添付一覧
○母子保健施策の実施について
(平成八年一一月二〇日)
(児発第九三三号)
(各都道府県知事・各政令市市長・各中核市市長・各特別区区長あて厚生省児童家庭局長通知)
地域保健対策強化のための関係法律の整備に関する法律が平成六年法律第八四号をもって公布され、住民に身近で頻度の高い保健サービスについては、市町村において一元的かつきめ細かな対応を図ることとされ、これに伴い、母子保健法(昭和四〇年法律第一四一号)及び児童福祉法(昭和二二年法律第一六四号)の一部が改正され、従来都道府県、政令市、中核市及び特別区(以下「都道府県等」という。)が行っていた母子保健事業については、平成九年四月一日から原則として市町村に委譲されることとされたところである。
このため、今般、母子保健事業の推進にかかる基本的事項について、別紙のとおり「都道府県等及び市町村における母子保健事業指針」を定め、平成九年四月一日より適用することとしたので、管下市町村及び関係団体等に周知徹底し、事業の実施に遺憾なきよう特段の御配慮を願いたく通知する。
なお、本通知の施行に伴い、昭和六二年七月三一日児発第六七〇号本職通知「母子保健施策の実施について」は廃止する。
(別紙)
都道府県等及び市町村における母子保健事業指針
第一 市町村における母子保健事業について
1 体制の整備
(1) 母子保健連絡協議会の設置
ア 市町村は、母子保健に関する基本的事項について、学識経験者、関係機関、団体及び母子保健に関心を有する住民の代表等の意見を聞き、これを施策に反映させるための母子保健連絡協議会を設置する。
イ 協議会の委員は、医師会、学識経験者、保健所等の保健医療関係者、福祉関係者及び教育関係者等により構成する。
ウ 協議会は、市町村における母子保健事業の効果的な実施及び母子保健対策の今後の在り方等について関係者の意見を聴取するとともに、保健、医療、福祉及び教育等関係施策の連携を促進するものとし、定期又は随時開催する。
エ 協議会に関する事務は、母子保健主管課がこれを行う。
(2) 実施基盤の整備
市町村は、市町村保健センター、母子健康センター等を子育て支援の拠点として整備し、母子保健施策を含めた保健、医療施策を推進するとともに、福祉施策等関連施策との連携を図る。
2 人材の確保
(1) 人材の確保及び活用
市町村は、保健指導、訪問指導及び健康診査等母子保健事業の将来的な見通しのもとに、地域における人的資源を最大限に活用し、必要な人材の計画的な確保を図るとともに、医師、歯科医師、保健婦(士)、助産婦、栄養士及び歯科衛生士等の積極的活用を図る。
(2) 人材確保支援計画の申出
町村において、母子保健施策等の地域保健対策を円滑に実施するための人材を確保する見込みがつかない場合には、地域保健法(昭和二二年法律第一〇一号)第二一条第一項に規定する人材確保支援計画を定めるよう都道府県に対し申し出るものとする。
3 人材の資質の向上
市町村は、母子保健事業を円滑かつ適切に進めるため、都道府県、保健所及び医師会等の関係機関の支援、連携のもとに、母子保健にかかわる医師、歯科医師、保健婦(士)、助産婦、栄養士及び歯科衛生士等の研修を実施するとともに、最適な母子保健、医療、福祉サービス及び提供施設等を判断するケア・コーディネーションに資する研修等により、関係者の資質の向上に努める。
4 啓発普及
(1) 啓発普及のための冊子の配布等
市町村は、核家族化等の進行による子育て家族の孤立化、子育てに関する心理的負担感、不安感の増加等の母子保健対策上の諸課題に的確に対応するため、母子保健、医療、福祉及び教育等の必要事項を示した冊子等を、妊産婦及び乳幼児の保護者等に配布するとともに、教育ビデオ等の情報メディアを十分活用し、啓発普及を図る。
(2) 地域組織活動支援による啓発普及
市町村は、地域住民の自主的な地域活動を育成し、育児不安等に対応するための情報交換等を促進するとともに、組織活動をコーディネートする人材の育成を図る。
5 医療、福祉等関連施策との連携
(1) 市町村は、関係部局の連携のもとに総合相談窓口において住民のニーズを総合的に把握するとともに、ケア・コーディネーションの機能を充実させ、母子保健、医療、福祉等に関する適切な情報の提供、関係機関の紹介及び調整を行う。
(2) 市町村は、かかりつけ医との連携及び協力体制を確立するとともに、保育所、児童館、幼稚園及び学校等をはじめとする地域の社会資源を最大限活用できるよう、医療、福祉、教育関係機関との十分な連携を図る。
第二 保健所における母子保健事業について
1 体制の整備
(1) 母子保健推進協議会の設置
ア 保健所は、地域保健医療協議会等における専門部会等を活用して、管内市町村、医師会、専門医療機関及び児童相談所等、母子保健、医療、福祉に関する機関、団体及び母子保健に関心を有する住民の代表等から構成する母子保健推進協議会を設置する。
イ 母子保健推進協議会は、母子保健施策の効果的な推進に資するため、広域的な母子保健、医療、福祉施策を推進するための体制の整備、広域的な母子保健計画の策定等について意見を述べるものとする。
(2) 広域的母子保健システムの確立
ア 身体障害や慢性疾患等を有する子どもの保健、医療、福祉にわたる幅広いニーズに対応し、専門的な医療機関、療育機関における円滑な対応を促進するため、広域的な支援システムを構築する。
イ 保健所は未熟児の望ましい発育、発達を促し、保護者の育児不安に対応するため、退院前から保健婦等がかかわる体制を整備し、医療機関の協力を得て、退院前後のケアを結びつける母子の地域ケアシステムの構築を進める。
2 専門的業務の実施
保健所は、母子保健事業について、広域的又は専門的な知識及び技術を必要とする母子保健事業を実施することとなるので、市町村との役割分担等の調整(対象者の種類、指導の内容及び指導の方法等)を行い、その保健事業範囲を明確化する。
なお、保健所で行う母子保健事業は、概ね以下のものである。
(1) 未熟児への訪問、相談事業
(2) 身体障害や慢性疾患等を有する子どもの療育、健康管理及び在宅ケアに関する相談事業
(3) 心身の発達に問題を抱える子どものフォローアップ
(4) 思春期などのこころの健康に関する相談事業
(5) 児童相談所等との連携による児童虐待の防止対策
(6) 小児期からの成人病予防や性に関する健康教育、相談の普及等学校保健との連携
(7) その他地域の実情に応じた先駆的モデル事業
3 情報の収集、整理及び活用並びに調査及び研究の推進
(1) 目的
保健所は、地域の特性に的確に対応した母子保健サービスの提供を行うため、情報の収集、調査及び研究を行う。
ア 市町村や保健所が今後行うべき母子保健、医療、福祉施策の計画、立案のために地域の課題や住民のニーズなど、必要な情報を収集する。
イ 市町村や保健所が行う母子保健事業の評価を行い、母子保健事業を円滑かつ効率的に実施する。
ウ その他先駆的、専門的、広域的事業を実施するための方策を開発する。
(2) 内容
収集する情報の内容並びに調査及び研究テーマについては、地域特性等を考慮して、各都道府県、保健所で設定することが望ましい。また、調査及び研究については、市町村と共同して行う必要がある。
調査、研究の成果に関しては、母子保健事業の従事者等に情報提供するとともに、今後の母子保健事業の計画の見直しに役立てることが望ましい。
なお、情報の収集、調査及び研究として考えられる具体的内容は以下のとおりである。
ア 情報の収集
(ア) 妊産婦死亡率、周産期死亡率、新生児死亡率、乳児死亡率、死因、う蝕有病率などの健康指標
(イ) 各疾患の発生動向
(ウ) 市町村の母子保健事業の需要と実績、事業内容、事業効果等の評価
(エ) 保健所の母子保健事業の需要と実績、事業内容、事業効果等の評価
(オ) 病院、診療所、助産所等における母(両)親学級の開催状況
(カ) 民間等における組織的活動の実施状況(母子保健推進員、受育班、各種子育て支援グループ等)
(キ) 低出生体重児のフォローアップ状況
(ク) 予防接種の実施状況
(ケ) 保健所管内及び都道府県等全体の母子の医療、福祉施設に関する情報
(コ) その他地域の特性に応じた情報
イ 調査、研究
(ア) 地域における母子保健の問題点の把握
健康指標(出生率、低出生体重児の率、乳児死亡率、事故死亡数等)の現状の把握(年次推移や地区毎の比較等)
(イ) 地域の住民の母子保健、医療、福祉のニーズを把握するための調査
(ウ) 疾病や障害を持つ子供の保健、医療、福祉ニーズやQOLに関する調査、研究
(エ) 健康診査の実施に関する調査(精度管理、受診率、精密健康診査の状況等)
(オ) マス・スクリーニング事業で把握された児の追跡状況
(カ) 子育ての環境に関する調査
(キ) その他地域の特性に応じた調査、研究
4 企画及び調整機能の強化
保健所は、市町村が行う母子保健事業について、提出された情報をもとに、事業について広域的・専門的立場から評価するとともに、市町村母子保健連絡協議会への参画や保健所としての広域的母子保健計画の策定を通じて、これを将来の施策に反映させるほか、市町村間の調整や広域的な母子保健、医療、福祉システムの構築及び母子保健医療福祉体制の確立に努める。
5 市町村に対する支援、研修の実施
(1) 支援
保健所は、市町村が行う母子保健事業及び母子保健計画(平成八年五月一日児母第二〇号児童家庭局母子保健課長通知)作成について、専門的立場から技術的助言や他の類似市町村の事例を紹介し、改善点をアドバイスするなどの具体的な支援を行うとともに、母子保健計画が地域の実情に即したものとして作成され、母子保健事業が効果的に実施されるよう配慮する。
(2) 研修
保健所は、母子保健にかかわる医師、歯科医師、保健婦(士)、助産婦、栄養士及び歯科衛生士等に対する専門分野の研修や市町村職員に対する現任訓練を含めた研修等を推進する。
第三 都道府県等における母子保健事業について
1 人材の確保及び資質の向上
(1) 人材の確保
都道府県等は、母子保健施策の推進に必要な医師・保健婦(士)、栄養士及び歯科衛生士等専門技術職員の継続的な確保が図られるよう配意する。
(2) 人材の資質の向上
都道府県等は、保健所における市町村の母子保健担当者に対する体系的な研修の計画的な推進を図るとともに、保健所職員が市町村に技術的援助を円滑に行うことを可能とするための研修を推進する。
2 母子保健医療体制の整備
(1) 母子保健運営協議会の設置
ア 都道府県等は、母子保健施策の充実強化及びこれら施策の総合的かつ効果的な推進を図るため、母子保健に関する基本的事項について協議し、これを施策に反映させるための母子保健運営協議会を設置する。
イ 協議会の委員は、母子保健、医療、福祉及び教育にかかわる者とし、学識経験者及び関係機関の職員により編成する。
ウ 協議会は、地域における母子保健事業の総合的、効果的な実施及び母子保健対策の今後の在り方等について関係者の意見を聴取する場として運営し、その意見を事業の実施に行かすとともに関係諸施策との調整及び関係機関との連携を図るため、定期又は随時に開催する。
エ 協議会に関する事務は、母子保健主管課がこれを行う。
(2) 実施基盤の整備
都道府県等は、身体障害や慢性疾患を有する子ども等、市町村において十分に対応することが困難な者に対し、保健、医療、福祉の統合されたサービスを提供することのでる体制の整備を推進するものとする。
3 母子保健施策の評価
都道府県等は、保健所の情報収集機能を活用し、母子保健、医療、福祉等に関する情報、調査及び研究に関する情報をもとに都道府県等における母子保健、医療及び福祉等の現状、今後の課題等について検討を加え、母子保健施策の効果的な推進を図る。