老齢年金及び通算老齢年金の受給者について源泉徴収事務を実施する。
1 年金受給者の源泉徴収に関する申告
老齢年金及び通算老齢年金の受給者は「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」又は「従たる給与についての扶養控除等(異動)申告書」のいずれかを前年の一一月三〇日までに年金保険部業務課に提出する。本年については、六月一〇日までに提出する。
これらの申告書の用紙は、年金保険部業務課から直接年金受給者に送付する。
「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」又は「従たる給与についての扶養控除等(異動)申告書」を提出した年金受給者は、その後、その年の中途において、申告書に記載した事項、即ち、控除対象配偶者、扶養親族、障害者及び寡婦に異動を生じた場合には、そのつど「給与所得者の扶養控除等異動申告書」又は「従たる給与についての扶養控除等異動申告書」を年金保険部業務課に提出する。
2 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出
年金受給者は、(1) 老齢年金及び通算老齢年金以外に給与所得がないとき、(2) 老齢年金及び通算老齢年金以外に勤務先等からの給与所得がある場合であつて、その勤務先等からの給与所得で基礎控除、配偶者控除及び扶養控除を行なつていないときに黒刷の「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出する。
3 「従たる給与についての扶養控除等(異動)申告書」の提出
年金受給者は、老齢年金及び通算老齢年金以外に勤務先等からの給与所得がある場合であつて、その勤務先等からの給与所得で基礎控除、配偶者控除及び扶養控除を行なつているときに緑刷の「従たる給与についての扶養控除等(異動)申告書」を提出する。
4 課税額
(1) 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出した年金受給者は、所得税法における別表第四「給与所得者の源泉徴収税額表(月額表)イ、甲表」の甲欄が適用される。
この申告書が提出されると、実際には基礎控除、配偶者控除及び扶養控除があるため、年金の額が二一万六〇〇〇円未満の年金受給者には所得税が課されない。
この申告書が提出されない場合には、年金額の如何にかかわらず前記税額表の乙欄を適用して所得税が課される。
(2) 「従たる給与についての扶養控除等(異動)申告書」を提出した年金受給者は、所得税法における別表第四「給与所得者の源泉徴収税額法(月額表)イ、甲表」の乙欄が適用される。
勤務先等の給与所得から基礎控除、配偶者控除及び扶養控除のすべての控除を受けることができなかつた年金受給者は、この「従たる給与についての扶養控除等(異動)申告書」の(16)欄に、控除できなかつた控除対象配偶者又は扶養親族を記載して提出すれば、控除が受けられる。
5 源泉徴収の実施時期
本年分についての源泉徴収は、八月期支払分から実施する。二月期及び五月期支払分にかかる所得税は、八月期及び一一月期に支払う年金から等分して徴収する。
6 支払明細書の交付
年金の額が一四万円以上の年金支給者については、支払のつど、支払額及び徴収した税額を支払通知書又は振込通知書に記載して交付する。
7 年末調整
「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出した受給者については、一一月期の年金を支払う際に年末調整を行なう。
年末調整に際し、社会保険料、生命保険料及び損害保険料についての控除を受けようとする年金受給者は、八月三一日までに「給与所得者の保険料控除申告書」を年金保険部業務課に提出する。
「給与所得者保険料控除申告書」の用紙は、年金保険部業務課から直接年金受給者に送付する。
8 源泉徴収表の交付
老齢年金及び通算老齢年金の受給者には、その年の翌年の一月三一日までに「源泉徴収票」を交付する。実際には、老齢年金及び通算老齢年金の年金の額が、一四万円以上の年金受給者に実施する。
9 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」及び「従たる給与についての扶養控除等(異動)申告書」の用紙は別紙のとおりである。