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○厚生年金保険法の施行について

(昭和二九年八月一一日)

(保険発第六六号)

(各都道府県知事あて厚生省保険局長通達)

厚生年金保険法(昭和二九年法律第一一五号)、同法施行令(昭和二九年政令第一一○号)及び同法施行規則(昭和二九年厚生省令第三七号)の施行については、さきの依命通知によるほか、細部に関しては、左記によられたい。なお、この通知において、厚生年金保険法を「法」又は「新法」と、同法施行令を「令」と、同法施行規則を「規則」と、厚生年金保険及び船員保険交渉法(昭和二九年法律第一一七号)を「交渉法」と、旧厚生年金保険法(昭和一六年法律第六○号)を「旧法」とそれぞれ略称する。

第一 一般事項

一 目的

この法律の目的は、労働者の老齢、廃疾又は死亡についての保険の方法による給付と福祉を増進するために必要な施設とを行い、永久的に労働能力を喪失した労働者及びその家族の生活の安定を図り、且つ、福祉の向上に寄与することにあるのであり、その保険給付は、社会相互扶助の理念に基く生活保障費としての性格をもつものであること。例外として現在の社会的意識にかんがみて、この保険からの脱退についても、保険給付を行うものであること。

二 被保険者の種別

従来の一般男子被保険者、女子被保険者、坑内夫たる被保険者、任意継続被保険者を、それぞれ第一種被保険者、第二種被保険者、第三種被保険者、第四種被保険者とし、被保険者の種別を明らかにすることによつて、被保険者期間の計算及び保険給付に際しての便宜を図るものであること。

第二 被保険者に関する事項

一 資格

1 適用範囲は、従来どおりであるが、実務上用いられていた適用事業所という概念を法律上の概念としてとりあげたものであること。その理由は、届出義務、保険料負担義務等被保険者自身のみでなく事業主にもこの法律によつてある程度義務が課せられるのである以上、適用面でひとまず事業所単位にとらえることが望ましいこと、従来の任意包括被保険者の制度について法律上と実態上とで一致しない点があり、これを是正する必要があつたこと等であること。

2 適用除外についても、従来どおりであり、旧法第一六条ノ二第七号が削られたのは、これに該当する実態がないため実際上無意味な規定であつたからであること。なお、市町村職員共済組合法(昭和二九年法律第二○四号)附則第四一項により、法第一二条第一号ハからホまでの規定は、昭和三○年一月一日から整理されるものであること。

3 第四種被保険者の取扱にあたつては、交渉法第五条並びに第七条第一項及び第二項の規定に留意すること。

4 被保険者の資格の取得及び喪失並びに被保険者の種別の変更の確認は、被保険者の握を法律的にとらえたものであつて、新たに被保険者の資格が審査の請求の対象としてとりあげられた(法第九○条)ので、その審査の請求の前提となるべき行政処分として規定されたものであり、保険給付の裁定と同様、事実上当然に生じている資格関係を法律上顕在化するものであつて、客観的な事実に基いて行われなければならず、強制適用の原則には、なんら変化がないこと。この確認は、事業主からの厚生年金保険被保険者資格取得届(法第二七条、規則第一五条)、厚生年金保険被保険者種別変更届(法第二七条、規則第二○条)若しくは厚生年金保険被保険者資格喪失届(法第二七条、規則第二二条)の提出により、又は被保険者からの確認の請求(法第三一条第一項、規則第一二条)に基いて行うべきであるが、これらの届出又は請求がなくても職権で行うことができ、任意単独被保険者の認可及びその取消の認可、適用事業所の取消の認可並びに第四種被保険者については、行わないものであること。

二 被保険者期間

被保険者期間の計算方法は、従来どおりであり、戦時加算も、そのまま認められている(法附則第二四条)こと。

三 標準報酬

1 標準報酬は、最低三、○○○円から最高一万八、○○○円まで一二等級となつたこと。

2 現物給与の価額は、健康保険組合の組合員である被保険者についても、常に都道府県知事が定めることとなつた(法第二五条)ほか、報酬月額の算定並びに標準報酬の決定及び改定については、従来どおりであること。この場合、現物給与の価額の決定に際しては、健康保険組合と緊密な連絡をとることが望ましいこと。

3 第四種被保険者の標準報酬は、その者につき、法第九条又は第一○条第一項の規定による被保険者として最後に決定され、又は改定された標準報酬によるものとし、(法第二六条)、年金額に定額部分をとりいれた関係上、逆選択を防ぐ意味から、減額申請は、廃止されたこと。

四 届出、記録等

資格、標準報酬等に関する事業主の届出義務の法律的根拠を明らかにし(法第二七条)、また、被保険者台帳を法定化するとともに、保険給付のための記録を都道府県知事に義務づけ(法第二八条、令第二条及び第三条、規則第七九条)、さらにその記録を、審査の請求を経て、なるべく早く確定するために、その内容を事業主と被保険者とに通知しなければならない(法第二九条、規則第八○条及び第八三条)こと。同じ趣旨から、届出又は確認の請求に係る事実がないと認めた場合にも、届出者又は請求者に通知する(法第三○条及び第三一条第二項、規則第八○条及び第八三条)こと。

1 都道府県知事から通知を受けた事業主は、それをさらに本人に通知しなければならず(法第二九条第二項)、また、審査の請求期間六○日の起算日を明らかにするため、本人に通知した日を明らかにすることができる書類(具体的には、都道府県知事からの通知書を本人に呈示し、その呈示した日を通知書に記載し、又は通知書の内容を掲示し、その掲示した日を記載する程度でよい。)を作成しなければならない(規則第二五条第一項)ので、この点、関係各事業主に周知徹底せしめられたいこと。

2 通知に代えて公告しなければならない場合(法第二九条第四項又は第五項)には、必ずしも屋外に公告する必要はなく、屋内の出入自由な場所において必要事項を記載した書類を自由に閲覧させる等の方法によつてもよいこと。この場合においては、その旨を屋外に掲示しておくことが望ましいこと。

3 保険料の徴収権の消滅した期間に関する保険給付の制限(法第七五条)の前提として、被保険者自身に、被保険者の資格の取得及び喪失並びに被保険者の種別の変更について、確認の請求を認めた(法第三一条第一項)こと。従つて、事業主から届出のない場合には確認の請求ができる旨を、被保険者又は被保険者であつた者に周知徹底せしめられたいこと。

第三 保険給付に関する事項

一 通則

1 保険給付の裁定

保険給付を受ける権利の裁定がはつきりと規定され、その権限は、都道府県知事に委任されている(法第三三条、令第一条第一号)こと。この裁定は、給付額の計算、廃疾認定等を含むものであり、老齢年金裁定請求書(規則第三○条)、障害年金障害手当金裁定請求書(規則第四四条)、遺族年金裁定請求書(規則第六○条)又は脱退手当金裁定請求書(規則第七七条)の提出によつて行うものであること。

2 基本年金額及び加給年金額

脱退手当金以外の給付の額は、基本年金額を基礎として定められ、定額部分(二万四、○○○円)と報酬比例部分(平均標準報酬月額×一○○○分の五×被保険者期間)とから構成されていること。基本年金額については、報酬比例部分を計算する際に、被保険者期間が二○年未満であれば二○年とみなし(障害給付及び遺族給付に限る。法第三四条第二項、第四三条第二項)、被保険者期間が二○年以上でその一部が第三種被保険者としての被保険者期間であれば、第一種被保険者であつた期間と第三種被保険者であつた期間とにつきそれぞれ別に計算のうえ合算し(法第三四条第三項)、三、○○○円未満の標準報酬月額は三、○○○円とみなす(法附則第八条)ことに留意すること。加給年金額とは、従来の加給金又は増額金に相当するものであること。

3 端数処理及び年金の支払

毎期の年金支払額については、従来から、国庫出納金等端数計算法(昭和二五年法律第六一号)によつて端数処理ができたのであるが、年金額そのものについても、端数処理ができることとなつた(法第三五条)ので、年金証書(規則第八二条)にも、円単位まで記入すればよいこと。また、年金の支払は、年金支払請求書に基いて行われる(規則第三五条、第五一条、第六八条)ものであること。

4 未支給年金

この法律による保険給付を受ける権利は、民法(明治二九年法律第八九号)第八九六条但書にいう一身専属権であり、本人のみが請求できる性質のものであるけれども、年金たる保険給付に限り、この法律の目的の見地から本人が死亡した場合には、例外として、未支給の分について一定範囲の配偶者と子にも請求権を認めた(法第三七条第一項、規則第四二条、第五八条又は第七五条)ものであること。この場合において、本人がまだ保険給付の裁定を請求していなかつたときであつても、未支給年金を請求することができる(法第三七条第二項、規則第四二条後段、第五八条後段又は第七五条後段)こと。

5 併給の調整

新たに廃疾の併合認定が設けられた(法第四八条)結果、障害年金相互の調整は不必要となつたが、老齢年金と船員保険の障害年金、障害年金と船員保険の老齢年金の調整について、交渉法第二○条に留意すること。

6 年金の支払の調整

廃疾の併合認定によつて乙障害年金が消滅して甲障害年金が生じた場合、又は併給の調整によつて乙老齢年金を停止して甲障害年金を支給すべき場合若しくは乙障害年金を停止して甲老齢年金を支給すべき場合に、処分の時期がおくれたため乙年金を過払したときであつても、その過払の分は、甲年金の内払とみなしてよく、戻入する必要はないこと。

二 老齢年金

老齢年金の受給権については、年齢も受給要件の中に含まれるようになり、従来の若年停止の制度が改められたこと及び厚生年金保険又は船員保険の被保険者となつたときは、支給停止ではなくて失権する(法第四五条、交渉法第一四条)ことに特に留意すること。

1 受給要件

資格期間、資格喪失及び年齢の三つが受給要件であるが、資格期間としては、交渉法第二条及び附則第九項によつて船員保険との期間通算が行われ、また、継続した一五年間に一六年という坑内夫についての特例が廃止された反面、四○歳(女子と坑内夫については、三五歳)以後一五年という高齢者を考慮しての資格が認められ(法第四二条第一項第二号及び第三号)、受給開始年齢は、一般男子と坑内夫につき、それぞれ六○歳、五五歳とされ(法第四二条第一項)、資格喪失後の傷病により一級又は二級の障害年金の受給権者と同程度の廃疾の状態にある間は、受給開始年齢に達する前であつても、老齢年金を支給する(法第四二条、第四六条)こと。なお、坑内夫の特例及び受給開始年齢に対する期待権は、保護されており(法附則第九条及び第一二条)、受給開始年齢前に老齢年金を支給する場合の廃疾の認定は、障害給付の場合と同様にして行う(規則第三○条第三項)ものであること。

2 年金額

基本年金額に加給年金額を加えたものであるが、この場合の基本年金額については、被保険者期間が二○年未満であつても、そのまま実際の月数で計算する(法第四三条第二項)こととし、また、加給年金額については、子の年齢が一八歳未満とされたほかは、従来の一級の障害年金の場合と同様である(法第四四条)こと。

三 障害年金及び障害手当金

資格取得後資格喪失前に発した傷病に限ることが明らかにされ、また、原則として自費診療が認められ、途中で健康保険の療養の給付を受けるようになつたときは、その時を三年の起算日とすることとなつたほか、受給要件は、従来どおりであること。障害年金の等級は、一級から三級までとされ、新旧の廃疾の程度を比較すると次のとおりであること。

旧法

新法

一級

一級

二級

二級

二級

三級

手当金

 

 

 

手当金

(なおらないもの)

1 障害年金

常に廃疾の程度に相応した保険給付を行おうとする見地から、廃疾の併合認定(法第四八条)及び等級の変更(法第五二条)が設けられ、また、業務上の障害補償又は障害補償費を受けたときは、その時から六年間支給を停止する(法第五四条、規則第四九条)こと。

イ 廃疾の併合認定

障害年金Aの受給権者がさらに障害年金Bを受けるべき廃疾の状態に該当した場合に、従前の廃疾とは無関係に新たな廃疾についてのみ認定してA、Bいずれか高額のもののみを支給するという従来の制度は不合理であるので、このような場合には、前後の廃疾を併合して認定を行い、障害年金Cを支給し、Aを失権させるものであること。この場合において、Aが一定期間停止されている(法第四九条第一項又は第五四条により)ものであるときは、Cはその残余期間だけ停止されその間はBを支給し(法第四九条第一項)、また、Bについて業務上の障害補償若しくは障害補償費を受けたときは、Cは六年間停止されてその間はなおAが支給される(法第四九条第二項)こと。

ロ 年金額

基本年金額及び加給年金額を基礎として構成され(法第五○条第一項)加給年金額については、老齢年金の場合と同様である(法第五一条第二項)こと。加給年金額を認められるのは一級及び二級であるが、後述する等級の変更により、三級から二級に変る場合もあるので、障害給付の裁定の請求に際しては、すべて加給年金額の対象者となる者に関する書類等を請求者から提出させなければならず(規則第四四条)また、受給権者が後に被保険者となることがあつても、旧法第四三条のような額の改定は、行わない(法第五一条第一項)ものであること。前述のイの場合において、Cの年金額がAの年金額より低額であるときは、Aの年金額をもつてCの年金額とし(法第五○条第二項)、旧法による被保険者であつた期間又は旧法による被保険者であつた期間に引き続く新法による被保険者であつた期間に発した傷病に係る障害年金の額については、旧法の計算方法による額の期待権が保護されている(法附則第二○条)こと。

ハ 等級の変更

前掲の廃疾の程度比較表をみてもわかるように、傷病がなおらない者には、すべて年金を支給することとなつたのであるが、この趣旨を徹底させるのが、廃疾の診査又は額の改定の請求による等級の変更である(法第五二条、規則第四七条)こと。これにより、結核等で障害手当金を受けた後に廃疾の状態が悪化した者等に対する従来の不合理な取扱が是正されるものであること。なお、この等級の変更は、旧法による障害年金については、適用されない(法附則第一六条第一項)こと。

2 障害手当金

障害手当金は、傷病がなおつた場合にのみ支給されることとなり(法第五五条第一項)その額は、三級の障害年金の額の二年分である(法第五七条)こと。

四 遺族年金

従来の遺族年金、寡婦年金、かん❜❜夫年金及び遺児年金を統一したものであること。考え方としては、一つの権利を次から次へと転じていく理論から、遺族の一人一人に独自の権利を取得させ、すべて権利の得喪、支給の停止、その解除及び年金額の操作等で一貫する理論へと変化され、保険給付の一身専属権としての性格に則するようになつたこと。その他、交渉法第二条、第二二条、第二七条及び附則第九項に留意すること。

1 受給要件

資格喪失後二年以内の死亡が、初診後三年以内の死亡、すなわち、廃疾認定日までの間における死亡と改められ、一級の障害年金の受給権者の死亡が一級又は二級の障害年金の受給権者の死亡となつたほかは、従来どおりであること。なお、老齢年金の場合に伴つて、坑内夫についての特例に対する期待権は、保護されている(法附則第一四条)こと。

2 遺族

社会保障制度としての性格を明らかにするため、遺族の範囲は、原則として配偶者又は子とされ、これらがいずれもないときに限り、父母、孫、祖父母まで及ぶものとされた(法第五九条第二項、第六三条第五項)こと。寡婦、かん❜❜夫の資格年齢は、それぞれ五五歳、六○歳となつた(法第六五条、第五九条第一項第二号)が旧法による被保険者であつた者の配偶者については、期待権が保護されており(法附則第一○条)また、子及び孫の資格年齢は、一八歳まで拡げられた(法第五九条第一項第三号)こと。寡婦にあつては、四○歳であれば権利を取得し(法第五九条第一項第一号イ。第六五条により五五歳まで支給停止)、子が一八歳になつてもその時四○歳に達していれば権利が確保される(法第六三条第二項第一号)ものであること。なお、遺族が二人以上であるときは、遺族年金に関する請求書等は、連名で提出しなければならず(規則第六○条、第六一条、第六二条、第六五条)、遺族年金証書は、個々に交付する(規則第八二条)こと。

3 年金額

基本年金額を基礎として構成され、妻又は子に支給するものについては、加給年金額が加えられ(法第六○条第一項)、子、父母、孫又は祖父母にあつては、二人以上の場合には、人数で等分した額が年金額となり(法第六○条第二項)、人数に増減があれば、そのつど、額を改定する(法第六一条又は第六八条第三項、規則第六一条、第六二条、第六六条又は第六七条)が、具体的には、従来と同じ結果になること。なお、旧法による被保険者であつた者に関しては、従来の寡婦年金、かん❜❜夫年金又は遺児年金に対する期待権が保護されている(法附則第二一条)こと。

4 その他、業務上の遺族補償又は遺族補償費を受けたときは、その時から六年間支給を停止し(法第六四条)、配偶者に支給している間は、子に対する遺族年金の支給を停止し(法第六五条)、所在不明者がある場合には、年金証書の更訂は行わずに暫定支給額票をちよう❜❜❜附する(法第六八条、規則第六六条又は第六七条及び第八二条第二項)ものであること。

五 脱退手当金

社会保険としては、脱退手当金の存置は、大いに疑問のあるところであり、また、老齢年金の資格期間として四○歳以後一五年という高齢者を考慮しての措置がとられたのであるが、現在のわが国の実情にかんがみ、その存置はやむを得ないものであること。しかしながら、名称は同一であつても、その実質は、従来のものと異なつて、むしろ高齢者特別一時金、女子特別一時金などと呼ばれるべきものであり、従つて、死亡脱退は廃止され、給付額も、従来の、保険財政を無視し、他の保険給付との均衡を失したものを是正したのであること。なお、脱退手当金の支給を受けるとそれまでの被保険者期間は消滅する(法第七一条)ので、第四種被保険者となることができる者又は現に療養中で将来廃疾認定を受けることができる者については、その取扱に慎重を期すること。

1 受給要件

男子にあつては、資格期間(被保険者期間五年以上)、資格喪失及び年齢(五五歳)の三つ、女子にあつては、資格期間(被保険者期間二年以上)及び資格喪失の二つのみが受給要件であり(法第六九条)、傷病手当金、出産手当金又は失業保険金との調整は廃止されたが、第四種被保険者であつた期間は資格期間に含まれないものであること。旧法による脱退手当金の既得権は、保護されている(法附則第二二条第二項)こと。

2 金額

平均標準報酬月額に一定の率とで構成され、第四種被保険者であつた期間は除外されること。すでに障害給付を受けたことがある者については、その支給額を控除し(法第七○条第二項)、旧法による脱退手当金の既得権がある者については、旧法による被保険者であつた期間につき、従前の例によつて金額を計算する(法附則第二二条第一項)こと。従つて、なお永年勤続者に対する特例の規定等を適用される者があること。

六 保険給付の制限

1 従来の規定では、すでに保険料の徴収権が消滅してしまつた期間について資格のあつたことが明らかにされれば、強制保険の建前から、保険料を徴収することができなくても、保険給付だけは行わなければならなかつたのであるが、これでは、逆選択を助長し、保険財政の破たん❜❜をきたすので、二年の消滅時効によつて保険料を徴収することができなくなつた期間に関する保険給付は行わず(法第七五条第一項)、種別の変更の場合においても、すでに徴収した保険料に応ずる種別の被保険者であつたものとして保険給付を行う(法第七五条第二項)ものであること。たとえば、被保険者期間二○年のうち三年がこれに該当すれば、老齢年金は支給せず、二五年のうち三年が該当すれば、二二年として計算した老齢年金を支給し、また、これに該当する期間に発した傷病については、障害給付は行わないこと。しかしながら、すでに届出又は確認の請求があつたにもかかわらず、行政庁が保険料の徴収手続をとらなかつたため徴収権が消滅したのであれば、保険給付の制限は行わない(法第七五条第一項但書又は第二項後段)こと。この制限は、被保険者の資格の確認、確認の請求、被保険者の資格に関する審査の請求等が新たに規定された趣旨を貫くものであり、また、旧法による報告に関しても、適用される(法附則第二五条)こと。

2 その他、廃疾の等級の変更についての制限の規定が設けられ(法第七四条第二項)、受給権者の届出義務又は書類等の提出義務の違反に対しては、罰則を適用せず、年金の支払の一時差止によつて実効を期する(法第七八条、規則第三六条、第五二条又は第六九条)ものであること。

第四 福祉施設に関する事項

被保険者及び受給権者の福祉を増進するための施設は、この法律の目的を達成すべき主たる手段としての保険給付を側面から補つて、その効果をより充実させようとするものであり、将来における諸施設の育成を考慮して、単独の章として規定したものであること。

第五 費用の負担に関する事項

一 国庫負担

保険給付に要する費用についての国庫の負担割合は、将来坑内夫以外の一般の被保険者につき一割であつたのが一割五分に引き上げられたが、被保険者期間の一部が第三種被保険者又は船員保険の被保険者である場合の国庫負担額の計算(法第八○条第一項第三号、交渉法第二条)については、特に慎重を期すること。

二 保険料

同一の月に、被保険者の資格を取得し、喪失し、さらに取得した場合においては、最後の取得が被保険者期間の計算の基礎となる(法第一九条第一項及び第二項但書)ので、保険料も最後の取得の際における標準報酬に基いて徴収する(法第八一条第二項)こと。第四種被保険者の保険料率は、一○○○分の三○とされた(法第八一条第五項第四号)こと。また、被保険者が同時に二以上の事業所に使用される場合の取扱は、従来は事務取扱規程(案)にあつたのであるが、本来法律で規定すべき事項であるので、その負担及び納付義務につき、明らかに規定された(法第八二条第四項、令第四条)こと。

第六 審査の請求に関する事項

保険給付に際し最も重要であるのは被保険者期間であるが、その被保険者期間の計算を正確に行うためには、被保険者の資格の取得の時期等を明確にしておく必要があるので、被保険者の資格に関する処分についても、審査の請求の道を開いたものであること。被保険者の資格又は標準報酬に関して一度審査の請求をしたことについては、保険給付の際に再び争うことはできない(法第九○条第四項)こと。なお、被保険者の資格、標準報酬、保険給付又は保険料に関する処分についての通知書には、六○日以内に審査の請求をすることができる旨を必ず附記しなければならない(規則第八三条、第八八条)こと。

第七 その他の事項

一 年金たる保険給付は、公法上の権利であり、且つ、生活保障費としての性格をもつので、昭和二三年八月前と同じく、年金たる保険給付の基本権についても、五年の短期消滅時効が設けられた(法第九二条第一項)こと。

二 自治庁及び法務省民事局の主張により、最近の傾向にならつて、戸籍事項の無料証明に大きな制限が加えられることとなつた(法第九五条)が、条例によつて従来と同様無料証明が許されるよう、各市町村にしようよう❜❜❜❜❜されたいこと。

三 第四種被保険者又は受給権者の死亡の届出義務が規定された(法第九八条第四項、規則第十条、第四一条、第五七条又は第七四条)こと。

四 一般的な届出又は申出の義務違反に対しては、刑罰ではなく、手続の便を考慮して、行政罰たる過料を科する(法第一○五条)ものであること。

五 従来の被保険者であつた期間及び標準報酬は、すべて引き継がれ(法附則第四条、第六条)、処分、手続等もそのまま効力が認められる(法附則第七条)こと。被保険者台帳及び被保険者証についても、同様である(規則附則第四項)こと。

六 昭和二九年五月一日において、現に旧法による養老年金の支給を受けている者又は養老年金の資格期間を満たした者が死亡したことによる旧法による遺族年金の受給権者には、それぞれ新法による老齢年金又は遺族年金を支給し、且つ、旧法による養老年金又は遺族年金の受給権を取得した時にさかのぼつて、新法による老齢年金又は遺族年金が支給されるのと同様な結果となるよう措置した(法附則第一一条、第一三条)ものであること。また、新法による遺族年金を受けることはできないが、改正がなかつたならば、旧法による寡婦年金、かん❜❜夫年金又は遺児年金の受給権を取得することができるはずであつた者の期待権は、保護されている(法附則第一五条)こと。

七 旧法の規定によつて受給権が生じた保険給付及びこれを関連する保険給付については、受給要件、給付額、受給権者の範囲、順位等は、原則として、従前の例による。すなわち、なお旧法が適用されるが、遺族の範囲に属する子及び孫並びに加給金の対象となる子の年齢が一八歳まで拡げられ、給付通則、給付制限、国庫負担、消滅時効、届出等については、新法の規定が準用される(法附則第一六条、規則附則第六項)ほか、ごく低額のものは、新法による最低の年金額、すなわち、障害年金であれば二万七、六○○円、遺族年金、寡婦年金、かん❜❜夫年金又は遺児年金であれば一万三、八○○円まで引き上げられ、加給金又は増額金も、一人につき四、八○○円に増額された(法附則第一八条及び第一九条、規則附則第七項及び第八項)こと。なお、すでに受給権が発生したものについては、五月一日から時効が進行することとされた(法附則第一七条)ので、特に留意すること。

八 その他、関係法令の一部改正があるが、特に留意すべきは、私立学校教職員共済組合法(昭和二八年法律第二四五号)の一部改正により、厚生年金保険の被保険者から私立学校教職員共済組合(以下「組合」という。)の組合員となつた者について、組合の給付が行われた場合における厚生保険特別会計の負担は、新法に照らして行うこととなつた(法附則第三九条)点であること。