添付一覧
○改正少年法と児童福祉法との関係について
(昭和二三年一二月二八日)
(児発第八九七号)
(各都道府県知事あて厚生省児童局長通知)
改正少年法(昭和二三年七月一五日法律第一六八号)は、明年一月一日から施行せられるのであるが、これに関連して本月二三日国家地方警察本部刑事部長より各管区本部刑事部長並びに、各都道府県本部警察長宛別紙の通りの通知がなされた。これは児童福祉法とも極めて関係が深いので、とりあえず参考のため改正少年法とあわせて送付する。右了知の上、関係方面と緊密な連絡を図り、児童の保護の取扱に遺憾のないよう努められたい。
なお、改正少年法と児童福祉法との関係につき、その主なものを記すれば、左の通りである。
記
1 罪を犯した少年及び一四歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年は、家庭裁判所の審判に付せられ、児童相談所においてはこれを取り扱わない。これは従来の少年法(大正一一年法律第四二号)第二八条第二項の取扱と異なるところである。但し、罪を犯した少年又は一四歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年とは、たとえば具体的にある窃盗事件が発生し、その嫌疑がかけられたような者をいうのであつて、ある少年がその前歴等に鑑みて、いつか、何か、罪を犯したか又は刑罰法令に触れる行為をしたにちがいないと一応思われるような程度の場合は、これに含まれない。
2 特に問題の多い一四歳以上一八歳未満の虞犯少年の取扱については、前掲国家地方警察本部刑事部長通知第五の(イ)、(ロ)に掲げられている基準に即して措置されたい。
3 浮浪児の一斉保護については、警察署及び家庭裁判所と連絡し、三者協力してこれを行うことが望ましい。但し、児童相談所長の行う一時保護の権限は、児童の保護のために必要なときは、児童自身の意思を問うことなく、これを行うことができるものと解する。
なお、児童相談所に対して、警察職員から要保護児童を把捉した旨の通報があつたときは、直ちに引き取りにゆく等できるだけ必要な措置をとるべきであるが、夜間その他やむをえない事情があるため、このような措置がとれないときは、折り返し警察職員に一時保護の権限の委託をしなければならない。
(別紙)
少年事件の処理について
(昭和二三年一二月二三日 刑防発第一○九号)
(各管区本部刑事部長・各都道府県警察長・六大都市警察長あて国家地方警察本部刑事部長通知)
改正少年法(昭和二三年七月一五日法律第一六八号)は明年一月一日より愈々施行せられるが、同法による少年事件の取扱は従来と異なる点が多々あるので、別添の「少年事件処理注意事項」を参照の上その取扱に遺憾のないようにせられたい。
尚自治体警察にも周知せしめられたい。
「少年事件の処理に関する注意事項」(昭二三・一二・二三)
国家地方警察本部刑事部防犯課
1 新少年法及び少年院法施行に伴つて、新たに、家庭裁判所、少年院及び少年監護所が設けられる。
家庭裁判所は各地方裁判所所在地に、少年院は従来の少年矯正院に、少年監護所等は少年院の一部に夫々本年末迄に設置される予定であるから、予め地方裁判所と連絡の上、その場所、施設等を確認すること。
2 新少年法では、少年の年齢を二○歳未満にまで引き上げたが、昭和二四年一箇年間は、第六八条の規定により従来通り一八歳未満として取り扱うこと。
3 犯罪少年の処理について
(1) 一四歳以上の少年について、犯罪があると思料するときは、司法警察職員が直ちに捜査を開始するのは当然である。
捜査に当つては、証人訊問、被疑者の逮捕、押収捜索、検証等は、総て刑事訴訟法によつてこれを行う。
但し少年の被疑者は他の被疑者と分離し、なるべくその接触を避ける等慎重な取り扱をしなければならない。
(2) 禁こ以上の刑にあたる犯罪の嫌疑がある場合。
捜査の結果、禁こ以上の刑にあたる犯罪の嫌疑があると司法警察員が思料するときは、従来通りの手続によつて事件を検察庁に送致すること。
(3) 罰金以下の刑にあたる犯罪の嫌疑がある場合。
(イ) 司法警察員は、検察庁を経由せず、直接家庭裁判所に事件を送致すること。
(ロ) 送致の場合は、少年審判規則第八条の規定による送致書によらなければならないが、最小限度の書類としては、身上調査書、犯罪事実、共犯者があるときはその処理の結果を必要とする。
具体的な様式については最高裁判所と打合せの上追つて通知する。
送致書には、少年の処遇に関して意見をつけることができるが、然し事件を終局させる決定に関する意見をつけることはできない。
(ハ) 証拠品はできる丈司法警察員の手で処理し、その結果を証拠品目録等で明らかにして事件に添付すること。やむを得ない証拠品は、事件に添えて家庭裁判所に移管すること。
(ニ) 身柄のある場合(例えば賭博のごとき)には、従来検察官に対してなしたと同様、四八時間以内に事件を身柄付で送致しなければならない。
(ホ) 成人との共犯事件については、原則として事件を別にし、事件記録を別個に調製、成人の事件の部分は検察庁に少年の事件の部分は家庭裁判所に送致しなければならない。
身柄及び証拠品についても同様とする。
但し家庭裁判所又は検察庁から、取調の必要上、他の共犯関係についての記録の要求が予想せられるから、各部分の記録の写一通宛余分に調製することが必要である。
4 一四歳未満の少年が刑罰法令に触れる行為をした場合の処理について
(1) 此の場合は、被疑事件として刑事訴訟法による捜査はできない。
然し保護事件の対象として総て家庭裁判所に送致すること。
(2) 送致の場合、事件概要の報告程度は家庭裁判所に提出することが望まれる。その取調に当つては、身柄を拘束することができないから任意同行によるのを原則としなければならない。
(3) 任意同行が不可能であり且つ成人との共犯関係等があつてその取調を必要とする場合には、先づ家庭裁判所の同行状の発行を求めこれを示し又はその余裕のないときは少年に対し審判に付すべき事由及び同行状の発せられていることを告げて、家庭裁判所に同行をし同裁判所の決定により少年監護所に収容後、第一六条の規定に基いて調査を行うことができる。
尚この関係は一四歳未満の者に限らず少年の刑事事件を家庭裁判所に送致した後において、余罪の取調の必要を生じた場合又は虞犯少年の調査若しくは審判のために必要ある場合にも適用することができる。
5 虞犯少年の処理について
(1) 第三条第一項第二号に規定する虞犯少年の中、一八歳以上二○歳未満の者は総て家庭裁判所に送致し一四歳未満の者は総て児童相談所に通報しなければならない。
(2) 一四歳以上一八歳未満の者については、少年法と児童福祉法とが競合する。即ち児童福祉法第二五条の「保護者に監護させることが不適当であると認める児童」中には、児童福祉の措置の中に教護院に入所せしめる事項のある事からしても、所謂不良少年を含んでいることは明らかである。
ところがこの不良少年の内容と少年法第三条第一項第二号に規定する虞犯少年の要件と確然と区別することは困難である。
この要件は寧ろ不良少年の要件でもあり得ると云つてよい。
然らばこのような少年を発見した場合何れを虞犯少年として家庭裁判所に送り、何れを児童福祉法に基いて児童相談所に通報すべきであるか。その判断の基準は大凡次の如く考えられる。
(イ) 虞犯少年はその要件に該当する者の中で特にその性格及び環境に照して情状悪質で、将来罪を犯す虞があり、刑事政策上の取扱を必要と認められるものをいい、その他の者を児童福祉法第二五条の不良少年と解する。
(ロ) 家庭裁判所の審判による保護処分の決定と知事又は児童相談所長の行う福祉の措置とを比較対照し、個々具体的に何れの処分が適当であるかを判断して決定する。
即ち刑事政策的な少年法第二四条第一項各号の保護処分を適当と認める者は児童相談所に送るものとする。
尚具体的には地方の施設その他の情況に応じて処置せられたい。
6 浮浪児等の一斉救護を実施しようとする場合について
(1) 一斉救護を行う場合は事前に家庭裁判所及び児童相談所と連絡し三者一体としての活動が望ましい。
(2) 一斉救護の対象中に犯罪少年その他家庭裁判所に送るべき悪質な者の存在が予想せられるときは、予め家庭裁判所の裁判官と連絡の上万やむを得ざるときは直ちに同行状が発せられる態勢を整えて置き、その他は従来の例によつて実施すること。
(3) 一斉救護を実施した後、家庭裁判所の審判に付すべきものと認める者は家庭裁判所に送り(同行状を要する者は同行状により)その他福祉の措置を妥当とする者は児童相談所の措置に委ねること。
(4) 児童相談所長の一時保護の権限は、一応従来通りと解釈しているから、児童相談所長の委任があつた場合には、その権限に基いて一時保護することができる。
7 成人の刑事事件について
(1) 家庭裁判所の管轄に属する成人の刑事事件とは、特に少年の福祉を害する種の刑事事件であつて、第三七条第一項に列挙してある。
即ち
一 未成年者喫煙禁止法違反の罪
二 未成年者飲酒禁止法違反の罪
三 労働基準法違反の罪中、最少年齢違反(五六)、坑内労働禁止違反(六四)、年少者労働時間及び休日違反(六○)、深夜作業違反(六二)、危険有害業務の就業制限違反(六三)、年次有給休暇違反(七二)、年少者の証明書等備付違反(五七)、未成年者の労働契約違反(五八)、未成年者の賃金代理受取禁止違反(五九)、帰郷旅費負担違反(六八)
四 児童福祉法第六○条違反の罪等がこれに当る。
(2) 司法警察員はこの事件を捜査したならば検察庁宛に事件を送致しなければならない。検察庁は更に検討の上、家庭裁判所に公訴を提起するのである。
8 警察官等の調査及び観察の援助
家庭裁判所に係属した事件について、当該裁判所は、事件の調査を始めるのであるが、その場合
(1) 家庭裁判所は警察官、警察吏員、観察官又は保護委員をして同行状を執行させることができる。
(2) 家庭裁判所は調査及び観察のため、警察官、警察吏員、保護委員、児童福祉司又は児童委員に対して必要な援助をさせることができるとしている。
ところでこの「させることができる」という表現は、家庭裁判所の命令権を規定してはいるが、その命じ得る対象には警察官、警察吏員以外の者も存在するので、実際機関としては、いづれの機関にせしむるか、事前に関係者協議の上、予め協定せられた基準に従つて適宜の機関に命ぜられる筈であるから、十分協議をした上で差し支えない限り、その要請に協力することが必要である。
9 身柄押送の援助
(1) 司法警察員から直接に又は検察庁を経由して家庭裁判所に送致される身柄事件についてその身柄を警察官又は警察吏員が押送することは従来の通りである。
(2) 家庭裁判所が身柄事件の送致を受けたときは速やかに少年法第一七条第一項第二号の監護措置をなすべきか又は同法第二○条の検察官送致の措置をなすべきかを決定し、身柄を夫々少年監護所又は担当検察庁に送らなければならないが、此の場合第二六条に基いて決定の執行を少年保護司、警察官、警察吏員、観察官、保護委員、児童福祉司又は児童委員に執行させることができることになつているが、特に警察職員の押送援助を要請せられている。この場合二、三時間の内に決定をなし得るときは家庭裁判所まで身柄を押送して来た警察職員に引続き押送に当らせるが、長時間決定の遅れる場合には、改めて送致をした、又は最寄の警察署の職員をして押送に当るよう、要請せられることになるが、尚具体的な方法等については現地の関係者相互間で十分協議をし適切妥当な方法を取り決められたい。
警察側に緊急重要な任務があつて、全然その余力のない場合においては、他の機関の活動にまつことは勿論である。
(3) その他の決定、例えば児童福祉の措置に委ねる場合、及び審判による保護処分の決定の場合は夫々保護をする機関が押送に当ることは当然である。
10 調査及び観察の援助に要する費用及び家庭裁判所から少年監護所又は検察庁に押送するに要する費用は、家庭裁判所の裁判費中から支出せられるよう打合せ済であるから、現在においても十分協議し置かれたい。
「備考」
この件については法務庁、最高裁判所、厚生省側とも打合せ済である。