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○船員法第九五条の解釈等について
(昭和三三年六月九日)
(保険発第七八号)
(各道府県民生部保険課長、社会保険出張所長(札幌、函館、旭川、釧路、岩見沢、室蘭、小樽、平、下関、徳山、今治)あて厚生省保険局船員保険課長通知)
船員法第九五条及び第九六条の解釈について運輸省船員局長から地方海運局長あて別添のとおり通知されたが、本件は災害補償に相当する保険給付にも関係するところがあるので、参考に資されたい。
なお、疾病、負傷その他の事故の職務上外の認定については、運輸当局と見解の相違が生ずることを避けるため、その認定にあたりとくに疑問があり、問題を生ずるおそれがあると認められる場合は、関係海運局、海運局の支局等と協議のうえ、遺漏のないようにされたい。
〔別添〕
船員法第九五条及び第九六条の解釈について
(昭和三三年四月二六日 員基第二一九号)
(各海運局長あて運輸省船員局長通知)
船員法第九五条及び第九六条の解釈については、次のように統一することとしたから了知ありたい。
1 船員法第九五条
(1) 本条は、船員法に定める災害補償と船員保険法等に定める保険給付等との調整をはかったものであるが、その調整の方法として、本条は、災害補償を受くべき事由と同一の事由により保険給付等がなされるときは、船舶所有者が、当該災害補償に関するすべての責任を免かれる旨を規定したものであると解される、この点、労働基準法第八四条第一項が保険給付を受ける価額の限度において使用者の補償の責を免除しているのと調整の方法を異にしているのであって、船員法は、船員保険法がすべての補償債務をカバーしていることを前提としているのである。
(2) この点については反対説があり(注1)、船員法の場合も、保険給付等の限度において、船舶所有者が補償の責を免かれるのであって、不足の部分については、船舶所有者はなお補償の責を負うとするのである。その理由は明白ではないが、一定の限度という明文の規定があるなしにかかわらず、保険給付の性質から、船舶所有者が免かれる補償債務は、保険給付の限度に限られると解するものと思われる。しかも、この考え方は、次の理由により採用しがたい。第一に、本条の制定の経過からみて、本条は、船舶所有者の一切の補償の責を免除したものと考えられる。すなわち、昭和二二年における改正案には、最後まで「その限度において」という語句が挿入されていたのであるが、それが、国会提出直前、船員保険法との調整をはかり、すべての災害補償を船員保険法によりカバーすることとして、その語句を削除したのである。第二に船員法の遺族手当並びに傷病手当及び予後手当の規定と、船員保険法のこれらに関する規定との関係からみると船舶所有者の補償の責任は、すべて免除されると解さざるをえないからである。
(3) 本条でいう「災害補償に相当する給付を受くべきとき」とは、保険給付がなされ船員がすでに補償を受けた場合の意味ではなく、保険給付の現実の支払を要せず、単に保険給付を受け得る事故が発生することで足りると解される(注2)。この点は、(2)に述べた船員法の船員保険法との関係から明らかであろう。
2 第九六条
(1) 本条の審査及び仲栽の目的は、災害補償に関する紛争をできる限り簡易迅速に解決することにあるのであって(昭和二七年四月二三日徳島地方裁判所判決その他判例多数)民事訴訟に持ち込む前に、まず、監督機関による解決を図ったものである(注3)。
(2) したがって、本条の審査及び仲栽は、一種の勧告的性質を有するにすぎないのであって、法的拘束力はなく、この決定は、抗告訴訟の対象たりえない(昭和三一年一○月三一日最高裁判所判決、昭和二九年四月二六日和歌山地方裁判所判決その他判例多数)(注4)。
(3) 本条の審査及び仲栽の請求については、従来、当該災害補償が保険給付等の対象となっているものについても行いうるとの解釈をとっているが(注5)、このような解釈は、第九五条との関係において妥当とはいいがたい。すなわち、第九五条は、1、(2)に述べたように、災害補償を受くべき者が保険給付等を受けるときには、船舶所有者は、災害補償の責任をすべて免かれる旨を規定しているのであるから、保険給付等により災害補償が行われる場合には、本条にいう異議は存しないのであって、このような異議は、保険給付等についてのみ存することとなる。したがって、保険給付に係る災害補償について異議ある者は、船員保険法に規定する不服の申立を行うことができるのみであって、本条の審査又は仲裁の請求はなしえないと解されるからである。
(4) 本条の審査又は仲栽の請求をなしうるのは、右のように、船員保険法による保険給付等を受けない地方公共団体、公社等に勤務する船員に限られる。
(5) なお、省令第六七条は、所轄海運局長及び運輸大臣に対する二段の請求を認めているが、この省令の規定は、船員法第九六条の実施の範囲を逸脱したものであって、有効な規定とはいいがたい。この点については、近く省令を改正する予定である。
注1 山戸喜一著船員法は、「船舶所有者は船員保険の給付が不足の場合に於てその差額補償を為さなければならない」とし(二四六頁)、別所成記著海事法規解説は、「船主は、その(保険給付の)限度において災害補償の責を免れるもの」であるとしている。ともに、その理由については触れていない。
注2 同説吾妻光俊著労働基準法三三二頁慶谷淑夫著労働基準法概論二九八頁。反対説末弘厳太郎労働基準法解説(法律時報第二○巻六号三三頁)、松岡三郎著条解労働基準法四三六頁。
注3 前掲吾妻著三三三頁
注4 前掲慶谷著三○五頁。前掲松岡著四一一頁。前掲吾妻著三四三頁。
注5 昭和二七年二月五日九州海運局が行った町中事件についての裁定。