添付一覧
○臓器の移植に関する法律の施行について
(平成九年一〇月八日)
(発健医第二九六号)
(各都道府県知事、指定都市市長、中核市市長あて厚生事務次官通知)
臓器の移植に関する法律(平成九年法律第一〇四号。以下「法」という。)は、本年七月一六日に公布され、同年一〇月一六日から施行することとされたところであるが、その制定の趣旨及び主な内容は左記のとおりであるので、十分御了知の上、施行に遺憾なきを期されたく、併せて貴管下市町村、関係機関、関係団体等に対する周知につき配慮願いたく、命により通知する。
記
第一 法制定の趣旨
今回の法制定は、我が国における移植医療の適正な実施を図るため、臓器の移植について基本的理念が定められ、国や地方公共団体の責務が明らかにされるとともに、脳死した者の身体を含む死体からの移植術に使用されるための臓器の摘出の要件、臓器移植に関する記録の作成及び保存、臓器売買の禁止、臓器あっせん機関に対する規制等、必要な法的枠組みが定められたものであること。
第二 法の主な内容
一 総論的な事項
(一) 目的
この法律は、移植医療の適正な実施に資することを目的とすることとされたこと。(法第一条関係)
(二) 基本的理念
臓器の移植についての基本的理念として、臓器の提供に関する本人の意思は尊重されるべきこと、臓器の提供は任意にされたものでなければならないこと、臓器の移植は、臓器が人道的精神に基づいて提供されるものであることにかんがみ、移植術を必要とする者に対して適切に行われなければならないこと、移植術を受ける機会は公平に与えられるよう配慮されるべきこととされたこと。(法第二条第一項から第四項まで関係)
(三) 国及び地方公共団体の責務
国及び地方公共団体は、移植医療について国民の理解を深めるために必要な措置を講ずるよう努めなければならないこととされたこと。(法第三条関係)
(四) 医師の責務
医師は、臓器の移植を行うに当たっては、診療上必要な注意を払うとともに、移植術を受ける患者又はその家族に必要な説明を行い、その理解を得るよう努めなければならないこととされたこと。(法第四条関係)
(五) 臓器の範囲
この法律の対象となる臓器とは、人の心臓、肺、肝臓、腎臓その他厚生省令で定める内臓及び眼球をいうこととされたこと。(法第五条関係)
二 臓器の摘出に関する事項
(一) 死体からの臓器の摘出
ア 医師は、本人が臓器提供の意思を書面により表示している場合で、遺族が拒まないとき又は遺族がないときは、移植術に使用するため、死体(脳死した者の身体を含む。)から臓器を摘出することができることとされたこと。(法第六条第一項関係)
また、心停止後の死体からの角膜及び腎臓の摘出に関しては、当分の間、従来どおり、本人の生前の提供の意思が不明等の場合で、遺族が書面により承諾しているときは、脳死した者の身体以外の死体から眼球又は腎臓を摘出することができることとされたこと。(法附則第四条第一項関係)
イ アの「脳死した者の身体」とは、その身体から移植術に使用されるための臓器が摘出されることとなる者であって脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至ったと判定されたものの身体をいうと定義されたこと。(法第六条第二項関係)
ウ 臓器の摘出に係る脳死の判定は、本人が臓器提供の意思表示に併せて脳死判定に従う意思を書面により表示している場合であって、その旨の告知を受けたその者の家族が当該判定を拒まないとき又は家族がないときに限り、行うことができることとされたこと。(法第六条第三項関係)
エ 臓器の摘出に係る脳死の判定は、これを的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師(当該判定がなされた場合に当該脳死した者の身体から臓器を摘出し、又は当該臓器を使用した移植術を行うこととなる医師を除く。)の一般に認められた医学的知見に基づき厚生省令で定めるところにより行う判断の一致によって、行われることとされたこと。(法第六条第四項関係)
オ 臓器の摘出に係る脳死の判定を行った医師は、直ちに、当該判定が的確に行われたことを証する書面を作成しなければならないこととされたこと。また、臓器の摘出を行おうとする医師は、あらかじめ、この書面の交付を受けなければならないこととされたこと。(法第六条第五項及び第六項関係)
(二) 臓器の摘出の制限等
医師は、死体から移植術に使用されるための臓器を摘出しようとする場合において、当該死体について検視等の犯罪捜査に関する手続が行われるときは、当該手続が終了した後でなければ臓器を摘出してはならないこととされたこと。(法第七条関係)
また、関係行政機関は、捜査機関における検視その他の犯罪捜査に関する手続と臓器の摘出との調整を図り、犯罪捜査に関する活動に支障を生ずることなく臓器の移植が円滑に実施できるよう努めることとされたこと。(法附則第二条第三項関係)
(三) 臓器の摘出に当たっての礼意の保持
死体から移植術に使用されるための臓器を摘出するに当たっては、礼意を失わないよう特に注意しなければならない旨が規定されたこと。(法第八条関係)
(四) 使用されなかった部分の臓器の処理
移植術に使用されるために死体から摘出した臓器であって、移植術に使用されなかった部分の臓器は、厚生省令で定めるところにより処理しなければならないこととされたこと。(法第九条関係)
三 臓器移植に関する記録の作成・保存義務及びその閲覧に関する事項
(一) 臓器移植に関する記録の作成・保存義務
臓器の摘出に係る脳死の判定、臓器の摘出又は移植術を行った医師に対し、記録の作成を義務付けるとともに、当該医師の病院又は診療所の管理者(医師が病院又は診療所に勤務していない場合には医師本人)に対し、当該記録の五年間の保存を義務付けることとされたこと。(法第一〇条第一項及び第二項関係)
(二) 臓器移植に関する記録の閲覧
臓器を提供した遺族等は、個人の権利利益を不当に侵害しない範囲内で、臓器移植に関する記録を閲覧することができることとされたこと。(法第一〇条第三項関係)
四 臓器売買等の禁止に関する事項
臓器売買(臓器提供の対価として財産上の利益の供与を受けること又は財産上の利益を供与すること)、臓器の有償あっせん(臓器提供のあっせんの対価として財産上の利益の供与を受けること又は財産上の利益を供与すること)について、その約束、要求、申込みも含めて禁止することとされたこと。(法第一一条第一項から第四項まで関係)
また、臓器売買等に係る臓器であることを知って、臓器を摘出し、又は移植術に使用することを禁止することとされたこと。(法第一一条第五項関係)
ただし、臓器の移植やあっせんに通常必要な費用は、臓器売買等の対価には含まれないこととされたこと。(法第一一条第六項関係)
五 業として行う臓器のあっせんに関する事項
(一) 許可制
業として臓器のあっせんをしようとする者は、厚生大臣の許可を受けなければならないこととされたこと。(法第一二条第一項関係)
また、厚生大臣は、営利目的のおそれがある者又は移植術を受ける者の選択を公平・適正に行わないおそれがある者には、あっせんの許可をしてはならないこととされたこと。(法第一二条第二項関係)
(二) 秘密保持義務
業として行う臓器のあっせんの許可を受けた者(以下「臓器あっせん機関」という。)の役職員又はこれらの者であった者に対し、秘密保持義務を課することとされたこと。(法第一三条関係)
(三) 帳簿の備付け等
臓器あっせん機関は、業務に関する事項を記載した帳簿を作成し、これを最終の記載の日から五年間保存しなければならないこととされたこと。(法第一四条関係)
(四) 報告の徴収等
厚生大臣は、臓器あっせん機関に対し、報告の徴収、立入検査等を行うことができることとされたこと。(法第一五条第一項から第三項まで関係)
また、厚生大臣は、臓器あっせん機関に対し、その業務に関し必要な指示を行うことができることとされるとともに、臓器あっせん機関が指示に従わないときは、(一)の許可を取り消すことができることとされたこと。(法第一六条及び第一七条関係)
六 罰則
臓器売買等の禁止に違反した者(刑法(明治四〇年法律第四五号)第三条の例に従い、日本人が国外で臓器売買等を行った場合も処罰する。)、許可を受けないで業として行う臓器のあっせんをした者、脳死判定が的確に行われたことを証する書面に虚偽の記載をした者、臓器移植に関する記録の作成・保存義務に違反した者、秘密保持義務に違反した者等に対し、所要の罰則を設けることとされたこと。(法第二〇条から第二五条まで関係)
七 その他
(一) 施行期日
この法律は、公布の日から三月を経過した日(平成九年一〇月一六日)から施行することとされたこと。(法附則第一条関係)
(二) 検討
法の施行後三年を目途として、法の施行の状況を勘案し、その全般について検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるべきものとされたこと。(法附則第二条第一項関係)
(三) 意思表示カード(ドナーカード)の普及及び臓器移植ネットワークの整備
政府は、意思表示カード(ドナーカード)の普及及び臓器移植ネットワークの整備のための方策に関し検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとすることとされたこと。(法附則第二条第二項関係)
(四) 角膜及び腎臓の移植に関する法律の廃止
現行の角膜及び腎臓の移植に関する法律(昭和五四年法律第六三号)を廃止することとされたこと。(法附則第三条関係)
(五) 経過措置
ア この法律の施行前に廃止前の角膜及び腎臓の移植に関する法律(以下「旧法」という。)第三条第三項の規定による遺族の書面による承諾を受けている場合等の眼球又は腎臓の摘出については、なお従前の例によることとされたこと。(法附則第五条関係)
イ 旧法第三条の規定により摘出された眼球又は腎臓の取扱いについては、なお従前の例によることとされたこと。(法附則第六条関係)
ウ 旧法第三条の規定により摘出された眼球又は腎臓であって、移植術に使用されなかった部分の眼球又は腎臓のこの法律の施行後における処理については、法第九条(使用されなかった部分の臓器の処理)の規定を適用することとされたこと。(法附則第七条関係)
エ 旧法第三条の規定により摘出された眼球又は腎臓を使用した移植術がこの法律の施行後に行われた場合における移植術に関する記録の作成、保存及び閲覧については、法第一〇条(記録の作成、保存及び閲覧)の規定を適用することとされたこと。(法附則第八条関係)
オ この法律の施行の際現に旧法第八条の規定により業として行う眼球又は腎臓の提供のあっせんの許可を受けている者は、法第一二条第一項の規定により当該臓器について業として行う臓器のあっせんの許可を受けた者とみなすこととされたこと。(法附則第九条関係)
カ この法律の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例によることとされたこと。(法附則第一〇条関係)
(六) 脳死した者の身体への処置がされた場合の医療の給付
当分の間、健康保険法、国民健康保険法その他政令で定める法律の規定に基づく医療の給付に継続して行われる脳死した者の身体への処置については、当該各法に基づく医療の給付としてされたものとみなして、その給付の対象とすることとされたこと。(法附則第一一条第一項関係)