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○冠動脈ステントの承認申請に係る取扱いについて

(平成15年9月4日)

(薬食審査発第0904001号)

(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)

医療用具の製造又は輸入の承認申請に際し添付すべき資料については、平成11年7月9日付け医薬発第827号厚生省医薬安全局長通知「医療用具の承認申請について」及び平成11年7月9日付け医薬審第1043号厚生省医薬安全局審査管理課長通知「医療用具の承認申請に際し留意すべき事項について」に規定されている。

今般、冠動脈ステントの承認申請にあたって、有効性、安全性を確保するために必要と考えられる添付すべき資料の範囲及び承認申請書の記載内容を下記のとおりとりまとめたので、申請にあたって留意するよう、貴管下関係業者に対し指導方御配慮願いたい。

なお、下記に挙げた事項はあくまで基本を示したものであり、品目の特性に応じて、資料や記載事項の追加が必要である場合、不要な項目がある場合があることを念のため申し添える。

おって、本通知の写しを財団法人医療機器センター理事長、日本医療機器関係団体協議会会長、在日米国商工会議所医療機器小委員会委員長及び欧州ビジネス協議会医療機器委員会委員長あて送付することとしている。

1 添付すべき資料について

有効性、安全性を確保するために必要と考えられる添付すべき資料の範囲は以下のとおりであること。原則として、滅菌済み最終製品で試験を行うこととし、ステントをデリバリーシステムにマウントした状態若しくはデリバリーシステムにて拡張されたステントに対して試験を行うこと。

(1) 物理的化学的性質並びに規格及び試験方法等に関する資料

1) 原材料について

原材料の組成、性状に関し、以下の項目について明らかにすること。

ア 化学的分析、不純物の限度、走査型電子顕微鏡検査(不正形状、表面汚染)等

イ 機械的特性(耐力、引張強さ、伸び等)

2) ステント自体について

ア 外観、表面性状並びに寸法

イ 溶出物(参考:JIS T 0304金属系生体材料の溶出試験方法)

ウ 耐食性

イ溶出物及びウ耐食性については、原材料のみならず、加工法によっても特性が異なる場合があるため、原則としてステント自体を用いて試験を実施すること。ただし、表面処理及びその他の特性についてステント自体と同一の条件を有する場合には、原材料検体を使用してもよいこと。

エ 拡張後のフリー(オープン)エリア

推奨拡張圧(Nominal Pressure)で拡張時、ステントストラット(支柱)が形成する格子構造(セル)単位あたりの血管がステント原材料によって覆われない面積。

オ 拡張前後のステント長変化率

展開前のデリバリーシステムに装着された状態のステントと、展開後のステントの長さを測定し、寸法の変化率を求める。

カ 展開均一性

展開したステントの両端と中央部の外径を測定し、ステントが全長を通して、意図する径まで均一に展開していることを確認する。

キ ラディアルフォース

ステントの半径方向の強度を測定する。

ク リコイル試験

推奨拡張圧(Nominal Pressure)でステントを展開し、バルーンを収縮させる前と後でのステント径を測定し、ステント径の弾性リコイル(収縮)率を求める。

ケ 最大拡張による亀裂検査

コ MRIに対する影響

植え込まれたステントが及ぼすMRI施行時の発熱、アーチファクト(磁場干渉)等の影響について評価すること。既承認類似品と同原材料(ステンレススチール等)を用いており、ステント植込み部位の内皮化の特性などMRIに対する影響が既知の場合にあっては、文献等の考察により、申請品目を用いての試験実施に変えてもよい。

3) ステントとデリバリーシステムについて

ステントとデリバリーシステムに関し、以下の項目について明らかにすること。

ア 最大圧力

最大拡張圧(RBP、Rated Burst Pressure)以下でのバルーンの破裂、各部の漏れ・破断等が99.9%ないことを信頼度95%にて統計的に証明する。

イ ステント拡張後のステント内径(それぞれのバルーンとステントの組合わせについて、推奨拡張圧で拡張したときのステントの内径)

推奨拡張圧(Nominal Pressure)にて拡張したときのステント内径を測定する。

ウ 接合強度

接着その他の結合が施されている各接合部の強度を測定する。

エ バルーン収縮性

推奨された手順にてバルーンが確実に収縮されることを確認する。また、拡張したステントから収縮したバルーンが抜去できることを確認する。

オ バルーンの拡張、収縮時間

推奨された手順にて規定された時間内にバルーンが拡張、収縮することを確認する。

カ 先端の引張強さ

カテーテル先端部の接合部あるいは材料自身の強度を確認する。

キ ステントクリンプ(ステントがデリバリーカテーテルにマウントされていない場合)

クリンプの過程でステントやカテーテルに損傷を与えないことを確認する。

ク クロッシングプロファイル

ステントマウント部のプロファイルを測定する。

ケ ステント保持強度

ステントがデリバリーカテーテル上に保持されることを確認する。

コ キンク試験

規定された曲率半径においてデリバリーカテーテルがシャフトのキンクを生じないことを確認する。

サ ダイレクトステンティング

シ エックス線不透過性

高分解能エックス線装置を用いてエックス線不透過度を確認する。既承認類似品と同原材料(ステンレススチール等)を用いており、エックス線不透過性が既知の場合にあっては、文献等の考察により、申請品目を用いての試験実施に変えてもよい。

ス 柔軟性の写真

規定された圧力にて拡張したステントを規定された曲率半径に曲げたときの写真を撮影する。

セ デリバリー準備試験

パッケージ開封後、挿入前までの準備が問題なくできることを確認する。

ソ バルーンの疲労試験

規定された圧力にてバルーンを拡張させたときのバルーンの耐久性を確認する。

(2) 安定性に関する資料

1) 安定性

既にその安定性が十分確認されているもの以外のものにあっては、実際に貯蔵される状態及び苛酷条件での保存における経時変化等安定性に関する試験を行い、その結果に基づき適切な貯蔵方法及び有効期間を設定すること。

(3) 生物学的安全性に関する資料

平成7年6月27日付け薬機第99号厚生省薬務局医療機器開発課長通知「医療用具の製造(輸入)承認申請に必要な生物学的試験のガイドラインについて」に準じて生物学的安全性に関し、明らかにすること。

(4) 性能に関する資料

1) 動物を用いた試験

動物を用いた埋め込み試験を行い、性能について明らかにすること。

① 一般的留意事項

ア 動物種の選択にあたっては、感受性等の評価が確立されており、人への外挿性の観点を考慮すること。(ブタは適切な動物の一種として推奨される。)

イ 臨床を想定した抗凝固療法を実施し、その詳細を記録すること。

ウ 有効性、安全性を検証する上で、術前、術後及び経過観察時の血管状態を詳細に確認し、内皮形成、内膜肥厚、血管径の変化や血管壁の損傷、埋め込み部位から遠位の塞栓の状況等についても明確に説明すること。

エ 少なくとも最大径と最小径でそれぞれの最長ステントについて、また、最長のものがこれらと同一ではない場合は、最長のものの径について試験を実施すること。

② 観察項目

ア 血管の内径(留置前、留置後、フォローアップ時)

イ ステントの形状の実測値(長さ、拡張後直径、拡張圧等)

ウ ステントとデリバリーシステムの性能に関する評価

使用前の準備操作性の確認、併用する他の医療機器との適合性、プッシュアビリティー(デリバリーシステム近位部に加えた力が遠位部に均等且つ滑らかに伝わること)、トラッカビリティ(ステントをマウントしたデリバリーシステムが狭窄部を含む血管内に追従しガイドワイヤー上を前進すること)、柔軟性(ステントをマウントしたデリバリーシステムが挿入時に要求される屈曲や角度に応じて曲がり、またステントは血管走行に沿った状態で留置されること)、放射線不透過性、使用後のデリバリーシステムの損傷の有無について評価すること。

エ 留置後の血流、塞栓の有無、血圧や心電図の変化

オ 組織病理学的所見

2) ステント自体の耐久性

ア 最悪の生理的負荷を受けたときの最大ストレスを同定する有限要素解析又はその他のストレス解析。(残存ストレス量を求め、安全係数を算出する際に詳細を明らかにしなければならない。この解析は埋植寿命の間にステントの疲労破損が起こらないことを証明するものでなければならない。)

イ 10年分の拍動(約4億回)に相当する加速試験を示すこと。この際、統計学的に十分な数を用いて、直径を最大まで広げ、血管の状況を反映したものとすること。

(5) 臨床試験の試験成績に関する資料

1) 基本的な考え方

ア 冠動脈ステントの治験を実施する際には、原則として既承認品との無作為化比較試験を実施すること。

イ 新規材料を用いたもの、新規デザインのもの、薬剤や放射活性物質をコーティングしたものなどで新規性の高いものについては、その特徴に応じ有効性、安全性を担保するための評価項目を追加すること。また、その際には、より長期の試験が求められることがあること。

ウ 主要評価項目の設定とその有効性、安全性の判断基準や用いる症例数等については、治験計画届書及び承認申請資料で設定根拠を明らかにすること。また、評価項目の統計的な処理についても方法の妥当性を説明すること。

エ ステントの材料、基本デザイン、留置方法、径、長さ、性能指標等から既承認のステントとの類似性が高いと判断されるものにあっては、それぞれの対象患者におけるhistorical controlを利用した一群のみの試験の実施も可能であること。この場合の試験の患者背景、評価項目、観察期間、症例数等についてはhistorical controlと比較が可能なものとすること。なお、類似性が高いと判断した根拠、historical control選定の妥当性については、治験計画届書の添付資料や申請資料の中で証明すること。

オ 治験にあたっては、申請上最も径が細く長いステントについても、十分な症例数を実施し、主たる評価項目(1の(5)の3)の①のオ及びキ、1の(5)の3)の②のカ等)毎にステントの各々の径と長さの組み合わせについて実施された症例数及び試験成績の一覧表を添付すること。

カ 小血管、病変長の長い病変へのステントの使用については、一般に再狭窄率が高いことが知られているので、使用目的を十分に考慮し、適切な臨床試験を設定する必要があること。

2) 観察項目

各背景と治験のスケジュール時期において観察が必要と考えられる項目を参考として示す。

① 患者背景

イニシャル(または識別番号)、年齢、性別

治療を必要とする高血圧の有無、治療を必要とする糖尿病の有無、高コレステロール血症(高脂血症)の有無、喫煙歴、家族の虚血性心疾患歴の有無

カナダ心臓病学会による狭心症の状態:CCS4・CCS3・CCS2・CCS1・狭心症の症状なし(CCS 0)

心筋梗塞歴、PTCA歴、CABG歴

心電図所見

② 病変背景

病変の種類(ネイティブ冠動脈、グラフト血管)

病変の部位

狭窄の履歴(de novo・再狭窄・ステント内再狭窄)

ACC/AHA病変タイプ(タイプA・タイプB・タイプC)

③ 手技記録

手技日

留置ステント数、ステント長・径

使用バルーンカテーテルのバルーン長・径・最大圧力

併用薬(抗凝固薬、抗血小板薬、心臓関連薬)

手技直前血管造影(最小血管径(mm)、対照血管径(mm)、径狭窄度(%)、病変長(mm))

術後血管造影(最小血管径(mm)、対照血管径(mm)、径狭窄度(%))

有害事象

④ 退院時

狭心症の状態

併用薬(抗凝固薬、抗血小板薬)

術後退院までの有害事象

心電図所見

⑤ 術後1ケ月

併用薬(抗凝固薬、抗血小板薬)

退院後術後1ケ月までの有害事象

⑥ 術後6ケ月

併用薬(抗凝固薬、抗血小板薬)

術後1ケ月以降に発現した有害事象

新規または再狭窄冠動脈病変の場合は、血管造影(最小血管径(mm)、対照血管径(mm)、径狭窄度(%))

3) 評価項目

有効性及び安全性を評価するために、少なくとも以下の評価項目は必要であると考えられること。妥当である場合には各項目の定義の変更が可能であるが、試験実施前に治験実施計画書で定義しておくこと。

なお、再狭窄の測定については、施設間格差をなくすため、特定の施設において全ての症例の測定を行うことが望ましいこと。

① 有効性に関する評価項目

ア 技術的成功率:指定された機器のみを用いて、デリバリーに問題が発生することなく、指定されたステントを標的病変に留置でき、定量的冠動脈造影による残存狭窄度(病変の最小部径(mm)を対照血管径(mm)で除したもの(%))が50%未満を達成できた症例の割合

イ 手技的成功率(定量的冠動脈造影による手技終了時の径狭窄度が50%未満で、入院中に主要心事故(死亡(明らかに冠動脈虚血以外のものを除く)・心筋梗塞・TLR(Target Lesion Revascularization:標的病変の再血行再建術で、緊急冠動脈バイパス術によるものを含む)をいう。)の発生がなかった症例の割合(%)。

ウ 術直後の残存狭窄度

a) 平均値±標準偏差

b) 範囲(最小値、最大値)

エ 術後6ケ月後のステント内狭窄度

a) 平均値±標準偏差

b) 範囲(最小値、最大値)

オ 術後6ケ月間に発生した再狭窄症例(ステント内径狭窄度が50%以上)の発生率(%)

カ 術後6ケ月間のTLRのあった症例の割合

キ 術後6ケ月間のTVF(Target Vessel Failure:標的血管不全、(死亡(明らかに冠動脈虚血以外のものを除く)・心筋梗塞・標的血管の再血行再建術(緊急冠動脈バイパス術によるものを含む)をいう。))のあった症例の割合。

② 安全性に関する評価項目

ア 入院中の有害事象発生率:入院中に、死亡、心筋梗塞、緊急冠動脈バイパス術、TLR、ステント血栓あるいは脳卒中が見られた症例の割合

イ 退院後の有害事象発生率:退院後に、死亡、心筋梗塞、緊急冠動脈バイパス術、TLR、ステント血栓あるいは脳卒中が見られた症例の割合

ウ 出血性有害事象発生率

エ 血管性有害事象発生率

オ ステント血栓発生率:血管造影によって、ステント留置血管内に血栓あるいは亜急性閉塞が認められたもの、あるいは、血管造影によってステントの開存が確認されていない症例に認められた術後30日以内の死亡で冠動脈虚血が否定できない症例の割合。

カ 術後6ケ月間に見られた主要心事故のあった症例の割合。

キ 術後の入院日数

a) 平均値±標準偏差

b) 範囲(最小値、最大値)

ク ステントデリバリーの不成功率(脱落を含む)

ケ 術後6ケ月間に見られた非Q波心筋梗塞のあった症例の割合(初期(入院中)、退院後)

コ 術後6ケ月間に見られたQ波心筋梗塞のあった症例の割合(初期(入院中)、退院後)

サ 術後6ケ月間に見られた緊急冠動脈バイパス術のあった症例の割合(初期(入院中)、退院後)

シ 術後6ケ月間に見られたステント血栓のあった症例の割合(初期(入院中)、退院後)

ス 術後6ケ月間に見られた死亡症例の割合(初期(入院中)、退院後)

セ 術後6ケ月間に見られた出血性有害事象のあった症例の割合

ソ 術後6ケ月間に見られた血管性有害事象のあった症例の割合

タ 術後6ケ月間に見られた脳血管障害のあった症例の割合

2 承認申請書の作成上の留意事項について

承認申請書の各欄については、原則として以下の事項を記載するほか、ステントのデリバリーシステムのうち、バルーンカテーテルについては、平成10年10月26日付け審査実務連絡No.98―2厚生省医薬安全局審査管理課事務連絡「カテーテル類の承認申請書の作成上の留意事項について」に沿ったものとすること。また、これ以外にも製品の特性に応じ必要な事項を記載すること。

(1) 「形状、構造及び寸法」欄

ア 形状、構造(パターン図、ステント拡張前後の形状図、溶接部の図示等)

イ 寸法(長さ、径:ステント拡張前のステント外径及び拡張後のステント内径または外径、厚み、幅等)

(2) 「原材料」欄

形状、構造及び寸法欄において記載した内容との対応関係が明確となるように、原材料、成分及び分量等を正確に記載し、その規格を明らかにすること。

(3) 「性能、使用目的、効能又は効果」欄

1) 性能

ア デリバリーシステム引張強度

イ デリバリーシステム接合部強度

ウ デリバリーシステム推奨拡張圧(Nominal pressure)

エ デリバリーシステム最大拡張圧(Rated Burst Pressure)

オ 拡張前後のステント長変化率

カ ラディアルフォース

キ リコイル率

ク バルーンの拡張、収縮時間

ケ ステント保持強度

コ 拡張後のフリー(オープン)エリア

2) 使用目的、効能又は効果

原則として実施された臨床試験成績に応じ、次の例に準じ記載することとする。

「対照血管径が○○mmから○○mmの範囲にあり、新規または再狭窄冠動脈病変(病変長○○mm以下)を有する症候性虚血性疾患患者の治療(インターベンション治療の不成功に伴う急性若しくは切迫閉塞の治療を含む)。ただし、対照血管径が○○mm若しくは病変長が○○mm以上○○mm以下のものについては、インターベンション治療の不成功に伴う急性若しくは切迫閉塞の治療に限定する。」

(4) 「規格及び試験方法」欄

ア 外観、寸法

イ デリバリーシステム引張強度

ウ デリバリーシステム接合部強度

エ デリバリーシステム加圧強度及びもれ試験

オ 金属成分の溶出物試験(参考:JIS T 0304金属系生体材料の溶出試験方法)

カ 無菌性に関する試験項目については、平成10年3月31日付け医薬審第347号厚生省医薬安全局審査管理課長通知「滅菌医療用具の製造(輸入)承認申請における滅菌に関する取扱いについて」及び、平成12年7月18日付け医薬審第877号厚生省医薬安全局審査管理課長通知「滅菌医療用具の製造(輸入)承認申請における滅菌に関する取り扱いについて(その2)」に準じること。

キ エンドトキシン試験

ク 腐食試験(参考:JIS T 0305擬似体液中での異種金属間接触腐食試験方法)

ケ 耐食試験(参考:JIS T 0302金属系生体材料のアノード分極試験による耐食性の評価方法)

3 その他

申請資料の作成にあたっては、米国医薬品食品庁医療用具体外診断薬審査センターから出されている「guidance for the submission of research and marketing application for interventional cardiology devices」(1994年5月)も参考にすること。