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対象の主なタイプ

保健指導の要点

1 むし歯はない。歯も清潔な方で、良い生活習慣が身についている者。

現状を維持するように指示する。

2 未処置歯のむし歯がない。歯は清潔な方であるが、生活習慣は乱れがちである。

今後、隣接面及び裂溝等の思わぬところからむし歯が発生するおそれがある。良い生活習慣(間食、生活のリズム)を身につけるように指導する。

3 むし歯はないが、歯の清掃が悪い者。

むし歯が発生するおそれが大であるが、歯に対する意識は低い可能性がある。これもふまえ歯口清掃に対する行動変容を図るように指導する。生活習慣が不良な場合も多いので、この点についても指導する必要がある。

4 未処置のむし歯もあり、歯の清掃も十分でなく、生活習慣も決して良くない者。

むし歯がまん延するおそれがある。歯の清掃を含め生活全般に亘つてよい習慣を身につけ、むし歯を早期に治療するよう指導する。

5 未処置のむし歯が多い。生活習慣にも問題がある。

小児歯科医による歯の治療を受けるとともに、生活全般に亘つてよい習慣を身につけるよう指導する。歯だけでなく種々の問題を抱えている場合も少なくないので、特にそれらの状況を配慮した指導が望まれる。

* 特に、第一乳臼歯と第二乳臼歯の隣接面が密接している者、第一大臼歯の萌出している者。

さらに、フロスの指導、第一大臼歯保護の指導を徹底させる。

注:幼児期後期ではむし歯がない場合でも、顎、顔面の発育状況(特に発育空隙の出現)には注意して観察するとよい。四~五歳児で発育空隙が全く認められない者では、保護者に永久歯列の不正咬合が出現する可能性のあることをそれとなく話しておくとよい。

〔参考〕

発育空隙:二~三歳以降の幼児の乳切歯にみられる歯と歯の間のすき間。乳歯より大きい永久歯が正しい位置に並ぶために顎が発育し、乳歯の間にはすき間がみられる。

(2) 歯科保健指導を行う場合の留意事項

ア 一歳六か月児歯科健康診査要領及び三歳児歯科保健指導要領で示されている乳歯のむし歯罹患型及び保健指導の内容等を参考にして行うとよい(表5、6)。

イ 歯科保健指導は、〝押し付け〟ではなく対象(幼児及びその保護者)に〝やる気〟をおこさせ、習慣化させるよう指導することが必要である。

ウ 幼児ではすでに定着して毎日実施しているよい習慣に、新しい習慣を付加するとよい。例えば、幼児初期には飲食後必ず歯の清掃。幼児期後期には入浴とフロッシング。というように組合わせて、一つの行事として毎日手抜きせず実施させ、習慣化させるようにするとよい。

エ 歯口清掃と食生活を含む生活習慣の指導は、歯科保健指導の基本である。一~三歳児の場合はむし歯がなくても甘味飲食物の摂取と歯の清掃には特に留意し、必要に応じてフッ化物溶液の局所塗布を勧める指導を行う。また、一歳六か月児及び三歳児の歯科健康診査以外にも、歯の健康診査を定期的に受けるよう指導する。

オ 四~五歳の幼児では乳臼歯隣接面にむし歯が発生することに注意し、可能なかぎりデンタルフロスを併用して、歯を清潔にするよう指導する。また、就学前に第一大臼歯が萌出あるいは萌出途上にある幼児ではむし歯発生のリスクが高いので、清掃に十分注意し、必要に応じてむし歯の予防処置やフッ化物溶液の洗口等を実施するよう指導する。

カ 指導の成果を確認するために、適当な期間を置いて後日再来するように約束するとよい。約束の期日までに幼児及び保護者が目標を達成する励みにもなることである。

(4) 歯科保健指導の評価

歯科保健指導の実施者の意思通りに対象が実践しているか否か、また、目標が達成されているか否かを評価することは大切である。このためには、指導後、対象を再来させることが必要である。その結果、目標が高すぎて対象が目標を達成し得なかつたような場合は、目標を下げて一歩一歩指導の成果を確かめながら、満足すべき状態に近付けてゆくこともできる。

歯口清掃状態は歯科保健指導の成果を客観的に評価しやすい。前回よりよい結果が得られている場合は、幼児やその保護者をほめることによつて励ましとなり〝やる気〟をおこ

表5 乳歯のむし歯罹患型判定区分及び乳歯のむし歯罹患型に応じた指導事項一覧(1歳6か月児歯科健康診査要領)

表5―1 乳歯のむし歯罹患型判定区分

乳歯う蝕罹患型

判定区分

O型

O1型

う蝕がない

う蝕がなく、かつ口腔環境もよいと認められるもの。つまり、歯の汚れの程度が“きれい”“ふつう”(プラーク・スコアをとつた場合は、その値が8以下)で、甘味嗜好の傾向も強くなく間食習慣も良好なもの(質問事項の解答が“a”に集中するもの。)。

O2型

う蝕はないが、口腔環境が良好でなく、近い将来においてう蝕罹患の不安のあるもの。

A型

上顎前歯部のみ、または、臼歯部のみにう蝕のあるもの。

B型

臼歯部および上顎前歯部にう蝕のあるもの。

C型

臼歯部および上下顎前歯部すべてにう蝕のあるもの(臼歯に生歯があるなしにかかわらず下顎前歯部にう蝕を認める場合はこれに含める。)。

表5―2 乳歯のむし歯罹患に応じた指導事項一覧

罹患型

予後の推測

指導事項

O1型

う蝕感受性は低いものと思われる。

(1) 現在の状態を続けるように努力させる。

(2) 一般的な指導事項を指導する。

(3) 予後処置(フッ化物溶液塗布)をすすめる。

O2型

う蝕発生の可能性が強いと思われる。

(1) 一般的な指導事項を徹底する。特に歯の清掃と間食、飲物に対して十分に注意、指導する。

(2) 6か月後に再検査の必要性があることを指導する。

(3) 予防処置フッ化物溶液塗布をすすめる。

A型

う蝕感受性は高い。

(1) う蝕進行阻止の処置(フッ化ジアンミン銀溶液塗布)を指示する。

(2) 哺乳びんの使用が多ければ、それに対して注意する。

(3) その他、O2型に準じて指導する。

B型

う蝕感受性は高い。広範性う蝕になる可能性もある。

(1) A型に準じて指導する。

(2) 定期検査を確実に受けるように指導する

C型

う蝕感受性は著しく高い。広範性う蝕になる可能性が強い。

(1) B型に準じて指導する。

(2) 可能な限りう蝕の治療をすすめる。

(3) 小児科医の診察も受けるようにすすめる

表6 乳歯のむし歯罹患型と保健指導(3歳児歯科保健指導要領)

乳歯う歯の罹患型

現症および予後の推測

指導事項

Ⅰ むし歯のない者

 

(1) 口腔清掃に注意する。3歳では自分で完全な口腔清掃が行なえないから保護者が綿花ガーゼなどを指先にまいて、歯の清掃を行なつてやる。この際、特に隣接面や歯頚部をよく清掃する。これを1日2~3回食後に行なえば理想的であるが、最低1日1回は励行させる。

また、歯ブラシ使用の習慣をつくるよう指導する。

(2) 1年に3~4回歯科医師を訪れて検診を受け、その際むし歯の予防薬の歯面塗布をして貰う。

(3) 食間に糖分や粘着性のでん粉をとることを極力やめさせて、果実類や牛乳などに代えて行く。

(1) 一般的事項参照

Ⅱ むし歯のある者 A型

上顎前歯のみまたは臼歯のみにむし歯がある。

う蝕り患型からみると比較的程度の軽いものである。

(1) 現在あるむし歯の治療をうけるよう指示する。

(2) むし歯が上顎前歯部に強く限定してあらわれている場合は、吸指癖や人工栄養に関連がある場合が考えられるので、その点に注意して観察し、その矯正について指導することによりう蝕の拡大を防ぐ。

(3) その他はむし歯のない者にあげた指導事項に準じて指導する。

B型

臼歯および上顎前歯にむし歯がある。

上下、左右の四つの部分の臼歯にう蝕がある場合は、う蝕の感受性はかなり高く、将来C型に移行する可能性が強い。

(1) A型の指導要領に準じて指導する。

(2) う蝕感受性が高いと思われる者については定期検診を確実にうけるように指導する。

また、甘味食品を減らすように指導し、歯口清掃には特に注意するよう指導する。

C型

臼歯および前歯のすべてに虫歯がある。

う蝕の感受性は極めて高く、う蝕の進行は急速である。

将来、第一大臼歯の近心転位や、近心傾斜犬歯の唇側転位、小臼歯の舌側転位などが起ることもある。

(1) 直ちに歯科医師を訪れ、治療を受け、また、定期検診を確実に受けるように勧める。

(2) この型の者は、全身的な原因のあることが想像され、また逆に重症う蝕のために全身的な機能低下を来していることがあるので、是非とも小児科医の診察を受けるよう勧める。

(3) その他はB型に準じて指導する。

すことに繋がつてゆく。

う蝕活動性試験の結果も同様に評価を行うことができるが、この場合はその場で結果が得られないこともある。食生活や口腔周辺の不良習慣の改善等については、問診並びに面接によつて評価する。

3) 集団を対象とした歯科保健指導

保育所及び幼稚園等の施設で幼児またはその保護者に対して保健教育の一環として、集団を対象とした歯科保健指導を実施する場合が多い。

(1) 対象集団の把握

集団指導においても個別的な指導の場合と同様に、指導内容及び目標の設定に当たつて事前に対象集団の特徴を理解し、集団としての問題点を把握しておかなければならない。施設の職員及び集団のリーダーから次のような情報を収集し、また必要に応じて調査等を行い、内容及び目標の検討はできるだけ一緒に行うようにする。特に初めての施設での指導は、打ち合わせを兼ねて実際に施設を訪問し、幼児の様子や会場を下見しておくとよい。

(1) 幼稚園・保育所・障害児施設の幼児とその保護者並びに職員

ア 施設の特徴

・どのような幼稚園、保育所か

・どのような障害をもつた児のための施設か

イ 幼児の施設での生活及び家庭での生活のパターン

ウ 家庭の業態、家族形態

エ むし歯有病状況、処置状況

オ 歯科保健行動

・施設での歯みがき等の実施状況

・家庭での歯科保健行動についての情報

カ これまでに歯科保健指導を受けた経験の有無及び内容

(2) その他の集団

ア 集団の特性

・どのような目的で集まつている集団か

・性、年齢及び職業構成

イ 集団に共通する興味並びに悩み

ウ これまでの活動状況

(2) 問題点の把握

集団を対象とした指導で個別的な指導と異なる点は、集団全体としてどのような問題点を抱えているかである。

一○○人の集団の中で二~三人の者はかなり高度な歯科疾患であるが、残りの幼児にはほとんど問題がない場合とその逆の場合では、指導の内容及び方法がかなり異なつてくる。従つて、施設等との事前の打合わせでこの点をよく把握する必要がある。

問題点を把握するうえで参考となる情報としては、次のような事項がある。

(1) むし歯罹患状況

毎年歯科検診を行つており、むし歯の有病状況、未処置のむし歯がある者の割合と処置状況及び高度のむし歯が有る者の割合等の数値が整理されている場合には、これらの数値を参考にするとよい。これらの歯科保健情報は整つていない場合が多いが、施設の関係者に保育所及び幼稚園の滞在時間中に歯の痛みを訴える幼児の数や歯科医院へ通院して休む者の数等を聞き取ると、推測することができる。

(2) 歯科保健行動

歯みがき状況やおやつの摂取等について調査が行われている場合は、利用するとよい。

(3) 保護者の歯科保健に対する関心の程度

保護者及び幼児の歯科保健に対する意欲や問題の規模(内容、問題の大きさ等)を知る必要がある。この集団指導の企画が保護者の側から企画されたものか、また、施設側から提案されたものかによつても推測することができる。

(4) その他

地域の歯科医療機関の状況及び社会環境も、問題点を把握するうえでは参考となる。

(3) 指導目標の設定

集団の歯科保健指導では、単に講話、映画及びスライドを見せて知識を与えるだけでなく、集団を構成する個々の人々(個々の幼児とその家族)が少しでも歯科保健の向上に努めるようにするために行うものである。従つて、集団構成員のほとんどの人々が達成できる目標を設定するとよい。

問題の内容によつて目標は異なるが、初めはあまり高すぎない目標を考えてすべての幼児が実践できるようにするとよい。目標の設定は幼児にとつて、特に励みになるものである。

(4) 歯科保健指導の方法と媒体

集団指導においては、伝達技法の巧拙が指導の成果に大きな影響を与える。指導に当たつては、時間、設備、マンパワー等の諸条件を考慮しながら、目的や対象集団の性質にあわせて適切な方法と媒体を選択する。また、ときには実際にリハーサルを行つてみることも大切である。

(1) 講話、講義

集団に対してもつともよく用いられる方法であるが、話法技術や構成力等の話し手の力量が成果に直接的に現れるので、準備は入念に行わなければならない。特に一方的な指導になつてしまわないよう、対象者の関心を集中させるための配慮が必要である。

このためには、目的やねらいをできるかぎり絞ることである。たくさんの内容を盛り込むと印象が稀薄となり、かえつて成果を損なう。とりわけ幼児は集中できる時間が短いので、時には重点を思い切つて絞り込む必要がある。

(2) 示説、実示、実習

対象者自身の体験及び観察を通して指導内容への理解と興味を深めようとする場合と、歯みがき指導のように技法の習得を主な目的とする場合とがある。

前者では、

・鏡による口腔内の自己観察

・手作りおやつの試食

・濃度別砂糖水の試飲等、

目的にあわせてさまざまに創意工夫を発揮できる。

一方、歯みがき指導等では示説だけでは十分な技法の習得を期待することは難しい。歯垢の染め出しができない場合でも、示説に加えて手鏡と歯ブラシによる簡単な実習を行うとよい。

なお、幼稚園及び保育所で実習を行うときには、全体の流れや時間の配慮、必要な器材や自宅から用意させる物の手配等、計画段階での十分な準備が必要である。

(3) 映画、ビデオ、スライドの映写会

幼児のむし歯予防を主題として、幼児向け、保護者向けにたくさんの映画、ビデオテープ等が市販されている。日頃から新しい作品には目を通し、入手したものについては一覧表を作成しておき、相互に利用できる体制を整えておくとよい。

本来、映画、ビデオ及びスライドは媒体そのものであり、映写会であつても指導の目的に沿つて補助的に利用すべきものである。前後に解説を加え、いわゆる「見せつ放し」にならないように留意する。

(4) 寸劇、人形劇、紙芝居等

幼稚園や保育所等でよく用いられるが、これらの方法も映画等と同様に媒体そのものであり、前後には解説等が必要である。また、幼児に劇を演じさせる、あるいは脚本作りを施設の職員とともに進める方法もある。この場合はむしろその過程自体に指導の意義が大きく見出せる。

(5) 討議

幼児でも保護者でも、場に積極的に参加させるようにした方が指導の効果は得られやすい。例えば映画を見せた後に感想を語りあわせる、あるいは途中で紙芝居を止めて今後の展開を予想しあうことなどから、集団全体の共感へ討議を発展させていく。このとき指導に当たる者の主な役割は、なるべく多数の人が発言できるよう配慮し、討議のための問題点を整理することである。

討議は育児についての母親の勉強会等の自主的なグループに対して実施する場合に効果的である。この場合、組織自体の活動性や自主性をできるだけ尊重し、目標の設定や内容の検討等企画の段階から参加を求めると、それらの過程を通して組織の活動に拡がりや高まりが生まれるようになる。

(6) 展示

歯の衛生週間や健康祭り等の際にパネルや模型などを展示する機会がある。この場合も、展示物を媒体として積極的に説明、紹介に努めることが大切であり、個別的な指導へ発展することもできる。展示物は視覚的に訴える見やすいものが良い。また、簡単な示説や実習のコーナーを設けると効果的である。

(7) 広報宣伝活動等

広報宣伝活動は、一種の集団的な保健指導である。パンフレット・リーフレットの配布、広報・保健だより等の利用、有線放送の利用等がこれにあたる。いずれも、一方交通的なコミュニケーションの手段であるが、パンフレット等の利用のみに終ることなく、一連の計画の一部として利用するとよい。

例えば、保育所に通う幼児の保護者に対してむし歯予防の啓発を図ろうとする場合、保護者の関心が十分に喚起されていないと、家事や休息の時間を割いて集まつてもらうような協力は期待できない。このような場合には、「保育だより」等を通じて健康診査の成績や歯科保健の情報を提供し、保護者の関心を喚起しておくように日ごろからの積み重ねを行つておくことが望ましい。

(8) 見学

昼食後の歯みがきの実施状況、他クラスの指導の様子などはVTRやスライドで説明するよりも、実際に見学する方が理解されやすい。この場合には、ただ見に行くだけではなく、前後の説明や話し合いが大切である。

(5) 歯科保健指導の留意事項

(1) 動機づけ

集団を対象とした歯科保健指導は、一般に対象者の関心の程度がまちまちであり、ほとんど無関心ということも少なくない。その場合、まず歯科保健に注目してもらうことが大切である。動機づけの力点は歯についての関心を高め、歯科保健の重要性に対する認識を高めていくことにおかれる。

動機づけには否定的に働きかける方法と肯定的に働きかける方法がある。歯性病巣感染の例をあげて、むし歯と全身疾患との関わりを強調しながら関心を高めようとする方法は前者にあたる。しかし、稀にしか起こらない例を基に「むし歯はこわい病気」とするよりも、むしろ生涯を健全な歯で過ごすことの喜びや利点を強調する方が積極的な効果が期待できよう。むし歯予防を生涯にわたる健康づくりの第一歩として位置づけ、「健康づくりは子どものむし歯予防から」と語りかける方が現代の健康観にも即している。特に幼児に対して、稀にしか見られないような症例のスライドを見せて、歯科治療への恐れを喚起するような方法は慎むべきである。

歯垢染め出しの実習により、普段気がつかなかつた自分の歯の汚れに気付くというような率直な驚きが動機づけのきつかけとなる。また、問いかけやクイズを通して自分で考えさせる時間をもち、さらに個人の直感を全体の直感に発展させていくようにすると効果的である。

(2) 対象の選択

大きい集団を対象にして一度に実施するよりも、やや小さい集団にわけて何回か実施する方が効果が大きい。小集団(四○~五○人程度)の場合には、相手の理解の様子を察知することもできるし、討議、質問も受け答えしやすく、相互のコミュニケーションが緊密になる。

幼児では年齢によつて理解力に差がでてくる。四歳児及び五歳児を収容している保育所のような場合には、四歳児には四歳児に、五歳児には五歳児に見合つた内容、媒体並びに話し方で実施することが適切である。

(3) 言葉使いと内容

集団を対象として講演等を行う場合には、可能なかぎり一般の人々が使つている言葉を使うのが望ましい。例えば〝むし歯〟〝歯ならびの異常〟等である。歯垢、プラークのように少数の人は知つているが、知らない人もいるような言葉については簡単な解説を加えながら話を進めて行くことが望ましい。そのためには、集団を対象として歯科保健指導に当たる人は正しい歯科保健の知識をもち、それを短時間のうちにいかに多くの人に理解してもらうことができるかという能力が必要である。

指導内容は多岐にわたらない方がよい。できるだけ内容を限定し目的を絞る方がよい。例えば、幼児のむし歯の予防を主題としても、歯口清掃に力点をおくのか、おやつの事に力点をおくのかを考えて実施する方がよい。指導の内容を絞りこむと目標の設定も容易になる。

(6) 歯科保健指導の評価

保健指導の評価とは、ねらいとした生活行動や態度の変化が達成されたかどうかを確かめ(効果測定)、設定した目標や方法の適否を含めて企画や実施面についての検討を行い、次の指導に役立たせること(フィードバック)である。適切な評価を行うためには指導前の状況の把握はもちろんのこと、効果測定やフィードバックの方法についても事前に決定しておくことが必要である。目標設定の段階からすべてを計画的に行わなければならない。

(1) 評価の視点

保健指導の成果には、短期間で確認できるものと比較的長期間を要するものがある。一般に保健指導の評価では、次の視点で目標の達成度を把握する。

・本当に伝達できたかどうか……何がわかつて、何がわからなかつたのか。

・行動が変容したかどうか………実際に行つてみたか、うまくできたか。

・変容が定着したかどうか………生活習慣となり、歯科保健状態が向上したか。

例えば、歯口清掃指導の場合を例にとると次のようになる。

・どこがみがけていないのかがわかり、そこを確実にみがける歯ブラシのあて方を覚えたか。

・家でそのようにみがいてみたか。指導の時にわたした染め出し剤は使つてみたか。きちんとみがけていたか。

・毎日忘れずにそのようなみがき方ができているか。実際にその部位が清潔に保たれているか。

集団を対象とした歯科保健指導を実施した後で再び集まる機会をもつことは困難な場合が多いが、可能な限り対象者の一部にでも参加を求め、事後の評価の場を設定することが望ましい。施設の関係者の協力のもとに質問紙等による回答を求めるのもひとつの方法である。

(2) 方法と指標の選択

効果測定の方法には問診、観察、質問紙などにより態度や行動そのものを把握する場合と、態度や行動の現れとしての口腔内の状況を歯垢の付着状態やむし歯有病状況を指標として把握する場合がある。具体的な方法や指標の選択に当たつては、次のことに留意する必要がある。

ア できるだけ客観的なものであること

歯垢の付着状態の評価では「あり、なし」とするよりも、明確な判定基準をもつ指標(指数)を用いる方が客観性が高まる。

イ 目標の達成度を敏感に反映すること

幼稚園や保育所での保健指導の成果をむし歯有病状況から把握しようとするとき、むし歯所有者率等にはなかなか変化が現れない。C3以上の重度なむし歯所有者の率や乳臼歯の処置歯率等に注目すると、比較的早期に成果を確認することができる。

ウ 容易なものであること

できれば対象者も測定可能であることが望ましい。部位を限定した歯口清掃指導等では、保護者にチェック方法を覚えてもらうことにより家庭での評価も行える。

これらの効果を測定する場合は指導を行つた後だけでなく、指導を行う前に、同様な調査を行つておくと、その効果が明瞭になる。また理解した者と理解しなかつた者の判別も容易である。

幼児期における歯科保健指導

1 幼児期の歯科保健指導は、幼児期のみならず、成人した後の歯の健康にも影響も及ぼすこととなり、非常に意義が深い。

2 個人を対象とした場合の指導は、対象者の問題点を把握するとともに、個人の特性に応じた指導目標を選定して行うことが望ましい。

3 集団を対象とした場合には、指導の効果を高めるため、対象となる集団の特性及び実施場所等を考慮にいれ、その集団に適した指導を行うのが望ましい。

4 保健指導を行つた後は、指導の効果について事後評価を行うのが望ましい。

図1~12・参考資料1~5 略