添付一覧
○眼球のあっせんに関する技術指針について
(平成一二年一月七日)
(健医発第二六号)
(各眼球あっせん機関の長あて厚生省保健医療局長通知)
これまで、眼球のあっせんに係る技術的事項については、各眼球あっせん機関の独自の取組にまかされてきたところであるが、安全かつ適切な眼球あっせんを行うために準拠すべき指針を策定する必要性が指摘されていたことから、今般、公衆衛生審議会臓器移植専門委員会における了承を踏まえ、別添のとおり標記指針を定めることとしたので、本指針を踏まえ適正な移植医療の推進に努められたい。なお、左記のことに留意されたい。
記
(一) 現在、眼球以外の臓器が眼球と併せて提供される場合について、社団法人日本臓器移植ネットワークが一括して眼球の提供を含め臓器提供に係る家族の承諾を得ることを検討中であり、その結果に基づき指針の一【眼球提供に係る承認手続きについて】を改正する可能性があること。
(二) 今後、角膜に併せて強膜のあっせんも行うことを予定している眼球あっせん機関は、臓器の移植に関する法律施行規則(平成九年厚生省令第七八号)第一二条の規定に基づき、同規則第一一条第四号「臓器のあっせんを行う具体的手段」(及び必要に応じ同条第三号「臓器のあっせん手数料又はこれに類するものを徴収する場合は、その額」)に係る事項の変更の届出を、強膜のあっせんを実施しようとする日の一五日前までに厚生大臣に提出すること。また、届出の際には、強膜のあっせんに関し上記指針の該当部分に準拠していることを示す書面を添付すること。
(別添)
○眼球のあっせんに関する技術指針
(平成12年1月7日)
本指針は、該当法令等が特記されている部分は法令上の義務を構成するものであるが、それ以外の事項についても、安全かつ適切な眼球あっせんを行うために準拠することが必要である。なお、自らの眼球あっせん機関において強角膜切片作成などの眼球の処理を行うことができないために医療機関に委託する場合等、医療機関において手続が行われる際にも、眼球あっせん機関より医療機関に対して以下の技術指針に準拠するよう求める必要がある。
1【眼球提供に係る承認手続きについて】
眼球提供に係る家族の承諾書については、眼球摘出記録書に添付することとされており(臓器の移植に関する法律施行規則(平成9年厚生省令第78号。以下「施行規則」という。)第6条第2項第2号及び第2号の2並びに第3項)、すべての場合において遺族から眼球提供に係る承諾書を得ることが必要であること。
なお、臓器の移植に関する法律(平成9年法律第104号。以下「法」という。)の規定に基づき眼球を摘出するためには、次のいずれかの場合に該当することを確認する必要があること。(法第6条第1項第1号及び第2号)
① 本人が眼球を提供する意思を書面により表示しており、遺族が眼球の摘出を拒まない場合又は遺族がいない場合
② 本人が眼球を提供する意思がないことを表示しておらず、遺族が眼球の摘出を書面により承諾している場合
さらに脳死下で眼球を摘出するためには、本人が脳死判定に従う意思がないことを表示していない場合であって、次のいずれかに該当することを確認する必要があること(法第6条第3項第1号及び第2号)。
ア 本人が眼球を提供する意思を書面により表示し、かつ、家族が摘出及び脳死判定を拒まないとき又は家族がいないとき
イ 本人が眼球を提供する意思がないことを表示しておらず、家族が摘出及び脳死判定を行うことを書面により承諾しているとき
ただし、眼球以外の臓器を眼球と併せて摘出する場合には、①及び②並びにア及びイの本人及び遺族・家族の意思については、(社)日本臓器移植ネットワークにより確認されることから、各眼球あっせん機関は、①又は②の区分に応じ、本人及び遺族の眼球摘出に関する意思について、当該確認が行われた書面により確認すること。
2【眼球提供者(ドナー)適応基準について】
死体からの眼球の摘出の際の眼球提供者(ドナー)の適応基準については、平成12年1月7日付け健医発第25号厚生省保健医療局長通知「眼球提供者(ドナー)適応基準について」によること。
3【移植眼球組織取扱施設について】
摘出した眼球から、強角膜切片、強膜片を作成する場合には、バイオハザードレベルのクリーンベンチ等の無菌操作を実施できる設備の完備されたところで処理すること。また、クリーンベンチ等については、その衛生管理に留意すること。
4【眼球の摘出・保存】
(a) 眼球の摘出
死体から眼球を摘出する際には、滅菌された眼球摘出キット等を用いて、細菌等による汚染の予防に細心の注意を払うこと。摘出した眼球は滅菌生理食塩水や抗生物質の溶液で十分に洗浄し、滅菌された専用の眼球保存瓶に入れ、眼球固定器等で瓶内に適切に固定すること。
なお、眼球の摘出を行った医師は、眼球摘出記録を作成すること(法第10条第1項)。
(b) 摘出眼の保存
眼球の保存に際しては、乾燥を防ぐよう十分留意すること。また、眼球提供者(ドナー)の角膜の細菌汚染の予防について十分配慮すること。
(c) 眼球の搬送
眼球保存瓶中に入れた摘出眼球を眼球あっせん機関に搬送する場合には、氷若しくは保冷剤を入れたアイスボックスを用いること。搬送は4℃前後の温度で可能な限り短時間で行い、搬送中に眼球が凍結しないよう注意すること。
5【強角膜切片の摘出】
死体から眼球を摘出せず、直接、強角膜切片を摘出する際には、本技術指針の4、6及び7―1に準じて行うこと。特に、摘出の際、細菌等による汚染及び組織の損傷を防ぐよう留意すること。
6【眼球摘出後の遺体の処置】
眼球摘出あるいは強角膜切片摘出を実施した場合には、出血や眼球内容物の漏出が無いように配慮し、さらに義眼を挿入して、眼球提供者(ドナー)の顔貌の変化が最小限になるよう努めること。また、摘出処置後、眼球摘出あるいは強角膜切片摘出に携わった者は遺族に眼球提供者(ドナー)の顔貌の確認を求めるなど遺族に対し配慮すること。
7【摘出眼球の処置】
7―1【強角膜切片作成】
(a) 強角膜切片作成の準備
搬入した眼球の保存瓶は蓋を開けることなくその外部をエタノール等で消毒し、クリーンベンチ等の無菌操作設備内に運ぶこと。それ以降の処理は滅菌器具を用いて無菌的操作で行うこと。
(b) 全眼球からの強角膜切片の単離
全眼球を滅菌生理食塩水や抗生物質の溶液で洗浄するなど、細菌等による汚染の予防に十分留意すること。また、単離を行う際には、余剰の結膜等を除去し、再度洗浄した後、角膜輪部より1mm程度外側の部位の強膜を全周にわたり切開すること。強角膜切片の単離は、先端の丸いブレードなどで虹彩をゆっくり押し下げて眼球より強角膜切片を単離することにより行うこと。この際角膜を引き上げて虹彩を取ると、角膜内皮細胞に損傷を与えることがあるので細心の注意を払うこと。単離した強角膜切片は、眼球保存液の入った専用保存器に角膜上皮細胞側を下向きにして置き、素早く蓋をして封印すること。
(c) 強角膜切片の評価等
処理した強角膜切片は、スリットランプ、スペキュラーマイクロスコープ等を利用して可能な限り詳細に検査し、その結果を所定の様式に記入すること。
(d) 強角膜切片の保存
強角膜切片は角膜組織の評価後に4℃の冷蔵庫内で保存すること。この際保存した強角膜切片が凍結しないよう注意すること。また、48時間以上保存する際には、角膜内皮細胞の老廃物による影響を最小限に止めるよう努めること。強角膜切片の保存に使用した保存液の名称、ロット番号を記録、保管すること。
(e) 強角膜切片の保存期間
処理した強角膜切片は、保存より10日間以内に移植に用いること。有効期限内にあっせんできない等の理由で移植に用いられなかった強角膜切片は、無菌操作により凍結に耐える保存容器にてマイナス80℃で凍結保存し、将来的な角膜表層移植手術、緊急時の手術等に用いるために無菌的に保存すること(凍結保存された角膜を緊急に用いる場合は、保存期間を特に定めない)。
強角膜切片保存瓶中の組織を移植医療に用いる場合には、保存液、並びに角膜輪部の一部組織の細菌培養を行うことが望ましいこと。その場合、眼球あっせん機関は、その結果の報告を受けるよう努めること。
(f) 角膜と角膜輪部の使用について
一つの強角膜切片より角膜移植を二名以上の患者に実施した場合、移植を行った医療機関は、手術に関する記録を作成し、移植手術実施報告書と共にその旨を眼球あっせん機関に報告すること。この際、医療機関は、開封後の強角膜切片の全部又は一部への細菌汚染等を防ぐよう細心の注意を払うこと。
7―2【移植用強膜片の作成】
(a) 強膜片の単離
強膜片の単離においては、眼球の内容物(虹彩、毛様体、水晶体、硝子体、網膜、脈絡膜)を滅菌した鑷子で除去すること。
(b) 強膜片の洗浄
強膜片を単離した後、付着している脈絡膜や血管等を滅菌された綿球、ガーゼ等にエタノール等を浸したもので十分に拭き取ること。
(c) 強膜片の保存
洗浄した強膜片は、滅菌された容器に入れ、保存液を使用する場合には凍結し、95%エタノール、グリセリンを使用する場合には室温で、適切に保存すること。なお、保存する際には、使用上の利便性を考慮して半割、1/4割にしておくことも可能であること。
(d) 強膜片の使用
保存された強膜片を使用する場合には、あらかじめ滅菌生理食塩水、BSS(Balanced Saline Solution)等により十分に洗浄してから使用することが望ましいこと。
(e) 細菌培養
強膜片の使用に際して、その一部及び洗浄した生理食塩水若しくはBSSを培養して細菌の有無を確認すること。眼球あっせん機関は、移植を実施した医療機関から、細菌培養の結果について報告を受けるよう努めること。
7―3【使用されなかった部分の眼球の処理について】
移植に使用されなかった眼球又はその一部については、法第9条及び施行規則第4条に準じ、焼却処分とすること。また、所定の検査等に基づき移植に不適合と判断されたものである場合には、施行規則第15条第2項に準じ、不使用記録を作成すること。
7―4【表層角膜移植用の全眼球の摘出・保存について】
眼球あっせん機関は医療機関から表層角膜移植に使用するための全眼球あっせんの要請があった場合、全眼球のままであっせんすることも可能であること。その際には、角膜内皮細胞の評価を除いて、他の取り扱い基準を遵守すること。また、全眼球の提供を受け、移植を実施する医療機関においては、表層角膜移植を行った残りの眼球の部分については、焼却処分とすること(法第9条及び施行規則第4条)。
8【記録の保管】
眼球あっせん機関は、眼球のあっせんを行った場合には、あっせん記録を作成し、5年間保管すること(法第14条第2項)。
9【強角膜切片又は強膜片作成の施術者】
強角膜切片等を作成する施術者には、十分な知識と技術が要求されるため、この作業について十分な研修を受けること。
10【本技術指針の見直し】
本技術指針は、適宜見直すこととしていること。
(別紙)
○ 臓器提供及び臓器移植に当たって必要な書類一覧
書類名 |
脳死下 |
心臓死下 |
作成者(署名者) |
保管者 |
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ドナー家族 |
判定医又はその施設 |
摘出医又はその施設 |
移植医又はその施設 |
あっせん機関 |
所管警察 |
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1 本人の生前の意思を表示した書面(脳死判定) |
※1 |
/ |
本人(同) |
所有 |
○ |
― |
○ |
○ |
□ |
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2 本人の生前の意思を表示した書面(臓器摘出) |
※1 |
※1 |
本人(同) |
所有 |
○ |
○ |
○ |
○ |
□ |
||
3 家族が脳死判定を拒まない・承諾する旨を表示した書面 |
レ |
/ |
家族(同) |
― |
● |
― |
― |
○ |
□ |
||
4 遺族が臓器摘出を拒まない・承諾する旨を表示した書面 |
レ |
レ |
遺族(同) |
― |
― |
○ |
○ |
○ |
□ |
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5 脳死判定の的確実施の証明書 |
レ |
/ |
脳死判定医(同) |
― |
● |
○ |
○ |
○ |
□ |
||
6 脳死判定記録書 |
レ |
/ |
脳死判定医(同) |
― |
● |
― |
― |
○ |
□ |
||
|
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|
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(添付①)判定に当たって測定した脳波の記録 |
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(添付②)1及び2の本人の生前の意思を表示した書面の写し ※1 |
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(添付③)3の家族が脳死判定を拒まない・承諾する旨を表示した書面 |
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7 死亡日時を確認することのできる書類 |
※2 |
※2 |
主治医・監察医(同) |
― |
― |
○ |
○ |
○ |
□ |
||
8 臓器摘出記録書 |
レ |
レ |
摘出医(同) |
― |
― |
● |
○ |
○ |
― |
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(添付①)2の本人の生前の意思を表示した書面の写し ※1 |
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(添付②)4の遺族が臓器摘出を拒まない・承諾する旨を表示した書面の写し |
|||||||||||
(添付③)5の脳死判定の的確実施の証明書の写し |
|||||||||||
9 不使用臓器の記録 |
レ |
レ |
摘出医・摘出医以外(同) |
― |
― |
● ※3 |
― |
○ |
― |
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10 臓器移植記録書 |
レ |
レ |
移植医(同) |
― |
― |
― |
● |
○ |
― |
||
11 移植術の実施の説明記録書 |
レ |
レ |
移植医(同) |
― |
― |
― |
● |
○ |
― |
||
12 臓器のあっせん帳簿 |
レ |
レ |
あっせん機関 |
― |
― |
― |
― |
● |
― |
●:原本を保存 ○:写しを保存
□:「臓器移植と検視その他の犯罪捜査に関する手続との関係等について」(平成9年10月8日付け健医疾発第20号)第1 検視等の取扱いの4の(2)による。
※1 本人の書面による意思表示があった場合のみ。
※2 臓器の摘出・あっせんに当たっては、摘出医・あっせん機関は、臓器提供者の死亡の日時を主治医等から確認することが必要である。この確認については、摘出医・あっせん機関等の判断により、死亡診断書若しくはその写しの交付や、摘出記録書に記載された死亡日時の確認を主治医等に求めること等により行うものとする。ただし、脳死下臓器提供の際は、脳死判定の的確実施証明書の写しにより、死亡の事実及び日時を確認することができる。
※3 臓器を摘出した医師以外の医師が摘出した臓器を移植術に使用しないこととした場合は、当該医師が9の不使用臓器の記録を作成し、その勤務する医療機関の管理者が5年間保存しなければならない。