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○所謂児童の人身売買事件の対策について

(昭和二七年二月一九日)

(厚生省発児第一五号)

(各都道府県知事あて厚生事務次官通知)

標記については、昭和二四年五月一四日厚生省発児第四五号都道府県知事宛厚生次官、法務行政長官、労働次官、文部次官連名通知「親元を離れ他人の家庭に養育され又は雇用されたる児童の保護について」によつて通知されており、かねてから、御配慮を煩わしているところであるが、最近の社会情勢は、所謂人身売買を益々増加させ、それについて根本的な対策を講ずることは緊急の課題であるので、今回、中央青少年問題協議会において、別紙のとおり、所謂人身売買の定義とその基本的な対策要綱が定められ、二月一四日の次官会議において決定され、その線に沿つて関係各省がそれぞれ具体的対策を講ずることになつた。ついては、貴都道府県におかれても、左記により、益々人身売買の対策に関する活動を促進されるよう御配慮を願いたい。特に本件については、市町村長と緊密な連絡の下に、十分その協力を得るよう配意せられたい。

なお、関係各省も夫々の関係機関に対して、前記の基本対策要綱に沿つた具体的対策を通知しているから、都道府県青少年問題協議会を利用してこれら諸機関と緊密な連絡を保ち、綜合的効果の達成に遺憾なきを期せられたい。

第一 定義、本通知で「人身売買」とは、中央青少年問題協議会で決定された如く、次のとおりであること。

「児童をしてその福祉に反するような労務又は不当な人身の拘束を伴う労務を提供させ、その対価として財物その他の物を給付することを内容とする契約又はこれを斡旋する行為」

第二 児童福祉思想の昴揚

人身売買の発生を未然に防止するためには、一方では家庭の貧困をなくして生活の安定を図ることが必要であるが、他方では、児童の人権を尊重する思想の啓蒙が必要であるから、人権尊重、児童福祉思想については、特に昨年五月五日に制定された児童憲章の普及宣伝等を中心として、特に左記の点について啓蒙を図るように努めること。

一 児童を独立の人格者として扱い、児童の基本的人権を尊重するという思想の啓蒙を図り、従つて、子供を親の所有物の如く勝手に処分するような封建的遺制を根絶するように努めること。

二 児童を心身ともに健全に育成するためには、原則として、両親の家庭のもとで、且つ正しい愛情と知識と技術を以つて、育てなければならないこと等の児童福祉の思想を普及徹底せしめること。

第三 要保護家庭の生活安定

家庭が貧困であるために子を売る例がすくないことに鑑み人身売買の発生を未然に防止するためには、家庭の生活の安定を図ることが最も効果的であるから、社会福祉関係機関は、特に左の点に留意し要保護家庭の生活の援護、社会的自立の促進等に遺憾なきを期することが必要であること。

一 児童養育困難者の積極的相談

単に家庭が貧困であるという理由だけでその児童をその家庭から引き離して他へ出すことは、児童の福祉にとつて最善でないから、経済的理由等で児童をどうしても手許で養育することが困難になつた場合には、すみやかに、当該地区担当の児童委員、市町村、福祉事務所又は児童相談所に進んで相談するように、予め一般の啓発指導に努めておくこと。

二 児童を家庭においたままでの生活保護法の適用等

前項の相談があつたとき、又は必要があると認められるときは、実情を調査し、保護の要件に該当する限り適切な生活保護法の適用その他のあらゆる指導援助をなすこと。その際、できるだけ家庭から児童をひきはなすことなく児童を家庭においたままで、生活保護法の適用等をなすように努めること。

三 保護受託者制度の活用

適当な職業に直ちには就けない児童について、その将来の自立を促進するため、保護受託者制度の活用を図るものとし、当該家庭等から保護受託者の許へ通勤し又は保護受託者の許へ同居して、独立自活に必要な指導を受けさせる等の措置等を考慮すること。

第四 職業安定機能の強化

児童が人身売買的コースを辿る危険に立つことを防止するためには、予め、正規の過程によつて正常の職業に就くことができるようにすることが必要であるから、児童福祉機関は職業安定機関に協力して、児童の職業安定に努めること。

一 職業安定所への通報

家庭の状況その他から判断してすみやかに職業を斡旋しなければ人身売買的コースを辿る虞のある児童については、福祉事務所長又は児童相談所長は公共職業安定所長に対し、職業斡旋を依頼すること。その際児童相談所長は必要な調査をなし、特に家庭の状況、児童の職業斡旋を必要とする理由、児童の希望就職先等を明記した書類(別紙様式)を添付すること。

二 職業安定所の積極的斡旋

前項の通知を受けた公共職業安定所長は、別途労働省通知により、すみやかに相談に応じ、当該児童に即応した迅速な職業紹介を行うことになつていること。

第五 監督取締

人身売買のケース又は人身売買に発展する虞のあるケースがすでに発生している場合においては、これを可及的すみやかに発見し、第六の保護指導の具体的措置の迅速な適用を促すことが必要であるから、児童福祉関係機関においては特に次の方法に留意して迅速な発見に努めること。

一 児童委員、社会福祉主事、児童福祉司等の調査活動の促進

児童委員、社会福祉主事又は、児童福祉司は絶えず担当区域内の実情の把握に留意し人身売買的ケースを迅速に発見するように努めること。実情の把握に当たつては、児童の受入地においては、一定季節等に労力を求める特定の漁村地区、農村地区、又は特殊飲食店街地区その他従来他人の児童を引きとつて養育雇用する慣行のある地区等について、特に注意を払い、また、児童の出身地においては生活困窮、問題家庭等で、その虞の予想されるものその他従来児童を他人の家庭に手放して養育雇用を依頼する慣行のあつた家庭並びに予想される仲介人の言動等について予め注意を払うように努めること。

二 同居届の励行

市町村長が中心となり、必要あるときに児童委員を協力させて、他人の児童を預り養育又は雇用する者について、児童福祉法第三○条による同居児童の届出を励行させ、人身売買的ケースの発見の端緒に資すること。このために市町村の児童福祉の係は、寄留制度、世帯台帳制度、住民登録制度等の担当係と連絡を密にし、住民登録法による児童の転入届等がなされる場合等には同時に児童福祉法による同居届を提出させるように努めること。

三 学校からの連絡

学校において、その児童、生徒、学生等につき、不就学、長期欠席、問題行為等の事由があつて人身売買がすでに行われた疑があり、又は行われる虞があると認められるときはすみやかに、福祉事務所又は児童相談所へ連絡することになつているから、平素から進んで連絡を密にするように努めること。

学校からの連絡を受けた福祉事務所又は児童相談所は、直ちに実情を調査し、必要な措置を講ずること。この場合すでに児童が他の都道府県に売買されたと認めるときは、都道府県知事を経由して、当該児童の現に所在する地の都道府県知事に連絡すること。

右の連絡を受けた都道府県知事は、関係福祉事務所又は児童相談所をして必要な調査をなさしめ、すみやかに第六の具体的措置をとるようにすること。

第六 保護指導の具体的措置

右第五により発見された児童については、一方において、必要に応じ、使用者仲介者等成人の取締について警察、検察庁、労働基準局へ連絡することになるが、他方当該児童については、保護の万全を期すること。特に、児童が発見された現在地(又は受入地)と児童の親の所在地(又は出身地)とが都道府県の地域をまたがることが多いから、関係都道府県間の緊密な連絡に留意する必要があること。この場合の取扱については、原則として児童の所在地の都道府県知事が具体的な保護の方法を決定すべきものであること。なお警察、検察庁、労働基準局等で人身売買事件として、使用主、仲介人等成人の刑事々件を取り扱うとき、当該事件に関する児童の保護については、福祉事務所又は児童相談所へ連絡することになつているから、右の連絡を受けたときは、その児童の現在地の都道府県知事が、その児童の保護についての責任をもち、必要な措置等をとるべきものであること。

一 親元復帰の原則

売買された児童の保護については、親元へ復帰させることが原則であること。この場合において当該ケースが二都道府県の地域にまたがつているときは、児童の現在地の都道府県知事は、児童の出身地の都道府県知事に連絡し親元の家庭の現在の生活状況、児童を親元へ帰すことが適当であるか否か等について調査すること。

児童を親元へ復帰させる場合、児童の身柄を引き取るために、親元の家庭から直接引取に出向くことができないときは、原則として当該親元の所在地の都道府県の責任において、引取の措置を講ずること。

児童が親元に引き取られた場合においては、同時に、出身地都道府県知事は、当該児童又はその保護者を社会福祉主事又は児童福祉司に指導させること等により、親元復帰後の児童の保護指導に努めるとともに、当該家庭につき生活保護法の適用その他の生活援護に努めるものとし、必要あるときは、右第四の取扱による職業紹介等の措置法による保護受託者への委託措置に努めること。

二 児童福祉施設、里親、保護受託者等の活用

児童を親元へ復帰させることがどうしても困難又は不適当であると認められるときは、児童福祉施設、里親又は保護受託者へ現在の職場等から引き離して、入所又は委託の措置をとること。

この場合、原則として、児童の出身地の都道府県知事が、これらの入所又は委託の措置の責任を負うこと。

三 児童を現在地に置くこと。

児童を現在の職場等でそのままひきつゞいて保護することが他の措置をとるよりも児童の福祉にとつて一層適当であると明らかに認められるときは、社会福祉主事又は児童福祉司の適当の指導監督によりその養育又は雇用を継続させること。この場合、児童の現在地(職場等の所在地)の都道府県知事の責任において行うこと。なおこの方法が許されるのは「人身売買」の定義にも鑑みて極めて少数の場合に限られるべきであつて、例えば契約期間が長すぎる等の場合に、実情によつて取られ得るものであるに過ぎないこと。

この方法による場合は、特に次の諸点に注意すること。

(イ) 法第三○条による同居児童の届出がなされていないものについては、すみやかに提出させること。

(ロ) 労働又は養育の条件、労働契約等が違法又は不適当であるときは、これを合法且つ適当なものに改めさせること。この場合、必要に応じ、労働基準監督署等を連絡をとること。

(ハ) 義務教育年齢にある児童で不就学又は長期欠席のものについては、必ず就学させるようにすること。

(ニ) その職場等の使用主等が保護受託者として適格のものであるときは法による保護受託者として登録させこれに児童を委託することとすること。

(別紙様式)

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