アクセシビリティ閲覧支援ツール

添付一覧

添付画像はありません

○新医薬品の臨床評価に関する一般指針について

(平成四年六月二九日)

(薬新薬第四三号)

(各都道府県衛生主管部局長あて厚生省薬務局新医薬品課長通知)

標記について、医療用医薬品たる新医薬品の承認申請の目的で実施される臨床試験の臨床評価に関し、その一般指針を別添のとおり取りまとめたので参考までに通知する。

なお、貴管下関係業者に対し周知方よろしくご配慮願いたい。

〔別添〕

新医薬品の臨床評価に関する一般指針

第一章 序

臨床試験の目的は、治療薬の疾患又は症候に対する治療的ないし予防的効果や、さらにその使用に際しての危険性や副作用をヒトについて検討し、最終的には治療効果と副作用の相対的評価などに基づいて、臨床における有用性を評価することにある。また、臨床試験はヒトを被験者とすることから倫理的な配慮のもとに、科学的に適正な方法で行われなければならず、被験者の立場からは、期待し得る利益に比し、危険にさらされる可能性を最小にするような方法で行われなければならない。

これまでの経験から、臨床試験を倫理的、科学的に行うための具体的方法としては、常に被験者の人権保護に配慮しつつ、一定の原則のもとに段階的に行い、各段階で得られた結果を客観的、科学的に十分に評価しながら次の段階に進むという方式か最も優れていることが知られている。主として科学的な方法(論)の立場からは、第Ⅰ相、第Ⅱ相及び第Ⅲ相という相を形成して段階的に進んでいくという考え方であり、本指針では主としてそのような科学的側面を中心に述べる。なお、初めて臨床試験に入るにあたっては、それに先立って行われる動物を用いた安全性試験等の非臨床試験の結果から、薬効、危険性、副作用の可能性などを十分に評価したうえで、医薬品として有用性が期待できると判断された薬物についてのみ臨床試験の実施が考慮されるべきである。

以下、総論としてこれらの問題点について概略を述べるが、詳しくは各論的記述を、さらに個々の薬物については各薬効群ごとの臨床評価方法に関するガイドラインを参考にすることが望ましい。また、臨床試験の計画、実施及び評価、分析にあたっては適切な統計解析手法の応用が重要であるが、これについては「臨床試験の統計解析に関するガイドライン」が公表されているので、あわせて活用されることが望まれる。

臨床試験の倫理的側面とその成績の信頼性確保の面からは、既に「医薬品の臨床試験の実施に関する基準」(GCP)が公表され実施されている。本指針はGCPと別個のものではなく、車の両輪のようなものであり、科学的でなければ倫理的ではあり得ないということを強調したい。

第一 段階的進め方

通常、臨床試験は第Ⅰ相、第Ⅱ相及び第Ⅲ相と順に進めて行く。

1 第Ⅰ相試験は、治験薬を初めてヒトに適用する試験で、原則として少数の健康男性志願者において、治験薬について臨床安全用量の範囲ないし最大安全量を推定することを目的とし、あわせて吸収・排泄などの薬物動態学的検討を行ない、第Ⅱ相試験に進み得るか否かの判断資料を得るための試験である。

なお第Ⅰ相試験は、それに先立って行われる非臨床試験の結果から、薬効、危険性、副作用の可能性などを十分に評価したうえで、医薬品としての有用性が期待できると判断された薬物についてのみ、その実施が考慮されるべきである。健康志願者における試験に引き続いて患者で行われるごく早期の試験も、第Ⅰ相試験の一部と見なす考え方もある。

2 第Ⅱ相試験は、適切な疾病状態にある限られた数の患者において、治験薬の有効性と安全性とを検討し、適応疾患や、用法・用量の妥当性など、第Ⅲ相試験に進むための情報を収集することを目的とする試験である。第Ⅱ相試験は通常、前期と後期に分けられる。

前期第Ⅱ相試験では、患者を対象に安全性、有効性及び薬物動態などについて瀬踏み的に検討する。後期第Ⅱ相試験では、前期に引き続き治験薬の薬効プロフィール(適応範囲)を明らかにするための探索的検討を行うとともに、用量反応(設定)試験(必要な場合にはプラセボを含める。)を行い、最小有効量及び最大安全量の範囲を検討し、臨床至適用量幅を決定する。また、第Ⅱ相試験の期間に剤形と処方を決めておく必要がある。なお、製剤の剤形と処方の変更にあたっては、薬物の生物学的利用性(bioavailability)等を検討して、変更前に得られた臨床試験成績を使用することの妥当性について十分に検討する必要がある。

3 第Ⅲ相試験は、比較臨床試験及び一般臨床試験により、さらに多くの臨床試験成績を収集し、対象とする適応症に対する治験薬の有効性及び安全性を精密かつ客観的に明らかにし、治験薬の適応症に対する臨床上の有用性の評価と位置づけを行うことを目的とする試験である。

第二 計画と結果の分析

1 臨床試験の計画立案にあたっての基本原理は、先行して行われた試験の結果が次の試験の計画に影響を及ぼす、ということである。従って計画の立案、実施にあたってはそれまでに集積された試験成績について、十分な評価、検討を行っておく必要がある。

2 試験から得られる有効性、安全性及び有用性に関するデータを、正しくかつ客観的に評価するためには、臨床試験の計画立案、実施、分析等の各段階において、統計学の専門知識も必要である。

3 臨床試験を行うにあたっては、予め目的とする対象集団を明確に規定しておく必要がある。また、治験参加志願者又は患者の選び方、治療群別の薬剤の割付け法、試験実施法、臨床効果の評価項目などについて具体的に明確に規定しておく必要がある。なお、臨床効果の評価項目には、臨床的観察や臨床検査の成績が含まれる。

4 複数の評価項目に答えるように計画する場合には、試験目的が探索的か検証的かに応じて計画立案時に先ずプライマリー・エンドポイント(主要評価項目)を明確に規定し、次に評価項目を重要なものから順に並べておく等の工夫が必要である。

5 各一症例についての試験期間は予め定めておく必要があるが、薬効及び副作用の有無や程度を明確にするのに十分な期間でなければならない。とくに長期投与が予想される薬物については、長期投与による効果の減弱や副作用の出現などをある程度明らかにできるような期間でなければならない。

6 それまでに得られたデータに基づいて、治験対象者からの除外、試験中の脱落及び治験薬投与の中止等に関する基準を予め設定し、規定しておかなければならない。この基準は被験者の安全のために必要な場合は、途中で変更することができる。しかし、いずれの場合もその変更の理由を明記しておくことが必要である。

7 臨床試験成績の報告に際しては、用いた統計解析法を記載する必要がある。一般的でない統計解析法を用いた場合は、その統計解析法が妥当なものとする理由を示す必要がある。臨床試験成績の統計解析方法については、「臨床試験の統計解析に関するガイドライン」(平成四年三月四日薬新薬第二〇号新医薬品課長通知)を参考にすること。

8 一般的に計画の立案と実施及び結果の分析にあたって考慮されるべき事項は以下のとおりである。

1) 試験目的の明示

2) 被験者の選択基準(診断基準と除外基準を含む)を明確に記載し、将来実際に使用されると予測される目的集団(母集団)に対して被験者群が代表性をもっていることを示すこと。

3) 比較試験にあたっては通常、対照群を同時に設定すること。

4) 治験担当医師(歯科医師を含む。以下同じ)及び被験者の先入観等による偏りを排除するため、できる限り無作為化二重盲検法で行うよう計画すること。

5) 無作為化試験に際しては、無作為化の方法と無作為化が十分に行われたことを示すこと。

6) 検出したい薬効の程度、偽陽性となる危険に対する保証の程度(第一種の過誤)、実際には薬効があるのにそれを明らかにし得ない危険の許容程度(第二種の過誤)等を考慮して、適切な規模の臨床試験を計画すること。

7) 観察、測定及び評価はできるだけ客観的方法によって行うこと。

8) 観察及び測定方法を含め、臨床効果の評価項目を定め明確に定義すること。

9) 可能な限り治験実施計画書に従って忠実に行い、変更を要する場合には、その変更点及び理由を明確に記載すること。

10) 無作為化の不成功や脱落、中止例等により試験を計画書通りに行えなくなった場合には、その理由及びそのことが限界に及ぼす影響を考慮して、その試験から引き出せる評価の結果について記載すること。

9 プライマリー・エンドポイントについて

臨床試験では、多面的にその治験薬の薬効又は有用性を調べることは有意義なことであるが、その反面、臨床試験に必要とする経費や手数・努力などの観点から一つの臨床試験で多数のエンドポイントについて調べようとする傾向が見られる。このことは探索的臨床試験(通常第Ⅱ相で行われる。)においては重要なことであるが、検証目的の臨床試験(通常第Ⅲ相で行われる。)では望ましいことではない。検証目的の臨床試験においては、ごく少数の、出来れば一つのプライマリー・エンドポイントを予め定めた計画によって行うことが大切である。勿論それ以外のエンドポイントをセカンダリー・エンドポイントとして予め定めておくことも許されるが、そこで得られる結果はあくまでも副次的、探索的なものとして取り扱う必要がある。

また、試験結果の解析については二つの立場がある。すなわち〝治療しようとした全ての患者を含めて解析〟する立場と、〝厳密に治験実施計画書通りの治療を受けた患者のみを解析〟する立場である。試験に際し治験実施計画書に、両方の立場から分析することを定めておいて、これら二つの解析をともに行うことも認められるものではあるが、第Ⅲ相における比較試験の解析は前者で行われることが多い。また、後者の解析による結果は参考資料と解すべきものであろう。臨床試験において後者の立場に立った解析方法が行われるのは、一般的には探索的な第Ⅱ相試験においてである。

臨床試験は客観的に、正確に、首尾一貫した方法で行われなければ、科学的評価に耐え得る有意義な試験にならないが、客観性を保った一定の評価を行うためには統計学的手法以上に優れた方法は今日まだ知られていない。検証目的の試験においてエンドポイントを一つまたはできる限り少数にする理由の一つには、この統計学的方法の誤用による判断の誤りの増大を避けることにある。プライマリー・エンドポイントとしては一般に、臨床的ないし生物学的に意義があり、客観的測定、観察及び評価が可能で、薬理学的にも説明ができる曖昧でないものとする必要がある。

第三 被験者の選択

治験実施計画の立案に際し、被験者選択の妥当性については、試験の全体を通して常に検討されなければならない。また、できるだけ投与の対象となり得る広い年齢層で検討されることが望ましい。ただし、妊婦又は妊娠している可能性のある女性及び小児における臨床試験は別個に考慮することが必要である。

第Ⅰ相試験は、例えば一部の坑悪性腫瘍薬などのように、治験薬が健康人に対して明らかに毒性を発現する可能性がある場合や、薬理学的性質のために健康人に対しては使用禁忌である場合を除き、通常健康志願者で行われる。しかしこの場合も、あらゆる面で文字通り健康な人は少ないことを考慮に入れる必要がある。すなわちこの場合の健康人とは、試験成績の解釈を複雑にするような環境上や精神身体上の異常や、治験薬に内在する毒性に対して感受性を高めるような特性を持っていない人々と考えるべきである。

軽症でしかも変動の少ない病気を有する患者、例えば軽症で合併症のない高血圧や関節炎の患者などを、それぞれの薬効が期待される治験薬の第Ⅰ相試験に組み入れることは可能である。また例えば軽症の高脂血症のみを有し、それ以外では健康であると判断される患者を坑高脂血症薬のみならず、その他の治験薬の第Ⅰ相試験に組み入れることは差し支えない。

一般には、妊婦又は妊娠している可能性のある女性、小児、高齢者及び重篤な疾患を有する患者等は、第Ⅰ相及び第Ⅱ相試験からは除外される。心、肝、腎、血液などに異常のある〝健康〟志願者は原則として第Ⅰ相試験の被験者から除外される。心、肝、腎、血液などに異常のある患者の第Ⅱ相及び第Ⅲ相試験における取扱いは、その試験の目的及びそれら異常の程度によって決められる。

第Ⅰ相試験及び第Ⅱ相試験の初期の試験は、被験者が入院した状態で行われるべきである。ただし以下の場合には外来で行うことも可能である。

1) 外国で臨床成績が集積されている治験薬

2) 適応症追加の目的で用いられる、有効成分が既承認の治験薬(なお、この場合は用法及び用量を著しく変更する場合を除き第Ⅰ相試験は省略できる。)

3) 薬理作用や毒性が良く知られており、外来患者を用いても安全であると判断される治験薬

4) 既承認の有効成分で新しい剤形及び処方のもの(なお、この場合は生物学的利用性が著しく変化する場合を除き第Ⅰ相試験は省略できる。)

5) 局所適用製剤

6) 原則として入院治療が行われない疾患の前期第Ⅱ相試験(しかし、このような薬物についても、十分に安全性が保証されたものでない限り、第Ⅰ相試験は入院した状態で行うことが必要である。)

後期第Ⅱ相試験及び第Ⅲ相試験は、その治験薬の適応の実態に則して入院又は外来で行う。

第四 医療機関及び治験担当医師

第Ⅰ相試験及び、前期第Ⅱ相試験(とくに、少なくとも前期第Ⅱ相試験の初期の段階)は、被験者に対する十分な観察と管理の下に、緊急時に十分な措置がとれる医療機関で行われなければならない。後期第Ⅱ相試験も患者に対する十分な観察と監督ができ、緊急時に十分な措置がとれる医療機関で行うことを原則とする。

医療機関の数は第Ⅰ相試験、前期第Ⅱ相試験、後期第Ⅱ相試験及び第Ⅲ相試験と相が進むにつれて増やして行くが、臨床試験の質を保ち精度を高めるためには必要最小限の医療機関数に限定することが望ましい。

治験担当医師は、第Ⅰ相試験では、臨床薬理学に造詣を有する医師又は治験薬の薬効に応じた専門医学領域の医師であることが必要である。第Ⅱ相試験では、治験薬の薬効に関連する臨床領域の専門医で、臨床薬理学の知識を有する医師であることが望ましく、また、第Ⅰ相、第Ⅱ相ともに当該臨床領域の専門医と臨床薬理学の専門医が協力して実施することも良い。第Ⅲ相試験では、治験対象疾患の専門領域における十分な学識経験を有する医師である必要がある。

第五 治験組織について

治験にあたっては、臨床実験実施計画の効率的な作成や、臨床試験の進行管理、除外・脱落等の症例の取扱いの決定、症例記録の記載漏れや記載誤りの発見及び発表論文の作成などのため、適切な治験組織が作られることが多く、例えば世話人会、中央委員会、小委員会などが設置される。これらの組織を運営し、臨床試験を適切に管理することは治験依頼者の責務であるが、比較臨床試験などにおいて臨床試験の客観性を保ち公正に管理された治験とするため、臨床試験一般や望ましくは統計解析手法に知識と経験があり、中立的な立場の者をコントローラーとして委託することも良い方法である。

有効性や有用性について、いわゆる中央委員会判定が行われることが少なくない。この場合の判定は、一定の基準を設けて行われるのが普通である。しかしながら、適応を計画に従って比較的厳密に判定する関係上、一般には除外・脱落例が多くなる傾向がある。また、場合によっては判定基準は、全データが集まってから(いわゆる開票前ではあるが)定められる場合もある。一定の基準で判定するのであれば、本来は予め基準を設定しておき、データ解析時に機械的に処理すべきであって、事後的に全データを見てから判定基準を設定するのは、臨床試験計画の立場からいえば好ましくない。そのようにして得られた結果はあくまでも探索的なものとして掴えるべきものである。すなわち、中央委員会判定は治験担当医師の判定の矛盾や誤記載を補正するための作業に主眼が置かれるべきであり、治験担当医師の判定を主体に解析し結論とすることを原則と考えるべきであろう。また、除外、脱落等の症例の取扱いについても、事前に定めた基準に従うべきであり、事後的に基準を設けたり変更するのは望ましくない。

第六 被験者数

特定の薬効群の薬物については、それらの臨床評価に関するガイドラインにおいて、特定の試験に対する必要被験者数が過去の経験に基づいて示されている。しかし、これらは絶対的なものではなく、計画した試験から必要な成績が得られるならば、被験者数は最小限にするように心がける必要がある。被験者数を決定するためには臨床試験の統計学的評価に精通した統計学者の援助を必要とする場合もある。

例えば、循環器官用薬などでは、第Ⅰ相試験は約二〇名、第Ⅱ相試験では一〇〇名以上、第Ⅲ相試験の二群比較試験は対照群の患者を含めて二〇〇名位が一般的な目安であろう。

第七 被験者の無作為割付け

比較試験を行う際は、その試験が二重盲検、単盲検あるいは非盲検試験のいずれの場合でも、被験者を無作為に割付けて試験を行うことが望ましい。この場合、被験者を予め層別にしたうえでそれぞれの層に各群を割付けることが望ましい場合もある。無作為割付けに際しては、多医療機関に及ぶ場合には、最終的に医療機関の間で各群の症例数などに大きな偏りが生じないよう、ブロック無作為割付け法が用いられるのが一般的である。この方法による場合、もし二重盲検法による二群比較であるなら、盲検の維持及び効果に関する医療機関(治験担当医師)と投与群との交互作用の解析のために、一医療機関(一治験担当医師)への割付け最小単位は一群一〇例程度で、それ以下にすることは適当ではないとする考え方もある。

割付け総数が二〇〇例以下の場合には、被験者特性(背景因子)に偶然の偏りが生ずる確率が高くなるので、重要な背景因子(例えば、抗高脂血症薬における血清総コレステロール値)について、偶然の偏りが生じていないかどうかを検討する。もし偏りが見られ、統計解析において調整を行う場合は、調整対象とする因子を選択した理由を説明する。

第八 臨床試験の管理と留意点

1 試験法の選択

ごく初期の臨床試験の目的は、薬効又は副作用の面から投与量を徐々に上げながら決定して行くことである。これは一般には非盲検法で行うのが良い。この時期の試験で重要なことは、注意深くかつ絶え間なく被験者を観察することである。しかし、治験薬の性質によっては、プラセボ又は実薬を対照とした盲検比較試験によって、より効果的に目的を達成することができる。

臨床試験でプラセボを用いることの意義は、どの相においても精度の高い試験を行うことができる点にある。しかし、ある種の疾患ではプラセボではなく、既承認の医薬品を対照として使用することが望ましい。

もし、ある治験薬を用いて明らかな用量反応関係が認められたならば、これ自体で十分な対照となっているといえることが多い。しかし、一般には、プラセボ又は既承認の医薬品のいずれか又は両方を対照とした比較試験を行うことが必要となろう。

2 第Ⅲ相比較試験の対照薬(既存薬)の選択

一般に、治験薬の薬効分野に既存の医薬品がある場合には、承認申請にあたって治験薬と既存薬との比較試験が要求される。従って、既存薬が複数ある場合、どの薬を対照として試験を行うべきかが問題となる。

一般には、市販されている既存薬で、治験薬の試験方法と既存薬の承認申請の際に行われた試験方法とが著しく異らない限り、新旧を問わず、その分野で最も有用性があると考えられる既存薬を対照薬(このような対照薬として最も適当なものを標準薬と呼ぶこともある。)とすべきである。承認されてから日時の余り経過していない既存薬の場合には、必ずしも広く使われているとは限らないので、広く使われている薬であるか否かは対照薬選択のための重要な要因にはならない。有用性の確立した薬を対照薬とすることが必要であるが、治験薬と同じようなデザインで試験が行われる限り、承認発売された時点で対照薬とするだけの有用性は確立していると見なすことができよう。例えば、降圧薬のような場合には、一般的には化学構造や作用機序が類似している既存薬の中から対照薬を選ぶことが望ましいが、抗高脂血症薬のように、現時点では、化学構造や作用機序とは関係なく、抗高脂血作用の観点から最も有用性の高い既存薬を対照薬とすべき薬効分野もある。すなわち、対照薬の選択基準はその分野の臨床の実態と学問の進歩に応じて時代とともに変化するものであるが、いずれにせよ、治験薬が適応とされる臨床分野で最も有用性が高いとされる既存薬を対照薬として選ぶことが原則である。

3 比較試験実施時のコントローラーについて

適切な臨床試験の管理は治験依頼者の責任であるが、とくに比較試験の場合には、試験の客観性を保ち公正に管理された試験とするため、一人又は複数のコントローラーを依頼することも良い方法である。

コントローラーの役割りは、その試験が、安全に、偏りなく公正に行われ、その成績がそのまま公表されるように治験総括医師、治験担当医師及び治験依頼者から独立した立場から試験を管理し、それらを保証することにある。このためコントローラーは、対照薬の妥当性や治験実施計画書の妥当性についての検討、除外・脱落例などの検討、治験総括医師等との協議等に参画できるよう、治験薬の薬効分野にある程度の専門的知識を有し、薬効評価の方法論に精通している者であることが必要である。

第九 被験者の治験薬等の使用状況の調査

臨床試験における重要な問題の一つは、被験者が計画された通りに治験薬等を使用しているかどうかということである。比較試験の治験実施計画書には被験者の治験薬等の使用状況をいかにして調査し、どの程度規定を守れば試験を継続してもよいとするか、あるいは完了例と見なすかを明示しておく必要がある。再度受診時に被験者の規定違反が判明した際には、その規定違反の内容と理由を記録しておく必要がある。被験者の人権保護に配慮しつつ、これらの被験者を試験に引き止め、規定を遵守するように説明する等の努力は、規定を守っている被験者に対するそれと同様に誠実に行われなければならない。ひとたび試験に参加した被験者(一度でも治験薬ないし対照薬の投与を受けた被験者)はそれらの使用状況の如何にかかわらず全例報告しなければならない。また第Ⅲ相試験においては原則としてこれら全例を含めた解析を行ない、治験薬等の使用状況によって解析から除くといったような操作を不用意に加えてはならない。被験者の治験薬等の使用状況に関するデータを報告書に含めることは、臨床試験の信頼性を高めることになろう。

第一〇 投薬量に関する検討

最小有効量のみならず、有効で安全な最大量をできるだけ検討し、有効量と安全量の範囲を明らかにしておくことが望ましい。

症例によって反応が異なることが予想される治験薬においては、第Ⅲ相の二重盲検比較試験においても、患者の反応に応じて投薬量を適切に変更できるような計画を立案するべきである。

第一一 安全性の検討

臨床試験を安全に行うために必要な臨床検査の種類と検査の頻度は治験薬によって異なるので、薬効群ごとの臨床評価に関するガイドラインにそれぞれ述べられている。ときには臨床検査より臨床的観察の方が有効性や安全性に関してより速やかで信頼性の高い指標となる場合もある。薬効群ごとの臨床評価ガイドラインには特定の臨床検査が掲げられていることもあるが、望ましい検査は技術の進歩によって変わり得るものであることに留意する必要がある。

第一二 妊婦及び妊娠している可能性のある女性における検討

一般に、臨床試験の初期においては、妊婦及び妊娠している可能性のある女性は被験者から除外しなければならない。

妊婦及び妊娠している可能性のある女性に用いられる治験薬の場合には、これらを被験者としない第Ⅱ相試験で有効性と安全性について適切な情報が得られ、さらに動物を用いる生殖試験の全てが終了した後に試験が組まれるべきである。投薬中に妊娠した場合には、胎児についても追跡検討を行う必要がある。また可能な限り治験薬又はその代謝物の乳汁中への移行についても検討すべきである。

なお、妊婦及び妊娠している可能性のある女性に対してのみ使用される医薬品については、第Ⅰ相試験から女性について試験を行うが、試験の進め方については、これまでの記述を参考として慎重に行う必要がある。

第一三 小児における検討

小児及び新生児に投与する可能性の大きい治験薬は、これらの年齢群の被験者において評価が行われなければならない。

特定の治験薬については第Ⅱ相の初期から小児に用いることが容認される。小児で臨床試験を行う場合には、なるべく年長児から始め、ついで年少児、幼児、乳児と進んで行くことが望ましい。この場合、幼若動物による毒性及び薬理試験の結果は参考となる。

第三章 薬物動態学的検討及び製剤学的検討について

第一 薬物動態学的検討について

動物種によって薬物の代謝が異なることは良く知られているが、ヒトに使用しはじめたならば、なるべく早い時期に吸収特性を調べ(静注の場合を除く。)、また、単回及び反復投与後の血中・尿中・糞中等の治験薬ないしその代謝産物の濃度やその時間的推移などを測定して治験薬の血中半減期等を検討し、ヒトがどの動物種と薬物動態学的特性が類似しているかを検討することは、その後の臨床試験に有用な情報を提供する。

一般的に、ヒトでの治験薬の代謝産物の詳細な固定等を臨床試験の初期の段階で行うことは、技術的な問題もあり、必ずしも必要ではない。しかし、以後の臨床試験の計画に役立つものについては、可能な限り、治験薬の代謝に関する研究を臨床試験と並行して行うことが望ましい。疾患や病態によって薬物動態の変化が予測される場合には、第Ⅲ相試験に入る前にその点について詳細に検討しておくことが必要である。また臨床試験の後期の段階(後期第Ⅱ相ないし第Ⅲ相)では、代謝のパターンや蛋白結合に関する詳細な検討も必要である。

非臨床試験の結果や従来の類似薬の知見等から医薬品相互作用や酵素誘導作用についての問題が予測される治験薬については、臨床試験の期間中に医薬品相互作用と酵素誘導作用について試験を行うことが望ましい。しばしば併用投与される医薬品のうち、相互作用が予測されるものについては、治験薬投与中の被験者において医薬品相互作用が検討される必要がある。例えば、虚血性心疾患でいわゆる冠拡張薬を投与している患者においては、利尿薬、降圧薬、抗不安薬、血糖降下薬などを同時に併用していることが少なくない。また、消化性潰瘍で酸分泌抑制薬を投与している患者においては、抗不安薬の同時投与を受けていることが多い。従って、このような種類の薬物を選択して、医薬品相互作用を検討する必要がある。それらの結果から得られた情報は最終的には全てを一つにまとめておく必要がある。

第二 製剤学的検討について

製剤は医薬品を全身循環血あるいは作用部位に運ぶ過程での担体とみることができる。同量の主薬を含む同一剤形の製剤でも、治療効果の異なる製剤が生まれる可能性があり、製剤によっては担体として十分な働きを発揮しないこともある。担体としての働きの程度は、生物学的利用性で定量的に表現することができる。第Ⅰ相試験では治験薬の忍容性と安全用量の範囲が検討されるが、これらの試験は、可能ならば目標とする市販予定製剤で開始し、その製剤の生物学的利用性(製剤から体内に移行する薬物の移行量と移行速度)を測定するようにすることが望ましい。この場合、注射剤あるいは製剤工程の影響がなるべく少ない剤形(経口剤ならば液剤、懸濁剤など)の製剤と比較することが望ましい。生物学的利用性は治験薬の用法・用量を決定するために必要な情報の一つである。

また、第Ⅱ相試験においては、治験薬の生物学的利用性に対する、疾患、病態、併用薬及び食事の影響なども検討する必要がある。治験薬の剤形と製剤処方の決定は、臨床試験のなるべく初期の段階が望ましく、薬物の放出を制御するなどの特殊な剤形及び軟膏剤など、その製剤処方、基剤、製剤工程が薬効に大きな影響を与える製剤では、このことが不可欠となる。

生物学的同等性試験は、生物学的利用性を相対的に比較する試験であり、臨床試験の相の進行とともに製剤処方、製剤工程、あるいは剤形の変更が起こった場合、以前の製剤で得られたデータが変更した製剤にも適用できるかどうかを判断するために利用できる。しかし、治験薬の最終的な剤形と製剤処方は、原則として第Ⅱ相試験終了までに決定すべきである。

第四章 非臨床試験の実施について

第一 毒性試験について

治験薬は、それぞれ化学構造、理化学的性質、薬理作用、体内動態や臨床試験で用いられる用法・用量、投与期間や対象疾患等が同一ではなく、臨床試験の各相に入る前の段階でどの程度の毒性試験が終了していなければならないかを一律に決めることは困難である。しかし、どのような場合であっても、実施された毒性試験の結果から、危険性、副作用の可能性などを十分に評価したうえで医薬品として有用性が期待できると判断された薬物についてのみ臨床試験が計画されるべきである。

変異原性試験は、基本的なものについては第Ⅰ相試験開始前に終了する。局所刺激性試験も、臨床試験において局所適用製剤あるいは注射剤などとして用いられる治験薬については、単回又は反復投与による試験を第Ⅰ相試験以前に終了し、その後は相を進めるに従って充実を図る必要がある。

抗原性試験は、特に外用剤や非経口剤では重要な試験である。従って、治験薬の特性や期待される臨床適用に応じ、適切な試験方法を選択し in vivo や in vitro で、一部は第Ⅰ相試験開始前に行い、相を進めるにつれて充実を図る必要がある。

依存性試験は、すべての治験薬について要求されるものではないが、予想される精神的身体的作用に加え社会的影響をも考慮し、依存性試験を行っておく必要があると判断されたものについては、第Ⅰ相試験開始前に終了しておく必要がある。

その他の特殊毒性試験についても、個々の治験薬ごとに、当該試験の要否について検討しておくことが必要であり、その結果、臨床試験の各相に入る前にそれぞれの試験を行わなくても良いと判断した場合にはその理由を明確にし、その根拠を記録しておく必要がある。

第二 薬理学的検討について

一般に新医薬品開発における非臨床試験は、多数の化合物の薬理学的スクリーニングで選定された薬物についての詳細な薬理学的プロフィールの研究をもって始まり、その成績が得られたのち臨床試験に進むか否かが決定される。従って、第Ⅰ相試験に入る段階では既にその大要が得られているはずであるので、試験各相における治験実施計画書の作成に十分利用できるように、その成績、結論のとりまとめにあたっては明確な質的・量的表現に努めることが必要である。

すなわち、

1) 主薬効に対する薬理学的根拠(作用機序)

2) 用量―反応相関と反応持続時間

3) 臨床投与経路の妥当性

4) 系統的一般薬理作用(薬効との関係の有無にかかわらず、一次作用か二次作用かの性質を明らかにする。これらが臨床試験における潜在的副作用に対する注意、解釈に役立つことが少なくない。)

5) 薬理生化学、免疫薬理学的研究

などである。

諸種の実験動物において、これらの薬理学的成績に動物種差の存在することがよく知られており、数種の既存薬との比較研究で種差に関する特性を確認する。また薬物動態の研究などで薬理作用の種差が説明し得ることがある。

第一 GCPの遵守

医薬品の承認申請の際に提出すべき資料の収集のために行われる臨床試験の実施にあたっては、「医薬品の臨床試験の実施に関する基準」(GCP)を遵守する。

第二 第Ⅰ相試験

1 目的

第Ⅰ相試験は、非臨床試験の成績に基づき医薬品としての開発が意図された場合ヒトへの適用を初めて検討する段階である。試験目的は、総論に述べられたように、健康志願者において、治験薬のヒトへの投与の安全性を確認し、安全用量の範囲ないし最大安全量を推定することを目的とし、また薬物動態研究を行い、第Ⅱ相試験計画に際し必要とされる検討資料を提供することである。実施にあたり被験者保護に関する倫理的配慮は特に重要であり、従って、実験的、科学的根拠に基づいた詳細な無駄のない試験計画の作成に留意し、また治験審査委員会の審査を受けることが必要である。治験薬の新規性にもよるが、単に画一的、慣習的な治験実施計画を安易に模倣することは避けるべきである。これらの詳細な調査、検討、審査記録は、第Ⅰ相試験成績の検討、第Ⅱ相以後の治験計画、及び承認申請時の資料として非常に有用である。

2 実施要領

1) 治験担当医師と実施医療機関

第Ⅰ相試験は、臨床薬理学に造詣を有する医師又は治験薬の薬効に応じた専門医学領域の医師の観察管理下で、緊急時に、的確な処置のできる完備された医療機関において行う。なお、治験薬の薬効に関連する専門医学領域の医師と臨床薬理学の専門医が協力して実施することも良い。

2) 被験者

特別な理由のない限り、健康成人男子志願者を対象とする。被験者については適切な理学的、生化学的健康診断検査を行い、治験薬の性質と試験内容(すなわち試験意義、目的、方法、予想される薬効・副作用、随意の参加の撤回及び事故に対する補償など)を十分理解させた上で、試験に対して自発的な意志で参加する旨の同意書を得る必要である。被験者数は安全性と忍容性の検討が可能な必要最小限とする。同一被験者の新たな臨床第Ⅰ相試験への編入は少なくとも六か月間控えるべきである。

3) 用法・用量

非臨床試験での全成績を詳細に検討、整理記録し、同効薬、類似構造薬に関する従来の知識、経験をも加味し、ヒトに対して十分に安全と見込まれる用量を推定して、初回投与量とする。次に段階的に用量を増し、推定臨床単回投与量を上回るまで単回投与し、用量増加に関連した薬理作用、薬物動態、副作用を調べ、可能ならば有効性の初期徴候を集める。これらの成績に基づいて反復投与量、投与期間を決定する。反復投与試験は、血中濃度が測定可能な治験薬については、血中濃度が定常状態に達するまで行う。血中濃度が測定し得ない治験薬については、臨床における将来の使用状況を推定し、薬効や副作用の出現に注意しながら適切な期間行われるべきである。いわゆる有害反応発現までの用量の範囲を求めることは行い難い状況にあることが少なくないが、その場合には、それまでに得られている非臨床試験成績との関連において、ヒトでの忍容性についての十分な根拠を綿密に検討しておくべきである。

4) 観察、試験項目

前記目的に従って、必要にして十分な自・他覚症状に関する観察項目、検査項目を決定し、また予測されない反応、症状にも十分配慮する。治験薬の新規性にもよるが、単に画一的、慣習的な臨床試験計画を安易に模倣すべきものではないことは前述のとおりである。用量関連性の明らかでない症候等を的確に判断するためにプラセボを対照とした試験を行うことが有用な場合もある。血中濃度、用量―代謝能関連、排泄などの初期の薬物動態の検討は、有効性、安全性評価の基礎データとして極めて有用であり、得られた成績については非臨床試験成績との関連において妥当な解釈が与えられなくてはならない。

また、臨床検査は投薬前および投薬終了後には必ず行うとともに、必要に応じ投薬中も数回以上行い、異常の有無を確認する。

5) 一般的注意

第Ⅰ相試験においては、被験者の安全確保を最優先に試験を実施しなければならないので、治験実施計画書に試験中止基準を明示しておかなければならない。得られた成績の解釈には各個症例についての緻密な検討が重要であり、その結果は非臨床試験成績とともに、第Ⅱ相試験への移行の可否に根拠を与えるべきものである。

第三 第Ⅱ相試験

第Ⅱ相試験は、通常の場合、治験薬を初めて患者に使用し、患者に対する治験薬の安全性を確認すると共に、治験薬の患者における薬物動態を検討し、薬効のプロフィールを明らかにし、第Ⅲ相試験における投与量の設定を行う相である。第Ⅱ相試験は、通常、前期第Ⅱ相試験と後期第Ⅱ相試験の二つの段階に分けて進められる。

実施にあたっては臨床試験の質の向上のため、試験内容の詳細を具体的に規定した計画書を作成し、とくに試験目的、治験薬の対象疾患、被験者の選択及び除外基準、併用薬の条件、治験薬等の主要評価項目、効果の判定基準、解析方法、治験薬等の用法・用量を明記し、また副作用を明確に把握し得るよう考慮すること。

〔Ⅰ〕 前期第Ⅱ相試験

1 目的

第Ⅰ相試験の成績から、前期第Ⅱ相試験に移行し得ると判断された治験薬を、初めて患者を対象として、瀬踏み的に次の事項について検討を行うことを目的とする。

1) 安全性と有効性

2) 薬物の体内における動態

3) 投与方法と投与期間

2 前期第Ⅱ相試験への移行に必要な条件

前期第Ⅱ相試験に入るためには、第Ⅰ相試験において治験薬の投与方法及び好ましくない作用を予測できる資料が得られ、患者に対する安全用量の範囲が推定されていることを条件とする。

たとえ、第Ⅱ相試験へ移行しても、安全性や有効性について疑いを持たれるような知見が得られた場合は、直ちに試験を中止し、非臨床試験や第Ⅰ相試験のやり直しを含め、疑問点について十分検討することが必要である。

3 実施要領

1) 治験担当医師と実施医療機関

前期第Ⅱ相試験は、治験薬の薬効に関連する臨床領域の専門医で、臨床薬理学の知識を有する者が行うことが望ましく、また、当該臨床領域の専門医と臨床薬理学の専門医が協力して実施することも良い。同時にその実施に対する十分な観察と管理ができ、緊急時にも十分な処置のできる完備された医療機関で行われなければならない。

2) 被験者の選択

被験者は、当該治験薬について期待される薬効の対象となる疾患に羅患している軽症又は症状の安定している入院患者が望ましい。また、原則として合併疾患を有しない者を選ぶべきである。通常は成人(この段階では高齢者を除く。)男性患者を対象とし、必要な被験者数は治験薬の種類・性質、薬効及び対象疾患等によって異なる。

3) 実施方法

原則として第Ⅰ相試験により安全性が確認された用法・用量によって実施する。この場合、できる限り他薬剤の影響を避けるため、必要な場合には十分なウオッシュ・アウト期間をおくことが必要である。

投与期間は、治験薬の特性によって異なるが、あくまでも安全性を第一とし、なるべく短期間内に目的とする成績が得られるよう試験を計画し実施する。

観察、検査及び測定等は、予測される薬効、副作用、薬物動態について詳細に行うが、予測していなかった作用の発現についても十分に注意しなければならない。

試験終了後においても諸種の臨床検査等を行い、治験薬の影響がなくなるまでの期間、十分な観察が必要である。

なお、試験記録、試験終了後の追跡調査、記録の保管は、適切に行われるべきである。

4 前期第Ⅱ相試験より後期第Ⅱ相試験への移行

前期第Ⅱ相試験で、治験薬を患者に使用することの安全性が確認され、基本的薬効及び用法・用量が推定され、治験薬に有用性があると判断された場合は、より多数の患者を対象とする後期第Ⅱ相試験に移行することができる。

〔Ⅱ〕 後期第Ⅱ相試験

1 目的

後期第Ⅱ相試験は、次の各項目を主な目的として行われる。

1) 有効性:治験薬の薬効プロフィールを明らかにし、適応対象を明らかにする。

2) 用法・用量:第Ⅲ相試験の用法・用量及び至適用量幅を決定する。この際可能な限り二重盲検比較試験により行うことが望ましい。

3) 患者の諸状況下における薬物動態を明らかにする。

4) より広い層の患者について有効性・安全性を確認する。

5) 効能・効果(適応症)に含まれることが予測され、第Ⅲ相試験で比較試験の対象とならない適応疾患に対する有効性も確認する。また緩和な効果を期待する薬剤については、この時期に二重盲検比較試験によってプラセボより有効であることを確認することが望ましい。

6) 必要に応じて長期投与試験の計画を立案し、実施する。

7) その他、必要と思われる諸種の臨床的、臨床薬理学的資料はこの時期の間に整える。

2 実施要領

1) 治験担当医師と実施医療機関

試験実施者は、治験薬の薬効に関連する臨床領域の専門医で、臨床薬理学の知識を有する者が行うことが望ましい。同時にその実施にあたっては、被験者に対する十分な観察と管理ができ、緊急時にも十分な処置のできる完備された医療機関で行うことを原則とする。

2) 被験者の選択

被験者は前期第Ⅱ相試験より広範、かつ多数を選ぶこととなるが、治験薬の薬効が期待される疾病を有する患者であることが必要である。

被験者数は治験薬の種類・性質、薬効、対象疾患、用法・用量、起こりうる副作用の種類などにより異なる。

3) 実施方法

用法・用量は、第Ⅰ相試験、前期第Ⅱ相試験を経て明らかにされた当該治験薬の薬効と安全性が判断された範囲において実施する。用量設定試験においてはプラセボ又は最小有効量及び推定臨床最大用量が含まれることが望ましく、あわせて可能な限り二重盲検比較試験により行うことが望ましい。また、治験薬のみでなく、他剤との併用による医薬品相互作用についても検討しておく必要がある場合もある。

さらに治験薬の種類によっては、比較試験を実施することも考えられる。

なお、試験記録、試験終了後の追跡調査記録の保管は厳重に行われなければならない。

3 後期第Ⅱ相試験より第Ⅲ相試験への移行

後期第Ⅱ相試験で得られた成績により、期待された薬効が認められ、かつ安全性が確認され、治験薬に有用性があると判断され、かつ至適用量幅が決定されたならば、次の第Ⅲ相試験へ移行することができる。

第四 第Ⅲ相試験

1 目的

第Ⅱ相試験で得られた治験薬の有効性と安全性の成績、用量設定試験の用量幅及び投与方法の成績をともに、臨床試験の対象をさらに拡大して、治験薬が実際に臨床使用されたときの効果、副作用を検討するために実施し、有効性と安全性の両面を勘案し承認申請における効能・効果(適応症)、用法・用量、使用上の注意を最終的に設定することを目的とする。

第Ⅲ相試験では、比較対照試験と一般臨床試験とによって、以下のことを明らかにする。

1) 有効性と安全性及び有用性の確認

2) 適応疾患における用法・用量の確認

3) 副作用の確認と回復の状況

4) 併用される頻度の高い他剤との併用効果、医薬品相互作用

5) 治験薬の種類によっては、長期連用による副作用、特別な器官(例えば感覚器、神経系等)に及ぼす作用、連用による薬効の変化(例えば、耐薬性の出現など)、投与中止に伴い発現する症状など諸種の影響を検討する。

2 第Ⅲ相試験への移行に必要な条件

治験審査委員会及び当該治験薬にかかる治験組織等において、第Ⅱ相試験までに得られた成績を十分に検討した上で、第Ⅲ相試験計画が前記目的にかない、かつ当該治験薬を患者に投与することが妥当であると判断された場合、第Ⅲ相試験を行うことができる。たとえ、第Ⅲ相試験へ移行した後でも、安全性や有効性について重要な疑問を生じるような知見が得られた場合は、試験を中止し、その疑問点について非臨床試験や第Ⅰ相、第Ⅱ相試験のやり直しも含めて再検討する必要がある。

3 実施要領

1) 治験担当医師と実施医療機関

第Ⅲ相試験の治験担当医師は、原則として治験対象疾患の専門領域における十分な学識経験を有する医師である必要がある。

臨床試験を実施する医療機関は、原則として高度な医学、薬学の水準にあり、必要な観察と臨床検査等が可能で、緊急時に必要な処置のできる医療施設である必要がある。

2) 被験者の選択

第Ⅲ相試験においては、実際の臨床使用に近似した条件により実施することを原則とする。対象とする患者は、治験薬の薬効が期待される疾患を有すると診断された者でなければならない。

被験者数は、治験薬の種類・性質、試験の目的や内容等によって異なるが、比較試験の症例数の設定に関しては、その根拠を示すものとする。

3) 実施方法

① 実施にあたっては臨床試験の質の向上のため、試験内容の詳細を具体的に規定した治験実施計画書を作成し、とくに試験目的、対象疾患、被験者の選択及び除外基準、併用薬の条件、治験薬等の用法・用量、主要評価項目、効果の判定基準、解析方法を明記し、また副作用を明確に把握し得るよう考慮すること。

② 第Ⅲ相試験は多数の医療機関の共同研究として実施されることが多いが、実施に際しては、特に比較試験の場合は、公正に管理された臨床試験とするために外部にコントローラーを置くことも良い方法である。また、比較試験の解析のため、統計学の専門家等を加えた研究班を組織することも望ましい。

③ 比較試験では、客観的かつ公正で精密な評価が行われるよう、対照薬またはプラセボと比較して、治験薬の臨床的有用性の評価を行う。従って、被験者の選択、補助療法及び有効性、安全性及び有用性の判定に治験担当医師の主観的要素が入り込む可能性のある場合や、被験者の心理的要因が有効性、安全性及び有用性の判定に影響を及ぼす可能性がある場合には、二重盲検法を用いる試験が計画される。また、試験記録、試験終了後の追跡調査記録の保管は第Ⅱ相試験と同様に行う。

4) 被験者の管理と救急処置

第Ⅲ相試験の経過中、被験者に不測の事故が生じた際は、直ちにその被験者に対する試験を中断し、応急の医療処置を適切に施すとともに、治験薬等との因果関係を明らかにし、必要があると判断される場合は全試験に対する再検討を行う。

第六章 結び

この指針は、これまでの新医薬品開発に関する経験、調査及び研究に基づいたものである。個々の問題や具体的な手法などについては、新しい経験や進歩をふまえてさらに改定する必要性が生ずるものと思われる。また、動物を用いた安全性試験から臨床試験に移るタイミングの問題については、現在国際的なコンセンサスを確立すべく検討がなされているところであり、このため本指針では言及していない。この指針はあくまでも一般指針であり、全てを本指針の通りに行わなければならないという性格のものではない。しかし、本指針と異なった方法で行われる場合には、その方法の妥当性を示すことが必要であると考えられる。

治験担当医師、治験総括医師、治験依頼者及び治験審査委員会は、臨床試験にあたり、それぞれの責任において被験者の人権及び安全に対し十分な配慮を払わなければならない。また、治験総括医師、コントローラー及び治験担当医師は専門領域における学識と経験に立脚して正しい科学的判断を下すことが重要であるということを十分に認識しなければならない。