添付一覧
○病理解剖指針について
(昭和六三年一一月一八日)
(健政発第六九三号)
(各都道府県知事あて厚生省健康政策局長通知)
死体解剖については、死体解剖保存法(昭和二四年法律第二○四号)、同法施行令(昭和二八年政令第三八一号)及び同法施行規則(昭和二四年厚生省令第三七号)に規定されているところであるが、今般、医道審議会死体解剖資格審査部会において、病理解剖の業務の円滑な実施を図るため、別添のとおり「病理解剖指針」か取りまとめられたので、貴管内の周知徹底方よろしくお取り計らい願いたい。
〔別添〕
病理解剖指針
(昭和六三年一一月七日)
(医道審議会死体解剖資格審査部会申し合せ)
1 はじめに
病理解剖は、病死した患者の死因又は病因及び病態を究明するための最終的な検討手段としてその重要性は高く、また、医学研究の進歩と公衆衛生の向上の観点からも不可欠の行為であり、法律上病理解剖は、その目的の正当性、手段・方法の妥当性により刑法第一九○条の死体損壊罪の適用を免れるものである。
しかし、不適切な方法で解剖及び標本の作成を行えば刑事責任を問われることもありうること及び国民の死体に対する尊崇の念が存在することにも鑑み、病理解剖の実施に当たっては、特に礼意を失しないよう十分な配慮が必要である。
現在、死体解剖は、死体解剖保存法においては厚生大臣の認定を受けた者、医学に関する大学の解剖学、病理学又は法医学の教授又は助教授やあらかじめ解剖をしようとする地の保健所長の許可を受けた者が行えることとしており、病理解剖についても、これらの者が病理解剖医として、死体解剖保存法等関連法規に従って病理解剖を行うこととなっている。
しかし、実際の病理解剖に当たっては、病理解剖医の自覚と責任に委ねられている部分が少なくない。そこで、この病理解剖指針では、具体的な病理解剖医の責務を指針として明らかにすることにより解剖現場で疑義が生じないようにするとともに、病理解剖の一層の適正化を目指すことを目的とするものである。
2 病理解剖医の責務
(1) 病理解剖医は、病理解剖を行うこと及び標本の採取を行うことにつき遺族の同意があることを確認した後でなければ、解剖に着手してはならないこと。ただし、死亡確認後三○日を経過しても、なお引取り手のない死体を解剖する場合又は、二人以上の医師(うち一人は歯科医師であってもよい。)が診療中であった患者が死亡した場合において、主治の医師を含む二人以上の診療中の医師又は歯科医師がその死因を明らかにするため特にその解剖の必要を認め、且つ、その遺族の所在が不明であり、又は遺族が遠隔の地に居住する等の事由により遺族の諾否の判明するのを待っていてはその解剖の目的がほとんど達せられないことが明らかな死体を解剖する場合等法定除外理由を満たしている場合はこの限りでない。
(2) 病理解剖医は一般に禁止されている死体の解剖を特に許されたものであることを認識し、遺族を初め、国民の宗教感情に十分留意し、主治医等から死体の受け渡しを受けてから、遺族に死体を引き渡すまでの間、解剖補助者、見学者等を指揮・監督し死体が十分な礼意を以って取り扱われるよう努めなければならないこと。
(3) 病理解剖医は、病理解剖を行う際には、自分自身並びに解剖補助者等への伝染性疾患の感染及び環境汚染等がおきないように十分留意しなくてはならないこと。
(4) 病理解剖医は自ら死体の切開及び臓器の摘出を行わなければならないこと。
なお、臨床検査技師、看護婦等医学的知識及び技能を有する者(以下「臨床検査技師等」という。)が開頭等に際し、その一部の行為につき解剖補助者として解剖の補助を行う場合には、病理解剖医は、死因又は病因及び病態を究明するという病理解剖の目的が十分達せられるよう、これらの者に適切な指導監督を行わなければならないこと。
また、血液等の採取、摘出した臓器からの肉眼標本の作成や縫合等の医学的行為については、臨床検査技師等以外を解剖にかかわらせることのないよう十分注意をしなければならないこと。
(5) 病理解剖医は、解剖が終了した場合には清拭等外観の回復が適切に行われるよう努めなければならないこと。解剖補助者又はその他の者に清拭等を行わせる場合には、それが適切に行われるよう指導監督しなくてはならないこと。
(6) 病理解剖医は、標本として保存するものを除き、可能なかぎり、死体の復元に努め、死体の外観の回復等を図り、遺族等の感情に十分留意しなければならないこと。
(7) 病理解剖医は、死体解剖保存法第一八条の規定により、死体の一部を標本として保存する場合には、標本が適切に保管されるように配慮しなければならないと共に、遺族から引き渡しの要求があったときは、遅滞なく遺族に引き渡さなければならないこと。
ただし、その標本が死体の僅少の部分に止まる場合には、刑法の規定をも考慮し、一般社会通念に反せず、且つ、公衆衛生上遺憾のないように適宜処置して差し支えないこと。
3 病院長等の責務
病院長、医学に関する大学の長、医学部長又は歯学部長(以下「病院長等」という。)は、解剖が適切に行われるよう解剖設備やスタッフの配置に十分留意するとともに、解剖用の死体が主治医から病理解剖医に適切に引き渡されるよう、又、解剖後の死体が病理解剖医から適切に主治医・遺族に引き渡されるよう病理解剖医等を指導監督しなくてはならないこと。
また、死体の全体又は一部を標本として保存する場合には、標本が適切に保管されるように配慮しなければならないと共に、その標本が医学の教育又は研究の用に供されなくなったとき又は、遺族から引き渡しの要求があったときは、遅滞なく遺族に引き渡さなければならないこと。ただし、遺族の承諾があったときは、病院長等は、その標本を礼意を失しないよう焼却等適切に処分することができること。
なお、標本を標本としての目的以外に使用しようとするときは、改めて遺族の同意を得なければならないこと。