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○家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)患者から摘出された肝臓の移植への利用について

(平成一一年六月三日)

(健医発第八五〇号)

(社団法人日本臓器移植ネットワーク理事長あて厚生省保健医療局長通知)

家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)患者が肝移植を受けた後に、当該FAP患者から摘出された肝臓を他の移植希望患者(レシピエント)に移植すること(いわゆる「ドミノ移植」)については、第一六回公衆衛生審議会疾病対策部会臓器移植専門委員会(平成一一年六月一日開催)において、別紙のとおり、日本移植学会よりドミノ移植に対する医学的評価についての見解が示され、他者への移植に利用することができる形でFAP患者から肝臓を摘出することの安全性等について確認されたところである。

ついては、今後、左記のとおり、FAP患者から肝臓摘出を行う医療機関より肝臓移植希望者(レシピエント)の優先順位に係る情報提供の依頼を受けた場合には、貴法人が業務として行っている死体からの臓器移植のあっせんに係る肝臓移植希望者(レシピエント)選択基準(「臓器提供者(ドナー)適応基準及び移植希望者(レシピエント)選択基準について」(平成九年一〇月一六日健医発第一、三七一号))を準用して、貴法人に登録された肝臓移植希望患者(レシピエント)から優先順位の高い者を選定し、移植実施施設を通じて情報提供を行うよう、必要な協力をお願いする。

1 FAP患者から肝臓摘出手術を行う医療機関より肝臓移植希望者(レシピエント)の優先順位に係る情報提供の依頼を受けた場合には、肝臓移植希望者(レシピエント)選択基準を準用して、肝臓移植希望登録患者リストの中から優先順位の高い者を選定し、当該選定された患者が入院・通院する移植実施施設を経由して、その旨を情報提供すること。

2 このことは、FAP患者から肝臓摘出手術を行う医療機関が、自らの判断において肝臓移植希望者(レシピエント)を選定することを妨げるものではないこと。なお、貴法人の行う協力としては、1の情報提供に限られること。

3 優先順位の高い登録患者がドミノ移植の手術についての説明を受けた後、その実施に同意しても、脳死下での臓器提供に係る肝臓移植希望登録患者リストからは削除されないこと。

4 3において、ドミノ移植手術の実施を承諾した患者が脳死下での提供についても優先順位を得た場合には、当該患者がいずれかを選択すること。なお、脳死下で提供された肝臓を選択した場合には、ドミノ移植については、次順位の者に優先順位が移ること。

5 手術が最終的に実施された場合には、通常の脳死下での肝臓移植と同様に、肝臓移植登録希望者リストから削除されること。

(別紙)

ドミノ移植に対する医学的評価について

日本移植学会

1 ドミノ移植の現状

【国外】 一九九五年にポルトガルで第一例が行われた。以後、スウェーデンで五例、ポルトガルで八例、ドイツで四例、イギリスで一例の報告があり、アルゼンチン、スペインでも数例の家族性アミロイドポリニューロパシー(FAP)患者のドミノ移植が行われている。一九九八年のヨーロッパレジストリーでは一九九七年以降半年で一二例が登録されている。現在までのところ、ドミノ移植後にFAP発症の患者は報告されていない。

【国内】 まだ一例も行われていない。

2 FAP患者への影響

・FAP患者の肝臓摘出と移植術

肝臓摘出には、肝臓に流入するふたつの血管(門脈と肝動脈)と出口の流出する血管(肝静脈)、および胆汁路の胆管の流れを止めて切り離す必要がある。通常、生体肝移植では臓器提供者からの摘出肝の血管の長さ、形、大きさに基づいて、患者の門脈、肝動脈、肝静脈とつなぎ合わせることができるように切り離す部位が決められる。また、肝臓摘出直前まで肝血流を温存させておく必要があるが、手技的に可能である。したがって、アミロイド患者に対する生体肝移植は、これまでの生体肝移植と同様に行われる。すなわち、FAP患者の生体部分肝移植術は、ドミノ肝臓移植施行の有無に拘わらず、全く独立に行われ、その施行に影響を受けない。

・FAP患者の肝臓の使用について

術前に行った肝機能検査、画像検査で、FAP患者の肝臓の使用については術前に評価できるが、開腹後に肝臓を見て確認する。また、極めて稀な場合ではあるが、肝臓摘出中に肝臓はいたんだりすることがあるし、肝臓の血管の形や長さのため使用できない可能性もあり、最終確認は摘出後に行う。最終判断はFAP患者の肝臓摘出チームの責任者が行う。

3 FAP患者の肝臓を移植に使用する是非

FAP患者の肝臓を使用したドミノ肝臓移植の理論的背景としては、FAP患者の肝臓は異形トランスサイレチンを産生する以外には肝機能異常が認められないこと、アミロイドーシスの発症までには最低二〇―三〇年かかること、アミロイドーシスの発症率は一〇〇%ではないこと、万一発症しても経過が緩徐であることから再移植の余地があることである。以上から、患者への十分なインフォームドコンセントにより実施可能と考えられる。

(参考)