添付一覧
○一般病院における併設精神科病棟(室)建築基準について
(昭和三六年八月七日)
(衛発第六四四号)
(各都道府県知事あて厚生省公衆衛生局長通知)
単独精神病院の建築基準については、昭和二九年九月二九日厚生省発第二九五号をもつて各都道府県知事あて公衆衛生局長名をもつて通知したところであるが、最近一般病院に精神科病棟(室)を設置する傾向が多くなつてきたことにかんがみ、今般「一般病院における併設精神科病棟(室)建築基準」が精神衛生審議会の議を経て別添のとおり決定したので、今後、併設精神病棟の計画及び建築に当つてはこの基準を活用するよう御指導願いたい。
なお、引き続き小児病棟、保護病室及び作業療法棟建築基準についても検討中であるので追つて送付する見込である。
注 昭和四四年六月二二日衛発第四三一号により「昭和二九年九月二九日厚生省発第二九五号」は廃止
別添
一般病院における併設精神科病棟建築基準
第一 まえおき
この基準は、一般病院に精神科病棟(病室)を併設する場合における一つの望ましい標準を示すものであつて、最低基準のような性格をもつものではない。
一般病院に精神科病棟(病室)を併設する場合、ややもすると一般病院の建築様式や構造がそのまま反映されて、臥床を主体とする病院形式に陥つたり、又は精神科ということにこだわりすぎて、あまりに堅牢かつ閉鎖的になりすぎるおそれがあるので、最近における精神科領域の治療方法や患者の病態像等を勘案して様式や構造を患者治療に適正ならしめるとともに、建築費を最も有効に活用するための資料となることを目的として、この基準を作成したものである。
したがつて、ここに書かれている条件はその全部が満足されることを必らずしも期待するものではなく、その地域の事情、一般病棟部門との関連、計画の大小等によつてそれらの条件を或程度取捨選択することはもとより差し支えない。ただ、この基準の精神をできるだけ設計に生かされるよう計画することが望ましい。
第二 併設精神科病棟(病室)設置の意義と設計方針
1 意義
一般病院に精神科病棟(病室)及び同外来診療部を設けることの意義は、患者の早期受診の便を図り、機を逸しないで適切な治療を行なつて短期間に治療効果をあげることにある。したがつて、入院患者は初期、軽症で在院期間も短かい者を主な対象とし、かつ外来患者の診療に重点がおかれるべきである。そのためには、患者が積極的に診療を受ける気持になるように、親しみのある外観、構造及び整備された診療設備が望まれ、かつ、快適な環境とくつろいだふん囲気をかもし出すように配慮する必要がある。
2 設計方針
併設精神科病棟(病室)の配置、規模、設備等については、病院の所在する地域の事情、敷地の条件、一般病棟部門の規模、看護体制、設備等との関連を十分に考慮し、かつ、この基準の精神を生かすように企画設計することが望ましい。
併設精神科病棟(病室)は、あまりに小規模の場合には専門科としての運営上に支障があり、また、一○○床を越えるような場合には併設としての性格よりもむしろ単独精神病院としての性格が強くなるので、この基準では一応五○床前後の病床数のものを想定して作成したものである。
なお、企画設計に当たつては、病院長、精神科担当医師、精神科病棟管理に十分な経験を有する者、建築家等が密接な連絡をとることが必要であり、更に医療法、建築基準法、「精神病院建築基準」及び本追補並びに別紙設計図を参照されたい。
第三 設計に当つての具体的留意事項
1 一般的事項
入院患者は原則として初期、軽症で短期入院の患者とするが、それらの患者も時に興奮又は不潔の症状を示したり、或は身体的合併症を呈することもあり、また一時的にそのような患者を入院させなければならないこともあるので、それらのことも一応考慮において設計する必要がある。
なお、企画設計に当たつては、単に医療看護の都合のみでなく、患者の入院生活の立場が十分に尊重されなければならない。
2 病棟の意匠及び構造について
病棟の意匠並びに周辺の環境計画については、落ちつきがあつて親しみやすく、かつ清潔であることが必要であり、精神の休養と治療に適するように配慮し、患者が安心して治療を受けることができるようなふん囲気をかもし出すように努めなければならない。
また、病棟は耐震耐火的構造とし、患者の安全と保護に対する考慮が必要なことはいうまでもないが、そのために建物が堅牢になりすぎて威圧感を与えたり、患者を監視するというような設計にならないようにしなければならない。
また、内装及び外装についての仕上げや色彩のみならず、外廻りの樹木の植込み、庭園の造成等にも十分に配慮し、いやしくも牢獄式又は収容的体裁となることを厳に避けることが必要である。
3 入院患者の生活的施設について
入院患者の大部分は、他科の入院患者とは異なり、常時臥床の必要のない者が多く、日中の生活は殆んど起きているのが常態であるので、生活スペースを十分に考慮することが必要である。特に患者の私物を収納して置く場所を十分にとることは、生活の拠点を与えるという意味で重要である。したがつて、患者用の家具や調度品を入れて、入院生活を活動的でしかもくつろいだ家庭的ふん囲気の中で楽しくすごせるように配慮すべきである。
なお、精神科疾患の在院期間は、従来よりも著しく短縮されたとはいえ、まだ他科疾患よりは長期間にわたる者が多いので、患者のレクリエーシヨンや作業のための室内外の設備等は当初よりも十分に考慮されることが望ましい。
4 病棟の配置について
精神科病棟(病室)は、他の一般病棟(病室)から離れた独立棟であることが望ましいが、敷地又は管理上等の都合でそれができない場合には、相互に悪影響を及ぼさないような配慮が必要である。例えば樹木その他の自然の障壁で区画するとか、建物の配置や向き等を考慮することが大切である。いかめしい塀や檻のような柵等は極力避けるべきである。
なお、二階以上に精神科病室を設ける場合には、危険防止のために窓に格子を必要とするが、室内からの感じや外観を損なわないように部材の断面や詳細の納りについての工夫がほしい。
5 管理について
病棟の大部分を開放的にするか又は閉鎖的にするかは、管理者の意向、入院患者の病状、地域的事情等によつてきめられるべきであるが、閉鎖的の部分については前項の趣旨を十分に生かすことが必要である。
6 病室の区分について
男女の患者の病室は原則として区分する。例えば、食堂又はデイルームを中心として両翼病棟に、或は一階と二階に分けて配置するようにする。ただし、小児、老人、合併症患者等で性的危険のおそれのない場合には、男女の病室が明確に区分されておれば同一病棟内でも差し支えないであろう。
7 衛生設備について
日照、採光、暖房、通風、換気等については全病室を通じて周到に計画されなければならない。
なお、暖房については、寒冷地方と温暖地方とではその設備程度を異にするであろうが、直接火気を使用する場合には、その構造と管理に細心の配慮がなされなければならない。
また汚水、汚物、し尿、じん埃等の処理及び洗濯、消毒等の処理設備については病院全体として考慮しなければならないが、精神科病棟においては特段の配慮が必要である。
第四 病棟平面計画要領
1 病棟内所要室
精神科病棟(病室)には大体次のような室又は機能を営む場所を必要とする。ただし、これらの室のうちには、病棟の規模又は一般病棟との関連から必ずしも別々に設ける必要はなく、取捨選択或は兼用することも差し支えないであろう。ただし、これらの室の機能が十分に発揮されるように活用されることが望ましい。
A 診療及び看護関係の施設
診療室、看護員室、処置、治療室、治療後の休養室、作業療法室、レクリエーシヨン療法施設、汚物処理室、洗濯室、リネン室、看護員仮眠室、職員便所
B 患者の生活的施設
配膳室、食堂、デイルーム、洗面所、患者用洗濯室、便所(男女別)、浴室、面会室、患者私物格納室
C 病室
一般病室、保護室、合併症病室
2 病棟内各室の設計上の留意事項
A 診療及び看護関係の施設
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…一室にすることも可能であろう。 |
看護員室 |
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処置、治療室 |
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治療後の休養室……シヨツク療法後の休養のためのものであるが、シヨツク療法は以前ほど利用されていないので、特別に一室を設けなくとも他室を利用してもよいであろう。
作業療法室……患者が数名で手芸、工作等の作業を行なう場所であるので、そのための材料や作業用テーブルを置くだけの広さを必要とする。このための特別の室を設けるのは望ましいが、病室、食堂、デイルーム等を利用してもよい。
レクリエーシヨン療法施設……ラジオ、テレビ等を備えるほか、運動競技やその他のレクリエーシヨンのために病棟
内、他の建物又は庭を極力利用すべきである。なお、病棟外に作業療法の施設があれば更によい。
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…同一室としてもよく、汚物が簡単に廃棄、消毒、洗滌され汚れ物が洗濯されるような設備が必要である。 |
汚物処理室 |
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洗濯室 |
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看護員仮眠室……特別に設けなくとも看護員室又は処置室内にカーテン等で仕切る方法によつても設けることができる。
リネン室……一室が設けられればよいが、他病棟のものを利用できればよい。
B 患者の生活的施設
配膳室……厨房からの、一給食の動線を考慮し、かつ病棟内食堂に近接して設置する。既に盛付の終つたものが病棟に運ばれるならばその所要ペースは狭くともよい。
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管理上から設ける方が便利であり、両者の兼用も考えられるが、スペースの関係で別に設けることができない場合には、病室のスペースを広くとるように配慮することが必要である。 |
食堂 |
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デイルーム |
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食堂とデイルームはそれぞれ目的が違うので別々に設けることが望ましいが、スペースや経費の関係でやむを得ず兼用する場合には、食事の際はテーブルやその周辺が不潔にならないように注意しなければならない。全体としてくつろいだふん囲気が必要である。
洗面所……必ずしも一室を設ける必要はなく、廊下の一側にアルコーブをとつたり、窓から流しを持ち出しにしたりして使用に当つて便利なように設備する。この場合、洗面介補の必要のある患者もいるので、それに便利であるように考慮する。
患者用洗濯室……患者の大部分は臥床の必要がないので自身の持物を簡単に洗える所があればよい。例えば洗面所等の利用も考えられる。また電気洗濯機を置くスペースが考慮されてあれば更に便利である。
面会室……別に一室が設けられればよいが、他の場所を利用してもよい。例えば食堂、デイルームの一隅を衝立等を利用して使用することも考えられる。
浴室……病棟内に設けるようにする。できれば男女別に設けることが望ましいが患者の入浴日を替えれば一室でよい。なお、看護者が入浴の介補をする必要があるので広めに設計する。
患者用私物格納室……患者の在院期間が長くなると私物が多くなるので、それを格納する場所が必要となる。一室を設けて出し入れに便利なように棚を設け、かつ換気を十分にする必要がある。
C 病室部門
一般病室……患者相互の危険行為の防止又はそれに対する患者の恐怖心を除去するためにも、できるだけ個室が望ましい。特に入院初期においてはその必要が大である。
多床室の場合には、二床室は人間関係や危険行為のあつた場合等を考えるとあまり適当でなく、三床室は人間関係が一対二となり易いので好ましくないので、個室か四床室が望ましいことになる。これ以上の多床室になると、患者は雑居的に収容されているという感じを抱くようになり、病室が個人の生活場所となるには不適当になるであろう。
病室はベツト式にするか和室(畳式)にするかは医師の方針にもよるが、いずれにしても生活場所としてのふん囲気を出すことが必要である。例えば、ベツト式にする場合には、一般の病室によく見られるようにベツトと床頭台だけというものでなくベツトを寄せて配置し、残りのまとまつたスペースにはテーブル、椅子、戸棚、ロツカー等を置いて患者の日中の生活場所となるように配慮することが望ましい。
和室の場合には、押入れ、私物入れ場所、縁側等家庭に準じて考慮し、また部屋に机等をおいて日中も落ちつけるようにする。
また、病室には絵画、花瓶等を飾る場所もあらかじめ考え、療養中の生活にうるおいがあるように配慮する。
保護室……他患者に悪影響がないように配慮しなければならない。室内の仕上げ、詳細設備に注意し、かつ、採光、換気、通風、暖房等の環境条件については特に考慮する必要がある。堅牢であることは大切であるが、そのために牢屋式になることは絶対に避けるべきで、時には普通病室として使用し得るような配慮も必要である。
保護室の数は、病院の所在する地域の事情、入院患者の病状、治療看護体制等によつて差はあるが、一般的傾向としてはできるだけ少なくする傾向にある。五○床程度の病床数では一応二室位を予定し、前記の事情を考慮して増減するのが適当であろう。
合併症病室……保護室の場合と同様に、前記の事情によつて定めらるべきであるが、一応二~三床程度のものを考慮するようにする。この場合、位置は他の病室より離し、必要に応じて感染のおそれのないように配慮すべきである。
以上の各病室は、それぞれが厳格に区別された室ではなく、相互に融通して使用できるようにあらかじめ配慮して設計されることが望ましい。また各室の仕上げや配置についてはできるだけ単調を避け、変化に富み、しかも全体として統一と調和を保つように工夫すべきである。
病棟の面積は以上の各部門の所要室からすれば一床当たり約二三m2(約七坪)程度が望まれる。ただし、一般病棟との関係又は前記の創意工夫によつて、これ以下でも精神科病棟としての機能を果たすことも不可能とは思われないので設計に当つては十分に検討することが必要である。
第五 外来診療部
1 一般方針
精神科外来診療部は、他科の診療部から特に隔離する必要はなく、一般外来部に併置することも差し支えはない。もし、患者の症状が他患者に迷惑を及ぼすおそれのある場合には、精神科病棟に一時保護する措置をとればよい。精神科病棟に併設する場合には、病棟部門と明確に区分することが望ましい。
外来部門においても、病棟部門と同じように落ちつきがあり、親しみやすい外観と構造が必要である。
2 平面計画要領
外来診療に必要な室は概ね次のようである。
受付、待合室、診察室、処置室、シヨツク療法室及び同休養室、面接室、心理検査室、脳波検査室、レントゲン室、臨床検査室、事務室、便所等。
これらの室は、精神科外来を一般外来部に併設するか精神科病棟に併設するか又はそれらの部門での設備の有無によつて適宜取捨選択や兼用を考えるべきである。
待合室……精神科の診察は他科にくらべて時間のかかるものであるため待合時間が長くなる。また、その間に患者の心が動揺して診察を受けたくなくなることも多いので待合場所は廊下等を利用するのでなく、できるだけ一室を設け、落ちつきある、快適なふん囲気の出るように設備することが必要である。また、患者には附添人が多いことも念頭においてスペースを考えなければならない。
シヨツク療法室及び同休養室……シヨツク療法は以前ほど用いられなくなつているようであるので、その必要度や配置については、精神科担当医の意見を聞く必要があり、また他室を兼用する方法も考えられる。