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○死体解剖保存法の施行に関する件
(昭和二四年六月一五日)
(医発第五一九号)
(各都道府県知事あて厚生省医務局長通達)
去る第五回国会において標記の法律が可決され、六月一〇日公布された。本法はその一部を除き、公布後六箇月を経て施行されることになっているが、本法は死体の解剖及び保存に関する総括的法規であり、吾が国としてはいわば劃期的なものとも考えられ、且つ又最近死体の解剖、保存等に関して刑事問題等をも惹起した例もあるので、左記の点御諒知の上本法の施行に伴なう事務処理については特に遺憾のないようにせられたい。なお本法に基く政令である死体解剖資格審査会令も同じく六月一〇日公布即日施行されたので諒承されたい。
記
一 本法は、昭和二二年厚生省令第一号「死因不明死体の死因調査に関する件」を法律に改めるに際し、「大学等へ死体交付に関する法律」の内容をもこれに統合し、更に刑法等との関係を考慮の上その他の必要事項をも規定して死体の解剖及び保存に関する統一的法制として整備したものである。
二 死体を解剖し得る者の資格については特に限定はないが、死体の解剖をする場合は、手続上事前に保健所長の許可を要する。而して保健所長は、法第二条第二項に該当する場合でなければ、右の許可を与えてはならないが、許可の具体的基準等については別途明示する予定である。
三 前号に述べたように事前の許可が原則であるが、医科大学又は歯科大学の教授が解剖する場合、他の法律に基いて解剖する場合、監察医が解剖する場合等は、特にその解剖を円滑ならしめるため事後の届出をもって足ることとしているが、更にその他死体の解剖について十分な学識技能を有する者についても、その解剖を容易ならしめるため特に厚生大臣による認定の制度を設けている。
四 厚生大臣の認定に関する規定は、本法公布と同時に施行されているので、近く省令で認定申請の手続等が定められるとともに、死体解剖資格審査会において認定の基準等も決定される予定である。
五 法第二条は、解剖を行う場合の手続的規定であるから、第二条による許可を得ていても、刑法第一九〇条の規定による死体損壊罪の成立することはあり得る。例えば、遺族の承諾を得ずに解剖し、又は「解剖」の範囲を逸脱する程度の所謂「損壊」行為をした場合は、死体損壊罪が成立することがある。
六 法第七条本文は単なる注意的規定であり、従って本条違反に対しては罰則が設けられていない。
一般的には遺族の承諾を得ずに解剖すれば死体損壊罪として処罰される可能性が強いと考えられるので、第七条は但書において、死体損壊の違法性が阻却される場合の基準を示したのであり、従つて但書に該当する場合は遺族の承諾がなくても死体損壊罪が成立することはないと考えられる。
七 「身体の正常な構造を明らかにするための解剖」とは所謂系統解剖を指称するものである。
八 第八条において「政令で定める地」とあるのは、差し当りは、従来監察医務を実施していた東京以下七大都市を予定している。
九 第一○条は、所謂系統解剖は医学又は歯学の大学において行うべきものであることを明らかにしているが、死体の尊厳維持の見地及び実際上の必要性の面から考慮してこれが最も適当であると考えられるからである。ここでいう「大学」は、場所的観念であり、従つて必ずしも大学自身の教育又は研究のためでなくてもよい。
一○ 第一三条の死体交付証明書は、尊厳な死体の取扱を粗雑にしないために特に交付されるものであるが、同時に学校長の行う埋火葬については、これを埋火葬の許可証と同様の効力があるものとして取扱上の便宜をはかつている。
一一 死体の保存については、大学、総合病院等において保存する場合等を除き、一般的には都道府県知事の許可を要することとしたが、本法施行の際(昭和二四年一二月一○日現在)現に標本として保存されている死体については、改めて都道府県知事の許可を要しないこととしている。