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○抗狭心症薬の臨床評価方法に関するガイドラインについて

(平成16年5月12日)

(薬食審査発第0512001号)

(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)

標記について、抗狭心症薬の臨床評価に関する標準的方法を別添のとおり取りまとめたので、貴管下関係業者に対し周知方よろしくご配慮願いたい。

なお、学問の進歩等を反映した合理的根拠に基づいたものであれば、必ずしもここに示した方法を固守するよう求めるものではないことを念のため申し添える。

(別添)

抗狭心症薬の臨床評価方法に関するガイドライン

抗狭心症薬の臨床評価方法に関する研究班

主任研究者 岸田浩(日本医科大学)

分担研究者 村山正博(聖マリアンナ医科大学)

斎藤宗靖(自治医科大学)

川久保清(東京大学)

折笠秀樹(富山医科薬科大学)

杉本恒明(東大名誉教授)

研究協力者 加藤和三(心臓血管研究所)

上田慶二(東京都多摩老人医療センター)

Ⅰ 序論

抗狭心症薬の臨床試験の目的は、その医薬品の有効性と安全性を患者集団において客観的に評価し、その臨床的有用性を確認することにある。本ガイドラインはこれまで抗狭心症薬の臨床評価法に関する研究班の研究班報告として示されている「抗狭心症薬の臨床評価法に関するガイドライン」(1985年5月)を見直し、改定したものである。

臨床上、狭心症はその発作様式、状態、経過等により種々の病態に分類されるが、ここでは狭心症を安定労作狭心症、異型狭心症、不安定狭心症の3群に分けて考えることとする。抗狭心症薬の臨床的有効性は、これらの各々について検討する必要があると考えられる。ただし、異型狭心症、不安定狭心症の患者を安定労作狭心症患者と同じ試験の対象とすることには問題があるため、それらに対する臨床的有効性の検討は、安定労作狭心症に対する試験とは別の試験により行うべきである。

1.狭心症各群の診断基準

1) 安定労作狭心症

胸骨裏面又は前胸部の不快感(痛み、圧迫、不快)の発作が運動や情動ストレスによって比較的良く再現され、ニトログリセリン舌下投与又は労作の中断、情動ストレスの消失によって軽快する。狭心症発作の持続は短く、通常は動作中止あるいは情動ストレスの中断により、5~10分以内に速やかに消失する。狭心症症状は少なくとも2ヶ月以上安定している。

2) 異型狭心症

典型的には安静時に胸痛が発生し、胸痛発作の頻度、持続は一定ではない。胸痛は一過性のST上昇を伴うが、急性心筋梗塞の所見はない。発作は通常ニトログリセリン舌下投与によって消失する。異型狭心症には有意な冠動脈病変の無いことが多いが、器質的な冠動脈病変を有することもある。発作は冠攣縮により発生する。

3) 不安定狭心症

不安定狭心症は、単一の病態ではなく、冠攣縮、器質的冠狭窄、冠動脈内血栓形成等複数の要素が関与している。病型には、安静時に繰り返すST下降あるいは上昇を伴う発作が最近出現したもの、これまでの安定狭心症が最近増悪したもの及び労作狭心症が新規に発症した場合等が含まれる。通常ニトログリセリン舌下投与による発作軽快効果は不十分である。急性心筋梗塞の所見はない。

Ⅱ 非臨床試験

「臨床試験の一般指針」、「医薬品の臨床試験のための非臨床安全性試験の実施時期についてのガイドライン」等を参考に毒性試験及び薬理学的検討を行うが、下記の項目を中心に検討し、臨床試験を行う前に必要な資料が整備されている必要がある。

1.基礎的資料

1) 治験薬の起原又は発見の経緯

2) 外国での使用状況

動物試験のほかに、外国における臨床成績、市販の有無又は使用状況に関する情報

2.物理的化学的資料

1) 治験薬の化学構造、物理的化学的性質

2) 治験薬の安定性

3.非臨床試験に関する資料

以下の動物試験では、適切な対照薬との比較を行うとともに、複数の動物種を用いて検討することが望ましい。

1) 一般毒性試験、特殊毒性試験及びその他の毒性試験

2) 効力を裏付ける試験

a.冠循環に対する作用

b.摘出冠血管標本に対する作用

c.心筋虚血モデルに対する作用

d.心機能、血行動態に対する作用

e.心筋代謝に対する作用

3) 副次的薬理試験及び安全性薬理試験

4) その他の薬理試験

5) 薬物動態試験

a.薬物の吸収、分布、代謝、排泄

b.その他

Ⅲ 臨床試験

非臨床試験の成績に基づき、治験薬がヒトにおいて許容される安全性の範囲内で有効性を示すものと期待される場合に限って、臨床試験に進むことができる。

治験薬の承認申請のための臨床試験は、「臨床試験の一般指針」、「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(GCP)を遵守し、臨床薬理試験、探索的試験、用量―反応試験、検証的試験等を実施する。薬効評価は客観的指標を用いた有効性評価と安全性評価から行われる。なお、いずれの相又は段階においても、安全性又は有効性に疑問が生じたならば、非臨床試験までを含めて、前段階へ立ち戻って再検討を行う。

Ⅲ―1 第Ⅰ相試験(臨床薬理試験)

1.目的

第Ⅰ相試験(臨床薬理試験)は、非臨床試験成績をふまえて、治験薬をはじめてヒトに適用する段階であり、当該治験薬のヒトにおける安全性に関する情報収集を主たる目的としている。また、外国データの再現性や人種差の検討が目的に含まれる。

2.試験担当者と実施医療機関

臨床薬理学の専門医と抗狭心症薬について十分な経験を有する専門医が共同し、試験を遂行するのに必要な機器及び体制が完備された医療機関において行う。

3.対象

原則として健康成人男子志願者を対象とする。

4.試験方法

原則として、入院又は入院に準じた状況で、単回投与試験及び反復投与試験により、薬理作用、薬物動態、有害事象及び忍容性を検討する。抗狭心症薬の場合は健康な者でも薬理作用が認められるため、薬理作用の評価も目的とすることがある。その際は、必要に応じてプラセボないし対照薬を用いて無作為化二重盲検法を利用した比較試験を実施すれば、より的確な情報を得ることができる。また、被験者の安全性確保のために試験実施計画書に試験中止基準を明示しておく。

1) 投与量

非臨床試験成績から推定された安全な最低用量(例えば、最も感受性の高い動物における反復投与毒性試験での無影響量の1/60)の単回投与から開始し、安全性を確認しながら用量を漸増した単回投与を行う。ついで将来予想される用法、用量を考慮し、少なくとも血中濃度が定常状態に達するまで反復投与試験又は持続投与試験を行う。一般的に反復投与試験の場合は、1週間程度であるが、特別の場合にはより長期の投与が必要となる。

2) 観察項目

適切な間隔をおいて、自覚症状、他覚所見、検査所見につき異常の有無を詳細に検討する。非臨床試験において、毒性の標的臓器が示唆されている場合には、この点に関して特に注意深い観察が必要である。

早期の単回投与における薬物動態学的、薬力学的諸指標の検討は、増量及び反復投与試験の計画を容易にする。反復投与時の薬物血中濃度の測定は治験薬の薬物動態学的及び薬力学的な特性を知るために役立つ。心拍数、血圧、心電図、心エコー図、その他の循環動態の諸指標を詳細に観察することは、非臨床試験の成績と対応させて、治験薬の薬理学的特性を明らかにするために役立つ。

5.評価

第Ⅰ相試験から第Ⅱ相試験に進むにあたり、病態を考慮した上での治験薬反復投与時の妥当な投与方法と用量の予想、発現する可能性のある副作用及び臨床検査値異常変動の種類と程度、薬物動態学的及び薬力学的指標の概要等についての情報が必要である。非臨床試験成績と第Ⅰ相試験成績とが大きく相違する場合には、あらためて非臨床試験に立ち戻る必要もある。

Ⅲ―2 安定労作狭心症に対する抗狭心症薬の薬効評価法

安定労作狭心症患者を対象として、運動負荷試験を用い運動耐容量(最大運動時間)改善効果、抗心筋虚血効果を検討し、これらを主要評価項目として薬効評価を行う。また、狭心症発作回数と発作状況及びそれに関連したQOLを含む生活習慣の変化、即効性硝酸薬の使用量の推移に関する検討は副次評価項目として使用できる。

試験方法としては、無作為化二重盲検法による用量の決定及び対照薬との比較試験を行う。なお、治験薬の有効性、安全性を示し、更に試験方法の妥当性を検討するため、後期第Ⅱ相試験(用量―反応試験)又は第Ⅲ相試験(検証的試験)のいずれかにおいてプラセボを対照とした無作為化二重盲検比較試験を行う。

1.運動負荷方法

抗狭心症薬の効果を判定するための運動負荷方法には様々な方法があるが、最も一般的なトレッドミル法を用いる。そのプロトコルとしては標準Bruceプロトコルを用いるのが一般的である。

2.対象

前記の狭心症診断基準及び以下の対象患者選択基準を満たすものを対象とする。

1) 対象患者選択基準

(1) 安定労作狭心症の診断基準に適合する。

(2) トレッドミル運動負荷試験において、標準Bruceプロトコルでは運動開始後3~7分で典型的な中等度の胸痛(中等度の胸痛:日常生活において患者が動作を止めようとする強さ)を示し、かつ心電図に有意なST下降を示す。

なお、有意なST下降がみられない症例でも、運動開始後3~7分で典型的な中等度の胸痛のために運動を終了し、かつ以下の4項目中1項目以上を満たす場合は対象としうる。

a.冠動脈造影による有意な器質的冠動脈病変の証明

b.負荷心筋シンチグラムにて再分布を認める

c.負荷心エコー図又は負荷心プールシンチグラフィーにて局所的な壁運動異常が出現する

d.心筋梗塞の既往

なお、対象群の選択に際しては、運動耐容量(最大運動時間)改善効果の他に、治験薬の抗心筋虚血効果を評価するため、運動負荷試験の指標(同一運動時間のST下降度、1mmST下降到達時間等)の評価が出来るよう考慮する。

(3) 運動負荷試験における中等度胸痛の発現時間に再現性がある。試験薬剤の使用開始前の観察期に2回トレッドミル運動負荷試験を行い、中等度胸痛発現時間の差が±15%以内であることが望ましい。

2) 除外を要するものあるいは好ましくないもの

(1) 試験遂行の安全性に問題を生じるおそれのあるもの。例えば、

a.病態が重篤、不安定なもの

b.妊娠している可能性のある女性、妊婦、授乳中の女性等

(2) その他試験の対象として不適格と思われるもの

3.観察項目

1) 運動耐容量(最大運動時間)

運動耐容量(最大運動時間)改善効果を検討するため、治療期においても中程度の胸痛を運動負荷中止理由とすることを原則とする。しかし、治療期の運動負荷試験において胸痛の発現以前に、息切れ、下肢疲労等の症候限界が認められた場合には負荷を中止しうる。

2) 抗心筋虚血効果を示す指標

治験薬の抗心筋虚血効果を評価するため、運動負荷試験の指標(同一運動時間のST下降度、1mmST下降到達時間等)を検討する。

3) 狭心症発作状況及び即効性硝酸薬使用量

狭心症発作回数と発作状況及びそれに関連したQOLを含む生活習慣の変化、即効性硝酸薬の使用量の変化を観察期と治療期で検討する。

4) 身体所見及び臨床検査

心拍数(脈拍数)、血圧等の身体所見を記録する。胸部X線(心胸比)、安静時(非発作時)心電図、必要な血液、尿検査を実施する。異常が生じた場合には、必要な処置をとり追跡検査及び観察を行う。

5) 安全性

有害事象発現の有無、程度や臨床検査所見により安全性を検討する。

6) 薬物動態

治験薬の血中濃度を経時的に測定し、薬物動態と狭心症に対する有効血中濃度を推定する。

4.評価

治験薬の有効性は、運動負荷試験による運動耐容量(最大運動時間)及び抗心筋虚血効果を示す指標を主要評価項目として評価する。狭心症発作回数と発作状況及びそれに関連したQOLを含む生活習慣の変化、即効性硝酸薬の使用量の変化を副次評価項目として使用できる。安全性は有害事象発現の有無、程度や臨床検査所見により評価する。

Ⅲ―2―1 第Ⅱ相試験

第Ⅰ相試験で、ヒトについての安全性を確認した後、安定労作狭心症患者を対象とし、治験薬の抗狭心症薬としての有効性、安全性、用法、用量等について検討することを目的とする。第Ⅱ相試験は、初めて治験薬を狭心症患者に投与し、効果の有無、用量―反応の初期的推測、安全性を検討する前期試験(探索的試験)と、用量の検討を主とする後期試験(用量―反応試験)に分けられる。

1.前期第Ⅱ相試験(探索的試験)

1) 目的

前期第Ⅱ相試験は、第Ⅰ相試験終了後に初めて治験薬を狭心症患者に投与する段階であり、治験薬の有効性、用量―反応の初期的推測、投与回数、安全性についての検討を行う。

2) 試験担当者

狭心症に関して十分な臨床経験を有し、また抗狭心症薬の薬効評価に精通している専門医が担当し、試験を遂行するのに必要な機器及び体制が完備された医療機関において行う。

3) 対象

Ⅰの狭心症診断基準及び対象患者選択基準を満たす安定労作狭心症患者を対象とする。なお、初期の試験であるため、十分な情報を得られるよう頻繁に観察できる患者であることが必要である。

4) 試験方法

用量漸増デザインを用いた用量比較試験を行う。一定の観察期間(原則として1~2週間)をおいた後、治験薬を投与し、必要な項目を観察する。

① 投与量

第Ⅰ相試験の結果に基づいて推定最小有効量から開始し、おおよその用量―反応関係が得られるまで増量する。最大用量は第Ⅰ相試験で検討された用量を超えない。必要な場合は第Ⅰ相試験に戻り試験を追加する。安全性の面から健康な者には投与できないが、患者では有効性が期待できるより高い用量まで増量したい時は、第Ⅰ相試験と同様な体制で慎重に患者に投与する。

② 投与期間

投与期間は治験薬の薬理学的及び薬物動態学的特性により定める。

③ 症例数

統計的に妥当な結果を導き出せる例数とする。

④ 観察項目

Ⅲ―2に示す観察項目を参考として検討する。

⑤ 併用薬

治験薬の有効性及び安全性の評価に影響を及ぼす薬剤は併用しない。

2.後期第Ⅱ相試験(用量―反応試験)

1) 目的

後期第Ⅱ相試験では、用量―反応関係を明確にし、第Ⅲ相試験で用いる用量を決定する。また、より多くの患者について治験薬の有効性と安全性を明らかにする。

2) 試験担当者

狭心症に関して十分な臨床経験を有し、また抗狭心症薬の薬効評価に精通している専門医が担当し、試験を遂行するのに必要な機器及び体制が完備された医療機関において行う。

3) 対象

Ⅰに示す狭心症診断基準及び対象患者選択基準を満たす安定労作狭心症患者を対象とする。

4) 試験方法

無作為化二重盲検法を用いた固定用量並行群間比較デザインによる比較試験を行う。一定の観察期間(原則として1~2週間)をおいた後、治験薬を投与し、必要な項目を観察する。

① 投与量

前期第Ⅱ相試験の成績に基づいて、適当と推定された範囲の用量(3用量以上の比較試験が望ましい)、用法を用いる。必要に応じてプラセボを対照薬として用いる。

② 投与期間

投与期間は治験薬の薬理学的及び薬物動態学的特性により定める。

③ 症例数

統計的に妥当な結果を導き出せる例数とする。

④ 観察項目

Ⅲ―2に示す観察項目を参考として検討する。

⑤ 併用薬

治験薬の有効性及び安全性の評価に影響を及ぼす薬剤は併用しない。

Ⅲ―2―2 第Ⅲ相試験(検証的試験)

1) 目的

第Ⅲ相試験は、後期第Ⅱ相試験により明確にされた用量、用法に基づいて、治験薬の有効性、安全性を評価する。

2) 試験担当者

狭心症に関して十分な臨床経験を有し、また抗狭心症薬の薬効評価に精通している専門医が担当し、試験を遂行するのに必要な機器及び体制が完備された医療機関において行う。

3) 対象

Ⅰに示す狭心症診断基準及び対象患者選択基準を満たす安定労作狭心症患者を対象とする。

4) 試験方法

標準薬又は必要によりプラセボを対照とし、無作為化二重盲検法を用いた固定用量並行群間比較デザインによる比較試験を行う。一定の観察期間(原則として1~2週間)をおいた後、治験薬を投与し、必要な項目を観察する。

① 投与量

後期第Ⅱ相試験の成績に基づいて、適当と推定された範囲の用量、用法に従う。

② 投与期間

投与期間は治験薬の薬理学的及び薬物動態学的特性により定める。

③ 症例数

統計的に妥当な結果を導き出せる例数とする。

④ 観察項目

Ⅲ―2に示す観察項目を参考として検討する。

⑤ 対照薬

標準薬又は必要によりプラセボを用いる。標準薬の選択にあたっては、わが国で広く用いられ、臨床評価が確立しているものとする。また、科学的、薬理学的類似性及び臨床的適応の類似性についても考慮する。(なお、平成13年2月27日付け医薬審発第136号厚生労働省医薬局審査管理課長通知「臨床試験における対照群の選択とそれに関連する諸問題について」を参照すること)

⑥ 併用薬

治験薬の有効性及び安全性の評価に影響を及ぼす薬剤は併用しない。

Ⅲ―3 その他の狭心症に対する抗狭心症薬の薬効評価法

1.異型狭心症を対象とする試験

安定労作狭心症を対象とした試験に付随して、異型狭心症にも有効と考えられる薬剤は、異型狭心症を対象として、安定労作狭心症とは別の臨床試験を行う。

1) 目的

安定労作狭心症に対する臨床試験により明確にされた用量、用法に基づいて、異型狭心症を対象として治験薬の有効性、安全性を客観的に評価する。

2) 試験担当者

狭心症に関して十分な臨床経験を有し、また抗狭心症薬の薬効評価に精通している専門医が担当し、試験を遂行するのに必要な機器及び体制が完備された医療機関において行う。

3) 対象

前記の狭心症診断基準、及び、以下の対象患者選択基準を満たすものを対象とする。

『対象患者選択基準』

以下のa及びbの基準を満たすものを対象とする。

a.狭心症発作時にST上昇が確認された症例、あるいは冠攣縮誘発試験にて胸痛とともに一過性ST上昇を伴う冠攣縮が証明された症例

b.1日1回以上の発作が1週間以内に3日以上発生した症例

4) 試験方法

標準薬を対照として無作為化二重盲検法を用いた用量漸増デザイン、又は固定用量並行群間比較デザインによる比較試験を行う。数日間~1週間の観察期間をおいた後、治験薬を投与して、必要な項目を観察する。標準薬の選択にあたっては、わが国で広く用いられ、臨床評価が確立しているものとする。また、薬理学的類似性及び臨床的適応の類似性についても考慮する。

① 投与量

安定労作狭心症に対する試験の成績に基づいて、適当と推定された範囲の用量(3用量以上の比較試験が望ましい)、用法を用いる。最大用量は第Ⅰ相試験で検討された用量を超えない。それ以上の用量が必要と思われる場合には、第Ⅰ相試験に戻るが、健康な者では安全性の面で投与できない場合には、第Ⅰ相試験と同様の体制で慎重に患者に投与する。

② 投与期間

観察期に発作が1週間以内に3日確認されれば直ちに治療期に入ってよい。治療期は1週間以上とする。

③ 症例数

統計的に妥当な結果を導き出すことができる例数とする。

④ 観察項目

自覚症状による自然発作回数、ホルター心電図による一過性ST上昇の回数を観察する。

⑤ 併用薬

治験薬の有効性及び安全性の評価に影響を及ぼす薬剤は使用しない。

⑥ 評価

a.自覚症状による自然発作回数の推移を主要評価項目とする。

b.ホルター心電図におけるST上昇回数の推移は副次評価項目として使用できる。

c.安全性の評価のため、有害事象発現や身体所見、臨床検査所見を検討する。

2.不安定狭心症を対象とする試験

不安定狭心症の患者は病状が急速に進展して急性心筋梗塞、急性心不全、突然死等を生じる危険が大きく、単一な病態でないため安定した状態にある患者と同じ試験の対象とすることに問題がある。試験にあたっては対象患者を入院させて行い、治験薬にも様々な特性を有する薬剤の有効性が考えられるため、個々の薬剤の特性に応じた試験方法、観察項目及び評価法で実施することが妥当である。無作為化二重盲検法による比較試験が望ましい。

また今後、重症冠動脈疾患(重症狭心症、虚血性心筋症を含む)に対する新たな治療法の開発が予想される。様々な特性を有する薬剤が想定されるため、個々の薬剤の特性に応じた試験方法、観察項目及び評価法が必要となる。なお、個々の組織を利用した医薬品等を用いる場合には、治験前に平成11年7月30日付け医薬発第906号厚生省医薬安全局長通知「細胞・組織を利用した医療用具又は医薬品の品質及び安全性の確保について」に従い、確認申請を行う必要がある。また、ヒト由来細胞・組織加工医薬品等の品質及び安全性の確保に関する指針(平成12年12月26日付け医薬発第1314号厚生省医薬安全局長通知「ヒト又は動物由来成分を原料として製造される医薬品等の品質及び安全性確保について」)を参照すること。

Ⅲ―4 追加試験

以下の臨床試験を必要に応じて後期第Ⅱ相以降に計画し実施することがある。

1) 高齢者における試験

高齢者における薬剤の用量、用法の設定は非高齢者と同一でないことも考えられるので、必要に応じて高齢者に対する推奨用量、用法を検討することが望ましい。(なお、平成5年12月2日付け薬新薬第104号厚生省薬務局新医薬品課長通知「高齢者に使用される医薬品の臨床評価法に関するガイドライン」を参照すること)

なお、高齢者の安定労作狭心症患者を対象として抗狭心症薬の薬効評価を行う場合には、必要に応じて標準Bruceプロトコル以外の運動負荷試験プロトコルを用いる等試験方法の一部を変更することができる。

2) その他

(1) 臨床で頻回に併用されると予想される薬物との併用試験

(2) 心機能低下、腎機能障害、肝機能障害等の合併症を有する患者での臨床試験

Ⅲ―5 長期投与試験

長期投与試験では、治験薬の長期投与の安全性、有効性の確認が重要である。長期投与試験は、後期第Ⅱ相試験以降に実施される。

1) 目的

治験薬の安全性、有効性をより多数例において、また長期にわたって検討する。

2) 試験担当者

狭心症に関して十分な臨床経験を有し、また抗狭心症薬の薬効評価に精通している専門医が担当し、試験を遂行するのに必要な機器及び体制が完備された医療機関において行う。

3) 対象

Ⅰに示す狭心症診断基準を満たし、主治医が長期投与試験に適していると判断した患者を対象とする。

4) 試験方法

治験薬を投与し、一般的には非盲検法により必要な項目を観察する。

① 投与量

後期第Ⅱ相試験で有効と判定された用量、用法を用いる。

② 投与期間

6ヶ月以上の投与期間が必要である。

③ 症例数

6ヶ月以上の投与例が少なくとも300例、あるいは1年以上の投与例が少なくとも100例が望ましい。(平成7年5月24日付け薬審第592号厚生省薬務局審査課長通知「致命的でない疾患に対し長期間の投与が想定される新医薬品の治験段階において安全性を評価するために必要な症例数と投与期間についてのガイドライン」を参照すること)

④ 観察項目

発作回数、経過中の心血管系イベントの有無、安全性等を観察項目として観察する。自覚症状は、少なくとも4週間間隔で評価し、適当な間隔で臨床検査を行い異常の有無を調査する。

⑤ 併用薬

他の抗狭心薬を基礎治療薬として使用することはできるが、併用薬の種類、用法、用量を記載する。

5) 評価

発作回数、経過中の心血管系イベントの有無、安全性等を評価する。途中中止例、脱落例について十分な検討を行う必要がある。

Ⅲ―6 市販後調査

市販後には、対象を広げた多くの患者で薬剤の安全性と有効性を確認する。また、安全性と有効性の評価は承認前の臨床試験と同等以上の判定基準にもとづいて行う。

1.使用成績調査

薬剤が使用された患者について安全性と有効性に関する情報を得る。その際、多数の症例について十分な期間の長期使用による経験が重要である。

2.特別調査

長期使用、特別な集団(重篤な病態にあるもの、諸種の合併症や多臓器障害をもつもの、超高齢のもの、小児、妊婦、産婦等、また、諸種の併用薬を使用中の状態)について安全性と有効性を確認する。

3.市販後臨床試験

使用成績調査、特別調査、あるいはその他の検討において、得られた推定等を検証する目的で行う。特定の観察項目について、承認前の臨床試験に準拠して行うものである。

Ⅳ 効能、効果の記載

治験薬の効能、効果は第Ⅲ相試験を行い有効性と安全性が認められた狭心症の病型に限り記載するのが適当である。安定労作狭心症の他に、異型狭心症、不安定狭心症に対する試験を行い、それらに対する有効性と安全性が確認された場合には、効能、効果に「異型狭心症」、「不安定狭心症」を追加できる。

文献

1) 抗狭心症薬の臨床評価法に関するガイドライン。抗狭心症薬の臨床評価法に関する研究班1985.5.新薬臨床評価ガイドライン.日本公定書協会編、薬事日報社1985;144―156.

2) Guidelines for the clinical evaluation of anti-anginal drugs.1977.HEW(FDA)78―3047.

3) Guidelines for the clinical evaluation of anti-anginal drugs.(Draft,1989,FDA.)

4) Note for guidance on the clinical evaluation of anti-anginal medical products in stable angina pectoris.1996.CPMP/EWP/234/95.

5) 厚生省令第28号医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令.平成9年3月27日.

6) 厚生省医薬安全局審査管理課長通知医薬審第380号「臨床試験の一般指針」について.平成10年4月21日.

7) 厚生省医薬安全局審査管理課長通知医薬審第1019号「医薬品の臨床試験のための非臨床安全性試験の実施時期についてのガイドライン」について.平成10年11月13日.

8) 厚生省医薬安全局審査管理課長通知医薬審第1047号「臨床試験のための統計的原則」について.平成10年11月30日.

9) 厚生省薬務局審査課長通知薬審第494号「新医薬品の承認に必要な用量―反応関係の検討のための指針」について.平成6年7月25日.

10) 厚生省薬務局審査課長通知薬審第592号致命的でない疾患に対し長期間の投与が想定される新医薬品の治験段階において安全性を評価するために必要な症例数と投与期間についてのガイドライン.平成7年5月24日.

11) 厚生省薬務局新医薬品課長通知薬新薬第104号「高齢者に使用される医薬品の臨床評価法に関するガイドライン」について.平成5年12月2日.