添付一覧
○児童養護施設等における児童福祉法等の一部を改正する法律の施行に係る留意点について
(平成一〇年二月二四日)
(児発第九五号)
(各都道府県知事・指定都市市長・中核市市長あて厚生省児童家庭局長通知)
児童福祉法等の一部を改正する法律(以下「改正法」という。)、児童福祉法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備に関する政令及び児童福祉法施行令等の一部を改正する政令は、それぞれ平成九年六月一一日法律第七四号、平成九年九月二五日政令第二九一号、平成一〇年二月一八日政令第二四号をもって公布されたところである。
これらの改正の趣旨及び内容については、平成九年九月二五日児発第五九六号本職通知「児童福祉法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備に関する政令等の施行について」等においてすでに一部通知したところであるが、児童養護施設等の児童福祉施設に関し、改正法の施行に伴い留意すべきその他の事項は左記のとおりであるので、御了知の上、管下の市町村、関係機関、関係団体等に対して周知徹底を図るとともに、適切な指導を行い、その運用に遺憾なきを期されたい。
なお、本通知については文部省及び労働省と協議済みであり、また、本通知が発出されることについては、文部省を通じて各教育委員会へ、最高裁判所事務総局家庭局を通じて各家庭裁判所へ、それぞれ連絡を依頼してあるので申し添える。
記
第一 児童養護施設等の運営について
(一) 乳児院
改正法により、乳児院について、乳児のほか、保健上その他の理由により特に必要のある場合には、おおむね2歳未満の幼児を入院させることができることとしたところであるが、保健上その他の理由により特に必要のある場合とは、具体的な例としては、
① 当該児童に疾病や障害があり、引き続き乳児院で処遇することが適当であると判断される場合
② 保護者の家庭環境が整備され、ほどなく家庭に引き取られることが明らかな場合
③ 兄弟を別々の施設に措置することが児童の福祉に反する場合
等が考えられるものであり、入所又は継続入所についての判断は、児童や家庭環境の状況及び保護者や施設長の意見等を踏まえ、児童相談所長が総合的に判断すべきものであること。
(二) 母子生活支援施設
改正法により、母子寮について、その目的に入所者の自立の促進のためにその生活を支援することを加え、母子寮の名称も母子生活支援施設に改めるとともに、児童が満二〇歳になるまで引き続き母子を在所させることができることとしたところであるが、入所者の自立の促進のためにその生活を支援することとは、入所者に対する生活指導、就労支援や施設内保育の実施等を通じ、入所者の生活を支援することをいうものであり、母子生活支援施設においては、今回の改正法の趣旨を踏まえ、こうした入所者の生活の支援に積極的に取り組むべきものであること。
(三) 児童養護施設
改正法により、養護施設について、その目的に児童の自立を支援することを加えるとともに、名称も児童養護施設に改めたところであるが、自立の支援とは、施設内において入所児童の自立に向けた指導を行うことの他、入所児童の家庭環境の調整や退所後も必要に応じて助言等を行うこと等を通じ、入所児童の家庭復帰や社会的自立を支援することをいうものであり、児童養護施設においては、改正法の趣旨を踏まえ、こうした入所児童の自立の支援のための活動に積極的に取り組むべきものであること。
また、改正法により、虚弱児施設について児童養護施設に移行することとしたことも踏まえ、健康面で特に配慮が必要な児童の処遇に際しては、児童養護施設の嘱託医や地域の医療機関との連携に特に配慮されたいこと。
(四) 情緒障害児短期治療施設
改正法により、情緒障害児短期治療施設について、入所児童の実態等にかんがみ、対象児童の年齢要件を撤廃し、児童が満二〇歳になるまで引き続きその者を在所させることができることとするとともに、施設長に対し入所児童の就学義務が課されたことから、入所児童に対する学校教育の実施について、教育委員会等関係機関と連携の上、特段の配慮を願いたいこと。
(五) 児童自立支援施設
改正法により、教護院について、その目的を、個々の児童の状況に応じて必要な指導を行い、その自立を支援することとし、名称も児童自立支援施設に改めることとしたところであるが、自立の支援とは、施設内において入所者の自立に向けた指導を行うことの他、入所者の家庭環境の調整や退所後も必要に応じて助言等を行うこと等を通じ、入所者の社会的自立を支援すること等をいうものであり、施設においては、こうした入所者の自立の支援のための活動に積極的に取り組むべきものであること。また、特に、以下の点に留意願いたいこと。
ア 入所対象
改正法により、児童自立支援施設の入所対象に、新たに家庭環境その他の環境上の理由により生活指導等を要する児童を加えたところであるが、これは、家庭における保護者の長期にわたる養育怠慢・放棄など家庭環境等に問題があり、この結果、日常生活における基本的な生活習慣の習得がなされていないこと等により、施設において児童の自立支援のために生活指導等を要する児童を対象とするものであり、具体的には、
① 親が長期にわたり育児を放棄した結果、日常生活を営む上で最小限必要な生活習慣等が身についておらず、将来に対する自立意欲を欠いており、社会に適応するために施設への入所、通所、退所等の対応等の支援が必要な児童
② 義務教育を終了した後、就職したが、家庭環境等に起因する学力不足や対人関係の形成等の問題があり、仕事も長続きせず、改めて学習指導を含めた生活指導等を必要としている児童
のような例が想定されるものであって、家庭を通じ対応が可能な場合や生活習慣等の乱れが一時的な場合は対象にならないこと。また、いわゆる不登校児又は登校拒否児若しくは高校中退者について、学校に行っていないこと又は高校を中退したことを理由として入所の対象とはならないものであり、これらの点について、児童及びその保護者、児童相談所、児童自立支援施設等の関係者に誤解を生じることのないよう、特に留意し、周知徹底を図られたいこと。
新たな入所対象児童に対する処遇内容については、基本的には、従来の対象児童に対する処遇内容と同様であり、そうした処遇内容が児童の最善の利益を確保する上で適当と考えられる児童が入所の対象となるものであること。
イ 通所措置
改正法により導入された通所措置については、施設に入所させ保護者等と児童を分離するよりも、家庭における保護者等との生活を基本としつつ通所により生活指導とその家庭環境の調整等を行うことが適切と考えられる児童が対象となるものであり、具体的には当初から通所措置が適当である児童とともに、施設措置の解除の前段階として通所措置により実社会における自立を図ることが適当である児童が対象として考えられるものであること。また、児童の自立支援の観点から、通所措置の実施について積極的な対応が望まれるが、具体的な実施の時期については、地域の実情等に応じて、個別に判断されたいこと。
なお、少年法(昭和二三年法律第一六八号)に基づく保護処分の決定を受けた児童については、改正後の児童福祉法(昭和二二年法律第一六四号。以下「法」という。)第二七条の二に規定するように、通所措置の対象とならないので留意されたいこと。
ウ 学校教育の実施
改正法により、児童自立支援施設の長に対し、新たに入所中の児童を就学させる義務が課されるとともに、施設内における学校教育に準ずる学科指導の実施に関する規定が削除されたが、この施行に際しては特に次の事項に留意されたいこと。
① 各都道府県及び指定都市(以下「都道府県等」という。)においては、関係機関の理解と協力を得て、教育委員会により学校教育が早期に実施されるよう、特段の配慮を願いたいこと。なお、改正法においては、当分の間児童自立支援施設の長が学校教育に準ずる学科指導を実施することができることとしているが、これは、学校教育の実施には地域の実情に応じた関係機関の理解と協力が必要であり、ただちに実施することが困難な場合があること等を勘案して設けたあくまで経過的な措置であることに十分留意されたいこと。
② 学校教育を実施する方法については、関係教育委員会において判断されるものであり、地域の小中学校への通学や、児童自立支援施設内における分校、分教室の設置等の方法が考えられるが、児童自立支援施設内に分校、分教室を設置する場合には、施設内の使用許可を行うなど当該分校等の設置について積極的に協力し、又は施設の設置者に対しその旨要請されたいこと。
③ 学校教育の実施の際には、児童の通学する学校に対し、予め児童自立支援施設における当該児童の状況等に関し十分な説明を行うとともに、継続的に密接な連携を取り、その理解と協力を得ながら一体的かつ総合的な指導を図っていくことが重要であること。
(六) 児童家庭支援センター
改正法により、地域に密着したきめ細かな相談・支援体制の強化を図るため、新たな児童福祉施設として児童家庭支援センターを創設したところであるが、児童家庭支援センターは児童養護施設等の児童福祉施設に附置されるものであり、既存の施設の相談指導に関する知見や、夜間・緊急時の対応、一時保護等に当たっての施設機能の活用に留意されたいこと。
また、児童家庭支援センターによる相談支援が迅速かつ円滑に行われるよう、改正法の趣旨も踏まえ、関係機関との連携が十分図られるよう特段の配慮を願いたいこと。
第二 児童自立生活援助事業について
改正法により、新たに児童自立生活援助事業が法律上位置づけられたことに伴い、改正法の施行日(平成一〇年四月一日)において現に当該事業を行っている国及び都道府県等以外の者は、施行日から三月以内に都道府県知事(指定都市においては市長。)に届け出る必要があるとともに、既に当該事業の対象となっている児童については、法第二七条第九項に基づく措置を採る必要があること。また、少年法第二五条第二項第三号の規定による補導委託については、改正法の施行により従来の取扱いに何ら変更を生じないものであること。
第三 児童福祉施設等に係る情報の提供について
改正法により、法第二七条に規定する児童福祉施設への入所等の措置を採る際には、対象となる児童及びその保護者の意向を聴くことを法律上も明らかにしたところであるが、この意向の聴取に際しては、平成二年三月五日児発第一三三号本職通知「児童相談所運営指針について」等によるほか、児童相談所、児童福祉施設等の連携により、予め当該児童福祉施設等に係る情報が児童及びその保護者に十分に提供されるよう努めること。その際の具体的な方法としては、入所対象となる児童福祉施設等の見学や当該施設に係る資料の活用等が考えられるものであること。
第四 少年法に基づく保護処分決定に係る措置について
改正法により、都道府県等は、少年法第二四条第一項第二号の保護処分の決定を受けた児童につき、当該決定に従って児童自立支援施設又は児童養護施設に入所させる措置を採らなければならない旨の規定を設けたが、この規定の施行については、次の事項に留意されたいこと。
(一) 改正の趣旨
今回の改正は、少年法第二四条第一項第二号の保護処分と法の規定に基づく措置との関係を法文上明らかにしたものであり、従来の運用を変更するものではないこと。
(二) 入所措置に係る手続き等
保護処分の決定を受けた児童に係る入所の措置については、親権者等の意に反して行うことができないとする法第二七条第四項や都道府県児童福祉審議会の意見を聞かなければならないとする第八項の規定の適用がないものとされたが、これは、保護処分決定に当たり、司法判断としての手続きが保障されていることを理由とするものであること。このため、少年法第二四条第一項第二号の保護処分により児童福祉施設に入所した場合については、入所後に親権者等が児童の引取りを主張した場合には、これを拒否できるものであること。
ただし、法第二七条の二に基づく措置は、児童福祉法に基づき都道府県等が行うものであって、措置後の児童の処遇方針並びに措置解除及び措置変更の決定等は、従来どおり、児童福祉の観点から児童相談所において適切に行うとともに、措置後には、家庭環境の調整等も必要となることから、措置を行う際にはもちろん、措置後においても、親権者等の理解を得るよう努力する等、児童の適切な処遇の確保を図られたいこと。
第五 母子家庭の母及び児童の就労支援のための相互協力について
改正法により、母子及び寡婦福祉法(昭和三九年法律第一二九号)において、新たに児童家庭支援センター、母子生活支援施設及び母子福祉団体を、母子家庭の母及び児童の雇用の促進のため、相互に協力すべき者として加えたところであるが、これらの機関等における協力の具体的な例としては、連絡会議を設ける等の他、母子福祉団体が母子家庭の母を対象とした研修を行う際に公共職業安定所の職員に参加を求め、研修終了後に雇用のための連携を図ることなどが考えられるものであり、この他地域の実情に応じた多様かつ積極的な取組みが進められるよう配慮願いたいこと。