添付一覧
○母子保健法の施行について
(昭和四一年三月七日)
(発児第二二号)
(各都道府県知事・各政令市市長あて厚生事務次官通達)
母子保健法は、昭和四○年八月一八日法律第一四一号をもつて公布され、昭和四一年一月一日から関係政省令とともに施行された。本法は、母子保健施策を総合的、体系的に向上させることを意図するものであり、その運用如何は、母子保健の進展に多大の影響をもたらすものであるので、特に次の事項に留意して本法制定の趣旨の普及徹底に努めるとともに、所要の事務を的確に行ない、もつて本法の所期の目的達成に遺憾のないよう取り計らわれたい。
第一 法律制定の趣旨
従来、わが国の母子保健施策は、主として児童福祉法(昭和二二年法律第一六四号)に基づき行なわれてきたが、母子保健は、国民保健の維持向上のための基礎として極めて重要であるにもかかわらず、児童福祉行政の一部分として取り扱われることから、母子保健に関する諸施策の総合的、体系的整備が十分行なわれない憾みがあつた。
また、従来の保健所による妊産婦、乳幼児の保健指導を中心とした母子保健施策は、漸次、その成果をあげてきたところであるが、なお、妊産婦死亡率は先進国の数倍に及び乳幼児の死亡率、体位及び栄養状態等も地域的格差が大きい等、改善を要する課題が残されており、特に健全な児童の出生及び育成の基盤となるべき母性の保健については、その対策が不備であつて、その充実強化が要請されているところである。
これらの事情にかんがみ、母子保健の向上に関する対策を強力に推進するため、児童福祉施策の一部であつた母子保健施策を、新たに明らかにされた母子保健の理念に基づき、総合的、体系的に整備して母子保健法を制定したものである。
第二 一般的事項
一 法律の目的
本法の目的は、従来明確にされていなかつた母子保健の理念を法律上規定することによつて、母子保健に関する国及び地方公共団体の施策の方向を示し、その具体策として母子保健に関する知識の普及、保健指導、新生児及び未熟児の訪問指導、健康診査、栄養の摂取に関する援助、母子健康手帳の交付、妊産婦の訪問指導及び妊娠中毒症等妊娠又は出産に影響を及ぼす疾病に対する医療の援助、養育医療の給付、母子健康センターの設置等の施策を実施して国民保健の向上に寄与することにある。
二 母子保健の理念
およそ母性は、児童がすこやかに生まれ、かつ、育てられる基盤であつて、最大限の尊重と保護が与えられるべきことはいうをまたない。しかるに現下のわが国の社会では、母性の保護は必ずしも重視されているとはいえず、さらに都会における共がせぎの増加、農村における母親の労働過重等児童の健全な出生と育成という勧点からみてまことに憂慮すべき事情もうかがわれる。このような事情から、本法においては、母性は、単に母性としてではなく、児童の健全な出生と育成の基盤として尊重され、保護される権利を有することを宣明するとともに、この母性の権利に対応し、乳幼児について、その健康が保持され、かつ、増進されるべきことを宣明し、母子保健の理念を明らかにしている。
さらに、本法においては、母性及び乳幼児の保護者につき、みずからすすんで母子保健に関する知識の習得並びに母性及び乳幼児の健康の保持及び増進に努めるべきことを定めている。これは、およそ健康の保持及び増進は、本人又はその保護者の努力に負うところが大きく、特に母性及び乳幼児の場合は心身の変化が微妙であることから、その健康の保持増進には自発性が強く要請されるので、母性及び乳幼児の保護者の努力目標としての母子保健の理念を明らかにしたものである。
三 母子保健の向上のための責務
本法においては、母子保健施策は国及び地方公共団体がともに推進の責にあたるべきことを明らかにし、国及び地方公共団体は、母子保健に関する施策を講ずるにあたつては、その施策を通じて母子保健の理念が具現されるように配慮しなければならないこととされている。これは、国及び地方公共団体が母子保健に関する施策を積極的に推進すべきことを示唆している点に大きな意義を有するものである。
四 児童福祉審議会の権限
児童福祉法第八条に規定する児童福祉審議会は、従来から、児童及び妊産婦の福祉に関する事項の一分野として母子保健に関する事項についても、その専門的審議機関の役割を果していることから、本法においては、新たに母子保健に関する審議会を設置することなく、児童福祉と審議会の権限について規定を設け、児童福祉審議会が母子保健に関する事項につき調査審議するほか、関係行政機関の諮問に答え、又はこれに対して意見を具申することとしたものである。
五 市町村長の協力及び市町村長への事務委任
母子保健施策なかんずく保健指導等の一般的事業は、その性格からみて地域住民の日常生活に極めて密着しているので、その実施範囲を小地域に区分して行なうことがより効率的であることはいうをまたない。それゆえ、本法においては、市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)は都道府県知事が行なう母子保健施策について積極的に協力するものとするとともに、将来において、市町村(特別区を含む。以下同じ。)の母子保健施策の実施体制が整備され次第、政令の定めるところにより、都道府県知事が実施する母子保健事業の一部を市町村長に委任することができるとされたものである。
第三 母子保健の向上に関する措置
母子保健の向上に関する措置で、都道府県知事又は保健所を設置する市の市長(以下「都道府県知事等」という。)に課されたものとしては、母子保健に関する知識の普及、妊産婦又は乳幼児に対する保健指導、新生児の訪問指導、三歳児、妊産婦及び乳幼児の健康診査、母子保健手帳の交付(特別区の存する区域にあつては、特別区の区長が交付する。)、妊産婦の訪問指導及び妊娠中毒症等妊娠又は出産に影響を及ぼす疾病に対する医療の援助、未熟児の訪問指導及び養育医療の給付があり、市町村に課されたものとしては、妊産婦又は乳幼児の栄養の摂取に関する援助がある。
このうち、妊産婦の妊娠中毒症等妊娠又は出産の影響を及ぼす疾病に対する医療の援助は、従来、財政上の措置として行なわれていたものを法定化したものである。
また、妊産婦又は乳幼児に対する保健指導については、従来は勧奨制であつたのを、その重要性にかんがみ、都道府県知事等がみずから実施しなければならないものと勧奨制とに改められ、みずからすすんで医師等の保健指導を受け難い事情にある者に対する保健指導体制が整備されたものである。
第四 母子保健施設
母子保健施設については、市町村は、必要に応じ母子健康センターを設置するよう努めることとされたが、これは昭和三三年以来財政上の措置がとられてきたものが法定化されたものであり、これにより母子健康センターの設置及び利用の促進を図り、母子保健事業の一層円滑な推進を期したものである。
第五 費用の負担等
都道府県知事等が行なう保健指導、三歳児の健康診査及び養育医療の給付に要する費用の国の負担分の割合は、従来どおりである。
保健指導及び養育医療の給付に要する費用に関しては、従来は費用を負担できない者について、都道府県知事等が、保健指導にあつては代負担を、養育医療の給付にあつては全部又は一部を代つて負担することとされていたところであるが、本法では、都道府県知事等がみずから実施する保健指導については、保健所において実施される場合は、保健所法の定めるところにより、当該措置を受けた者又はその扶養義務者は当該費用を徴収されず、また、保健所以外の医療機関等において実施される場合は、費用を負担することができない者については、全部又は一部について免除されることとされた。
養育医療の給付についても、これに伴つて、費用徴収の際に、費用を負担することができない者については、全部又は一部について免除されることとされた。
なお、保健指導の内容については、別途通知する。
第六 大都市の特例
都道府県が処理することとされている事務又は都道府県知事その他の都道府県の機関若しくは職員の権限に属するものとされている事務は、地方自治法第二五二条の一九第一項の指定都市においては、児童福祉法の場合と同様、指定都市が処理し、又は指定都市の長その他の指定都市の機関若しくは職員が行なうものとされている。