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○安全性薬理試験ガイドラインについて

(平成13年6月21日)

(医薬審発第902号)

(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬局審査管理課長通知)

医薬品の製造(輸入)承認申請に際し添付すべき資料のうち、薬理作用に関する資料については、平成13年6月21日医薬発第663号医薬局長通知により、改正されたところであるが、今般、別添のとおり「安全性薬理試験ガイドライン」を定めたので、下記事項を御了知の上、貴管下医薬品製造(輸入販売)業者に対する周知方よろしく願いたい。

1 背景

近年、優れた医薬品の国際的な研究開発の促進及び患者への迅速な提供を図るため、承認審査資料の国際的なハーモナイゼーション推進の必要性が指摘されている。このような要請に応えるため、日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)が組織され、その合意に基づき、「安全性薬理試験ガイドライン」(以下「本ガイドライン」という。)が制定された。本ガイドラインは、日・米・EUのそれぞれの薬理試験に関するガイドラインのうち、特に安全性薬理試験に関し、現在の科学技術水準を考慮して相互に受け入れ可能な基準として作成されたものである。

2 本ガイドラインの要点

(1) 本ガイドラインは、薬理試験のうち、安全性薬理試験の試験系の選択及び計画における一般的な指針を示している。なお、副次的薬理試験に関する部分については、平成3年1月29日薬審第4号薬務局新医薬品課長通知の別添「一般薬理試験ガイドライン」を参考として実施すること。

(2) コアバッテリー試験とは、生命維持に重要な影響を及ぼす器官系における被験物質の作用を検討することを目的とする安全性薬理試験をいう。コアバッテリー試験については、原則として、医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準(以下「GLP基準」という。)に従って実施することとする。

3 安全性薬理試験に関する資料に係るGLP基準の取扱い

(1) 国内において、収集、作成された資料について

安全性薬理試験は、原則として、「医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に関する省令」(平成9年3月26日厚生省令第21号。以下「GLP省令」という。)に適合した施設においてGLP省令を準用して実施すること。また、本通知に基づき、GLP省令適合確認施設で実施された安全性薬理試験に関する試験成績を提出する場合には、次に掲げる資料を併せて提出すること。

ア 平成9年3月27日医機発第256号機構理事長通知「GLP適合性調査実施要領等の改正について」に基づく当該試験施設に係る機構のGLP適合確認書(発行日が当該承認申請の日から3年以内(評価Bの場合にあっては、2年以内))の写し

イ 提出された資料がGLP省令第4条から第18条に従って実施された試験に基づき収集、作成されたものであることを証する運営管理者又は試験責任者の陳述書。なお、やむを得ず同各条に適合しない方法、手順等で試験が行われた場合には、当該不適合部分及びその試験全体に及ぼす影響の評価を陳述書に記載すること。

ウ 提出された資料中の試験成績が、最終報告書と整合することを確認したことを証する信頼性保証部門責任者又は指名された担当者の陳述書

(2) 外国において収集、作成された資料について

外国で実施された安全性薬理試験に関する試験成績を提出する場合には、次に掲げる資料を併せて提出すること。

ア 提出された資料がGLP省令第4条から第18条(内容的に同等以上と認められる外国で定められたGLP基準でもよい。)に従って実施された試験に基づき収集、作成されたものである場合には、そのことを証する運営管理者又は試験責任者の陳述書。なお、やむを得ず同各条に適合しない方法、手順等で試験が行われた場合には、当該不適合部分及びその試験全体に及ぼす影響の評価を陳述書に記載すること。

イ 上記アの場合は、当該試験施設が、GLP省令(内容的に同等以上と認められる外国で定められたGLPでもよい。)に従って試験していることを証する当該外国政府機関又はこれに準ずる者の文書

ウ 上記(1)のウ

4 適用期日

平成15年7月1日以降に実施される安全性薬理試験は、本ガイドラインに基づいたものであること。なお、本通知公布日以降、安全性薬理に関する資料を提出する場合には、本ガイドラインに基づいて実施した安全性薬理試験に関する資料を提出すること。

(別添)

安全性薬理試験ガイドライン

1 序論

1.1 ガイドラインの目的

本ガイドラインは医薬品による有害作用から臨床試験参加者及び市販品が投薬されている患者を保護するとともに実験動物並びにその他の資源の不必要な使用を避けるために作成された。

本ガイドラインは安全性薬理試験のための定義、一般原則及び指針を規定する。

1.2 背景

薬理試験はこれまでヒトに使用する医薬品に関する非臨床評価の一部として長年、世界中で実施されてきた。しかしながら、安全性薬理の試験計画、実施に関しては国際的に認められた定義、目的あるいは指針はなかった。(注1)

「安全性薬理試験」という用語は、ヒトにおいて治療薬の使用を支持するために実施すべき試験として「医薬品の臨床試験のための非臨床安全性試験の実施時期についてのガイドライン(M3)」及び「バイオテクノロジー応用医薬品の非臨床における安全性評価(S6)」のICHトピック中に初めて現れた(1,2)。定義や目的を含む安全性薬理試験の詳細は将来の検討課題として残されていた。

1.3 ガイドラインの適用範囲

本ガイドラインは人に用いる新規化学物質及びバイオテクノロジー応用製品に対して一般に適用される。本ガイドラインは場合によっては市販医薬品にも適用される(例えば、有害臨床事象、新たな患者集団もしくは新たな投与経路において、それまで検討されていなかった懸念を引き起こす場合)。

1.4 一般原則

安全性薬理試験を選択並びに実施する時には、合理的な取り組み方を取り入れることが重要である。実施すべき特定の試験およびその計画は医薬品の個々の特性及び使用目的により異なるであろう。科学的に妥当な方法が用いられるべきであり、また、医薬品に適用しうる国際的に認められた方法がある場合には、これらの方法が望ましい。さらに、科学理論に基づいた新しい技術および手法の使用が推奨される。

ある安全性薬理のエンドポイントは、毒性試験、動態試験、臨床試験あるいはその他のデザインに取り入れうる。一方、他のケースにおいては、これらのエンドポイントは特定の安全性薬理試験の中で評価されるべきである。被験物質の有害作用は適切に計画された安全性薬理試験における治療用量の範囲内の曝露で検出しうる場合もあるが、通常の動物毒性試験中で毒性を検出するために用いている観察や方法では明らかにならない場合もある。

1.5 安全性薬理の定義

薬理学的試験は効力を裏づける試験、副次的薬理試験及び安全性薬理試験の3つに分類出来る。

本ガイドラインの目的からすると、安全性薬理試験とは治療用量及びそれ以上の曝露に関連した被験物質の生理機能に対する潜在的な望ましくない薬力学的作用を検討する試験として定義される。(効力を裏づける並びに副次的薬理試験の定義については注2)

ある場合には、被験物質の効力を裏づける薬力学特性並びに副次的薬力学特性に関する情報がヒトに起こりうる有害作用の安全性評価に役立つ場合があり、安全性薬理試験の知見と一緒に考察すべきである。

2 ガイドライン

2.1 試験の目的

安全性薬理試験の目的は1)ヒトの安全性に関連のあると思われる被験物質の望ましくない薬力学的特性を特定すること、2)毒性試験もしくは臨床試験で認められた被験物質の有害な薬力学的もしくは病態生理学的作用を評価すること、3)これまで認められたもしくは危惧される薬力学的有害作用の機序を検討することである。これらの目的に合うような研究計画を明確にし、詳述すべきである。

2.2 安全性薬理試験の選択および計画における一般的配慮

薬理作用は各被験物質の特性により様々であるので、試験は相応に選択、計画されるべきである。次のような要素を配慮すべきである。(列記したもので全てを包括しているわけではない)

(1) 被験物質の治療別分類に関連する作用:作用機序から特定の有害作用が予想されることがある(例として、催不整脈作用は抗不整脈薬に共通した性質である);

(2) 化学構造もしくは治療別分類の要素に関連した有害作用であるが、効力を裏づける薬力学的作用とは関連のないもの(例として、抗精神病薬とQT延長);

(3) 有害作用の可能性を示唆するリガンド結合あるいは酵素の測定についての情報;

(4) 既に実施された安全性薬理試験、副次的薬理試験、毒性試験からの結果もしくはヒトの使用から得られた結果で、ヒトで生じうる有害反応との関連性を立証し、特徴付けるためのさらなる試験を必要とさせるもの;

開発の初期には、試験を上記で述べた点に従って合理的に選択あるいは立案するのに十分な情報(例えば代謝比較)が必ずしも得られていない場合がある;そのような状況では、安全性薬理研究においてより一般的なアプローチが適用されることがある。

器官系の格付けは生命維持機能に関する重要度に従って展開することができる。生命に即刻重要な生命維持器官あるいは系、すなわち心血管系、呼吸及び中枢神経系は安全性薬理試験を評価する上で最も重要であると見なされる。腎あるいは消化管系のような他の器官系で、不可逆的な障害を生じることがなく有害薬力学的作用によって一時的に撹乱されるような機能は、直ちに検討すべき懸念は小さい。これらの系における作用の安全性薬理評価は臨床試験あるいは患者数(例えばクローン病における胃腸管、原発性腎性高血圧における腎機能、免疫不全患者における免疫系)のような要因を考慮する場合、特に重要となることがある。

2.3 試験系

2.3.1 試験系についての一般的配慮

科学的に妥当な情報が引き出されるためには適切な動物モデルあるいは他の試験系の選択について配慮が払われるべきである。選択要因にはモデルの薬力学的反応性、薬物動態プロファイル、実験動物の種、系統、性並びに年齢、試験系の反応性、感受性並びに再現性、および被験物質における利用可能な背景データを含む。入手可能な場合にはヒトのデータ(例えばin vitro代謝)も試験系の選択において考慮すべきである。測定時点は、薬力学的および薬物動態学的配慮に基づくべきである。特別な動物モデルあるいは試験系を選択する場合には正当な理由を示すべきである。

2.3.2 in vivoおよびin vitro試験の使用

動物モデルおよびex vivo/in vitro試料が試験系として用いられうる。ex vivoとin vitro系には、摘出器官及び組織、培養細胞、細胞フラグメント、細胞内小器官、受容体、イオンチャネル、トランスボーター及び酵素を含むが、これらに限定するものではない。in vitro系は補助的試験(例えば、被験物質の活性プロファイルを得るあるいはin vivoで観察された作用機序を検討する場合)として利用される場合がある。

in vivo試験を行う場合、無麻酔動物を用いることが望ましい。慢性的にテレメトリーシステムを装着した非拘束動物、覚醒動物に他の適切な装着方法を施した動物、あるいは実験環境に馴化させた動物から得られたデータが、拘束、非馴化動物から得られたデータよりも望ましい。無麻酔動物を使用する場合は、不快感や苦痛を避けることが、何よりも配慮することである。

2.3.3 実験計画

2.3.3.1 例数と対照の使用

群の大きさは、得られたデータについて意味のある科学的な解釈を可能にするために、十分なものでなくてはならない。従って、動物数または摘出標本数は被験物質の生物学的に重要な作用の存在を十分に検証あるいは除外することができるように適正なものでなければならない。このためにはヒトに対する懸念となる生物学的効果の大きさを考慮すべきである。実験計画には適切な陰性及び陽性対照群を含めるべきである。特性がはっきりしているin vivo試験系では、陽性対照が必要ない場合がある。試験から対照群を除く場合にはその正当性を示すべきである。

2.3.3.2 投与経路

一般的に、予想される臨床経路を可能なかぎり用いるべきである。投与経路と関係なく、情報が得られる場合には、親化合物及び主要代謝物の曝露量は、ヒトで到達する曝露量と同程度かそれ以上とすべきである。もし被験物質が複数の投与経路(例えば経口と非経口)で臨床に用いられる予定である場合、もしくは全身あるいは局所的曝露において質的にも量的にも有意に異なることが認められるあるいは予想される場合には、複数の経路による作用の評価を行うことが適切であろう。

2.4 被験物質の用量もしくは濃度

2.4.1 in vivo試験

安全性薬理試験は認められた有害作用の用量反応関係を明確にすべく計画すべきである。有害作用の経時変化(例えば反応の開始と持続時間)も出来うる限り検討すべきである。一般に、有害作用を引き起こす用量は、試験動物種において効力を裏づける薬力学的反応を引き起こす用量、あるいは可能であるならば、目的とする治療効果を得るためのヒトでの用量と比較すべきである。薬力学的感受性に種差が存在することが認識されている。それ故、用量は効力を裏づける薬力学的用量あるいは治療用量範囲を含み、かつそれ以上とすべきである。試験において評価された安全性薬理パラメーターに有害作用が認められない場合には、最高試験用量は本試験または同様な投与経路及び期間を用いたその他の試験においてある程度の有害作用を生じる用量とすべきである。これらの有害作用には用量制限薬力学作用あるいはその他の毒性作用も含み得る。実際に、毒性用量内でのある影響が(例、心電図記録中の振戦もしくは攣縮)、結果の解釈に干渉することがありうるし、また、用量範囲を制限する。試験動物種における安全性薬理エンドポイントにおける有害作用がない場合には、上述のような用量限界での単一用量投与群の試験が適切であろう。

2.4.2 in vitro試験

in vitro試験は、濃度作用関係を確立するように計画すべきである。その試験系における作用検出の公算を上げるために、試験濃度範囲が設定されるべきである。この範囲の上限は、被験物質の物理化学的特性と他の測定の特異的要因により影響を受けることがある。影響が認められない場合は、選択された濃度範囲の正当性を説明すべきである。

2.5 試験期間

安全性薬理試験は一般に単回投与で実施される。薬力学的作用が、ある処置期間後にのみに起こるかあるいは、反復投与非臨床試験もしくはヒトでの使用の結果、安全性薬理作用について懸念を生ずる場合には、これらの作用を説明するための安全性薬理試験の必要な期間は合理的に定められるべきである。

2.6 代謝物、異性体および最終製剤についての試験

一般的に、ヒトで全身曝露されるかもしくは曝露されると予想される全ての親化合物及び主代謝物は安全性薬理試験で評価されるべきである。主代謝物の作用の評価は動物での親化合物の試験でなされている場合が多い。もしヒトの主代謝物が動物では存在していないか、存在していても比較的低濃度であることが見いだされている場合には、安全性薬理エンドポイントに対するそのような代謝物の作用の評価を考慮すべきである。さらにヒトの代謝物が治療薬の薬理作用に実質的に寄与していることが知られている場合には、そのような活性代謝物を試験することは重要である。親化合物のin vivo試験において代謝物を十分に評価していない場合には、上記の議論に述べたように、実質的な考えに基づき代謝物の試験にin vitroの系を用いることがある。

製剤が異性体の混合物を含有する場合には、個々の異性体のin vitroもしくはin vivo試験が考慮されるべきである。

最終製剤を用いた安全性薬理試験は、それまでに試験された剤型と比較して活性物質の薬力学並びに薬物動態が本質的に変化するような剤型(すなわち、吸収促進剤、リポソームのような賦活剤形や、結晶多形のようなその他の変化を介して)に対してのみ必要である。

2.7 安全性薬理コアバッテリー

安全性薬理コアバッテリーの目的は生命機能における被験物質の作用を検討することにある。この点において、心血管系、呼吸系および中枢神経系が通常コアバッテリーで試験すべき生命維持を司る器官系と考えられている。ある場合には、科学的妥当性に基づいて、コアバッテリーを補足する必要があり(2.8節)、もしくは実施する必要がない(2.9節)場合がある。

ある器官、系もしくは機能についてのある試験あるいは検査を除外する場合には科学的正当性を示すべきである。

2.7.1 中枢神経系

被験物質の中枢神経系に及ぼす作用を適切に評価すべきである。運動量、行動変化、協調性、感覚/運動反射反応および体温について評価すべきである。例えば、機能観察総合評価法(FOB)(3)、Irwinの変法(4)もしくは他の適切な試験(5)が用いられる。

2.7.2 心血管系

被験物質の心血管系に及ぼす作用を適切に評価すべきである。血圧、心拍数、心電図について評価すべきである。再分極と伝導異常に対する手法を含むin vivo、in vitroあるいはex vivoの評価も考慮すべきである。(注3)

2.7.3 呼吸系

被験物質の呼吸系に及ぼす作用を適切に評価すべきである。呼吸数及び他の呼吸機能の尺度(例えば一回換気量(6)あるいはヘモグロビン酸素飽和度)を評価すべきである。動物の臨床観察では、一般に呼吸機能を十分に評価できない。従って、これらのパラメーターは適切な手法を用いることによって定量されるべきである。

2.8 フォローアップ及び補足的安全性薬理試験

有害作用は被験物質の薬理学的特性もしくは化学的分類に基づき予測されることがある。さらに安全性薬理コアバッテリー、臨床試験、医薬品安全性調査、実験的なin vitroまたはin vivo試験あるいは文献報告から懸念が生じることがある。そのような有害反応の可能性がヒトの安全性に対し懸念される場合、これらを適切にフォローアップ試験もしくは補足的安全性薬理試験で探求すべきである。

2.8.1 安全性薬理コアバッテリーに対するフォローアップ試験

フォローアップ試験は生命維持機能についてのコアバッテリーにより得られた結果よりもより深い理解もしくはそれに追加知識を提供することを意味する。以下の項目は、起こりうる有害薬力学的作用に対するこれらの器官系をさらに評価するための試験を提示している。これらの項目は包括的あるいは規定的であることを意味しているのではなく、試験は存在する非臨床試験もしくはヒトのデータのような要因を考慮した後にケースバイケースで決定されるべきである。場合によっては、他の非臨床または臨床試験の実施の中でこれらの作用を検討することがより適切である場合がある。

2.8.1.1 中枢神経系

行動薬理、学習及び記憶、特異的リガンド結合、神経化学、視聴覚あるいは電気生理学的検討など。

2.8.1.2 心血管系

心拍出量、心室収縮性、血管抵抗、心血管反応における内因あるいは外因物質の作用など。

2.8.1.3 呼吸系

気道抵抗、コンプライアンス、肺動脈圧、血液ガス、血液pHなど

2.8.2 補足的安全性薬理試験

補足的試験とは、懸念される理由がある場合で、コアバッテリーあるいは反復投与毒性試験で検討されていなかった器官系の機能において起こりうる有害薬力学的作用について評価することを意味する。

2.8.2.1 腎/泌尿器系

腎パラメーターにおける被験物質の作用を評価すべきである。例えば尿量、比重、浸透圧、pH、水/電解質バランス、蛋白、細胞並びに血中尿素窒素、クレアチニン及び血漿蛋白のような血液化学検査が用いられる。

2.8.2.2 自律神経系

自律神経系に及ぼす被験物質の作用を評価すべきである。例えば自律神経系に関与する受容体結合、in vivoもしくはin vitroでの作動薬もしくは拮抗薬に対する機能的反応性、自律神経系の直接刺激時の心血管系の反応の測定、圧反射試験及び心拍変動性が用いられうる。

2.8.2.3 胃腸管系

胃腸管系に及ぼす被験物質の作用を評価すべきである。例えば胃液分泌、胃腸管障害能、胆汁分泌、in vivoでの輸送時間、in vitroでの回腸収縮、胃内pH測定並びに滞留性が用いられうる。

2.8.2.4 他の器官系

懸念する理由がある場合、他の項目で検討されていない器官系における被験物質の作用を検討すべきである。例えば依存性、骨格筋、免疫及び内分泌機能が検討されうる。

2.9 試験が不必要な条件

被験物質の薬理学的特性が十分に明らかにされており、全身曝露もしくは他の器官、組織への分布が低いことが認められている局所適用剤(例として経皮もしくは点眼)には安全性薬理試験が不要かもしれない。

末期癌患者の治療のために用いる細胞毒性薬剤については、ヒトに最初に投与する前に行う安全性薬理試験は不要であろう。しかしながら、新しい作用機序を有する細胞毒性薬剤については安全性薬理試験を実施する価値があるであろう。特異的受容体に対し高度に標的化を成し遂げたバイオテクノロジー応用製品に対しては、毒性もしくは薬力学的試験の一部分としての安全性薬理エンドポイントを評価することで十分な場合がしばしばある。従って、これらの製品に対しては、安全性薬理コアバッテリー試験を削減または省略することが出来る。新規治療分類を代表する薬剤もしくは高度な受容体特異性が得られていないバイオテクノロジー応用製品に対しては、安全性薬理試験によるより詳細な評価が考慮されるべきである。

他には例えば薬力学及び薬物動態が類似している新規塩化合物の場合のように安全性薬理試験が不要な追加的除外例がある。

2.10 臨床開発に関連した安全性薬理試験の時期

安全性薬理プログラムを計画する場合には、特定の試験が必要かどうかを決定するために2.9節について精査するべきである。

2.10.1 初めてヒトに投与する以前の試験

安全性薬理コアバッテリーに記載された機能に対する被験物質の作用は、ヒトに初めて投与する前に検討すべきである。懸念の原因に基づき必要と認められればフォローアップもしくは補足試験についても実施すべきである。安全性薬理のエンドポイントを検討するために適切に計画され、実施された毒性試験からの情報があれば、独立した安全性薬理試験を縮小または省略することができる。

2.10.2 臨床開発中の試験

動物やヒトで確認されたり、疑われた有害作用を明らかにするため、追加試験が臨床開発中に必要とされる場合がある。

2.10.3 承認前の試験

2.8節に記載された系についての安全性薬理作用は、必要とされないことが妥当と判断されない限り、承認前に評価すべきである。安全性薬理のエンドポイントを検討するために適切に計画され、実施された毒性試験からの情報もしくは臨床試験からの情報は、この評価に役立ち、安全性薬理試験の代わりになりうる。

2.11 GLPの適用

非臨床安全性試験の質や信頼性を保証することは重要である。これは通常、試験をGLPに従って行うことで得られる。ある種の安全性薬理試験は試験デザインの特殊性と実行上の問題によりGLPに従って行うことができない場合がある。たとえ、正式なGLPの原則に忠実でなくても、安全性薬理試験のデータの質と完全性を保証すべきであることは強調すべきである。試験がGLPに従って行われていない場合、試験の再構築は試験実施に関する適切な書面とデータの保管を通して保証されるべきである。GLPに従って行われなかった試験または試験部分はその正当な理由を十分に説明するべきであり、また安全性薬理エンドポイントの評価に及ぼしうる影響を説明しなくてはならない。

安全性薬理コアバッテリー試験は通常GLPに従って実施されるべきである。フォローアップ試験および補足的試験は可能な限りGLPに従って実施すべきである。安全性薬理の検討が毒性試験の一部として実施することは可能であるが、その場合には、これらの試験はGLPに従って実施されているものと考える。

効力を裏づける薬力学試験はGLPに従って実施する必要はない。

一般に副次的薬理試験は、GLPに従って実施する必要はない。

化合物選択の過程で実施された副次的薬理試験の結果は、安全性薬理の評価に役立つ場合がある;懸念する原因がない場合(例えば、安全性薬理エンドポイントもしくは化学的あるいは治療別分類についての所見がない。)、これらの試験は、GLPに従って再試験する必要はない。ある状況においては、副次的薬理試験の結果が、ヒトにおいて起こりうる有害作用に対する安全性評価にきわめて重要な寄与をする場合があり、この場合は通常、GLPに従って実施される。

3 注

1 一般薬理試験は医薬品の安全性評価においてこれまで重要な部分と考えられてきた。一般薬理試験はもともと医薬品候補の主たる治療効果とは別の作用を検討するために計画された試験に相当していた。安全性薬理試験は生理的機能における有害効果を同定することに焦点を置いていた。これまでも3極全てが医薬品申請の評価において一般薬理試験(日本とEC)あるいは安全性薬理試験(USA)からのデータを受け入れてきた。厚生省(MHW)は1991年に「一般薬理に関するガイドライン」を出している。この厚生省ガイドラインでは、一般薬理試験には器官系の機能における予期しない効果を同定することおよび広範囲な薬理的特徴(薬理プロファイル)を得ることを計画した試験を含んでいる。しかしながら、“効力を裏づける薬理”、“副次的薬理”および“安全性薬理”の用語に関しては国際的に受け入れられた定義はこれまで存在していなかった。安全性薬理に対する用語の国際的なハーモナイゼイション及び国際的なガイドラインの開発の必要性はこれまで認識されていた。

2 期待した治療標的に関連した被験物質の作用もしくは効果の機序に関する試験が効力を裏づける薬力学的試験である。期待した治療標的に関連しない被験物質の作用もしくは効果の機序に関する試験が副次的薬力学的試験である(これらはこれまで時として一般薬理試験の一部に属するとされてきた)

3 再分極に関連した心室頻拍(例えばTorsades de pointes)に対するリスクの検討に望ましいアプローチについて科学的な合意あるいは国際的に認められたガイダンスはない。ガイドライン(S7B)では、いくつかの近年の有用な方法を提示し、また、それらの利点と欠点を議論した内容を記述することになるであろう。これらの手法の使用を支持するため行政当局へのデータの提出が奨励される。

4 REFERENCES

1) ICH Harmonized Tripartite Guideline(M3) “Timing of Non-clinical Safety Studies for the Conduct of Human Clinical Trials for Pharmaceuticals”(1997)

2) ICH Harmonized Tripartite Guideline(S6) “Preclinical Safety Evaluation of Biotechnology-derived Pharmaceuticals”(1997)

3) Mattsson,J.L.,Spencer,P.J. and Albee,R.R.:A performance standard for clinical and Functional Observational Battery examinations of rats.J.Am.Coll.Toxicol. 15,239(1996).

4) Irwin,S.:Comprehensive observational assessment:1a.A systematic,quantitative procedure for assessing the behavioural and physiologic state of the mouse.Psychopharmacologia (Berl.)13,222-257(1968).

5) Haggerty,G.C.:Strategies for and experience with neurotoxicity testing of new pharmaceuticals.J.Am.Coll.Toxicol.10:677-687(1991).

6) Murphy,D.J.:Safety Pharmacology of the Respiratory System:Techniques and Study Design. Drug Dev.Res.32:237-246(1994).