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○放射性医薬品を投与された患者の退出について
(平成一〇年六月三〇日)
(医薬安発第七〇号)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生省医薬安全局安全対策課長通知)
放射性医薬品の患者の取扱いについては、医療法施行規則第三〇条の一五に基づき、対応してきたところであるが、近年、医学の進歩に伴い、我が国においても放射性医薬品を利用した適切な治療を可能とする環境を整える必要が生じたことから、標記について、「医療放射線安全管理に関する検討会」において検討を行い、「放射性医薬品を投与された患者の退出に関する指針」(別添)をとりまとめたところである。今後、放射性医薬品を用いた治療を行う際には、この指針を参考に、安全性に配慮して実施するよう関係者への周知徹底方お願いする。
放射性医薬品を投与された患者の退出に関する指針
1.指針の目的
わが国において、これまで、バセドウ病及び甲状腺癌に対して放射性ヨウ素―131を用いる放射線治療、放射性ストロンチウム―89を用いた前立腺癌、乳癌などの骨転移患者の疼痛緩和治療、放射性イットリウム―90を用いた非ホジキンリンパ腫の放射免疫療法及びラジウム―223を用いた骨転移のある去勢抵抗性前立腺癌の治療が既に認められているところである。
放射性医薬品を利用した治療法の進歩により、癌患者の生存期間が著しく延長したことから、患者の延命のみならず、生活の質(QOL)も向上しているが、放射性医薬品を投与された患者が医療機関より退出・帰宅する場合、公衆及び自発的に患者を介護する家族等が患者からの放射線を受けることになり、その安全性に配慮する必要がある。
以下のとおり放射性医薬品を用いた治療における退出基準等をまとめたので活用されたい。
2.適用範囲
この指針は、医療法に基づいて放射性医薬品を投与された患者が病院内の診療用放射性同位元素使用室又は放射線治療病室等から退出する場合に適用する。
3.退出基準
本指針では、1に述べた公衆及び介護者について抑制すべき線量の基準を、公衆については、1年間につき1ミリシーベルト、介護者については、患者及び介護者の双方に便益があることを考慮して1件あたり5ミリシーベルトとし、退出基準を定めた(注)。
具体的には、以下の(1)から(3)のいずれかの基準に該当する場合に、退出・帰宅を認めることとする。
(1) 投与量に基づく退出基準
投与量又は体内残留放射能量が次の表に示す放射能量を超えない場合に退出・帰宅を認める。なお、この基準値は、投与量、物理的半減期、患者の体表面から1メートルの点における被ばく係数0.5、1センチメートル線量当量率定数に基づいて算定したものである。
放射性医薬品を投与された患者の退出・帰宅における放射能量
治療に用いた核種 |
投与量又は体内残留放射能量 (MBq) |
ストロンチウム―89 |
200 *1) |
ヨウ素―131 |
500 *2) |
イットリウム―90 |
1184 *1) |
*1) 最大投与量
*2) ヨウ素―131の放射能量は、患者身体からの外部被ばく線量に、患者の呼気とともに排出されるヨウ素―131の吸入による内部被ばくを加算した線量から導かれたもの。
(2) 測定線量率に基づく退出基準
患者の体表面から1メートルの点で測定された線量率が次の表の値を超えない場合に退出・帰宅を認める。なお、この基準値は、投与量、物理的半減期、患者の体表面から1メートルの点における被ばく係数0.5、1センチメートル線量当量率定数に基づいて算定したものである。
放射性医薬品を投与された患者の退出・帰宅における線量率
治療に用いた核種 |
患者の体表面から1メートルの点における1センチメートル線量当量率(μSv/h) |
ヨウ素―131 |
30 *) |
*) 線量当量率は、患者身体からの外部被ばく線量に、患者の呼気とともに排出されるヨウ素―131の吸入による内部被ばくを加算した線量から導かれたもの。
(3) 患者毎の積算線量計算に基づく退出基準
患者毎に計算した積算線量に基づいて、以下のような場合には、退出・帰宅を認める。
ア 各患者の状態に合わせて実効半減期やその他の因子を考慮し、患者毎に患者の体表面から1メートルの点における積算線量を算出し、その結果、介護者が被ばくする積算線量は5ミリシーベルト、公衆については1ミリシーベルトを超えない場合とする。
イ この場合、積算線量の算出に関する記録を保存することとする。
なお、上記の退出基準は以下の事例であれば適合するものとして取扱う。
患者毎の積算線量評価に基づく退出基準に適合する事例
治療に用いた核種 |
適用範囲 |
投与量(MBq) |
ヨウ素―131 |
遠隔転移のない分化型甲状腺癌で甲状腺全摘術後の残存甲状腺破壊(アブレーション)治療*1) |
1110 *2) |
ラジウム―223 |
骨転移のある去勢抵抗性前立腺癌治療*3) |
12.1 *4) (72.6 *5)) |
*1) 実施条件:関連学会が作成した実施要綱(「残存甲状腺破壊を目的としたI―131(1,110MBq)による外来治療」)に従って実施する場合に限る。
*2) ヨウ素―131の放射能量は、患者身体からの外部被ばく線量に、患者の呼気とともに排出されるヨウ素―131の吸入による内部被ばくを加算した線量から導かれたもの。
*3) 実施条件:関連学会が作成した実施要綱(「塩化ラジウム(Ra―223)注射液を用いる内用療法の適正使用マニュアル」)に従って塩化ラジウム(Ra―223)注射液1投与当たり55kBq/kgを4週間間隔で最大6回まで投与することにより実施する場合に限る。
*4) 1投与当たりの最大投与量。
*5) 1治療当たりの最大投与量。
4.退出の記録
退出を認めた場合は、下記の事項について記録し、退出後2年間保存すること。
(1) 投与量、退出した日時、退出時に測定した線量率
(2) 授乳中の乳幼児がいる母親に対しては、注意・指導した内容
(3) 前項(3)に基づいて退出を認めた場合には、その退出を認める積算線量の算出方法
また、積算線量などの算出において以下に掲げる方法を用いた場合は、それぞれ用いた根拠
ア 投与量でなく体内残留放射能量で判断する方法
イ 1メートルにおける被ばく係数を0.5未満とする方法
ウ 生物学的半減期あるいは実効半減期を考慮する方法
エ 人体(臓器・組織)の遮へい効果を考慮した線量率定数を用いる方法
5.注意事項
(1) 当該患者の退出・帰宅を認める場合は、第三者に対する不必要な被ばくをできる限り避けるため、書面及び口頭で日常生活などの注意・指導を行うこと。
(2) 患者に授乳中の乳幼児がいる場合は、十分な説明、注意及び指導を行うこと。
(3) 放射性核種の物理的特性に応じた防護並びに患者及び介護者への説明その他の安全管理に関して、放射線関係学会等団体の作成するガイドライン等を参考に行うこと。
(注)
公衆に対する線量値については、国際放射線防護委員会(ICRP)のPublication60(1990年勧告)による公衆に対する線量限度が1年につき1ミリシーベルト(5年平均がこの値を超えなければ、1年にこの値を超えることが許される)であること、介護者に対する線量値については、ICRPがPublication73(1996年勧告)において「1行為当たり数ミリシーベルトが合理的である」としていること、国際原子力機関(IAEA)が、Safety Series No.115「電離放射線に対する防護と放射線源の安全のための国際基本安全基準(BSS)」(1996年)において、病人を介護する者の被ばく線量について、「1行為あたり5mSv、病人を訪問する子供には、1mSv以下に抑制すべきである。」としていることなどを参考にして、それぞれ定めた。なお、1年に複数回の被ばくが起こる可能性があれば、それを考慮しなければならない。