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○弗化物歯面局所塗布実施要領について

(昭和四一年五月二日)

(医発第五三七号)

(各都道府県知事・各政令市市長あて厚生省医務局長通達)

う歯の予防手段として、弗化物の歯面局所塗布法が有効とされ、昭和二四年九月六日衛発第九一四号厚生省公衆衛生局長、文部省初等中等教育局長名をもつて「弗化ソーダ局所塗布実施要領」を通知したところであるが、この度その内容を全面的に改正し「弗化物歯面局所塗布実施要領」として別紙の通り定めたので、保健所、歯科診療所等において歯科医師又はその指導のもとに歯科衛生士が本方法を実施する場合には、この要領により行なうよう指導されたい。

なお、前記「弗化ソーダ局所塗布実施要領」の廃止については文部省とも協議ずみであるのでご承知願いたい。

別紙

弗化物歯面局所塗布実施要領

一 塗布対象の選択

弗化物の歯面局所塗布は、萌出直後の歯に対して行なうと、最も大きな蝕予防効果が期待できるといわれている。したがつて局所塗布を実施する際には、次の年齢児を対象として行なうことが望まれる。

(一) 一歳児

一歳児のほとんどは、乳前歯群の萌出を完了しているから、この時期の幼児の歯面に弗化物を適切に塗布することにより、三歳児に多くみられる上顎前歯部のう蝕発生は、かなり抑制できるものと考えられる。

(二) 二歳児

二歳児を塗布対象としてとりあげる理由は、この年齢児の多くが、第一乳臼歯までの萌出を終つており、、さらに、第二乳臼歯の萌出が始まつていることも少なくないからである。それに加えて、う蝕罹患の頻度もこの時期から急激に高まるという事実もみられるからである。

(三) 三歳児

三歳児に対しては、「母子保健法」に基づいて歯科検診が行なわれている。したがつて、この検診と平行して局所塗布を行なうことは、乳歯列完成後の塗布時期をとらえてねらい打ちするということからも、まことに有意義なことである。

(四) 六歳児

永久歯う蝕の抑制対策は、まず第一大臼歯を中心として行なうことが必要であり、その萌出期に相当する六歳児に局所塗布を行なうことは効果的であると考えられる。

(五) 七歳児

この年齢期の小児にみられる永久歯う蝕の急激な増加は、主としてこの頃に第一大臼歯がう蝕に侵されやすいという理由によるものと考えられるから六歳児に引続き七歳児に対しても、第一大臼歯を目標として塗布を行なうことは大切である。また第一大臼歯のほかに、新たに萌出した永久前歯群をも塗布対象として、考慮に入れることも必要である。

(六) 一二歳児

この時期に萌出する第二大臼歯を主な対象として、局所塗布を行なうことは効果的であると考えられる。

二 塗布の方法

弗化物の局所塗布法には、一般に行なわれている歯面塗布法(一般的方法)とトレー法とがある。

(一) 一般的方法

この方法は、およそ次のような順序で行なう。

ア 歯面清掃

イ 防湿・乾燥

ウ 薬液の塗布

ア 歯面清掃

歯面清掃の目的は、歯面に弗化物を直接作用させるために歯石や歯垢をとり除くことにある。

その方法は、必要のある時は塗布面の歯石を除去し、ポリッシングブラシまたはポリッシングカップに研磨剤をつけて、歯面を十分に清掃し、歯苔(垢)を除くようにする。この際の使用器材としては、別表(一)に示すものを用いる。なお、この方法を行なえない場合には、脱脂綿で十分に清拭する程度でもやむをえない。

(注意事項)

一 歯面清掃前にも歯ブラシ等によつて口腔内を十分に清掃させておく。

二 歯面清掃は塗布の都度、常に細部に注意して行なう。清掃の状態を点検するには、染め出し法を用いる(参考資料一を参照のこと)。

三 歯面清掃を実施する場合は、永久歯では隣接面、咬合面、乳歯では歯冠全体上顎歯頚部等、う蝕の好発部位に特に注意して行なうようにする。なお、隣接面を清掃する場合には、できれば絹糸等を使用する。しかし、塗ろう絹糸は「ろう」が歯面に付着するおそれがあるのでさけた方がよい。

四 歯面に残留した研磨剤は、十分に除去する必要がある。その理由は、炭酸カルシウム等を基剤とする研磨剤の残留は、塗布薬の効果を減少させるおそれがあると考えられるからである。

五 研磨剤としては、浮石末等のような歯面に「きず」をつけるおそれのあるものは好ましくない。

イ 防湿・乾燥

防湿・乾燥を行なうことの目的は、唾液によつて薬液がうすめられたり、他の歯や口腔の部分に薬液が流出することを防ぐことにある。したがつて、厳密な乾燥を行なう必要はない。

その方法としては、普通には簡易防湿法を用いる。すなわち、塗布する歯を中心として右側または左側の片顎または両顎を巻綿花で孤立させ、綿球で唾液をぬぐつた後、圧縮空気で歯面を乾燥する。その際の使用器材は別表(一)に示すものを用いる。

(注意事項)

一 乾燥に際して、特にアルコール等を用いる必要はない。

二 開口が困難な乳幼児の場合等には、バイトブロックを用いることも便利であろう。

三 適当な簡易防湿器が排唾器を使用すると便利である。

ウ 薬液の塗布

塗布のねらいは、歯面をなるべく長く弗化物溶液に浸潤させることにある。このため歯面を三分間以上何回も薬液を十分浸した小綿球等でぬりつける。この際小窩裂溝や隣接面には特に注意する。

塗布直後約三○分間は、洗口させないで、つばをはかせる程度にとどめるようにする。

なお、使用器材としては別表(一)に示すものを用いる。

(注意事項)

一 薬液の調製法は参考資料二を参照されたい。

二 弗化錫溶液や酸性弗素燐酸溶液のように酸性の強い薬液の場合には、ガラス器具の使用をさける。また、ピンセットはプラスチツク被覆のもの、またはテフロン製のものを使用することが望ましいが、普通のものを使用しても差支えない。

三 弗化第一錫溶液の塗布に際しては、特有の酸味・鉱味があるから、歯以外の部位にはなるべく付着させないように注意する。

また、塗布後数日経過した歯の小窩裂溝等に黒褐色の着色を認めることがあるが、これを初期う蝕と混同しないように特に注意を払うことが必要である。

(二) トレー法

この方法は次に示す順序に従つて行なう。その際の使用器材としては別表(一)に示すものを用いる。

ア 歯面清掃

歯面清掃は一般的方法に準じて行なう。

イ トレーの選択及び適合

歯(列)弓に適合するトレーを選び、このトレーの大きさに合つたゴム袋、塗布紙をセットする。

ウ 薬液の浸潤

塗布紙にスポイトで塗布薬を浸みこませる。

エ トレーの装着

トレーを口腔内に挿入し、軽く歯列に圧接して約四分間かませる。

オ トレーの除去

約四分間後トレーをはずし、塗布紙を除去して、塗布操作を終わる。

(注意事項)

一 トレーにゴム袋をセットする際、トレーの上に二、三滴水を落すとよく密着する。

二 塗布薬を浸潤させる際、薬液が多すぎるとトレーをかませた時、薬液が口腔内に流れ出ることがあるから注意を要する。

三 塗布に際し、歯面を乾燥させる必要はない。

四 はじめてこの方法を行なう場合は、実施前に塗布液のかわりに水を使用して練習しておくとよい。

(三) 関連事項

ア 塗布回数

二%弗化ナトリウム水溶液を用いる場合は、その歯に対して二週間に三~四回塗布することが望ましい。

また弗化第一錫溶液もしくは酸性弗素燐酸溶液を用いる場合は、一回塗布で差支えない。

イ 記録

塗布の記録は、保健指導および事後の処置のために必要である。したがつて、実施の期日、部位、薬液の種類、塗布の方法、う蝕罹患の有無、およびこれらに伴う注意事項等を記録することが要求される。その様式としては、別表(二)を参考に作成し、あわせて母子健康手帳に記入するようにしたらよい。

三 実施の際の保健指導

(一) 歯口清掃

弗化物の局所塗布に際して、これに関連した口腔環境の保健指導もあわせて積極的に指導を行なうことが必要である。特に、日常の歯口清掃について十分に指導を行なうべきである。

(二) 食習慣

一般的な保健指導の事項の中では、酸産生性食品、砂糖菓子のような粘着性甘味食品等の摂取制限を含めた食習慣指導について、十分注意をすることが必要である。

(三) 塗布の効果および作用機序

弗化物局所塗布の効果と作用機序等に関する概略について知識を、塗布対象の保護者等に適切に与えることが必要である。これがうまくゆくと、さらに続けて塗布してもらおうとする意欲を高めることが期待できるのである。

(四) 定期診査

う蝕の早期発見、早期治療のためにも、また局所塗布の時期の決定のためにも、定期診査を実施することが望ましい。したがつて、保護者に対してこのことを十分なつとくさせるように努めることが必要である。

別表(1)

弗化物の局所塗布に必要な器材

ミラー

ピンセツト

探針

歯石除去器

電気エンジン

エンジン用研磨器械(ポリツシングブラシ、ポリツシングカツプ、ロビンソンブラシ、ラバーカツプ等)

絹糸

研磨剤(炭酸カルシウム、アルミナ等)

線球

巻綿花

コンプレツサー(または気銃)

排唾器

簡易防湿器

フロリデーターセツト(米国イオン社製、サンスター歯磨株式会社発売)

薬液

時計(砂時計等)

消毒器

汚物缶

その他

別表(2) 略