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○いわゆる「出資額限度法人」について

(平成16年8月13日)

(医政発第0813001号)

(各都道府県知事あて厚生労働省医政局長通知)

高齢化、医療技術の進歩、国民の意識の変化や規制改革の観点を含めた各方面からの指摘など医療をめぐる現状を踏まえながら、これからの医業経営の在り方について検討するため、平成13年10月に「これからの医業経営の在り方に関する検討会」が設置され、平成15年3月に最終報告書がとりまとめられたところである。この最終報告書においては、医療法人の非営利性・公益性の徹底による国民の信頼の確保、変革期における医療の担い手としての活力の増進を2つの柱とし、医療法人を中心とする医業経営改革の具体的方向が示されたところである。

この最終報告書で示された医業経営改革の具体的方向においては、将来の医療法人のあるべき姿である持分がなく公益性の高い特定医療法人又は特別医療法人への円滑な移行を促進するための一つの方策として、「出資額限度法人」の検討の必要性が指摘されたところである。

以上を踏まえ、社団医療法人における非営利性の確保等に資する観点から、「医業経営の非営利性等に関する検討会」を平成15年10月に設置し、「出資額限度法人」の普及・定着に向けた対処方策等について検討し、平成16年6月22日にその報告がとりまとめられたところである(別添1)。

ついては、今般、同検討会の報告を踏まえ、医療法人制度の運用に当たっての「出資額限度法人」の趣旨、考え方、内容と移行に当たっての留意点や円滑に進めるための方策等を下記のとおり整理したので、各都道府県におかれては、こうした趣旨を御理解の上、御了知いただくとともに、その運用に遺憾なきを期されたい。

なお、下記第6にある持分の定めのある医療法人が「出資額限度法人」に移行した場合等の課税関係については、国税庁と協議済みであることを申し添える。

第1 医療法人制度における「出資額限度法人」の位置づけ等

医療法(昭和23年法律第205号)第6章に定める医療法人制度は、私人による病院経営の経済的困難を、医療事業の経営主体に対し、法人格取得の途を拓き、資金集積の方途を容易に講ぜしめること等により、緩和せんとするもの(昭和25年8月2日厚生省発医第98号厚生事務次官通知 記 第一の1参照)とされていること。

「出資額限度法人」の位置づけは、医療法人制度の運用の実態として、医療法人の太宗を持分の定めのある医療法人が占めている現状に照らし、出資者にとっての投下資本の回収を最低限確保しつつ、医療法人の非営利性を徹底するとともに、社員の退社時等に払い戻される額の上限をあらかじめ明らかにすることにより、医療法人の安定的運営に寄与し、もって医療の永続性・継続性の確保に資するものであること。

第2 「出資額限度法人」の定義

本通知において「出資額限度法人」とは、出資持分の定めのある社団医療法人であって、その定款において、社員の退社時における出資持分払戻請求権や解散時における残余財産分配請求権の法人の財産に及ぶ範囲について、払込出資額を限度とすることを明らかにするものをいうこと。

第3 「出資額限度法人」の内容

① 出資額

金銭出資、現物出資のいずれであっても、社員(出資者)が出資した時点の価額(出資申込書記載の額の等価)を基準とすること。

なお、医療法人の設立後、追加して出資があった場合についても同様とし、出資時点の差異による調整は行わないこととして差し支えないこと。

② 法人財産のうち出資持分の返還請求権の及ぶ範囲

脱退時及び解散時における出資持分を有する者への返還額は、出資持分を有する者それぞれにつき、その出資した額を超えるものではないこととすること。

したがって、物価下落により法人の資産価額が出資申込書記載の額の合計額より減少している場合等においては、医療の永続性・継続性の確保を図るという観点から、出資時の価額を上限として、現存する法人の資産から出資割合に応じて出資持分を有する者に返還することも含まれるものであり、結果として、返還額が出資時の価額を下回ることも生じ得るものであること。

第4 「出資額限度法人」への移行に当たっての留意点等

① 社団医療法人で出資持分の定めのあるものは、定款を変更して「出資額限度法人」に移行できること。また、「出資額限度法人」は、定款を変更して、社団医療法人で出資持分の定めのないものに移行できること。

② 社団医療法人で出資持分の定めのないものは、医療法施行規則(昭和23年厚生省令第50号)第30条の39に照らし、「出資額限度法人」に移行できないこと。一方で、「出資額限度法人」が社団医療法人で出資持分の定めのあるもの(脱退及び解散時の出資持分の払戻請求権が及ぶ範囲に制限を設けないもの、あるいは従前よりその及ぶ範囲が拡大するものをいう。)へ移行(後戻り)することは、これを直接禁止した医療法その他関係法令上の規定は存在しないものの、社会医療法人又は特定医療法人をはじめとする持分の定めのない法人への移行という非営利性の確保のために期待される方向に照らし、適当でないこと。

第5 「出資額限度法人」への円滑な移行を促進する方策等

① 「出資額限度法人」のモデル定款

「出資額限度法人」の普及・定着に向けて、医療法人の新規設立認可、既に設立されている医療法人の定款変更認可に係る関係事務が円滑に行われるよう別添2のとおり、出資額限度法人のモデル定款を策定したので、周知・活用を図られたいこと。

なお、今回の改正に係る規定に限らず、モデル定款はあくまでモデルを示したものであり、医療法人の定款は基本的には医療法人内部で所定の手続きに従い、制定、改廃するものであることから、医療法人の監督における定款の認可に当たりモデル定款から一切の逸脱を認めないといった硬直的な運用は、これを設けた本来の趣旨に照らし適当でないことを申し添える。

② 社団の医療法人の定款例の一部改正

脱退時や解散時に出資額に応じて法人の財産を返還することは、医療法第4章及び同関係法令に基づく医療法人制度より要請されているものではなく、任意であることを明らかにする観点から、社団の医療法人の定款例(昭和61年健政発第410号厚生省健康政策局長通知別添4)の一部を改正し、別添3のとおりとすること。

第6 持分の定めのある医療法人が出資額限度法人に移行した場合等の課税関係

出資額限度法人に係る課税関係については別添4のとおりであること。

なお、ここに示されたものは、現行の税制関係法令の適用解釈上、変更後の定款の下で、社員の脱退等が生じた場合の他の出資者にみなし贈与の課税(相続税法(昭和25年法律第73号)第9条)が生じないために必要とされる条件等を示したものであること。したがって、課税実務以外の局面、例えば出資額限度法人となるための定款(変更)認可自体は、医療法第4章及び同関係法令に基づき行われるべきものであり、これら税制関係法令の適用解釈により影響を受けるものではないこと。

[別添1]

「医業経営の非営利性等に関する検討会」(報告書)

~「出資額限度法人」の普及・定着に向けて~

1.はじめに

○ 高齢化、医療技術の進歩、国民の意識の変化や規制改革の観点を含めた各方面からの指摘など医療をめぐる現下の状況を踏まえながら、これからの医業経営の在り方について検討するため、平成13年10月に「これからの医業経営の在り方に関する検討会」が設置され、平成15年3月に最終報告書(以下「最終報告書」という。)がとりまとめられた。

○ 最終報告書においては、医療法人の非営利性・公益性の徹底による国民の信頼の確保、変革期における医療の担い手としての活力の増進を2つの柱とし、医療法人を中心とする医業経営改革の具体的方向が示されたところである。

○ この最終報告書に示された具体的方向のうち、本検討会においては、特に、社団医療法人の出資持分に起因する非営利性の問題について、公益性や経営の安定性の確保を図る観点を加味し、検討を重ねてきたところであり、対応の方策としての「出資額限度法人」の仕組みの普及・定着に向け、とりまとめを行ったものである。

2.「出資額限度法人」の検討の必要性

○ 医療法人は、制度の創設以来50余年を経て、その数は平成16年3月末で38,754に達し、そのうち出資持分のある社団医療法人が大半(出資持分のある社団医療法人数:37,977。全医療法人数の98%)を占めるに至っている。

○ こうした出資持分のある社団医療法人では、その出資持分に含まれる払戻請求権が高齢化した社員(同時に出資者であるものとする。以下同じ。)や、死亡した社員の相続人により行使される例が生じるようになり、払戻額が高額に及ぶことなどにより、社員の世代交代等に際して医療法人の存続そのものが脅かされる事態も生じていることが指摘されている。

○ こうした問題についての対処の方向としては、既に、最終報告書において、「将来の医療法人のあるべき姿である持分がなく公益性の高い特定医療法人又は特別医療法人への円滑な移行を促進するための1つの方策として、出資額限度法人(社員の払戻請求権を出資額にのみ制限した定款を有する社団医療法人)の制度化が必要であるとする意見があった」とされているところである。

○ 医療法人制度は、昭和25年の医療法改正に当たり、「私人による病院経営の経済的困難を、医療事業の経営主体に対し、法人格取得の途を拓き、資金集積の方途を容易に講ぜしめること等により、緩和せんとするもの」であり、「その営利性については剰余金の配当を禁止することにより、営利法人たることを否定されており、この点で商法上の会社と区別されること」(昭和25年厚生省発医第98号厚生事務次官通知)との趣旨で、剰余金の配当を明文で禁止するなど、非営利性を担保しながら、医療の永続性・継続性を確保することを目的とした特別の法人として設けられたものである。したがって、この趣旨に即し医療法人の大半を占める出資持分のある社団医療法人が出資持分の定めのない法人へ移行し、「非営利性」を徹底しつつ、「医療の永続性・継続性」の確保を図る方向に沿って対処することが望ましい。

○ このような観点を踏まえると、社団医療法人において、直ちに出資持分の定めのない法人に組織変更できない場合であっても、出資持分の払戻しが法人の財産に及ぼす影響を限定すること、すなわち、社員の退社時における出資持分の払戻請求権や医療法人の解散時における医療法人の財産に対する分配請求権を、出資額の範囲に限定することは、

① 投下資本の回収を最低限確保しつつ、法人の内部に留保された剰余金が出資額に応じて社員に払戻し(分配)されるという「事実上の配当」とも評価されかねないと最終報告書が指摘するような事態の発生を防止し、医療法人の「非営利性」の徹底に資するものであること

② 社員の退社時や法人の解散時における払い戻(分配)される額の上限があらかじめ明らかになることで、医療法人の安定的運営に寄与し、もって「医療の永続性・継続性」の確保に資するものであること

から、望ましいものと考えられ、特定医療法人又は特別医療法人への円滑な移行を視野に入れた促進方策ともなり得るものである。

3.「出資額限度法人」の内容等

○ 2.の考え方に基づき、「社員の退社時における出資持分払戻請求権や解散時における残余財産分配請求権の及ぶ範囲を、払込出資額を限度とすることを定款において明らかにする社団医療法人」のことを、「出資額限度法人」と呼ぶこととする。

○ その具体的意味については、同様に、2の考え方に基づき、「社員が出資者であり、出資持分を有している」場合を前提として整理すれば、それぞれ以下のとおりとすることが適当である。

① 出資額

金銭出資であっても現物出資であっても、社員(出資者)が出資した時点の価額(出資申込書記載の額の等価)を基準とする。

なお、医療法人の設立後、追加して出資があった場合についても同様とし、出資時点の差異による調整は行われないものとする。

② 出資持分の及ぶ範囲

解散・脱退時における出資持分を有する者への返還額は、出資持分を有する者それぞれにつき、その出資した額を超えるものではないこととする。

この「超えるものではない」とは、物価下落により法人の資産価額が出資申込書記載の額の合計額より減少している場合等においては、医療の永続性・継続性の確保を図るという観点から、出資時の価額を上限として、現存する法人の資産から出資割合に応じて出資持分を有する者に返還することも含まれるものであり、結果として、出資持分が解消された際の返還額が出資時の価額を下回ることも生じ得ることとなる。

○ また、定款の定めにより設立した出資額限度法人が解散した場合における当該出資額限度法人の残余財産の帰属については、出資持分を有する者に払込出資額を限度として分配するとともに、払込出資額を超える残余財産については、社員総会の議決により処分することが適当である。この場合において、払込出資額を超える残余財産の帰属先については、都道府県知事の認可を得て、国若しくは地方公共団体又は租税特別措置法に基づく特定医療法人若しくは医療法に基づく特別医療法人と限定することが、医療法人の「非営利性」の徹底の観点からは適当である。

4.「出資額限度法人」の普及に向けて関係者に期待される役割

(1) 医療法人における取組

○ 医療法人(これを新規に設立しようとする関係者を含む。)は、本来、医療法の規定を始めとする医療法人制度の趣旨・目的を十分理解した上で、法令の範囲内で法人自治の考え方に立ってその具体的在り方を決定することが期待されることは、言うまでもない。

○ 医療法人自らが、新規設立の際に定款の規定により、また、既設のものについての定款変更により、「出資額限度法人」とすることは、法人自治に委ねられた範囲における関係者任意の選択によるものであるが、「出資額限度法人」の積極的意義についての理解の深まりに応じ、社団医療法人のうち「出資額限度法人」となるものが増加していくことが期待される。

(2) 医療法人の監督に係る行政における取組

○ 厚生労働省においては、現在も、医療法人についてモデル定款を示しているところであるが、現行の社団医療法人のモデル定款では、出資額に「応じて」、脱退時の出資持分の払戻しや、解散時の残余財産の分配が行われ得る規定ぶりとなっている。

○ このため、医療法人が関係者の十分な協議と合意の上、新規設立や定款変更により、「出資額限度法人」となることを選択する際、その円滑な対応に資するため、上記3の内容等を盛り込んだ「出資額限度法人のモデル定款(仮称)」を新たに作成し、周知を図るべきである。

○ 他方、現行の社団医療法人のモデル定款については、廃止を含めてその取扱いを検討すべきである。当面、上記の「出資額限度法人のモデル定款(仮称)」と併存させる場合には、昭和61年改正時にその他の注記部分とともに整理・削除された「解散時の残余財産の分配を出資持分に『応じて』行う旨の規定ぶりとするか否かはあくまで『任意』のものである」旨の記述を設けることが、最低限必要である。

○ 加えて、委員から指摘のあったように、監督官庁における定款の認可等の運用が、モデル定款からの逸脱を一切認めないといった硬直的なものになっている例があるとすれば、適当ではなく、新設の「出資額限度法人のモデル定款(仮称)」についての運用面も含め、今後、その適正が期されるべきである。

○ なお、出資持分のある社団医療法人から出資持分のない社団医療法人へとの移行の方向が公益にかなうとの考え方に沿って制定された医療法施行規則第30条の36の規定の趣旨に照らせば、

① 社団医療法人で出資持分の定めのあるものは、定款を変更して「出資額限度法人」に移行できること。また、「出資額限度法人」は、定款を変更して、社団医療法人で出資持分の定めのないものに移行できること。

② 社団医療法人で出資持分の定めのないものは、当然、「出資額限度法人」に移行できないこと。一方で、「出資額限度法人」は、社団医療法人で出資持分の定めのあるもの(脱退及び解散時の出資持分の払戻請求権の及ぶ範囲に制限を設けないもの、あるいは従前よりその及ぶ範囲が拡大するものをいう。)への移行(後戻り)ができないこと。

とすべきであり、関係者はその理解に立って定款上自ら明らかにするとともに、「出資額限度法人」に関する定款の変更認可等に係る監督官庁の事務も、この考え方に沿って行われる必要があるものと考えられる。さらに、この旨を法令で位置付けることについては、現行税制上の取扱いに及ぼす影響面も含めて、検討が必要である。

(3) 病院関係団体を始めとする関係団体における取組

○ 病院関係団体等においては、実際に「出資額限度法人」に移行した後の退社時等に払戻額が制限されることとなる出資者を始めとして、関係者の理解・合意を得るために必要な手続や留意点、さらには、「出資額限度法人」への移行を機に、法人の役員構成(同族役員の制限)など医療法人の構造面及び提供する医療の内容面の両面に渡り、公益性を高めた例などの好事例を収集・整理し、広く関係者に提供することが期待される。加えて、病院や医療法人を会員とする団体を中心に、「出資額限度法人」への移行を検討しようとする関係者からの具体的な相談に応じるなどの活動が展開されることは、「出資額限度法人」の普及に有効かつ必要と考えられる。

5.「出資額限度法人」の課税上の取扱い

○ 医療法人については、現在、公的な運営を確保するための一定の要件を満たす法人類型として、租税特別措置法に基づき、法人税の軽減税率が適用されている「特定医療法人制度」のほか、医療法に基づき、経営安定化の観点から、その収益を医業経営に充てることを目的とした収益業務を実施できる「特別医療法人制度」がある。これらの法人類型については、移行に伴い、医療法人について法人税、贈与税が、また、社員について所得税(みなし譲渡所得課税)が非課税の取扱いとなっている。

○ これまで既に、新規設立や設立後の定款変更により「出資額限度法人」は設立されており、こうした事例をめぐり、定款変更の有効性や出資持分に係る払戻額の妥当性について、医療法人と社員の間で争われた民事訴訟の事例も次第に集積されてきた。

○ その具体例として、出資持分のある社団医療法人から「出資額限度法人」へ定款を変更し、変更後の定款に基づいて、出資額を「限度として」なされた死亡退社した社員の相続人への出資持分の払戻しの有効性は、平成12年10月5日の東京地裁八王子支部判決が認めていたところ、この事件について、最高裁は、平成15年6月27日、「上告を受理しない」との判断を示し、結果的に、東京地裁八王子支部の判決が確定するに至った。

○ このような動きも背景に、「出資額限度法人」をめぐる現行の課税関係について、その明確化を図るべきとの気運が高まってきたことから、本検討会の検討と並行し、事務局において関係機関の見解を確認したところ、現行の医療法等関係法令の規定及び税法を前提に、おおむね別紙のとおり整理され得るとの見解が得られた。

○ こうした取扱いを前提とすれば、かねて種々論じられてきた「出資額限度法人」への移行に伴う医療法人側、社員側双方に対する課税面の取扱いが整理されることで、これまで指摘されてきた移行に伴う不安が相当程度解消され、円滑な移行に寄与するものと考えられる。厚生労働省においては、関係者に対する周知に努めることが適当である。

6.今後の課題

○ 当検討会では、「出資額限度法人」について、

① 「出資額限度法人」を出資持分のある社団医療法人の一類型として、関係者が選択する際の骨格を整理すること、

② 既存の特定医療法人・特別医療法人とは異なり出資持分を解消するに至っていないという点を踏まえつつ、円滑な移行方策として税制上の課税関係を明確にすること

を念頭に検討してきた。

○ 本報告を受け、特に上記4の取組を関係者が着実に行うことにより、医療法の医療法人制度の趣旨が再認識されるとともに、「出資額限度法人」が普及・定着していくことが期待される。今後、「出資額限度法人」の普及・定着が現実のものとなった時点では、最終報告書が指摘した社団医療法人の「事実上の配当」とも評価されかねない事態に対処し、「非営利性」を徹底するという段階を超え、より積極的に「公益性」を実現していくことが、関係者にとって共通の課題として認識されることとなろう。

○ その際、今回の「出資額限度法人」を巡る議論を通じて改めて整理が必要とされた、既存の公的な運営を確保している特定医療法人及び特別医療法人と医療法人全般との関係、さらにはこの公益的な運営を確保している2つの法人類型の相互関係を如何に考えるかといった論点を含め、特定医療法人について平成15年3月に、特別医療法人について平成15年11月に、それぞれ実施した要件緩和の効果も見極めつつ、さらに検討が深められることを期待するものである。

(別紙)

持分の定めのある医療法人が出資額限度法人に移行した場合等の課税関係について

1.定款を変更して出資額限度法人へ移行する場合

法人税、所得税及び贈与税等の課税は生じない。

2.出資額限度法人の出資の評価を行う場合

相続税・贈与税の計算における出資の価額は、通常の出資持分の定めのある医療法人と同様、財産評価基本通達(昭和39年直資第56号・直審(資)第17号)194―2の定めに基づき評価される。

3.社員が出資払込額の払戻しを受けて退社した場合

定款の後戻りが可能であるとしても、社員のうちの1名が退社し、定款の定めに従って出資払込額の払戻しを受けて当該退社社員の出資が消滅した場合には、その時点において、当該出資に対応する剰余金相当部分について払い戻さないことが確定することとなる。

なお、株式会社等営利法人は医療法人の社員となることができないと解されていることから、個人社員が退社した場合の課税関係についてみると、以下のとおりとなる。

(1) 退社した個人社員の課税関係

退社に伴い出資払込額を限度として持分の払戻しを受ける金額が、当該持分に対応する資本等の金額を超えない限りにおいては、課税関係は生じない。

(2) 医療法人に対する法人税(受贈益)の課税関係

課税関係は生じない。

(3) 残存出資者又は医療法人に対する贈与税の課税関係

残存する他の出資者の有する出資持分の価額の増加について、みなし贈与の課税(相続税法(昭和25年法律第73号)第9条)の問題が生じることとなるが、次のいずれにも該当しない出資額限度法人においては、原則として、他の出資者に対するみなし贈与の課税は生じないものと解される。

ア.当該出資額限度法人に係る出資、社員及び役員が、その親族、使用人など相互に特殊な関係をもつ特定の同族グループによって占められていること

イ.当該出資額限度法人において社員(退社社員を含む)、役員(理事・監事)又はこれらの親族等に対し特別な利益を与えると認められるものであること

上記に該当するかどうかは、当該出資額限度法人の実態に即して個別に判断されるものである。

その際、次に掲げるところに該当しない場合にあっては、上記ア又はイにそれぞれ該当しないものとされる。

(アについて)

① 出資者の3人及びその者と法人税法施行令(昭和40年政令第97号)第4条第1項又は第2項に定める特殊の関係を有する出資者の出資金額の合計額が、出資総額の50%を超えていること

② 社員の3人及びその者と法人税法施行令第4条第1項に定める特殊の関係を有する社員の数が総社員数の50%を超えていること

③ 役員のそれぞれに占める親族関係を有する者及びこれらと租税特別措置法施行令(昭和32年政令第43号)第39条の25第1項第2号イからハまでに掲げる特殊な関係がある者の数の割合が3分の1以下であることが定款で定められていないこと

【参考条文】

○法人税法施行令(昭和40年政令第97号)(抄)

(同族関係者の範囲)

第4条 法第2条第10号(同族会社の意義)に規定する政令で定める特殊の関係のある個人は、次に掲げる者とする。

一 株主等の親族

二 株主等と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者

三 株主等(個人である株主等に限る。次号において同じ。)の使用人

四 前3号に掲げる者以外の者で株主等から受ける金銭その他の資産によつて生計を維持しているもの

五 前3号に掲げる者と生計を一にするこれらの者の親族

2 法第2条第10号に規定する政令で定める特殊の関係のある法人は、次に掲げる会社とする。

一 同族会社であるかどうかを判定しようとする会社の株主等(当該会社が自己の株式又は出資を有する場合の当該会社を除く。以下この項及び次項において「判定会社株主等」という。)の1人(個人である判定会社株主等については、その1人及びこれと前項に規定する特殊の関係のある個人。以下この項において同じ。)が有する他の会社の株式の総数又は出資の金額の合計額が当該他の会社の発行済株式の総数又は出資金額(その有する自己の株式又は出資を除く。次号及び第3号において同じ。)の100分の50を超える数の株式又は出資の金額に相当する場合における当該他の会社

二 判定会社株主等の1人及びこれと前号に規定する特殊の関係のある会社が有する他の会社の株式の総数又は出資の金額の合計額が当該他の会社の発行済株式の総数又は出資金額の100分の50を超える数の株式又は出資の金額に相当する場合における当該他の会社

三 判定会社株主等の1人及びこれと前2号に規定する特殊の関係のある会社が有する他の会社の株式の総数又は出資の金額の合計額が当該他の会社の発行済株式の総数又は出資金額の100分の50を超える数の株式又は出資の金額に相当する場合における当該他の会社

3 (略)

○租税特別措置法施行令(昭和32年政令第43号)(抄)

(法人税率の特例の適用を受ける医療法人の要件等)

第39条の25 法第67条の2第1項に規定する政令で定める要件は、次に掲げる要件とする。

一 (略)

二 その運営組織が適正であるとともに、その理事、監事、評議員その他これらの者に準ずるもの(以下この項において「役員等」という。)のうち親族関係を有する者及びこれらと次に掲げる特殊の関係がある者(以下次号において「親族等」という。)の数がそれぞれの役員等の数のうちに占める割合が、いずれも3分の1以下であること。

イ 当該親族関係を有する役員等と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者

ロ 当該親族関係を有する役員等の使用人及び使用人以外の者で当該役員等から受ける金銭その他の財産によつて生計を維持しているもの

ハ イ又はロに掲げる者の親族でこれらの者と生計を一にしているもの

三から五まで (略)

2から6まで (略)

(イについて)

① 出資額限度法人の定款等において、次に掲げる者に対して、当該法人の財産を無償で利用させ、又は与えるなど特別の利益を与える旨の定めがある場合

i 当該法人の社員又は役員

ii 当該法人の社員又は役員の親族

iii 当該法人の社員又は役員と次に掲げる特殊の関係がある者(次の②において「特殊の関係がある者」という。)

(i) 当該法人の社員又は役員とまだ婚姻の届出をしないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者及びその者の親族でその者と生計を一にしているもの

(ii) 当該法人の社員又は役員の使用人及び使用人以外の者でその者から受ける金銭その他の財産によって生計を維持しているもの並びにこれらの者の親族でこれらの者と生計を一にしているもの

(iii) 当該法人の社員又は役員が法人税法(昭和40年法律第34号)第2条第15号に規定する役員(以下「会社役員」という。)となっている他の会社

(iv) 当該法人の社員又は役員、その親族、上記(i)及び(ii)に掲げる者並びにこれらの者と法人税法第2条第10号に規定する政令で定める特殊の関係にある法人を判定の基礎とした場合に同号に規定する同族会社に該当する他の法人

(v) 上記(iii)又は(iv)に掲げる法人の会社役員又は使用人

② 当該出資額限度法人が社員、役員又はその親族その他特殊の関係がある者に対して、次に掲げるいずれかの行為をし、又は行為をすると認められる場合

i 当該法人の所有する財産をこれらの者に居住、担保その他の私事に利用させること。

ii 当該法人の他の従業員に比し有利な条件で、これらの者に金銭の貸付けをすること。

iii 当該法人の所有する財産をこれらの者に無償又は著しく低い価額の対価で譲渡すること。

iv これらの者から金銭その他の財産を過大な利息又は賃借料で借り受けること。

v これらの者からその所有する財産を過大な対価で譲り受けること、又はこれらの者から公益を目的とする事業の用に供するとは認められない財産を取得すること。

vi これらの者に対して、当該法人の理事、監事、評議員その他これらの者に準ずるものの地位にあることのみに基づき給与等(所得税法(昭和40年法律第33号)第28条第1項に規定する「給与等」をいう。以下同じ。)を支払い、又は当該法人の他の従業員に比し過大な給与等を支払うこと。

vii これらの者の債務に関して、保証、弁済、免除又は引受け(当該法人の設立のための財産の提供に伴う債務の引受けを除く。)をすること。

viii 契約金額が少額なものを除き、入札等公正な方法によらないで、これらの者が行う物品の販売、工事請負、役務提供、物品の賃貸その他の事業に係る契約の相手方となること。

ix 事業の遂行により供与する公益を主として、又は不公正な方法で、これらの者に与えること。

なお、剰余金相当部分に相当する利益は残存出資者へ移転されるものと解されるから、医療法人への贈与があったものとみる必要はないため、相続税法第66条第4項の規定に基づく医療法人に対する贈与税課税の問題は生じない。

4.社員が死亡により退社した場合

(1) 相続税の課税関係

社員が死亡により退社した場合において、定款の定めにより出資を社員の地位とともに相続等することができることとされている出資額限度法人の当該被相続人に係る出資を相続等したとき、また、出資払戻請求権を相続等により取得した相続人等がその払戻しに代えて出資を取得し、社員たる地位を取得することとなるときには、当該出資又は出資払戻請求権の価額は、出資としての評価額となり、上記2のとおり、財産評価基本通達194―2の定めに基づき評価した価額となる。

一方、社員の死亡退社に伴い、その出資に関する出資払戻請求権を取得した相続人等が現実に出資払戻額の払戻しを受けたときには、当該出資払戻請求権については、出資払込額により評価する。

(2) 他の出資者の課税関係

上記(1)で、死亡した社員の相続人等が出資払込額の払戻しを受け、出資を相続しなかった場合であって、当該出資に係る剰余金相当額が残存する他の出資者に帰属するものとして前記3(3)の場合と同様の判定に基づき、他の出資者が退社した社員から出資の価額の増加額に相当する利益の贈与を受けたものとして取り扱われるときは、みなし贈与の課税が生じることとなる。

なお、この場合において、当該残存する他の出資者が被相続人(死亡した退社社員)からの相続等により他の財産を取得しているときには、その利益は、当該他の相続財産に加算され相続税の課税対象となる(相続税法第19条)。

(3) その他の課税関系

退社社員(被相続人)の所得税の課税関係及び医療法人の法人税の課税関係については、前記3(1)及び(2)の場合と同様とする。

[別添2]

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[別添3]

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別添4

○持分の定めのある医療法人が出資額限度法人に移行した場合等の課税関係について(平成16年6月8日付医政発第0608002号照会に対する回答)

(平成16年6月16日)

(/課審6―9/課審4―15/課審5―19/課個2―9/課資1―41/課法2―9/課評2―13/)

(厚生労働省医政局長岩尾總一郎あて国税庁課税部長西江章通知)

標題のことについては、ご照会に係る事実関係を前提とする限り、貴見のとおりで差し支えありません。

ただし、次のことを申し添えます。

(1) この文書回答は、ご照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答ですので、個々の納税者が行う具体的な取引等に適用する場合においては、この回答内容と異なる課税関係が生ずることがあります。

(2) この回答内容は、国税庁としての見解であり、個々の納税者の申告内容等を拘束するものではありません。

○持分の定めのある医療法人が出資額限度法人に移行した場合等の課税関係について(照会)

(平成16年6月8日)

(医政発第0608002号)

(国税庁課税部長西江章あて厚生労働省医政局長岩尾總一郎通知)

医療法人は、医療法(昭和23年法律第205号)第39条の規定により、病院、診療所又は介護老人保健施設を開設しようとする財団又は社団が、都道府県知事(二以上の都道府県の区域において病院、診療所又は介護老人保健施設を開設する場合にあっては、厚生労働大臣)の認可を受けて設立される非営利の法人である。医療法においては、営利を目的として、病院、診療所又は助産所を開設しようとする者に対しては、開設許可を与えないこととされている(医療法第7条)ところであり、医療法人制度(医療法第4章)においては、剰余金の配当の禁止が明示されている(医療法第54条)など、非営利の法人であることが規定されている。

この医療法人のうち、社団であるもの(以下「社団医療法人」という。)には、出資持分の定めのないものと、出資持分の定めのあるものとがある(財団医療法人には出資の概念がない。)。さらに、社団医療法人のうち、持分の定めのあるものは、定款を変更して、持分の定めのないものに移行することができるが、逆に、持分の定めのないものから持分の定めのあるものに移行することはできないとされている(医療法施行規則(昭和23年厚生省令第50号)第30条の36)。

この社団医療法人については、厚生労働省では、社団の医療法人定款例(医療法人制度の改正及び都道府県医療審議会について(昭和61年健政発第410号)別添4)を示してきたところであるが、「これからの医業経営の在り方に関する検討会」最終報告(平成15年3月26日)の指摘を踏まえ、出資持分の定めのある社団医療法人の一類型として、出資持分を残したまま、社員の退社時における出資払戻請求権及び医療法人の解散時における残余財産分配請求権に関し、その法人財産に及ぶ範囲を実際の払込出資額を限度とすることを定款上明らかにした医療法人(以下「出資額限度法人」という。)の新規設立認可や既存の出資持分のある社団医療法人からの定款変更の認可が円滑に行われるよう、次の内容を盛り込んだ「モデル定款」を示すことを考えている。

○「出資額限度法人」のモデル定款の内容等

出資持分の定めのある社団医療法人のうち、定款により、次のような定めを設けているものを、「出資額限度法人」ということとする。

(1) 社員資格を喪失したものは、払込出資額を限度として払戻しを請求することができる。

(2) 本社団が解散した場合の残余財産は、払込出資額を限度として分配するものとする。

(3) 解散したときの払込出資額を超える残余財産は、社員総会の議決により、都道府県知事の認可を経て、国若しくは地方公共団体又は租税特別措置法(昭和32年法律第26号)第67条の2に定める特定医療法人若しくは医療法第42条第2項に定める特別医療法人に帰属させるものとする。

(4) (1)から(3)までの定めは変更することができないものとする。ただし、特定医療法人又は特別医療法人に移行する場合はこの限りではない。

この出資額限度法人については、定款を変更して出資額限度法人へ移行する時点、変更後の定款の下で社員(出資者)の退社等が生じた時点等の課税上の取扱いについても、これを明確にする必要があるところ、現行の定款の定めによる出資額限度法人については、下記のとおり取り扱われるものと解して差し支えないか、貴庁の見解を承りたく照会する。

なお、照会に当たっては、平成16年3月31日現在の医療法及び同関係法令を前提としており、出資持分の定めのある社団医療法人において、社員(出資者)の社員資格の喪失や、法人の解散時に、当該法人の財産に対し出資持分の払戻請求権の及ぶ範囲を定款上如何に定めるかについては、当該法人の自治の範囲内であり、移行後の定款を変更することも医療法第4章及び同関係法令において特段制限されているものではないことを申し添える。

1.定款を変更して出資額限度法人へ移行する場合

法人税、所得税及び贈与税等の課税は生じない。

(理由)

出資持分の定めのある医療法人の出資額限度法人への移行とは、出資持分に応じて法人財産に対する権利を有していた出資者の権利に関して、社員の合意に基づく定款変更により、将来退社したときの出資払戻請求権又は当該医療法人が解散した場合の残余財産分配請求権について払込出資額を限度とする旨定めることをいう。

このように出資額限度法人は、定款の変更により出資に係る権利を制限することとするものであるが、依然として出資持分の定めを有する社団医療法人であり、この定款変更をもって、医療法人の解散・設立があったとみることはできないから、医療法人の清算所得課税、出資者のみなし配当課税、出資払込みに伴うみなし譲渡所得課税等の問題は生じないものと解される。

また、定款変更により出資額限度法人に移行したとしても、医療法上は、再び定款を変更して元の出資持分の定めのある医療法人に戻ることについての規制がなく、後戻りが可能であること等からすれば、出資額限度法人への移行により、従来出資者に帰属していた法人財産に対する持分のうち払込出資額を超える部分(評価益等の未実現利益を含む。以下「剰余金相当部分」という。)が確定的に他の者に移転したということもできない。

2.出資額限度法人の出資の評価を行う場合

相続税・贈与税の計算における出資の価額は、通常の出資持分の定めのある医療法人と同様、財産評価基本通達(昭和39年直資第56号・直審(資)第17号)194―2の定めに基づき評価される。

(理由)

出資額限度法人に移行しても、次のことから、その出資の価額は、通常の出資持分の定めのある医療法人の出資と同様に評価される。

① 出資額限度法人は、依然として、出資持分の定めを有する医療法人であり、出資者の権利についての制限は将来社員が退社した場合に生じる出資払戻請求権又は医療法人が解散した場合に生じる残余財産分配請求権について払込出資額の範囲に限定することであって、これらの出資払戻請求権等が行使されない限りにおいては、社員の医療法人に対する事実上の権限に影響を及ぼすものとはいえないこと

② 出資額限度法人においては、出資払戻請求権等が定款の定めにより払込出資額に制限されることとなるとしても、定款の後戻り禁止や医療法人の運営に関する特別利益供与の禁止が法令上担保されていないこと

③ 他の通常の出資持分の定めのある医療法人との合併により、当該医療法人の出資者となることが可能であること

3.社員が出資払込額の払戻しを受けて退社した場合

定款の後戻りが可能であるとしても、社員のうちの1名が退社し、定款の定めに従って出資払込額の払戻しを受けて当該退社社員の出資が消滅した場合には、その時点において、当該出資に対応する剰余金相当部分について払い戻さないことが確定することとなる。

なお、株式会社等営利法人は医療法人の社員となることができないと解されていることから、個人社員が退社した場合の課税関係についてみると、以下のとおりとなる。

(1) 退社した個人社員の課税関係

退社に伴い出資払込額を限度として持分の払戻しを受ける金額が、当該持分に対応する資本等の金額を超えない限りにおいては、課税関係は生じない。

(理由)

法人からの退社により持分の払戻しを受けた場合において、当該払戻しを受けた金額が所得税法施行令(昭和40年政令第96号)第61条第2項第6号の規定により計算した当該持分に対応する資本等の金額(法人税法(昭和40年法律第34号)第2条第16号)を超えるときのその超える部分の金額は、所得税法(昭和40年法律第33号)第25条の規定により、配当とみなすこととされているが、出資額限度法人において、個人社員が退社に伴い出資払込額を限度として持分の払戻しを受ける金額が、当該持分に対応する資本等の金額を超えない限りにおいては、同条の規定により配当とみなされる部分は生じない。

また、社員が法人からの退社による持分の払戻しとして交付を受けた金額等は、配当とみなされる部分を除き、譲渡所得の収入金額とみなすこととされているが(租税特別措置法第37条の10第4項第6号)、その払戻しを受ける金額は払込出資額を限度とするものであるから、その額は通常、取得額(払込出資額)と同額となり、原則として、譲渡所得の課税は生じない。

(2) 医療法人に対する法人税(受贈益)の課税関係

課税関係は生じない。

(理由)

医療法人にとっては、定款に従い退社社員に出資払込額を払い戻すという出資金額の減少を生ずる取引(資本等取引)に当たるため、一般の営利法人と同様、課税関係は生じない。

(3) 残存出資者又は医療法人に対する贈与税の課税関係

残存する他の出資者の有する出資持分の価額の増加について、みなし贈与の課税(相続税法(昭和25年法律第73号)第9条)の問題が生じることとなるが、次のいずれにも該当しない出資額限度法人においては、原則として、他の出資者に対するみなし贈与の課税は生じないものと解される。

ア.当該出資額限度法人に係る出資、社員及び役員が、その親族、使用人など相互に特殊な関係をもつ特定の同族グループによって占められていること

イ.当該出資額限度法人において社員(退社社員を含む)、役員(理事・監事)又はこれらの親族等に対し特別な利益を与えると認められるものであること

上記に該当するかどうかは、当該出資額限度法人の実態に即して個別に判断されるものである。

その際、次に掲げるところに該当しない場合にあっては、上記ア又はイにそれぞれ該当しないものとされる。

(アについて)

① 出資者の3人及びその者と法人税法施行令(昭和40年政令第97号)第4条第1項又は第2項に定める特殊の関係を有する出資者の出資金額の合計額が、出資総額の50%を超えていること

② 社員の3人及びその者と法人税法施行令第4条第1項に定める特殊の関係を有する社員の数が総社員数の50%を超えていること

③ 役員のそれぞれに占める親族関係を有する者及びこれらと租税特別措置法施行令(昭和32年政令第43号)第39条の25第1項第2号イからハまでに掲げる特殊な関係がある者の数の割合が3分の1以下であることが定款で定められていないこと

【参考条文】

○法人税法施行令(昭和40年政令第97号)(抄)

(同族関係者の範囲)

第4条 法第2条第10号(同族会社の意義)に規定する政令で定める特殊の関係のある個人は、次に掲げる者とする。

一 株主等の親族

二 株主等と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者

三 株主等(個人である株主等に限る。次号において同じ。)の使用人

四 前3号に掲げる者以外の者で株主等から受ける金銭その他の資産によつて生計を維持しているもの

五 前3号に掲げる者と生計を一にするこれらの者の親族

2 法第2条第10号に規定する政令で定める特殊の関係のある法人は、次に掲げる会社とする。

一 同族会社であるかどうかを判定しようとする会社の株主等(当該会社が自己の株式又は出資を有する場合の当該会社を除く。以下この項及び次項において「判定会社株主等」という。)の1人(個人である判定会社株主等については、その1人及びこれと前項に規定する特殊の関係のある個人。以下この項において同じ。)が有する他の会社の株式の総数又は出資の金額の合計額が当該他の会社の発行済株式の総数又は出資金額(その有する自己の株式又は出資を除く。次号及び第3号において同じ。)の100分の50を超える数の株式又は出資の金額に相当する場合における当該他の会社

二 判定会社株主等の1人及びこれと前号に規定する特殊の関係のある会社が有する他の会社の株式の総数又は出資の金額の合計額が当該他の会社の発行済株式の総数又は出資金額の100分の50を超える数の株式又は出資の金額に相当する場合における当該他の会社

三 判定会社株主等の1人及びこれと前2号に規定する特殊の関係のある会社が有する他の会社の株式の総数又は出資の金額の合計額が当該他の会社の発行済株式の総数又は出資金額の100分の50を超える数の株式又は出資の金額に相当する場合における当該他の会社

3 (略)

○租税特別措置法施行令(昭和32年政令第43号)(抄)

(法人税率の特例の適用を受ける医療法人の要件等)

第39条の25 法第67条の2第1項に規定する政令で定める要件は、次に掲げる要件とする。

一 (略)

二 その運営組織が適正であるとともに、その理事、監事、評議員その他これらの者に準ずるもの(以下この項において「役員等」という。)のうち親族関係を有する者及びこれらと次に掲げる特殊の関係がある者(以下次号において「親族等」という。)の数がそれぞれの役員等の数のうちに占める割合が、いずれも3分の1以下であること。

イ 当該親族関係を有する役員等と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者

ロ 当該親族関係を有する役員等の使用人及び使用人以外の者で当該役員等から受ける金銭その他の財産によつて生計を維持しているもの

ハ イ又はロに掲げる者の親族でこれらの者と生計を一にしているもの

三から五まで (略)

2から6まで (略)

(イについて)

① 出資額限度法人の定款等において、次に掲げる者に対して、当該法人の財産を無償で利用させ、又は与えるなど特別の利益を与える旨の定めがある場合

i 当該法人の社員又は役員

ii 当該法人の社員又は役員の親族

iii 当該法人の社員又は役員と次に掲げる特殊の関係がある者(次のにおいて「特殊の関係がある者」という。)

(i) 当該法人の社員又は役員とまだ婚姻の届出をしないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者及びその者の親族でその者と生計を一にしているもの

(ii) 当該法人の社員又は役員の使用人及び使用人以外の者でその者から受ける金銭その他の財産によって生計を維持しているもの並びにこれらの者の親族でこれらの者と生計を一にしているもの

(iii) 当該法人の社員又は役員が法人税法(昭和40年法律第34号)第2条第15号に規定する役員(以下「会社役員」という。)となっている他の会社

(iv) 当該法人の社員又は役員、その親族、上記(i)及び(ii)に掲げる者並びにこれらの者と法人税法第2条第10号に規定する政令で定める特殊の関係にある法人を判定の基礎とした場合に同号に規定する同族会社に該当する他の法人

(v) 上記(iii)又は(iv)に掲げる法人の会社役員又は使用人

② 当該出資額限度法人が社員、役員又はその親族その他特殊の関係がある者に対して、次に掲げるいずれかの行為をし、又は行為をすると認められる場合

i 当該法人の所有する財産をこれらの者に居住、担保その他の私事に利用させること。

ii 当該法人の他の従業員に比し有利な条件で、これらの者に金銭の貸付けをすること。

iii 当該法人の所有する財産をこれらの者に無償又は著しく低い価額の対価で譲渡すること。

iv これらの者から金銭その他の財産を過大な利息又は賃借料で借り受けること。

v これらの者からその所有する財産を過大な対価で譲り受けること、又はこれらの者から公益を目的とする事業の用に供するとは認められない財産を取得すること。

vi これらの者に対して、当該法人の理事、監事、評議員その他これらの者に準ずるものの地位にあることのみに基づき給与等(所得税法(昭和40年法律第33号)第28条第1項に規定する「給与等」をいう。以下同じ。)を支払い、又は当該法人の他の従業員に比し過大な給与等を支払うこと。

vii これらの者の債務に関して、保証、弁済、免除又は引受け(当該法人の設立のための財産の提供に伴う債務の引受けを除く。)をすること。

viii 契約金額が少額なものを除き、入札等公正な方法によらないで、これらの者が行う物品の販売、工事請負、役務提供、物品の賃貸その他の事業に係る契約の相手方となること。

ix 事業の遂行により供与する公益を主として、又は不公正な方法で、これらの者に与えること。

なお、剰余金相当部分に相当する利益は残存出資者へ移転されるものと解されるから、医療法人への贈与があったものとみる必要はないため、相続税法第66条第4項の規定に基づく医療法人に対する贈与税課税の問題は生じない。

(理由)

個人社員が出資払込額の払戻しを受けて退社した場合には、当該出資に対応する剰余金相当部分が医療法人に留保され、残存出資者の出資割合が増加することから、結果として、その出資の評価額が増加することとなる。この場合の増加額は、社員の退社前の医療法人資産の状況及び出資額(口数)に基づいて財産評価基本通達194―2により評価した評価額と当該退社後の医療法人資産の状況及び出資額(口数)に基づく同評価額との差額により求められる。

この評価額の増加は、社員相互の合意による定款変更の結果であるから、原則として、退社社員から残存出資者への利益の移転と捉えることができ、相続税法第9条に規定するみなし贈与の課税が生じることとなる。

ただし、相続税法基本通達9―2の取扱いなどを踏まえれば、特定の同族グループによる同族支配の可能性がないと認められる医療法人については、一般的にはその利益を具体的に享受することがないと考えられるから、そのような法人にあっては、みなし贈与の課税は生じないものと解される。

4.社員が死亡により退社した場合

(1) 相続税の課税関係

社員が死亡により退社した場合において、定款の定めにより出資を社員の地位とともに相続等することができることとされている出資額限度法人の当該被相続人に係る出資を相続等したとき、また、出資払戻請求権を相続等により取得した相続人等がその払戻しに代えて出資を取得し、社員たる地位を取得することとなるときには、当該出資又は出資払戻請求権の価額は、出資としての評価額となり、上記2のとおり、財産評価基本通達194―2の定めに基づき評価した価額となる。

一方、社員の死亡退社に伴い、その出資に関する出資払戻請求権を取得した相続人等が現実に出資払戻額の払戻しを受けたときには、当該出資払戻請求権については、出資払込額により評価する。

(2) 他の出資者の課税関係

上記(1)で、死亡した社員の相続人等が出資払込額の払戻しを受け、出資を相続しなかった場合であって、当該出資に係る剰余金相当額が残存する他の出資者に帰属するものとして前記3(3)の場合と同様の判定に基づき、他の出資者が退社した社員から出資の価額の増加額に相当する利益の贈与を受けたものとして取り扱われるときには、みなし贈与の課税が生じることとなる。

なお、この場合において、当該残存する他の出資者が被相続人(死亡した退社社員)からの相続等により他の財産を取得しているときには、その利益は、当該他の相続財産に加算され相続税の課税対象となる(相続税法第19条)。

(3) その他の課税関系

退社社員(被相続人)の所得税の課税関係及び医療法人の法人税の課税関係については、前記3(1)及び(2)の場合と同様となる。