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○徐放性製剤(経口投与製剤)の設計及び評価に関するガイドラインについて

(昭和六三年三月一一日)

(薬審一第五号)

(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生省薬務局審査第一・生物製剤課長連名通知)

標記について、承認申請の目的で実施される徐放性製剤(経口投与製剤)の設計及び評価に関し、そのガイドラインを別添のとおり取りまとめたので参考までに通知する。

なお、貴管下関係業者に対し周知方よろしく御配慮願いたい。

〔別添〕

徐放性製剤(経口投与製剤)の設計及び評価に関するガイドライン

目次

Ⅰ 前文

Ⅱ 製剤設計時に調査、検討すべき事項

1 対象薬物について

2 生体側に起因する問題点

3 製剤の試作と選択

Ⅲ 最終製剤について検討すべき事項

1 最終製剤の評価

2 投与法の設定

Ⅰ 前文

製剤技術の進歩、発展に伴い、近年多くの薬物を対象に徐放化が試みられつつある。徐放性製剤は通常の速放性製剤に比べ、投与回数を減少させ、薬効を持続させたり、副作用または毒性の発現を低減させることができる等、有効性、安全性上の利点も多い。

このため、徐放性製剤に対し適正な設計及び評価に関するガイドラインを以下のとおり作成した。

本ガイドラインは経口の徐放性製剤(主として徐放化による新剤型医薬品)を対象に作成したものである。なお趣旨は他の放出調節製剤にも適用し得るものである。

Ⅱ 製剤設計時に調査、検討すべき事項

1 対象薬物について

対象薬物の固有の性質として、次の事項は有効性と安全性の確保に必要であるので充分検討すること。

1) 消失半減期:消失半減期の長い薬物の徐放化は好ましくない。ただし、ピーク効果による毒性発現を防ぐため、および投与量低減のため等の徐放化は例外である。

2) 初回通過効果:初回通過効果の大きい薬物は放出速度を遅くするとバイオアベイラビリティが著しく低下するおそれがある。

3) 吸収部位:吸収部位が限定されていると、通常の徐放化では吸収率の低下と変動を招くおそれがある。

4) 副作用:徐放化に伴い副作用面からみて望ましくない状態を生じるおそれがある。なお、次のことについても検討することが望ましい。

① 薬物の血中あるいは作用部位濃度と臨床効果との関連性について。

② 薬物の血中濃度維持による薬物代謝酵素の誘導あるいは阻害、薬効の変化、耐性あるいは依存性の発現について。

③ 蛋白結合性に関連した他の薬物等との相互作用について。

(1) 薬力学的特性

医薬品の徐放化は有効成分の血中濃度を適正水準に維持することに主要な意義がある。従つて、薬物あるいは活性代謝物を含めた有効成分の血中濃度と薬効との関係について検討し、平均的な最低有効濃度、最適治療濃度等を明らかにしておくことが望ましい。また、中毒濃度、副作用濃度についても調査することが望ましい。さらにそれらの信頼性を確認するため個人間変動についても調査、検討しておくことが望ましい。

有効血中濃度等が明らかでない場合は、速効性製剤の投与量、血中濃度、臨床データ等から有効濃度の推定を行う。それでも有効濃度が明らかにならない薬物を徐放化する場合は、厳密な臨床試験により有用性を示す必要がある。

(2) 生物薬剤学的特性

対象薬物の生物薬剤学的特性、特に①主要吸収部位と吸収部位特異性の有無、②吸収速度、③吸収の飽和および初回通過効果等によつてもたらされる吸収過程における非線形性の有無、④薬物の消失半減期、⑤薬物代謝の飽和等によつてもたらされる消失過程における非線形性の有無、⑥消化管内及び体内における薬物の分解、代謝等の事項は、合理的な徐放性製剤の設計を行う上に必要であるので、ヒトで調査、検討できる場合はヒトについて、それが困難な場合は動物について、充分調査、検討すること。また、薬物の吸収、分布、代謝、排泄に及ぼす飲食物、併用される薬物、疾病に伴う腎臓、肝臓、心臓等の生理機能の変化の影響についても調査、検討しておくことが望ましい。その他、年齢、性、喫煙等の影響についての検討も有用である。

(3) 化学的、物理化学的特性

一般的特性、特に薬物の溶解度のpH依存性について検討すること。

2 生体側に起因する問題点

製剤からの薬物の放出、吸収は消化管内の生理学的要因の影響を免れ得ない。徐放性製剤は速放性製剤よりも一層生理学的要因の影響を受けやすいので、それについて充分考慮することが必要である。また、特定の集団を対象とした製剤については、その集団の生理学的特性についても考慮することが必要である。

(1) 製剤の消化管内移動特性

製剤の消化管通過速度は、製剤学的には製剤の大きさ、形、比重、付着性、また生理学的には消化管の長さ、形、位置、運動性および消化管内容物の成分と量等によつて影響を受け、更に飲食物、病態、姿勢、ストレス等によつても左右される。特に徐放性製剤のバイオアベイラビリティは製剤の消化管通過速度に依存することが多い。従つて、優れた製剤の設計を行うために、製剤の消化管内移動特性を充分に考慮することが必要である。

(2) 消化管内の生理学的特性

消火管内の生理学的特性(消化管内容物の量、構成成分、pH、表面張力、粘度、消化管の運動性)は消化管の部位によつて大きく異なる。徐放性製剤は薬物を製剤内に保持した状態で消化管内に長く留るため、徐放性製剤からの薬物の放出は、速放性製剤に比べ、消化管内の生理学的特性の影響を受けやすい。特に胃内の液性は酸性から中性の範囲で変動し、それが製剤からの薬物の放出に影響する場合が多い。従つてこれらのことを念頭において製剤の設計を行うことが必要である。

3 製剤の試作と選択

徐放性製剤としては、薬物血中濃度が適正水準に適正時間維持され、食餌や消化管の生理学的要因等の影響を受けにくく、また個人内、個人間の変動が小さいものほど優れた製剤として位置づけられる。

より優れた製剤を選択するために、候補製剤について放出特性を充分に検討し、適当な動物あるいはヒトを対象として薬物速度論的評価を行うこと。

Ⅲ 最終製剤について検討すべき事項

1 最終製剤の評価

(1) 放出特性

1) 放出特性の評価

消化管内における製剤からの薬物の放出は、消化管運動に付随した物理的な力、消化管内容物の量、構成成分、pH、表面張力、粘度等の様々な要因の影響を受ける。従つて、in vivoで放出速度に影響を及ぼし得る要因を、in vitroで充分に把握しておくため、できるだけ多くの条件下で放出速度を検討しておくことが必要である。

安定した血中濃度を得るためには、一般的にはpH依存性の少ない放出速度を示す徐放性製剤が望ましいので、消化管内pHの変動を考慮して、例えばpH1.2、4.0、6.8の3種のpHで、放出特性を検討すること。また、消化管の運動性の変動を考慮して、適当なpHで、撹拌強度についても2水準以上(例えばバトル法で試験を行なう場合は、50、100、200rpm)で検討すること。更に、濡れ、試験液のイオン強度、組成等が放出速度に影響を及ぼすことが予測される場合は、その影響についても検討しておくこと。また異なる種類の装置で試験しておくことも望ましい。

一方、消化管内で製剤に働く機械的な力の変動を考慮し、治療濃度域の狭い薬物を含む徐放性製剤については、機械的な力が強く働く試験法、例えば日局崩壊試験法、ビーズを用いた回転フラスコ法、Solubility simulator法等により、苛酷条件下の放出特性を検討しておくことが望ましい。

2) 溶出試験規格

徐放性製剤の品質管理を適切に行うために、溶出試験規格の設定が必要である。基本的には薬物の血中濃度推移をより適切に評価し得る試験法を採用し、放出率及びその測定時間は徐放性製剤の放出挙動を的確に把握し得るように設定することが望ましい。放出率の許容域は、吸収に及ぼす放出速度の影響の程度、薬物の薬力学的特性(治療濃度域、副作用、毒性)等によつて異なるので、試作製剤の放出速度と血中濃度、薬理効果等のデータを基に、放出速度が変化しても血中濃度等が大きく変化しない範囲、あるいは血中濃度等の変化が当該製剤の有用性を損なわない範囲に定めるべきである。なお安定した薬効を得るためには放出速度の変動の少ない製剤が望ましいので、許容域はできるだけ狭く設定すべきである。

放出速度と血中濃度の関係が明瞭でない、あるいは両者の関連を示すに十分なデータが得られない場合は、合理的な試験法は特定できないが、下記に準じて試験法を設定することが望ましい。日本薬局方溶出試験法第2法(バトル法)を用い、試験液採取時間は、表示量の20~40%、40~60%、70%以上が放出する時間で区切りのよい時間とする。例えば、毎分100回転、試験液量900mlとした場合は、第1、第2、第3の採取時間において、許容域をそれぞれ平均放出率±15、15、10%以内に設定する。なお最後の採取時間については下限値に規定してもよい。判定方法は日局11またはUSPXXIに準じるものとする。

3) 長期保存試験

安定性試験の長期保存試料について溶出試験を行い、溶出試験の規格に適合していることを確認すること。

(2) 薬物速度論的特性

1) 速放性製剤との比較

原則として健康人を対象とし、速放性製剤あるいは原薬と比較し、当該製剤の薬物速度論的特性を評価すること。薬物速度論的評価は、作用部位における有効成分の濃度測定が可能で、且つその有効濃度が明らかになつている場合を除いて、原則として血液データに基づいて行う。尿、唾液等の血液以外の体液データは、有効成分の作用部位濃度または血中濃度とそれらの体液中濃度との間に関連性が認められる場合に用いることができる。

当該製剤が臨床投与量域で薬物の吸収、消失において線形性を示さない場合は、低用量、高用量の2水準で検討する。

i  単回投与試験:対照製剤として速放性製剤、原液の溶液または粉末、あるいは既承認の徐放性製剤(より優れた徐放化を謳う場合)を用い、当該製剤及び対照製剤をそれぞれの用法及び用量に従い単回投与し、当該製剤の有用性を明らかにすること。比較するパラメータは、有効成分の最終採取時間迄の血中濃度一時間曲線下面積(AUC)、無限大時間迄のAUC、最高血中濃度(Cmax)、最低有効濃度維持時間または適正濃度維持時間(それらの濃度が明らかになつているか、または推定できる場合)とする。なお、最低有効濃度あるいは適正濃度に達するまでの時間、最高血中濃度到達時間(t max)、吸収速度定数、消失速度定数、クリアランス、吸収率、モーメント法による平均滞留時間(MRT)、滞留時間の分散(VRT)等も求めておくことが望ましい。

ii 多回投与試験:試験に先立ち、単回投与試験の結果に基づき薬物速度論的手法により、当該製剤及び対照製剤の多回投与後の定常状態における血中濃度推移についてシミュレーションを行うこと。多回投与試験においては、定常状態のCmax、最低血中濃度(Cmin)が予測された濃度域にあることを確認し、①Cmax、②Cmin、③CmaxとCminの差あるいは比(dosage form index=Cmax/Cmin)、④最低有効濃度維持時間あるいは適正濃度維持時間について対照製剤と比較し、当該製剤の有用性を明らかにすること。特に、非線形の吸収、消失を示す薬物、治療濃度域の狭い薬物、重篤な副作用を生じ得る薬物に関しては、多回投与試験により、定常状態の血中濃度推移を的確に把握する必要がある。なお、健康人を対象とした多回投与試験を省略する場合は、シミュレーションに基づいて定常状態における上記パラメータの比較を行い、当該製剤の有用性を明らかにすること。またこの場合は臨床試験において血中濃度の測定を行い、Cmax、Cminが予測濃度域にあることの確認を行うこと。

2) 投与条件及び生理学的要因の影響の検討

徐放性製剤の薬物速度論的特性に影響を及ぼし得る要因について検討することが必要である。特に、食餌は製剤の消化管内移動速度、崩壊、薬物の放出に影響を及ぼすことが知られているので、少なくとも絶食時及び食後の両条件下で製剤を投与し、血中濃度推移を比較しておくこと。著しい食餌効果がみられた場合は、用法(必ず食後服用等の指示)にそれを反映させると共に、薬物溶液あるいは速放性製剤について同様の試験を行い(文献等のデータがある場合は省略できる)、食餌の影響が剤形に由来するものであるかどうかを検討すること。更に、食餌関連の要因(食餌の量、組成、薬物投与迄の間隔等)の影響をできるだけ検討しておくことが望ましい。また、必要に応じ、薬物速度論的特性の日周変動についても検討しておくことが望ましい。

(3) 臨床効果

当該製剤の臨床上の有用性について、既承認の速放性製剤あるいは徐放性製剤(より優れた徐放化を謳う場合)を対照として明らかにすること。特に薬理効果と血中濃度の関係が明らかでない薬物の徐放性製剤については、既承認製剤を対照とした厳密な臨床試験を行う。更に、臨床試験においてできるだけ薬物濃度を測定し、有効濃度、副作用濃度等を明らかにすることが望ましい。

2 投与法の設定

第Ⅰ相及び第Ⅱ相臨床試験において、投与法について検討し、適正な投与指針を作成することが必要である。より良い投与法を設定するために、第Ⅱ相試験において血中濃度を測定しておくことが望ましい。

(1) 投与法設定にあたつての留意事項

i  過剰投与等への対処法:徐放性製剤は速放性製剤と異なり、薬物の1回投与量が多く、しかも薬物が長時間にわたつて吸収されるため、過つて過剰服用した場合、速放性製剤に比べ重篤な副作用や中毒を生じる可能性が大きい。また、噛み砕き等による薬物の過量放出(dose dumping)のおそれもある。特に治療濃度域の狭い薬物を含む製剤では過剰服用及び過量放出の影響が大きいので、その予防法並びに処置法を検討しておくことが望ましい。

ii 疾病時における投与法:疾病に伴つて生じる消化管、肝、腎、心臓等の生理機能の変化が薬物の吸収、分布、消失に影響する例は多くみられ、特に徐放性製剤はその影響を大きく受ける可能性がある。その可能性が予測される場合は疾病に対処した投与法の検討が必要である。

iii 併用薬剤への対処法:他の薬剤を併用している場合、それらが徐放性製剤の薬物の吸収、分布、消失に影響し、血中濃度を変化させ、薬効の変化をもたらす可能性がある。当該製剤と併用される可能性のある薬物についてその影響を検討し、他剤併用時における徐放性製剤の投与指針、注意等を定めることが必要である。

(2) 投与指針の作成

薬物速度論的評価のデータ、第Ⅱ相臨床試験の結果に基づき、服用条件、1日の投与回数、投与量(初期投与量、維持投与量、治療効果が少ないときの増量幅、上限投与量)を定める。中毒や副作用が生じたときの対処法の設定が必要である。

徐放性製剤の特徴を生かし治療効率を高めるためには、血中濃度の測定に基づく、あるいはクリアランスの変動に対応した投与量の調整等の指針も、場合によつては有用である。特に、投与量の僅かな変動によつて血中濃度が大きく変化する薬物(非線形の吸収、消失を示す薬物)、生理的条件や年齢等によつて薬物のクリアランスが変動し血中濃度が変動しやすい薬物、治療濃度域の狭い薬物、酸性や重篤な副作用を生じるおそれがある薬物等を含む徐放性製剤については、それらに対応した投与指針を作成しておくことが望ましい。