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○母性、乳幼児に対する健康診査及び保健指導の実施について

(平成八年一一月二〇日)

(児発第九三四号)

(各都道府県知事・各政令市市長・各中核市市長・各特別区区長あて厚生省児童家庭局長通知)

地域保健対策強化のための関係法律の整備に関する法律(平成六年法律第八四号)の公布に伴う、母子保健法(昭和四〇年法律第一四一号)の一部改正にあわせ、今般、母性及び乳幼児を取り巻く環境の変化を勘案して、別添のとおり、「母性及び乳幼児に対する健康診査及び保健指導に関する実施要領」を定め、平成九年四月より適用することとしたので、適切かつ効果的に健康診査及び保健指導を推進されたく通知する。

なお、本通知の施行に伴い、昭和四一年一〇月二一日児発第六八八号本職通知「母性、乳幼児に対する健康診査及び保健指導の実施について」は廃止する。

別添

母性、乳幼児の健康診査及び保健指導に関する実施要領

新しい生命は母体内にはじまり、乳児、幼児から学童、青少年へと成長する。母性は、すべての児童が健やかに生まれ、かつ育てられるための基盤として、その尊重、保護が必要であり、また、乳幼児については、心身ともに健全な人として成長してゆくために、その健康の保持増進がなされる必要がある。母子保健においては、このような母性の特性に着目した指導や相談がなされるよう留意するとともに、健全な児童の成育が、両親、特に母親の健康状態との密接不離の関係にあることから、母子の心身の健康をともに保持増進させることを基本として指導を行う必要がある。健康診査及び保健指導に当たっては、これら基本的事項を踏まえつつ、それぞれの母子の特徴並びにその家庭及び地域社会の諸条件に留意の上行うよう配意すべきである。

母子保健の向上のためには、マンパワー及び施設基盤を十分確保し、効果的かつ充実した施策を推進することが必要である。マンパワーについては、医師、歯科医師、保健婦(士)、助産婦、看護婦(士)、栄養士、歯科衛生士、保育士及び心理相談を担当する者等をはじめ、母子保健に関与する職種のすべてが一致協力し、母性又は乳幼児をめぐる問題に対して、多方面から総合的な指導や助言を行うことが必要である。

また、施設基盤については、市町村保健センター等を活用しつつ、保健所、医療施設、助産所、公共団体、地区組織等すべての関係機関が、役割分担を明確にするとともに、母性及び乳幼児の健康診査並びに保健指導に際して、それぞれが有機的に連携しうるよう、あらかじめ組織的な体系を整備することが必要である。さらに、国及び地方公共団体の講ずる施策と母子保健関係者が実地に行う業務とを協調させて、総合的な健康診査及び保健指導が実施されるよう配意する必要がある。

母子の健康増進には母親、父親又は保護者自身が健康の向上に関し、知識と理解を持つとともに、専門的知識を有する者に積極的に相談し指導を受け、さらに、これを日常生活に生かして健康的な生活の実践をすることが重要である。このため、母子が気軽に相談を受けられる場所と時間を設定するとともに、実際の健康診査、保健指導にあたっては、各自が主体性を持って健康管理を行うことができるよう、適切な健康教育をすすめることが必要である。また、母親だけでなく、父親を含む家族の家事や育児支援の大切さを理解させることが重要である。

以上の観点から、家族、母子保健関係者、関係機関及び関係団体がそれぞれ母子保健の重要性を認識し、これを共通の目的にして相互に協力することにより、国民全体の健康の維持向上と将来にわたる社会の活性化に寄与するよう努めることが必要である。

Ⅰ 母性の健康診査及び保健指導要領

第一 総則

1 母性保健は、おおむね思春期より更年期にわたる年代の者を対象とし、その前後の年代の者は、小児保健及び成人保健対策を通じて母性保健の向上を図り、また、必要に応じて、母子保健以外の地域保健、学校保健、職域保健及び社会福祉等の諸施策と連携して推進すること。

2 母性保健の向上のため、母性尊重の理念を高め、かつ、すべての母性が健康を保持、増進する意欲を持つこととなるよう配意すること。また、妊娠の時点からの問題としてとらえるだけでなく、思春期からの保健にも留意し、母親としての機能を十分に発揮することができるよう配意すること。

3 医師、歯科医師、助産婦、保健婦(士)、看護婦(士)及び栄養士等母性保健関係者が、母性保健向上のため、各職種及び地域組織の人々等の相互連携と積極的協力態勢のもとに、実地業務を担当し、国及び地方公共団体の講ずる対策と協調して、各方面から総合的に指導が行われるよう配慮すること。

4 指導の方法は、個別指導と集団指導とに分けられるが、いずれの場合も指導の内容は個々の母性の特性を考慮した具体的なものであり、家庭及び地域社会の諸条件に則したものであること。また、母性について、適切な労働、栄養・食生活、居住環境の整備、精神保健の保持等の日常生活の指導に留意すること。

5 母性の各期において、受けるべき健康診査及び保健指導等の回数は、原則として次に示すとおりすることが望ましいこと。同回数は、市町村が行う事業の対象となる場合、及び妊産婦等が任意に医療施設等で受診する場合をあわせたものとすること。

なお、保健指導及び健康診査は、原則として医師、助産婦、保健婦等の専門職種の者により行うものとする。

(1) 思春期の場合:少なくとも年一回

(2) 成人期の場合:少なくとも年一回

(3) 妊娠時の場合は、次の基準による。

ア 妊娠初期より妊娠二三週(第六月末)まで:四週間に一回

イ 妊娠二四週(第七月)より妊娠三五週(第九月末)まで:二週間に一回

ウ 妊娠三六週(第一〇月)以降分娩まで:一週間に一回

(4) 分娩経過中の場合、必要となる指導

(5) 産褥期の場合は、次の基準による。

ア 産褥の初期:入院期間中は毎日一回

イ 産褥の後期:四週前後に一回

(産褥期の終わる六~八週までは注意を要する)

(6) 授乳期以降:少なくとも年一回

(7) 更年期前後:少なくとも年一回

6 健康診査の結果及び保健指導の内容は、母子健康手帳及び母子の健康に関する記録票等に正確に記入し、個人のプライバシーの保持に十分留意しつつ、本人の健康歴の確認、地域社会の健康水準の判定及び母性保健管理に役立てること。

7 母性の疾病又は異常の早期発見及び防止に努め、疾病又は異常発現の可能性が高い者や異常がすでに存在する場合には、ただちに当該領域の医師又は歯科医師に相談・受診するようすすめ、適切な指導を行うとともに、保健及び福祉等の関係機関との連絡を密にし、必要な対策を講ずること。

8 地域的、経済的又はその他の理由により、指導を受けていない対象者の把握に努め、すべての母性、特に妊産婦に対し、十分な指導が行われるよう配慮する。また、母性保健の正しい知識の啓発普及をはかり、安全な環境のもとに、良好な状態において、妊娠・分娩が行われるよう努めること。

第二 思春期の母性保健

1 方針

(1) 思春期前後から年齢段階に応じて男女ともに、将来の生活設計としての意義をもつ結婚、妊娠、分娩、育児に関しての認識を積み重ねていくこと。

(2) 個人の心身の健康の保持と体位・体力の向上をはかり、母性機能の発達に障害を及ぼす疾病又は原因を防止すること。

(3) 地域保健、学校保健、職域保健等の諸機関を通じて、保健及び福祉に関する教育、相談、指導の機会を持ち、これらの知識の普及に努めること。

2 健康診査

問診、診察及び検査計測により本人の健康状態を把握し、健康管理に役立たせるとともに、母性機能の発達を阻害する因子の発見除去に努めること。また、心身の発達生活環境、食生活の状況、栄養状態、貧血、感染(結核、風しん・B型肝炎等ウイルス感染、性感染症等)、月経障害、歯科の疾患又は異常等に留意すること。

3 保健指導

(1) 初経前の準備知識と初経発来後における月経の意義及び手当ての方法について指導すること。

(2) 性教育を人間教育の一環としてとらえ、男女双方に対し、性に関する基本的な保健指導を行うこと。

(3) 成熟期に達するまでの男女交際の在り方、及び結婚の意義について理解させ、男女が心身ともに健康な状態において結婚生活を始めることができるよう、結婚前の健康診査の必要性を知らせること。また、エイズを含めた性感染症の正しい知識を持たせるよう、適切な保健指導を行うこと。

(4) 栄養指導については鉄欠乏性貧血や行き過ぎたやせ指向等思春期に起こりやすい障害に対応できるよう、食生活指導を行うこと。

(5) 母性保健に関する公衆衛生活動並びに保健及び福祉事業の概要を知らせるとともに、思春期に多い性の悩みや心の相談事業等の趣旨を徹底すること。

第三 成人期の母性保健

1 方針

地域、職場、学校等における集団指導と連携して、母性保健の重要性並びに保健及び福祉施策について認識を深めさせること。また、妊娠可能期の母性が安心して妊娠、出産、育児を行うことができるように意識づけること。

2 健康診査

第二の2に規定する、思春期の母性保健における健康診査の内容に準じた健康診査を励行させること。また、性病予防法や結核予防法等の法規に基づく健康診査を励行させること。

3 保健指導

(1) 妊娠に備えて、母子感染の可能性のある疾患(風しん、B型肝炎、エイズ、性感染症等)を避け、かつ可能なものにおいては、その予防のため検査や予防接種をすすめること。

(2) 妊娠・分娩に適した時期・年齢についての認識を徹底させること。

(3) 妊娠・分娩および育児の予備知識と家族計画の理念および知識を徹底し、必要に応じて受胎調節の技術が正しく行われるよう実地指導すること。

(4) 妊娠徴候の早期発見の方法を知らせるとともに、妊娠が疑わしい場合の早期受診の必要性を徹底すること。

(5) 健全な母性の育成のため、栄養や食生活の重要性を認識させること。

(6) 妊娠期と育児期において、時間的な制限等から十分治療することが困難な歯科疾患の予防、治療のための歯科健康診査を受診するようすすめること。

(7) 妊娠の早期届出および母子健康手帳の交付等の行政施策について指導すること。

第四 妊娠時の母性保健

1 方針

(1) 早期の妊娠届出を励行させ、妊娠の状態を的確に把握し、地域的、社会的又は経済的条件等により、健康診査及び保健指導を受けられない者がないよう配意すること。

(2) 母親学級又は両親学級等による集団指導並びに健康診査時に個別的な保健指導を行い、あるいは訪問指導を行う等、個人又は家族、地域の状況に応じて多角的に指導し、同時に母子健康手帳の活用をはからせること。

(3) 栄養に関しては、母親学級等において栄養相談、調理実習等を行うこと。また、これと別に、参加者主体の小グループによる妊娠・授乳中の健康や栄養管理の実際を習得させ、また 健康診査時に個別的な相談を行うこと。

(4) 母体の心身の健全さが児の健全につながることを知らせ、妊娠、分娩、産褥、授乳及び育児に関する具体的知識を持たせるとともに、妊娠中の異常発現防止及び胎児の健康状態把握に関する知識の普及に努めること。

(5) 分娩に対して身体的、精神的及び家庭的に安全な準備を整えさせること。また、妊婦が一時実家に帰省して行う分娩に対しては、妊婦の健康状態に配慮した適切な態勢が図られるよう留意すること。

(6) 妊婦の家族、特に夫に対して児の出生にそなえた心構えを持たせるよう努めること。

(7) 異常の発生した者が、専門の医療機関において適切な治療を受けることができるよう、異常に対応する体制を整え、妊婦及び家族にもその旨をよく指導周知させておくこと。

(8) 妊娠中から母乳哺育の重要性を認識させること。

(9) 母親の出産後の育児不安に備えて、小児科医等の専門家の助言をあらかじめ受けさせるようにすることが望ましい。

2 健康診査

妊娠月週数に応じた問診、診察及び検査計測により、妊娠経過、合併症、及び偶発症について観察し、かつ、流・早産、妊娠中毒症、子宮内胎児発育遅延の防止等の母・児の障害予防に重点をおくこと。このため、次の要因について注意すること。

(1) 生活環境・習慣(家事以外の業務、住宅事情、経済的背景、飲酒、喫煙等)

(2) 遺伝的要因(血縁者・既往出生児の遺伝性疾患、配偶者間の血液型等)

(3) 既往の妊娠、分娩経過(習慣性流・早産、死産、妊娠中毒症、分娩異常等)

(4) 既往歴(心疾患、腎疾患、糖尿病、結核、性感染症、ウイルス性疾患の感染等)

(5) 母子感染性疾患(B型肝炎等)

(6) その他(不妊の既往、月経障害、高年齢、妊娠自覚以後の疾病の罹患、薬剤の使用、放射線の照射、歯科疾患等)

3 保健指導

(1) 妊娠月・週数、分娩予定日を知らせ、妊娠確認時の諸検査及び定期健康診査、母親学級等の意義を認識させ、これらをもれなく受けるよう指導すること。

(2) 妊娠、分娩、産褥及び育児に関する具体的知識をあたえること。

(3) 医師、助産婦等に連絡を要する、流・早産、妊娠中毒症等の妊娠経過中の異常徴候を妊婦自身の注意により発見しうるよう指導すること。

(4) 妊娠中の生活上の注意、特に家事の処理方法、勤務又は自家労働の場合の労働に関する具体的な指導を行うこと。

(5) 栄養所要量をもとに日常生活に即応した栄養の摂取及び食生活全般にわたって指導し、貧血、妊娠中毒症、過剰体重増加の防止等に関する指導を行うこと。

(6) 妊娠中の歯口清掃法、歯科健康診査受診の励行等について指導すること。

(7) 母乳栄養の重要性を認識させ、その確立のために必要な乳房、乳頭の手当について指導すること。

(8) 精神の健康保持に留意し、妊娠、分娩、育児に対する不安の解消に努めるよう指導すること。また、早期に相談機関を活用して問題解決を図るよう指導すること。

(9) 妊娠届、母子健康手帳、健康保険の給付、育児休業給付制度、出生届、低出生体重時の届出等の各種制度について指導すること。

(10) 健康診査の結果については、医療機関から市町村への連絡を密にするよう協力を求めるとともに、有所見者への保健指導の徹底を図ること。

(11) 分娩に対する身体的、精神的準備を備えさせ、また、分娩場所の選定、分娩時における家族の役割、分娩を担当する医師又は助産婦との連絡方法や分娩施設への交通手段、既に幼児がいる場合の保育その他の注意事項等について指導すること。

第五 分娩時の母性保健

1 方針

(1) 分娩場所の選定において、母児の安全を優先して配慮し、心身ともに安定した状態のもとで、分娩が行われるように努めること。

(2) 医療機関が常に緊急事態に即応しうるよう態勢を整え、異常発生時に適切な治療が迅速に行われるよう配慮し、妊婦及び家族にもその旨を周知させておくこと。

(3) 医師は分娩経過の正常か否かを監視し、異常が発生した場合の診断、処置にあたること。助産婦は分娩経過を監視し正常な場合の分娩介助等を行い、必要な指導及び手配を担当するとともに、異常の疑いのある場合は速やかに医師に連絡して、その業務を助けること。

(4) 産婦の健康状態および心理状態に応じた適切な配慮のもとに産婦を看護し、分娩を介助すること。妊婦が一時実家に帰省して分娩を行う場合、その他妊娠健康診査を受けた医療機関以外で分娩を行う場合は、分娩を行う医療機関では、以前の情報入手に努め、その不安を除去するようにすること。

2 健康診査

(1) 分娩進行の段階に応じた問診、診察及び検査計測により、分娩の管理に必要な事項を把握して、分娩経過を監視し、母・児の障害を予防するため、異常事態の早期発見に努めること。

(2) 妊娠期間の異常(切迫早産・過期妊娠等)については、最適の妊娠期間内に分娩させるように努めること。

(3) 分娩発来に影響する因子(前期破水、異常出血、妊娠中毒症等)及び分娩経過に影響する因子(娩出力の異常、多胎、胎位異常、産道異常、出血性素因等)に留意し、その防止に努めること。

(4) 分娩の全経過中胎児の循環動態等を中心とした安全に留意すること。

3 保健指導

(1) 妊娠中から分娩の経過と進行状況に応じた動作の準備指導をすること。

(2) 分娩に対する不安、焦慮及び興奮等を緩和、除去するよう指導すること。

(3) 分娩の方法について、医師、助産婦と産婦及び家族との間に十分な説明と納得が得られるよう配意すること。

(4) 医師、助産婦等に連絡すべき分娩進行に応じた自覚徴候について指導すること。

(5) 分娩経過中の行動(食事、睡眠、排尿便、陣痛、腹圧、呼吸法等)について指導すること。

(6) 家族に対して協力的な役割を努めるよう指導すること。

第六 産褥期の母性保健

1 方針

(1) 母体の身体的諸機能の回復及び母乳哺育を勧め、出生した児の円滑な外界への順応を図り、母と子の結びつきの確立に努めること。

(2) 妊娠ないし分娩の間に発生した母・児の障害の発見及びその処置並びにそれ以後の疾病併発の防止に努め、また、先天性代謝異常等のスクリーニングを勧めること。

(3) 新生児に関する知識を与えて、母性意識を確立させ児の状態観察及び環境調整の着眼点を指導し、基本的な育児に自信を持たせること。

(4) 産褥期の感染、特に性器及び乳房の感染防止に努めること。

(5) 入院分娩の母・児を早期に退院させる場合は、褥婦及び家族に対して必要な事項を指示し、妊産婦、新生児及び未熟児の訪問指導について助言するほか、その後の経過を観察する医師、助産婦又は保健婦に所要の連絡をとること。

(6) 産後の母・児の保健及び福祉に関し、産科、小児科、精神科、公衆衛生及び福祉関係者相互の連絡を強化しておくこと。特に、心の問題(抑うつ状態をはじめとする産後の精神的障害や育児不安等)に関する育児援助が重要であること。

2 健康診査

産後日数に応じた問診、診察及び検査計測により、母体の回復と母乳分泌の状況及び新生児の育児上の要注意事項を把握するとともに、妊娠、分娩に起因し又は分娩後に併発した異常の発見、処置に努め、次の事項に留意すること。

(1) 妊娠中毒症症状の遺残ないし産褥期高血圧の発現

(2) 分娩時出血による貧血

(3) 産褥期感染(腎盂腎炎、乳腺炎、産褥熱等)

(4) 産褥期の精神的不安定状態

(5) その他の合併症の悪化

(6) 母子に関する予防的処置(Rh(-)グロブリン等)

(7) 出生直後の児の処置(臍帯血検査、ガンマグロブリン注射、代謝異常等検査、先天奇形の処置、黄疸検査等)

3 保健指導

(1) 産褥の経過の概要とそれに応じた生活上の注意(身体の清潔、休養、運動、就労の時期及び栄養の摂取、旅行等)及び精神安定の必要性について指導すること。

(2) 産褥の異常及び妊娠、分娩に起因する障害のもたらす影響について説明し、産後の健康診査の必要性を指導すること。

(3) 母乳の必要性及び分泌促進の方法並びに乳房の手当と授乳の技術について指導し、母親が産後すみやかに母乳哺育を開始できるよう援助すること。ただし母乳不足や事情により母乳を与えられない母親に不安を与えぬ配慮が必要であること。

(4) 新生児の生理と観察事項、保育環境の調整及び新生児の育児や、事故防止のため安全な環境作りについて指導すること。

(5) 次回妊娠について、本人及び家庭の実情に応じた適正な時期と家族計画に関して指導すること。

(6) 母子健康手帳の活用、出生届、低出生体重児届、新生児訪問指導、未熟児訪問指導、妊産婦訪問指導、養育医療、育成医療等の手続又は必要に応じて死産届、死亡届等についての手続を指導すること。

(7) 産婦が一時実家に帰省する場合等、産褥期を住所地以外で過ごす産婦を把握し、訪問指導等が適切に行われるよう地方公共団体相互の連携を図るようにすること。

第七 授乳期以降の母性保健

1 方針

子どもをもつ母としての自覚を高め、自身の健康の保持・増進に努めさせるとともに健全な児童の育成並びに家庭の健康管理についての識見を養わせること。

2 健康診査

年齢及び育児の状況に応じた問診、診察及び検査計測により、本人及び家族の健康管理上の問題点を把握し、既往の疾患、妊娠、分娩による影響についても注意し、次の事項に重点をおくこと。

(1) 生活環境(食生活、運動、居住環境、就労、経済的背景、精神保健、対人関係等)

(2) 慢性疾患等(結核、性感染症、心疾患、腎疾患、貧血、消化器疾患、糖尿病、高血圧、栄養障害、歯科疾患等)

3 保健指導

(1) 月経が母性の健康の指標のひとつとなることを自覚させ、その異常(性周期の異常など)について指導すること。

(2) 続発不妊について適切な指導を行うこと。

(3) 家族計画(子どもの数、終産の時期、出産間隔、受胎調節の技術等)について指導すること。

(4) 家庭内の精神保健及び環境衛生の認識を深めるよう指導すること。

(5) 家庭及び地域において、妊娠、分娩、育児等に関して未経験の母性に対する有力で、適切な助言者になりうるようにすること。

(6) 歯科疾患、特に歯周疾患の増悪期になるので、歯科健診を受けるようすすめるとともに、適切な指導を行うこと。

(7) 地域社会の保健活動に関心をもたせること。

第八 更年期前後の母性保健

1 方針

性周期の終止期に当たり、起こりうる様々な身体的、精神的諸障害を緩和し、成人病の発現防止に努めること。

2 健康診査

高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満及び婦人科疾患等の早期発見及び更年期症状の緩和を主な目的とする。専門医の協同の下に行われることが必要であり、とくに次の事項に留意すること。

(1) 閉経前後の月経障害と婦人科疾患(子宮筋腫等)の鑑別

(2) 更年期症状及びその障害と他の偶発疾患、とくに精神障害との鑑別

(3) 婦人の悪性腫瘍(子宮がん、卵巣がん、乳がん等)の早期発見

(4) 骨粗しょう症、歯周炎、糖尿病等の婦人に多い成人病の早期発見

3 保健指導

(1) 更年期症状及びその障害に関して指導すること。

(2) 成人病検診(婦人検診)の受診を指導するとともに、これらの機会を利用して悪性腫瘍などの早期発見、その他の成人病の防止に努めること。

(3) 歯科健康診査の受診をすすめるとともに、口腔の状況に応じた適切な保健指導を実施すること。

(4) 地域社会の保健活動に関心を持たせること。

Ⅱ 乳幼児の健康診査及び保健指導要領

第一 総則

1 乳幼児の保護者に対し、出生前に引き続き、新生児期から青少年期に至るまで一貫した保健指導を行い、健全な学童、青少年育成のための基礎をつくることを重点とし、必要に応じて地域保健、学校保健、職域保健、福祉等の諸施策と提携して業務を推進すること。

2 児童尊重の理念を高め、かつ、すべての乳幼児の保護者が児の健康を保持、増進する意欲を持つにいたるよう配慮すること。

3 医師、歯科医師、保健婦(士)、助産婦、看護婦(士)、栄養士、歯科衛生士及び心理相談を担当する者等の乳幼児保健関係者が乳幼児保健向上の見地から、各職能及び地域組織の人々等の相互連携と積極的協力態勢の下に業務を担当すること。また、国及び地方公共団体の講ずる対策と協調して、多方面から総合的に支援、指導や相談が行われるよう配慮すること。また、親同志のグループづくりや地域住民組織(ボランティア組織)の育成も地域内の連帯を形成させるために積極的に推進すること。

4 指導は個別指導及び集団指導のそれぞれを組み合わせ、双方の利点を生かすようにして行うこと。いずれの場合も、指導内容は小児の健康の保持増進、身体的発育及び精神的発達並びに社会適応に関する指導や相談を重点とする。指導に当たっては、個々の小児の特徴を考慮した具体的なものであり、親の心身の健康や育児態度にも留意した家庭及び地域社会の諸条件に則したものであること。また、児童虐待の防止に留意すること。

5 健康診査の結果及び保健指導の内容は、母子健康手帳及び母子の健康に関する記録票等に正確に記入し、本人の健康歴、地域社会の健康水準の判定及び乳幼児保健管理に資するよう配慮すること。ただし、これらの資料について個人の秘密保持に十分留意すること。

6 乳幼児の生活指導はその家庭環境及び児の発達段階に応じて行うこと。

7 地域的、経済的又はその他の理由による健診未受診者の把握に努め、すべての乳幼児に対し、もれなく保健サービスが行われるよう配慮すること。また、全般的な保健・育児知識の普及に努めること。

8 乳幼児各期における健康診査及び保健指導の回数は、原則として次に示すとおりとし、指導に当たっては、地域内の医療施設、相談機関との連携を図り、必要に応じて指導回数を増加することが望ましい。

なお、同回数は、市町村が行う事業の対象となる場合、及び乳幼児等が任意に医療施設等で受診する場合をあわせたものとする。

おって、このうち一歳に達するまでの乳児期は、心身の異常の発見等に適した時期であることから、市町村においては、二回以上の健康診査を実施するとともに、健康診査の受診の勧奨に努めるものであること。

(1) 生後六か月に達するまで(乳児期前期):月一回

(2) 六か月から一歳に達するまで(乳児期後期):二月に一回

(3) 一~三歳(幼児期前期):年二回以上

(4) 四歳以降就学まで(幼児期後期):年一回以上

9 乳幼児各期における健康診査及び保健指導における留意事項は以下のとおりである。

(1) 個別の健康診査と、各職種を編成して行う集団の健康診査を組み合わせ、年齢の特性にあわせて有効に実施するよう設定すること。保育所、幼稚園等における健康診断に際しても母子健康手帳に記載するよう指導すること。

(2) 健康診査の結果、経過観察、精密健康診査、処置又は医療等が必要とされた者に対して、適切な事後指導を行うこと。

(3) 保健指導に当たっては親子の心の健康をも重視し、親に不安を与えずに、また子どもの個性をふまえた支援をするよう心がけること。電話相談を含む相談先の情報提供も行うこと。

10 疾病又は異常の早期発見に努め、必要に応じて、当該領域の医療機関を受診するよう勧めること。この場合、受診の有無及び結果を確認し、適切な指導を行うこと。異常が発見された時は、療育の指導、養育医療、育成医療、療育の給付、施設入所等について指導すること。

なお、肢体不自由、視覚障害、聴覚・平衡機能障害、音声・言語機能障害、心臓障害、腎臓障害、その他の内臓障害等の身体障害を有するもの、又は知的障害、行動異常などの発達上の問題を有するもので、必要と認められるものについては療育相談を行うよう努めること。これらの資料については、個人の秘密を遵守すること。

11 乳児期のう蝕は、顎顔面の発育や永久歯列の歯科疾患にも影響を及ぼすので、市町村の事業として実施する健康診査以外にも医療施設等で定期的に歯科健康診査を受けるようすすめることが望ましい。また、健康診査の結果に応じて、必要な医療、予防処置を受けることや、家庭で行う歯科保健上の生活指導を受けるように指導すること。

12 健康診査及び保健指導の結果について、適切な評価を行い、効果的な対策を講ずるため、乳幼児保健を担当する各職能及び各地域組織の代表者が定期的に連絡を行うこととなるよう配意すること。

13 母子保健水準の向上及び対策の円滑な推進に資するよう、地域住民の連帯を形成し、親同士のグループや住民の自主的組織の育成に努めること。地域の実情に応じ、祖父母を対象とした育児教室等を開催するなどの工夫を行うこと。また、地域における福祉事業と協力し、特に保育所の行う育児支援についても地区医師会の協力の下に、支援すること。

第二 新生児保健

1 方針

(1) 新生児期は胎内生活から胎外生活への適応の時期である。この時期は保育者の養護に全面的に依存しており、成育に不利な要因をもって生まれた児はいうまでもなく、健康児においても養護の適否がその児の成育、健康を大きく左右する。従って、この期間における健康診査、保健指導においては、新生児の健康に注意するとともに、保護者に対する育児の心構えと正しい育児法についての指導に重点をおくこと。

(2) 分娩立会いの医師、助産婦は児の生活力、分娩損傷、適応障害に注意し、異常を認めた時は、直ちに新生児を担当する医師に連絡する等適切な対応を行う。このため、各地域の新生児を含めた周産期医療体制の確立に努めること。

また、児の将来の健康に影響を及ぼす母の既往歴、分娩経過及び疾病又は異常の詳細をその後の保健指導にあたる医師、助産婦、保健婦(士)に連絡すること。特に育児不安や産後の精神障害等を認めた場合、母親への精神的支援を行い、その状態を見極めて専門家への受診をすすめる等適切な指導を行うこと。

(3) 出生後は速やかにその後の保健指導にあたる医師による詳細な健康診査を行い、母親に児の健康状態をよく知らせ、育児に自信と意欲をもたせること。

(4) 産科、小児科、保健、福祉、心理等の関係者間の連絡が円滑になされるよう、新生児の保健・医療・福祉の緊密な連携を図ること。

2 健康診査

新生児の健康診査においては、下記の事項に注意すること。

なお、新生児期には異常、あるいは境界領域と考えられても、成長発達に伴い改善するなど状態の変化が見られるので、定期的な経過観察が必要である。

ア 呼吸、循環、哺乳の困難

イ 低出生体重児又は未熟児

ウ 分娩予定日を三週以上早く又は二週以上過ぎて出生した児

エ 異常な出血傾向(ビタミンK欠乏性出血症等)

オ 黄疸の早期発現、長期持続及び高度

カ 先天異常(奇形及び先天性代謝異常等)

キ 姿勢、筋緊張の異常

ク 異常分娩で生まれた児及び分娩障害児

ケ 原始反射の異常

コ 母の既往歴、健康状態等で児の健康に影響のあるもの

(母の高年齢及び低年齢、多産、習慣性流・早産、血族結婚、両親の血縁者の先天異常、妊娠初期のウイルス性疾患の罹患、妊娠中の飲酒・喫煙・薬剤使用、放射線の照射、血液型不適合、貧血、妊娠中毒症、結核、肝炎、各種性感染症、糖尿病、甲状腺機能障害、精神障害等)

サ 家庭の保育環境、社会環境不良のもの(家庭の養育機能の低下や弱体化、一人親の家庭等)

3 保健指導

両親及び家族に対し、育児の心構えとその方法について、次の事項に重点をおいた指導を行う。

(1) 出産後早期の母乳栄養を勧め、その確立を図ること。特に、初産の者については乳房の手当、母乳分泌の増量及びその維持、安定、授乳技術、授乳婦の栄養と食生活について指導する。

(2) 清潔、保温、感染防止等の生活指導をすること。

(3) 早期治療によって発症及び死亡の予防が期待される先天異常を早期発見し、適切な処置を講ずるよう指導する。必要なものについては療育指導を行うように努めること。

(4) 必要に応じ、療育の指導、養育医療、育成医療、療育の給付、施設入所、その他の社会資源の活用等について指導すること。

第三 乳児保健

1 方針

(1) 近年の出生数の著しい減少とともに、核家族化、地域の連帯意識の希薄化、育児情報の氾濫、女性の就労率の上昇等、育児環境が変化している状況において、次代を担う子ども達が心身ともに健やかに育つことができるよう、指導を行うこと。

(2) 乳児期は生涯を通じて、発育の最も速やかな時期であり、その発達に環境は重要な役割を持ち、また、保護者の育児態度は大きな影響を及ぼす。このため、保健指導においては、健全な発育・発達を促すために養護や栄養に重点をおき、特に母子相互作用を重視し、適切な母子関係の確立に努めるとともに父親の育児参加を促すこと。

(3) 疾病又は異常の早期発見と予防に留意すること。

(4) 保護者に定期的健康診査の必要性を理解させるよう努め、個々の乳児の特徴に応じ適時、適切な保健指導を行うこと。親の育児法の是非を問うのではなく、児の持って生まれたもの(気質、遅めの発達、易罹病傾向等)をも視点に入れた指導や相談を行うこと。また、児童虐待の防止に留意すること。

2 健康診査

新生児期の低出生体重や仮死等のハイリスク項目に留意しながら、次の事項に注意すること。

(1) 発育栄養状態

身体計測(体重、身長、胸囲、頭囲等)を行い、計測値を母子健康手帳の身体発育曲線に記入する。筋骨の発達、皮膚の緊満、皮下脂肪の状態、血色を診察する。身体計測においては、一回の測定値を、身体発育値と比較するにとどまらず、継続的に計測して順調な発育をとげているか否かに注意すること。

(2) 精神、運動機能の発達

母子健康手帳等に記載されている発達項目の結果を注意深く読み取るとともに、姿勢の観察、筋緊張、引き起こし反応等による発達健診を行うこと。

精神・運動機能の発達に関しては、育児環境の影響また個人差も大きいので、一回の発達検査成績をいわゆる標準の発達段階と比較するにとどまらず、継続的に観察し、順調な発達をとげているか否かを評価すること。

(3) 疾病又は異常

一般身体所見のほか、とくに次の疾病又は異常に注意すること。

ア 発育不全(ことに低出生体重児、未熟児であったものについて)

イ 栄養の不足又は過剰による身体症状

ウ 貧血(殊に低出生体重児、未熟児であったもの、病気にかかり易い児、離乳期の児について)

エ 皮膚疾患(湿疹、皮膚炎、血管腫等)

オ 慢性疾患(先天性股関節脱臼、斜頸、悪性腫瘍、肝疾患、腎疾患等)

カ 先天奇形(心奇形、ヘルニア、口唇口蓋裂、内反足、頭蓋縫合早期癒合等)

キ 先天性代謝異常

ク 中枢神経系異常(精神発達遅滞、脳性麻痺、てんかん、水頭症等)

ケ 聴力及び視力障害(斜視を含む)

コ 歯科的異常(歯の萌出異常、口腔軟組織疾患等)

サ 虐待が疑われる身体所見や不合理な説明

(4) その他

保護者が心配事、不安、訴え等をよく話せるように心掛ける。又、養育態度、乳児の睡眠の乱れ、摂食の問題、なだめにくい啼泣、恐れ、不安等の精神的に不安定な状態、児童虐待、家庭環境等にも配慮しながら健康診査を行うこと。

3 保健指導

栄養と養護の重要性を認識させることに重点をおくこと。

(1) 母親の育児不安への助言や予防が大切である。健診の際は親の育児態度を支援して、育児に自信をつけさせる。また、育児学級や離乳食講習会等への参加、近隣との積極的交流等を通じて、おおらかでのびのびとした育児、親子ともに育ちあう育児をすすめること。

(2) 母乳哺育の大切さ、見つめ合い、語りかける、抱きしめる等の母子相互作用をすすめ、心の健康の重要さと、これらが児の情緒的発達に大きな影響を及ぼし得ることを理解させること。

(3) 健康的な生活リズムは、親子が良く遊び、楽しく食べ、快く眠り、規則的に排泄しながら、気持ち良く関わりあうことで形成されていくことを理解させること。

(4) 栄養指導については、母乳栄養を勧め、その確立を図り、安易に母乳不足の判断をしないよう注意すること。母乳不足の場合には、混合、人工栄養を指導し、さらにいずれの栄養法においても離乳について指導すること。母乳栄養でのビタミンK欠乏についてK2シロップ投与等の状況を把握すること。

なお、栄養上の問題として、食欲不振、乳ぎらい、体重増加不良、肥り過ぎ、咀嚼、市販離乳食、断乳、食物アレルギー、嘔吐、下痢等について幅広い視点から指導すること。

(5) 身体の清潔、衣服、寝具、玩具、歩行、外気浴、入浴、睡眠、歯の清掃等について生活指導を行うこと。

(6) 乳児の安全な環境を整備することが保護者の大切な役目であることを認識させ、事故防止のため環境の整備を行い、たばこ等の異物誤飲、風呂場等での溺水、窒息、転落、熱傷等の防止について保護者の注意を喚起するよう指導すること。

(7) 環境衛生、家族の健康について注意するとともに、乳児が発病した場合の対応、各地域の救急診療体制等についても指導すること。

(8) 予防接種については、その意義、効果等を説明しながら、所定の予防接種を受けるよう指導すること。やむを得ず定められた期間内に予防接種を受けられなかった者への対策についても留意すること。また、疾病予防については、月齢に応じて必要な指導を行うこと。

(9) 先天性代謝異常、神経芽細胞腫等のマス・スクリーニングが実施されているか、B型肝炎の母子感染防止対策の対象者には予防処置が行われているか等の確認を行うこと。

(10) 発育又は発達に軽度の遅れがあれば経過観察を要するが、明確な病名がつかない境界的な場合にはやがて正常化する児も多いので、不要な心配を親に与えないように配慮すること。

(11) 先天奇形、先天異常及び肢体不自由児等の早期治療等については、医師の診断を受けさせ、必要な場合には療育の指導、育成医療、療育の給付、施設入所等について指導すること。

第四 幼児保健

1 方針

幼児期に入ると、身体発育は比較的安定し、環境の変化や刺激に対し、次第に対応できるようになる。また、精神、情緒及び運動機能は著しく発達し、家庭環境とともに地域社会や集団生活の影響を受けることが次第に大きくなる。

一方、核家族化、母親の就労率の増加等幼児をめぐる育児環境の変化に伴い、育児上のひずみが幼児の発達に影響する可能性がある。従って、この時期には疾病の予防ばかりでなく、精神、情緒及び社会性の健全な発達、生活習慣の自立、う歯予防、事故防止、児童虐待の防止に重点をおいた指導がなされる必要がある。

また、幼稚園、保育所等の管理者及び職員に環境の整備、伝染病予防等健康管理の重要性を認識させ、幼児の個性を尊重した対応をさせるとともに、園医・嘱託医との連携を密にし、施設内の健康管理とともに地域保健サービスとの統合を図る必要がある。

2 健康診査

身体の明確な異常は乳児健診により適切に対応されている場合が多い。幼児健診では、それまでに発見できなかった軽度あるいは境界領域の発達の遅れ、視聴覚異常等を見出して、適切な事後指導を行うことが重要である。

(1) 身体発育計測(体重、身長、頭囲、一歳児まで胸囲を含む)

身体計測においては、乳児期と同じく継続的に計測し、順調な発育をとげているか否かに重点をおくこと。

(2) 栄養状態(筋骨の発育、皮下脂肪の状態、皮膚の緊満、血色等)

(3) 精神機能及び運動機能の発達

親子関係を中心に育児環境の影響や個人差の大きいことを重視し、標準的な発達段階と比較しつつ継続的に観察し、順調な発達をとげているか否かを観察すること。

発達については、運動発達、知的発達、言語発達、情緒発達並びに生活習慣の自立、社会性の発達について観察する。これらのものと育児環境との関連に留意し、必要または保護者の求めに応じて対応・相談すること。また、運動機能については育児環境、遊び、学習の機会との関連に留意すること。

(4) 疾病又は異常

一般身体所見のほか、とくに下記の疾病又は異常に注意すること。

ア 肥満とやせ及び貧血

イ 発育障害(成長ホルモン分泌不全性低身長症等)

ウ 各種心身障害(肢体不自由、精神発達遅滞、てんかん、聴力及び視力障害、言語障害等)の発見と教育訓練の可能性の評価

エ 慢性疾患(気管支喘息、心疾患、腎炎、ネフローゼ、皮膚疾患、アレルギー性疾患、悪性腫瘍、糖尿病、結核等)

オ 視聴覚器の疾病又は異常

カ う歯、歯周疾患、不正咬合等の疾病又は異常

キ 特に疾病又は異常を認めないが、虚弱で疾病罹患傾向の大なるもの

ク 情緒・行動的問題、自閉傾向、社会(環境)適応不全、学習障害、心身症等に対して早期発見に努め、適切な援助を行うこと。

ケ 児童虐待の早期発見につとめ、適切な援助を行うこと。

3 保健指導

乳児期の保健指導の成果をさらに発展させ、身体、精神、運動機能の健全な発達に重点をおき、次の事項に注意すること。

(1) 栄養指導については、幼児にふさわしいバランスのとれた食品構成による栄養指導を行うこと。

食事リズムの形成、食事のしつけ、間食の摂り方、食事環境づくりの指導に留意し、食欲不振、偏食、少食、むら食い、咀嚼拒否、あるいは食物アレルギー及び肥満防止等について正しい指導を行うこと。また、生活習慣病予防のため食塩や砂糖及びエネルギーの取り過ぎに注意すること。

幼児期は生涯を通じての健康づくりの時期であるとの観点から、幼児期からの良い食習慣づくりや、食事を通じての家族の団らんの勧め、楽しく食事のできる環境づくりなどについても親の理解を得ること。

(2) 生活指導については、生活習慣の自立を図り、身体の清潔、衣服の着脱、排尿、排便のしつけ、遊び、運動、集団生活、友達等について指導するとともに、幼児期より思いやりの心を育てること。幼児の反抗的態度に対しては、保護者の理解と心のゆとりが必要であることを認識させること。

(3) 精神保健については、家族関係や幼児の情緒的社会的発達に留意し、情緒・行動的問題、または問題となる諸習癖の予防や早期発見及び心理相談等の援助を図るよう配慮すること。

(4) 事故防止については、環境の整備及び幼児の安全教育について指導する。特に、交通事故、溺水、窒息、転落、火傷・熱傷、異物誤飲等に注意するよう指導すること。

(5) 予防接種については、その意義、効果についての保護者の理解を得るとともに、所定の基礎免疫又は追加免疫を受けるよう指導すること。予防接種を受けられなかった者への対策にも留意すること。

(6) 疾病予防については、特に保育所、幼稚園等の集団生活における感染防止について指導し、環境衛生、家族の健康についても指導すること。

(7) 疾病又は異常の治療、療育の指導、慢性疾患の再発防止、社会復帰、在宅医療、育成医療、療育の給付、施設入所について指導すること。

なお、肢体不自由、視覚障害、聴覚・平衡機能障害、音声・言語機能障害、心臓障害、腎臓障害、その他の内臓障害等の身体障害を有するもの、あるいは知的障害、行動異常などの発達上の問題を有するもので、必要と認められるものについては、療育相談を行うように努めること。また、在宅医療、訪問看護の視点からのサービスに努めること。

(8) 歯科保健については、幼児の口腔の発育発達に応じたう歯予防と健全な永久歯列の育成及び咀嚼器官の発達を目標とした指導を行うこと。

(9) 児童虐待については、虐待徴候の早期発見に努めること。