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○新医薬品の規格及び試験方法の設定について

(平成一三年五月一日)

(医薬審発第五六八号)

(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬局審査管理課長通知)

新有効成分含有医薬品の医薬品の製造(輸入)承認申請書の規格及び試験方法の記載内容については、「新医薬品の規格及び試験方法の設定に関するガイドラインについて」(平成6年9月1日医薬審第586号薬務局審査課長通知)により示されているところであるが、今般、日米EU医薬品規制調和国際会議における合意に基づき、別添のとおり、「新医薬品の規格及び試験方法の設定」(以下「本ガイドライン」という。)をとりまとめ、下記により取扱うこととしたので、御了知の上、貴管下関係業者に対し周知徹底方御配慮願いたい。

また、平成6年9月1日医薬審第586号薬務局審査管理課長通知を平成13年6月30日付けで廃止する。

なお、本通知の写しを日本製薬団体連合会会長あてに発出することを申し添える。

第1 本ガイドラインの取扱いについて

1 平成13年7月1日以降に申請する新有効成分含有医薬品の申請書の規格及び試験方法に関する資料は、本ガイドラインに従って作成すること。

2 平成15年6月30日までに承認申請されるものについては、従前の例によることができること。

3 本ガイドラインは、化学合成により製造される新有効成分含有医薬品を対象としていること

4 定期的試験/スキップ試験及び工程内試験の適用については、許可都道府県に相談すること。パラメトリックリリースについては、当面の間、無菌試験等を対象とするが、その適用を予定する申請者においては、承認申請時にその妥当性を示す資料を提出すること。

5 本ガイドラインは、規格及び試験方法の設定に関する標準的な考え方を示したものであり、合理的な理由がある場合においては、一律に本ガイドラインの適用を求めるものではないこと。

6 本ガイドライン「2.8.薬局方の一般試験法とその判定基準」において、日本薬局方、米国薬局方及び欧州薬局方の3薬局方間で調和され、試験法及び判定基準が当該3薬局方間で同等であると見なされる一般試験法及び当該判定基準については、「日本薬局方における薬局方の国際調和における合意事項の取扱いについて」(平成13年5月1日医薬審発第574号医薬局審査管理課長通知)に示すこと。

第2 新医薬品の規格及び試験方法の設定に関する留意事項

1 薬局方の取扱い

(1) 規格及び試験方法の設定に際しては、日本薬局方の通則、製剤総則、一般試験法、標準品及び試薬・試液等を準用することを原則とするが、日本薬局方以外の試験方法等を採用することは、それらが米国薬局方及び欧州薬局方等に収載されている場合には差し支えない。

(2) 本ガイドライン「2.8.薬局方の一般試験法とその判定基準」において、「適切なものがあれば、新医薬品の承認申請においても薬局方の一般試験法を利用すべきである。」でいう「薬局方」とは、日本薬局方をいう。

(3) 実測値は、原則として実生産工程を反映した3ロット以上の検体について記載する。数値で得られる試験結果については、具体的な測定結果(数値)を記載する。実測値測定における、サンプリング、測定及び測定データ処理等には統計的な考え方を適切に取り入れる。

(4) 日本薬局方等公定書収載の試験方法、及び国際調和により同意を得ている試験方法は、バリデートされたものとみなす。

(5) 規格及び試験方法の記載項目の例としては、表1に掲げる項目を参考にされたい。

表1 規格及び試験方法の記載項目の例

項目

1 名称*

2 構造式又は示性式*

3 分子式及び分子量*

4 基原*

5 含量規格*

6 性状

7 確認試験

8 示性値(物理的化学的性質等)

9 純度試験

10 水分含量(水分又は乾燥減量)

11 強熱残分、灰分又は酸不溶性灰分

12 製剤試験

13 特殊試験*

14 その他の試験項目(微生物限度試験、原薬の粒子径を含む)

15 定量法

16 標準物質

17 試薬・試液*

注1)*印は本ガイドラインに記載のないものである。

注2)特殊試験には、異常毒性否定試験、抗原性試験、制酸力試験、消化力試験などがある。

注3)結晶多形、光学活性等については、本ガイドラインに基づき、内容に応じて、確認試験、示性値(旋光度)、純度試験、その他の試験項目(異性体比、結晶形の存在比)、定量法などの項目に適切な規格を設定する。

2 製剤試験について

製剤試験は、製剤の特性又は機能等の品質を規定する試験であり、それに必要な試験項目を設定すること。本ガイドライン中に記載がない剤形については、原則として設定の検討が必要とされる試験内容を表2の記載項目の中から選択することとするが、その他当該製剤の機能を特徴づけ、その有用性を保証するために必要な試験項目があれば追加設定すること。

表2 設定の検討が必要とされる試験内容

剤形

試験内容

エアゾール剤(定量性が要求されるもの)

噴射時間と噴射量との関係、粒子径試験(懸濁タイプの場合)

エリキシル剤、酒精剤、チンキ剤、流エキス剤

アルコール数測定

眼軟膏剤

金属性異物試験、無菌試験、放出試験a)、粒子径試験、展延性試験

硬膏剤等の経皮吸収剤

粘着性試験、放出試験a)

坐剤

溶融温度試験、放出試験a)、軟化点

点眼剤

不溶性異物検査b)、無菌試験、放出試験a)c)、粒子径試験c)

a)「放出試験」と記載したものについては、日本薬局方製剤総則の規定の有無にかかわらず、規格及び試験方法の設定を検討する。坐剤及び経皮吸収剤等について放出試験を設定する場合は、放出機能を保証し得ることを説明する。放出調整製剤については、放出調整機能を保証し得る根拠を記載する。

b)水溶液である点眼剤につき設定する。

c)懸濁性製剤につき設定する。

3 規格及び試験方法の項目別の設定

各項目の設定は以下のとおりとすること。

(1) 実測値測定ロット(バッチ)

ロット(バッチ)番号及びサイズ、製造年月、製造場所を記載する。

(2) 構造式又は示性式

原薬について、日本薬局方に準拠して記載する。

(3) 分子式及び分子量

原薬について、日本薬局方に準拠して記載する。

(4) 基原

化学合成により製造されたもので、化学構造の決定しているものについては基原について記載する必要はない。ただし、重合体等で構造式を記載しない場合には必ずその基原について記載する。

(5) 含量規格

含量規格としては、製造過程、定量誤差及び安定性等に基づき、有効性と安全性に関して同等とみなせる一定の品質を保証するのに必要な規格値を設定する。なお、有効成分の含量を原薬は%で、製剤は表示値に対する%で示し、原則として下限及び上限値を設定する。有効成分の含量を%で示すことが不適当なものについては、力価で示すこととする。

(6) 製剤設計

放出調節製剤のように特別な製剤機能を付与した製剤の場合は、製剤設計過程の製剤評価結果等を含めて、「徐放性製剤(経口投与製剤)の設計及び評価に関するガイドラインについて」(昭和63年3月11日薬審一第5号薬務局審査第一課長・生物製剤課長連名通知)の趣旨を考慮すること。

新医薬品の規格及び試験方法の設定

目次

1. 序文

1.1 本ガイドラインの目的

1.2 背景

1.3 本ガイドラインの適用範囲

2. 一般的な概念

2.1 定期的試験/スキップ試験

2.2 出荷のための判定基準と有効期間を考慮した判定基準

2.3 工程内試験

2.4 設計時及び開発段階のデータの考慮

2.5 承認申請時に得られているデータには限りがあること

2.6 パラメトリックリリース

2.7 代替法

2.8 薬局方の一般試験法とその判定基準

2.9 技術の進展

2.10 製剤の規格に対する原薬の影響

2.11 標準品

3. ガイドライン

3.1 規格:その定義と妥当性の立証

3.1.1 規格の定義

3.1.2 規格の妥当性の立証

3.2 規格に必ず設定すべき試験方法と判定基準

3.2.1 新原薬

3.2.2 新製剤

3.3 原薬や製剤の各剤形の特性に応じて設定すべき試験方法と判定基準

3.3.1 新原薬

3.3.2 新製剤

4. 用語集

5. 参考

6. 添付文書:フローチャート#1~#8

1. 序文

1.1. 本ガイドラインの目的

本ガイドラインは、新原薬と新製剤について、世界規模での単一の規格及び試験方法(以下、「規格」という。)の設定を促進することを目的としている。本ガイドラインは、米国、ヨーロッパ連合(EU)または日本においてこれまでに承認されていない化学合成の新原薬とそれを用いて製造される新製剤に関して、規格値/判定基準(以下、「判定基準」という。)の設定、その妥当性の立証ならびに試験方法の選択のための指針を与えるものである。

1.2. 背景

規格とは、試験方法、その試験に用いる分析法に関する記載、ならびにその方法で試験したときの適否の判定基準(限度値、許容範囲あるいはその他の基準)からなるリストと定義される。原薬または製剤が意図した用途に相応しいものであるために適合すべき一組みの基準である。また、「規格に適合する」とは、規定された方法に従って試験するとき、原薬や製剤がリストにあるすべての判定基準に適合することを意味する。規格は、医薬品の製造業者がその妥当性を示す資料を添付して申請し、行政当局によりその医薬品を製造するための条件として承認された遵守すべき(critical)品質の基準である。

規格は、製品の品質ならびに恒常性を確保するために用いられる原薬や製剤を管理するための方策の一つである。この方策としては、この他にも規格を設定する際の基礎とすべき開発段階における徹底的な製品特性の解析、GMPの遵守(例えば、適切な施設、バリデートされた製造工程、バリデートされた試験方法、原料の試験、工程内試験、安定性試験など)がある。

規格の各項目は、原薬及び製剤の特性を遍く示すことよりも、それらの品質が適切なことを確認するために選ばれるものであり、原薬及び製剤の安全性や有効性を確保する上で有用な特性に焦点を絞るべきである。

1.3. 本ガイドラインの適用範囲

原薬及び製剤の品質は、その設計、開発、工程内管理、GMP管理及び製造工程のバリデーションにより、また、開発から実際に製造されるまでの間に設定される規格により決まる。本ガイドラインは、出荷時ならびに有効期間中の新原薬及び新製剤の品質を保証するのに主要な役割を果たす規格、すなわち、試験方法、分析法ならびにその判定基準を対象としている。規格は、品質保証の重要な要素ではあるが、その唯一の要素というわけではない。前述のすべての要素が、品質の高い原薬や製剤の恒常的な製造を保証していくのに必要である。

本ガイドラインは、新製剤(配合剤を含む)及び、適用が必要な地域では、新原薬の製造承認を対象としたものであり、医薬品開発の臨床試験段階にある原薬及び製剤は対象としない。本ガイドラインは、合成ならびに半合成の抗生物質及び低分子量の合成ペプチドにも適用可能である。しかしながら、高分子量のペプチド、ポリペプチド及びバイオテクノロジー応用医薬品/生物学的製剤の規格を適切に取り扱うのには十分とは言えない。バイオテクノロジー応用医薬品/生物学的製剤の規格については、ICHガイドラインで取り扱われている。放射性医薬品、醗酵製品、オリゴヌクレオチド、植物製剤(herbal products)及び動植物由来の生薬製剤も対象としない。

すべての新原薬及び新製剤に設定すべき試験方法と判定基準、ならびに原薬や製剤の各剤形の特性に応じて設定すべき試験方法と判定基準に関する指針が示されている。本ガイドラインは、作成された時点での技術のレベルを反映したものであり、すべてを網羅したものと考えるべきではない。新しい分析技術の開発や既存の分析技術の改良は絶えず行われており、妥当性が示されるならば、そうした技術を採用してもよい。

本ガイドラインでは、経口固形製剤、経口液状製剤及び注射剤(小容量及び大容量)の3つの剤形について触れている。このことは、本ガイドラインの適用をこれらの剤形だけに限定することを意味するものではない。これらの剤形はモデルとして示したものであり、触れなかった他の剤形、例えば、吸入剤(散剤、液状製剤など)、局所適用の製剤(クリーム、軟膏剤、ゲル)及び経皮吸収剤に対しても、本ガイドラインの考え方を拡張して適用することが推奨される。

2. 一般的な概念

調和された規格の開発と設定においては、下記のような概念が重要である。これらの概念は、どこにでも適用できるというものではなく、それぞれ特定の状況において考慮されるべきものである。本ガイドラインでは、各概念の簡単な定義及びそれらがどのような状況の下で適用され得るかを示す。これらの概念の適用に当たっては、申請者は、その妥当性を示した資料を関係する行政当局に提出し、その承認を得なければならない。

2.1. 定期的試験/スキップ試験(Periodic/skip testing)

定期的試験やスキップ試験は、試験されなかったロットであっても、その製品について設定されたすべての判定基準に適合していなければならないことをよく理解した上で、出荷時の特定の試験を、ロット毎ではなく、予め定められたロット数毎にあるいは予め定められた期間毎に行うことである。この概念を適用した場合には、すべてのロットについて試験する場合よりも試験する数が少なくて済むが、事前に行政当局にその妥当性を示し承認を受ける必要がある。この概念は、例えば、経口固形製剤における残留溶媒の試験及び微生物学的試験に適用できるであろう。承認申請時には限られたデータだけしか得られていないこともある(2.5.項参照)ので、この概念は、通常、承認後に適用されるものである。試験を行った場合に、定期的試験を行うに当たって設定された判定基準に適合しないようなことがあれば、どのような不適合であっても、それを適切な形で行政当局に報告する必要がある。これらのデータから、ルーチン試験に戻すことが必要と判断される場合には、ロット毎の出荷試験を再開すべきである。

2.2. 出荷のための判定基準と有効期間を考慮した判定基準(Release vs. shelf-life acceptance criteria)

出荷時の規格と有効期間を考慮した規格とでは異なった判定基準を適用すべきであるという概念で、製剤だけに適用される。この概念によれば、製剤の出荷のための規格には、有効期間を考慮した規格よりも厳しい判定基準を設定するのが適切とされる。この概念は、例えば、定量値や不純物(分解生成物)の限度値に適用し得る。日本と米国においては、行政当局は、出荷のための規格を承認申請に必要な規格として設定することを要求しておらず、各製薬企業がそれぞれ社内規格として設定している。したがって、これらの地域においては、承認申請に必要な判定基準は有効期間を考慮した判定基準のみであり、出荷の時点から有効期間の終わりまでずっと同じ判定基準が適用されることになる。しかしながら、申請者は、自社の製品が有効期間を通して承認された判定基準に適合することをよりよく保証するために、より厳しい判定基準を有する社内規格を出荷の際に適用する道を選んでもよい。一方、EUにおいては、行政当局は、出荷時と有効期間を考慮した場合とで異なった規格の設定が適切な場合、両者を承認申請に必要な規格として設定することを要求している。

2.3. 工程内試験(In-process tests)

工程内試験は、本ガイドラインに示されたように、出荷の際に行われる一連の正式な試験の一部としてではなく、原薬や製剤の製造工程において実施される試験のことである。

製造工程の作動状態の指標となるパラメータ群を適切な範囲内に収めることを目的としてのみ行われる工程内試験、例えば、コーティングを施される前の素錠の段階での硬度や摩損度の試験ならびに個々の錠剤の質量の試験は規格に含めない。

ある試験項目について出荷の際に要求されるのと同等のあるいはそれより厳しい判定基準の下で製造工程中に行われるある種の試験(例えば、溶液のpHの試験)のデータは、その試験項目が規格に含まれている場合には、出荷の際に規格要件を満たしているかどうかを判定するのに用いてもよいであろう。しかしながら、このアプローチを採用するには、試験結果や製剤の機能特性が工程内の段階から最終製品に至るまで変化しないことを示すバリデーションデータが必要である。

2.4. 設計時及び開発段階のデータの考慮(Design and development considerations)

新原薬あるいは新製剤の開発段階で蓄積された経験とデータは、規格を設定するための基礎とすべきものである。これらに基づいて、ある種の試験を削除したり、別の試験に代えたりすることが可能である。次のような例が挙げられている:

・開発段階において微生物の増殖や成長がないことが示された原薬や固形製剤の微生物学的試験(フローチャート#6及び#8参照)

・製剤中に容器からの溶出物が認められないか、認められたとしても安全性の基準値以下にあることが再現性良く示されている場合の製剤容器からの溶出物の試験

・粒子径の試験もこの範疇に入ると考えられるが、製品の機能との関連により、工程内試験として行われることもあるし、出荷試験として行われることもある。

・非常に水に溶け易い原薬から成る即放性の経口固形製剤の場合、常に速やかな溶出を示すことが開発段階において確かめられていれば、溶出試験を崩壊試験に代えてもよい(フローチャート#7(1)~#7(2)参照)。

2.5. 承認申請時に得られているデータには限りがあること(Limited data available at filing)

承認申請時に得られているデータには限りがあり、それが判定基準を設定するのに影響を及ぼし得ることを考慮する必要がある。このため、その原薬や製剤が実生産されるようになって、多くのデータが得られるようになったときには、判定基準の変更が必要となることがある(例:特定の不純物の許容限度値)。承認申請時の判定基準は、基本的には安全性と有効性に焦点を当てて設定する必要がある。

当初に限られたデータしか得られなかった場合には、より多くの経験やデータが得られた時点で、当初に承認された試験方法と判定基準について可能な変更を行うという観点で見直す必要がある。この見直しには、状況に応じて、判定基準を厳しくすることも、緩くすることも含まれる。

2.6. パラメトリックリリース(Parametric release)

製剤については、行政当局により承認された場合には、出荷試験を型にはまった形で行う代わりに、パラメトリックリリースを行ってもよい。最終段階で滅菌を行う製剤の無菌試験がその一つの例である。この場合、各ロットの出荷は、製剤製造の最終滅菌段階での特定のパラメータ、例えば、温度、圧力及び時間が満足しうる値を示していることを確認した上で行う。これらのパラメータは、一般に、正確に測定し管理することができるので、製品の無菌性を保証する上では、限られた数の最終製品について無菌試験を行うよりも、これらのパラメータを用いたパラメトリックリリースの方が信頼性が高い。パラメトリックリリースによる出荷のプログラムには、適切な試験(例えば、化学的あるいは物理的指標を用いるもの)が含まれることもあろう。パラメトリックリリースの採用を申請するには、製品の滅菌工程が適切にバリデートされていることが前提となること、ならびに定められた期間毎に再バリデーションを行って、バリデートされた状態が維持されていることを示す必要があることに留意しなければならない。パラメトリックリリースが実施される場合にも、それによって間接的に管理されている属性(例えば、無菌性)については、その試験方法とともに、規格に設定されている必要がある。

2.7. 代替法(Alternative procedures)

別の測定法によって、原薬または製剤のある属性を承認申請書記載の方法と同等あるいはそれ以上によく管理できるようであれば、その方法を代替法として用いてもよい。例えば、製造工程で原薬が分解しないことが確認されている錠剤の出荷試験には、承認申請書記載の方法がクロマトグラフ法であっても、吸光光度法を用いてもよい。しかしながら、代替法による適否の判定に疑義が生じた場合に、その製剤が有効期間を考慮した判定基準に適合しているかどうかを最終的に判定するためには、承認申請書記載のクロマトグラフ法を用いる必要がある。

2.8. 薬局方の一般試験法とその判定基準(Pharmacopoeial tests and acceptance criteria)

日米EUの薬局方には、種々の一般試験法が収載されている。適切なものがあれば、新医薬品の承認申請においても薬局方の一般試験法を利用すべきである。日米EUの薬局方の間には、規定されている一般試験法やその判定基準に違いがあるため、承認申請書に記載された試験方法と判定基準を三極の行政当局がいずれも受け入れる場合にだけ、調和した規格となる。

本ガイドラインが十分に活用されるものとなるかどうかは、新原薬あるいは新製剤の規格に設定されることの多いいくつかの属性に関連する薬局方の一般試験法の調和がうまく行くかどうかにかかっている。欧州薬局方(EP)、日本薬局方(JP)ならびに米国薬局方(USP)の三者から構成される薬局方検討会議(PDG)は、時宜に適った形で一般試験法の調和を成し遂げることを公約した。

調和が達成された一般試験法とその判定基準については、それを用いることを適切な形で示すことにより、三極のいずれにおいても受け入れられるであろう。例えば、無菌試験法の調和が達成された後には、日本薬局方の方法を用いて得られたデータは、日本薬局方の方法それ自体及びその判定基準と同様に、三極のいずれにおける承認申請においても受け入れられるであろう。一般試験法の調和が達成されたことを示すため、各薬局方は、日米EUの三薬局方に収載された当該一般試験法とその判定基準は同等であり、したがって、そのいずれを用いてもよい旨の記載をそれぞれの薬局方に適切な形で取り入れることに合意した。

本ガイドラインの全体としての価値は、日米EU三薬局方の一般試験法とその判定基準の調和の度合いと結びついたものであるため、本ガイドラインの専門家会議のメンバーは、三薬局方のいずれであろうとも調和が達成された各条や一般試験法を勝手に変更すべきでないとすることで合意した。調和の達成された各条ならびに一般試験法の改定に関する薬局方検討会議(PDG)の取り決めにおいても、「調和した旨の署名がなされた後、あるいは調和した各条や一般試験法が公布された後には、いかなる薬局方も各条や一般試験法を勝手に変更してはならない」とされている。

2.9. 技術の進展(Evolving technologies)

新しい分析技術の開発や既存の分析技術の改良は絶え間なく行われている。そうした技術の導入によって品質がこれまでよりもよく保証できると考えられる場合やその他の理由で妥当性が示される場合には、それらの技術を用いてもよい。

2.10. 製剤の規格に対する原薬の影響(Impact of drug substance on drug product specifications)

一般に、原薬に特に関係する属性については、製剤では試験を行う必要はない。例えば、原薬で管理されており、分解生成物でないことが示された化学合成医薬品中の不純物については、通常、製剤で試験を行う必要はないと考えられる。詳細については、ICHガイドラインQ3B「新有効成分含有医薬品のうち製剤の不純物に関するガイドライン」を参照のこと。

2.11. 標準品(Reference standard)

標準品あるいは標準物質は、定量、確認試験または純度試験において基準として用いるために調製された物質であり、その用途に適した品質を有する必要がある。標準品は、しばしばルーチンの試験においてはあまり使われないような試験法をも用いて、その特性が解析され、意図した目的に適ったものかどうかが評価される。定量法において使用される新原薬の標準品については、どのような不純物が含まれるかが明らかにされ、それらの不純物が管理されている必要がある。また、その純度については、定量的方法により測定される必要がある。

3. ガイドライン

3.1. 規格:その定義と妥当性の立証

3.1.1. 規格の定義

規格とは、試験方法、その試験に用いる分析法に関する記載、ならびに規定した方法で試験したときの適否の判定基準(限度値、許容範囲あるいはその他の基準)からなるリストと定義される。原薬または製剤が意図した用途に相応しいものであるために適合すべき一組みの基準である。また、「規格に適合する」とは、規定された方法に従って試験するとき、原薬や製剤がリストにあるすべての判定基準に適合することを意味する。規格は、医薬品の製造業者がその妥当性を示す資料を添付して申請し、行政当局によりその医薬品を製造するための条件として承認された遵守すべき(critical)品質の基準である。

規格には、出荷試験として行う試験に加えて、2.3項に規定された工程内試験、定期的試験あるいはスキップ試験ならびにロット毎にいつも行うわけではないその他の試験を規定してもよい。このような場合には、申請者は、どの試験はロット毎に実施し、どの試験はロット毎には実施しないのかを、後者の場合に実際に行う試験の頻度とそうした頻度で行うことの妥当性に関する考察とともに、承認申請書添付資料に示す必要がある。なお、そのような場合にも、原薬や製剤は、試験を行えば、規定された判定基準に適合するものでなければならない。

承認後の規格の変更には、行政当局の承認が必要なことに留意すべきである。

3.1.2. 規格の妥当性の立証

規格に設定する試験方法と判定基準については、その妥当性を示す必要がある。この妥当性は、開発段階における関連するデータ、薬局方記載の基準、毒性試験や臨床試験に用いられた原薬及び製剤のロットの試験データ、加速試験及び長期安定性試験の結果などに基づいて立証する必要がある。更に、分析ならびに製造の際に起こり得るばらつきについて、その妥当な範囲を考察すべきである。上記の点のすべてについて考察することが重要である。

本ガイドラインに記載されている以外のアプローチを行ってもよい。そうしたアプローチを採用したときには、申請者はその妥当性を示す必要がある。そのような場合にも、新原薬の合成工程や新製剤の製造工程において得られたデータに基づいて、妥当性を立証する必要がある。その際には、申請された判定基準について理論的な許容幅を考察してもよいが、どのようなアプローチを用いようとも、実測データをまず第一の基本におくべきである。

申請書に記載の保存条件で行われた安定性試験やスケールアップ/バリデーションに用いられたロット、特に、基本となる安定性試験に用いたロット(primary stability batches)の試験結果についても、規格の設定とその妥当性の立証の際に考慮に入れるべきである。多数の工場での製造が計画されている場合には、当初に試験方法と判定基準を設定する際に、それらの工場でのデータを考慮に入れるようにするとよい。この点は、初期の原薬や製剤の製造の経験がどの工場においてもまだ少ないときには、特に重要である。また、代表的な一つの工場でのデータだけに基づいて試験方法と判定基準が設定される場合でも、設定された判定基準にはすべての工場で製造された原薬や製剤が適合する必要がある。

試験結果をグラフに表わすのは、特に定量値や不純物含量に関する判定基準の妥当性を示すのに役立つであろう。開発段階でのデータは、実生産工程を反映した新原薬及び新製剤のロットに関する安定性試験のデータとともに、そうした形式により記載するとよい。ある試験を規格から除外することを提案する場合には、開発段階のデータ及びプロセスバリデーションのデータに基づいて、その妥当性を示す必要がある。

3.2. 規格に必ず設定すべき試験方法と判定基準

以下の2項(3.2項と3.3項)に記載された勧告の実施に当たっては、ICHガイドラインQ2A「分析法バリデーションに関するテキスト(実施項目)」及びQ2B「分析法バリデーションに関するテキスト(実施方法)」を考慮に入れる必要がある。

3.2.1. 新原薬

次に挙げる試験方法と判定基準は、概ねすべての新原薬に適用し得ると考えられる。

a)性状(Description)

新原薬の形状(例えば、固体、液体)及び色についての定性的な記述が必要である。保存中にこれらの特性が変化する場合には、その変化について検討を行い、適切な規格を設定すべきである。

b)確認試験(Identification)

確認試験は、存在すると考えられる非常に類似した構造をもつ化合物同士を識別できるようなものであることが望ましい。赤外吸収スペクトル法(IR法)のように、その原薬を特異的に確認できる方法とすべきである。単一条件のクロマトグラフ法の相対保持時間だけで確認する方法は特異的とは見なせないが、異なった原理に基づいて成分の分離を行う2つの条件のクロマトグラフ法を用いるものやHPLC/UV-diode array、HPLC/MSあるいはGC/MSのように複数の方法を組み合せて単一の分析法としているものは、一般的に用いてもよいであろう。確認すべき新原薬が塩である場合には、個々のイオンに特異的な確認試験を設定する必要がある。塩そのものに特異的な確認試験でもよい。

光学活性な新原薬についても、光学特異的な確認試験を設定するか、あるいは光学特異的な定量法を用いる必要がある。この点に関する詳細な議論は、本ガイドラインの3.3.1.d)項を参照のこと。

c)定量法(Assay)

新原薬の定量法には、保存中に出現する分解生成物によって妨害されることのない特異的な分析法(specific, stability-indicating assay)を設定する必要がある。多くの場合、原薬の定量と不純物の含量測定に同じ方法(例えば、HPLC法)を採用することができる。

他の試験により補完されて、規格全体としてその原薬に特異的なものとなっている場合には、非特異的な定量法を用いてもよい。例えば、滴定法を定量法に採用するには、適切な不純物の試験を併せて設定する必要がある。

d)純度試験(Impurities)

有機・無機不純物及び残留溶媒がこの範疇に含まれる。詳しくは、ICHガイドラインQ3A「新有効成分含有医薬品のうち原薬の不純物に関するガイドライン」ならびにQ3C「医薬品の残留溶媒ガイドライン」を参照のこと。

フローチャート#1は、開発段階で得られたデータに基づいて、不純物について適切な限度値を設定するための指針を示したものである。承認申請時には、製造工程の恒常性を評価するのに十分なだけのデータが得られていることはあまりない。したがって、承認申請時のロットの実測値から厳しい判定基準を設定するのは不適切と考えられる(2.5.項参照)。

3.2.2. 新製剤

次に挙げる試験方法と判定基準は、概ねすべての新製剤に適用し得ると考えられる。

a)性状(Description)

剤形についての定性的な記述(例えば、大きさ、形状、及び色)が必要である。製造工程であるいは保存中にこれらの特性が変化する場合には、その変化について検討を行い、適切な措置を取るべきである。どのような性状であれば許容し得るかを、判定基準として設定する必要がある。保存中に色が変化する場合には、定量的な方法を用いて設定するのが適切であろう。

b)確認試験(Identification)

確認試験は、新製剤中の原薬を確認するものであり、存在すると考えられる非常に類似した構造をもつ化合物同士を識別できるようなものとすべきである。赤外吸収スペクトル法(IR法)のように、原薬を特異的に確認できる方法とすべきである。単一条件のクロマトグラフ法の相対保持時間だけを用いて確認する方法は特異的とは見なせないが、異なった原理に基づいて成分の分離を行う2つの条件のクロマトグラフ法を用いるものやHPLC/UV- diode array、HPLC/MSあるいはGC/MSのように複数の方法を組み合わせて単一の分析法としているものは一般的に用いてもよいであろう。

c)定量法(Assay)

新製剤の定量法には、保存中に出現する分解生成物によって妨害されることのない特異的な原薬含量の測定法(specific, stability-indicating assay)を設定する必要がある。多くの場合、原薬の定量と不純物の含量測定に同じ方法(例えば、HPLC法)を採用することができる。含量均一性試験に用いられる方法が定量法としても適切な場合には、含量均一性試験の結果から製剤中の原薬の含量を求めてもよい。

他の試験により補完されて、規格全体として原薬に特異的なものとなっている場合には、非特異的な定量法を用いてもよい。例えば、適切な不純物の試験を併せて設定することにより、滴定法を出荷の際の原薬含量の測定に採用することが可能である。非特異的な定量法が医薬品添加剤による妨害を受ける場合には、特異的な方法を用いる必要がある。

d)純度試験(Impurities)

有機・無機不純物(分解生成物)及び残留溶媒がこの範疇に含まれる。詳しくは、ICHガイドラインQ3B「新有効成分含有医薬品のうち製剤の不純物に関するガイドライン」ならびにQ3C「医薬品の残留溶媒ガイドライン」を参照のこと。

新原薬が分解して生成する有機不純物や製剤の製造過程において生成する不純物については、新製剤において管理されるべきである。個別規格を設定する分解生成物(構造が既知のものも未知のものもある)の量ならびに分解生成物総量について、判定基準を設定する必要がある。新原薬の合成工程に由来する不純物については、通常、原薬を試験することにより管理されているので、新製剤の規格には不純物総量の限度値を設定する必要はない。しかしながら、合成工程由来の不純物であっても、それが分解生成物でもある場合には、その存在レベルを把握し、分解生成物総量に加える必要がある。適切な分析法を用いることにより、承認申請書記載の処方と保存条件の下で、原薬が分解を起こさないことが明確に示された場合には、行政当局の了承を得た上で、分解生成物の試験を削減あるいは削除してもよい。

フローチャート#2は、開発段階で得られたデータに基づいて、分解生成物について適切な限度値を設定するための指針を示したものである。承認申請時には、製造工程の恒常性を評価するのに十分なだけのデータが得られていることはあまりない。したがって、承認申請時のロットの実測値から厳しい判定基準を設定するのは不適切と考えられる(2.5.項参照)。

3.3. 原薬や製剤の各剤形の特性に応じて設定すべき試験方法と判定基準

上述の規格に必ず設定すべき試験の他に、下記のような試験を規格に設定することをケースバイケースで考慮する。原薬や製剤の品質をロット毎に管理していく上で重要な試験については、その試験方法と判定基準を規格に設定する必要がある。下記以外の試験についても、場合によっては、あるいは新しい知見が得られるようになったときには、設定が必要となることがあろう。

3.3.1. 新原薬

a)物理的化学的性質(Physicochemical properties)

水溶液のpH、融点または融解範囲、屈折率のような性質を指す。これらの性質の測定に用いられている方法は、通常、独特のものではあるが、例えば、毛細管による融点測定やアッベ屈折計などのように、その測定にはそれほど習熟を必要としない。この範疇において、どのような試験を設定するかは、新原薬の物理的性質とそれをどのような用途に使おうとしているかを考慮して、決める必要がある。

b)粒子径(Particle size)

固形または懸濁形の製剤に使われる新原薬では、その粒子径が溶出率、バイオアベイラビリティ及び安定性に著しい影響を及ぼすことがある。このような場合には、適切な粒子径分布の試験方法と判定基準を規格に設定する必要がある。

フローチャート#3は、粒子径の試験を規格に設定するかどうかを考察するときの指針を示したものである。

c)結晶多形(Polymorphic forms)

新原薬の中には、物理的性質の異なる2つ以上の結晶形で存在するものがある。結晶多形には、溶媒和物あるいは水和物(擬多形とも呼ばれる)や無晶形も含まれる。こうした固体状態の違いが、新製剤の品質や機能に影響を及ぼすことがある。そうした違いが、製剤機能、バイオアベイラビリティあるいは安定性に影響を及ぼすような場合には、新原薬の規格に適切な存在形を規定すべきである。

結晶多形が存在するかどうかを調べるのには、通常、物理化学的な測定技術が用いられる。そうした方法の例としては、ホットステージ顕微鏡法を含む融点測定、固体状態でのIR測定、粉末X線回折法、(DSC、TGA、DTAのような)熱分析法、ラマンスペクトル法、光学顕微鏡法及び固体状態のNMR測定が挙げられる。

フローチャート#4(1)~4(3)は、どういったときに、どのようにして、結晶形を規格に設定して管理する必要があるかについての指針を示したものである。

注: これらのフローチャートは、順序立てて用いるべきである。まず、フローチャート#4(1)と#4(2)は、原薬に結晶多形が存在するかどうか、また、結晶形の違いが製剤機能に影響を与え得るかどうかを検討するものである。次に、フローチャート#。このフローチャートは、製剤中において結晶形間で変化が起こる可能性、及びそうした変化が製剤機能に影響を与えるかどうかを検討するためのものである。

一般に、製剤中において結晶形間で変化が起こっているかどうかを調べるのは技術的に非常に難しい。そのため、一般に、その代替となる試験(例えば、溶出試験)(フローチャート#4(3)参照)が製剤機能を管理するために用いられており、結晶形の含量を直接測定するのは最終手段として行われる。

d)光学活性な新原薬の試験(Tests for chiral new drug substances)

新原薬がほぼ対掌体の一方だけから成る場合であっても、もう一方の対掌体(原薬の鏡像体)は、ICHガイドラインQ3A「新有効成分含有医薬品のうち原薬の不純物に関するガイドライン」及びQ3B「新有効成分含有医薬品のうち製剤の不純物に関するガイドライン」に規定された安全性の確認ならびに構造決定の閾値の対象とされていない。その理由は、それらのレベルにおけるそうした対掌体の不純物含量の測定が実際上難しいためである。しかしながら、測定が可能な場合には、光学活性な新原薬及びそれを用いて製造される新製剤中に含まれるキラルな不純物については、これら2つのガイドラインに規定された原則に従って取り扱われるべきである。

フローチャート#5は、下記の観点に立って、どんなときにどんな光学特異的な確認試験や定量法ならびにキラルな不純物の試験が必要とされるかについての指針を、新原薬と新製剤の両者についてまとめたものである。

《原薬》

純度試験(不純物):対掌体の一方をキラルな医薬品として開発する場合には、その鏡像体を通常の不純物の場合と同様の考え方で管理する必要があるが、技術的な限界から、その含量測定や安全性の確認を通常の不純物と同じレベルで行うことができないこともある。出発物質あるいは中間体について適切な試験を行うことにより、そうした不純物を管理してもよいが、そうした場合には、その妥当性を示す必要がある。

定量法:原薬である対掌体を選択的に定量できる方法を規格に設定する。それには、光学特異的な定量法を用いてもよいし、光学特異的でない定量法と原薬の鏡像体を適切に管理し得る方法とを組合せて用いてもよい。

確認試験:対掌体の一方を医薬品として開発する場合には、対掌体同士ならびにそのラセミ体を識別できる確認試験を設定する必要がある。原薬がラセミ体の場合でも、下記の2つのケースでは、出荷や適否判定の際の試験には立体特異的な確認試験が適切と考えられる:(1)ラセミ体に代わって対掌体が用いられようになる可能性がかなり大きい場合、あるいは、(2)結晶化により、非ラセミ的な混合物が図らずもできてしまう可能性を示す証拠がある場合。

《製剤》

純度試験(分解生成物):製剤の製造過程や保存中におけるラセミ化が問題にならないことが示されない限り、製剤中に含まれる原薬の鏡像体の量を管理する必要があると考えられる。

定量法:製剤の製造過程や保存中におけるラセミ化が問題にならない場合には、光学特異的でない定量法を用いてもよいと思われる。ラセミ化が問題になる場合には、光学特異的な定量法を用いる必要があるが、光学特異的でない定量法と原薬の鏡像体を適切に管理し得るバリデートされた方法とを組合せて用いてもよい。

確認試験:製剤の出荷規格には、通常、立体特異的な確認試験は必要とされない。製剤の製造過程や保存中におけるラセミ化が問題にならない場合には、原薬の規格に光学特異的な確認試験が設定してあればよいと考えられる。また、製剤中でのラセミ化が懸念される場合にも、製剤の光学特異的な定量法、あるいはキラルな不純物試験により原薬の同一性を立証することができる。

e)水分含量(Water content)

新原薬が吸湿性である場合、水分により分解される場合あるいは原薬が化学量論的な水和物である場合には、水分含量の試験が重要である。その判定基準については、水和や水分の吸収が原薬に及ぼす影響を考慮して、妥当なレベルに設定するとよい。試験方法としては、乾燥減量試験法でもよい場合もあるが、水分を特異的に測定する方法(例えば、カールフィシャー滴定法)が望ましい。

f)無機不純物(Inorganic impurities)

無機の不純物(例えば、触媒)についての試験方法と判定基準を規格に含めるかどうかは、開発段階において、製造工程に関する知識を基に検討する。強熱残分試験の方法と判定基準については、薬局方の方法に従う。妥当性がある場合には、無機不純物は、他の適切な方法、例えば、原子吸光スペクトル法を用いて測定してもよい。

g)微生物限度(Microbial limits)

好気性菌の総数、かびと酵母の総数、ならびに特定の好ましからざる細菌(例えば、黄色ブドウ球菌、大腸菌、サルモネラ、緑膿菌)が存在しないことを規格に設定する必要があろう。これらは、薬局方の方法により測定できる。どのような微生物試験法と判定基準を設定するかは、原薬の性質、製剤の製造方法、ならびにその製剤をどのような用途に使おうとしているかに基づいて決める必要がある。例えば、無菌的に製造されている原薬には、無菌試験が適当であろうし、注射剤を製造するのに用いられる原薬には、エンドトキシン試験が適当であろう。

フローチャート#6は、微生物の限度を設定する場合の指針を示したものである。

3.3.2. 新製剤

新製剤には、一般に、その剤形の特性に応じて、いくつかの項目について試験方法と判定基準を追加設定する必要がある。種々の剤形の中から、経口固形製剤、経口液状製剤ならびに注射剤(小容量及び大容量)の3つの剤形を代表例として選び、それらに相応しい項目の試験方法と判定基準を以下に示した。他の剤形に対しても、本ガイドラインの考え方を拡張して適用することが推奨される。製剤における光学活性な原薬ならびに固体状態での存在形の取り扱いについては、3.3.1.項を参照のこと。

3.3.2.1. 経口固形製剤(Solid oral drug products)

下記の試験は、錠剤(素錠、コーティング錠)及び硬カプセル剤に適用し得る。このうちのいくつかは軟カプセル剤や顆粒剤にも適用し得ると思われる。

a)溶出性(Dissolution)

経口固形製剤の規格には、通常、製剤からの薬物の放出性を測定する試験が含まれる。即放性製剤(immediate-release dosage forms)には、通常、1時点での溶出率の測定が適当と考えられる。放出調節製剤(modified-release dosage forms)には、適切な試験条件及びサンプリング法を設定する必要がある。例えば、徐放性製剤(extended-release dosage forms)については、複数時点でサンプリングする必要があるし、放出遅延製剤(delayed-release dosage forms)では、2段階試験(1つの試料について2種の試験液で続けて試験する、または、2つの試料について別々の試験液で試験するのいずれか適切な方法による)が適当であろう。これらの場合、その製剤を服用する人々の集団(例えば、無胃酸の高齢者)の特性を考慮して、試験方法と判定基準を設定することが大切である。場合によっては、溶出試験の代わりに崩壊試験を用いてもよい(3.3.2.1.b)崩壊性の項ならびにフローチャート#7(1)参照)。

溶出速度の変化がバイオアベイラビリティに著しい影響を与えることが示された即放性製剤(immediate-release dosage forms)については、許容できないバイオアベイラビリティを示すロットを識別し得る試験条件を設定することが望ましい。また、製剤処方の変化あるいは製造工程の種々の因子の変化が溶出性に著しい影響を与え、そうした変化が規格の他の項目によってコントロールし得ない場合にも、それらの変化を識別できる溶出試験の条件を採用するのが適当であろう(フローチャート#7(2)参照)。

溶出性がバイオアベイラビリティに著しい影響を与える場合、許容できないバイオアベイラビリティを示すロットを排除し得るような試験条件と判定基準を設定する必要がある。溶出性がバイオアベイラビリティに影響しないならば、臨床上、許容可能なロットが適合するような試験条件と判定基準を設定すべきである(フローチャート#7(2)参照)。

徐放性製剤(extended-release dosage forms)については、異なった溶出速度を示す製剤のヒトでのバイオアベイラビリティのデータがあれば、 in vitro/in vivo 相関に基づいて判定基準を設定することが可能である。そうしたデ-タがなく、かつ、薬物の放出が in vitro の試験条件に依存しないとは言い切れないときには、得られている実測データに基づいて判定基準を設定する必要がある。各測定時点における平均溶出率の変動の許容範囲は、通常、特に広くても問題がないことを示す生物学的同等性試験のデータがない限り、表示量のア10%以内(全許容範囲として20%)とすべきである(例えば、50ア10%との規定は40~60%の許容範囲を意味する)(フローチャート#7(3)参照)。

b)崩壊性(Disintegration)

生理学的範囲の全pH領域で高い溶解度を示す(pH1.2~6.8の範囲で、1回投与量/薬物の溶解度の比が250mL以下)薬物を含み、速やかな溶出を示す(pH1.2,4.0,及び6.8における15分後の溶出率が80%を超える)製剤では、溶出試験の代わりに崩壊試験を用いてもよいと思われる。崩壊性と溶出性の間に関連が認められる場合、あるいは崩壊試験の方が溶出試験よりも製剤間の差の識別性が優れている場合には、崩壊試験の方が適している。こうした場合には、溶出試験を適用する必要はないと思われる。処方や製造工程の変動によって製剤からの薬物の溶出が影響を受けない場合には、溶出試験でなく崩壊試験で十分であろう。このことは、製剤の開発過程で得られた情報に基づいて決めることができよう(フローチャート#7(1)参照)。

c)硬度/摩損度(Hardness/friability)

硬度や摩損度の試験については、通常、工程内試験(2.3.項参照)として実施するのが適当であり、規格に設定する必要はない。しかしながら、例えば、かみ砕き錠(chewable tablet)の場合のように、硬度や摩損度が製剤の品質に大きな影響を及ぼす場合には、判定基準を規格に設定する必要がある。

d)投与単位の均一性(Uniformity of dosage units)

本項目には、製剤の質量及び製剤中の有効成分の含量の両者が含まれる。試験は、薬局方の方法を用いて行う必要がある。一般に、これらのいずれかが規格に設定されるが、両方とも設定する必要はない。これらの試験は、そうするのが適切な場合には、工程内試験として実施してもよいが、その場合にも判定基準を規格に設定しておく必要がある。含量が質量偏差試験により均一性を試験することが許容される薬局方などで定めた閾値を超えている新製剤に質量偏差試験を適用しようとする場合においても、申請者は、その医薬品の開発段階において、その製剤が十分均質であることを確かめておく必要がある。

e)水分含量(Water content)

水分含量の試験については、必要な場合に設定する。その判定基準については、水和や水分の吸収が製剤に及ぼす影響を考慮して、妥当なレベルに設定するとよい。試験方法としては、乾燥減量試験法でもよい場合もあるが、水分を特異的に測定する方法(例えば、カールフィッシャー法)が望ましい。

f)微生物限度(Microbial limits)

微生物限度試験は、品質保証に係わる属性であるのと同時に、GMPに係わる属性でもある。一般に、各製造原料について微生物の試験が行われており、かつ、製剤の製造工程において微生物による汚染や増殖が起きないことが確かめられている場合を除いて、最終製剤について本試験を行う必要がある。本ガイドラインは、医薬品添加剤を直接対象とするものではないが、ここで述べた原則は、新製剤だけでなく医薬品添加剤にも適用できよう。なお、許容される場合には、新製剤と医薬品添加剤のいずれにおいても、本試験をスキップ試験として取り扱うことができよう(医薬品添加剤の微生物試験については、フローチャート#6を参照のこと)。

好気性菌の総数、かびと酵母の総数、ならびに特定の好ましからざる細菌(例えば、黄色ブドウ球菌、大腸菌、サルモネラ、緑膿菌)が存在しないことを判定基準として規格に設定する必要がある。試験は、薬局方の方法を用い、経験とデータを基に適切に設定された頻度あるいは時点で検体を採取することにより、適切に行われなければならない。どのような微生物試験法と判定基準を設定するかは、原薬の性質、製剤の製造方法、ならびにその製剤をどのような用途に使おうとしているかに基づいて決める必要がある。科学的に妥当と考えられる理由があれば、経口固形製剤の微生物限度試験は設定しないでもよい。

フローチャート#8は、微生物の限度を設定する場合の指針を示したものである。

3.3.2.2. 経口液状製剤(Liquid oral drug products)

通常、次の試験のいくつかは、経口液状製剤及び経口液状製剤調製用の粉末製剤に、その特性に応じて適用される。

a)投与単位の均一性(Uniformity of dosage units)

本項目には、製剤の質量及び製剤中の有効成分の含量の両者が含まれる。試験は、薬局方の方法を用いて行う必要がある。一般に、これらのいずれかが規格に設定されるが、両方とも設定する必要はない。含量が質量偏差試験により均一性を試験することが許容される薬局方などで定めた閾値を超えている新製剤に質量偏差試験を適用しようとする場合においても、申請者は、その医薬品の開発段階において、その製剤が十分均質であることを確かめておく必要がある。

これらの試験は、そうするのが適切な場合には、工程内試験として実施してもよいが、その場合にも判定基準を規格に設定しておく必要がある。この概念は、単回投与の包装のものにも、多回に分けて投与する包装のものにも適用されよう。

投与単位としては、患者への典型的な投与量を考える。患者への実際の投与単位が別途管理されている場合には、その量を直接測定するか、あるいは医薬品の総投与量(容量または質量)を投与回数で割り、計算により求める。点滴器や瓶に付属の点滴チップのような投薬分配用具(dispensing equipment)が使用され、それが投薬上重要な役割を果す場合には、その分配用具を用いて投与量を測定すべきである。さもなければ、標準計量器を用いる必要がある。どのような投薬分配用具を用いるのがよいかは、通常、開発段階で検討されて決められる。

経口液状製剤調製用の粉末製剤には、一般に、質量均一性(質量偏差)試験を適用することでよいと思われる。

b)pH

必要な場合には、pHの許容範囲を設定し、その妥当性を示す必要がある。

c)微生物限度(Microbial limits)

微生物限度試験は、品質保証に係わる属性であるのと同時に、GMPに係わる属性でもある。一般に、各製造原料について微生物の試験が行われており、かつ、製剤の製造工程において微生物による汚染や増殖が起きないことが確かめられている場合を除いて、最終製剤について本試験を行う必要がある。本ガイドラインは、医薬品添加剤を直接対象とするものではないが、ここで述べた原則は、新製剤だけでなく医薬品添加剤にも適用できよう。なお、許容される場合には、新製剤と医薬品添加剤のいずれにおいても、本試験をスキップ試験として取り扱うことができよう。科学的に妥当と考えられる理由があれば、経口液状製剤調製用の粉末製剤の微生物限度試験は設定しないでもよいと思われる。

好気性菌の総数、かびと酵母の総数、ならびに特定の好ましからざる細菌(例えば、黄色ブドウ球菌、大腸菌、サルモネラ、緑膿菌)が存在しないことを判定基準として規格に設定する必要がある。試験は、薬局方の方法を用い、経験とデータを基に適切に設定された頻度あるいは時点で検体を採取することにより、適切に行われなければならない。

フローチャート#8は、微生物の限度を設定する場合の指針を示したものである。

d)抗菌性保存剤含量(Antimicrobial preservative content)

抗菌性保存剤の添加が必要な経口液状製剤には、保存剤含量の判定基準の設定が必要である。保存剤含量の判定基準は、申請された使用法と有効期間のいずれの段階においても製剤の微生物学的品質を維持し得る抗菌性保存剤のレベルに基づいて設定すべきである。薬局方の保存効力試験法により、抗菌性保存剤の下限値濃度においても、微生物の繁殖抑制に効果的であることを確認しておく必要がある。

抗菌性保存剤含量の試験は、通常、出荷時に行う必要があるが、場合によっては、出荷試験の代わりに工程内試験として行うことも可能である。そのような場合にも、判定基準は規格に設定しておくべきである。

通常、保存剤含量の化学試験が規格に設定されるが、開発やスケールアップの過程でも、また、有効期間を通じて(例えば、安定性試験において〔ICHガイドラインQ1A(R)「安定性試験ガイドライン」参照〕)、微生物に対する効力があることを示す必要がある。

e)抗酸化保存剤含量(Antioxidant preservative content)

抗酸化剤含量の試験は、通常、出荷試験として行われるが、開発段階や安定性試験のデ-タから妥当と判断される場合には、有効期間中の含量を保証する試験は不必要である。また、許容される場合には、出荷試験の代わりに工程内試験として行ってもよいが、そのような場合にも、判定基準は規格に設定しておく必要がある。出荷試験だけを行うことにした場合、製造方法あるいは容器(被包)を変更しようとするときには、有効期間中の含量を保証する試験を省いたままでよいか検討し直す必要がある。

f)溶出物(Extractables)

一般に、開発段階や安定性試験のデータから、容器(被包)からの溶出物が安全性の観点から許容しうるレベルよりも常に低いレベルにあると評価できる場合には、本試験は、通常、規格に設定する必要はないと思われる。容器(被包)、あるいは製剤の処方を変更するときには、本試験が必要ないか検討し直す必要がある。

本試験を必要とするデータがある場合には、容器(被包)の構成物(例えば、ゴム栓、キャップの裏蓋、プラスチック瓶など)からの溶出物について、試験方法と判定基準を設定する必要がある。本試験は、ガラス以外の素材でできた容器あるいはガラス以外の素材でできた栓を付けたガラス製の容器に入った経口液状製剤の場合に設定を考える必要がある。容器の構成物をリストアップしておき、開発のできるだけ早い段階でこれらの構成物に関するデータを集めておくべきである。

g)アルコール含量(Alcohol content)

各国での規制に従ってアルコール含量がラベルに表示されている場合には、アルコール含量を規格に設定する必要がある。アルコール含量は、定量してもよいし、計算によって求めてもよい。

h)溶出性(Dissolution)

上記の各項目に加えて、難溶性の原薬を含む経口の懸濁剤及び懸濁用の乾燥粉末製剤には、溶出試験とその判定基準を設定する必要がある場合がある。溶出試験は出荷時に行う必要があるが、製品の開発段階でのデータによりその妥当性が示される場合には、本試験は工程内試験として行ってもよい。溶出試験の装置、試験液及び試験条件は、薬局方の方法に従うことが望ましい。それ以外の方法を用いる場合には、妥当性を示す必要がある。溶出試験の方法については、薬局方記載の装置や条件を用いた場合であれ、それ以外の装置や条件を用いた場合であれ、バリデートされる必要がある。

即放性製剤(immediate-release dosage forms)には、通常、1時点での溶出率の測定が適当と考えられる。放出調節製剤(modified-release dosage forms)については、適切な間隔をおいて複数時点でサンプリングを行う必要がある。判定基準は、観測された溶出の変動範囲に基づき、in vivoで許容される挙動を示すロットの溶出プロファイルを考慮して、設定される必要がある。溶出試験と粒子径分布(粒度)の試験のいずれを設定すべきかは、開発段階でのデータを参考にして決めるべきである。

i)粒子径分布(粒度)(Particle size distribution)

経口の懸濁剤には、粒子径分布(粒度)を測定する試験方法と定量的な判定基準を設定する必要があろう。溶出試験と粒子径分布(粒度)の試験のいずれを設定するかは、開発段階でのデータを参考にして決めるべきである。

粒子径分布(粒度)の試験は出荷時に行う必要があるが、製品の開発段階でのデータにより妥当性が示される場合には、本試験は工程内試験として行ってもよい。開発段階において、速やかな溶出を示すことが明らかにされている製剤については、粒子径分布(粒度)の試験を規格に設定しなくてもよいであろう。

粒子径分布(粒度)の試験は、妥当性が示されるならば、溶出試験の代わりに用いることができる。判定基準には、規定された粒子径の範囲内にある粒子数の百分率として粒子径分布(粒度)の許容範囲を設定する。粒子径の平均、上限及び/または下限について、それぞれ限度値を設定する必要がある。

判定基準は、観測された変動範囲に基づき、in vivoで許容される挙動を示すロットの溶出プロファイルを考慮して、設定する必要がある。粒子の成長の可能性については、開発段階で検討しておき、その結果を考慮に入れて判定基準を設定する。

j)再分散性(Redispersibility)

保存中に液が澄んでくる(粒子が沈殿する)経口の懸濁剤については、再分散性について判定基準を設定する必要があろう。再分散性の試験としては、振とうするのが適していると思われるが、その方法(機械的振とう法または手で振とうする方法)ならびに再分散に要する時間を規定する必要がある。開発段階のデータから妥当性が示される場合には、本試験をスキップ試験とすることや規格に設定しないことも可能である。

k)流動学的性質(Rheological properties)

粘稠な液状製剤または懸濁剤には、流動学的性質(粘度/比重)の試験方法とその判定基準を規格に設定する必要がある。開発段階のデータから妥当性が示される場合には、本試験をスキップ試験とすることや規格に設定しないことも可能である。

l)再調製時間(Reconstitution time)

経口液状製剤調製用の乾燥粉末製剤には、再調製時間の判定基準を設定する必要がある。希釈剤については、その選択の妥当性を示すべきである。開発段階のデータにより妥当性があると考えられる場合には、本試験をスキップ試験とすることや規格に設定しないことも可能である。

m)水分含量(Water content)

経口液状製剤調製用の粉末製剤には、必要に応じて水分含量の試験方法と判定基準を設定する必要がある。製品開発段階で、吸着水と水和水の影響が明らかにされているならば、一般には乾燥減量試験法で十分と思われるが、水分を特異的に測定する方法(例えば、カールフィッシャー滴定法)が望ましい場合がある。

3.3.2.3. 注射剤(Parenteral drug products)

次のような試験が注射剤に適用される。

a)投与単位の均一性(Uniformity of dosage units)

本項目には、製剤の質量及び製剤中の有効成分の含量の両者が含まれる。試験は、薬局方の方法を用いて行う必要がある。一般に、これらのいずれかが規格に設定されるが、両方とも設定する必要はない。本規格は、注射剤調整用の粉末に適用し得る。含量が質量偏差試験により均一性を試験することが許容される薬局方などで定めた閾値を超えている新製剤に質量偏差試験を適用しようとする場合においても、申請者は、その医薬品の開発段階において、その製剤が十分均質であることを確かめておく必要がある。

これらの試験は、そうするのが適切な場合(2.3項参照)には、工程内試験として実施してもよいが、その場合にも判定基準を規格に設定しておく必要がある。この概念は、単回投与の包装のものにも、多回に分けて投与する包装のものにも適用されよう。

注射剤調製用の粉末製剤には、一般に、質量均一性(質量偏差)試験を適用することでよいと思われる。

b)pH

必要な場合には、pHの許容範囲を設定し、その妥当性を示す必要がある。

c)無菌性(Sterility)

すべての注射剤には、その無菌性を評価するための試験方法と判定基準を設定する必要がある。開発段階のデータや滅菌工程のバリデーションデータにより、その妥当性が示される場合には、最終的に滅菌される製剤にパラメトリックリリースを適用することが可能である(2.6.項参照)。

d)エンドトキシン/発熱性物質(Endotoxins/Pyrogens)

リムルス試験のような方法を用いて、エンドトキシンの試験方法と判定基準を規格に設定する必要がある。妥当性が示されるならば、エンドトキシン試験の代わりに発熱性物質試験を設定してもよい。

e)不溶性微粒子(Particulate matter)

注射剤には、不溶性微粒子についての適切な判定基準を設定する必要がある。この判定基準には、通常、目に見えない微粒子(sub-visible particulates)の判定基準とともに、目に見える微粒子(visible particulates)や溶液の澄明度の判定基準のうちの適切なものが含まれる。

f)水分含量(Water content)

非水性の注射剤及び注射剤調製用の粉末製剤については、必要に応じて水分含量の試験方法と判定基準を設定する必要がある。製品開発段階で、吸着水と水和水の影響が明らかにされているならば、一般には乾燥減量試験法で十分と思われるが、水分を特異的に測定する方法(例えば、カールフィッシャー滴定法)が望ましい場合がある。

g)抗菌性保存剤含量(Antimicrobial preservative content)

抗菌性保存剤の添加が必要な注射剤には、保存剤含量の判定基準の設定が必要である。保存剤含量の判定基準は、申請された使用法と有効期間のいずれの段階においても製剤の微生物学的品質を維持し得る抗菌性保存剤のレベルに基づいて設定すべきである。薬局方の保存効力試験法により、抗菌性保存剤の下限値濃度においても、微生物の繁殖抑制に効果的であることを確認しておく必要がある。

抗菌性保存剤含量の試験は、通常、出荷時に行う必要があるが、場合によっては、出荷試験の代わりに工程内試験として行うことも可能である。そのような場合にも、判定基準は規格に設定しておくべきである。

通常、保存剤含量の化学試験が規格に設定されるが、開発やスケールアップの過程でも、また、有効期間を通じて(例えば、安定性試験において〔ICHガイドラインQ1A(R)「安定性試験ガイドライン」参照〕)、微生物に対する効力があることを示す必要がある。

h)抗酸化保存剤含量(Antioxidant preservative content)

抗酸化保存剤含量の試験は、通常、出荷試験として行われ、開発段階や安定性試験のデ-タから妥当と判断される場合には、有効期間中の含量を保証する試験は不必要である。また、許容される場合には、出荷試験の代わりに工程内試験として行ってもよいが、そのような場合にも、判定基準は規格に設定しておく必要がある。出荷試験だけを行うことにした場合、製造方法あるいは容器(被包)を変更しようとするときには、有効期間中の含量を保証する試験を省いたままでよいか検討し直す必要がある。

i)溶出物(Extractables)

注射剤の場合、容器(被包)からの溶出物を管理することは、経口液状製剤の場合よりもずっと大切である。しかしながら、開発段階や安定性試験のデータから、容器や栓からの溶出物が安全性の観点から許容しうるレベルよりも常に低いレベルにあると評価できる場合には、本試験は、通常、規格に設定する必要はないと思われる。容器(被包)、あるいは製剤の処方を変更するときには、本試験が必要ないか検討し直す必要がある。

本試験を必要とするデータがある場合には、容器(被包)の構成物からの溶出物について、試験方法と判定基準を設定する必要がある。本試験は、ガラス以外の素材でできた容器あるいはゴム栓を付けたガラス製の容器に入った注射剤の場合に設定を考える必要がある。開発段階で得られたデータにより妥当性が示されている場合には、出荷時にだけ試験を行えばよい。容器の構成物(例えば、ゴム栓など)をリストアップしておき、開発のできるだけ早い段階でこれらの構成物に関するデータを集めてておくべきである。

j)投与システムの機能性試験(Functionality testing of delivery system)

予め薬液を入れた注射筒、自己注射用カートリッジ、あるいはそれらと同等のものに充填された注射剤には、投与システムの機能性についての試験方法と判定基準を設定する必要がある。この判定基準には、注射筒の操作性、圧力、密閉性(漏れ)、ならびにtip cap removal force(チップとキャップの脱離強度)、piston release force(ピストンの初動抵抗)、piston travel force(ピストンの摺動抵抗)及びpower injector function forceのようなパラメータの管理も含まれる。場合によっては、これらの試験は工程内試験として行うことができる。開発段階のデータから妥当性が示される場合には、本試験をスキップ試験とすることやいくつかあるいはすべての項目を規格に設定しないことも可能である。

k)浸透圧(Osmolality)

等張性をラベルに表示する製品には、その浸透圧を適切に管理する必要がある。開発段階のデータにより妥当性があると考えられる場合には、試験を工程内試験、スキップ試験あるいは直接計算により本属性を求めることにより行うことが可能である。

l)粒子径分布(粒度)(Particle size distribution)

注射用の懸濁剤には、粒子径分布(粒度)を測定する試験方法と定量的な判定基準を設定する必要があろう。溶出試験と粒子径分布(粒度)の試験のいずれを設定するかは、開発段階でのデータを参考にして決めるべきである。

粒子径分布(粒度)の試験は出荷時に行う必要があるが、製品の開発段階でのデータにより妥当性が示される場合には、本試験は工程内試験として行ってもよい。開発段階において、速やかな溶出を示すことが明らかにされている製剤については、粒子径分布(粒度)の試験を規格に設定しなくてもよいであろう。

開発段階において、粒子径が薬物放出性に影響を与える重要な因子であることが明らかにされている場合には、その妥当性を示した上で、粒子径分布(粒度)の試験を溶出試験の代わりに用いることができる。判定基準には、規定された粒子径の範囲内にある粒子数の百分率として粒子径分布(粒度)の許容範囲を設定する。粒子径の平均、上限及び/または下限について、それぞれ限度値を設定する必要がある。

判定基準は、観測された変動範囲に基づき、in vivoで許容される挙動を示すロットの溶出プロファイル及びその製剤をどのような用途に使おうとしているかを考慮して設定する必要がある。粒子の成長の可能性については、開発段階で検討しておき、その結果を考慮に入れて判定基準を設定する。

m)再分散性(Redispersibility)

保存中に液が澄んでくる(粒子が沈殿する)注射用の懸濁剤については、再分散性について判定基準を設定する必要があろう。再分散性の試験としては、振とうするのが適していると思われるが、その方法(機械的振とう法または手で振とうする方法)ならびに再分散に要する時間を規定する必要がある。開発段階のデータから妥当性が示される場合には、本試験をスキップ試験とすることや規格に設定しないことも可能である。

n)再調製時間(Reconstitution time)

すべての注射剤調製用の乾燥粉末製剤には、再調製時間の判定基準を設定する必要がある。希釈剤については、その選択の妥当性を示すべきである。製品開発ならびに製造工程のバリデーションの段階のデータから妥当性があると考えられる場合には、本試験をスキップ試験とすることや速やかな溶出を示す製剤については、規格に設定しないことが可能である。

4. 用語集(以下の定義は、本ガイドラインのために示したものである)

規格及び試験方法(Specification)

試験方法、その試験に用いる分析法に関する記載、ならびにその方法で試験したときの適否の判定基準(限度値、許容範囲あるいはその他の基準)からなるリスト。原薬または製剤が意図した用途に相応しいものであるために適合すべき一組みの基準である。また、搭K格に適合する狽ニは、規定された方法に従って試験するとき、原薬や製剤がリストにあるすべての判定基準に適合することを意味する。規格は、医薬品の製造業者がその妥当性を示す資料を添付して申請し、行政当局によりその医薬品を製造するための条件として承認された遵守すべき(critical)品質の基準である。

規格値/判定基準(Acceptance criteria)

試験の結果が受入れられるかどうかを判定するための限度値、許容範囲、その他の適切な基準。

規格に必ず設定すべき試験(Universal test)

すべての新原薬またはすべての新製剤の規格に設定すべき試験、例えば、性状、確認試験、定量法及び純度試験のこと。

キラル(Chiral)

分子、立体配位、あるいは(結晶のような)巨視的物体において、自身の鏡像と重ね合わせられないこと。この用語は、キラルな分子構造をもつものには、それがラセミ体となっていても拡張して使われている。

結晶多形(Polymorphism)

同じ原薬に異なった結晶形が存在すること。本ガイドラインでは、溶媒和物や水和物(擬多形とも呼ばれる)や無晶形も含めて取り扱う。

原薬や製剤の各剤形の特性に応じて設定すべき試験(Specific test)

新原薬または新製剤の各剤形に、その特性や用途に応じて適用し得ると考えられる試験のこと。

構造決定された不純物(Identified impurity)

化学構造を決定することができた不純物。

構造未知の不純物(Unidentified impurity)

定性的な分析的指標、例えば、クロマトグラフ法の相対保持時間によってのみ規定される不純物。

工程内試験(In-process tests)

出荷の際に行われる一連の正式な試験の一部としてではなく、原薬や製剤の製造工程において実施される試験のこと。

個別規格設定不純物(Specified impurity)

新原薬または新製剤の品質を保証するために、その限度値が個別に規格に設定された構造既知あるいは構造未知の不純物のこと。

試薬(Reagent)

新原薬の製造に使用された出発物質及び溶媒以外の物質。

徐放性(Extended release)

製剤的な工夫により、投与後、長時間にわたって薬物が体内で利用されるような放出性。

新原薬(New drug substance)

これまである地域またはメンバーとなっている国で承認されたことがなく、新しく承認されるに当って適応症の定められた疾病治療用の物質で、new molecular entity あるいは new chemical entity とも呼ばれる。すでに承認された原薬の錯体、エステル、塩である場合もある。

新製剤(New drug product)

これまである地域またはメンバーとなっている国で承認されたことがない医薬品製剤(錠剤、カプセル、液状製剤、クリームなど)で、一般に1種の医薬品成分を含む。医薬品添加剤は含まれないこともある。

速やかな溶出を示す製剤(Rapidly dissolving products)

原薬の表示量の80%以上が、(1)pH1.2,(2)pH4.0,(3)pH6.8のいずれの試験液中においても15分以内に溶出するとき、即放性の経口固形製剤は速やかな溶出を示す製剤とみなされる。

即放性(Immediate release)

薬物の溶出や吸収を意図的に遅延させたり延長させたりしていない製剤からの消化管内における薬物の放出性。

対掌体(Enantiomers)

同じ分子式をもつが、分子内の原子の空間的配列が異なっていて、重ね合わすことのできない鏡像関係にある2つの化合物を指す。

配合剤(Combination product)

2種以上の原薬を含む製剤。

非常に水に溶け易い薬物(Highly water soluble drugs)

pH1.2~6.8の全pH領域で、1回投与量/薬物の溶解度の比が250mL以下の薬物(例:化合物Aは、pH6.8,37ア0.5℃において1.0mg/mLという最も低い溶解度を示し、100mg,200mg,400mgの含量の製剤があるとする。この薬物は、1回投与量/薬物の溶解度の比が400mg/1.0mg/mL=400mLとなって、250mLよりも大となるため、溶解度の低い薬物と見なされる。)

品質(Quality)

原薬あるいは製剤の意図した用途への適切さのこと。同一性、含量、物質の純度のような特性を指すこともある。

不純物(Impurity)

1 新原薬として規定された化学物質以外の新原薬の構成成分。

2 原薬として規定された化学物質あるいは医薬品添加剤以外の製剤の構成成分。

分解生成物(Degradation product)

経時的に、あるいは光、熱、pH、水分などの作用により、あるいは医薬品添加剤や直接容器(被包)との反応により、引き起こされた薬物分子の化学的変化から生じる分子のこと。Decomposition product とも呼ばれる。

放出遅延(delayed release)

経口投与の直後ではなく、時間が経ってから薬物の放出を示すこと。

放出調節(Modified release)

溶液や即放性製剤のような通常の剤形では得られない治療上あるいは利便上の目的が達成できるように、製剤からの薬物の放出-時間プロファイル及び/または放出部位を制御すること。放出調節経口固形製剤には、放出遅延製剤と徐放性製剤が含まれる。

溶媒(Solvent)

新原薬の合成または新製剤の製造において、溶液あるいは懸濁液を調製するための媒体として使用される無機または有機の液体。

ラセミ体(Racemate)

対掌体分子同士の等モルの複合物(固体、液体、気体の状態で、あるいは溶液中において)のこと。光学活性を示さない。

5. 参考

ICHガイドライン

Q1A(R):「安定性試験ガイドラインの改定について」(平成13年5月1日医薬審発第565号医薬局審査管理課長通知)

Q2A:「分析法バリデーションに関するテキスト(実施項目)について」(平成7年7月20日薬審第755号薬務局審査課長通知)

Q2B:「分析法バリデーションに関するテキスト(実施方法)について」(平成9年10月28日医薬審第338号医薬安全局審査管理課長通知)

Q3A:「新有効成分含有医薬品のうち原薬の不純物に関するガイドラインについて」(平成7年9月25日薬審第877号薬務局審査課長通知)

Q3B:「新有効成分含有医薬品のうち製剤の不純物に関するガイドラインについて」(平成9年6月23日薬審第539号薬務局審査課長通知)

Q3C:「医薬品の残留溶媒ガイドラインについて」(平成10年3月30日医薬審第307号医薬安全局審査管理課長通知)

Q6B:「生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)の規格及び試験方法の設定について」(平成13年5月1日医薬審発第571号医薬局審査管理課長通知)

6. 添付文書: フローチャート#1~#8

本ガイドライン中で引用したフローチャートについては、以下のページを参照のこと。

フローチャート#1:新原薬中の不純物の判定基準の設定

1)関連するロットとは、開発段階、パイロットスケールの段階、ならびにスケールアップの段階のロットのことである.

2)ICHガイドラインQ3Aを参照のこと.

定義:信頼区間の上限=ロット分析データの標準偏差の3倍

フローチャート#2:新製剤中の分解生成物の判定基準の設定

1) 関連するロットは、開発段階、パイロットスケールの段階、並びにスケールアップの段階のロットのことである.

2) A及びBに関する情報については、フローチャート#1を参照のこと.

3) ICHガイドラインQ3Bを参照のこと.

フローチャート#3:原薬の粒子径分布の判定基準の設定

フローチャート#4:原薬及び製剤における結晶多形の判定基準の設定の必要性の検討

★原薬★

(1)

(2)

★製剤―固形製剤又は溶解していない原薬を含む液状製剤★

注意:製剤中の各結晶形の量を測定することが技術的に可能な場合にのみ,次の検討を行う.

(3)

フローチャート#5:キラルな原薬及びキラルな原薬を含む新製剤における確認試験,定量法ならびに対掌体についての不純物試験の設定

1) 天然物由来のキラルな化合物はこのガイドラインの対象としない.

2) 原薬の合成工程で使用された原料に由来する他の不純物と同様、開発段階での検討により妥当性が示されている場合には、原薬に対してではなく、適切な出発物質又は中間体に対して限度値を設定することによって、キラルな品質を管理することが可能である.これにあてはまるのは、多数の不斉中心(例えば、三つあるいはそれ以上)を持つものの場合や原薬生産の最終ステップよりも前の段階で管理することが望ましい場合である.

3) 光学特異的な定量法や対掌体についての不純物試験は、光学特異的な確認試験の代わりに用いてもよいであろう.

4) 光学特異的でない定量法であっても、原薬でない方の対掌体を管理する方法と一緒に用いる場合には、光学特異的な定量法の代わりに用いてもよいであろう.

5) 原薬でない方の対掌体の存在レベルは、光学特異的な定量法のデータを利用して求めることもできるし、それとは別個に対掌体についての不純物試験を行って求めることもできる.

6) 製剤の製造中あるいは保存中にラセミ化がほとんど起こらないというデータが得られている場合には、製剤については立体特異的な試験を行う必要はないであろう.

フローチャート#6:原薬及び医薬品添加物の微生物学的試験

フローチャート#7:製剤の溶出試験の判定基準の設定

(1) どのタイプの判定基準を設定すべきか?

(2) 即放性製剤の試験条件と判定基準

(3) 徐放性製剤の判定基準(許容域)

フローチャート#8:非無菌製剤の微生物学的試験