添付一覧
○安定性試験ガイドラインの改定について
(平成一三年五月一日)
(医薬審発第五六五号)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬局審査管理課長通知)
平成11年4月8日医薬発第481号薬務局長通知に規定する医療用医薬品の新有効成分含有医薬品の製造(輸入)承認申請に際して添付すべき安定性試験成績についての取扱いについては、「安定性試験ガイドラインについて」(平成6年4月21日薬新薬第30号薬務局新医薬品課長通知)により示されているところであるが、今般、日米EU医薬品規制調和国際会議(以下「ICH」という。)での合意に基づき、別添のとおり「安定性試験ガイドライン」を改め、下記により取扱うこととしたので、御了知の上、貴管下関係業者に対し周知徹底方御配慮願いたい。
なお、本通知の写しを、日本製薬団体連合会会長あてに発出することを申し添える。
記
1 適用
(1) 医療用医薬品の新有効成分含有医薬品の安定性試験で、平成14年5月1日以降に開始する試験は、別添「安定性試験ガイドライン」(以下「本ガイドライン」という。)に従って行われるものであること。ただし、本通知日以降、本ガイドラインに基づき試験を行うことは差し支えないこと。
2 留意事項
(1) 原薬の安定性試験を考慮し、有効期間の代わりにリテスト期間を設定し申請することができる場合があること。その場合には、備考欄にその旨を明記すること。
(2) 新有効成分含有医薬品については、製剤のみの承認申請を行う場合においても、原薬に関する安定性試験成績を提出すること。
(3) 申請時において、安定性試験の途中であっても、長期保存試験は1年以上の試験成績及び加速試験は6ヶ月以上の期間の試験成績をもって承認申請して差し支えないこと。ただし、申請者は、承認時までにその後引き続き実施した試験の成績を提出すること。また、承認申請書の備考欄に安定性試験を継続中であることを記載すること。
(4) 申請時に添付資料として実生産スケールで製造された3ロットを用いた安定性試験が提出されない場合であっても、実生産スケールで製造される原薬及び製剤の最初のロットについては、承認申請時と同一の安定性試験プロトコールに基づき、試験を実施し、安定性を確認すること。なお、当該試験成績を提出する必要はないが、これを保存しておくこと。
(5) マトリキシング法及びブラケッティング法に関しては、ICHにおいて検討中である。
(6) 安定性試験に関する資料の提出にあたっては、以下の点に留意すること。
ア 試験資料は、邦文で記載する。なお、当該資料が翻訳されたものである場合には、その全文を翻訳し、翻訳前の原文も併せて提出する。また、参考として、翻訳者及び最終的に吟味した専門技術者の氏名及び所属を記載する。ただし、原文が英語で記載されたものであれば、その原文及び日本語要約を提出することで差し支えない。
イ 安定性試験に使用したロットについて、ロット番号、製造スケール、製造年月日及び製造場所を記載する。
(7) その他、本ガイドラインの理解を深めるために参考として添付した質疑応答集については、今後得られる知見に基づき、修正及び拡充する予定である。
3 通知の改正 略
安定性試験ガイドライン
目次
1. 序論
1.1. 本ガイドラインの目的
1.2. 本ガイドラインの適用範囲
1.3. 一般原理
2. ガイドライン
2.1. 原薬
2.1.1. 一般的事項
2.1.2. 苛酷試験
2.1.3. ロットの選択
2.1.4. 容器施栓系
2.1.5. 規格
2.1.6. 測定時期
2.1.7. 保存条件
2.1.7.1. 一般的な原薬
2.1.7.2. 冷蔵庫での保存の場合
2.1.7.3. 冷凍庫での保存の場合
2.1.7.4. -20℃以下での保存の場合
2.1.8. 安定性試験の確認のための試験の実施(コミットメント)
2.1.9. 評価
2.1.10. 取扱い上の注意/表示
2.2. 製剤
2.2.1. 一般的事項
2.2.2. 光安定性試験
2.2.3. ロットの選択
2.2.4. 容器施栓系
2.2.5. 規格
2.2.6. 測定時期
2.2.7. 保存条件
2.2.7.1. 一般的な製剤
2.2.7.2. 不透過性の容器に包装された製剤
2.2.7.3. 半透過性の容器に包装された製剤
2.2.7.4. 冷蔵庫での保存の製剤
2.2.7.5. 冷凍庫での保存の製剤
2.2.7.6. -20℃以下での保存の場合
2.2.8. 安定性試験の確認のための試験の実施(コミットメント)
2.2.9. 評価
2.2.10. 取扱上の注意/表示
3. 用語集
4. 参考
1. 序論
1.1. ガイドラインの目的
本ガイドラインはICH安定性ガイドラインの改定版であり、EC、日本及び米国3極内において新有効成分含有医薬品の原薬及び製剤の承認申請を行うときに必要な安定性試験成績を示したものであり、3極以外の地域における承認申請や当該地域への輸出のための承認申請のための試験を対象とすることを必ずしも目的としているものではない。
本ガイドラインは、新有効成分含有医薬品の原薬及び製剤の安定性試験成績の主要部分を示したものであるが、試験対象となる物質の特性や特殊な科学的理由のために実際に直面しうる状況に対して柔軟に対応する必要がある。科学的に妥当な理由がある場合には、本ガイドライン以外の適切な実施方法を用いてもよい。
1.2. ガイドラインの適用範囲
本ガイドラインの適用対象は、医療用医薬品のうちの新有効成分含有医薬品である。本ガイドラインは、現時点において、それ以外の申請区分の申請のために提出すべき試験を対象としていない。
特定の製剤等に対する検体の採取及び試験方法についての詳細は、本ガイドラインの対象としていない。
新剤型並びに生物薬品(バイオテクノロジー応用製品/生物起源由来製品)についてのガイダンスはICHガイドラインQ1C及びQ5Cにそれぞれ記載されている。
1.3. 一般原理
医薬品の承認申請における安定性試験は、温度、湿度、光等の様々な環境要因の影響の下での品質の経時的変化を評価し、原薬のリテスト期間、製剤の有効期間及び医薬品の貯蔵条件の設定に必要な情報を得るために行う試験である。
本ガイドラインに定義されている試験条件はEC、日本及び米国の3極における気象条件の影響を分析した結果に基づいて選択されている。世界各地の平均キネティック温度は気候データから求めることができ、そして世界を四つの気候区域Ⅰ-Ⅳに分けることができる。本ガイドラインは気候区域ⅠとⅡを対象にしている。本ガイドラインに従って実施され、かつ、表示が国内/地域の基準に合っている場合には、EC、日本及び米国の3極のいずれか一地域で行われた安定性に関する試験の成績は、原則として、他の二つの地域においても添付資料として使用できることとされている。
2. ガイドライン
2.1. 原薬
2.1.1. 一般的事項
原薬の安定性に関する資料は、その医薬品の安定性を系統的に評価するために欠くことのできないものである。
2.1.2. 苛酷試験
原薬の苛酷試験は、生成の可能性がある分解生成物を同定するのに役立ち、それによって分解経路や医薬品本来の安定性を明らかにしたり、安定性試験に用いる分析方法の適合性を確認することができる。個々の原薬及び製剤の種類により、苛酷試験の内容は決まる。
苛酷試験は、通常1ロットの原薬について行い、加速試験の温度条件よりも10℃ずつ高くなっていく温度(例えば、50℃、60℃、…)、適切な湿度(例えば、75%RH以上)、酸化及び光分解による影響を検討する。さらに、溶液又は懸濁液中では、広い範囲のpH領域における加水分解に対する反応性を検討する。光安定性試験は苛酷試験のうち、不可欠な構成要素である。光安定性試験のための標準条件は、ICHガイドラインQ1Bに述べられている。
苛酷条件下での分解生成物を調査することは、分解経路を確立したり、適切な分析方法の開発ならびに適合性の確認に役立つ。しかし加速試験又は長期保存試験で生成しないことが示されれば、その分解生成物について特に検討する必要はない。これらの試験成績は、行政当局に提出される資料として必要となる。
2.1.3. ロットの選択
正式な安定性試験(長期保存試験及び加速試験)は、3ロット以上の基準ロットについて実施する。検体は、パイロットスケール以上で製造されたロットとし、生産ロットで適用される最終的な方法を反映する製造方法及び製造工程で製造されたものとする。安定性試験に使用するロットの品質は、実生産スケールで製造されるものの品質を反映するものである。
他の安定性試験成績は参考資料として提出できる。
2.1.4. 容器施栓系
検体の容器施栓系は、申請するものと同一のもの又はそれに準ずるものとする。
2.1.5. 規格
規格、即ち測定項目、分析方法及び判定基準は、ICHガイドラインQ6A及びQ6Bに記載されている。原薬中の分解生成物の規格は、ICHガイドラインQ3Aで論議されている。
安定性試験は、保存により影響を受け易い測定項目及び品質、安全性又は有効性に影響を与えるような測定項目を選定する。試験には、原薬の物理的、化学的、生物学的及び微生物学的測定項目を適切に含める。測定方法としては、安定性試験に用いる方法として適合性が検証された分析方法を採用する。測定の繰り返しの必要性及び回数は、バリデーション試験の結果に基づき決定する。
2.1.6. 測定時期
長期保存試験における測定時期は、原薬の安定性の特性を十分に把握できるように、1年以上のリテスト期間を設定する原薬については、通常、1年目は3カ月毎、2年目は6カ月毎、その後はリテスト期間を通して1年毎とする。
また、加速試験にあっては試験開始時と終了時を含めて、6カ月の試験につき3回以上(例えば、0、3、6カ月)行うことが望ましい。開発時の経験に基づいて、加速試験の結果に品質の明確な変化が示されることが予想される場合には、測定終了時において検体数を増やして試験を行うか、又は試験計画に4番目の測定時点を加えることにより、増強した試験を行う。
加速試験において品質の明確な変化が示されたために、中間的な条件での試験が必要になった場合には、試験開始時と終了時を含めて、12カ月の試験につき4回以上(例えば、0、6、9、12カ月)行うことが望ましい。
2.1.7. 保存条件
一般に、原薬の安定性は、熱安定性と必要であれば湿度に対する安定性が試験できるような適切な保存条件において評価されるべきである。保存条件及び試験期間は、貯蔵、流通及びそれに続く使用を十分考慮にいれたものとする。
長期保存試験は、申請時において、試験の途中であっても3ロット以上の基準ロットの12カ月以上の期間の試験成績をもって承認申請して差し支えないが、申請されるリテスト期間を保証する十分な期間継続する。承認申請後引き続き実施した成績は、行政当局の求めに応じて提出する。加速試験成績又は必要に応じて中間的な保存条件で試験された成績は、輸送中に起こりうる貯蔵方法からの短期的な逸脱の影響を評価するために利用される。
原薬の長期保存試験の保存条件、加速試験の保存条件及び必要な場合の中間的試験の保存条件の詳細は、下記に示す。後続の項に該当しない原薬は、一般的な原薬として取り扱う。根拠があれば、他の保存条件を採用することができる。
2.1.7.1. 一般的な原薬
試験の種類 |
保存条件 |
申請時点での最小試験期間 |
長期保存試験 |
25℃±2℃/60%RH±5%RH |
12カ月 |
中間的試験 |
30℃±2℃/60%RH±5%RH |
6カ月 |
加速試験 |
40℃±2℃/75%RH±5%RH |
6カ月 |
加速試験において、6カ月の試験のいずれかの時点で、「明確な品質の変化」が認められた場合、中間的な条件で追加の試験を実施し、「明確な品質の変化」の基準に対して評価しなければならない。中間的試験は、別に何か根拠がない限りすべての試験を実施する。承認申請時には、中間的な条件で実施される12カ月の試験より、6カ月以上の試験成績を提出する。
以下、原薬についての「明確な品質の変化」とは、規格からの逸脱が認められた場合をいう。
2.1.7.2. 冷蔵庫での保存の場合
試験の種類 |
保存条件 |
申請時点での最小試験期間 |
長期保存試験 |
5℃±3℃ |
12カ月 |
加速試験 |
25℃±2℃/60%RH±5%RH |
6カ月 |
冷蔵庫での保存の場合の試験成績は、以下に示された場合以外は、本ガイドラインの「評価」の項に従って評価する。
加速試験において、測定開始後3カ月から6カ月の間に「明確な品質の変化」が認められた場合、リテスト期間は長期保存試験から得られる試験成績(リアルタイムのデータ)に基づいて設定する。
加速試験において、測定開始後3カ月以内に「明確な品質の変化」が認められた場合、輸送中や取り扱い中等における貯蔵方法からの短期的な逸脱の影響に関する試験成績を用意する。この場合、適切ならば、1ロットの原薬につき3カ月より短期間に、通常より多い測定時点で追加試験を行うことにより説明してもよい。測定開始後3カ月以内に「明確な品質の変化」が認められた場合、あえて6カ月まで試験を継続する必要はない。
2.1.7.3. 冷凍庫での保存の場合
試験の種類 |
保存条件 |
申請時点での最小試験期間 |
長期保存試験 |
-20℃±5℃ |
12カ月 |
冷凍庫での保存の場合のリテスト期間は、長期保存試験で得られる試験成績(リアルタイムのデータ)に基づいて設定する。冷凍庫での保存の場合は、加速試験がないので、輸送中や取り扱い中等における貯蔵方法からの短期的な逸脱の影響を説明するため、上昇させた温度(例えば、5℃±3℃又は25℃±2℃)で適切な期間にわたる試験を1ロットについて実施する。
2.1.7.4. -20℃以下での保存の場合
-20℃以下で保存される原薬は、個別に妥当な保存条件の下で試験を実施する。
2.1.8. 安定性試験の確認のための試験の実施(コミットメント)
原薬の承認の時点で、基準ロットの長期保存試験成績が、リテスト期間を保証する期間まで得られていない場合には、申請されたリテスト期間を確認するために、承認後、長期保存試験を継続する。
実生産スケールで製造された3ロットを用いて実施され、リテスト期間を通して実施された長期保存試験成績に基づいて申請される場合には、承認後に長期保存試験を実施する(コミットメント)必要はない。その他の場合にあっては、以下に掲げるもののうち、1つの試験を実施する。
1. 添付資料として実生産スケールで製造された3ロット以上のロットの安定性試験の成績に基づき申請される場合には、リテスト期間中試験を継続し、安定性を確認する(コミットメント)必要がある。
2. 添付資料として実生産スケールで製造された3ロット未満のロットを用いた安定性試験の成績に基づき申請される場合には、当該試験をリテスト期間中継続する(コミットメント)必要がある。また、実生産スケールで製造されたロット数の合計が3以上になるよう、実生産スケールで製造されたロットを追加し、リテスト期間を通じて長期保存試験を実施し、安定性を確認する(コミットメント)必要がある。
3. 添付資料として実生産スケールで製造されたロットを用いた安定性試験の成績が提出されない場合は、実生産スケールで製造される最初の3ロットについて、リテスト期間を通じて長期保存試験を実施し、安定性を確認する(コミットメント)必要がある。
コミットメントとして、安定性の確認のために実施される長期保存試験は、科学的に妥当性がない限り、承認申請時(基準ロット)と同一の安定性試験プロトコールを使用して実施する。
2.1.9. 評価
安定性試験は、3ロット以上の原薬について実施し、必要な物理的、化学的、生物学的及び微生物学的試験等で得られる安定性の情報を適正に評価することにより、同様の条件で製造されるすべてのロットに適用できるリテスト期間を設定するものである。将来生産されるロットがリテスト期間を通じて規格に適合する確かさは、各ロットのばらつきの程度に影響される。
得られたデータから原薬がリテスト期間中ほとんど分解せず、変動もほとんどないことが示され、申請するリテスト期間が十分保証される場合は、通常、正式な統計解析を実施する必要はないが、解析を省略する正当性を記載する。
経時的に変化する定量的測定項目のデータからリテスト期間を求める場合、母平均の曲線の95%片側信頼限界が判定基準と交差する時期をもって決定する。ロット間の変動が小さいことが統計解析から明らかな場合は、全ロットのデータを一括して評価し、全体として一つのリテスト期間を求めるのが有益な方法である。この解析は、個々のロットの回帰直線の傾き及び縦軸切片に対して適切な統計解析を適用することによって行うことができる(たとえば、棄却の有意水準として0.25より大きいp値を用いる)。また、全ロットのデータを一括して評価することが不適切な場合は、個々のロットのリテスト期間のうちの最短の期間をリテスト期間とする。
直線回帰分析のためにデータを変換する必要があるかどうかは、分解曲線の形によって決まる。通常、分解曲線は算術目盛あるいは対数目盛で時間の1次、2次又は3次関数によって表わされる。個々のロットのデータ又は全ロットを一括したデータが、推定された分解直線又は曲線に適合するかどうかは統計解析により検定する。
正当化できれば、承認時に、長期保存試験の成績を外挿することにより、実測範囲以上にリテスト期間を限られた範囲で延長することができる。分解機構について明らかになっていること、加速試験の成績、数式モデルの適合性、ロットサイズ、参考資料の存在等に基づいて正当化することができる。ただし、この外挿は実測期間を超えても同一の分解曲線が継続するとの仮定に基づいている。
含量のみならず、分解生成物の量やその他の適切な測定項目についても評価する必要がある。
2.1.10. 取扱い上の注意/表示
貯蔵方法は、関連する国内/地域の基準に従った表示をするために、原薬の安定性評価に基づいて決めなければならない。必要に応じ、個別の指示が付される。凍結してはならない原薬については特に注意を要する。「成り行き温度」、「室温」等の用語の使用は避ける。
リテスト期間は安定性試験成績に基づいて定められる。再試験日は容器ラベルに適切に表示する。
2.2. 製剤
2.2.1. 一般的事項
製剤の正式な安定性試験は、原薬の挙動及び特性、原薬の安定性試験の成績並びに治験薬の処方検討から得られる経験を十分考慮に入れて計画する。保存中に生ずると予測される変化及び正式な安定性試験の対象となる測定項目の選定根拠を添付資料に記載する。
2.2.2. 光安定性試験
光安定性試験は、必要に応じ、製剤の1つ以上の基準ロットについて行う。
光安定性試験のための標準条件は、ICHガイドラインQ1Bに定められている。
2.2.3. ロットの選択
長期保存試験及び加速試験は、3ロット以上の基準ロットについて実施する。基準ロットは市販予定製剤と同一処方、同一容器施栓系の包装にする。基準ロットの製造工程は生産ロットで適用される方法を反映するものとし、市販予定製剤と同等な品質でかつ同じ品質規格を満たすものとなるようにする。3ロットのうちの2ロットはパイロットプラントスケール以上とし、他の1ロットは、正当化できれば小規模でも差し支えない。可能ならば、製剤の各ロットは、異なる原薬ロットを使用して製造する。
ブラケッティング法やマトリキシング法を適用しない限り、各含量、各包装それぞれについて安定性試験を行う。
上記以外の参考資料も提出できる。
2.2.4. 容器施栓系
検体は、申請する容器施栓系で包装されたものとする(必要ならば二次包装及び容器ラベルを含める)。直接容器に容れられていない製剤についての試験成績は苛酷試験の一部として、また他の包装材料で包装された製剤についての試験成績は参考情報として利用できる。
2.2.5. 規格
規格、即ち測定項目、分析方法及び判定基準は、出荷判定時の規格と有効期間中の規格の異なった判定基準の考え方を含めて、ICHガイドラインQ6A及びQ6Bに記載されている。製剤中の分解物の規格は、ICHガイドラインQ3Bに記載されている。
安定性試験には、保存により影響を受け易い測定項目及び品質、安全性又は有効性に影響を与えるような測定項目を選定する。試験には、物理的、化学的、生物学的及び微生物学的測定項目、保存剤含量(例えば、坑酸化剤、抗菌剤)、並びに機能性試験(例えば、一回当りの投与量)を適切に含める。分析方法は、安定性試験に用いる方法として適合性が十分に検証された方法を採用する。測定の繰り返しの必要性及び回数は、分析法バリデーションの結果に基づき決定する。
有効期間の判定基準は、得られるすべての安定性試験の成績を考察して決定する。有効期間の規格は、安定性評価及び保存中に観察された変化に基づき、妥当な理由がある場合には、出荷判定の判定基準と異なることもある。保存剤含量試験において、出荷判定の判定基準と有効期間の判定基準の間に差がある場合は、製剤開発中に、市販予定の最終処方(保存剤濃度以外)の製剤について、化学的含量と保存効力との相関関係を検証することによって説明する。保存剤含量試験における出荷判定と有効期間の判定基準の違いの有無に係らず、一つの基準ロットの製剤を用い、有効期間の最終時点において、保存剤含量試験に加え、保存効力試験を行い、確認する。
2.2.6. 測定時期
長期保存試験における測定時期は、製剤の安定性の特性を十分に把握できるように、1年以上の有効期間を設定する製剤については、通常、1年目は3カ月毎、2年目は6カ月毎、その後は有効期間を通じて1年毎とする。
また、加速試験にあっては試験開始時と終了時を含めて、6カ月の試験につき3回以上(例えば、0、3、6カ月)行うことが望ましい。開発時の経験に基づいて、加速試験の結果に品質の明確な変化が示されることが予想される場合には、測定終了時において検体数を増やして試験を行うか、又は試験計画に4番目の測定時点を加えることにより、増強した試験を行う。
加速試験において、品質の明確な変化が示されたために中間的な条件での試験が必要になった場合には、試験開始時と終了時を含めて、12カ月の試験につき4回以上(例えば、0、6、9、12カ月)行うことが望ましい。
妥当であれば、マトリキシング法やブラケッティング法等、測定時点を減らす減数試験、あるいはある要因の組み合わせの製剤については全く試験を行わない減数試験を適用することができる。
2.2.7. 保存条件
一般に、製剤の安定性は、熱安定性、必要であれば、湿度に対する安定性、また溶媒の損失の可能性について試験できる保存条件において評価されるべきである。保存条件及び試験期間は、貯蔵、流通及びそれに続く使用を十分考慮にいれたものとする。
溶解又は希釈後の製剤の安定性についても、調製方法、保存条件並びに溶解又は希釈後の使用期間についての表示のための情報を提供するために必要に応じて実施する。この試験は試験開始時と最終時点において正式な安定性試験の一部として、基準ロットの製剤について溶解又は希釈後に使用期間まで行う。申請前に有効期間までの長期保存試験成績が得られていない場合は、12カ月又はデータの得られる最終時点で行う。一般的に、この試験はコミットメントロットについて繰り返す必要はない。
長期保存試験は、申請時において、試験の途中であっても、3ロット以上の基準ロットの12カ月以上の期間の試験成績をもって承認申請して差し支えないが、申請される有効期間を保証する十分な期間継続する。承認申請後引き続き実施した成績は、行政当局の求めに応じて提出する。加速試験成績又は必要に応じて中間的な保存条件で試験された成績は、輸送中に起こりうる貯蔵方法からの短期的な逸脱の影響を評価するために利用される。
製剤の長期保存試験の保存条件、加速試験の保存条件及び必要な場合の中間的試験の保存条件の詳細は、下記に示す。後続の項に該当しない製剤は、一般的な製剤として取り扱う。根拠があれば、他の保存条件を採用することができる。
2.2.7.1. 一般的な製剤
試験の種類 |
保存条件 |
申請時点での最小試験期間 |
長期保存試験 |
25℃±2℃/60%RH±5%RH |
12カ月 |
中間的試験 |
30℃±2℃/60%RH±5%RH |
6カ月 |
加速試験 |
40℃±2℃/75%RH±5%RH |
6カ月 |
加速試験において、6カ月の試験のいずれかの時点で、「明確な品質の変化」が認められた場合、中間的な条件で追加の試験を実施し、「明確な品質の変化」の基準に対して評価しなければならない。承認申請時には、中間的な条件で実施された12カ月の試験より、6カ月以上の試験成績を提出する。
一般に、製剤に関する「明確な品質の変化」とは、次に掲げる場合である。
1. 試験開始時から含量が5%以上変化した場合、生物学的又は免疫学的方法を用いる時は、力価が判定基準から逸脱した場合
2. 特定の分解生成物が判定基準を超えた場合
3. 外観、物理的項目及び機能性試験が判定基準から逸脱した場合(例えば、色、相分離、再懸濁性、ケーキング、硬度、1回当りの投与量)、しかし、加速試験条件下では、物理的特性の変化(例えば、坐剤の軟化、クリームの融解)が予想されることもある。
さらに、剤型により必要に応じて
4. pHが判定基準を逸脱した場合
5. 溶出試験(12投与単位)で判定基準を逸脱した場合
2.2.7.2. 不透過性の容器に包装された製剤
水分及び溶媒が透過しない不透過性の容器に入れられた製剤については、湿度に対する安定性や溶媒の損失の可能性についての検討の必要はない。したがって、不透過性の容器に容れられ貯蔵される製剤についての安定性試験については、相対湿度を調整する必要はない。
2.2.7.3. 半透過性の容器に包装された製剤
水を基剤とする製剤で半透過性の容器に容れられたものについては、物理的、化学的、生物学的及び微生物学的安定性に加えて、予想される水分の損失についても評価する。この評価は下記のように、低い相対湿度条件下で行われる。最終的には、半透過性の容器に容れられた水を基剤とする製剤は、低い相対湿度条件における貯蔵に耐えることを示す必要がある。非水溶媒を基剤とした製剤については、同様の方法を開発し、報告する。
試験の種類 |
保存条件 |
申請時点での最小試験期間 |
長期保存試験 |
25℃±2℃/40%RH±5%RH |
12カ月 |
中間的試験 |
30℃±2℃/60%RH±5%RH |
6カ月 |
加速試験 |
40℃±2℃/25%RH以下 |
6カ月 |
加速試験において、6カ月の試験で水分損失以外に、「明確な品質の変化」が認められた場合、30℃で温度の影響を評価するため、一般的な製剤に記載している中間的な条件で追加の試験を実施する。加速試験において、水分の損失のみに「明確な品質の変化」が認められる場合は、中間的な条件における試験は必要とされない。しかし、製剤を25℃で40%の参照相対湿度条件下で保存した場合に、申請される有効期間を通じて水分の損失に係る「明確な品質の変化」を認めないことを示さなければならない。
半透過性の容器に容れられた製剤についての水分の損失に係る「明確な品質の変化」とは、40℃相対湿度25%以下、3カ月間に相当する保存の後に、5%の水分の損失が認められた場合である。しかし、小容器(1mL以下)又は、単回投与製剤については、根拠があれば、40℃相対湿度25%以下、3カ月間に相当する保存の後に、5%以上の水分損失があっても認められることがある。
上記の表(長期保存試験、加速試験のいずれも)で推奨されている参照相対湿度に保存する方法の代わりに、比較的高い相対湿度下で安定性試験を行い、参照相対湿度下での水分の損失を計算により求める方法も採用することができる。容器施栓系における透過係数を実験的に求める方法や、以下の例に示すように、同一温度における2つの湿度条件下で水分の損失の比率を実験的に求める方法もある。容器施栓系における透過係数は、申請する製剤の中で最も透過性の高い系(例えば、一連の濃度の製剤の最も希釈された製剤)について実験的に求めてもよい。
水分の損失率を求める方法の例
ある容器施栓系、容器サイズ及び容れ目の製剤ついて、参照相対湿度における水分の損失率を算出する適正な方法は、同一温度の任意の相対湿度において測定された水分損失率に下表に示す水分損失の比率を乗じることである。ここで、任意の相対湿度における水分の損失率が保存期間を通じて直線的に増加することを示す必要がある。
例えば、40℃相対湿度25%以下で保存した後の水分損失率は、40℃相対湿度75%で保存した後の水分損失率に、対応する水分損失の比率3.0を乗じることにより計算できる。
任意な相対湿度 |
参照相対湿度 |
一定温度における水分損失の比率 |
60%RH |
25%RH |
1.9 |
60%RH |
40%RH |
1.5 |
75%RH |
25%RH |
3.0 |
上表に示されている以外の相対湿度条件における水分損失の比率も、正当であれば使用することができる。
2.2.7.4. 冷蔵庫での保存の製剤
試験の種類 |
保存条件 |
申請時点での最小試験期間 |
長期保存試験 |
5℃±3℃ |
12カ月 |
加速試験 |
25℃±2℃/60%RH±5%RH |
6カ月 |
半透過性容器に包装された製剤の場合、水分損失の程度を評価できる適切な情報を提出する。
冷蔵庫での保存の場合の試験成績は、以下に該当する場合以外は、本ガイドラインの「評価」の項に従って評価する。
加速試験において、測定開始後3カ月から6カ月の間に「明確な品質の変化」が認められた場合、有効期間は長期保存試験から得られる試験成績(リアルタイムのデータ)に基づいて申請する。
加速試験において、測定開始後3カ月以内に「明確な品質の変化」が認められた場合、輸送中や取り扱い中等における貯蔵方法からの短期的な逸脱の影響に関する試験成績を用意する。この場合、適切ならば、1ロットの製剤につき3カ月より短期間に、通常より多い測定時点で追加試験を行うことにより説明してもよい。測定開始後3カ月以内に「明確な品質の変化」が認められた場合、あえて6カ月まで試験を継続する必要はない。
2.2.7.5. 冷凍庫での保存の製剤
試験の種類 |
保存条件 |
申請時点での最小試験期間 |
長期保存試験 |
-20℃±5℃ |
12カ月 |
冷凍庫での保存の場合の有効期間は、長期保存試験で得られる試験成績(リアルタイムのデータ)に基づいて申請する。冷凍庫での保存の場合は、加速試験がないため、貯蔵方法からの短期的な逸脱の影響を説明するため、上昇させた温度(例えば、5℃±3℃又は25℃±2℃)で適切な期間にわたる試験を1ロットについて実施する。
2.2.7.6. -20℃以下での保存の場合
-20℃以下で保存される製剤は、個別に妥当な保存条件の下で試験を実施する。
2.2.8. 安定性試験の確認のための試験の実施(コミットメント)
製剤の承認の時点で、基準ロットの長期保存試験成績が、有効期間を保証する期間まで得られてない場合には、申請された有効期間を確認するために、承認後、長期保存試験を継続する。
実生産スケールで製造された3ロットを用いて実施され、有効期間を通して実施された長期保存試験成績に基づいて申請される場合には、承認後に長期保存試験を実施する(コミットメント)必要はない。その他の場合にあっては、以下に掲げるもののうち、一つの試験を実施する。
1. 添付資料として実生産スケールで製造された3ロット以上のロットの安定性試験の成績に基づき申請される場合には、有効期間中試験を継続し、安定性を確認する(コミットメント)必要がある。
2. 添付資料として実生産スケールで製造された3ロット未満のロットを用いた安定性試験の成績に基づき申請される場合には、当該試験を有効期間中継続する(コミットメント)必要がある。また、実生産スケールで製造されたロット数の合計が3以上になるよう、実生産スケールで製造されたロットを追加し、有効期間を通じて長期保存試験を、また6カ月間を通じて加速試験を実施し、安定性を確認する(コミットメント)必要がある。
3. 添付資料として実生産スケールで製造されたロットを用いた安定性試験の成績が提出されない場合は、実生産スケールで製造される最初の3ロットについて、有効期間を通じて長期保存試験及び6カ月間を通じて加速試験を実施し、安定性を確認する(コミットメント)必要がある。
コミットメントとして、安定性の確認のために実施される長期保存試験は、科学的に妥当性がない限り、承認申請時(基準ロット)と同一の安定性試験プロトコールを使用して実施する。
「明確な品質の変化」が基準ロットの加速試験で認められた場合には、コミットメントロットでの試験は、加速試験の保存条件か中間的試験の保存条件のいずれかで実施する。しかし、コミットメントロットの加速試験で「明確な品質の変化」が認められた場合には、中間的試験を実施する。
2.2.9.評価
製剤の安定性に関する情報は、物理的、化学的、生物学的及び微生物学的試験結果、さらには剤型に特有な項目(例えば、経口固形製剤の溶出時間)を適切に含めて、系統的に記載し、評価しなければならない。
安定性試験は、3ロット以上の製剤に基づき、同様の条件で将来にわたって製造及び包装されるすべてのロットに適用できる有効期間及び取扱い上の注意を設定するものである。将来生産されるロットが有効期間を通じて規格に適合する確かさは、各ロットのばらつきの程度に影響される。
得られたデータから製剤が有効期間中ほとんど分解せず、変動もほとんどないことが示され、申請する有効期間が十分保証される場合は、通常、正式な統計解析を実施する必要はないが、解析を省略する正当性を記載する。
経時的に変化する定量的測定項目のデータから有効期間を求める場合、母平均の曲線の95%片側信頼限界が判定基準と交差する時期をもって決定する。ロット間の変動が小さいことが統計解析から明らかな場合は、全ロットのデータを一括して評価し、全体として一つの有効期間を求めるのが有益な方法である。この解析は、個々のロットの回帰直線の傾き及び縦軸切片に対して適切な統計解析を適用することによって行うことができる(たとえば、棄却の有意水準として0.25より大きいp値を用いる)。また、全ロットのデータを一括して評価することが不適切な場合は、個々のロットの有効期間のうちの最短の期間を有効期間とする。
直線回帰分析のためにデータを変換する必要があるかどうかは、分解曲線の形によって決まる。通常、分解曲線は算術目盛あるいは対数目盛で時間の1次、2次又は3次関数によって表わされる。個々のロットのデータ又は全ロットを一括したデータが、推定された分解直線又は曲線に適合するかどうかは統計解析により検定する。
正当化できれば、承認時に、長期保存試験の成績を外挿することにより、実測範囲以上に有効期間を限られた範囲で延長することができる。分解機構について明らかになっていること、加速試験の成績、数式モデルの適合性、ロットサイズ、参考資料の存在等に基づいて正当化することができる。ただし、この外挿は実測期間を超えても同一の分解曲線が継続するとの仮定に基づいている。
含量のみならず、分解生成物の量やその他の適切な測定項目についても評価する必要がある。必要に応じて、物質収支の妥当性や異なる分解挙動についても注意を払うべきである。
2.2.10. 取扱い上の注意/表示
貯蔵方法は、関連する国内/地域の基準に従った表示をするために、製剤の安定性評価に基づいて決めなければならない。必要に応じ、個別の指示が付される。凍結してはならない製剤については特に注意を要する。「成り行き温度」、「室温」等の用語の使用は避ける。
製剤の貯蔵方法の表示は、試験で示された製剤の安定性を直接反映させる。有効期限は容器ラベルに適切に表示する。
3. 用語集(訳注:以下の定義は本ガイドラインのために示したものである。)
以下の定義はガイドラインの理解を容易にするためのものである(英文のアルファベット順に記載)。
加速試験(Accelerated testing)
正式な安定性試験の一部として、原薬又は製剤の化学的変化又は物理的変化を促進する保存条件を用いて行う試験である。加速試験の成績は、長期保存試験成績とともに、申請する貯蔵方法で長期間保存した場合の化学的影響を評価するのに利用できる。同時に、輸送中に起こり得る貯蔵方法からの短期的な逸脱の影響の評価にも利用できる。なお、加速試験の結果が物理的変化の予測に適用できるとは限らない。
ブラケッティング法(Bracketing)
全数試験において設定する全測定時点において、含量や容器サイズ等の試験要因の両極端のものを検体とする安定性試験の手法である。この手法は、中間的な水準にある検体の安定性は、両極端の検体の安定性により示されるとの仮定に基づいている。一連の異なる含量の製剤が試験される場合、製剤の成分が同一であるか類似しているならば、ブラケッティング法が適用できる(例:同様の組成の原料顆粒を使用して製造した含量違いの錠剤、異なるサイズのカプセルに異なる量の同一組成の成形粉末を充填して製造したカプセル剤)。.
ブラケッティング法は同じ包装仕様で異なるサイズの容器もしくは容れ目違いにおいても適用できる。
気候区域(Climatic zones)
平均的な年間の気候条件により区分した世界の4つの区域。これはW.Grimmによって記述された考え方に基づいている(Drugs Made in Germany,28:196-202,1985,29:39-47,1986)。
コミットメントロット(Commitment batches)
原薬又は製剤の実生産スケールにより製造されるロットであって、承認申請時におけるコミットメント(担保)に基づき、承認後に安定性試験を開始又は終了するもの。
容器施栓系(Container closure system)
製剤を収容し保護する包装の構成要素の全体。直接包装を指すが、二次包装によってさらに製剤を保護する場合は、二次包装も含まれる。
剤型(Dosage form)
医薬品製剤の種類をいう(例えば、錠剤、カプセル剤、溶液、クリーム等)。一般に、原薬と添加剤を含有するが、必ずしも添加剤が含まれるとは限らない。
製剤(Drug product)
剤形に処方され、市販される形の最終的な直接包装に容れられた医薬品
原薬(Drug substance)
未処方の医薬品有効成分であり、製剤を製造するためには添加剤とともに処方されうるもの。
医薬品添加剤(Excipient)
製剤中の原薬以外の成分。
有効期限(Expiration date)
あるロットの製剤が、定められた条件の下で貯蔵されたときに、その日まで、承認された有効期間の規格を満たすことを示す容器ラベルに記される日付であり、その後は使用することができない日付。
正式な安定性試験(Formal stability studies)
原薬のリテスト期間や製剤の有効期間を決定し、確認するために、定められた安定性試験プロトコールに従って基準ロット又はコミットメントロットについて実施される長期保存試験及び加速試験(及び中間的試験)。
不透過性容器(Impermeable containers)
永久的に気体や溶媒を透過しない容器。例えば、半固形製剤における密封アルミチューブ、液剤における密封ガラスアンプル。
中間的試験(Intermediate testing)
30℃/60%RHで行い、25℃において長期間貯蔵する原薬や製剤について化学的分解や物理的変化を緩やかに加速するように計画された試験。
長期保存試験(Long term testing)
申請(又は承認)されるリテスト期間又は有効期間を設定するために、ラベルに表示される貯蔵条件下で行う安定性試験。
物質収支(Mass balance)
分析法の精度を適切に考慮に入れて、有効成分の定量値と分解生成物の量の総和がどの程度まで初期値の100%に近い値になるかについての検討。
マトリキシング法(Matrixing)
ある特定の時点で全ての要因の組み合わせの全検体のうち選択された部分集合を測定する安定性試験の手法である。連続する2つの測定時点では、全ての要因の組み合わせのうちの異なる部分集合を測定する。この手法は、ある時点における全検体の安定性は各
部分集合の安定性により代表されているという仮定に基づいている。従って、同じ品目の試料間で見られる差が何に起因する差であるかを明らかにする必要がある。例えば、ロットの違い、含量の違い、同じ容器/栓システムのサイズの違い、又、場合によっては異なる容器/栓システムの違いに起因するのかを明らかにする必要がある。
平均キネティック温度(Mean kinetic temperature)
原薬又は製剤が、ある一定の期間を通じて高温及び低温に変動する温度条件の下で影響をうけた場合と同じ変化を与えうる一定温度。平均キネティック温度は、アレニウス式を考慮に入れているので算術平均温度よりも高い。
ある一定期間の平均キネティック温度はHaynesの式を用いて計算される(J.Pharm.Sci.60,927-929,1971)。
新規成分(New molecular entity)
国内又は地域の当局により、今までに登録されたいかなる製剤にも含有されていない薬物。既承認原薬の新しい塩、エステル及び、非原子価結合誘導体は、このガイドラインの安定性試験の目的では新規成分と考える。
パイロットスケールロット(Pilot scale batch)
実生産に適用される製造方法、製造工程を十分に反映して製造された原薬又は製剤のロットのこと。経口固形製剤では、通常、少なくとも実生産スケールの10分の1又は10万錠(カプセル)のいずれか大きい方をパイロットスケールとする。
基準ロット(Primary batch)
正式な安定性試験に用いられる原薬又は製剤のロットであり、それらを用いて実施される安定性試験成績は、リテスト期間又は有効期間を設定する目的で、承認申請の添付資料として提出される。原薬の基準となるロットは、パイロットスケールロット以上でなくてはならない。製剤の場合、3ロットのうち、2ロットはパイロットスケールロット以上で、1ロットは重要な製造工程が反映されているならば小規模でも差し支えない。勿論、基準ロットは、生産スケールロットでもよい。
実生産スケールロット(Production batch)
承認・許可の申請に係る製造施設において、実際の製造設備を用い、実生産スケールで製造された原薬又は製剤のロット。
リテスト期日(Re-test date)
当該日付以後は、原薬が依然として規格に適合し、製剤の製造に使用できることを確認するために、当該原薬の検体を用いて試験検査しなければならないことを示す日付。
リテスト期間(Re-test period)
原薬が、定められた条件の下で保存された場合に、その品質が規格内にとどまると想定される期間であり、当該原薬が製剤の製造に使用できる期間。この期間を超えて保存された原薬のロットを製剤の製造に使用する場合は、規格への適合性を再試験し、速やかに使用する。原薬のロットは複数回再試験することが出来る。使用された残りの原薬は、規格に適合し続ける限り、再試験後に使用できる。不安定であることが知られているほとんどのバイオテクノロジー応用製品/生物起源由来製品の原薬に関しては、リテスト期間より有効期間を設定するほうが適切である。同じことがある種の抗生物質についても言える。
半透過性容器(Semi-permeable containers)
溶質の損失を防ぐが、溶媒(通常は水)が透過する容器。溶媒の移行は、容器表面への吸着、容器材料内における拡散、反対側の表面からの脱着の機構によって起こる。移行は分圧の勾配によって起こる。半透過性容器の例としては、大用量輸液(LVPs)用のプラスチックバッグやセミリジッド低密度ポリエチレン(LDPE)ポーチ、さらにLDPEのアンプル、ビン及びバイアルなどがある。
有効期間(Shelf-life)
製剤が、容器ラベルに表示された条件下で貯蔵されたときに、承認された有効期間の規格を満たしていることが想定される期間。
規格(Specification)
ICHガイドラインQ6A及びQ6Bを参照。
出荷判定の規格(Specification - Release)
製剤の出荷時に、適合性を判定するための一連の物理的、化学的、生物学的、微生物学的試験法及び判定基準。
有効期間の規格(Specification ? Shelf life)
原薬はリテスト期間を通じて、又は製剤は有効期間を通じて、適合性を判定するための一連の物理的、化学的、生物学的、微生物学的試験法及び判定基準。
保存条件の許容限度(Storage condition tolerances)
正式な安定性試験を行うための保存設備について、温度及び相対湿度の許容される変動。
設備は、本ガイドラインで指定されている範囲内で保存条件を制御できるものでなければならない。実際の温度及び湿度(制御されている時)は、安定性試験の期間を通してモニターしなければならない。保存設備のドアの開閉による短期の逸脱は不可避として認められるが、設備の故障などによる逸脱は安定性試験成績への影響を判断し、影響がある場合には報告する。24時間を超える逸脱は安定性試験資料に記載しその影響を評価する。
苛酷試験(原薬)(Stress testing ?drug substance)
原薬の本質的な安定性を明らかにするために行われる試験。苛酷試験は開発段階で行う試験の一部であり、通常、加速試験よりも苛酷な保存条件を用いて行われる。
苛酷試験(製剤)(Stress testing ?drug product)
製剤について苛酷条件の影響を評価するために行われる試験。光安定性試験(ICHガイドラインQ1B参照)や特定の製剤についての特殊試験(例えば、計量吸入剤、クリーム、エマルジョン、冷蔵の水性液剤)が含まれる。
参考資料(Supporting data)
申請時に提出される正式な安定性試験以外のデータで、分析方法、申請されたリテスト期間又は有効期間及びラベルに表示される貯蔵方法の正当性を支持するデータ。(1)初期の合成経路による原薬のロット、小規模のロット、市場に出荷されない試験的な処方及び関連した処方、市場に出荷される容器/栓システム以外の容器/栓システムに入れられた製剤等について行われた安定性試験成績、(2)容器についての試験成績に関する情報及び(3)その他の科学的な根拠等を含む。
4. 参考
ICHガイドライン
Q1B:「新原薬及び新製剤の光安定性試験ガイドラインについて」平成9年5月28日薬審第422号薬務局審査課長通知
Q1C:「新投与経路医薬品等の安定性試験成績の取扱いに関するガイドラインについて」平成9年5月28日薬審第425号薬務局審査課長通知
Q3A:「新有効成分含有医薬品のうち原薬の不純物に関するガイドラインについて」(平成7年9月25日薬審第877号薬務局審査課長通知)
Q3B:「新有効成分含有医薬品のうち製剤の不純物に関するガイドラインについて」(平成9年6月23日薬審第39号薬務局審査課長通知)
Q5C:「生物薬品(バイオテクノロジー応用製品/生物起源由来製品)の安定性試験について」(平成10年1月6日医薬審第6号医薬安全局審査管理課長通知)
Q6A:「新医薬品の規格及び試験方法の設定について」(平成13年5月1日医薬審発第568号医薬局審査管理課長通知)
Q6B:「生物薬品(バイオテクノロジー応用製品/生物起源由来製品)の規格及び試験方法の設定について」(平成13年5月1日医薬審発第571号医薬局審査管理課長通知)
(参考)
「安定性試験ガイドライン」に関する質疑応答集について
Q1 乳濁液、懸濁液、溶液等の液剤については、改訂前の通知において「容器と内容物との相互作用や容器からの溶出物の混入等の可能性を十分考慮に入れて、横倒し又は倒立状態での試験を実施する。」とされていたが、どのように取り扱われるのか。
A1.本ガイドラインは承認申請に必要とされる原薬及び製剤の安定性試験成績の主要部分を示したものであるので、改訂前通知の指導を参考にするなど、試験対象となる物質や容器の特性を踏まえて、科学的に妥当と考えられる方法で実施されたものであれば差し支えない。
Q2 苛酷試験により得られる強制分解生成物や分解機構に関するデータは、「医薬品の承認申請について」(平成11年4月8日医薬発第481号医薬安全局長通知)の別表1のロに関する資料にも利用することができるか。
A2 苛酷試験のデータは、原薬の特性等に応じ、ロの資料として利用できるものは利用しても差し支えない。
Q3 2.1.7.3及び2.2.7.5において、冷凍保存に関し、「5℃±3℃又は25℃±3℃で適切な期間にわたる試験データ」を提出することが求められているが、短期間とはどの程度の期間か。
A3 流通、保存、使用時の取り扱いにおいて、貯蔵方法からの逸脱の可能性のある期間である。この期間で「明確な品質の変化」が認められる場合、添付文書中の「取り扱い上の注意」の項に許容される逸脱期間を明記する必要がある。
Q4 2.1.9において「正当化できれば、承認時に、長期保存試験の成績を外挿することにより、実測範囲以上にリテスト期間又は有効期間を限られた範囲で延長することができる。」とあるが、判断の参考となるガイドラインはあるか。
A4 外挿のためのデータ評価に関するガイドラインは、ICHにおいて現在検討中である。
Q5 2.1.10及び2.2.10において、「貯蔵方法は、関連する国内/地域の基準に従って」とあるが、日本薬局方通則の定義のとおり、1から30℃の保存条件である場合は、「室温」と記載して差し支えないか。
A5 差し支えない。