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○病院診療所の診療に関する件

(昭和二四年九月一〇日)

(医発第七五二号)

(各都道府県知事あて厚生省医務局長通知)

最近東京都内の某病院において、緊急収容治療を要する患者の取扱に当たり、そこに勤務する一医師が空床がないことを理由として、これが収容を拒んだために、治療が手遅れとなり、遂に本人を死亡するに至らしめたとして問題にされた例がある。診療に従事する医師又は歯科医師は、診療のもとめがあった場合には、これに必要にして十分な診療を与えるべきであることは、医師法第一九条又は歯科医師法第一九条の規定を俟つまでもなく、当然のことであり、仮りにも患者が貧困等の故をもって、十分な治療を与えることを拒む等のことがあってはならないことは勿論である。

病院又は診療所の管理者は自らこの点を戒めるとともに、当該病院又は診療所に勤務する医師、歯科医師その他の従業者の指導監督に十分留意し、診療をもとめる患者の取扱に当っては、慎重を期し苟も遺憾なことのないようにしなければならないと考えるので、この際貴管内の医師、歯科医師及び医療機関の長に対し左記の点につき特に御留意の上十分右の趣旨を徹底させるよう御配意願いたい。

一 患者に与えるべき必要にして十分な診療とは医学的にみて適正なものをいうのであって、入院を必要としないものまでをも入院させる必要のないことは勿論である。

二 診療に従事する医師又は歯科医師は医師法第一九条及び歯科医師法第一九条に規定してあるように、正当な事由がなければ患者からの診療のもとめを拒んではならない。而して何が正当な事由であるかは、それぞれの具体的な場合において社会通念上健全と認められる道徳的な判断によるべきであるが、今ここに一、二例をあげてみると、

(一) 医業報酬が不払であっても直ちにこれを理由として診療を拒むことはできない。

(二) 診療時間を制限している場合であっても、これを理由として急施を要する患者の診療を拒むことは許されない。

(三) 特定人例えば特定の場所に勤務する人々のみの診療に従事する医師又は歯科医師であっても、緊急の治療を要する患者がある場合において、その近辺に他の診療に従事する医師又は歯科医師がいない場合には、やはり診療の求めに応じなければならない。

(四) 天候の不良等も、事実上往診の不可能な場合を除いては「正当の事由」には該当しない。

(五) 医師が自己の標榜する診療科名以外の診療科に属する疾病について診療を求められた場合も、患者がこれを了承する場合は一応正当の理由と認め得るが、了承しないで依然診療を求めるときは、応急の措置その他できるだけの範囲のことをしなければならない。

三 大病院等においては、受付を始めとし、事務系統の手続が不当に遅れたり、或いはこれらのものと医師との連絡が円滑を欠くため、火急を要する場合等において、不慮の事態を惹起する虞があり、今回の例もかくの如きものに外ならないのであるから、この点特に留意する必要がある。