添付一覧
○歯科医師の救命救急研修ガイドラインについて
(平成15年9月19日)
(/医政医発第0919001号/医政歯発第0919001号/)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医政局医事課長・厚生労働省医政局歯科保健課長通知)
歯科医師の救命救急における研修の在り方につきましては、平成14年度の厚生労働科学特別研究事業において検討されてきたところでありますが、この度、本事業により別添のとおり歯科医師の救命救急研修ガイドラインが取りまとめられました。
つきましては、貴職におかれましても、歯科医師の救命救急研修の重要性にかんがみ、本ガイドラインの趣旨を十分御了知の上、貴管内の関係機関に本ガイドラインを周知するなど歯科医師の救命救急研修の充実につき御協力をいただきますようお願いいたします。
なお、本日付けで、社団法人日本医師会、社団法人日本歯科医師会及び日本歯科医学会あてに、本通知の写しを送付いたしましたので、念のため申し添えます。
(別添)
歯科医師の救命救急研修ガイドライン
Ⅰ 趣旨
歯科医療の安全性及び質の向上を図るために、歯科医師の救命救急研修は重要であるが、研修といえども医療行為を伴う場合には、法令を遵守しながら適切に実施する必要がある。特に歯科及び歯科口腔外科疾患以外の患者に対する行為では、慎重な取扱いを期すべきである。
本ガイドラインは、このような観点から、歯科医師の救命救急研修の在り方に関する基準、特に医科救命救急部門における研修の在り方に焦点を当てた基準を定めるものであり、二次救命処置研修と救命救急臨床研修の二段階方式とした。
Ⅱ 二次救命処置研修
気管挿管を含む二次救命処置(※ACLS:Advanced Cardiovascular Life Support)を中心にシミュレーションによるコース研修とし、歯科医師の中でもこれを指導できる者を養成して実施する。既に卒前教育として取り入れられているシミュレーターを使用しての実技指導を、各歯科医師会単位で行われる生涯教育にも積極的に取り入れ、反復研修することによりその知識と技能を維持し、緊急事態に対応する。
【一般目標】
歯科診療において生命や機能的予後に係わる緊急を要する病態に対して適切な対応ができる。
【到達目標】
1) バイタルサインの把握ができる。
2) 重症度及び緊急度の把握ができる。
3) ショックの診断と治療ができる。
4) 基本的な二次救命処置(ACLS:Advanced Cardiovascular Life Support)ができる。
5) 専門医への適切なコンサルテーションができる。
※ ACLS:本研修のACLSとは、別紙1の研修水準がA項目又はB項目の二次救命処置をいう。
Ⅲ 救命救急臨床研修
歯科口腔外科や歯科麻酔科等の歯科医師で、より高度の救命救急研修を望む者が受ける臨床における救命救急の研修をいう。歯科医師免許取得者が一定期間の臨床経験を積んだ後に、救命救急センター等の医科救命救急部門で救命救急分野に関連するより高度な研修を受ける。
【一般目標】
歯科診療において、生命や機能的予後に係わる緊急を要する病態に対して適切でより高度な対応ができる。
【到達目標】
歯科医師の救命救急研修水準(別紙1)のA項目とB項目について、研修終了後に評価表(別紙3)のレベルⅡ又はⅢに到達した項目を合わせて、項目数でA項目80%以上、B項目50%以上となることが望ましい。
【研修実施要項】
1 研修施設:次の条件を満たす施設であること。
1) 1人以上の研修指導医がいること。
2) 研修担当管理責任者(病院長又は救命救急センター、救急部等の管理者)を定めていること。
2 研修指導医
1) 研修指導医は、原則7年以上(少なくとも5年以上)の臨床経験を有する医師であること。
なお、研修指導医は、次の条件のいずれかを満たす医師であることが望ましい。
(1) 中間法人日本救急医学会が認定した専門医又は指導医
(2) 日本集中治療医学会が認定した専門医
(3) 社団法人日本麻酔科学会が認定した専門医
2) 研修指導補助医は、研修指導医を補助する医師をいい、3年以上の臨床経験を有する医師であること。
3 研修を受ける歯科医師
研修を受ける歯科医師(以下「研修歯科医師」という。)は、次の条件のいずれかを満たす歯科医師であること。
1) 歯科の臨床経験を1年以上有し、歯科疾患を対象とした全身麻酔(気管内麻酔20例以上)を経験した者で、Ⅱの二次救命処置研修終了者
2) Ⅱの二次救命処置研修でシミュレーションによるコース研修を終了し、その到達目標の知識と技能を修得した者で、救命救急センター等の研修施設の研修担当管理責任者が、救命救急臨床研修を受けることを認めたもの
4 研修方法
1) 研修歯科医師が、歯科及び歯科口腔外科疾患以外の症例に関する医療行為に関与する場合については、別紙1に定める基準に従い、研修指導医又は研修指導補助医が必要な指導・監督を行うことにより、適正を期すこと。
2) 研修実施に当たっては、5に定める事前の知識・技能の評価結果に基づき、必要に応じて別紙1に定める基準よりも厳格な指導・監督を行うなど、患者の安全に万全を期すこと。
5 事前の知識・技能の評価
研修を開始する前に、研修担当管理責任者が研修歯科医師の全身管理、麻酔及び救急処置に関する基本的知識・技能を適切な形で評価し、その結果について別紙2を参考として記録・保存しておくこと。
6 患者の同意
当該医療機関において、歯科医師が救命救急研修を受けていることを明示し、研修歯科医師が歯科及び歯科口腔外科疾患以外の症例に関する医療行為に関与する場合には、歯科医師であることを患者、患者家族、代諾者等に伝えるとともに、原則としてその同意を得ること。
7 事後の知識・技能の評価
研修終了後に研修担当管理責任者が研修歯科医師の知識・技能を適切な形で評価し、その結果について別紙3を参考として記録・保存しておくこと。
(別紙1)
歯科医師の救命救急研修水準
研修項目 |
研修水準 |
||
診察 |
1 |
バイタルサインのチェック(Japan Coma Scale による意識レベルの評価を含む。) |
A |
2 |
頭頸部の視診、触診 |
A |
|
3 |
胸部の視診、触診、聴診、打診 |
A |
|
4 |
腹部の視診、触診、聴診、打診 |
A |
|
5 |
四肢の視診、触診 |
A |
|
6 |
打腱器などを用いた神経学的診察 |
A |
|
7 |
胸部、腹部の超音波診断 |
D |
|
気道確保 |
1 |
用手気道確保 |
A |
2 |
経口エアウエイの挿入 |
A |
|
3 |
経鼻エアウエイの挿入 |
A |
|
4 |
ラリンジアルマスク(LM)の挿入 |
B |
|
5 |
胃管挿入 |
B |
|
6 |
気管挿管 |
B |
|
7 |
定型的気管切開 |
C |
|
8 |
輪状甲状間膜穿刺(あるいは切開) |
B |
|
人工呼吸・呼吸管理 |
1 |
BVM(バッグ・バルブ・マスク)による用手人工呼吸 |
A |
2 |
麻酔器、マスクによる用手人工呼吸 |
A |
|
3 |
気管挿管下の用手人工呼吸 |
A |
|
4 |
人工呼吸器の接続と設定 |
C |
|
5 |
呼吸理学療法 |
C |
|
循環補助 |
1 |
経胸壁用手心臓マッサージ |
A |
2 |
経胸壁自動式心臓マッサージ装着の使用 |
B |
|
3 |
開胸心臓マッサージ |
D |
|
4 |
AEDによる除細動(VF/脈無しVT) |
A |
|
5 |
手動による除細動(VF/脈無しVT) |
B |
|
6 |
手動による同期式除細動(AF、Af、PSVT、脈ありVTなど) |
D |
|
7 |
末梢静脈路確保 |
A |
|
8 |
内頸静脈路確保 |
C |
|
9 |
鎖骨下静脈路確保 |
C |
|
10 |
大腿静脈路確保 |
B |
|
11 |
胸腔穿刺 |
D |
|
12 |
胸腔ドレナージ |
D |
|
13 |
心嚢ドレナージ |
D |
|
14 |
経皮ペースメーカーの装着と使用 |
C |
|
15 |
経静脈ペースメーカーの挿入と使用 |
D |
|
モニター等 |
1 |
非侵襲的モニターの装着及び検査(SPO2、ECG、血圧計など) |
A |
2 |
侵襲的モニターの装着及び検査 |
C |
|
3 |
静脈採血 |
A |
|
4 |
動脈採血 |
A |
|
5 |
観血的動脈圧測定 |
C |
|
6 |
肺動脈カテーテル(スワンガンツカテーテル)の挿入留置 |
C |
|
7 |
導尿、バルーンカテーテル留置 |
B |
|
8 |
各種内視鏡検査* |
D |
|
9 |
各種画像検査* |
D |
|
薬物の使用 |
1 |
ACLSのVF/VT、PEA、心静止のアルゴリズムで使用する薬剤の使用 |
A |
2 |
ACLSのその他のアルゴリズムで使用する薬剤の使用 |
C |
|
3 |
救急時に使用するその他の一般的薬剤*の使用 |
C |
|
4 |
医薬品全般の使用 |
C |
|
輸液等 |
1 |
救命救急センター、救急部における救急輸液の実施 |
A |
2 |
輸血、血液製剤の適応判断と使用 |
C |
|
3 |
輸液の計画と実施 |
B |
|
4 |
経腸栄養の計画と実施 |
B |
|
5 |
経静脈栄養の計画と実施 |
C |
|
その他の処置 |
1 |
創洗浄、創縫合(歯科口腔外科領域のもの) |
A |
2 |
創洗浄、創縫合*(歯科口腔外科以外で単純なもの) |
B |
|
3 |
骨折の副子固定 |
C |
|
4 |
減張切開 |
C |
|
5 |
胃洗浄 |
C |
|
文書の記載・作成 |
1 |
指示簿*の記載・作成 |
D |
2 |
処方箋*の記載・作成 |
D |
|
3 |
診療録*の記載・作成 |
B |
|
4 |
説明と同意の実施と文書の記載・作成* |
D |
|
5 |
死亡診断書、死体検案書*の記載・作成 |
D |
|
6 |
その他の診断書*の記載・作成 |
D |
|
その他 |
1 |
病歴や現症の聴取 |
B |
2 |
チームカンファレンスへの参加 |
A |
|
3 |
インフォームドコンセント |
D |
*歯科口腔外科領域以外のもの、研修水準A~Dのカテゴリーは次ページに示す。
研修水準A~Dのカテゴリー分類
医科救命救急部門において実施される医療行為を、以下の研修水準A~Dのカテゴリーに分類する。
A:研修指導医又は研修指導補助医の指導・監督下での実施が許容されるもの
B:研修指導医又は研修指導補助医が介助する場合、実施が許容されるもの
C:研修指導医又は研修指導補助医の行為を補助するもの
D:見学にとどめるもの
(注)
・ Bにいう「介助」とは、行為自体に対して行為者(研修歯科医師)の判断が加わる余地がないとは必ずしも言えない状況の下において、当該行為が実質的に機械的な作業とみなし得る程度まで管理・支配を及ぼすことをいい、常時監視を含む。
・ Cにいう「補助」とは、判断を加える余地に乏しい機械的な作業を行うことをいう。
本研修水準の作成に当たり、以下に留意した。 ○「歯科医師の麻酔科研修のガイドライン策定に関する研究、平成13年度総括研究報告書」、「国立大学附属病院卒後臨床研修必修化へ向けての指針」(平成13年12月、国立大学医学部附属病院長会議)、「救急業務高度化推進委員会報告書」(平成15年3月、総務省消防庁)との整合性に配慮した。 ○ただし、救急部門は麻酔科領域と比べ、患者の重症度・緊急度が高いこと、インフォームドコンセントを得難い環境にあること等を勘案した。 ○研修の到達レベルとしてACLSのレベルを想定した。 ○半数以上の医科救命救急部門で歯科医師が研修していたものを考慮した。 |
(別紙2)
(別紙3)