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○コンタクトレンズの適正使用に関する指導について
(昭和五四年三月二日)
(薬安第二八号)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生省薬務局安全課長通知)
最近のコンタクトレンズの普及には著しいものがあるが、使用者の増加に伴い、コンタクトレンズに対する安易な使用態度が見受けられ、それによる角膜障害が危惧されているところである。
コンタクトレンズによる角膜障害には、長時間に亘る装用、消毒・洗滌を怠る等定められた取扱い方法を守らない使用に起因した事例がみられ、また異常を認めた際にもただちに専門医に相談しないことにより障害の発見が遅れた事例も多い。
これらコンタクトレンズによる角膜障害については、文献及び副作用モニター症例等の情報をもとに、目下、中央薬事審議会の眼科用調査会等で検討中であるが、当面角膜障害の予防のために、使用者の安易な使用態度に対する注意喚起及び専門医による定期検診を徹底すべきであるとの前記調査会の意見であつた。
このため別添の副作用情報の概要を参考にして使用者が適正に使用することの重要性を十分認識し得る注意事項を取扱い説明書に記載する等、製造販売に当たつては、より一層の配慮を行うよう貴管下コンタクトレンズ製造(輸入販売)業者及びコンタクトレンズ販売業者等に対する指導方よろしくお取り計らい願いたい。
別添
コンタクトレンズによる副作用情報の概要
コンタクトレンズによる眼障害はハードレンズ及びソフトレンズ共に報告されているが、ハードレンズの場合は眼障害を来した場合痛みが先行するので、患者は比較的早期に治療を求めることから、重篤な角膜障害の発現率は低い((1)(2))。
一方、ソフトレンズの場合には、異物感が少ないため、角膜に障害を来しても自覚症状の発現が遅く、適切な治療を受ける時期を逸する傾向のあることが指摘されてい((2))る。
コンタクトレンズの装用による角膜障害の症例は数多く報告されており、なかには角膜の浮腫、混濁等が現れ、更に症状が進んで潰瘍形成に至つた例もあり((3))、また、シリコーンコンタクトレンズによる角膜潰瘍症例がモニター施設から報告されている。寺西はソフトコンタクトレンズの装用による角膜神経に沿つて生ずる特徴的な線状混濁の症例を報告しており((4))、また、大塚もソフトコンタクトレンズを装用したまま就寝し、三三時間の連続装用後、上皮剥離、浮腫混濁が現れた症例を報告している((5))。
コンタクトレンズ装用時は角膜に真菌やヘルペスウイルス等の感染症を起しやすい状態となつており、感染による角膜潰瘍発現例についての報告も少なくない((6)(7)(8)(9))。
感染による角膜潰瘍は重篤な転帰をたどることもあり、早期に適切な処置をとる必要があるものである。
また、コンタクトレンズの長期使用により角膜の酸素欠乏状態を招き、この代償性の変化として角膜血管新生が現れることもよく知られており、このような場合には早期に発見してコンタクトレンズの使用を中止する必要がある((10)(11))。
いずれの場合においても、角膜障害を予防するため、患者に正しい使用方法を十分指導し、長時間の連続装用を避けること、消毒・洗滌を怠らないこと、異常が認められた場合は速やかに専門医と相談すること及び使用期間中は必ず定期的に検診を受けるというルールを守らせることが肝要である((11)(12))。
参考文献
(1) 中島章、新井宏明:眼鏡レンズ破損による眼傷害およびコンタクトレンズ装用による角膜潰瘍に関する調査結果について、日本の眼科、通巻第一三八号九月 一三―二〇、一九七三
(2) 曲谷久雄:ソフトコンタクトレンズ装用眼の障害、日本コ・レ学会誌第一九巻一一号 一四九―一五三、一九七七
(3) 奥村利記子ほか:ソフトコンタクト装用中にみられた重篤な角膜障害の一例(第一三四回九大眼科研究会)、眼科臨床医報第七一巻九号 一一四〇―一一四一、一九七七
(4) 寺西秀人:ソフトコンタクトレンズに起因する角膜障害、日本コ・レ学会誌第二九巻一一号 一五七―一六〇、一九七八
(5) 大塚任、村瀬洋子:ソフトコンタクトレンズの誤用による重症角膜障害の一例、眼科第一八巻 三三五、一九七六
(6) 神谷千秋:SCLによると思われる重篤な角膜障害例(第三一一回東海眼科学会)、眼科臨床医報第七二巻八号 一〇六七、一九七八
(7) 桑山和加子ほか:ソフトコンタクトレンズ装用者に見られた角膜真菌症を疑わせる一例(第三一三回、東海眼科学会)、眼科臨床医報第七二巻一〇号 一二七八、一九七八
(8) 村上正建ほか:ソフトコンタクトレンズ使用者にみられた角膜潰瘍の二例(第二七回四国眼科学会)、眼科臨床医報第七三巻一号 六一、一九七九
(9) 金井淳ほか:ソフトコンタクトレンズ装用眼の事故とその処置について、日本コ・レ学会誌第二〇巻一一号 一六一~一六六、一九七八
(10) 原田清:ソフトコンタクトレンズの臨床的観察(第一七六回大阪眼科集談会)、眼科臨床医報第七一巻一〇号 一二八五、一九七八
(11) 原田清:ソフトコンタクトレンズ長期使用中に発生した角膜血管新生症例、日本コ・レ学会誌、第二〇巻一〇号 一三九―一四二、一九七八
(12) 飛見立郎:S・C・Lによる障害 眼科第二〇巻九号 八三五―八三九、一九七八