添付一覧
○毒物及び劇物取締法施行について
(昭和二六年一月二三日)
(発薬第一五号)
(各都道府県知事あて厚生事務次官通達)
毒物及び劇物取締法(以下「新法」という。)は、昨年一二月二八日法律第三○三号をもつて公布され、これに伴う政令及び厚生省令の一部として同法施行規則は本年一月二三日厚生省令第四号をもつて公布された。
この法律は、毒物及び劇物の取扱について保健衛生上特にその取締の強化を図るため、毒物劇物営業取締法(以下「旧法」という。)を全面的に改正、整備して、あらたに制定されたものであり、この法律の運用の成否は、国民の保健衛生上に直接影響するところが大であるから、この運用について特に左記事項につき周密な注意を払い違漏なきを期するとともに、この法律制定の趣旨の普及徹底に努められたい。
記
第一 旧法との主たる相違点
一 毒物劇物営業者の届出、許可制度を登録制度に改めたこと。
旧法にあつては、製造業及び輸入業については、都道府県知事に対する届出、販売業について、原則として都道府県知事による許可を要したが、新法においては、前者については厚生大臣の登録、後者については都道府県知事の登録を要することに改めた。
二 毒物又は劇物の貯蔵、運搬、陳列に関する設備の基準を法律で定め、この基準に適合する場合のみ登録を行い、且つ、毒物又は劇物の取扱、表示に関する規定を厳格にしたこと。
三 四エチル鉛、モノフルオール醋酸ナトリウム等毒性の強烈な毒物については、政令でその製造、貯蔵、運搬、他の物との混入及び使用の方法について技術上の基準を定め得ること。
四 毒物劇物監視員の制度を設けたこと。
毒物劇物営業者に対する立入検査等の職務を行わせるため、新たに国及び都道府県に毒物劇物監視員を置くこととした。
五 厚生省令で定める毒物又は劇物を業務上取り扱う者に対しては、営業者に関する毒物又は劇物の取扱、表示等の規定が準用されることとなり取締の範囲が拡大したこと。即ち、旧法はその名称の示す通り、主として営業者に対する取締規定であつたが、新法においては、毒物又は劇物の取扱、表示、立入検査、廃業の場合の措置等については、毒物劇物営業者以外の者であつて、厚生省令で定める毒物又は劇物を業務上取り扱う者についても営業者に関する規定を準用することとし、取締対象の範囲を拡張した。
六 手数料を法律で規定したこと。
製造業、輸入業、販売業の登録、登録の更新、登録の変更等の場合の申請手数料、毒物劇物取扱者試験受験手数料は、すべてその金額を法律自体に規定した。
第二 法運用上の注意
一 製造業、輸入業
(一) 法第三第条一号及び第二項においては、販売、授与を目的とする一切の製造、輸入は、登録を受けた製造業者、輸入業者でなければなし得ない旨を規定しており、いやしくも販売、授与の目的で製造、輸入を行う業者は、洩れなく登録を受けしめるよう周知徹底し、指導に遺憾のないようにすること。
(二) 製造業、輸入業の登録申請の受理に当つては、申請書及び別に添付させる貯蔵、運搬、陳列に関する設備の概要図に関する書面審査、又は製造所、営業者の実地調査を行い、当該製造所、営業所の設備が、法第五条各号に掲げる基準に適合するか否かを実体的に審査の上、その結果について厚生大臣宛副申すること。但し、輸入業者であつて毒物又は劇物を直接に取り扱わないため設備を有しないものについては、設備の概要図は要しない。
右の実地調査に当つては、保健所の機能を活用すること。
(三) 登録申請書に添付する定款若しくは寄附行為又は事業管理人の設置及び変更の届書に添付する当該事業管理人の資格を証する書面の写等は、必ず登記台帳等確実なる証明書類と照合の上、これに照合済である旨記載すること。
(四) 申請書、届書はすべて正副二通宛提出せしめ、副本は都道府県の控とすること。
(五) 都道府県に管内所在の製造業者、輸入業者の名簿を備え、法第六条の登録事項、法第一九条の規定により厚生大臣の行う処分の要旨、その他必要事項を記載して置くこと。
(六) 登録、登録の更新、登録の変更の申請書にちよう付する国庫の収入となる手数料相当額の収入印紙は、その金額を確認すること。
(七) 新法附則第三項において法律の施行後一年を限り、登録あるものとみなされている製造業者、輸入業者については、昭和二六年一一月末日までに、新規登録の例により、登録の申請を行うよう指導すること。
(八) 新法による登録の更新は、薬事法のそれと異り、更新の時期が一定していないので、期間満了の以前に営業者に催告する等、登録が自然に消滅することのないよう取扱上注意を要すること。
三 販売業
(一) 新法第三条第三項の規定は、販売業の登録を受けた者以外の者に対しては、毒物又は劇物の販売、授与及びこれを目的とする貯蔵、運搬、陳列を一切禁止する趣旨であり業者には、必ず販売業の登録を受けさせるよう十分に指導すること。
(二) 販売業の登録にあたつては、製造業、輸入業の登録申請の受理の場合に準じ、その有する設備が法第六条に規定する基準に適合するや否やを審査の上、適合しないと認めるときは、登録を行わないこと。
(三) 新法附則第三項において、一年を限り登録があるものとみなされている販売業者については、昭和二六年一一月末日までに、新規登録の例により登録申請書を提出させること。
四 事業管理人
(一) 事業管理人による管理の意味は旧法と同様であり、技術的な管理であつて、営業面の管理を意味しないこと。
(二) 新法第七条第二項の規定により一人の事業管理人で足りる場合においても設置の届書は、製造業、輸入業、又は販売業の区別に従つて、それぞれ提出させること。
(三) 新法附則第三項において、それぞれ製造業、輸入業、販売業の登録があるものとみなされている者についての、事業管理人設置届はすみやかに提出させること。
(四) 新法第二条第二号に規定する「応用化学に関する学課」とは、例えば高等学校の課程について云えば、工業化学、化学分析、色染、応用化学、製造化学等の各課程を意味すること。
五 毒物劇物取扱者試験
(一) 毒物劇物取扱者試験の学課及び試験方法等は、原則として従前事業管理人試験と同一であること。
(二) 農業上必要な毒物又は劇物を取り扱う事業管理人、例えば農業協同組合が農業用毒物又は劇物を販売する場合の事業管理人については、規則第七条第四項の規定によりあらかじめ厚生大臣の承認を受けたときは、その実務に必要な範囲に限定して一般の試験とは別個に試験を行うことができる。この場合、都道府県又は農業協同組合連合会等の主催による事業管理人になるための農業用毒物又は劇物の取扱その他に関する講習会を行つたときは、当該講習課目の範囲内で簡易な試験を実施する等、農業生産に支障を生ぜしめないよう特に配慮すること。
(三) 農業上必要な実務の範囲に限定して試験を行つた場合には、事業管理人としての法的な資格においては、一般の試験に合格した者と同様であるが、これらの者が、製造業、輸入業、一般の販売業の事業管理人となることは望ましくないので、事業管理人設置届受理に当つては、然るべく指導すること。
(四) 旧法の規定による事業管理人試験に合格した者は、新法の毒物劇物取扱者試験に合格したものとみなされること。
六 毒物又は劇物の取扱、表示及び着色
(一) 毒物又は劇物の取扱及び表示については、新法第一一条、第一二条に規定されているが、旧法よりは厳格になつているので、その点留意すること。
(二) 新法施行の際、現に市販されている毒物又は劇物であつて、既に旧法の規定による表示のされているものは、新法附則第五項の規定により施行後一年を限り、新法による表示がされているものとみなされること。
(三) 新法第一二条第二項第一号の名称とは、毒物又は劇物の化学名及び商品名のあるときはその名称をそれぞれ記載させる趣旨であり、又同項第三号の解毒剤の名称については、近く厚生省令で定められること。
(四) 新法第一三条の農業用毒物又は劇物の着色方法は、規則第一二条で定めている通り、従来と同様であること。
七 毒物又は劇物の譲渡手続及び交付の制限
(一) 営業者が営業者以外の者に毒物又は劇物を販売し、授与したときは、必要事項を記載し印をおした書面の提出を受けなければならないときは旧法と同様であるが、営業者間で販売、授与するときは、譲渡する者が書面を備え、必要事項を記載しておけば足りることとしたこと。但し、営業者以外の者に販売、授与する場合でも営業者に帳簿を備えしめ、その帳簿に記名捺印(拇印でも可)する等取引上簡便な措置をとり、譲受人に不必要な不便を蒙らしめないよう指導すること。
(二) 毒物又は劇物の交付を禁止する年令が引き上げられ、新たに精神病者又は麻薬若しくは大麻の中毒者に対する交付が禁止されたこと。
(三) 新法では明文をもつて禁止していないが、営業、学術等正当な用途に使用されないことが客観的に明らかである場合には販売、授与を拒否することも差し支えないのであるから、毒物又は劇物の販売、授与による不測の災害の生ずることのないよう十分指導すること。
八 その他
(一) 営業者より廃業の届書を受理したときは、新法第二一条の規定による処置を行つたことを確認し、製造業者、輸入業者の場合には、届書にその旨附記すること。
(二) 新法第二二条に規定する厚生省令で定める毒物又は劇物の業務上取り扱う者の範囲につき、施行の過程において指定することを適当と認めるものがあるときは、その旨を具申すこと。