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○容器包装詰食品に関するボツリヌス食中毒対策について
(平成15年6月30日)
(/食基発第0630002号/食監発第0630004号/)
(各都道府県・各政令市・各特別区衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬局食品保健部基準課長・厚生労働省医薬局食品保健部監視安全課長通知)
近年、pHが4.6を超え、かつ、水分活性が0.94を超える食品を若干の気体透過性を有する容器包装(セラミック又はアルミニウムを蒸着した合成樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体樹脂等を用いた合成樹脂製の容器包装)に入れ、密封した後に120°4分間に満たない条件で加圧加熱殺菌する食品が製造、販売されています。
今般、平成14年度厚生労働科学研究において、当該食品についてのボツリヌス芽胞添加実験等が行われ、本研究に基づき、平成15年6月19日に薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食品規格部会において、当該食品の取扱いについて審議が行われました。
その結果、
① 当該食品は、原材料等がボツリヌス菌に汚染されている場合に食中毒を引き起こす可能性があること、
② ボツリヌス菌による食中毒を未然に防止する観点から、当該食品については、容器包装詰加圧加熱殺菌食品(「食品、添加物の規格基準」(昭和34年厚生省告示第370号)第1食品D各条に規定する「容器包装詰加圧加熱殺菌食品」をいう。)に準ずる衛生管理が行われることが望ましいこと、
③ 規格基準の策定については油脂の変敗防止の観点からも検討が必要であることから、追加試験成績の提出を待って検討すること
とされたところです。
ついては、規格基準の策定までの当分の間、現在の知見からみて、当該食品の製造及び保存等に当たっては、下記により衛生管理が行われることが望ましいと考えるので、貴管下関係者に対する指導方よろしくお願いします。
なお、清涼飲料水、食肉製品、鯨肉製品及び魚肉練り製品については、現行の規格基準において、ボツリヌス菌の増殖等を考慮した加熱殺菌基準、保存基準が定められていることから、本指導の対象としないものであります。
記
食品を若干の気体透過性を有する容器包装(セラミック又はアルミニウムを蒸着した合成樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体樹脂等を用いた合成樹脂製の容器包装)に入れ、密封した後に加圧加熱殺菌する食品(清涼飲料水、食肉製品、鯨肉製品及び魚肉練り製品を除く。)であって、pHが4.6を超え、かつ、水分活性が0.94を超えるものにあっては、中心部の温度を120°で4分間加熱する方法若しくはこれと同等以上の効力を有する方法で加熱殺菌を行う、又は10°以下で保存すること
ただし、別添のボツリヌス接種試験によりボツリヌス毒素の産生が認められないものにあってはこの限りでない。
(別添)
ボツリヌス菌接種試験法
第1 試験法
ボツリヌス菌接種試験は以下の手順に従って行う。
1 供試菌株
ボツリヌスA型菌及びたんぱく分解性B型菌を用いる。なお、菌株は5株以上とし、A型菌として62A株を、B型菌として213B株を含むものとする。また、A型菌として97A株及びRenkon株、B型菌としてOkra株(Lamanna株)を含むことが望ましい。
2 毒素の力価測定
すべての供試菌株は、産生する毒素の力価が1,000MLD(Minimal Lethal Dose:2匹以上のマウスに接種し、全てが死亡する量)/ml以上であることを確認する。
3 芽胞調製
供試菌株毎に、以下の手順により芽胞の調製を行う。
(1) 供試菌株の保存培養液を芽胞産生用培地に接種し、35~37°で1日間培養する。
(2) (1)の培養液を再度、芽胞産生用培地に接種し、80°で20分間加熱処理した後、35~37°で培養する。この培養操作を3回繰り返し、顕微鏡下で芽胞形成を確認する。培養期間については、菌株、使用する培地等により異なるので、適宜培養液を抽出して顕微鏡で観察し、芽胞の形成を確認した上で決定する。
(3) 芽胞が十分に形成されたならば、その培養液1mlを80°で20分間加熱処理し、500~1,000mlの芽胞産生培地に接種して35~37°で培養する。
(4) 芽胞形成が確認されたならば、(3)の培養液を遠心分離して芽胞を採取し、滅菌蒸留水で3回以上遠心分離による洗浄を行い、再度、適量の滅菌蒸留水を加えて均等な芽胞浮遊液とする。芽胞浮遊液については小分けし、-20°以下で保存する。
(5) (4)については、その一部を採取して80°で20分間加熱し、10倍段階希釈後、各希釈液の一定量を芽胞測定用培地に接種して芽胞数を算定する。
4 接種
供試菌株の食品への接種は、以下の手順により行う。
(1) 各芽胞浮遊液を混合して均一な芽胞懸濁液を作製する(以下、「接種用芽胞懸濁液」という。)。接種用芽胞懸濁液の芽胞数については,1ml当たり107個を目安とする。
(2) (1)で作製した接種用芽胞懸濁液を、供試食品1g当たりの芽胞数が102~103個となるように接種した後に、80°で20分間加熱処理する(以下、「検体」という。)。
なお、ガス封入包装等の特殊な包装が施された供試食品については、供試食品の包装状態(酸素、二酸化炭素、窒素等のガス分圧)を再現するまでの間は8~10°に保ち、その後に80°で20分間加熱処理することとする。
5 恒温放置
検体を恒温下で放置する。なお、恒温放置温度は30°とし、放置期間は供試食品の賞味期限(品質保持期限)又は消費期限(以下、「賞味期限等」という。)の1.5倍とする。
6 検査実施時期及び検体数
検査は、接種直後、ガスの産生が確認された時点、品質保持期間終了時及び品質保持期間の1.5倍を経過したときの合計4回以上の時期において実施する。検体数については、芽胞を接種して保存試験を行う場合に5検体、その他については3検体以上とする(表1参照)。
7 毒素検出検査
毒素検出検査は、以下の手順により行う。
(1) 検体に等量の滅菌蒸留水を加え、ストマッカーで十分に混和した後、その上澄み液を採取し、これを滅菌ペプトン加生理食塩水で5倍に希釈する。これを10°以下で15分間遠心分離し、上清を毒素検出用試料とする。
(2) 毒素検出用試料の0.5mlずつを1群2匹以上のマウスの腹腔内に注射し、その生死を4日間観察する。必要に応じて、毒素検出用試料については、毒素の力価測定及び中和試験を行う。
8 その他の検査項目
「7」の毒素検出検査の他に以下の項目について検査を行う。
(1) 芽胞非接種の検体
開封操作を行わない検体については、保存開始時に、水分活性、pH、一般生菌数及び嫌気性生菌数(35°で2~5日間培養)の測定を行い、賞味期限等終了時にpH、一般生菌数及びクロストリジウム属菌数を測定する。
開封後芽胞を接種せずに密封する検体については、保存開始時に、一般生菌数及びクロストリジウム属菌数、賞味期限等終了時にpH、一般生菌数及びクロストリジウム属菌数を測定する。
(2) 芽胞接種の検体
開封後芽胞を接種した検体については、保存前にpH、一般生菌数及びクロストリジウム属菌数を測定する。
第2 判定
保存試験において、すべての検体からボツリヌス毒素が検出されない場合は、当該食品はボツリヌス菌による食中毒発生のおそれがないものとみなす。
第3 留意事項
1 ボツリヌス菌接種試験を実施するに当たっては所期の目的が達せられるよう接種試験法の詳細を設定し、接種試験法自体の科学的な妥当性を確保できるよう努めること。
2 当該試験は、食品自体の特性からボツリヌス毒素が産生されないことを確認するための試験法である。実施に当たっては、供試食品の理化学的性状(pH及び水分活性等)について十分な確認を行い、通常の製造において考えられる最高値のpH及び水分活性を有する食品を供試食品とすること。
表1:ボツリヌス菌芽胞接種試験の内訳
検体処理 |
試験結果 |
||||||||
区分 |
処理内容 |
検体数 |
項目 |
保存日数 |
pH |
水分活性 |
一般生菌数 (cfu/g) |
クロストリジウム属菌数 (cfu/g) |
ガス産生 |
A |
無処理 |
3 |
理化学 |
0日 |
○ |
○ |
|
|
|
B |
無処理 |
3 |
細菌1) |
0日 |
|
|
○ |
○ |
○ |
C |
無処理 |
3 |
保存2) |
* |
○ |
|
○ |
○ |
○ |
D |
開封後芽胞非接種 |
3 |
細菌3) |
0日 |
○ |
|
○ |
○ |
|
E |
開封後芽胞非接種 |
3 |
保存4) |
* |
○ |
|
○ |
○ |
○ |
F |
開封後芽胞接種 |
3 |
細菌5) |
0日 |
○ |
|
○ |
○ |
|
G |
開封後芽胞接種 |
5 |
保存6) |
* |
○ |
|
○ |
○ |
○ |
(注1) 1)~6)
1)細菌試験陰性対照、2)保存試験陰性対照、3)開封操作確認試験、4)開封操作後の保存試験陰性対照、5)初発芽胞数の測定、6)保存試験本試験
(注2) 「*」は、ガス産生が確認された日、賞味期限等、賞味期限等の1.5倍に相当する日
(注3) 「○」は、該当する試験