○遺伝子組換え微生物の使用等による医薬品等の製造における拡散防止措置等について
(平成16年2月19日)
(薬食発第0219011号)
(各都道府県知事あて厚生労働省医薬食品局長通知)
遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(平成15年法律第97号。以下「カルタヘナ法」という。)に基づき、遺伝子組換え生物等の第二種使用等のうち産業上の使用等に当たって執るべき拡散防止措置等を定める省令(平成16年財務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、環境省令第1号。以下「拡散防止措置省令」という。)が平成16年1月29日に公布され、同年2月19日より施行されることを踏まえ、今般、標記について、別添のとおり具体的な拡散防止措置及び運営上の遵守事項等を定めるとともに、下記のとおり取り扱うこととしたので、貴管下関係業者に対し周知徹底方よろしく御指導願いたい。
なお、組換えDNA技術応用医薬品等の製造のための指針について(昭和61年12月11日薬発第1051号厚生省薬務局長通知。以下「指針」という。)は廃止するものとする。ただし、これまで指針により執られていた拡散防止のための措置の一部については、拡散防止措置省令に定められていない措置であっても、なお当分の間、本通知により措置を執ることとしているので、その点留意されたい。
記
1 第三章第九に規定する報告は、別紙様式1により行うものとすること。
2 第三章第一に規定する製造業者は、製造開始時及び終了時並びに毎年度末に、別紙様式2により、厚生労働省医薬食品局長に対し、遺伝子組換え微生物に係る製造実施状況を報告すること。
3 次に掲げる事項に変更のあるときは、別紙様式3により速やかに変更届を厚生労働省医薬食品局長に提出すること。
・製造業者又は製造管理者若しくは責任技術者の氏名又は住所
・製造所の名称
(別添)
[第一章 総則]
第一 目的
遺伝子組換え微生物を用いて、医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療用具(治験薬、治験医療用具を含む。以下「医薬品等」という。)を製造する場合の拡散防止措置及び運営上の遵守事項等について定め、遺伝子組換え微生物の拡散防止を的確に実施することを目的とする。
第二 製造に当たって執る拡散防止措置
遺伝子組換え微生物を使用した医薬品等の製造に当たっては、使用する遺伝子組換え微生物が、「遺伝子組換え生物等の第二種使用等のうち産業上の使用等に当たって執るべき拡散防止措置等を定める省令別表第一号の規定に基づき厚生労働大臣が定めるGILSP遺伝子組換え微生物」(平成16年厚生労働省告示第27号。以下「GILSP告示」という。)で定められているものである場合には、拡散防止措置省令別表第一号下欄に掲げる措置(第二章第一1.(1)①から⑤及び(3)①、2.(1)及び(2)並びに3.(1)及び(2))を執るとともに、第二章第一1.(1)⑥から⑩、(2)①から④、(3)②及び③並びに2.(3)に掲げる措置を執って行うこと。
GILSP告示で定められていない遺伝子組換え微生物を用いる場合は、厚生労働大臣に拡散防止措置の確認申請を行う必要があるが、その際、医薬品等の製造に用いる遺伝子組換え微生物に関する情報(宿主の性質、ベクター及び供与核酸の遺伝情報、遺伝子組換え微生物の性質等)等に基づき、遺伝子組換え微生物について、以下のGILSP並びにカテゴリー1、2及び3の使用区分を選定し、第二章第一及び第二に掲げられた措置のうち選定した区分に対応した拡散防止措置を執ること。
1.GILSP
宿主、供与核酸及びベクター並びに遺伝子組換え微生物が以下の基準を満たすもの。
(1) 宿主
・病原性がないこと。
・病原性に関係のあるウイルス及びプラスミドを含まないこと。
・安全に長期間利用した歴史がある又は特殊な培養条件下では増殖するがそれ以外では増殖が制限されていること。
(2) 供与核酸及びベクター
・性質が十分に明らかにされており、有害と認められる塩基配列を含まないこと。
・伝達性に乏しく、かつ、本来耐性を獲得することが知られていない生細胞に耐性マーカーを伝達しないこと。
(3) 遺伝子組換え微生物
・病原性がないこと。
・宿主と比べて増殖する能力が高くないこと。
2.カテゴリー1
遺伝子組換え微生物が病原性がある可能性が低く、かつGILSPに含まれないもの。
3.カテゴリー2
遺伝子組換え微生物がヒトに感染性はあるが発症の可能性は少なく、予防対策及び有効な治療法があるもの。
4.カテゴリー3
遺伝子組換え微生物がヒトに対し病原性があり、取扱う際にかなりの注意を必要とするが、感染・発症してもその危険度は、比較的低く、予防対策及び有効な治療法があるもの。
[第二章 拡散防止措置]
第一 GILSPの施設及び設備等
1.製造
(1) 施設及び設備
① 作業区域(遺伝子組換え微生物を使用等する区域であって、それ以外の区域と明確に区別できるもの。以下同じ。)が設けられていること。
② 作業区域内に、遺伝子組換え微生物を利用して医薬品等を製造するための培養又は発酵の用に供するよく整備された装置が設けられていること。
③ 作業区域内に、製造又は試験検査に使用する器具器械、容器等を洗浄し、又はそれらに付着した遺伝子組換え微生物を不活化するための設備が設けられていること。
④ 遺伝子組換え微生物の生物学的性状について試験検査をするための設備が設けられていること。
⑤ 遺伝子組換え微生物を他のものと区別して保管できる設備が設けられていること。
⑥ 培地等を調整するための設備が設けられていること。
⑦ 製造従事者の更衣設備が設けられていること。
⑧ 作業区域内を清潔に保ち、げっ歯類、昆虫類等の駆除に努めること。
⑨ 作業区域および遺伝子組換え微生物の保管設備には、その見やすいところに、遺伝子組換え微生物の作業レベルに関する必要な事項(例「GILSP取扱い中」)を表示すること。
⑩ 教育訓練を受けた製造従事者以外の者の作業区域への立入りを作業レベルに応じ制限することとし、仮に立ち入る場合は、製造従事者の指示に従わせること。
(2) 設備管理
① 作業終了後、使用した設備・装置を十分に洗浄し、又はそれに付着した遺伝子組換え微生物を不活化すること。
② 設置時及び定期的に、培養又は発酵の用に供する設備及び当該設備に直接接続された設備並びに除菌装置の密閉の程度又は性能の検査を行うこと。
③ 設備・装置の機能に係る部分の改造又は交換を行った場合は、その都度、当該設備・装置の密閉の程度又は性能の検査を行うこと。
④ 除菌装置については、交換時、定期検査時及び製造業務内容の変更時に、付着した遺伝子組換え微生物を不活化すること。
(3) 汚染の防止
① 廃液又は廃棄物はそれに含まれる遺伝子組換え微生物の数を最小限にとどめる措置をとった後、廃棄すること。
② 遺伝子組換え微生物を培養又は発酵の用に供する設備に入れ、又はこれから取り出す場合に、遺伝子組換え微生物が施設等から漏出しないよう注意すること。
③ 遺伝子組換え微生物を含む培養液の大量流出に対する対策及び緊急時の作業手順を確立しておくこと。
2.保管
(1) 遺伝子組換え微生物が漏出しない構造の容器に入れ、かつ、当該容器の見やすい箇所に遺伝子組換え微生物である旨を表示すること。
(2) (1)の遺伝子組換え微生物を入れた容器は、遺伝子組換え微生物以外の生物と明確に区別して保管することとし、遺伝子組換え微生物を保管している旨を当該保管設備の見やすい箇所に作業レベルに応じて表示(例「GILSP遺伝子組換え微生物保管中」)すること。
(3) 製造管理者は、遺伝子組換え微生物を含む保管物の明細目録を作成し、保存すること。
3.運搬
(1) 遺伝子組換え微生物を含む材料を作業区域外へ運搬する場合には、遺伝子組換え微生物が漏出しない構造の容器等に入れること。
(2) 遺伝子組換え微生物を含む材料を入れた容器等(容器を包装する場合にあっては、当該包装)の見やすい箇所に取扱いに注意を要する旨を表示すること。
第二 カテゴリー1の施設及び設備等
1.製造
(1) 施設及び設備
① 第二章第一1.(1)①から⑩に掲げる措置。
② その外の大気、水又は土壌と遺伝子組換え微生物とを物理的に分離する施設等であること。
③ 作業区域内に、製造従事者が使用する洗浄又は消毒のための設備が設けられていること。
④ 必要に応じ、作業区域内に設置された室内における空気中の遺伝子組換え微生物の数を最小限にとどめるための換気設備(遺伝子組換え微生物を捕捉できるものに限る。)が設けられていること。
(2) 設備管理
第二章第一1.(2)①から④に掲げる措置。
(3) 汚染の防止
① 第二章第一1.(3)①及び③に掲げる措置。
② 廃液又は廃棄物は不活化すること。
③ 製造従事者は専用の作業着を着用すること。
④ 遺伝子組換え微生物を培養又は発酵の用に供する設備に入れ、又はこれから取り出す場合に、遺伝子組換え微生物が施設等から漏出しないよう取り扱うとともに、培養設備等の外面に遺伝子組換え微生物が付着した場合は直ちに不活化すること。
⑤ 目的の物質を分離する場合であって、その物質がタンパク質等のように失活しやすいものである時は、培養液の取扱いは、遺伝子組換え微生物の漏出を最小限にして作業を行うことで差し支えないこと。
⑥ 設備・装置からのエアロゾルの漏出を最小限にするよう注意すること。
2.保管
第二章第一2.に掲げる措置。
3.運搬
第二章第一3.に掲げる措置。
第三 カテゴリー2及び3の施設及び設備等
1.製造
(1) 施設及び設備
① 第二章第二1.(1)①から④に掲げる措置。
② 作業区域内を清潔に保ち、げっ歯類、昆虫類等を防除すること。
③ 別表に掲げる措置。
(2) 設備管理
① 第二章第二1.(2)に掲げる措置。
② 製造作業中、培養又は発酵の用に供する設備及び当該設備に直接接続された設備の機能を適切な方法により確認すること。
③ 製造に用いられる設備・装置には一連の識別番号を付し、厳重な管理の下に置くこと。
(3) 汚染の防止
① 第二章第二1.(3)①から④に掲げる措置。
② 目的の物質を分離する場合であって、その物質がタンパク質等のように失活しやすいものである時は、培養液の取扱いは、その漏出を防止して作業を行うことで差し支えないこと。
③ 設備・装置からのエアロゾルの漏出を防止すること。
2.保管
(1) 第二章第二2.に掲げる措置。
(2) 作業区域内の保管設備に安全に保管すること。
3.運搬
(1) 第二章第二3.に掲げる措置。
(2) 遺伝子組換え微生物を含む材料を作業区域外へ運搬する場合には、容器が万一破損しても内容物が外部に漏出しないようにすること。
[第三章 組織並びに運営上の遵守事項]
第一 製造業者
医薬品等の製造工程において遺伝子組換え微生物を使用等する者(以下、製造業者という。)は、次の任務を果たすこと。
1.製造所ごとに製造管理者(医薬部外品、化粧品、医療用具の場合には、「責任技術者」と読み替える。以下同じ。)及び製造安全主任者を任命すること。
2.製造上の安全性を確保するため製造業者ごとに製造安全委員会を設置し、その委員を任命すること。また、製造安全委員会に、製造業務の安全確保について、調査審議を求めること。
3.製造管理者が業務を遂行するに当たって支障を生じることがないようにすること。
第二 製造管理者
製造管理者は、カルタヘナ法、拡散防止措置省令及び本通知を熟知し、次の任務を果たすこと。
1.製造計画の立案及びその実施に際し、カルタヘナ法、拡散防止措置省令及び本通知を十分に遵守し、製造安全主任者との緊密な連絡の下に製造作業全体の適切な管理・監督に当たること。
2.製造従事者に対して教育訓練を行うこと。
3.製造安全委員会と十分連絡を取るとともに、必要な事項について製造安全委員会に報告すること。
4.その他製造上の安全性の確保に必要な事項を実施すること。
第三 製造安全主任者
1.製造安全主任者は、遺伝子組換え微生物の使用等に関し、製造管理者を補佐するものであり、製造上の安全性を確保するための知識及び技術に高度に習熟した者であること。
2.製造安全主任者は、カルタヘナ法、拡散防止措置省令及び本通知を熟知し、次の任務を果たすこと。
(1) 製造がカルタヘナ法、拡散防止措置省令及び本通知に従って適正に遂行されていることを確認すること。
(2) 製造管理者に対し助言、報告を行うこと。
(3) その他製造上の安全性の確保に関し、必要な事項の処理に当たること。
第四 製造従事者
1.製造従事者は、製造管理者の行う教育訓練をあらかじめ受けた者であること。
2.製造従事者は、次の事項を遵守すること。
(1) 製造作業を行うに当たって製造上の安全確保について十分に自覚し必要な配慮をすること。
(2) 作業区域内では、作業レベルに応じた作業衣を着用すること。
第五 製造安全委員会
1.製造安全委員会は、高度に専門的な知識及び技術並びに広い視野に立った判断が要求されることを十分に考慮し、適切な分野の者により構成されること。
2.製造安全委員会は、製造業者の求めに応じて次の事項について調査審議し、製造業者に報告すること。
(1) 製造作業標準のカルタヘナ法、拡散防止措置省令及び本通知に対する適合性
(2) 製造従事者に対する安全教育訓練及び健康管理の状況
(3) 事故発生の際の必要な処置及び改善策
(4) その他製造上の安全性の確保に関する必要な事項
3.製造安全委員会は、必要に応じて製造管理者又は製造安全主任者から報告を求めることができる。
第六 教育訓練
製造管理者は、製造作業の開始前に製造従事者に対し、カルタヘナ法、拡散防止措置省令及び本通知を熟知させるとともに、次の事項に関する教育訓練を行うこと。
(1) 遺伝子組換え微生物の安全性に関する知識
(2) 製造に用いる遺伝子組換え微生物の安全な取扱いに関する技術
(3) 設備・装置に関する知識及び技術
(4) 製造工程の安全性に関する知識
(5) 事故発生時の措置に関する知識
第七 健康管理
1.製造業者は、製造従事者に対し、定期健康診断を行うとともに、医薬品等を取扱うのに不適当な者を製造作業に従事させないこと。
2.製造業者は、製造従事者がカテゴリー2及び3の製造作業に従事する場合は、あらかじめ予防及び治療の方策について検討しておくこと。
3.製造業者は、カテゴリー2及び3の製造作業において作業区域内感染のおそれがある場合は、直ちに製造従事者に対し健康診断を行い、適切な措置を採ること。
なお、カテゴリー3の製造従事者については、製造従事前に血清をあらかじめ採取し、当該製造従事者が製造に従事することを終えた日から2年間はこれを保存すること。
第八 記録及びその保存
1.製造管理者は、帳簿を備え、次の事項を記載すること。
(1) 遺伝子組換え微生物の名称及びその容器に付された番号
(2) 遺伝子組換え微生物の保管及び継代の状況
(3) 遺伝子組換え微生物の生物学的性状及びその試験検査の年月日
(4) 遺伝子組換え微生物の譲受けの相手方の氏名及び住所
(5) 製造従事者の氏名、所属機関、職名、製造業務に従事している期間(カテゴリー1、2及び3の場合に限る。)
(6) 健康診断の結果
(7) 製造安全委員会の審議記録(製造作業標準がカルタヘナ法、拡散防止措置省令及び本通知に適合していることを確認する根拠となつた資料を含む。)
(8) 設備・装置の定期点検記録及び製造記録
2.前項の帳簿は、当該医薬品等の製造終了の日から5年間保存すること。
第九 報告
製造業者は、製造に用いる遺伝子組換え微生物に関する情報を収集するとともに、当該遺伝子組換え微生物の評価に影響を及ぼす知見を発見した場合には、速やかに厚生労働大臣に報告すること。
(別表)
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カテゴリー2 |
カテゴリー3 |
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1 遺伝子組換え微生物を取り扱う工程 |
閉鎖系 |
閉鎖系 |
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2 閉鎖系からの排気ガス |
遺伝子組換え微生物の漏出を防止 |
遺伝子組換え微生物の漏出を防止 |
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3 サンプリング、閉鎖系への物質の添加及び他の閉鎖系への遺伝子組換え微生物の移動の場合 |
遺伝子組換え微生物の漏出を防止 |
遺伝子組換え微生物の漏出を防止 |
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4 培養液を閉鎖系から開放系に移す場合 |
遺伝子組換え微生物を不活化してから行う。 |
遺伝子組換え微生物を不活化してから行う。 |
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5 閉鎖系の密閉のための設計 |
遺伝子組換え微生物の漏出を防止 |
遺伝子組換え微生物の漏出を防止 |
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6 閉鎖系を設置する作業区域の条件 |
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a) バイオハザードの標識 |
必要 |
必要 |
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b) 指定された製造従事者以外の立入り |
制限 |
制限。製造従事者は、エアロックを経由して入ること。 |
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c) 製造従事者の着衣 |
専用の作業衣 |
専用の作業衣に完全に交換 |
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d) 製造従事者が作業区域から退出する際のシャワー設備 |
場合による |
必要 |
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e) 洗浄設備及びシャワー室からの排水処理設備 |
場合による |
必要 |
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f) 空気の汚染を最小限にするための換気設備 |
場合による |
必要 |
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g) 作業区域が陰圧に保たれていること。 |
場合による |
必要 |
|
h) 作業区域において、流入・流出する空気が高性能除塵フィルターを通されていること。 |
場合による |
必要 |
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i) 作業区域は、閉鎖系内のすべての内容物が漏出してもこれを外部に漏らさないように設計されていること。 |
場合による |
必要 |
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j) 作業区域は、燻蒸消毒ができるように設計されていること。 |
場合による |
必要 |
様式1
様式2
様式3