添付一覧
○臓器提供者(ドナー)適応基準及び移植希望者(レシピエント)選択基準について
(平成九年一〇月一六日)
(健医発第一三七一号)
(社団法人日本臓器移植ネットワーク理事長あて厚生省保健医療局長通知)
臓器の移植に関する法律(平成九年法律第一〇四号)第一二条に規定する業として移植術に使用されるための臓器を提供すること又はその提供を受けることのあっせんを行うに当たっては、別添1の臓器提供者となることができるか否かについて判断する基準(臓器提供者(ドナー)適応基準)及び別添2の臓器移植を希望する患者の中から医学的に最も適切な患者を選択する基準(移植希望者(レシピエント)選択基準)を遵守して、適正な移植医療の推進に努められたい。
なお、各臓器の臓器提供者(ドナー)適応基準に記載されている「全身性感染症」には、クロイツフェルト・ヤコブ病が含まれていることに留意されたい。
別添1
<心臓>臓器提供者(ドナー)適応基準
1.以下の疾患又は状態を伴わないこととする。
(1) 全身性の活動性感染症
(2) HIV抗体、HTLV―1抗体、HBs抗原、HCV抗体などが陽性
(3) クロイツフェルト・ヤコブ病及びその疑い
(4) 悪性腫瘍(原発性脳腫瘍及び治癒したと考えられるものを除く。)
2.以下の疾患又は状態を伴う場合には、移植の適応を慎重に検討する。
(1) 心疾患の既往
(2) 心電図、心エコー図などによる心疾患の所見
(3) 大量のカテコラミン剤の使用(例:ドパミン10μg/kg/minにても血行動態の維持が困難な場合)
3.年齢:50歳以下が望ましい。
付記 上記の基準は適宜見直されること。
<肺>臓器提供者(ドナー)適応基準
1.以下の疾患又は状態を伴わないこととする。
(1) 全身性の活動性感染症
(2) HIV抗体、HTLV―1抗体、HBs抗原、HCV抗体などが陽性
(3) クロイツフェルト・ヤコブ病及びその疑い
(4) 悪性腫瘍(原発性脳腫瘍及び治癒したと考えられるものを除く。)
2.臨床的に肺疾患が存在する場合には、移植の適応を慎重に検討する。
3.肺の機能が良好であることが望ましい。
(1) 肺コンプライアンスが保たれている(注1)
(2) 肺の酸素化能が維持されている(注2)
4.年齢:70歳以下が望ましい。
注1:最大気道内圧<30cmH20(1回換気量15ml/kg,PEEP=5cmH20の条件下)
注2:Pa02>300Torr(FI02=1.0,PEEP=5cmH20の条件下)又はPa02/FI02>250~300Torr(PEEP=5cmH20の条件下)
付記 上記の基準は適宜見直されること。
<心肺同時>臓器提供者(ドナー)適応基準
1.以下の疾患又は状態を伴わないこととする。
(1) 全身性の活動性感染症
(2) HIV抗体、HTLV―1抗体、HBs抗原、HCV抗体などが陽性
(3) クロイツフェルト・ヤコブ病及びその疑い
(4) 悪性腫瘍(原発性脳腫瘍及び治癒したと考えられるものを除く。)
2.以下の疾患又は状態を伴う場合には、移植の適応を慎重に検討する。
(1) 心疾患の既往
(2) 心電図、心エコー図などによる心疾患の所見
(3) 大量のカテコラミン剤の使用(例:ドパミン10μg/kg/minにても血行動態の維持が困難な場合)
3.臨床的に肺疾患が存在する場合には、移植の適応を慎重に検討する。
4.肺の機能が良好であることが望ましい。
(1) 肺コンプライアンスが保たれている(注1)
(2) 肺の酸素化能が維持されている(注2)
5.年齢:50歳以下が望ましい。
注1:最大気道内圧<30cmH20(1回換気量15ml/kg,PEEP=5cmH20の条件下)
注2:Pa02>300Torr(FI02=1.0,PEEP=5cmH20の条件下)又はPa02/FI02>250~300Torr(PEEP=5cmH20の条件下)
付記 上記の基準は適宜見直されること。
<肝臓>臓器提供者(ドナー)適応基準
1.以下の疾患又は状態を伴わないこととする。
(1) 全身性の活動性感染症
(2) HIV抗体、HTLV―1抗体、HBs抗原などが陽性
(3) クロイツフェルト・ヤコブ病及びその疑い
(4) 悪性腫瘍(原発性脳腫瘍及び治癒したと考えられるものを除く。)
2.以下の疾患又は状態が存在する場合は、慎重に適応を決定する。
(1) 病理組織学的な肝臓の異常
(2) 生化学的肝機能検査の異常
(3) 1週間以内の腹部、消化管手術及び細菌感染を伴う腹部外傷
(4) 胆道系手術の既往
(5) 重症糖尿病
(6) 過度の肥満
(7) 重症の熱傷
(8) 長期の低酸素状態
(9) 高度の高血圧又は長期の低血圧
(10) HCV抗体陽性
備考) 摘出されたドナー肝については、移植前に肉眼的、組織学的に観察し、最終的に適応を検討することが望ましい(移植担当医の判断に委ねる)。
付記 上記の基準は適宜見直されること。
<腎臓>臓器提供者(ドナー)適応基準
1.以下の疾患又は状態を伴わないこととする。
(1) 全身性の活動性感染症
(2) HIV抗体、HTLV―1抗体、HBs抗原などが陽性
(3) クロイツフェルト・ヤコブ病及びその疑い
(4) 悪性腫瘍(原発性脳腫瘍及び治癒したと考えられるものを除く。)
2.以下の疾患又は状態が存在する場合は、慎重に適応を決定する。
(1) 血液生化学、尿所見等による器質的腎疾患の存在
(2) HCV抗体陽性
3.年齢:70歳以下が望ましい。
付記:上記の基準は適宜見直されること。
<膵臓>臓器提供者(ドナー)適応基準(脳死下)
1.以下の疾患又は状態を伴わないこととする。
(1) 全身性の活動性感染症
(2) HIV抗体、HTLV―1抗体、HBs抗原、HCV抗体などが陽性
(3) クロイツフェルト・ヤコブ病及びその疑い
(4) 悪性腫瘍(原発性脳腫瘍及び治癒したと考えられるものを除く。)
2.以下の疾患又は状態を伴う場合には、移植の適応を慎重に検討する。
(1) 細菌感染を伴う腹部外傷
(2) 膵の機能的又は器質的障害
(3) 糖尿病の既往
3.年齢:60歳以下が望ましい。
付記:上記の基準は適宜見直されること。
<膵臓>臓器提供者(ドナー)適応基準(心停止下)
1.以下の疾患又は状態を伴わないこととする。
(1) 全身性の活動性感染症
(2) HIV抗体、HTLV―1抗体、HBs抗原、HCV抗体などが陽性
(3) クロイツフェルト・ヤコブ病及びその疑い
(4) 悪性腫瘍(原発性脳腫瘍及び治癒したと考えられるものを除く。)
2.以下の疾患又は状態を伴う場合には、移植の適応を慎重に検討する。
(1) 細菌感染を伴う腹部外傷
(2) 膵の機能的又は器質的障害
(3) 糖尿病の既往
(4) 一過性の心停止
(5) 低血圧
(6) 低酸素血症
(7) 無尿
(8) 高Na血症
(9) ノルアドレナリンや15μg/kg/分以上のドーパミンの投与
(10) 膵機能、肝機能の異常値
3.年齢:60歳以下が望ましい。
付記:上記の基準は適宜見直されること。
<小腸>臓器提供者(ドナー)適応基準
1.以下の疾患又は状態を伴わないこととする。
(1) 全身性の活動性感染症
(2) HIV抗体、HTLV―1抗体、HBs抗原などが陽性
(3) クロイツフェルト・ヤコブ病及びその疑い
(4) 悪性腫瘍(原発性脳腫瘍及び治癒したと考えられるものを除く。)
2.以下の疾患又は状態が存在する場合は、慎重に適応を決定する。
(1) 小腸疾患又はその既往
(2) 細菌感染を伴う腹部外傷
(3) HCV抗体陽性
3.年齢:60歳以下が望ましい。
付記 上記の基準は適宜見直されること。
別添2
心臓移植希望者(レシピエント)選択基準
1.適合条件
(1) ABO式血液型
ABO式血液型の一致(identical)及び適合(compatible)の待機者を候補者とする。
(2) 体重(サイズ)
体重差は-20%~30%であることが望ましい。
ただし、移植希望者(レシピエント)が小児である場合は、この限りではない。
(3) 前感作抗体
リンパ球直接交差試験(ダイレクト・クロスマッチテスト)を実施し、抗T細胞抗体が陰性であることを確認する。
パネルテストが陰性の場合、リンパ球直接交差試験(ダイレクト・クロスマッチテスト)は省略することができる。
(4) CMV抗体
CMV抗体陰性の移植希望者(レシピエント)に対しては、CMV抗体陰性の臓器提供者(ドナー)が望ましい。
(5) HLA型
当面、選択基準にしないが、必ず検査し、登録する。
(6) 虚血許容時間
臓器提供者(ドナー)の心臓を摘出してから4時間以内に血流再開することが望ましい。
2.優先順位
適合条件に合致する移植希望者(レシピエント)が複数存在する場合には、優先順位は、以下の順に勘案して決定する。
(1) 親族
臓器の移植に関する法律第6条の2の規定に基づき、親族に対し臓器を優先的に提供する意思が表示されていた場合には、当該親族を優先する。
(2) 医学的緊急度
定義:Status1:次の(ア)から(エ)までのいずれか1つ以上に該当する状態
(ア) 補助人工心臓を装着中の状態
(イ) 大動脈内バルーンパンピング(IABP)、経皮的心肺補助装置(PCPS)又は動静脈バイパス(VAB)を装着中の状態
(ウ) 人工呼吸管理を受けている状態
(エ) ICU、CCU等の重症室に収容され、かつ、カテコラミン等の強心薬の持続的な点滴投与を受けている状態
* カテコラミン等の強心薬にはフォスフォディエステラーゼ阻害薬なども含まれる
* ただし、18歳未満に限り、重症室に収容されていない場合であって、カテコラミン等の強心薬の持続的な点滴投与を受けている状態も含まれる(この状態で待機中に18歳以上となったときには、(ア)から(ウ)までのいずれかに該当しない限り、Status2とする)
Status2:待機中の患者で、上記以外の状態
Status3:Status1、Status2で待機中、除外条件(感染症等)を有する状態のため一時的に待機リストから削除された状態
Status1、Status2の順に優先する(3.の具体的選択方法を参照)。また、Status3への変更が登録された時点で、選択対象から外れる。除外条件がなくなり、Status1 又はStatus2へ再登録された時点から、移植希望者(レシピエント)として選択対象となる。
(3) 年齢
臓器提供者(ドナー)の年齢及び移植希望者(レシピエント)の(社)日本臓器移植ネットワークに移植希望者(レシピエント)の登録を行った時点における年齢に応じ、3.の具体的選択方法に示す区分に従い優先順位を定める。(3.の具体的選択方法を参照)。
(4) ABO式血液型
ABO式血液型の一致(identical)する者を適合(compatible)する者より優先する(3.の具体的選択方法を参照)。
(5) 待機期間
以上の条件が全て同一の移植希望者(レシピエント)が複数存在する場合は、待機期間の長い者を優先する。
○Status1の移植希望者(レシピエント)間では、待機期間はStatus1の延べ日数とする。
(注)移植希望者(レシピエント)の登録時に18歳未満で、Status1の(エ)に該当していた患者が、その後18歳以上となり、重症室に収容されていないためStatus2とされたが、再度、Status1の状態となったときは、18歳未満でStatus1に該当していた期間もStatus1の延べ日数に含まれる。
○Status2の移植希望者(レシピエント)間では、待機期間は登録日からの延べ日数とする。
3.具体的選択方法
(1) 臓器提供者(ドナー)が18歳以上の場合
順位* |
医学的緊急度 |
年齢 |
ABO式血液型 |
1 |
Status1 |
60歳未満 |
一致 |
2 |
適合 |
||
3 |
60歳以上 |
一致 |
|
4 |
適合 |
||
5 |
Status2 |
60歳未満 |
一致 |
6 |
適合 |
||
7 |
60歳以上 |
一致 |
|
8 |
適合 |
* 同順位内に複数名の移植希望者(レシピエント)が存在する場合には待機期間の長い者を優先する。
(2) 臓器提供者(ドナー)が18歳未満の場合
順位* |
医学的緊急度 |
年齢 |
ABO式血液型 |
1 |
Status1 |
18歳未満 |
一致 |
2 |
適合 |
||
3 |
18歳以上 |
一致 |
|
4 |
適合 |
||
5 |
Status2 |
18歳未満 |
一致 |
6 |
適合 |
||
7 |
18歳以上 |
一致 |
|
8 |
適合 |
* 同順位内に複数名の移植希望者(レシピエント)が存在する場合には待機期間の長い者を優先する。
4.その他
将来、Status1の移植希望者(レシピエント)が増加すると、O型の臓器提供者(ドナー)からの臓器が順位2の移植希望者(レシピエント)に配分され、Status2の移植希望者(レシピエント)に配分されない事態が生じることが予想される。このことを含め、今後、新たな医学的知見などを踏まえ、緊急度の定義やブロック制の導入などについて、適宜選択基準の見直しをすることとする。
また、60歳以上の移植希望者(レシピエント)に対する心臓移植については、改正選択基準の施行から2年を経過した時点又は国内における心臓移植の実績が200例に達した時点のいずれか早い時点を目途として、その臨床成績などを踏まえ、再度見直しを行うこととする。
肺移植希望者(レシピエント)選択基準
1.適合条件
(1) ABO式血液型
ABO式血液型の一致(identical)及び適合(compatible)の待機者を候補者とする。
(2) 肺の大きさ
肺の大きさは臓器提供者(ドナー)及び移植希望者(レシピエント)の年齢区分に応じ、下記の方法で評価する。
1) 臓器提供者(ドナー)及び移植希望者(レシピエント)がいずれも18歳以上の場合
(〈予測VCD〉注1)/〈予測VCR〉注2)-1)×100の値(%)で判断する。
① 片肺移植の場合 -30%以上
② 両肺移植の場合 -30%以上
注1) 予測VCD:臓器提供者(ドナー)の予測肺活量
注2) 予測VCR:移植希望者(レシピエント)の予測肺活量
予測肺活量の計算式
(男性) 予測肺活量(L)=0.045×身長(cm)-0.023×年齢-2.258
(女性) 予測肺活量(L)=0.032×身長(cm)-0.018×年齢-1.178
2) 臓器提供者(ドナー)及び移植希望者(レシピエント)がいずれも18歳未満の場合
(〈臓器提供者(ドナー)の身長〉/〈移植希望者(レシピエント)の身長〉-1)×100の値(%)で判断する。
① 片肺移植の場合 -12%以上
② 両肺移植の場合 -12%以上
3) 臓器提供者(ドナー)及び移植希望者(レシピエント)の年齢が1)又は2)の場合に該当しない場合
(〈臓器提供者(ドナー)の身長〉/〈移植希望者(レシピエント)の身長〉-1)×100の値(%)で判断する。
① 片肺移植の場合 -12%以上
② 両肺移植の場合 -12%以上
(3) 前感作抗体
ダイレクト・クロスマッチを実施し、陰性であることを確認する。
パネルテストが陰性の場合、ダイレクト・クロスマッチは省略することができる。
(4) CMV抗体
CMV抗体陰性の移植希望者(レシピエント)に対しては、CMV抗体陰性の臓器提供者(ドナー)が望ましい。
(5) HLA型
当面、選択基準にしないが、必ず検査し、登録する。
(6) 虚血許容時間
臓器提供者(ドナー)の肺を摘出してから8時間以内に血流再開することが望ましい。
2.優先順位
適合条件に合致する移植希望者(レシピエント)が複数存在する場合には、優先順位は、以下の順に勘案して決定する。
(1) 親族
臓器の移植に関する法律第6条の2の規定に基づき、親族に対し臓器を優先的に提供する意思が表示されていた場合には、当該親族を優先する。
(2) 肺の大きさ
臓器提供者(ドナー)及び移植希望者(レシピエント)の年齢区分に応じ、次の1)から3)でそれぞれ定める範囲に該当する者を優先する。
1) 臓器提供者(ドナー)及び移植希望者(レシピエント)がいずれも18歳以上の場合
(〈予測VCD〉/〈予測VCR〉-1)×100の値(%)で判断する。
① 片肺移植の場合 -30~30%
② 両肺移植の場合 -30~30%
2) 臓器提供者(ドナー)及び移植希望者(レシピエント)がいずれも18歳未満の場合
(〈臓器提供者(ドナー)の身長〉/〈移植希望者(レシピエント)の身長〉-1)×100の値(%)で判断する。
① 片肺移植の場合 -12%~15%
② 両肺移植の場合 -12%~12%
3) 臓器提供者(ドナー)及び移植希望者(レシピエント)の年齢が1)又は2)の場合に該当しない場合
(〈臓器提供者(ドナー)の身長〉/〈移植希望者(レシピエント)の身長〉-1)×100の値(%)で判断する。
① 片肺移植の場合 -12%~15%
② 両肺移植の場合 -12%~12%
(3) ABO式血液型
ABO式血液型の一致(identical)する者を適合(compatible)する者より優先する。
(4) 待機期間
待機期間の長い者を優先する。
(5) 肺の大きさ(臓器提供者(ドナー)及び移植希望者(レシピエント)の年齢)
1.(2)の1)又は2)の場合を優先する。
(6) 術式による優先順位
術式は、片肺移植、両肺移植の2種類とし、第1術式、第2術式の2つまで登録可能とする。
術式による優先順位は次のとおりとする。
1) 臓器提供者(ドナー)の両肺が利用できる場合であり、第1優先順位の選択を行った結果、
① 第1術式として両肺移植を希望している者(レシピエント)が、第1優先順位となれば、当該両肺移植希望者(レシピエント)を選択する。
② 第1術式として片肺移植を希望している者(レシピエント)が第1優先順位となれば、第1術式として片肺移植を希望している者(レシピエント)であって次の順位に位置する者とそれを分けあうこととする。次順位に位置する第1術式として片肺移植を希望している者(レシピエント)が選択されない場合には、第2術式として片肺移植を希望している者(レシピエント)の中で優先順位の高い者と分け合うこととする。
③ 第1術式として片肺移植を希望している者(レシピエント)が第1優先順位となり、第1術式、第2術式を考慮しても片肺移植希望者(レシピエント)が1名のみである場合、
○当該片肺移植希望者(レシピエント)が第2術式として両肺移植を希望していれば、当該移植希望者(レシピエント)を選択し(注1)、
○当該片肺移植希望者(レシピエント)が第2術式として両肺移植を希望していなければ、両肺移植希望者(レシピエント)の中で優先順位の高い者を選択する(注2)。ただし、当該片肺移植希望者(レシピエント)が優先すべき親族であるときには、当該片肺移植希望者(レシピエント)を優先する。
(注1)当該移植希望者(レシピエント)は必ずしも両肺移植を受ける必要はない。
(注2)この場合に限り、術式を優先し、片肺移植希望者(レシピエント)より両肺移植希望者を優先する。
2) 臓器提供者(ドナー)の片肺のみが利用できる場合には、第1術式として片肺移植を希望している者(レシピエント)の中から優先順位の高い者を選択する。第1術式として片肺移植を希望している者(レシピエント)が選択されない場合には、第2術式として片肺移植を希望している者(レシピエント)の中から優先順位の高い者を選択する。
3) 1)、2)の結果、ABO式血液型が一致する移植希望者(レシピエント)が選択されない場合、虚血許容時間内にあり、ABO式血液型が適合するものについて1)、2)と同様の手順により移植希望者(レシピエント)を選択する。
3.その他
(1) 臓器提供者(ドナー)又は移植希望者(レシピエント)が6歳以上18歳未満の場合、その予測肺活量については、以下の計算式を参考にすることができる。
予測肺活量の計算式(6歳以上18歳未満の場合)
(男性)予測肺活量(L)=2.108-0.1262×年齢+0.00819×年齢2-3.118×身長(m)+2.553×身長(m)2
(女性)予測肺活量(L)=1.142+0.00168×年齢2-2.374×身長(m)+2.116×身長(m)2
(2) 基礎疾患、重症度などによる医学的緊急度は、将来考慮されるべきである。
また、この基準は実績を踏まえて見直しを行う必要がある。
心肺同時移植希望者(レシピエント)選択基準
1.適合条件
(1) ABO式血液型
ABO式血液型の一致(identica1)及び適合(compatible)の待機者を候補者とする。
(2) 体重(サイズ)
体重差は-20%~30%であることが望ましい。
ただし、移植希望者(レシピエント)が小児である場合は、この限りでない。
(3) 肺の大きさ
予測VCD注1)/予測VCR注2)×100の値(%)で判断する。
1) 片肺移植の場合 70~130%
2) 両肺移植の場合 70~130%
注1) 予測VCD:臓器提供者(ドナー)の予測肺活量
注2) 予測VCR:移植希望者(レシピエント)の予測肺活量
予測肺活量の計算式
(男性) 予測肺活量=(27.63-0.112×年齢)×身長(cm)
(女性) 予測肺活量=(21.78-0.101×年齢)×身長(cm)
(4) 前感作抗体
リンパ球直接交差試験(ダイレクト・クロスマッチテスト)を実施し、抗T細胞抗体が陰性であることを確認する。
パネルテストが陰性の場合、リンパ球直接交差試験(ダイレクト・クロスマッチテスト)は省略することができる。
(5) CMV抗体
CMV抗体陰性の移植希望者(レシピエント)に対しては、CMV抗体陰性の臓器提供者(ドナー)が望ましい。
(6) HLA型
当面、選択基準にしないが、必ず検査し、登録する。
(7) 虚血許容時間
臓器提供者(ドナー)の心肺を摘出してから4時間以内に血流再開することが望ましい。
2.優先順位
適合条件に合致する移植希望者(レシピエント)が複数存在する場合には、優先順位は、以下の順に勘案して決定する。
(1) 親族
臓器の移植に関する法律第6条の2の規定に基づき、親族に対し臓器を優先的に提供する意思が表示されていた場合には、当該親族を優先する。
(2) 心臓移植希望者(レシピエント)選択基準で選ばれた移植希望者(レシピエント)が心肺同時移植の待機者である場合であって、かつ、臓器提供者(ドナー)から心臓及び両肺の提供があった場合には、当該待機者が肺移植待機リストで下位であっても、当該待機者に優先的に心臓及び両肺を同時に配分する。ただし、肺移植待機リストで選択された移植希望者(レシピエント)が優先すべき親族の場合はこの限りでない。
(3) 肺移植希望者(レシピエント)選択基準で選ばれた移植希望者(レシピエント)が心肺同時移植の待機者である場合であって、かつ、臓器提供者(ドナー)から心臓及び両肺の提供があった場合には、当該待機者が心臓移植待機リストで下位であっても、当該待機者に優先的に心臓及び両肺を同時に配分する。ただし、心臓移植待機リストで選択された移植希望者(レシピエント)が優先すべき親族の場合はこの限りでない。
(4) 心臓移植希望者(レシピエント)選択基準及び肺移植希望者(レシピエント)選択基準で選択された待機者が別人であり共に心肺同時移植を希望している場合であって、かつ、臓器提供者から心臓及び両肺の提供があった場合には、
① ABO式血液型が一致(identica1)する者を適合(compatible)する者より優先し、
② ①の条件が同一の移植希望者(レシピエント)が複数存在する場合は、心臓移植希望者(レシピエント)選択基準における医学的緊急度の高い者を優先し、
③ ①②の条件が同一の移植希望者(レシピエント)が複数存在する場合には、心臓移植希望者(レシピエント)選択基準の医学的緊急度Status1の待機期間が長い者を優先し、
④ ①~③の条件が同一の移植希望者(レシピエント)が複数存在する場合には、登録日からの延べ日数の長い者を優先する。
(5) 心臓又は肺の移植希望者(レシピエント)において、第1順位として選択された移植希望者(レシピエント)が心肺同時移植の待機者であっても、臓器提供者(ドナー)から心臓及び両肺の提供を受けられない場合は、心臓又は肺の単独移植希望者(レシピエント)のうちで最も優先順位が高いものを選択する。
3.その他
医学的な理由により心臓移植希望者(レシピエント)選択基準における医学的緊急度がStatus3になった場合、肺移植希望者(レシピエント)の待機リストを「待機inactive」とする。
(附則)
1.心肺同時移植希望者(レシピエント)は、心臓移植希望者(レシピエント)のリスト及び肺移植希望者(レシピエント)のリストの両方に登録される。
2.心肺同時移植希望者(レシピエント)の心臓又は肺に係る待機期間については、既に心臓移植希望者(レシピエント)又は肺移植希望者(レシピエント)のリストに登録されている患者が術式を心肺同時移植に変更する場合には、心臓又は肺のうち、既に登録されているリストに係る待機日数は変更前の当該日数も含めて計算することとし、新規に登録されたリストに係る待機日数は新規に登録した以後の日数を計算することとする。
3.基準全般については、今後の移植医療の定着及び移植実績の評価等を踏まえ、適宜見直すこととする。
(参考)
待機inactive制度について
1.概要
○ 移植希望者(レシピエント)の容態が落ち着いており、当面の間、移植を受ける意思がない場合に、(社)日本臓器移植ネットワーク(以下「ネットワーク」という。)にその旨を事前に報告しておき、一時的に臓器あっせんの対象から除外する。
2.具体的な手順
○ 患者と主治医との話し合いの結果、移植希望者(レシピエント)に当面の間移植を受ける意思がないことが確認された場合、各移植施設のネットワーク登録医師から、ネットワークへ書面により連絡する。
○ ネットワークは、移植施設に対して、当該移植希望者(レシピエント)を「待機inactive制度」の対象とした旨の連絡を行う。
○ また、移植希望者(レシピエント)が再度移植を希望した場合、各移植施設のネットワーク登録医師から、ネットワークへ書面により連絡する。
○ この場合についても、ネットワークは、移植施設に対して、当該移植希望者(レシピエント)を「待機inactive制度」の対象から外した旨の連絡を行う。
○ なお、「待機inactive制度」を利用している期間も、移植希望者(レシピエント)の待機期間の対象となる。
肝臓移植希望者(レシピエント)選択基準
1.適合条件
(1) ABO式血液型
ABO式血液型の一致(identical)及び適合(compatible)の待機者を候補者とする。
ただし、選択時2歳(生後24ヶ月)未満の場合には医学的緊急性10点の場合に限り、不適合(imcompatible)の待機者も候補とする。
(2) 前感作抗体
当面、選択基準にしないが、必ず検査し、登録する。
(3) HLA型
当面、選択基準にしないが、必ず検査し、登録する。
(4) 搬送時間(虚血許容時間)
臓器提供者(ドナー)の肝臓を摘出してから12時間以内に血流再開することが望ましい。
2.優先順位
(1) 医学的緊急性
予測余命が1ヶ月以内 |
10点 |
予測余命が1ヶ月~3ヶ月以内 |
8点 |
予測余命が1ヶ月~6ヶ月以内 |
6点 |
予測余命が6ヶ月~1年以内 |
3点 |
予測余命が1年を超えるもの |
1点 |
ただし、先天性肝・胆道疾患及び先天性代謝異常症については、肝臓移植が治療的意義を持つ時期、患者の日常生活に障害が発生している状態及び成長障害がある状態を考慮の上、上表に規定する点数のいずれかを用いることがある。
(2) ABO式血液型
ABO式血液型が一致 |
1.5点 |
ABO式血液型が適合 |
1.0点 |
ただし、選択時に2歳(生後24ヶ月)未満かつ医学的緊急性10点の待機者は、血液型を問わず、1.5点を加点する。
(3) 臓器提供者(ドナー)が18歳未満の場合には、選択時に18歳未満の移植希望者(レシピエント)に限り、1点を加点する。
3.具体的選択方法
適合条件に合致する移植希望者(レシピエント)が複数存在する場合には、優先順位は、以下の順に勘案して決定する。
(1) 臓器の移植に関する法律第6条の2の規定に基づき、親族に対し臓器を優先的に提供する意思が表示されていた場合には、当該親族を優先する。
ただし、HLAの適合度を必ず確認し、臓器提供者(ドナー)のHLA―A、HLA―B、HLA―DRのすべてにホモ接合体が存在し、移植希望者(レシピエント)が臓器提供者(ドナー)のハプロタイプを共有するヘテロ接合体である場合には、移植片対宿主病(GVHD)の危険性が高いため、除く。
(2) 2.の(1)、(2)及び(3)の合計点数が高い順とする。ただし、これらの条件が同一の移植希望者(レシピエント)が複数存在した場合は、待機期間の長い者を優先する。
(3) (1)又は(2)で選ばれた移植希望者(レシピエント)が肝腎同時移植の待機者である場合であって、かつ、臓器提供者(ドナー)から肝臓及び腎臓の提供があったときには、当該待機者に優先的に肝臓及び腎臓を同時に配分する。また、選ばれた移植希望者(レシピエント)が肝腎同時移植の待機者の場合であって、かつ、臓器提供者(ドナー)から肝臓、膵臓及び腎臓の提供があったときには、膵臓移植希望者(レシピエント)選択基準で選ばれた移植希望者(レシピエント)が膵腎同時移植の待機者である場合であっても、当該肝腎同時移植の待機者に優先的に肝臓及び腎臓を同時に配分する。
なお、選ばれた肝腎同時移植の待機者が優先すべき親族でない場合であって、腎臓移植希望者(レシピエント)が優先すべき親族であるときや膵腎同時移植希望者(レシピエント)が優先すべき親族であるときは、当該腎臓移植希望者(レシピエント)や膵腎同時移植希望者(レシピエント)が優先される。
(4) (3)により、肝腎同時移植希望者(レシピエント)が選定されたものの、肝臓が移植に適さないことが判明した場合には、腎臓移植希望者(レシピエント)選択基準で選ばれた腎臓移植希望者(レシピエント)に腎臓を配分する。
(5) (1)又は(2)で選ばれた移植希望者(レシピエント)が肝小腸同時移植の希望者である場合であって、かつ、臓器提供者(ドナー)から肝臓及び小腸の提供があった場合には当該待機者に優先的に肝臓及び小腸を同時に配分する。なお、選ばれた肝小腸同時移植の待機者が優先すべき親族でない場合であって、小腸移植希望者(レシピエント)が優先すべき親族であるときには、当該小腸移植希望者(レシピエント)が優先される。
(6) (5)により、肝小腸同時移植希望者(レシピエント)が選定されたものの、肝臓が移植に適さないことが判明した場合には、小腸移植希望者(レシピエント)選択基準で選ばれた小腸移植希望者(レシピエント)に小腸を配分する。
4.その他
(1) 待機inactive制度
肝臓移植希望者(レシピエント)が、医学的理由により当面の間移植を受けられない場合又は容体が落ち着いており当面の間移植を受ける意思がない場合には、「肝臓レシピエントに係る待機inactive制度について」に従い、肝臓移植希望者(レシピエント)の待機リストを「待機inactive」とする。
(2) 検討
ABO式血液型の取扱いや優先順位の点数付け等、当基準全般については、今後の移植医療の定着及び移植実績の評価を踏まえ、適宜見直すこととする。
また、将来ネットワークが整備され、組織的にも機能的にも十分機能した場合は、改めてブロックを考慮した優先順位を検討することが必要である。
肝臓レシピエントに係る待機inactive制度について
1.概要
○肝臓移植希望者(レシピエント)が、感染症等の医学的理由により当面の間移植を受けられない場合又は容体が落ち着いており当面の間移植を受ける意思がない場合に、(社)日本臓器移植ネットワーク(以下「ネットワーク」という。)にその旨を事前に報告しておき、一時的に臓器あっせんの対象から除外する。
2.具体的手順
(1) 移植希望者(レシピエント)が、感染症等の医学的理由により当面の間移植を受けられない状態であると確認された場合又は容体が落ち着いており当面の間移植を受ける意思がない場合は、患者と主治医が話し合いの上で、各移植施設のネットワーク登録医師からネットワークへ書面により連絡する。
(2) (1)の連絡があった場合において、ネットワークは、移植施設に対して、当該移植希望者(レシピエント)を「待機inactive制度」の対象とした旨の連絡を行う。
(3) また、移植希望者(レシピエント)が、医学的理由により移植を受けられない状態ではないと確認され、かつ、移植を希望した場合、各移植施設のネットワーク登録医師から、ネットワークへ書面により連絡する。
(4) (3)の連絡があった場合において、ネットワークは、移植施設に対して、当該移植希望者(レシピエント)を「待機inactive制度」の対象から外した旨の連絡を行う。
(5) なお、「待機inactive制度」を利用している期間も、移植希望者(レシピエント)の待機期間の算定の対象となる。
腎臓移植希望者(レシピエント)選択基準
1.前提条件
(1) ABO式血液型
ABO式血液型の一致(identical)及び適合(compatible)の待機者を候補者とする。
(2) リンパ球直接交差試験(全リンパ球又はTリンパ球)陰性
2.優先順位
(1) 搬送時間(阻血時間)