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○親元を離れ他人の家庭に養育され又は雇用されている児童の保護について
(昭和二四年五月一四日)
(厚生省発児第四五号)
(各都道府県知事あて厚生次官、法務行政長官、労働次官、文部次官連名通知)
栃木県、福島県地方を中心として、従来から相当ひろく行われていた、他人の児童を引き取りその家庭で養育又は雇用する慣行(以下家庭養育雇用慣行という。)のあるものは、いわゆる「児童の人身売買事件」として大きな社会問題となつたのであるが、この種の慣行は、たんに栃木県、福島県地方のみに行われているものではなくて、いろいろの形態のもとに全国的に各地で行われているものかと思われる。これは児童の福祉に関係した極めて重要な問題であるから、今回親元を離れ他人の家庭に養育され又は雇用されている児童(以下家庭養育雇用児童という。)についてその全国的な保護対策を左の通りに決定することになつた。これが円滑に実施されるか否かは、わが国児童保護事業の消長に直接に影響するものであるから、実施にあたつては慎重な考慮を払い、児童の福祉の保障につき万遺憾のないよう努められたい。
保護対策実施要綱
第一 現在行われている家庭養育雇用慣行に対する措置
(一) 実情の把握に努めること。
現在行われている家庭養育雇用慣行の態様は多種多様であつて、先ず第一にその態様と個々の実情の把握に努めることが必要である。
(1) 児童委員による実情の把握
市町村長が中心となり、児童委員をして、家庭養育雇用児童の保護に関したえず必要な注意を払い、その実情の把握に努めしめること。
前項の児童とは、四親等内の児童を除き親元を離れ他人の家庭に養育又は雇用されている凡ての児童をいうのであつて、家庭に雇用されている児童の中に女中、子守、農事使用人、店員等一切の年期奉公者及び雇用人等が含まれることはいうまでもないが、児童福祉法にいう里親に養育されているもの、少年法の規定により少年保護司の観察中のもの、単なる下宿人及び寄宿舎等の家庭以外のところにいるものは対象とならない。
実情把握の対象となる児童の中には労働基準法の適用のあるものも含まれるのであるが、これは労働基準監督署の行う監督に協力するとともに児童の日常生活に関する保護をも併せて行うことを目的としているものである。
(2) 市町村長の児童福祉司に対する連絡
市町村長が右の結果
A 労働基準法の適用を受けない雇用契約が、(例えば家事使用契約)A 親権者又はこれに代わるべき者が児童の意志を顧みることなく雇用契約を締結している B 雇用契約の期間が不当に長い C 児童の労働を条件として前借金を受け取つている D 児童が途中で逃走した等契約不履行の場合の損害賠償額を予約している等の条件を含んでいて、これにより直接にあるいは間接に児童の自由を不当に拘束していると思われるもの。
又は
B 雇用契約が労働基準法その他の関係法令に違反するとか、児童が虐待されているとか、冷遇されているとか、その他著しく不適当な監護を受けている等のため、児童の福祉の見地から特別の措置を必要とすると思われるものを発見したときは、児童委員をして精密な調査をさせ、その結果ならびに意見を附して、担当地区の児童福祉司に連絡すること、なお児童委員の行う調査には必要に応じて、労働基準監督署、労働省婦人少年局地方職員室、公共職業安定所その他の関係機関の協力を求めること。
(3) 児童福祉司の行う調査と必要な措置の判定
右の連絡を受けた児童福祉司はそのケースにつき児童委員の協力をえて個別調査を行い、県児童課又は児童相談所、必要に応じてはそれぞれ労働基準監督署、労働省婦人少年局地方職員室、公共職業安定所その他の関係機関と取らるべき児童福祉の具体的措置について協議決定すること。
(二) 児童福祉の具体的措置
(一)の(2)に掲げるような、雇用契約が直接にあるいは間接に児童の自由を不当に拘束しているものであれば、それは法律上無効になるものが多く、それに対して児童の福祉の見地から新たな措置をとらなければならないことはいうまでもない。なおその外に家庭養育雇用慣行の中には雇用契約が労働基準法その他の関係法令に違反するとか、児童が虐待されているとか、冷遇されているとか、その他著しく不適当な監護をうけている等のため、児童の福祉の見地から新たな措置を必要とするものが相当多数あると思われるが、児童福祉の具体的措置をとるにあたつては児童の意思を尊重することはもちろん、諸般の事情に照して児童の福祉が最も良く保障される左のいずれかの措置をとるよう指導に努めなければならない。
(1) 児童を親元に返して、その家庭に生活援護その他の指導をすることによつて現実的に児童の福祉が保障できる場合には、児童を親元に返すこと。そのために児童福祉司は都道府県を通じて児童の親元の地区を担当する児童福祉司又は児童委員等と緊密な連絡をとり、親が児童を他人の家庭に出すにいたつた原因、親の現在の生活状況、児童を親元に返すことが適当であるかどうか等について調査すること。
(2) 児童を親元に返すことが適当でなく、しかも児童を現在の家庭から引き離して保護する必要がある場合には、他の適当な里親を見つけて児童を委託すること。なおこの場合適当な里親が見付からないときは適当な児童福祉施設に入所せしめるか、他の適当な個人家庭に保護を依頼するとかその他適当な措置をとること。
(3) 児童の福祉の見地から現に児童が適当な保護を受けており、現在の家庭でそのままひきつづいて保護されることが他の措置をとられるよりも一層児童にとつて幸福であるという客観的事情が認められるときは、
A 先ず第一に児童福祉法にいう里親として適格なものは、法の里親にすること。
B 児童福祉にいう里親にするには若干の適格条件を欠いているが、なお児童が幸福に養育されている場合(児童が働いている場合を除く。)には、児童福祉司、児童委員等の指導監督のもとに養育を継続せしむること。
C A、Bの外児童を働かしている場合はそれぞれ適当な年齢に応じ、次のいずれかの措置をとること。
A 労働基準法の適用があるものについては不適当な労働条件を是正するとか、新たに適正な労働契約を締結させる等児童の労働条件の改善に努めること。
B 労働基準法の適用がない家事使用についても、労働基準法の精神にのつとり、不適当な雇用条件を是正するとか新たに適正な雇用条件を締結させる等児童の雇用条件の改善につとめること。
なお、この場合にはそれぞれ労働基準監督署、労働省婦人少年局地方職員室と緊密な連携をとること。
(三) 児童福祉司、児童委員の行う指導
児童福祉司、児童委員は特別な措置を必要とする(1)、(2)、(3)のケースについては勿論、その他の家庭養育雇用慣行についてもたえず注意を払い、必要があると思われるときは児童の保護に関する適当な指導をなすよう努めること。
(四) 児童の就学奨励
家庭養育雇用児童の中には未就学、不就学ならびに長期欠席の児童が相当数いることに鑑み親権者又は後見人に対してはもちろん、他人の児童を家庭で養育又は雇用している者に対しても、学齢期にある児童を通学させて義務教育をうけさせるよう積極的な指導を行うこと。このためには教育委員会の積極的な活動を促し、市町村、学校、PTA、児童福祉児童委員が相協力して児童の就学にむかつて努力すること。児童を就学させるに際しては、特に学年編入につき、児童の生活年齢、精神年齢等を十分に考慮して児童に最も適した措置を講ずることが必要である。
第二 家庭養育雇用慣行に対する今後の措置
いわゆる「児童の人身売買事件」のごときことが再び発生しないようにするとともに、さらに進んで児童の福祉を積極的に増進するために、今後は次のごとき方針でその実施にあたること。
(一) 児童の人権尊重
児童の最大の幸福は原則として両親のもとで健やかに育てられること、児童の基本的人権を尊重しなければならないこと等の児童福祉思想を普及徹底せしめ、児童をあたかも親の所有物であるかのごとく考え、児童の幸福を顧みることなくこれを勝手に処分するような封建的な遺制を根絶是正するよう努めること。
(二) 児童を養育することが困難な者の児童福祉司、児童委員の相談児童がたんに家庭が貧困である等の経済的理由のみで児童をその家庭から引き離すことは児童の福祉のために適当でない。しかしながら経済的、身体的又は精神的な原因のためにどうしても、児童を養育することが困難になつた場合には、必ずその地区を担当する児童福祉司、児童委員に相談するよう一般の啓発指導に努めること。
右の相談があつた場合には、児童福祉司、児童委員は懇切丁寧に事情を聞き、必要によつては、実情を調査して、それぞれの事情に適応した生活援護、里親委託、児童福祉施設への入所、その他適当な保護指導の措置をとること、児童福祉司、児童委員においても担当地区の人々にその氏名やその仕事の内容を周知せしめ、児童福祉司、児童委員のところへいけばきつと必要な面倒をみてもらえるという情勢を整えておくこと。
但し、児童福祉司、児童委員が右の措置をとろうとするときは、児童をたんに経済的理由のみで家庭から引き離すことは児童の福祉にとつて適当でないことを十分理解し、児童をできるだけ家庭から引き離すようなことなく、その家庭に対して生活保護法の適用その他凡ゆる指導援助をなして児童の福祉を図るよう努めること。
(三) 公共職業安定所の利用
児童が就職するときには必ず公共職業安定所を利用するよう一般の指導に努めるとともに、許可をうけないで就職の斡旋をすることは法の違反となり、したがつて処罰されることを一般に周知せしむること。児童福祉司、児童委員等が児童の就職について相談、又は依頼を受けた場合は、必ず所轄公共職業安定所に連絡すること。
(四) 仲介業者の排除根絶
児童福祉司、又は児童福祉員が営利を目的として児童の就職の斡旋をする者を発見したときは、直ちに労働基準監督署又は公共職業安定所に連絡して、それぞれ労働基準法、職業安定による悪質仲介業者の排除根絶に努めるとともに、無料で就職を斡旋することも、許可を受けないでこれを反覆して行う場合には、職業安定法の違反となるから、かかる斡旋者の排除についても公共職業安定所と連絡を密にすること。
なお、児童福祉司又は児童委員が、児童福祉法第三四条第一項第八号の規定(改正予定)に違反して、営利を目的として児童の養育を斡旋する者を発見したときは、直ちに県児童課又は児童相談所に連絡してその排除根絶に努めること。
(五) 児童福祉法にいう里親制度の普及
児童福祉法にいう里親制度の普及徹底を図り、真にやむをえない事情のため他人に児童を預けることを余儀なくされた者が、勝手に他人に児童を預けるようなことをしないで、児童相談所を通じて里親制度を活用するよう、一般の啓発指導に努めること。なおこの場合地区の児童福祉司又は児童委員に連絡相談させるようにしてもよく、連絡相談があつたときは、児童福祉司又は児童委員は必ず必要な斡旋指導をすること。
第三 都道府県間ならびに関係諸機関の連絡
家庭養育雇用慣行はたんに一都道府県内で行われているばかりでなく、二以上の都道府県にまたがつて行われているものも数多くあり、又それはひろく児童福祉法、労働基準法、職業安定法、学校教育法ならびに人身保護法等の諸法規に関係するところが大であるから、関係都道府県間はもちろん関係諸機関が相互に緊密な連絡をとつてこれが円滑な処理にあたることが必要である。
〔参考条文〕(省略)