添付一覧
○生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)の規格及び試験方法の設定について
(平成一三年五月一日)
(医薬審発第五七一号)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬局審査管理課長通知)
新有効成分含有医薬品の製造(輸入)承認申請書の規格及び試験方法の記載内容については、「新医薬品の規格及び試験方法の設定に関するガイドライン」(平成6年9月1日医薬審第586号薬務局審査課長通知)により示されているところであるが、今般、日米EU医薬品規制調和国際会議における合意に基づき、別添のとおり、「生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)の規格及び試験方法の設定」(以下「本ガイドライン」という。)をとりまとめ、下記により取扱うこととしたので、御了知の上、貴管下関係業者に対し周知徹底方御配慮願いたい。
また、平成6年9月1日医薬審第586号薬務局審査課長通知を平成13年6月30日付けで廃止する。
なお、本通知の写しを日本製薬団体連合会会長あてに発出していることを申し添える。
記
1 平成13年7月1日以降に承認申請する生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)である新有効成分含有医薬品の申請書の規格及び試験方法に関する資料は、本ガイドラインに従って作成すること。
2 平成15年6月30日までに承認申請されるものについては、従前の例によることができること。
3 本ガイドラインは、規格及び試験方法の設定に関する標準的な考え方を示したものであり、合理的な理由がある場合においては、一律に本ガイドラインの適用を求めるものではないこと。
4 その他、本ガイドラインにおいて言及されていない事項については、「新医薬品の規格及び試験方法の設定」(平成13年5月1日医薬審発第568号医薬局審査管理課長通知の別添)に準拠することも留意の上、適宜判断して規格及び試験方法を設定すること。
生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)の規格及び試験方法の設定
目次
1. 緒言
1.1 目的
1.2 背景
1.3 適用対象
2. 規格及び試験方法の設定において考慮すべき基本的事項
2.1 特性解析
2.1.1 物理的化学的性質
2.1.2 生物活性
2.1.3 免疫化学的性質
2.1.4 純度、不純物、混入汚染物質
2.1.5 物質量
2.2 分析上の留意事項
2.2.1 標準品及び標準物質
2.2.2 分析法バリデーション
2.3 プロセスコントロール
2.3.1 工程に関連する留意事項
2.3.2 工程内管理試験における規格値/適否の判定基準及び処置基準値
2.3.3 原材料及び添加剤の規格及び試験方法
2.4 薬局方の規格及び試験方法
2.5 出荷規格及び有効期間内規格
2.6 統計的な考え方
3. 規格及び試験方法の設定根拠
4. 規格及び試験方法
4.1 原薬の規格及び試験方法
4.1.1 外観・性状
4.1.2 確認試験
4.1.3 純度と不純物
4.1.4 力価
4.1.5 物質量
4.2 製剤の規格及び試験方法
4.2.1 外観・性状
4.2.2 確認試験
4.2.3 純度と不純物
4.2.4 力価
4.2.5 物質量
4.2.6 その他の一般的試験項目
4.2.7 特殊な剤形のための追加試験項目
5. 用語集
6. 付録
6.1 物理的化学的特性解析に関する付録
6.1.1 構造解析・構造確認
6.1.2 物理的化学的性質
6.2 不純物に関する付録
6.2.1 製造工程由来不純物及び混入汚染物質
6.2.2 目的物質由来不純物(分解物・変化物を含む)
生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)の規格及び試験方法の設定
1. 緒言
1.1 目的
本ガイドラインは、生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)を新たに承認申請し、上市を目指すに当たって、規格及び試験方法の設定並びにその根拠を可能な限り国際的に整合性のあるものとするための一般的な原則について、明らかにしたものである。
1.2 背景
「規格及び試験方法」とは、試験項目、用いる分析方法、及びその方法で試験したときの規格値/適否の判定基準(数値で表した限度値又は範囲、あるいはその他の基準)を示したものとして定義される。規格及び試験方法は、原薬、製剤又はこれらの製造工程における中間体が、それぞれの使用目的にかなっていると判定するために必要な要素をセットにして定めたものである。「規格及び試験方法に適合する」とは、原薬及び製剤について、示された各分析方法に従って試験するときにすべての規格値/適否の判定基準に適合するということである。規格及び試験方法は、承認申請時に、その設定理由と共に製造業者から提示され、規制当局により承認のための必須条件とされるもので、医薬品の品質確保上、極めて重要な規制基準である。
規格及び試験方法は、医薬品の品質及びその恒常性の確保を図ろうとする方策全体の要素の1つである。他の要素としては、開発段階での医薬品の十分な特性解析(規格及び試験方法の多くは、これが基盤になる)、GMPの遵守、製造工程の評価/検証、原材料の試験、工程内管理試験及び安定性試験等が挙げられる。
規格及び試験方法では、原薬及び製剤の特性を徹底的に解析することを目的とするというより、むしろ品質を確認することを目的として、試験項目、試験方法及び規格値/適否の判定基準を選択する。また、医薬品の安全性及び有効性を確保するために有用な分子特性及び生物学的な特性に焦点を当てる必要がある。
1.3 適用対象
本文書において取り扱い、解説する指針は、タンパク質、ポリペプチド、それらの誘導体、及びそれらを構成成分とする医薬品(例えば、抱合体)に適用する。適用対象となるタンパク質及びポリペプチドとしては、組換え体細胞又は非組換え体細胞のタンパク質発現系から培養により産生され、高度に精製され、一連の適切な分析方法により特性解析できるものを想定している。
本文書で示す基本原則は、組織及び体液から分離されるタンパク質やポリペプチドのような上記の範疇以外の医薬品にも適用できる場合がある。適用できるかどうかについては、個々のケースごとに規制当局に相談すること。
本文書は、抗生物質、合成ペプチド及びポリペプチド、ヘパリン、ビタミン、細胞の代謝産物、DNAを成分とする医薬品、アレルゲン抽出物、従来型のワクチン、細胞、並びに全血及び細胞性血液成分(血球成分)には適用されない。化学合成薬品については、ICHガイドラインQ6A「新医薬品の規格及び試験方法の設定」で、規格及び試験方法並びにその他の基準を示す。
本文書は、特定の試験方法や特定の規格値/適否の判定基準を推奨するものではなく、また、非臨床試験や臨床試験のための検体の規制に適用されるものでもない。
2. 規格及び試験方法の設定において考慮すべき基本的事項
2.1 特性解析
適切な分析技術を用いた生物薬品の特性解析(物理的化学的性質、生物活性、免疫化学的性質、純度及び不純物に関する解析など)は、適切な規格及び試験方法を設定するために必要となるものである。規格値/適否の判定基準は、非臨床試験や臨床試験に用いたロットから得られたデータ、製造の一定性を示すために用いたロットから得られたデータ、及び安定性試験データ、並びに医薬品開発段階で得られた適切なデータに基づいて設定し、その根拠を示す必要がある。
開発段階では広範かつ詳細な特性解析を行う。また、重要と考えられる工程変更があった場合にも、必要に応じ、詳細な特性解析を行う。承認申請時までに、適切な標準品が入手可能であれば、当該医薬品と標準品との比較検討を行っておく必要がある。対応する天然品との比較検討については、実施可能でかつ適切と考えられる場合に実施すること。また、承認申請時までに、製造業者は、生産ロットの生物学的試験(バイオアッセイ)及び理化学試験に供するために、適切に特性解析した自家標準物質を確立していなければならない。新しい分析技術の開発や既存の技術の改良は日進月歩で進んでいるので、適時取り入れるべきである。
2.1.1 物理的化学的性質
目的物質の物理的化学的特性の解析計画には、通常、組成分析、物理的性質及び一次構造の決定を含める。目的物質の高次構造に関する情報が適切な理化学的手法により得られる場合もある。なお、目的の高次構造を形成していることに関する確証は、通常、その生物活性から得られる。
タンパク質性医薬品においては、生体による生合成過程を生産に利用していることから、分子構造上不均一なものが産生される可能性が本質的に存在する。したがって、翻訳後修飾が想定されるケースでは、目的物質は、例えば糖タンパク質におけるグリコフォームのように、翻訳後修飾を受けた多様な分子種の混合物となることもある。これらの分子種には生物活性があり、その存在が医薬品の安全性及び有効性に悪影響を及ぼさないこともある(2.1.4項参照)。製造業者は、目的物質がどのような不均一性のパターンを示すかを明らかにし、これが非臨床試験及び臨床試験に用いたロットにおけるパターンに一致していることを示しておく必要がある。製品の不均一性のパターンに恒常性があることが立証されれば、個々の分子種の生物活性、有効性及び安全性(免疫原性を含む)を評価する必要は必ずしもない。
不均一性は、培養工程以降の原薬あるいは製剤の製造中や保存中にも生じる可能性がある。これらの不均一性は医薬品の品質を規定するものであるので、不均一性の程度及びプロファイルを特性解析し、ロット間での恒常性を保証する必要がある。目的物質に由来する物質のうち、生物活性、有効性及び安全性の点で目的物質のそれに匹敵する性質を持つものは、「目的物質関連物質」として考える。製造工程の変更や分解物・変化物の生成により、製品における不均一性のパターンが非臨床試験及び臨床試験に用いた製品でみられていたパターンと異なるものとなった場合には、その変化がどのような意味を持つかについて評価する必要がある。
物理的化学的性質を明らかにするための分析方法を、付録6.1項に例示する。新しい分析技術の開発や既存の技術の改良は日進月歩で進んでいるので、適時取り入れるべきである。
ロットごとの規格及び試験方法(4章参照)には、これらの方法のうち適切なものの組合せを選定すると共に、その妥当性を明らかにする必要がある。
2.1.2 生物活性
生物学的性質の評価も、完全な特性解析プロファイルを確立する上で、物理的化学的性質の評価と同様に必要不可欠なものである。重要な生物学的性質の1つとして、特定の生物学的効果を発揮するための特異的な機能やその程度を表す「生物活性」が挙げられる。
生物活性を測定するためにどのような生物学的試験(バイオアッセイ)が有用であるかは、製造業者が提示する必要がある。生物活性の測定に用いられる方法の例としては、以下のようなものが挙げられる。
・ 動物を用いるバイオアッセイ。これは、製品に対する生体の生物学的応答を測定する。
・ 培養細胞を用いるバイオアッセイ。これは、細胞レベルでの生化学的又は生理学的応答を測定する。
・ 生化学的試験。これには、酵素反応速度の解析による生物活性の測定や、免疫学的相互作用により引き起こされる生物学的応答を測定することなどが含まれる。
その他、リガンド-レセプター結合試験のような試験方法が活用できる場合もある。
「力価」とは、当該医薬品の(生物学的性質に関連する)特性に基づく生物活性を定量的に表す尺度であり、「単位」で表される。これに対して、「物質量」とは、タンパク質量に関する理化学的尺度であり、質量で表される。力価測定に用いられる生物活性が臨床上期待される作用と同様あるいは類似のものである必要は必ずしもない。臨床上期待する作用と生物学的試験における活性との相関は、薬力学試験又は臨床試験において確認しておく必要がある。
生物学的試験の結果は、「国際標準品」又は「国内標準品」が入手可能で、かつ当該試験に適切である場合には、標準品を基に検定した活性の単位で表す。そのような標準品が存在しない場合は、特性解析した「自家標準物質」を確立しておき、製造ロットの試験結果は自家単位で報告することとする。
複雑な分子では、物理的化学的情報が広範にあったとしても、それにより高次構造を確定することはできないが、生物活性から高次構造が正しく形成されていることを推定できることが多い。このような場合には、信頼区間が比較的広い生物学的試験であっても、特異的な定量法による測定と組み合せれば、用いてよいこともある。重要なことは、以下のような場合にのみ、製品の生物活性を測定する生物学的試験を理化学的試験法に置き換えてもよいであろうということである。
・ 当該理化学的方法により、高次構造に関する情報を含めて、当該医薬品に関する十分な物理的化学的情報があますところなく得られ、かつ生物活性との適切な相関が証明されていること。
更に
・ 十分に確立された製造実績があること。
理化学的試験のみを、(適切な相関に基づいて)生物活性の定量法として用いる場合には、結果は質量で表す。
製造業者は、ロットごとの規格及び試験方法(4章参照)に、適切な定量試験(生物学的又は理化学的方法、あるいは両者)を選定すると共に、その妥当性を明らかにする必要がある。
2.1.3 免疫化学的性質
抗体が目的物質の場合には、その免疫学的性質を十分に特性解析すること。精製抗原及び抗原の特定の領域と抗体との結合試験を行い、可能な限り、アフィニティ(1価の抗原結合部位と1価のエピトープ(抗原決定基)との間での結合の強さ)、アビディティ(多価抗体と多価抗原との結合の強さ)、免疫反応性(交差反応性を含む)を決定する。更に、関連するエピトープを有する標的分子を生化学的に明らかにし、可能ならばエピトープ自身も明確にする。
(目的物質が抗体以外の場合であっても)原薬又は製剤において、タンパク質分子の様々なエピトープを認識する抗体を用いた免疫化学的方法(例えば、ELISA、ウェスタンブロット)を利用して、タンパク質分子を検査しようとする場合がある。タンパク質の免疫化学的性質は、その同一性、均一性や純度を確認するのに利用できるほか、定量法に活用できることもある。
免疫化学的性質に関する試験をロットごとの規格及び試験方法の1つとして利用している場合には、抗体に関するすべての関連情報を提供できるようにしておく必要がある。
2.1.4 純度、不純物、混入汚染物質
・ 純度
純度に関して、絶対的な純度はもとより、相対的な純度を決定しようとすることは、分析上の大きな挑戦である。また、得られた結果は用いた試験方法に大きく依存することになる。従来から、生物起源由来医薬品の相対的純度は比活性(医薬品mg当たりの生物活性単位)として表されてきたが、その比活性も用いた試験方法に大きく依存している。結局、原薬及び製剤の純度は、各種の分析方法の組合せにより評価することになる。
生物薬品には、生体の合成系を利用した製造工程により生産されるという特徴と、独特な分子特性がある。そのため、原薬が数種類の分子種あるいは分子変化体を含んでいることがある。これらの分子種が、しかるべき翻訳後修飾から期待されるものであれば、それらは目的物質とする。目的物質の分子変化体が製造中や保存中に生成することがあるが、それらが目的物質に匹敵する同等・同質の特性を持つ場合は、それらを目的物質関連物質と考え、不純物とはしない(2.1.1項参照)。
目的物質関連物質については、それぞれ個別の若しくは総量での規格値を適切に設定する必要がある。
ロットごとの規格及び試験方法(4章参照)には、純度を測定する試験として数種類の方法を適切に組み合せたものを選定すると共に、その妥当性を明らかにする必要がある。
・ 不純物
目的物質及び複数の目的物質関連物質から構成される原薬及び製剤の純度面からみた評価に加えて、含有する可能性のある不純物に関しても評価を行う必要がある。不純物として想定されるものには、製造工程に由来するものもあれば目的物質に由来するものもある。これら不純物には、構造が明らかにできるもの、部分的に特性解析できるもの、同定できないものなどがある。不純物がそれなりの量、生成する場合には、可能な範囲でそれらの特性解析を行う必要がある。できれば、生物活性についても評価する必要がある。
「製造工程由来不純物」の範疇には、製造各工程に由来する以下に列挙するものが含まれる。すなわち、細胞基材に由来するもの(例えば、宿主細胞由来タンパク質、宿主細胞由来DNA)、細胞培養液に由来するもの(例えば、インデューサー、抗生物質、培地成分)、あるいは細胞培養以降の工程である目的物質の抽出、分離、加工、精製工程に由来するものなどがある(付録6.2.1項参照)。「目的物質由来不純物」(例えば、前駆体、ある種の分解物・変化物)は、製造中や保存中に生成する分子変化体であって、かつ生物活性、有効性及び安全性の点で目的物質に匹敵する特性を持たないものである。
不純物に関する規格値は、非臨床試験及び臨床試験で用いたロット並びに製造の一定性を評価する試験におけるロットから得られたデータに基づいて設定する必要がある。
不純物(製造工程由来不純物及び目的物質由来不純物)に関する規格値は、それぞれ個別に若しくは総量で適切に設定する必要がある。不純物のうちのあるものについては、適切なプロセスコントロールを行うことにより、規格値を必ずしも設定する必要がなくなるものもある(2.3項参照)。
不純物に関する試験に用いられる分析方法を、付録6.2項に例示する。新しい分析技術の開発や既存の技術の改良は日進月歩で進んでいるので、適時取り入れるべきである。
ロットごとの規格及び試験方法(4章参照)には、これらの方法を適切に組み合せたものを選定すると共に、その妥当性を明らかにする必要がある。
・ 混入汚染物質
医薬品中の「混入汚染物質」とは、製造工程には本来存在しないはずのもので、外来性の化学物質や生化学的な物質(例えば、微生物由来プロテアーゼ)あるいは微生物類のようなものすべてを指す。汚染物質の混入は厳に避けるべきであり、適切な工程内管理試験の規格値/適否の判定基準や処置基準値あるいは原薬及び製剤の規格及び試験方法により適正に管理する必要がある(2.3項参照)。外来性ウイルスあるいはマイコプラズマの汚染に関しては、特別な例として、処置基準値の概念は適用しない。この件に関しては、ICHガイドラインQ5A「ヒト又は動物細胞株を用いて製造されるバイオテクノロジー応用医薬品のウイルス安全性評価」及びICHガイドラインQ5D「生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)製造用細胞基材の由来、調製及び特性解析」に提示されている方策を考慮すること。
2.1.5 物質量
物質量は、通常、タンパク質量として測定される生物薬品にとって重要な要素であるので、適切な試験法(通例、理化学的な原理を持つ方法)を用いて測定すること。物質量に基づく定量値が、生物学的試験法を用いて得られた値と直接関連していることを証明できる場合もある。このような相関があれば、製造工程のうち充填のような工程では、生物活性よりも、むしろ物質量を尺度として用いる方が適切な場合もある。
2.2 分析上の留意事項
2.2.1 標準品及び標準物質
新有効成分含有医薬品を承認申請する際には、国際標準品又は国内標準品が利用できる場合はほとんどない。承認申請時までに、製造業者は、代表的な製造ロットでかつ臨床試験に用いた検体を代表するロットから調製し、適切に特性解析した「自家一次標準物質」を確立しておく必要がある。生産ロットの試験に用いる「自家常用標準物質」は、この一次標準物質を基に検定する。国際標準品又は国内標準品が利用でき、かつ適切であれば、これを基に標準物質を検定する必要がある。生物学的試験及び理化学試験の両方に同一の標準物質を使用することが望ましいが、別々の標準物質が必要な場合もある。また、目的物質関連物質、目的物質由来不純物及び製造工程由来不純物に対して、それぞれの標準物質を個別に確立する必要がある場合もある。適宜、承認申請書中に、標準物質の調製や精製に関する記述を入れておくこと。標準物質の特性解析、保存条件、及び安定化のための製剤設計についても、資料を作成し、提出すること。
2.2.2 分析法バリデーション
規制当局に承認申請するときには、申請者は、規格及び試験方法に採用した分析方法について、ICHガイドラインQ2A「分析法バリデーションに関するテキスト(実施項目)」及びICHガイドラインQ2B「分析法バリデーションに関するテキスト(実施方法)」に従ったバリデーションを完了していなければならない。ただし、生物薬品の分析に用いられる試験の特殊性に起因する特別な問題がある場合は、この限りではない。
2.3 プロセスコントロール
2.3.1 工程に関連する留意事項
製造工程を適切に設計すること及び工程が有する能力を把握しておくことは、その管理や再現性の確保が可能で、かつ規格及び試験方法に適合する原薬あるいは製剤を製造することができる製造工程を確立するために必要な方策の一部である。このような観点から、各種の管理基準値については、開発初期から実生産規模の製造に至る間のすべての過程で得られた情報のうち、特に重要なものを基に、その妥当性が明らかにされることになる。
不純物のうち、あるものについては、効果的なプロセスコントロールにより許容できるレベル内に収まっているか、あるいは容認できるレベル以下まで効率的に除去できることを適切な検討によって実証していれば、原薬や製剤を対象とする試験は必ずしも必要ではなく、かつ規格及び試験方法に含めなくてもよい場合がある。本件に関する検討については実生産規模での確認が必要なこともある。それについては、各国/地域の規制に従うこと。承認申請時にはごく限られたデータしか得られていないこともあると認識されている。したがって、上に述べた考え方は、各国/地域での規制に従って、販売が認められた後に実行に移されることもある。
2.3.2 工程内管理試験における規格値/適否の判定基準及び処置基準値
工程内管理試験は、極めて重要な意志決定を必要とする段階、並びにその他の段階でも原薬又は製剤の製造工程が常に一定に保たれていることを確認できるデータが得られる段階において実施する。工程内管理試験の結果は、「処置基準値」として社内記録の扱いにするか、「規格値/適否の判定基準」として公的な報告の対象とするか、いずれかになる。工程内管理試験を実施することにより、原薬や製剤の段階で試験を実施する必要がなくなる可能性がある(2.3.1項参照)。細胞培養の終了時に行う感染性物質についての工程内管理試験は、規格値/適否の判定基準を設定する必要がある試験の一例である。
重要度が相対的に低い製造段階といえども、製造業者が社内での処置基準値を用いて製造工程が一定に保持されていることを評価することは重要である。医薬品開発段階及びバリデーションの段階で得たデータを根拠にして、製造工程に対して設定すべき暫定的処置基準値が得られるはずである。これらの処置基準値は、製造業者が責任を負うものであり、工程に関する調査やその後の対応を開始するかどうかを判断するために用いられる。この基準値は、医薬品製造承認後に製造経験及びデータが蓄積されるにつれて、更に適切に見直していくべきものである。
2.3.3 原材料及び添加剤の規格及び試験方法
原薬(又は製剤)の製造に使用する原材料の品質は、その使用目的にかなった基準を満たす必要がある。生物学的原材料又は試薬に関しては、慎重な評価を行って有害な内在性感染性物質あるいは外来性感染性物質の有無を確認しなければならない場合がある。工程中でアフィニティクロマトグラフィー(例えば、モノクローナル抗体を用いたクロマトグラフィー)を使用する場合には、抗体を作製する過程及びクロマトグラフ用担体として使用する際に生成する可能性がある製造工程由来不純物や、混入する可能性がある汚染物質が当該原薬や製剤の品質及び安全性を損なわないことを担保できるよう、適切な方策を講じておく必要がある。製造業者は、使用する抗体に関する適切な情報を提供できるようにしておく必要がある。
製剤化の際に(場合によっては、原薬に)使用する添加剤及び容器/施栓系の品質は、薬局方に規格及び試験方法があり、かつそれが適切である場合には、薬局方の基準を満たす必要がある。薬局方に収載されていない添加剤に関しては、適切な規格及び試験方法を設定する必要がある。
2.4 薬局方の規格及び試験方法
薬局方には、原薬あるいは製剤の品質評価方法として利用できる試験方法及び規格値/適否の判定基準に関する重要な事項が収載されている。生物薬品に適用できる試験項目としては、一般に、無菌試験、エンドトキシン試験、微生物限度試験、実容量試験、質量偏差試験/含量均一性試験、並びに不溶性微粒子試験及び不溶性異物検査が挙げられるが、これらに限られる訳ではない。薬局方の試験方法及び規格値/適否の判定基準の利用という面からみた場合、本ガイドラインの価値は、ひとえに日・米・欧各薬局方間での分析方法のハーモナイゼーションの進捗状況に依存している。薬局方には、薬局方間で同一の、又は方法論的に同等の試験操作及び規格値/適否の判定基準を設定していくことを付託している。
2.5 出荷規格及び有効期間内規格
出荷規格及び有効期間内規格を設定するという考え方は、その妥当性が明らかにされた場合には、適用してもよい。この考え方は、原薬又は製剤について、有効期間内規格よりも厳しい規格値/適否の判定基準を出荷規格として設定するというものである。この考え方が適用できる例としては、力価や分解物・変化物の許容限度が挙げられる。出荷規格の考え方が社内的な品質管理法としてのみ適用され、規制対象となる有効期間内規格としては適用されない国/地域がある。
2.6 統計的な考え方
データが定量的に取り扱える場合には、必要に応じて、適切な統計解析を適用する必要がある。解析方法について、その方法を採用した根拠及びその妥当性も含めて、申請資料中に詳細に記載すること。資料中に提示されている結果を、規制当局が改めて計算して確認できるよう、十分明確に記載しておくこと。
3. 規格及び試験方法の設定根拠
原薬及び製剤の規格及び試験方法の設定は、原材料及び添加剤の管理、工程内管理試験、工程の評価/検証、GMPの遵守、安定性試験、ロット間での恒常性を確認するための試験などと共に、品質確保に係わる方策全体の要素の1つである。これらの要素をすべて組み合せると、医薬品の適切な品質が保証されるということである。規格及び試験方法の項目は、医薬品の特性解析を目的として選択するというより、むしろ品質の確認を旨として選択する。したがって、規格及び試験方法として特定の品質特性についての試験を採択したり除外したりする根拠及びその妥当性を明確にする必要がある。科学的に妥当性のある規格及び試験方法を設定するに当たっては、以下の点を考慮する必要がある。
・ 規格及び試験方法の設定には製造工程を勘案すること。
規格及び試験方法は、製造の一定性を立証するために使用したロットから得られたデータに基づいて設定される必要がある。規格及び試験方法を製造工程と関連付けて考えることは重要なことであり、特に、目的物質関連物質、目的物質由来不純物及び製造工程由来不純物については重要である。製造工程の変更や保存中の分解物・変化物の生成により、不均一性パターンが非臨床試験及び臨床試験に用いた製品でのパターンと異なってしまうことがある。その場合には、その変化がどのような意味を持つかについて評価する必要がある。
・ 規格及び試験方法の設定には原薬及び製剤の安定性を勘案すること。
原薬及び製剤の分解・変化は、保存中に生じる可能性があるが、規格及び試験方法を設定する際には、これらについて考慮する必要がある。生物薬品は本質的に複雑な分子であるため、安定性面での特性をそれだけで明らかにすることができるような安定性評価試験法やパラメータはない。したがって、製造業者は、当該医薬品の同一性、純度及び力価の変化などを総合的に捉えることができる安定性評価指標を定め、提示する必要がある。そして、この安定性評価指標に基づいて実施した試験の結果により、医薬品の品質の変化を確実に捉えられることが保証されることになる。どのような試験項目を含めるかは、医薬品ごとに異なる。本件については、ICHガイドラインQ5C「生物薬品(バイオテクノロジー応用製品/生物起源由来製品)の安定性試験」を参照すること。
・ 規格及び試験方法の設定には非臨床試験及び臨床試験のデータを勘案すること。
規格及び試験方法は、非臨床試験及び臨床試験に使用したロットから得られたデータに基づいている必要がある。実生産規模で製造される医薬品の品質は、非臨床試験及び臨床試験に使用したロットの品質に相当するものである必要がある。
・ 規格及び試験方法の設定には分析法を勘案すること。
生物薬品における極めて重要な品質特性には、力価、並びに目的物質関連物質、目的物質由来不純物及び製造工程由来不純物の種類や存在量などがある。このような特性は、様々な分析法により評価できるが、分析法が違えば結果も異なる。医薬品開発の過程においては、医薬品の開発状況と平行して分析法が発達していくことも希ではない。このため、開発中に得られたデータが、承認・許可の時点で提出したデータと相関していることを確認することが重要である。
4. 規格及び試験方法
規格及び試験方法に採用する項目及び試験法の選択は、製品により異なる。規格値/適否の判定基準の適合範囲の設定根拠を明らかにする必要がある。規格値/適否の判定基準は、非臨床試験や臨床試験に用いたロットから得られたデータ、製造の一定性を示すために用いたロットから得られたデータ、及び安定性試験データ、並びに製品の開発段階で得られた適切なデータに基づいて設定し、その根拠を示す必要がある。
原薬又は製剤の段階で試験を実施するより、むしろ製造段階で試験を実施する方が適切で、かつ受け入れられる場合もある。その場合、試験結果は、工程内管理試験の規格値/適否の判定基準の対象と考えるべきである。各国/地域の規制当局の要件によっては、原薬又は製剤の規格及び試験方法に含める必要がある。
4.1 原薬の規格及び試験方法
以下の試験及び規格値/適否の判定基準に係わる項目は、通例、すべての原薬において設定されるものである(分析方法については2.2.2項参照)。原薬では、適宜、薬局方の試験(例えば、エンドトキシン試験)を行う。これらに加えて、原薬ごとに必要とされる特有の規格値/適否の判定基準が設定されることになる。
4.1.1 外観・性状
原薬の物理的状態(例えば、固体、液体)及び色を定性的に規定する。
4.1.2 確認試験
確認試験は、その原薬に極めて特異的である必要がある。また、分子構造上の特徴やその他の特有の性質に基づいて設定する必要がある。同一性を確認するためには、2種類以上の試験(理化学試験、生物学的試験、免疫化学的試験)が必要となろう。確認試験は定性的なものでもよい。確認試験には、2.1項及び付録6.1項に記載されているような製品の特性解析のためによく用いられる試験法のうちのいくつかが、そのまま、あるいは目的に沿うよう改変して用いられる。
4.1.3 純度と不純物
生物薬品の絶対的な純度を決定するのは困難であり、また、得られた結果は用いた試験方法に依存する(2.1.4項参照)。このため、原薬の純度は、通例、複数の分析方法の組合せにより評価される。分析方法を選択し、最適化する際には、目的物質、目的物質関連物質及び不純物を相互に分離することに重点を置くべきである。
生物薬品中に存在する不純物は、製造工程由来不純物及び目的物質由来不純物に分類される。
・ 原薬中の製造工程由来不純物(2.1.4項参照)には、培地、宿主細胞由来タンパク質、DNA、精製に用いられるモノクローナル抗体やクロマトグラフ用担体の構成成分、溶媒、緩衝液成分などがある。製造工程の適切な管理により、これらの不純物は最小限にする必要がある。
・ 原薬中の目的物質由来不純物(2.1.4項参照)は、製造中や保存中に生成し、目的物質とは異なる性質を有する分子変化体のことである。
不純物に関する試験方法の選択及び最適化に際しては、目的物質及び目的物質関連物質を不純物から分離することに重点を置くべきである。不純物に関する規格値は、それぞれ個別に若しくは総量で適切に設定する必要がある。不純物のうちのあるものについては、適切なプロセスコントロールを行うことで、規格値を必ずしも設定する必要がないものもある(2.3項参照)。
4.1.4 力価
生物薬品の原薬の規格及び試験方法には、適切な、バリデーションされた力価試験(2.1.2項参照)が必要である。しかし、適切な力価試験を製剤について設定していれば(4.2.4項参照)、原薬の段階での定量的な評価には、代替試験法(理化学的試験法や生物学的試験法)でも十分な場合がある。また、比活性の測定により、更に有用な情報が得られる場合もある。
4.1.5 物質量
通例タンパク質量(質量)で表される原薬の物質量は、適切な定量法を用いて測定する。物質量(タンパク質量)の測定には標準品・標準物質を必要としない場合もある。製品の製造が力価に基づいて行われる場合には、別途あえて物質量(タンパク質量)の測定をする必要はない。
4.2 製剤の規格及び試験方法
以下の試験及び規格値/適否の判定基準に係わる項目は、通例、すべての製剤において設定されるものである。4.2.1項~4.2.5項の各項目は、それぞれ原薬の4.1.1項~4.1.5項の各項目に対応する。剤形について薬局方に関連する規定がある場合、それらの規定が適用される。薬局方に収載されている代表的な試験法には、無菌試験、エンドトキシン試験、微生物限度試験、実容量試験、不溶性微粒子試験及び不溶性異物検査、質量偏差試験/含量均一性試験、並びに凍結乾燥製剤に対する含湿度試験があるが、これらの試験に限られる訳ではない。質量偏差試験/含量均一性試験は工程内管理試験として実施し、規格値を設定することでもよい。
4.2.1 外観・性状
製剤の物理的状態(例えば、固体、液体)、色及び澄明度を定性的に規定する。
4.2.2 確認試験
確認試験は、その製剤に極めて特異的である必要がある。また、分子構造上の特徴やその他の特有の性質に基づいて設定する必要がある。確認試験は定性的なものでもよい。ほとんどの場合、1種類の試験で十分であると考えられるが、製品によっては同一性を確認するために2種類以上の試験(理化学試験、生物学的試験、免疫化学的試験)が必要となる場合もある。確認試験には、2.1項及び付録6.1項に記載されているような製品の特性解析のためによく用いられる試験法のうちのいくつかが、そのまま、あるいは目的に沿うよう改変して用いられる。
4.2.3 純度と不純物
不純物は、製剤の製造の際あるいは保存中に、生成したり増加したりする可能性がある。これらの不純物は、原薬に元々存在する目的物質由来不純物や製造工程由来不純物と同じものか、製剤化中あるいは製剤の保存中に特異的に生成する分解物・変化物のいずれかである。もし不純物が定性的にも定量的にも(すなわち、相対量あるいは濃度で)原薬中のものと同じであるということであれば、試験項目として設定する必要はない。新たに不純物が製剤の製造中あるいは保存中に生じることが判明している場合には、これらの不純物のレベルを測定し、規格値を設定する必要がある。
規格値と分析方法は、製剤についてのそれまでの経験に基づき、製剤の製造中あるいは保存中の原薬の変化を測定できるよう設定し、かつその設定根拠及び妥当性を示す必要がある。
試験方法の選択及び最適化に際しては、目的物質及び目的物質関連物質を、分解物・変化物を含めた不純物及び添加剤から分離することに重点を置くべきである。
4.2.4 力価
生物薬品の製剤の規格及び試験方法には、適切な、バリデーションされた力価試験(2.1.2項参照)が必要である。しかし、適切な力価試験を原薬について設定していれば、製剤の段階での定量的な評価には、代替試験法(理化学的試験法や生物学的試験法)でも十分な場合がある。ただし、そのような設定を行う場合には、その妥当性を示すこと。
4.2.5 物質量
製剤中の原薬の量は、通例、タンパク質量(質量)で表し、適切な定量法を用いて測定する。製品の製造が力価に基づいて行われる場合には、別途あえて物質量(タンパク質量)の測定をする必要はない。
4.2.6 その他の一般的試験項目
製剤の機能を評価する上で、物理的性質及び他の品質特性の測定が重要となる場合が多い。このような試験の例としては、pH、浸透圧がある。
4.2.7 特殊な剤形のための追加試験項目
剤形によっては、その特殊性に鑑み、上記の試験項目の他に、試験項目の追加が必要となる場合もあることを考えておく必要がある。
5. 用語集(注:以下の定義は本ガイドラインのために示したものである。)
規格及び試験方法(Specification)
「規格及び試験方法」とは、試験項目、用いる分析方法、及びその方法で試験したときの規格値/適否の判定基準(数値で表した限度値又は範囲、あるいはその他の基準)を示したものとして定義される。規格及び試験方法は、原薬、製剤又はこれらの製造工程における中間体が、それぞれの使用目的にかなっていると判定するために必要な要素をセットにして定めたものである。「規格及び試験方法に適合する」とは、原薬及び製剤について、示された各分析方法に従って試験するときにすべての規格値/適否の判定基準に適合するということである。規格及び試験方法は、承認申請時に、その設定理由と共に製造業者から提示され、規制当局により承認のための必須条件とされるもので、医薬品の品質確保上、極めて重要な規制基準である。
規格値/適否の判定基準(Acceptance Criteria)
所定の分析方法に従い試験した結果の適合基準となる数値で表した限度値又は範囲、あるいはその他の適切な基準で、原薬、製剤又はこれらの製造工程における中間体が満たすべきもの。
原薬(Drug Substance, Bulk Material)
製剤を製造するための医薬品原料。これに添加剤を加えて製剤を製造する。原薬は、目的物質、目的物質関連物質、並びに目的物質由来不純物及び製造工程由来不純物から構成される。また、添加剤(緩衝液のような成分も含める)を含有する場合もある。
混入汚染物質(Contaminants)
原薬及び製剤の製造工程には本来存在しないはずのもので、外来性の物質(例えば、化学物質、生化学的な物質、微生物類など)すべてを指す。
自家一次標準物質(In-House Primary Reference Material)
製造業者が生産ロットの生物学的試験(バイオアッセイ)及び理化学試験に使用する目的で、代表的な生産ロットから調製し、適切な特性解析を行ったもの。これを基準として自家常用標準物質の検定を行う。
自家常用標準物質(In-House Working Reference Material)
自家一次標準物質と同様に調製され、ある特定の製品特性について、各生産ロットを評価、管理するために、確立されたもの。通例、自家一次標準物質を基準として検定される。
処置基準値(Action Limits)
重要度が比較的低い製造工程の一定性を評価するときに用いる製造業者が自家で定めた基準値。
製剤(Drug Product, Dosage Form, Finished Product)
臨床に供される医薬品の製品形態で、一般に、原薬に加えて添加剤を含む。
生物活性(Biological Activity)
特定の生物学的効果を発揮するための製品の特異的な機能やその程度。「力価」は、生物活性を定量的に表す尺度である。
添加剤(Excipient)
原薬や製剤に意図的に添加する成分で、そこで使用される量では薬理学的作用を持たないもの。
標準品(Reference Standards)
国際標準品又は国内標準品を指す。
不純物(Impurity)
目的物質、目的物質関連物質、及び添加剤(緩衝液成分も含める)以外の原薬又は製剤中に存在する成分。製造工程由来のものもあれば目的物質由来のものもある。
製造工程由来不純物(Process-Related Impurities)
製造工程に由来する不純物。これらには、細胞基材に由来するもの(例えば、宿主細胞由来タンパク質、宿主細胞由来DNA)、細胞培養液に由来するもの(例えば、インデューサー、抗生物質、培地成分)、あるいは細胞培養以降の工程である目的物質の抽出、分離、加工、精製工程に由来するもの(例えば、細胞培養以降の工程に用いられる試薬・試液類、クロマトグラフ用担体からの漏出物)がある。
目的物質由来不純物(Product-Related Impurities)
目的物質の分子変化体(例えば、前駆体、製造中や保存中に生成する分解物・変化物)で、生物活性、有効性及び安全性の点で目的物質に匹敵する特性を持たないもの。
分解物・変化物(Degradation Products)
目的物質や目的物質関連物質から、経時的に、あるいは光、温度、pH、水分等の作用、又は添加剤あるいは直接接触する容器/施栓系との反応により、生成する分子変化体のこと。このような変化(例えば、脱アミド化、酸化、凝集、プロテアーゼによる分解)は、製造中あるいは保存中に生じる可能性がある。分解物・変化物は、目的物質関連物質であることもあるし、目的物質由来不純物であることもある。
目的物質(Desired Product)
(1)予期した構造を有するタンパク質、(2)DNA塩基配列から期待されるタンパク質、(3)しかるべき翻訳後修飾(グリコフォームの生成を含む)から期待されるタンパク質、及び(4)生物活性分子を生産するのに必要な、意図的な加工・修飾操作から期待されるタンパク質。
目的物質関連物質(Product-Related Substances)
製造中や保存中に生成する目的物質の分子変化体で、生物活性があり、製品の安全性及び有効性に悪影響を及ぼさないもの。これらの分子変化体は目的物質に匹敵する特性を備えており、不純物とは考えない。
力価(Potency)
当該医薬品の生物学的性質に関連する特性に基づいて、適切で定量的な生物学的試験(「力価試験」又は「バイオアッセイ」ともいう)により測定され、生物活性を定量的に表す尺度。
6. 付録
6.1 物理的化学的特性解析に関する付録
本付録は、目的物質、原薬あるいは製剤の構造解析や構造確認及び物理的化学的性質の評価に際して技術的にどのようにアプローチしていけばよいかという例を示している。製品ごとに用いるアプローチは異なるであろうし、本付録に示す方法以外のものが適切な場合も多い。新しい分析技術の開発や既存の技術の改良は日進月歩で進んでいるので、適時取り入れるべきである。
6.1.1 構造解析・構造確認
a) アミノ酸配列
目的物質のアミノ酸配列は、b)からe)の項に記載したような方法によりできる限り決定し、目的物質をコードする遺伝子配列から推定されるアミノ酸配列と比較する。
b) アミノ酸組成
全アミノ酸組成は、種々の加水分解法及び分析方法により決定し、目的物質をコードする遺伝子配列から推定されるアミノ酸組成と比較する。必要に応じて、対応する天然型タンパク質のアミノ酸組成と比較する。ペプチドや低分子量のタンパク質については、アミノ酸組成分析により有用な構造情報が得られることが多いが、高分子量のタンパク質については、必ずしも一般的にそうとはいえない。定量的なアミノ酸分析のデータは、タンパク質量の定量にも利用できる場合が多い。
c) 末端アミノ酸配列
末端アミノ酸分析は、アミノ末端(N末端)及びカルボキシ末端(C末端)アミノ酸の種類及び均一性を確認するために行う。目的物質が末端アミノ酸に関して不均一であることが認められた場合には、各分子変化体の相対量を適切な分析方法により測定する。末端アミノ酸配列は、目的物質をコードする遺伝子配列から推定される末端アミノ酸配列と比較する。
d) ペプチドマップ
目的物質を適当な酵素又は化学物質を用いて個々のペプチドに選択的に断片化し、得られたペプチド断片を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)又は他の適切な方法により分析する。これらのペプチド断片は、アミノ酸組成分析、N末端アミノ酸配列分析又は質量分析などの方法により、可能な範囲で同定する。適切にバリデーションされた分析法による原薬や製剤のペプチドマッピングは、ロットごとの規格及び試験方法において、目的物質の構造確認にしばしば用いられる試験法となる。
e) スルフヒドリル基及びジスルフィド結合
目的物質をコードする遺伝子配列からシステイン残基があるとされる場合には、すべての遊離スルフヒドリル基あるいはジスルフィド結合の数及び位置を可能な範囲で決定する。ペプチドマッピング(還元条件下及び非還元条件下)、質量分析、又は他の適切な分析法を用いて評価する。
f) 糖組成・糖鎖構造
糖タンパク質の場合には、糖含量(中性糖、アミノ糖、シアル酸)を決定する。更に、糖鎖構造、オリゴ糖パターン(枝分かれ構造についてのプロファイル)及びポリペプチド鎖の糖鎖結合部位をできる限り分析する。
6.1.2 物理的化学的性質
a) 分子量・分子サイズ
分子量(又はサイズ)を、サイズ排除クロマトグラフィー、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE、還元条件下あるいは非還元条件下)、質量分析又は他の適切な分析法により決定する。
b) アイソフォームパターン
アイソフォームパターンを、等電点電気泳動又は他の適切な分析法により決定する。
c) 比吸光度(又はモル吸光係数)
特定の紫外可視領域での波長(例えば、280nm)における目的物質の比吸光度(又はモル吸光係数)を決定することが望ましい場合が多い。比吸光度は、アミノ酸組成分析又は窒素定量法等の方法により測定した既知のタンパク質濃度の溶液を試料として、紫外可視分光光度法により決定する。紫外吸収をタンパク質量測定に用いる場合は、当該目的物質の比吸光度を用いる。
d) 電気泳動パターン
電気泳動パターン、並びに同一性、均一性及び純度に関するデータを、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動、SDS-PAGE、ウェスタンブロット、キャピラリー電気泳動、又は他の適切な方法により測定する。
e) 液体クロマトグラフィーパターン
クロマトグラフィーパターン、並びに同一性、均一性及び純度に関するデータを、サイズ排除クロマトグラフィー、逆相液体クロマトグラフィー、イオン交換液体クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、その他の適切な方法により測定する。
f) 分光学的性質
紫外可視吸収スペクトルを、必要に応じて測定する。目的物質の高次構造を、円偏光二色性、核磁気共鳴(NMR)、その他の適切な分析法により必要に応じて検討する。
6.2 不純物に関する付録
本付録では、混在する可能性のある不純物について例示し、その由来及び適切な検出方法の例を示す。個々の不純物及びそれらを検出する方法は、物理的化学的特性解析の場合と同様に、製品ごとに異なるであろうし、本付録に示されていない方法が適切な場合も多い。新しい分析技術の開発や既存の技術の改良は日進月歩で進んでいるので、適時取り入れるべきである。
6.2.1 製造工程由来不純物及び混入汚染物質
製造工程に由来する不純物(2.1.4項参照)は、細胞基材に由来するもの、細胞培養液に由来するもの、及び細胞培養以降の工程である目的物質の抽出、分離、加工、精製工程に由来するものの3つの範疇に大別される。
a) 細胞基材に由来する不純物には、例えば、宿主細胞由来タンパク質、核酸(宿主ゲノム由来、ベクター由来、総DNA)などがある。宿主細胞由来タンパク質に対しては、広範なタンパク質性不純物を検出することができる高感度な分析法、例えばイムノアッセイが一般に用いられる。イムノアッセイの場合、試験に用いるポリクローナル抗体は、産生細胞から目的物質をコードする遺伝子を除いた細胞から調製した標品、細胞融合の相手となる細胞から調製した標品、又は他の適当な細胞株から調製した標品などを免疫することにより得られる。宿主細胞由来のDNAは、(ハイブリダイゼーション法などにより)製品を直接測定することにより検出される。実験室スケールでの添加回収実験などによる不純物クリアランス試験は、核酸や宿主細胞由来タンパク質のような細胞基材に由来する不純物が除去されていることを示すためのものであるが、クリアランス試験をこれらの不純物について規格値を設定しない根拠にできることもある。
b) 細胞培養液に由来する不純物には、例えば、インデューサー、抗生物質、血清、その他の培地成分などがある。
c) 細胞培養以降の工程である目的物質の抽出、分離、加工、精製工程に由来する不純物には、例えば、酵素、化学的・生化学的試薬(例えば、臭化シアン、グアニジン、酸化剤及び還元剤)、無機塩(例えば、重金属、ヒ素、非金属イオン)、溶媒、クロマトグラフ用担体、アフィニティクロマトグラフ用担体のリガンド(例えば、モノクローナル抗体)、その他の漏出物などがある。
製造工程中で意図的に添加したウイルス、内在性のウイルス、及び製造工程に迷入する可能性のあるウイルスについては、製造工程のウイルス除去/不活化の能力を示す必要がある。この点については、ICHガイドラインQ5A「ヒト又は動物細胞株を用いて製造されるバイオテクノロジー応用医薬品のウイルス安全性評価」を参照すること。
6.2.2 目的物質由来不純物(分解物・変化物を含む)
目的物質の分子変化体の最も代表的な例を以下に挙げ、それらを評価するための適切な方法を例示する。分子変化体がどのような修飾を蒙ったものであるかを明らかにするための変化体の単離及び特性解析には、かなりの努力を必要とすることもある。分解物・変化物のうち、製造中あるいは保存中にそれなりの量が生成するものについては、適切に設定した規格値の範囲内にあることを試験する必要がある。
a) 切断体:加水分解酵素や化学物質がペプチド結合の開裂を触媒することがある。
切断体の検出には、HPLCやSDS-PAGEが有用である。ペプチドマッピングも分子変化体の特性によっては有用な方法である。
b) 切断体以外の分子変化体:脱アミド体、異性体、ジスルフィド結合ミスマッチ体、酸化体、あるいは複合タンパク質(例えば、糖鎖付加、リン酸化したタンパク質)の分子変化体などについては、クロマトグラフィー(例えば、HPLC)、電気泳動(例えば、キャピラリー電気泳動)、あるいは他の適切な分析法(例えば、質量分析、円偏光二色性)により検出及び特性解析ができる。
c) 凝集物:凝集物の範疇には、目的物質の二量体や多量体が含まれる。通常、これらは適切な分析法(例えば、サイズ排除クロマトグラフィー、キャピラリー電気泳動)により、目的物質及び目的物質関連物質から分離され、定量される。
注) 本ガイドライン中で引用されているICHガイドラインについては、次のとおりである。
Q2A: 「分析法バリデーションに関するテキスト(実施項目)について」(平成7年7月20日薬審第755号薬務局審査管理課長通知)
Q2B: 「分析法バリデーションに関するテキスト(実施方法)について」(平成9年10月28日医薬審第338号医薬安全局審査管理課長通知)
Q5A: 「ヒト又は動物細胞株を用いて製造されるバイオテクノロジー応用医薬品のウイルス安全性評価について」(平成12年2月22日医薬審第329号医薬安全局審査管理課長通知)
Q5C: 「生物薬品(バイオテクノロジー応用製品/生物起源由来製品)の安定性試験について」(平成10年1月6日医薬審第6号医薬安全局審査管理課長通知)
Q5D: 「生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)製造用細胞基材の由来、調製及び特性解析について」(平成12年7月14日医薬審第873号医薬安全局審査管理課長通知)
Q6A: 「新医薬品の規格及び試験方法の設定について」(平成13年5月1日医薬審発第568号医薬局審査管理課長通知)