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○妊娠中毒症の対策について

(昭和三五年四月七日)

(児発第四二三号)

(各都道府県知事・各指定都市・各政令市市長あて厚生省児童局長通知)

妊産婦保健指導の強化については、昭和二九年三月三○日児発第一六一号により指示したところであるが、乳児死亡が漸次改善されているにもかかわらず、妊産婦の死亡は依然として高率であり、改善の傾向は全く認められない。妊産婦の死亡は、同時に胎児の死亡をもたらすことがあるばかりでなく既に出生した児童にとつては、その母親を失うこととなり、これら児童の正常な発育に支障を来し、家庭に与える影響ははかり知れないものがあるので、妊産婦死亡を防止する必要性は極めて高い。

妊産婦死亡の原因のうち、その四割を占める妊娠中毒症は、依然として妊産婦死亡原因の第一位に位し、むしろ増加の傾向も見られ、特に晩期の妊娠中毒症にあつては、早産、死産、未熟児等の発生頻度が極めて高く、また産後も、高血圧、蛋白尿等の後遺症を残すことが少なくないことにかんがみ、妊娠中毒症対策の推進は、妊産婦保護のみならず、母子衛生全般において、最も重要であり、急務と考えられるので、左記の諸点に御留意のうえ、これが対策に遺憾のないよう配慮されたい。

1 妊娠の早期発見と早期届出

妊娠の届出状況は、逐年増加しつつあるが、その届出は、少くとも妊娠前期において励行されることが必要であり、特に、妊娠中毒症には、早期の届出が欠くべからざるものであるから、医師、助産婦等の協力をえて、妊娠を早期に発見し、妊婦の把握につとめ、事後の指導に支障のないよう配慮すること。

2 妊婦に対する保健指導の徹底

妊婦に対しては、助産婦により、定期に健康診査を受けさせ、原則として、妊娠七か月頃までは毎月一回、八、九か月は一月二回、一○か月以降は毎週一回とし、健康診査に際しては必ず浮腫の有無の検診、尿の蛋白検査、血圧測定および体重測定を行い、常に妊娠中毒症の予防ならびに早期発見につとめ、もし中毒症状が疑われる場合には、さらに診査を頻繁にし、特に安静、休養、食餌等に細心の注意を与え保健指導の徹底を期すること。

なお、妊娠中は必ず医師による健康診査を行わせ、助産婦による妊婦保健指導の場合も、必ず医師と密接な連携を保ち、指導の万全を期すること。

3 早期医療の励行

頻回の保健指導にもかかわらず、妊娠中毒症状が存続する場合は、早期に専門の医師により、適切な医療を受けるよう勧奨し、中毒症が重症化してからはじめて、医療を受けることのないよう、強力に指導すること。

4 無介助分娩の解消

医師、助産婦のいずれにも介助されない分娩が、地域的に相当数あり、これは保健指導の欠除とも関連し、分娩、産褥に重大な影響があるので、特別な対策を考慮して、これが解消につとめること。

5 産婦の保健指導

妊娠中毒症の妊婦の分娩後は、種々の障害が、後遺症として残ることが多いので、分娩後も、血圧、尿の蛋白検査を続行し、症状が完全に消失しない間は、保健指導を頻繁に実施すること。

なお、これらの対象については、特に、受胎調節の指導を行い、引続く妊娠のため、再び中毒症を起さぬようつとめること。

6 関係技術者の再教育

助産婦、保健婦等に、妊娠中毒症に関する医学的知識ならびに保健指導の手技を修得させ、この対策の推進力となるよう再教育すること。

7 妊娠中毒症対策の主旨の徹底

妊産婦死亡、その原因、特に、妊娠中毒症がその出産児に及ぼす影響ならびに妊産婦死亡の社会的影響等、妊産婦指導における妊娠中毒症対策の重要性を一般に周知徹底させ、その認識を高めるとともに、医師、助産婦、保健婦等のこれに対する関心と理解を深めさせるようつとめること。

8 母子健康センター、助産所等の活用

母子健康センター、助産所ならびに産院等においては、施設内分娩の介助のみを行うことなく、妊娠中の保健指導を、これらの施設を利用して、十分に実施するようその活用をはかること。

また、貧困者に対しても、妊娠中の保健指導について、児童福祉施設の助産施設、保健指導票等を利用させ、妊娠中毒症の防止につとめること。

9 妊産婦対策協議会等の開催

都道府県等において、関係医師、助産婦、保健婦その他児童福祉関係者による協議会、連絡会等を開催し、妊娠中毒症対策について、相互の連絡をはかるとともに、その医学的、社会的原因を具体的に研究し、この対策に万全を期するようつとめること。