添付一覧
○生物学的製剤の製造等に関する指導要領制定について
(昭和二四年一二月二四日)
(薬発第一九九〇号)
(各都道府県知事あて厚生省薬務局長通知)
生物学的製剤の指導については、貴庁の格別の御配慮により、その製造、検定、再検査並びに監視業務の面においては着々実効を収め、本年初以来の特別措置も漸く終結して旧に復しつつあるが、今般薬事法並びに生物学的製剤製造検定規則に基いて標記製剤の製造等に関し具体的拠りどころとしての「生物学的製剤製造指導要領」及び「生物学的製剤の標示、表示書指導要領」を制定したから、ついてはこの内容を十分に検討せられ、以って生物学的製剤の監視指導業務の遂行に遺憾のないよう御取り計い願いたい。おって右の二指導要領とは別に、「生物学的製剤製造業登録及び品目製造許可手続指導要領」を目下準備中であるが、これが完成のうえは重ねて送付するにつき、念のため申し添える。
生物学的製剤製造指導要領
厚 生 省 薬 務 局
緒 言
本要領の目的は、生物学的製剤製造に関する基礎的規則(厚生省令第八号一九四九年二月二一日公布)をふえんし解説するにある。
この要領に記載し、解説する主旨及び施策は、生物学的製剤を均等に効果的に製造し、且つ製造監視の原則となるべきものであり、過去において生物学的製剤の製造及び監理について不明であった諸点を除くためのものである。
この指導要領は、その本質は規則であるが、各製造業者にとって一定の価値があり、高級な生物学的製剤を一層効果的に製造するための一助となることを望むところのものである。
その記載の内容は、将来必要に応じて増減される。
一 定 義
(一―一)生物学的製剤とは、ワクチン、治療血清、毒素、抗毒素、又はこれに類似する製剤であって、疾病又は障害の診断、予防若しくは治療に使用する医薬品をいう。
(一―一・一)ワクチンとは、伝染病疾患の原因となる微生物を含む製剤をいう。
(一―一・二)治療血清とは、動物の血液より採取し、血餅或いは血球を除いて非経口的に投与されるものをいう。
(一―一・三)毒素とは、試験動物及び人に対して有毒な可溶性の物質であって、一cc或いはそれ以下の容量(又はこれに等しい重量)で毒性を有し、動物に致死量以下を注射して該動物体内で右の毒物を中和し、かつ免疫された動物の血清中に証明できる特殊な別個の可溶性物質を産生せしめるものをいう。
(一―一・四)抗毒素とは、免疫された動物の血清或いはその他の体液中に含まれていて、その動物が免疫された毒素に対し特殊な中和作用をする可溶性物質を含む製剤である。
(一―一・五)類似製剤とは、次のとおりである。
(一―一・五・一)ワクチン類似製剤ワクチン又はその他の確実に病原性を有するか又は病原となりうるものより製造されたもので、使用特殊菌の毒力産生性を問わないもの。
(一―一・五・二)治療血清類似製剤 全血液又は血漿より成るホルモン又はアミノ酸以外の有機成分又は製剤を含むもので非経口的に投与されるもの。
(一―一・五・三)毒素又は抗毒素類似製剤 その根元を問うことなく特殊免疫法によって人の疾病或いは障害の予防、処置又は治療に使用されるもの。
(一―二)製剤とは生物学的製剤という。製剤は人の疾病又は障害の予防、処置、治療に使用し、その処方の方法乃至使用法の指示等に関係することなく、時と場合により人に処方し、或いは使用して診断の助けとし、人の有する疾病或いは免疫性を測定するために用いることができると信ぜられる製剤として製造されるか、又はその助けをうける場合、右の製剤を診断用に或いはその他の用途に使うことを含む。
(一―三)固有名(販売名)とは、製剤につけられるもので、製造許可書に記載せられた名称であって、その製剤の各容器にちょう付する標示に記載するものをいう。
(一―四)有効期間とは、その期間を過ぎてその特殊な効果をなんの疑もなく期待し難いことをいう。
(一―五)失効期日とは、右の有効期限の限界をいう。
(一―六)製造年月日、有効期間は製造年月日を参照して決定する。その決定は次の各項による。
(一―六・一)公定力価標準のある製剤又は標準に従う製剤にあっては、力価試験に合格した最後の日とする。
(一―六・二)公定力価標準のないもの又は同標準に律せられないものについては、次の各号による。
(一―六・二・一)動物製剤にあっては、動物より採取の期日。
(一―六・二・二)製剤が特殊な減感作用を有する場合はその抽出の期日。
(一―六・二・三)蛇毒にあっては、稀釈の期日。
(一―六・二・四)その他の製剤にあっては、発育の停った期日。
(一―六・三)使用許可を得るために国立予防衛生研究所に提出するものにあっては、公認許可の期日。
(一―六・四)力価試験合格年月日とは、製造業者が行った力価試験完結の期日及び製剤が使用許可前に国立予防衛生研究所に提出される場合は、その公認許可の期日。
(一―七)倉出し年月日とは、製造業者が完成製剤を冷蔵庫より取り出し市販に向け得るようにする期日。
(一―八)保存期日とは、製造年月日と倉出し年月日との間をいう。
(一―九)標準という語は、施設又はその施設で行われる製剤、その内容、試験、標示或いは市販に関する詳細指示及び処理方法についての各項を規定し、該当製剤の継続した安全性、純度及び力価を確保するためのものを意味する。
(一―一〇)継続せるという語句は、製剤の安定性、純度及び力価について使用するときは、有効期限に関するものと解釈する。
(一―一一)安全性という語は、製剤を注意深く投与した場合、その製剤をそのときの患者の容態と考え合せて、その処方された者に対する有毒な結果の比較的ないことと解釈する。
(一―一二)純度という語は、異物即ちその製剤の処方される者に対して有毒であるか、製剤に不適当であるか又はその他のものを完成製剤に含む程度が少いものと解釈する。
(一―一三)力価という語は、製剤の特殊な機能又は能力であって、適当な実験又はその製剤を検定通り処方すれば十分信頼するにたる臨床成績を挙げることができることと解釈する。
(一―一四)製造業者とは個人、信託、団体或いは合資又は株式組織の会社であって、法律によって許可を受けて製剤の製造に従事するものをいう。
(一―一五)製造所とは、製造業者の資産中許可製剤をつくるために使用するものであって、施設使用動物及び製造従事者を含む。
(一―一六)販売業者とは、許可を受けて製剤を販売するものをいう。
(一―一七)乾燥製剤とは、製剤を公認された方法を用いて試験したとき、重量の減少が一〇〇%を超えないものをいう。但し製剤によって別段の定めのあるときは、この限りではない。
(一―一八)製造番号(ロット)一製造番号とは、でき上りの製剤(稀釈)の全量が一時に一容器中にあるものをいう。
(一―一八・一・一)製造番号を小分容器に分注する場合、分割して分注するときは、その分割容器毎に符号をつける。ここにつけた符号はその製造番号につき、その後決して変更があってはならない。(例=腸チフスワクチン製造番号一四一、容量二〇〇立は小分容器に、一日中に分注するには多量に過ぎるとする。故に容量二〇立の容器一〇個に分割し、各容器には一四一A、一四一B、一四一C等と符号をつけ、各容器とも一日中に分注を完了することができるものとする。ここにできた小分容器には、製造番号と分注時使用された分割容器の符号とを書いた標示をつけることとする。即ち、各小分容器の用量が四〇ccであったとすれば、一四一Aが五〇〇本、一四一Bが五〇〇本、一四一Cが五〇〇本でその他もこれに準ずることとなる)。
(一―一八・二)各製造番号のそれぞれの分注について安全度、同定、純度及び無菌の試験をする。抗原性試験は、各分注を代表する小分容器内容を一緒に合せる。(プールする)か、各分注について行うが、又製造番号の幾回かの分注中の一分注のみについてするかは、国立予防衛生研究所長の意見による。
(一―一八・三)小分分注前のもので、上り製剤の試験品、検定に提出されるものは、他の容器に分割される以前に採取されること。そののち製造業者の責任において製剤を無菌的に分割し、その無菌性を確実に証明すること。
(一―一八・四)分注に際して一製造番号を分割するには、大量製造する大製造業者に限るべきであって、小製造業者は、一製造番号の量を一容器中の製剤の量とし、一作業で小分容器に都合よく分注しうる量とすべきである。
(一―一八・五)ワクチンの製造番号毎の全試験品は、それぞれ同時に検定のため国立予防衛生研究所に提出しなければならない。(この場合、各製造番号について行われた幾回かの分割の全てより採取した試験品を残らず包含すること)。
(一―一九)二次製造番号(サブロット)二次製造番号とは、製造番号の製造過程中の諸部分を明示する目的で用いるものであって、最終稀釈、又は一容器中に一緒に合せて小分容器に分注する準備を行う以前の製造過程中の諸部分を指すものに限定する。(幾個かの二次製造番号のものを一緒に合せて、一容器中に稀釈してでき上りの濃度となったものは一製造番号となる)。
(一―一九・一)一つの二次製造番号が一容器中でそのままでき上りの濃度に稀釈されたときは一製造番号となる。
(一―一九・二)幾回かの二次製造番号のものを一容器中に一緒に合せるときは、一製造番号となる。
(一―二〇)滅菌行程とは、内容を滅菌するために操作する滅菌装置の一行程或いは材料がその滅菌装置を通過する一行程をいう。
(一―二一)温度 本要領中の温度はすべて摂氏の度盛で示す。
二 施設の標準
(二―一)責任者 責任者が一人いて製剤の製造について常時かつ全面的に、監理に任ぜねばならない。責任者は製造上の技術及び製造に関係のある基礎科学の素養があるものであって、その部下の従業員を訓練し、そのためには必要な権威を特に持たなくてはならない。
(二―一・二)製造及び販売の記録
記録を完全に保存し、すべての製造番号及び二次製造番号について記載し、それには製造の各過程、製造番号毎の試験、処理及び販売の期日をも含む。監視員が随時どの製造番号の調査でもできるようにしておかねばならない。
この記録類は各製剤について必要な期間に亘り、その有効期間よりも長期間保存し、不幸な副作用の臨床報告のある場合に備えなければならない。この期間は、製剤の型式及び地理的分布によって変るべきものであろう。有効期間後最短六か月、最長五か年とすれば種々な情勢下においても十分であると考えられる。各製造番号についての販売記録類は、その製造番号が許可製造業者の手持品として残っている限りどんな場合にも保存されていなければならない。
(二―一・二)販売品引揚げの記録
この要領に規定されている標準に合致しないために厚生大臣からその製剤の販売品の引揚げの指示が与えられた場合には、その一件記録は残らず保存しなければならない。国立予防衛生研究所長は、その製剤を引き続き使用させることが健康を害すると認めた場合には、厚生大臣にその旨を進言すること。
(二―一・三)滅菌記録
自記装置によって各滅菌作業についてのその期日、間隔及び温度を含む記録を作成しなければならない。
(二―一・四)動物解剖記録
製剤の生産に使用された動物及び製剤生産中に死亡し又は病気のため屠殺された動物は、剖検記録を保存しておかねばならない。
(二―一・五)参考試験品の保存
製造業者は、各製造番号についての参考試験品をその全製剤の有効期間後六か月まで保存しなければならない。但し、国立予防衛生研究所が一製造番号のものが比較的少数の小分容器に分注されてあり、そのような製造番号のものを同じ方法で相次いでしばしば製造すると認めた場合はこの限りではない。
(二―一・六)培養
培養物質及びその他の物質で、許可の製剤の製造に使用中のものには標示をちょう付して、安全に且つ整頓して保存しなければならない。
(二―一・七)製造責任者が分れているときの記録
二か所又はそれ以上の製造所が同一製剤の製造に関係している場合は、製造過程におけるそれぞれの責任の度合を明白にしておかなければならない。
(二―二)施設、構造設備及びその手入
(二―二・一)有芽胞病原菌を取り扱う作業
有芽胞病原菌を取り扱う作業は、すべて次によらねばならない。
(一)全て独立した建物であってそのための入口のあるもの。
(二)建物の一部は他の製剤の製造用になっているが、その部分とは別に入口を通らなければその特別な区域にはいれない構造に仕切ってあるもの。
(一)又は(二)のいずれかでなくてはならない。使用の容器はすべて永久的な印をつけて製剤が汚染されるようなことのないようにしなければならない。
(二―二・一A)有芽胞病原菌の作業に使用される区域は、湯と水とが自由に出るところでなければならない。配管又は排水系路は他の施設の水道が汚染しないような構造でなければならない。洗滌室及び滅菌施設がこの部分にあること。この施設は有芽胞病原菌以外の物質には全然使えない。ガラス器具及びその他の作業用具で有芽胞病原菌の培養及びその取扱に使用されるものは隔離区域内に限って使用すること。
(二―二・二)診断作業
感染の危険のある臨床診断の試験作業は、許可製剤の製造の場所とは別に用意された場所で行わなければならない。但し、しばしば使用しない場合は診断作業に使うことができる。この場合は有芽胞病原菌を扱わないことと、製造を始めるまでに丁寧に清掃することを条件とする。
(二―二・二A)施設の一部で診断作業に使用される場所は、まとまった試験室でなくてはならない。湯と水とが出て排水施設があり、感染の危険のないようにその製造所の他の区域とは別になっていなければならない。洗滌室及び滅菌施設は、隔離施設の一部でなければならない。ガラス器具或いは、試験設備で診断用のみのものは特定のものとして、製剤のために培養または製剤の処理に使ってはならない。
(二―二・三)製造用の容器
製剤の製造に用いるすべての容器は、その清潔度をいつでも検査できる構造でなければならない。
(二―二・四)湯の供給
採血場及び痘苗製造用動物舎には湯が出なければならない。
(二―二・五)豚コレラ血清製造所の隔離
従業員、動物及び施設で、豚コレラ血清製造に使用されるものは、人間に使用する生物学的製剤製造に関与する従業員、動物及び材料等より全然区別されねばならない。
(三―一)総則
(三―一・一)作業室への出入
作業室又は試験室内に作業中に入ることは、必要止むをえない者のみに限らねばならない。どんな場合でも、作業又は試験のさまたげをして、その完璧を期し難いことがあってはならない。
(三―一・二)塵埃と清掃
製造所の内外に塵埃のたたないように注意しなければならない。これには構内の道路の塵埃を防ぎ、屋内では床、壁及び作業台等にしばしば雑布がけを行うことを含む。箒その他による掃除又は、塵埃を飛散させるようなことは、生物学的製剤製造の重要な作業中にしてはならない。同様に製造の直前にしてもいけない。
(三―一・三)作業室
無菌作業を行う作業室の中に外界の塵埃を入れないように特別に注意しなければならない。作業室内で働いている間は、着衣は清潔でなければならない。故に平常着を特殊な作業衣に着かえるか、清潔な作業衣又は、作業上衣の着用をすすめたい。ある種の作業には特殊な帽子及び「マスク」の使用が望ましい。
作業室の通風採光は良好であるべきであるが、作業中には空気が自由に動かないようにする。室内の整頓をよくし、各室ともその室での作業に必要な器具のほかは、おかないようにしなければならない。
(三―一・四)植付、かき取、稀釈及び分注室の準備
製剤の製造又は試験に使用される細菌又は「ウイルス」の培養の植つぎ、又は製剤の植付、かき取、稀釈、ろ過或いは無菌試験に使用される作業室は毎日使用直前に十分清拭しなければならない。
その方法は次の通りとする。
壁、窓、天井、床、机及びその他その室にある備品は、すべて石鹸と湯とで十分拭う。扉、窓その他の清拭中は閉めきる。清拭完了後は、その室を十分に消毒液で噴霧する。次にその室は塵埃のたたないままで少くとも一乃至二時間は、扉も窓も全部閉めておかねばならない。この間にその室に入る者は清潔な又は無菌的の作業衣、帽子「マスク」等適当な着衣を着なければならない。無菌室又は作業室のいずれにあっても、喫煙又は食事をすることは厳重に禁止すること。器械その他容器の類を清拭後、その作業室に持ち込むときは、その器械その他が清潔で塵埃のついていないこと、及びそのためにその室の清潔度を害さないように考慮を払わねばならない。
(三―一・五)特殊作業のための隔離室
各作業所は適当な隔離施設を用意して、痘苗、BCGワクチン、ツベルクリン破傷風毒素の製造、試験、有芽胞病原菌を取り扱う作業及び診断作業にあてる。これらの作業は、いずれもその作業所における他の作業所における他の作業とは別個に行われなければならない。
(三―二)器械、器具の滅菌
(三―二・一)作業員
製剤の製造に用いる器具或いは、製剤そのものの滅菌は各滅菌作業について、その作業の原理をよくわきまえ、且つその目的を承知している者一人が監理しなくてはならない。大規模の製造所にあっては、製剤の製造に用いられる器具の全ての滅菌を担当する専従の適当な者を配置して、器械器具類の完全な滅菌及び十分な記録を行うようにしたい。
定義 一、滅菌過程とは、滅菌装置をもってする一回の滅菌作業であり、或いは滅菌装置を通過する材料の量によって定まる。
(三―二・二)実施方法
器械、器具の滅菌には高圧蒸気滅菌法を用いることが製造所には一番効果的である。他の条件が同じならば、この方法を採用すべきである。その他の滅菌法即ち火炎、乾熱、流通蒸気、水或いはその他の液体中の煮沸、低温、間けつの各滅菌法並びに細菌ろ過法、薬物消毒法その他無菌的操作などを用いることができる。その各種の方法のうち、最も適当で効果あるものを選び当面の課題に使用する。
(三―二・三)高圧蒸気滅菌法(オートクレーブ法)
この方法を十分に働かすには、排気弁を閉鎖する前にこの装置内より空気を完全に排出することである。滅菌しようとする物件は、その各部が飽和蒸気に直接触れることが必要である。容器の類は十分開放して高圧蒸気がよくゆきわたるようにしなければならない。
容器の閉鎖されたものは、その容器中に十分湿気を含み、十分な時間をかけない限り、この方法では滅菌はできない。この装置は自記温度計によってその装置の最低温度の部分(排気弁)の温度を記録しなければならない。自記温度計のない場合は、温度計を排気管が装置より出るところに装備する。
熱電対で使用するときは、最も中心にある一番大きな包みの中に挿入すること。滅菌作業毎に記録される自記温度表は、製造作業室の永久記録となるものである。
通常使用されている蒸気圧、到達温度及び十分な滅菌を確保するに要する時間は次の通りである。
一一五・五度C(一〇ポンド圧)三〇分間
一二一・五度C(一五ポンド圧)二〇分間
一二六・五度C(二〇ポンド圧)一五分間
但し、完全な作業状態が常にあるわけではないから、日常の作業には装置は最低一二一・五度C(一五ポンド)で三〇分間使用するがよい。もっともやや強めの方法で滅菌してもよいが、滅菌物質がいたまないことを条件とする。
(三―二・四)乾熱滅菌法
装置内の熱が一七〇度Cに到達してより二時間ならば足りるものとされている。装置によっては、その下部はしばしばその他の部分と比べて十分に熱せられていないことがある。故に、大型の装置にあっては機械的に空気撹拌のできるようにすること。
(三―二・五)滅菌装置への詰め込み方について
滅菌作業には常に詰め込みにあたってゆとりをとっておき、垂直に空気の対流のできるようにする。滅菌と使用との完全を期するためには、滅菌装置の各部の構造はできるだけ簡単でなければならない。容器その他の器物類はできる限りまとめて滅菌しなければならない。これは滅菌後の手数をはぶくためである。注意して蒸気又は熱気がよくゆきわたるようにすること。器具、小分容器及びその他すべての滅菌しようとするものは、紙で確実に包むか、滅菌用に適当におおった金属製の容器の中に容れねばならない。
(三―二・六)ガラス器具に付着している発熱性物質の破壊
発熱性物質は通常器械の各部を発熱性物質を含まない水で十分よく洗ってすすぎ、適当に乾かして丁寧に包装すれば十分除くことができる。但しある種の器械にあっては更に発熱性物質の付着していないことを確めることが是非必要なこともある。この目的には、乾熱装置が二五七度Cに達してより四五分経過すればよい。
(三―三)製剤の製造に使用する動物
(三―三・一)飼育係
馬その他の大動物をよく手入し、快適に管理し、世話するのに十分な数の飼育係がいなくてはならない。同様に製剤製造用の、或いは試験用の小動物の檻を清潔に維持するため、又飼料、水等を満足に与えるためには十分な飼育係をつけねばならない。
(三―三・二)動物舎
馬房及び小動物舎は、共に適当な構造のものでなくてはならない。採光、通風、必要ならば空気調節装置がなくてはならない。
(三―三・三)動物の状態
すべて馬は重篤な障害のあるもの或いは、不具となったもの、特に立っていられないもの或いは起き上り難いもの等は残酷でないように処理しなければならない。馬は毎日光の十分あるところで検査して異常又は反応の有無を調べなければならない。同様に小動物で日常の製造に使用するものは、毎日検査の上処置に対しどんな反応があるかを調べ、偶然の理由で病気に罹ったものは取り除かねばならない。
(三―三・三A)検疫及び看護
生物学的製剤の製造に使用される動物は毎日適切な検診をし、且つ、使用に先立ち少くとも一週間にわたって事前検疫をしなければならない。健康な動物で伝染病のないものを製造用とし、常に十分な居住と飼料とを与え、人道的な取扱をせねばならない。特に注意しなければならないことは、この検疫期間中、馬鼻疽に罹った馬や結核に罹った牛を取り除くように特別の考慮を払うことである。
(三―三・三B)破傷風に対する免疫
生物学的製剤の製造に使用される馬は、破傷風抗毒素製造のため、能動免疫中のもののほか、破傷風免疫を確実に得るために十分な破傷風トキソイドの一定量を一定の間隔をおいて注射して、破傷風の免疫を確実にしておかねばならない。
(三―三・三C)使用動物の処置
製剤の製造に或いは試験に使用された動物はどんな場合でも、疾病伝染のおそれのある間は作業場より移動してはならない。製剤の製造及び試験用として不適当な動物は作業場より生きたまま移動してはならない。但し、動物製剤を製造する場合を除く。たとえ生かしておくことが人道的であるとはいえ動物を不必要に生かしておいてはならない。
(三―三・三D)特定の疾病の届出
生物学的製剤を製造するために使用し或いは使用しようとする動物中に、口蹄疫、馬鼻疽、破傷風、炭疽、瓦斯壊疽、馬脳炎の真症又は疑似症を発見した場合には、速やかに国立予防衛生研究所に届け出なければならない。
(三―三・四)製造用動物の免疫及び採血
毒素或いはその他の生菌を含まない抗原は、各製造番号とも無菌でなくてはならない。且つ生菌抗原でも二次感染のないことを使用前に適当な試験で確めねばならない。すべて注射は無菌的であるように十分注意しなければならない。抗原の注射量及び注射間隔はその都度適当に調整して、動物の保護と抗毒素の生産が順調になるようにしなければならない。馬に皮下注射する場合には、採血する部位より六インチ以内に行ってはならない。又頑固な一般反応のある馬又は採血部位の近くに局所反応のあるものは採血してはならない。
抗原を最後に注射したときと採血時との間には十分な時間をとっておき、採血液が高単位の抗原を含まないようにしなければならない。どんな小動物も免疫作業に関係がない理由によって発病したことが確実である場合には、製造用に採血してはならない。製造用動物より採血する場合には、動物に不必要な不快感を与えないようにしなければならない。こうして採血された血液は大きさ、清浄、無菌の点について十分であり、且つその後の処理に都合のよい容器に入れなければならない。容器の口をガス焔で焼くのはよい方法であるとされている。
(三―四)培養及び抗原の保存
(三―四・一)培養或いは抗原の同定試験
この試験の目的は製剤製造用の生菌培養の純度及び同定を確実にすること及び適当な方法によって製造用動物の刺戟に用いる死菌抗原を十分に同定することである。死菌抗原の同定は適当な標示と同定標とを、各製造過程において使用する容器にちょう付する。これは最初の培養から動物免疫室に送られる容器にまで及ぶ。血清学的試験も又行うことができる。
(三―四・二)菌株の保存
すべて生菌を製造用に使用する場合は、事情の許す限り高真空度で凍結乾燥し、火焔で熔封したアンプルに入れ、各アンプルには適当な標示をちょう付することをすすめる。これが完了した上は、菌株の完全な同定は新乾燥培養を製造したときだけ行えばよい。
試験室における保存株が試験室用培地上に保存されるときは、完全な同定試験を少くとも一年三回、四半期の間隔をもって行わねばならない。保存株を時々製造に用いる場合には、製造を始めるまでにその純度と同定とを確めねばならない。同様に、各培養は製造用株とするまでにその純度と同定とを吟味しなければならない。
(三―四・三)ウイルス培養の保存
保存ウイルスは常に各ウイルスについて一般に承認された方法によって保存しなければならない。製剤の製造に用いるウイルスは、その各個について十分な同定試験を行わねばならない。
(三―五)小分容器
(三―五・一)小分前完成製剤(バルク)容器の大きさ小分前完成製剤の貯蔵のために用いる容器の容量は、その全量を一回の分注操作で小分容器に分注しうるものでなければならない。
(三―五・二)容器の準備
すべて小分容器は使用前化学的に清潔で、且つ無菌でなければならない。
これには製剤を汚染することなしに分注し、抜き出しできるように滅菌に先立って適当な容器に納めなければならない。この容器は小分容器が使用されるまで完全に無菌に保たれるように蓋を備えていなければならない。小分容器の栓も同様に滅菌に適する容器に納めなければならない。
一回の分注操作に必要な数の小分容器及び栓のみを一つの容器に納めなければならない。どんな場合にも前に一度用いたことのある容器は再び滅菌したのちでなければ小分容器を抜き出してはいけない。滅菌容器の包装を開かないままの状態であっても、適当と思われる以上に長時間保存したときは再滅菌をしないで使用してはならない。一般に適当な長さの時間とは、概ね二四時間であって四八時間を超えないものとせねばならない。
(三―五・三)分注室
分注室は、特にその目的にそうように設計され、分注作業中は、その他の目的に使ってはならない。分注室は塵埃がなく、空気の動ようのおこらないような構造でなければならない。分注室には機械的或いは物理学的の空気滅菌及び調節装置を設備するようすすめる。このような装置の代りとして分注箱を備えねばならない。そのガラスの前面は頂上よりおよそ半分までは傾斜しており、その下部は作業者の腕並びに分注用器具の開口がある。この箱には十分な照明装置があり、必要によっては火焔滅菌のため「ブンゼン」燈を備えなければならない。
分注室及び分注箱には紫外光線(螢光燈)の使用を奨める。
(三―五・四)細菌性及びウイルス性ワクチン及び明礬(沈澱)トキソイドは小分容器に分注するに当っては各小分容器に製剤を均等に分注するため常に振とうしなければならない。
(四―一)完成製剤に対する特殊試験
(四―一・一)製剤の各製造番号のおのおのの分注操作について標示をちょう付したのち、任意に抜き取られた小分容器試験品について同定試験を行わねばならない。
同定試験の実施方法は製剤の種類によって異るが製剤の外観(色調、こん濁度、粘稠度等)、顕微鏡による検査、凝集反応、沈降反応、毒素抗毒素中和試験、血清、ウイルス中和試験又はその他の試験管内及び動物体内における特殊試験を含む。
(四―一・二)安全試験
安全試験は製剤の各製造番号のおのおのの分注操作について標示をちょう付したのち、任意に抜き取った小分容器試験品について行わねばならない。安全試験の目的は、試験動物における反応の許す範囲内で意想外の毒素或いは他の有害な成分が完成試験中にあるか否かを検査するにある。
注射量は人体に用いる量に必ず関連をもたねばならない。できれば人体用量の全量を又それができないときには、人体における同体重比の量を試験動物に注射しなければならない。動物の種類、数、注射経路その後の観察期間については試験する製剤の基準に適合しなければならない。
(四―一・三)無菌試験
この試験の目的は、試験の際その製剤は所定の試験によって検出可能はどんな生菌をも含有していないことを検査するにある。但し、特殊の生菌をその目的として含有する製剤の場合は抗原と全く無関係の雑菌で、且つ使用培地に増殖しうるものの存在を示すこと。
(四―一・三・一)特殊の事情により特別の培地を必要とする場合のほか、承認された無菌試験用培地は、別に定められる無菌試験法基準所載の液状チオグリコレート培地でなければならない。この培地は同一の開放された容器中で好気性、嫌気性の両種の菌の増殖に適する。使用上都合のよいのは二〇×一五〇ミリメートルの試験管で、これに一五ccの培地をいれる。こうして移植量三ccまでの適当量の培地及び一万分の一以内の水銀系防腐剤が移植量中に含まれているとき、これを十分不活化するに足るチオグリコレート培地の準備ができあがる。他の防腐剤に対しては有効な不活剤を入手して使用するのでなければ適当に稀釈して不活化する必要がある。移植量の多量な場合に円筒型又は角型の瓶で右に示したとほぼ同様の液表面積と容積との比を有するものを奨める。
培地の粘稠度の関係から、移植量は常によく培地と混合しなければならない。
同様に移植した後の培地は第一回観察の際或いは四八時間後の観察の際は増殖菌を培地中に平均に分散させるために再び振とうしなければならない。この方法によって最後成績の読み取りが更に正確となる。
(四―一・三・二)製剤がこん濁している場合(例えば明礬(沈澱)トキソイド)には、液状チオグリコレート培地に七日間培養後、正確な観察のために必要ならば第二の培養管に移してもよい。そのかわりとしては基準記載の肉汁培地にスミス醗酵管を使用してもよい。
(四―一・三・三)製剤の製造に用いた成分が水溶性でない場合には、特に注意を払って培地で製剤を微細な乳剤とする。液状チオグリコレート培地は、この目的には都合がよい。培養に用いるピペットに前記混合液を繰り返し吸引すれば乳化することができる。
(四―一・三・四)無菌試験の培養には、病原菌その他体温で発育する細菌の存在しないことを証明するために三五―三七度Cに培養しなければならない。各培養は七日以上の期間行い、観察は微細な発育をも検出しうるような条件のもとに行わねばならない。時としては、拡大鏡又は照明観察装置を要することもある。又ある種の製剤は低温にのみに発育する雑菌を含有し易いものである。こんな場合には特別の培養を通常室温(二二―二五度C)で行わねばならない。この培養も同様に七日以上の期間できれば更に長期間観察しなければならない。
(四―一・四)小分分注前完成製剤の無菌試験
分注にさきだち、一立以上の完成製剤を有する各容器からは少くとも一〇cc、一立以下の容量の容器からは少くとも三ccを製剤中に含有する防腐剤が細菌発育阻止力を及ぼさないだけの十分な量の培地を有する一個又はそれ以上の試験管に培養しなければならない。もし完成製剤容器試験品を採取のため栓を開いた場合は無菌試験を更に国立予防衛生研究所で繰り返すこととする。もし分注前完成製剤に一回以上雑菌感染を見出したときはその製剤は廃棄するか又は再滅菌しなければならない。
(四―一・五)小分容器内容の無菌試験
各製造番号の各分注操作による小分容器の数によって無菌試験のための小分容器の数は定まる。試験する小分容器は分注操作の各段階共に一様に代表する機会のあるよう注意して抜き取る。この試験のためには、各製造番号の各分注操作について、小分容器一〇〇個以下のときは三個、五〇個又はその端数を増す毎に更に一個を増す。但し、どんな場合でも一〇個以上を試験する必要はない。
(四―一・五・一)もし小分容器の容積が一cc或いはそれ以下であるときは人体容量のいかんにかかわらず全量を培養しなければならない。もし、人体用量が一cc以上であるときは、一〇ccまでは全注射量を培養せねばならない。但し該製剤の基準に規定のある場合は一〇cc以上を培養する必要はない。試験する製剤は一本又はそれ以上の試験管に培養することができる。
防腐剤の菌発育阻止力が十分抑制され、且つ菌の発育を助けるよう適当量の培地を用いねばならない。培養した試験管のいずれかに雑菌を認めた場合は、同数の小分容器内容について試験を繰り返してもよい。もし一回以上の試験において同一の雑菌混入を認めた場合はその製造番号のものは廃棄しなければならない。最後の試験までいずれの試験管にも菌の発育を認めなくなるまでは該製造番号は合格せしめてはならない。
(五―一)その他
(五―一・一)含湿度測定
製剤が乾燥製剤として使用されるときには、その製剤の残存湿度を次に述べる方法又はそれと同等に確実な方法で測定しなければならない。
(五―一・一・一)乾燥材料を入れた小分容器一個またはそれ以上の全内容を適当な直径の秤量瓶に平均に入れ、新鮮な五酸化燐を容れた真空除湿器に納め、水銀柱一ミリメートル以下の圧力に当てる。この操作は室温でその重量が、少くとも第三有効数字まで安定するまで継続する。但し、試験品の全量はできれば一―二グラムの間としなければならない。もし入手可能な量が著しく少量なときは、この試験の変法を考案せねばならない。但し、正確度が落ちてはいけない。
(五―一・一・二)実施に当っては第一回秤量前に試験品を真空除湿器中に四八時間おき、秤量後二四時間に更に再秤量するがよい。材料を移し入れるとき又は秤量するときは大気になるだけ短時間、できれば乾燥空気中で操作しなければならない。
(五―一・一・三)製剤は特定の製剤基準に別段の規定のあるもののほか、右の方法によって測定した含湿度(一〇〇%)以下のときに限り乾燥したものと見なす。
(五―二)発熱性物質試験
製剤は発熱性物質がその製剤の本質的構成部分であって、認められた操作では除き難い場合を除き、認められた試験において発熱性物質を含有すべきものではない。試験する製剤の家兎体重一キログラム当りの量は特殊製剤に関する基準の定めのある場合のほか、本試験法に定められた量とせねばならない。
(五―二・一)試験動物
試験動物は体重一、五〇〇グラム又はそれ以上の健康家兎で、少くとも一週間以上均等で無制限の飼料を与えられ、且つ、その期間中体重の減少しないものを使用する。臨床用直腸体温計を用い、最高温度に達する時間を測定する。同程度に鋭敏な他の測定方法も用いることができる。さきに発熱性物質試験に用いた動物も二日以上の休養期間の後は再度使用することができる。
アレルゲン含有材料試験に当つては、同一のアレルゲンについて同一の動物を一回以上使用してはならない。過去二週間試験に用いたことのない動物はその使用前一乃至三日間各動物について二時間間隔をおいて直腸温度を四回測定する。
右に示すとおり体温計或いは他の測定装置を内肛門括約筋をこえて差し込み、最高温度にとどくまでそのまま放置する。三九・八度Cを超える体温を示す動物は用いてはならない。
動物は興奮の原因となりそうな騒々しさを防ぐように別の篭に入れる。対照体温を測定する日及び試験日には動物が興奮しないように特別な注意を払うこと。試験前少くとも四八時間及び試験期間中は動物を一定温度(一一・五度C)の環境におく。できれば一定温度並びに湿度の室におく。
(五―二・二)試験の実施
発熱性物質試験は試験動物を飼育してある室と同様な温度及び湿度を保つ室で行う。試験の期間中は適当な型の固定器に固定してもよい。使用動物には第一回体温測定にさきだつ一時間より飼料を中止し、その日の記録を完成するまで飼料を与えない。水は与えてもよい。試験日には注射前に対照体温を測定する。但し、動物を固定器に固定する場合は篭から取り出して対照温度を測定するまでに一五分以上経過してはならない。動物は試験日に測定した対照温度が三八・九度Cを下らず三九・八度Cを超えないときに使用することができる。試験日に測定したこの温度は、その動物の正常体温であつて爾後の試験材料による体温上昇を計算する基礎となる。試験する製剤を大体三七度Cに温め、試験日に対照温度測定後五分以内に家兎体重一キログラム当り一〇ccずつを耳静脈に注射する。注射後一時間で体温を記録し、その後一時間の間隔をおいて測定して三回の記録を作る。ここに用いる注射筒及び針は発熱性物質を除いたのち、滅菌しておかねばならない。
右の注射筒及び針はマックル炉を用いて二五〇度C三〇分間以上熱して発熱性物質を除いてもよい。各試験とも家兎三頭を用い、二頭或いは三頭について測定したそれぞれの正常体温より〇・六度C以上の上昇を示した場合には、試験は陽性と考えねばならない。もし一頭のみ〇・六度C或いはそれ以上の上昇を示したとき又は三頭の体温上昇の総和が一・四度Cを超えるとき、試験は更に五頭の動物で繰り返さねばならない。この試験でもし五頭のうちの二頭或いはそれ以上の数の動物がそれぞれ正常体温より〇・六度C以上の体温上昇を示せば、試験は陽性と判定せねばならない。
(五―二・三)試験の限界
この発熱性物質試験は試験動物がその体重一キログラム当り一〇ccの試験品に耐えるように工夫すること。
右と異る試験量を要する製剤については、それぞれの製剤基準に試験量を規定する。