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○先天性股関節脱臼及び脊髄性小児麻痺の特別対策について
(昭和三二年三月二五日)
(児発第一五六号)
(各都道府県知事・五大市長あて厚生省児童局長通知)
児童の身体障害に対しては、早期発見並びに早期治療が最善の方途であり、従来よりその趣旨にそつて療育の指導、育成医療の給付、補装具の交付及び肢体不自由児施設への収容等を実施してきたところであるが、起因疾患のうち、先天性股関節脱臼及び脊髄性小児麻痺については、その特殊性にかんがみ、乳幼児保健指導に際して別紙(一)「先天性股関節脱臼特別対策実施要領」及び別紙(二)「脊髄性小児麻痺特別対策実施要領」により一層早期発見、早期治療が徹底するよう取り計らわれたい。
なお、本対策実施について、日本医師会、日本看護協会、日本助産婦会に対し、それぞれ協力方依頼したので念のため申し添える。
別紙(一)
先天性股関節脱臼特別対策実施要領
1 方針
先天性股関節脱臼(以下「先天股脱」という。)は、肢体不自由の起因疾患のうち、脊髄性小児麻痺、脳性小児麻痺に次いで高い発生頻度を示し、これを放置して治療の時期を逸するときは、歩行の際著しい跛行を呈する結果となるが、早期に適切な治療を加えれば完全に治癒しうるのである。しかも、その治療を加える時期が早期であればある程、短期間に、且つ、僅少の費用で治癒せしめうるので極力乳児初期に発見し、適切な治療を実施しうるよう対策を講ずること。
2 実施要領
(一) 早期発見の方法
新生児期乃至乳児前期において先天股脱(先天亜脱臼及び臼蓋形成不全を含む。以下同じ。)の有無を確認することは、必ずしも容易ではないが、この時期に疑わしい所見を発見し、事後、継続して観察指導を行うことが最も理想的であるので、医師、助産婦の協力を得て、左の各号により先天股脱の早期発見につとめること。
1 医師が分娩に立会い、あるいは乳児の診療を行う場合、必ず股関節開排検査、大腿骨骨頭の位置の検査等を実施し、先天股脱又はその疑があつた場合は、保護者に対して更に経過観察を重ねて精査する必要を説明し、必ず整形外科の専門医師の指導を受けるよう勧奨すること。
2 分娩を介助した助産婦は、出生児について四肢関節異常の有無特に股関節開排制限の有無に留意し、沐浴期間を通じて綿密に観察し、開排制限のある場合は、保護者に懇切な説明指導を行い、でき得る限り生後二、三箇月頃までに療育指導または整形外科の専門医師の診察、指導を受けるよう勧奨すること。
3 保健所において乳幼児の保健指導を実施する際は、必ず股関節開排検査、大腿骨骨頭の位置の検査等を行い先天股脱が疑われる場合は、股関節のエツクス線撮影等の方法により精査につとめ、保護者に対しては必ず療育指導または整形外科の専門医師の診察、指導を受けるよう勧奨すること。
4 先天股脱の早期発見については、前各号により新生児期よりこれを始め生後二、三箇月の期間及び生後六箇月頃の精査に重点をおき、遅くも歩行開始時期までにすべての先天股脱を発見することを目途とすること。
(二) 早期治療の実施
1 整形外科の専門医師は、股関節開排制限のある乳児について精密な検査を実施し、先天股脱を認めた場合は、すみやかに治療を受けるよう保護者に対して懇切周到な指導につとめること。
2 保健所において先天股脱またはその疑のある乳児を発見した場合は、保護者に対し療育指定保健所、育成医療指定医療機関(整形外科関係)の担当医師等について当該乳児に対する療育の指導及び適切な治療を受けるよう指導すること。
3 早期治療はできうる限り生後二、三箇月の期間に開始し、正常の歩行開始前に治癒せしめることが、望ましいが遅くとも生後六箇月頃までに治療を開始することを目途とすること。
4 当該乳児の治療に際して、保護者がそれに要する費用の一部又は全部を負担することができない場合には、育成医療の給付を受けるようその手続について指導すること。
(三) 関係者の現任訓練及び広報活動
1 保健所の母子保健指導を担当する医師、保健婦、助産婦に対して先天股脱に関する医学的知識の向上を図るとともに、本疾患の早期発見の方法について十分な訓練を行うこと。
2 産科及び小児科の専門医師、助産婦及び乳児の保護者に対して、本対策の趣旨を周知徹底させるため適切な広報活動を行うこと。
別紙(二)
脊髄性小児麻痺特別対策実施要領
1 方針
脊髄性小児麻痺は肢体不自由の起因疾患のうち、第一位の頻度をもつものであるが、麻痺発生より日が浅いほど治療効果が顕著であり、かつ変形の予防が容易に達成されるので、伝染病予防法第三条の二の規定に基き急性灰白髄炎の患児発生の届出のあつた場合は、すみやかに適切な治療を実施しうるよう対策を講ずること。
2 実施要領
(一) 新規発生患児の掌握
保健所において急性灰白髄炎の届出を受けた場合は、届出医師と連絡することは勿論すみやかに保健婦による家庭訪問を行う等、当該児童の保護者と連絡を密にし、後遺症のある児童を確実に把握し以後の指導に備えること。
(二) 早期治療の実施
1 麻痺の発生した児童の保護者に対しては、療育指定保健所並びに育成医療指定医療機関の担当医師等についてすみやかに療育についての指導並びに適切な治療を受けるよう指導すること。
2 当該児童の治療に際して、保護者がそれに要する費用の一部又は全部を負担することができない場合は、育成医療の給付又は補装具の交付を受けるよう指導し、なお、長期入院を必要とする場合には、肢体不自由児施設等への入所等ができるよう適切な指導を行うこと。
(三) 広報活動と関係諸機関の相互連絡
本対策の趣旨を一般に周知させるとともに本対策の実施に関し、医師会その他関係諸団体に協力を求め、相互の連絡協調につとめること。
(四) 関係諸機関の相互連絡
本対策の実施に関し、医師会、看護協会、助産婦会その他関係諸団体に協力を求め、相互の連絡協調につとめること。