アクセシビリティ閲覧支援ツール

添付一覧

添付画像はありません

○医薬品の生殖に及ぼす影響に関する動物試験法について

(昭和五〇年三月三一日)

(薬審第五二九号)

(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生省薬務局審査・生物製剤課長連名通知)

新医薬品の製造(輸入)承認の際に添付すべき資料のうち胎仔試験法については、昭和四〇年五月二八日薬製第一二五号製薬課長通知「医薬品の安全確保の方策について」により実施されてきたが、今後、医薬品の生殖に及ぼす影響に関する試験を行なう場合には、別紙の試験法を参考として実施するよう貴管下医薬品製造(輸入)業者に対し周知徹底を図るとともに、指導方宜しくお願いする。

別紙

医薬品の生殖に及ぼす影響に関する動物試験法

Ⅰ 趣旨

従来からの試験法は胎児の器官形成期に投与された場合の催奇形作用を重視し、これに関する検索を主な目的とするものであつたが、本試験法は、この試験法を更に充実したもので、その要綱は妊娠前から離乳期に至るまでに亙る期間を区分して、その冬期に薬物を投与し、妊娠の成立、胎児の生存とその発生ならびに出生後の成長と発達などに対する悪影響の有無を検索し、また必要によつて更に次産児を得てその観察を続行することにある。

Ⅱ 試験方法

1 妊娠前及び妊娠初期投与試験

(1) 動 物 種 マウス又はラットなど一種以上とし、二胎児の器官形成期投与試験に用いられるもののうちから選ぶ。

(2) 動 物 数 マウス、ラットでは一群雄約二〇匹、雌約二〇匹とする。

(3) 投与経路 原則として臨床適用経路とする。

(4) 投 与 量 原則として成熟動物に対する最大耐量を含む数用量とする。

(5) 投与期間 マウス又はラットの場合、雄は生後四〇日以上のものに、六〇日以上の期間交尾成立まで連続投与する。雌については性成熟期に達しているものに、一四日以上の期間連続投与してから交尾にあてる。雌にあつては交尾成立後もほぼ胎児の器官形成期の始まるまでの期間投与を続ける。

(6) 検索方法 検体投与雄と検体投与雌とを同居させ毎朝交尾の有無を確認する。しかし、必要によつては検体投与雄と非投与雌とを、又、検体投与雌と非投与雄を同居させ毎朝交尾の有無を確認する。

交尾の成立した場合、雌についてはその全例を推定される妊娠末期に剖検し、黄体数、妊娠の成立、胎児の死亡の有無、生存児についてはその形態学的観察を行なう。

2 胎児の器官形成期投与試験

(1) 動 物 種 マウスまたはラットなどのげつ歯類及びウサギなどの非げつ歯類から各一種以上とする。

(2) 動 物 数 マウスまたはラットでは一群約三〇匹、ウサギでは約一〇匹とする。

(3) 投与経路 原則として臨床適用経路とする。

(4) 投 与 量 原則として成熟雌動物に対する最大耐量を含む数用量とする。

(5) 投与期間 胎児の器官形成期における連続投与を行なう。

(6) 検索方法 マウスまたはラットなどのげつ歯類については各群ともその約三分の二を、ウサギなどの非げつ歯類についてはその全数を妊娠末期に剖検し、妊娠の成立、胎児の死亡の有無、生存児については、その形態学的観察を行なう。又、マウスまたはラットについては他の三分の一を分娩哺育させる。これについては成長および発達(行動を含む)その他特異な症状の有無ならびに生殖機能などに関する検索を行なう。なお、必要に応じ更に長期間の観察や処置された母動物の次産児に関する検索を行なう。

3 周産期および授乳期投与試験

(1) 動 物 種 マウス、ラットまたはウサギなど一種以上となし2の試験に用いられたもののうちから選ぶ。

(2) 動 物 数 マウスまたはラットでは一群約二〇匹、ウサギでは一群約一〇匹とする。

(3) 投与経路 原則として臨床適用経路とする。

(4) 投 与 量 原則として成熟雌動物に対する最大耐量を含む数用量とする。

(5) 投与期間 ほぼ、胎児の器官形成期を過ぎた時期から離乳期までの期間連続投与を行なう。

(6) 検索方法 各群とも母体についてはその全例を分娩哺育させる。出生児については成長および発達(行動を含む)その他特異な症状の有無ならびに生殖機能などに関する検索を行なう。なお必要に応じ更に長期間の観察や、処置された母動物の次産児に関する検索を行なう。

Ⅲ 試験方法の解説

(1) 動物種

(Ⅰ) 当該医薬品の代謝様式が人体におけるものと類似した哺乳動物をとることが望ましいとされる。しかしこれに適うことは多くの場合困難であるので一般にはこの種の試験の施行が比較的容易で、また、正常な飼育条件下における関連する知見、特に奇形児の自然発現率の知られている動物種、系統または品種が用いられる。又、この場合奇形児の自然発現率の低い系統や品種を選択するのがよい。

(Ⅱ) Ⅱ2の試験において記したところは、多種の動物から得られた結果は、人への類推を行なう上に、より充実した知見を提供すると期待されることに基づいている。

1と3との試験で、一種以上としているのは2の試験を他の1または3の試験より重視したためである。

(Ⅲ) 1・2および3の試験に共通して用いられる動物種においては、その系統または品種が同一であることが望ましい。

(2) 動物数

(Ⅰ) 記された一群中の動物数は1の試験においては交配に用いた個体の数、2および3の試験においては、妊娠が成立した個体の数を意味する。

(Ⅱ) マウス、ラットおよびウサギ以外の動物種が用いられる場合には、原則として、評価に耐える知見が得られると期待される動物数を用いるものとする。

(3) 投与経路

(Ⅰ) 経口投与法をとる場合、強制注入法は混飼法に比べて確実に一定量を投与し得るという点などで優つているが必要により混飼法によつてもよい。

(Ⅱ) 臨床上局所適用や吸入適用等の行なわれる医薬品については、他の投与経路を以つてかえることができる。また、注射薬について当該動物に臨床上用いられる適用方法を採用し難い場合には他の注射経路を以つてかえてもよい。

(4) 投与量

(Ⅰ) 最大耐量とは、被検動物に検体を一定期間連続投与した場合、障害の現れない最大量をいう。

(Ⅱ) 用量の段階を原則として数用量としているのは、生殖に関する障害の認められた場合にその障害に関する最大無作用量及び用量・効果関係を知るためである。この場合、数用量として少くとも段階の用量をとる必要がある。

(Ⅲ) 用いる用量段階のうちには人体における推定常用量と著しく隔らない用量が含まれることが望ましい。

(5) 投与期間

(Ⅰ) この試験方法では、妊娠前から離乳期までにわたる期間を三分してそれぞれを投与期間としているが、これは長期間の連続投与を行なうと、一般に検索しようとする胎児への悪影響が過小または過大となり、正確に把握されないおそれがあるので、これをなるべく避けるよう配慮したものである。

(Ⅱ) 交尾成立後の雌に対する投与期間を例示すると、次の如くである(交尾確認日を〇日とする)。

一 マウスで〇日~六日、ラットで〇日~七日、ウサギで〇日~六日。

二 マウスで六日~一五日、ラットで七日~一七日、ウサギで六日~一八日。

三 マウスで一五日~分娩後二一日、ラットで一七日~分娩後二一日、ウサギで一八日~分娩後三〇日。

(6) 検索方法

(Ⅰ) 親動物については、試験期間を通じてその生死、体重、一般状態、摂餌量および必要に応じ摂水量を検索し、またこれを剖検した場合にはその内部器官を綿密に観察する。これは生殖に関する所見との関連を考察するためである。

(Ⅱ) 末期生存胎児の形態学的観察としては、一般に性別、外表および内部器官の巨視構造的な吟味と骨格染色透明標本による骨の形態や化骨に関する検査がとられる。更に必要に応じて組織学的あるいは組織化学的方法による詳細な検索をも行なうものとする。

(Ⅲ) 新生児については産児数、その生死、性別、体重および外表における変化などを検索する。その後の成長と発達の観察としては形態および機能に亘るものとするが、行動の観察方法としては、運動、学習感覚あるいは情緒などに関する特定の検索法がある。また、生殖機能の検索にあたつては、妊娠の成立をはかり、妊娠末期における観察をも行なう。

(Ⅳ) 出生後の児に異常所見が見出された場合には必要により、新たに母乳哺育試験などを行なつて出生前または出生後の何れに及んだ影響によるかを分析すべきである。

(7) 対照動物

(Ⅰ) 対照群には、一般に実験群に用いられ薬物の溶媒などプラセボのみを投与するものとする。

(Ⅱ) 必要と考えられる場合には、その動物種に強い催奇形性を惹起することが知られている化学物質を用いたポジテイブ対照群や当該医薬品とその薬効の類似する既存の医薬品を用いた対照群などを更に設けるのがよい。

(Ⅲ) (Ⅰ)の対照群の示す成績を補足するものとして過去に得られた背景データを参照することが望ましい。

(備考)

1 ここに示した試験方法は必ずしもこの通りを固守するよう求める趣意のものではない。これは本来すべての医薬品について一律の試験方法を定めることは合理的ではなく、また、試験の進展に応じて新たな実験を追加する必要の起こることも少くないからである。得られた所見が試験の目的に適い、かつ、臨床上の評価に資することができる論理的関係を導くものである限り適宜な変法を採用することは妥当である。

2 別に知られている知見から生殖への悪影響のあることが疑われる医薬品や多数の妊婦に用いられる可能性のある医薬品の場合、その他本試験の成績により必要と考えられる場合には更に精密な試験(例えば、母体及び胎児の血液、その他における当該薬物の濃度の測定など薬物代謝の検索、新生児における当該薬物の急性毒性試験)を行なうことが望ましい。