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○塩化ビニル(モノマー)を含有する医薬品等の取扱いについて
(昭和四九年六月一日)
(薬発第四九〇号)
(各都道府県知事あて厚生省薬務局長通知)
塩化ビニル(モノマー)を含有するスプレー式殺虫剤の安全性について中央薬事審議会の副作用調査会に意見を求めたところ別紙のとおりであつたので、この意見に基づき、標記医薬品等については、今後左記のとおり取り扱うこととしたので、御了知のうえ、貴管下の関係製造(輸入)業者及び販売業者に対する指導に遺憾なきを期されたい。
記
1 塩化ビニル(モノマー。以下同じ。)を含有する医薬品等(医薬品、医薬部外品及び化粧品をいう。以下同じ。)については、今後製造(輸入を含む。以下同じ。)承認・許可を与えないこととしたこと。
2 既に製造についての承認及び許可を受けている塩化ビニルを含有する医薬品等の取扱いについては、次のとおりとしたこと。
(1) 当該品目の製造業者に対しては、直ちにその製造を中止させること。
(2) 現在市場に流通していると思われる該当製品としては、別表の殺虫剤があるので、これらの製品の販売を直ちに中止させること。なお、別表の品目については、既に内容成分の変更が行なわれているものもあるので、最終的には高圧ガス取締法(昭和二六年法律第二〇四号)に基づく塩化ビニルの表示の有無によつて判断すること。
(3) 該当製品の回収にあたつては、スプレー剤の特殊性から、その運搬、保管方法および場所、並びに処理方法等について保安上の配慮が必要であるので、これらの体制の整備を図りつつ回収に努めるよう関係業者を指導すること。
(4) 塩化ビニルを含有する医薬品等から塩化ビニルを除くよう処方変更を行わせ、若しくは当該品目の承認整理を行わせること。なお、この場合、承認審査を特に優先的に行う方針であるので、次の点に留意のうえ、円滑な事務処理を行われたいこと。
ア 優先的に審査を行うのは、現に製造についての承認及び許可を受けている医薬品等について、その成分の中から塩化ビニルを除くことを目的とする処方変更(これに伴う販売名の変更を含む。)を行う場合に限ること。
イ 既承認品目の成分の中から塩化ビニルを除くことを目的とする処方変更を行う場合は、薬事法第一四条第二項の規定による医薬品等の製造承認事項一部変更承認申請で差し支えないこと。ただし、あわせて販売名を変更する場合は、同法第一四条第一項の規定による医薬品等の製造承認申請を行わせること。
ウ 医薬品等の製造承認事項一部変更承認申請の場合には、備考欄に、一般用、医療用の区分を記載する必要はないが、噴射ガスの組成を変更した旨、その他変更に係る事項を必ず記載させること。
エ 申請書の進達に際しては、進達書の右肩に(ガス)の表示を朱書されたいこと。
別表 略
別紙
中央薬事審議会副作用調査会の意見
1 本年一月米国において塩化ビニル(塩ビ)モノマーからポリマーを製造する作業に長年従事していた労働者三名に肝の血管肉腫が発生したことが報告された。一般に人における本腫瘍発生はきわめてまれであることから、本腫瘍と塩化ビニル(モノマー。以下同じ。)との関連に疑いがもたれ、同物質を取扱う労働者について調査がなされた結果、本腫瘍を発生したものは現在まで一二名あることが確認された。米国はまた他の国に対して同様な症例の有無を照会したところ英国及び西独においてもそれぞれ一例ずつ報告されていることが判明した。
2 塩ビの毒性に関する動物実験の結果がいくつか報告されているが、前記人での肝腫瘍発生との関連において重要なものは、発がん性を主目標とした吸入による長期毒性研究である。一九七一年にイタリアの研究者 Viola らは塩ビの高濃度(三%)の吸入をラットに一二か月継続せしめたところ四〇~五四週に屠殺した全例の動物に皮膚がんが発生し、また一部の動物に肺がん及び骨腫瘍も発生していることを報告した。本年二月、イタリアの Maltoni 教授が塩ビの発がん性研究の予備的報告を行つているが、それによるとラットに五〇~一万ppmの数段階の濃度の塩ビを一日四時間、週五回、一二か月吸入せしめたところ約二六か月後における観察では、五〇ppm群ではがん発生はなかつたが、二五〇ppm以上では肝の血管肉腫が量と相関して認められ、また皮膚及び腎の悪性腫瘍が認められた。
一方、米国では Bio―Test 社がマウス、ラット、ハムスターを用いて五〇、二〇〇、二五〇〇ppmの塩ビを一日七時間、週五回吸入せしめる実験を行つているが、現在までの中間報告によるとマウスでの八か月までの成績では、実験各群で量と相関して肝の血管肉腫、肺がん、乳がんの発生が認められている。
3 塩ビは、その物理的性質を利用して噴射剤として使用されているが、現在では今夏供給予定のスプレー式殺虫剤の約四〇%に使用されている。これらの殺虫剤中には約二四~二七%の塩ビが含有されているが、これらの製品を使用した場合、屋内の状態、噴射時間等の条件によつては、空気中塩ビの濃度が高くなることが考えられる。
4 以上述べたことから塩ビの発がん性の存在は確実と認められるので、塩ビ含有のスプレー式殺虫剤の使用は保健衛生上好ましくなく、一方、殺虫剤には他にも代替品があることから、塩ビ含有のスプレー式殺虫剤が消費者にゆき渡らないような措置を講ずることが必要である。