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○精神薄弱者福祉法の施行について

(昭和三五年四月二七日)

(発社第一二五号)

(各都道府県知事あて厚生事務次官依命通達)

精神薄弱者福祉法は、昭和三五年三月三一日法律第三七号をもつて公布され、これに伴う同法施行令も四月一八日政令第一〇三号をもつて公布され、また、同法施行規則も近く制定公布される運びとなつたのであるが、精神薄弱者福祉対策は、社会福祉行政の中で従来比較的たちおくれていた分野であり、この施策が健全に進展するか否かは福祉国家の実現に影響するところ極めて大なるものがあるので、特に左記事項に留意して、この法律の施行に関する諸般の準備をすみやかに完了し所要の行政事務を的確に処理するとともに、広くその趣旨の普及徹底を図り、もつてこの法律の目的達成に遺憾なきを期せられたく、命によつて通達する。

おつて、市長及び福祉事務所を設置する町村の長に対しては、貴職からそれぞれ通達せられたい。

第一 基本的事項について

一 この法律は、精神薄弱者が、適切な保護のもとに一貫した指導訓練を与えられれば、相当数の者が社会の一員として自立更生することが期待されるにもかかわらず、その機会に恵まれないため、家族の重い負担となり更には各種社会悪の原因ともなつている現状にかんがみ、精神薄弱者の福祉を図る総合的対策の一環として、援護体制の整備、援護施設の拡充等を通じ精神薄弱者の保護と更生援助を行なおうとするものであること。

二 この法律による援護は、単に自立更生の期待される比較的軽度の者だけではなく、重度の者にも等しく適用されるものであり、また、対象者は貧富を問わないこと。

三 精神薄弱者ないしはその家族に対する経済的援助については、従来どおり生活保護法(昭和二五年法律第一四四号)等により行なうものとし、この法律においては特別の制度を設けていないこと。しかしながら、精神薄弱者の問題解決に経済問題が支障となる場合も少なくないと予想されるので、具体的事例の取り扱いにあたつては経済援助に関する既存の諸制度を十分活用されたいこと。

四 精神薄弱者に対する援護は、精神薄弱者についての正しい知識と深い愛情をもつて反覆継続して忍耐強く行なわれなければ十分な効果をあげることができないものであるから、関係職員がその点に特に留意するように指導されたいこと。

五 精神薄弱者の福祉を増進するためには、民生、衛生関係機関の密接な協力はもとより、この法律による援護の実施機関と特殊教育に関する教育施設及び教育行政機関、雇用の促進等に関する労働行政機関等との緊密な協力が不可欠であり、その協力体制の適否がこの法律の実効をも左右するものであるから、各都道府県においてもその実情に応じて具体的な方途を講ぜられたいこと。

六 精神薄弱者の自立更生にあたつては、社会一般の理解と協力が重要であり特に雇用主等に対しては、精神薄弱者の長所と特性を具体的事例をあげて説明するなど積極的な広報活動を行ない、啓蒙宣伝の実をあげるように努められたいこと。

七 精神薄弱者については、その親族が社会に対する体面を考慮して極力事実を秘匿するため適切な援護を受ける機会を失する場合も多いと思料されるので、民生委員等の協力を求める等これら潜在精神薄弱者の福祉について欠けることのないよう考慮されたいこと。

なお、この場合において家族への影響等については十分な配慮をされたいこと。

八 精神薄弱者については、本人が正常な判断と意思表示をなし得ないため、人権侵害問題をひきおこすおそれが多いと考えられるので、その点については細心の注意を払われたいこと。

なお、この法律による措置は、いわゆるサービス行政として行なわれるものであり本人及びその保護者の意に反して行なう強制措置を含むものではないこと。

九 精神薄弱者福祉行政については、この法律の制定を一つの契機としてその拡充を図ろうとするものであつて、現状では未だ不十分なものであるから利用しうる一般社会資源の調査とその活用について特に留意されたいこと。

一○ 精神薄弱者問題の根本対策が発生の予防と治療方法の研究にあることは言うまでもないことであり、当省としてもこの方面に一層力を注ぐため、本年度から国立精神衛生研究所に新たに精神薄弱の研究を専管する部を設けることとしたこと。また、同所においては前記のほか精神薄弱の判定基準の統一等についても取り扱うものとしたこと。

第二 関係法律との関係について

一 精神衛生法との関係

精神衛生法(昭和二五年法律第一二三号)は、同法第三条の定義で明らかなとおり精神薄弱者にも適用されているが、同法は、精神病院の設置と医療保護を中心としたものであり、精神薄弱者福祉法は、精神薄弱者に対し更生の援助と必要な保護を行ない福祉の増進を図ろうとするものであること。従つて、精神衛生法は従来どおり精神薄弱者についても適用されることは勿論であるが、同法に基づいて設置される精神衛生相談所と本法に基づいて設置される精神薄弱者更生相談所の関係等具体的な問題については別途通達すること。

二 児童福祉法との関係

児童である精神薄弱者については、精神薄弱者福祉法に規定する福祉の措置とほぼ同様の措置がすでに児童福祉法(昭和二二年法律第一六四号)に基づいて講ぜられており、かつ、児童については精神薄弱に伴うもろもろの問題についても同法に基づく各種福祉の措置とあわせて解決していくべきであるので従来どおり同法によるものとしたこと。

しかしながら、精神薄弱者に対する福祉の措置は児童から成人まで一貫性をもつて行なわれるべきものであり、これら二法の施行にあたつては福祉の措置に欠陥を生ずることのないように相互に十分な連絡協力を行なう必要があるので、その具体的な方法については別途通達すること。

第三 精神薄弱者福祉司について

一 精神薄弱者福祉司は、第一線機関における専門職員として事実上精神薄弱者福祉行政を進展させる中核となるものであるから、実行力のある真に適当な人物を採用すること。この種の事業には円満な人格を求めることのみでなく若く有望な人材を広く求めるようにされたいこと。

二 精神薄弱者福祉司は、福祉事務所に勤務するものとし、その職務の重要性にかんがみ都道府県はもちろんのこと法律上任意設置とされている市及び福祉事務所を設置する町村についても極力適格者を採用配置し、少なくとも各福祉事務所に一名ずつ置かれるよう格別の配慮をされたいこと。

三 精神薄弱者福祉司の資格に関する細目及び執務要領は、別途通達するが事務職員とは判然と区別し単に事務的形式的な執務におちいることなく、積極的に精神薄弱者の福祉の増進を図るように指導されたいこと。

四 精神薄弱者福祉司の現任訓練については、当省においても短期講習会を計画中であるが地方においても職務執行に必要な個人指導、実地指導、研修会等を考慮されたいこと。

第四 精神薄弱者更生相談所について

一 精神薄弱者更生相談所は、精神薄弱者の福祉を図るための専門的技術的機関として第一線機関となる福祉事務所及び同所に勤務する精神薄弱者福祉司の技術センターの役割を果たすものであるから、職員、設備等その内容充実については格別の配慮をされたいこと。

二 精神薄弱者更生相談所の職員及び設備の基準については、目下最終的検討を行なつており運営要領とともに近く通達するが、職員については、とりあえず精神科の医師一名、心理判定員一名及びケース・ワーカー一名の選任をすすめられたいこと。

なお、いずれも精神薄弱者の援護事業について相当の知識と経験を有するものが望ましいこと。

三 精神薄弱者更生相談所の施設については、国庫補助金が支出されないこと等を考慮して既存の施設に併置する方針であり、この場合、人的物的設備の現状、福祉事務所との関係等から身体障害者更生相談所に併置することが最も適当であると思われるが諸般の事情から身体障害者更生相談所以外の施設に併置することが望ましい場合も考えられるので、関係機関とも十分連絡をとられたく、またその設置については事前に当省と協議されたいこと。

第五 福祉事務所について

一 福祉事務所は、言うまでもなく住民に直結する社会福祉行政の第一線機関として設置され、従来生活保護法、児童福祉法及び身体障害者福祉法のいわゆる福祉三法の実施をその主たる業務としてきたのであるが、今後は本法を加えて福祉四法の実施機関となること。

二 精神薄弱者に対する援護業務は、福祉事務所長に一元的に処理させることが適当であるので、法第一六条第一項及び第二項の措置をとる権限についても特別の事情のない限り福祉事務所に委任すること。

なお、これが円滑なる業務の推進を図るためには各福祉事務所においてその実施体制の整備が早急になされる必要があること。

おつて、福祉事務所における事務処理要領については、別途通達すること。

第六 精神薄弱者援護施設について

一 精神薄弱者に対する福祉の措置は、施設における保護と指導訓練がその中心である特に都道府県の設置する精神薄弱者援護施設の整備については、当省としても最も重点を置いていく方針であるが、各都道府県においても特別の配慮を致されたいこと。

二 精神薄弱者援護施設については、精神薄弱者福祉法第一六条第四項の規定による主として設置及び管理に関する基準と同法第二一条の規定による運営に関する基準を定めることとなるのであるが、前者については昭和三四年六月八日社発第三○一号厚生省社会局長通達「精神薄弱者援護施設の設置及び管理基準について」を、後者については昭和三四年八月一三日社発第四一九号厚生省社会局長通達「精神薄弱者援護施設の運営基準について」を、それぞれ当分の間同法に基づく当該基準として取り扱うものとすること。

三 精神薄弱者援護施設が精神薄弱者福祉法第一六条第四項に規定する厚生大臣の定める基準に適合するか否かの判定は、当該施設の長の申請に基づいて都道府県知事が行なうものとし、その手続等については別途通達すること。

四 精神薄弱者援護施設の運営については、前記通達に一応の基準を示したところであるが、今後精神薄弱児施設の拡充、特殊教育の振興策等と並んで、一八歳に達するまでに相当の技能を修得した者を対象とし、通所により専ら授産を行なう施設の必要性がたかまるものと思料されるので、この種施設の設置運営についても検討されたいこと。

五 精神薄弱者援護施設の収容能力が、施設収容対象者にくらべて著るしく不足する現状においては、在宅指導及び職親委託等を活用するほか、生活保護法に基づく救護施設及び更生施設その他既存の社会福祉施設等を利用する方法も十分考慮されたいこと。

なお、精神薄弱者であつて、そのまま放置することが自己を傷つけ他人を害するおそれがあるときは、精神衛生法第二九条の規定により都道府県知事が行なう強制入院の対象となるものであること。

六 精神薄弱者援護施設の設置に関する許可、届出及び休廃止等の手続は、すべて社会福祉事業法(昭和二六年法律第四五号)によることとしたこと。

第七 職親委託制度の運用について

精神薄弱者福祉法第一六条第一項第三号に規定する職親への援護委託制度は、精神薄弱者の社会的自立を促進する手段として設けられるものであるから、精神薄弱者の長所と特性について十分な理解を持ち、かつ、その指導訓練に熱意を有する適任者を開拓し有効適切に活用されたいこと。

なお、職親委託制度の実施にあたつては、この制度が労働力の搾取におちいることのないように注意すること。

おつて、職親制度の運用要領については別途通達すること。

第八 精神薄弱者福祉法の施行に要する費用について

精神薄弱者福祉法の施行に要する費用については、一括して別途通達すること。

第九 精神薄弱者福祉法の附則に関する事項について

一 精神薄弱者福祉法第一五条の規定により、民生委員法(昭和二三年法律第一九八号)に定める民生委員は、精神薄弱者福祉法の施行事務について協力義務を負うこととなつたのであるが、この機会に、民生委員協議会に総務一人を置くものとしたこと。

なお、民生委員協議会の総務の職務内容等については、別途通達すること。

二 精神薄弱者援護施設については、税法上保護施設、身体障害者更生援護施設等と同様の取り扱いがなされるよう、入場税及び物品税関係の法令について所要の改正を行なうこととしたこと。その結果、施設の福利設備等にあてる目的で催す映画会等が入場税免除の取り扱いを受け、また、購入する物品のうち一定のものについては物品税を免除されることとなること。

三 その他関係法律について、所要の条文整理を行なつたこと。

第一○ 指定都市について

地方自治法(昭和二二年法律第六七号)第二五二条の一九第一項に規定する指定都市については、事務処理に関する特例を設けないものとしたこと。