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○義肢支給の要領について
(昭和二九年一一月二七日)
(社発第九二九号)
(各都道府県知事あて厚生省社会局長通知)
義肢の支給に当つては処方、適合判定、装着訓練及び事後指導が一貫した方針の下に実施される必要があるので、今回これが支給の要領を左記の通り定めたから、参考とせられたい。
記
義肢支給の要領
1 方針
肢切断者の更生に最も必要なものは、その喪失機能を補填する義肢の支給であるが、この機械的な物品としての義肢の支給だけで満足に目的を達成することは出来ない。義肢の支給は、義肢の選定、処方及び製作、装着訓練、事後追求調整及び修理等の過程を経て、初めて義肢は満足なものとして認められるものである。
これ等の過程が地方的事情に即して最低限度の設備で実施できるよう考慮する必要がある。
2 義肢の選定、処方及び製作
肢切断者は、その切断部位切断端の長さ切断端末の状況、中枢側関節の可動性、健側(又は反対側)の状況、全身状態等の身体的条件や、その人の生活、職業、居住地の状況等の外的条件、性別年齢等から考えても決して同一のものではない。又一方義肢は各種の型式、種類があり唯一種の義肢で全切断者に適合せしめる事は出来ない。患者の状況を詳しく知つて最適な義肢を選定し各個人の特性に応じた処方をする必要がある。このためには基礎的条件である身体的条件を精知し、肢切断者を指導出来る医師の医学的意見、機能判定員の機能に関する意見を総合し、できれば義肢の構造、機能的工作に有能な知識を有する義肢組立工の助言を得て、身体障害者更生相談所長が処方する事が必要である。
義肢義務に携わる義肢組立工はもとより医師、職能判定員も義肢の型式、種類、構造、機能、長所、欠点に関する充分なる基礎的知識をもつ必要がある。
義肢の製作は極めて重要であつて義肢の適合、組立製作技術の粗悪さは、義肢組立工の責任である。従つて、義肢製作施設においては優秀なる義肢組立工を選定する必要がある。
3 義肢装着訓練
義肢の装着訓練は極めて重要である。下肢切断者には小集団として歩行訓練を行うことが便利である。訓練は義肢製作施設又は肢体不自由者更生施設で行うことが望ましく、これに最小限度の訓練用設備と義肢の修理の可能な設備のを備えた方がよい。(早期訓練期間中には切断の削痩によるソケットの再適合を必要とするような大きな工作が必要となるので初度支給義足の工作は訓練修了後完成出来るよう一時的完成のままで行う等の考慮を払つた方法がよい。)基本的訓練は起立平衡をとること、平常歩行、回転、前屈運動、傾斜地不整地歩行、階段の昇降、転倒後の起上り練習等を行う。義手訓練には作業場が必要であつて義手の機能的利用法を習得せしめる。之は作業義手能動義手等、義肢の種類により変えられるべきである。
主として作業義手に重作業用に適するような構造を有するので各種の農耕作業を実際に行わせ能動義手には家庭でやる日常動作、洗面動作、衣服の着脱、電気のスウイッチをひねること、扉の開閉等の日常動作の他、事務的軽作業等を行わせる。次で時間がゆるせば男には木工作業、女には縫物、編物等をやらせ義手の使い方を知らせる。又本人の特別の職業、趣味等についてもやらして見る事が必要である。この訓練期間中、必要な人には職業適性や興味の検査を行い将来の職業訓練や職業斡旋について研究する。訓練のため遠隔地より来る人には、簡易な宿舎を考えることが望ましい。既に更生した切断者をこの訓練に加え、映画、スライド、写真等を利用し又意見の交換を行う座談会等を行えば極めて効果的である。
訓練設備
歩行訓練には設備はなるべく簡単で手のかかりすぎないものがよい。必要なものは大人用歩行練習用平行棒、高さと奥行きの異つた階段、床に白線を書いて歩幅の調整訓練が出来るようにしたもの、マットレス、腰掛、紐、滑車、重錘(又は砂袋)平均台等でその他は周囲の広場、道路等を利用する。義手訓練には日常生活道具一式、大工道具、作業台、農耕用具、製図用具、裁縫用具、編物道具等を準備する。
4 事後追求及び修理
以上の訓練中不具合、不適合については、製作した義肢業者の責任に於て逐次補修を加える。切断者が義肢を適切に使いこなせる状況を確認し又はそれを予想出来る状態に於て義肢が完成したものとして認定するのが理想的である。切断者が家庭、職場に帰つた後、生理的変化による不適合、悪習慣等が生じて来るので出来れば初度支給者には三か月後、其の後は六か月乃至一年に切断者の生涯を通じ事後追求及び修理が行われることが望ましい。
(参考)
義肢検定方法の例
総論
1 義手は正しい長さか?
2 ソケットはきちんと而も気持よく適合しているか?
3 鋭敏点或は骨突出部はソケットに正しい救済法を講じてあるか?
4 縁はきちんと仕上げ、粗い点、充填されぬ或はかたまつていない部は密閉されているか?
5 全ての鋲は正しくかしめ、全てのねじは確実にしめられているか?
6 全てのバックルは止め針が正しい方向へ向つて取付けられているか?
7 全てのバックルはソケットへ革紐で取付けられているか?
8 コントロールケーブルは鋭角に曲らぬようになつているか?
9 ケーブルホーヂングの全ての切端は鑢でなめらかに仕上げてあるか?
10 腋付接合部は切断者が用いることの出来る力に耐えうるだろうか?
11 全蝋付部はきれいに上手に仕上げられ又全ての酸(ベースト塩酸)は洗い去られているか?
12 腋当環は第7頚椎の下で僅かに腱側によつて8字形交叉を保持するに足る十分な大きさであるか?
13 コントロールケーブルの附属紐は肩胛骨中央の高さにあるか又適切なケーブル移動が出来るよう充分に低い位置にあるか?
14 ●当る切断者に気持がよいように下敷を入れ、又被いをしてあるか?
15 全ての紐の末端はほぐれないように閉鎖してあるか?
16 全てのブィニロンやナイロンの穴はほぐれを防ぐために穴打あけよりもむしろ焼けほがしてあるか?
17 末端用具(フック又は手)の機能は全ての点に於て正しいか?
18 末端用具はケーブル末端がケーブルホーヂングにあたらず完全に操作が出来るか?
19 装飾用手袋が用いられているならば損傷していないか?
20 色調は正しく合つているか?
又完全に手にゆとりなくかぶせられているか?
前腕義手
1 末梢及中枢側止め間のケーブルホーヂングの正しい長さは緩からず固からずであるか?
2 肘蝶番の機能は正しく或は滑に動くか?
3 カフスは6~8オンス紐革で作られているか?
4 カフスは裏打ちしてあるか?
5 カフスは手ぎわよく平たく縫いとじ縁は磨き、全部にナイロン溶液がぬられているか?
6 前方へり紐は三角大胸筋三角を通過するか?
上腕及肩義手
1 肘固定機構の機能は正しいか?
2 回転盤はコントロールケーブルを力で動かす場合動かずにいるよう充分しつかりとめてあるか?
3 前腕はケーブル末端がケーブルホーヂングに打当らず完全に屈げることが出来るか?
4 ケーブルコントロールは切断者の肉にさわらぬように作られているか?
5 前腕挙上環がつけられていればコントロール肘関節軸より下へ下げることは出来ぬか?
6 前腕は初め軽度屈曲位に取付けてあるか?
7 革挙上環は前腕完全屈曲後適切な末端用具操作が出来るだけ充分に短いか?
8 挙上環は6~8オンス紐革で作られているか?
9 革挙上環把握ケーブルホーヂングはスリップを予防するだけ充分にしつかりしているか?
10 若し上腕義手ならば三角大胸筋三角への架腕案内環を通して肘固定ケーブルが直接に横穴から出ているか?
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