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○食品媒介の寄生虫疾患対策等について

(平成九年九月二二日)

(衛食第二五九号・衛乳第二六七号)

(各都道府県・各政令市・各特別区衛生主管部(局)長あて厚生省生活衛生局食品保健課長・厚生省生活衛生局乳肉衛生課長通知)

標記について、平成九年九月一七日、食品衛生調査会食中毒部会食中毒サーベイランス分科会において検討し、別添一のとおり検討結果がとりまとめられたところである。貴職におかれては、本検討結果を踏まえ、下記事項につき適切な対応を図るようよろしくお願いする。なお、下記二については、当職からも社団法人日本医師会あてに協力方依頼したところなので念のために申し添える。

また、都道府県等の職員に対する寄生虫関係の研修については、追って連絡することとしているのでご了知ありたい。このうち、食品からの原虫の検出に関する研修については、今後有効な検査方法を研究する予定であり、その確立を待って実施することとしている。

一 地域住民に対して、寄生虫に関する正しい知識及び現在知られている寄生虫疾患と食品との関係についての普及啓発を行うこと。具体的には、生鮮野菜等については、調理・喫食前によく洗浄すること、魚介類、肉類については十分な冷凍又は加熱を行えばほとんど死滅すること、特に、イノシシ、クマ等の獣肉、は虫類等の生食により感染の危険性があることなどについて普及啓発されたいこと。

二 関係部局と連携して医療関係者に対して、寄生虫疾患の診断・治療方法について、輸入寄生虫病薬物治療の手引き(別添二)等の普及を図るとともに、患者診察時の喫食状況の聞き取りの必要性、免疫低下状態にある者への指導方法等について周知すること。

平成九年九月一七日

食品衛生調査会食中毒部会

食中毒サーベイランス分科会

Ⅰ 食品媒介の寄生虫疾患対策について

一 はじめに

最近、かつて経験することのなかった原虫による集団発生が、一九九四年八月に神奈川県平塚市、一九九六年六月に埼玉県越生町(クリプトスポリジウム症)、一九九七年四月に米国(サイクロスポーラ症)などで発生し大きな話題となった。また、食品媒介の蠕虫による疾患についても、近年の生鮮食料品の流通手段の革新に伴う流通域の拡大により、今後の多発が懸念される。(別紙一)

寄生虫疾患に関する正確な患者数は不明であるが、食品衛生上、当面の対策が必要な寄生虫としては、

イ) 全国的に発生が多いもの、あるいは近年増加傾向にあるもの。

ロ) 海外では発生が多く日本でも増加が懸念されるもの。

ハ) 発生は多くなくとも、重篤な被害が出る恐れのあるもの。

が考えられ、具体的には次のとおりである。

一) 原虫類

クリプトスポリジウム、サイクロスポーラ、ジアルジア、赤痢アメーバ

二) 蠕虫類

(一) 生鮮魚介類により感染するもの

アニサキス、旋尾線虫、裂頭条虫、大複殖門条虫、横川吸虫、顎口虫

(二) その他の食品(獣生肉等)により感染するもの

肺吸虫、マンソン孤虫、有鉤嚢虫、旋毛虫

なお、この他食品媒介の寄生虫疾患として別紙二に掲げるものが知られている。

そこで今回専門家の参加を得て、これら食品媒介の寄生虫疾患について検討を行い、以下の結論を得た。

二 食品を媒介した寄生虫の感染様式等

食品を媒介して感染する寄生虫は多種多様であり、寄生虫の種類によってそれぞれ生活環が異なっているが、食品と寄生虫との結び付きについては、大きく次の二つの場合に分けて考えることができる。ひとつは原虫類のシスト(嚢子)や蠕虫類の虫卵のように食品を外部から汚染することでその食品が感染源となる場合、もうひとつは特定の種類の魚介類や家畜・動物が寄生虫の中間宿主となっていて、それらの魚や肉の中の幼虫が感染源となる場合である。

三 食品を媒介とする寄生虫疾患の発生状況等

一) 原虫類

① クリプトスポリジウム

本原虫は、一九八四年に米国で発生した集団感染を契機に下痢症の病原体として認知された。患者は激しい下痢にみまわれるが、臨床的には他の下痢症との区別は容易でない。一般的に、健常者では自然治癒するが、小児や免疫不全者においては、下痢が長期化して著しい体力の消耗を来すおそれがある。本症の治療薬はない。

本症は患者あるいは患畜の糞便で汚染された水や食物を媒介して経口感染し、小児を中心とした下痢症あるいは旅行者下痢症の一つとして数えられている。また、欧米では水道水に汚染が及んだ事例が数多く報告されており、一九九三年の米国ミルウォーキーの事例では感染者は推定で四〇〇、〇〇〇人を超えている。

食物を媒介した事例としては、一九九三年と一九九六年に米国でアップルサイダーが原因とされた事例が報告されている。推定患者はそれぞれ一六〇名と一一名で(別紙三―一、三―二)、前者の例では患者家族への二次感染も報告されている。また、一九九五年には米国ミネソタ州でチキンサラダが疑われた事例(推定患者数一五名)が発生している(別紙四)。さらに、英国等で行われた二年間にわたる下痢患者の原因調査でおよそ二%(一二〇九五名)がクリプトスポリジウム症と診断され、そのうちの九%(一〇二名)は生牛乳が原因食ではないかと推測された報告もある(別紙五)。

わが国でも一九九四年(別紙六―一)と一九九六年(別紙六―二)に飲料水を媒介した大きな集団感染を経験し、合わせて約九、五〇〇名の患者が出ている。その他の事例は散発的な報告にとどまっている(別紙七)。

② ジアルジア

ジアルジアは世界的に分布しており、特に、熱帯・亜熱帯においては主要な下痢性疾患の病原体となっている。先進国においても、スラム等の不衛生な地域では本症の流行をみるが、一般には旅行者下痢症としての発症例が多い。その他、託児所における集団発生や、男性同性愛者間での感染も見られる。

主な症状は下痢及び腹痛で、下痢は脂肪便(ジアルジア性下痢)であることが多い。自然治癒する場合が多いが、放置すると吸収障害に至ることもある。一般健常者では不顕性感染で終わる事例も少なくない。

わが国においては、第二次大戦直後の時点では国民の五~一〇%が感染していたが、その後減少した。近年、米国においては水道水に汚水が混入し本原虫による集団感染事例が一九六五年から一九八四年の間に九〇件あり、二三、七七六名の患者が発生している(別紙八)。本原虫は汚染された飲料水の他に、汚れた手や食器、生野菜等を媒介して感染することも知られている。

食品を媒介し、感染したの事例としては、米国で、不顕性感染の子供のおむつを替えた後で、食品に触れたために汚染が広がった例(別紙九)、従業員食堂で不顕性感染者に調理された生野菜を媒介して二七名が感染した例(別紙一〇―一)、一六名が参加したピクニックで不顕性感染者が作ったサラダを媒介して一三名が感染した例(別紙一〇―二)がある。また、本原虫に感染したレストラン従業員が作った氷を媒介として二七名が感染した例(別紙一〇―三)も報告されている。

③ サイクロスポーラ

本症は新しく見つけられたもので、一九九四年に病原体名が正式に決定された(別紙一一)。本原虫に感染すると長期にわたる激しい下痢を呈する。患者の便中に排出されたオーシストが感染性を持つまでには外界で一定期間の発育が必要であり、成熟したオーシストを経口的に取り込むことにより感染が成立する。従って、クリプトスポリジウムなどの原虫とは異なり人から人への接触感染は起こらない。エイズ患者においても感染が認められているが、有効な治療薬があるために本原虫による死者は報告されていない。

本症の集団感染は一九九六年に米国及びカナダで相次いで報告され、推定を含め一四六五名の患者の発生をみており(別紙一二)、一九九七年も引き続き集団感染が見られている(別紙一三)。米国CDCの疫学調査結果によればいずれもグアテマラまたはチリから輸入されたラズベリーが感染を媒介したものとして疑われている(別紙一四―一、一四―二)。このため、米国FDA、CDCの協力の下グアテマラのラズベリー生産農家はHACCPを導入した生産段階での使用水等の衛生管理を行っている(別紙一五)。

わが国における発症例としては四例が指摘されているが、食品との関連性は不明である。

④ 赤痢アメーバ

世界的に見た赤痢アメーバ症は相当の数にのぼることが指摘されている(別紙一六)。本症の感染は患者の糞便により汚染された食品や水を経口的に取り込むことにより感染する。本原虫は、盲腸部から結腸にかけて潰瘍性の病巣を形成するいわゆるアメーバ性赤痢あるいは非赤痢性アメーバ性大腸炎等の腸アメーバ症および肝臓など他の臓器に膿瘍を形成する腸管外アメーバ症が知られている。

本症はわが国にも古くから存在し、一九五〇年頃においては年間五〇〇例ほどの届け出があったが、一九七〇年代においては、年間一〇例前後にまで減少している。しかし、一九八〇年代後半以降になると、再び年間一〇〇~一五〇例が発生しており、増加の傾向を示してきている(別紙一七―一)。その原因としては食品や飲料水による感染よりも男性同性愛者間での性感染、障害者施設内での感染、あるいは輸入感染症が考えられている(別紙一七―二)。

二) 蠕虫類

(一) 生鮮魚介類により感染するもの

① アニサキス

種々の海産魚介類等の生食に起因する。我が国におけるアニサキス症の発生報告は一九八〇年~一九九四年の間に約二六、〇〇〇例にのぼり、一年間に少なくとも二、〇〇〇~三、〇〇〇名のアニサキスによる急性胃腸炎患者があると推定されている(別紙一八―一)。一九八〇年までその発生が報告されていなかった沖縄県においても、生鮮魚介類の空輸が始まった時期以後、本症の発生が報ぜられるようになった(別紙一八―二)。

従来は散発事例が多かったが、最近では、一九八八年の千葉県鴨川市でカタクチイワシを媒介とした延べ六二名の発生例(別紙一九―一)や、一九九一年一月から三月までの間に山口県萩市で、アニサキス症確定患者九〇名、疑アニサキス症患者四四名の発生があった発生例(別紙一九―二)のような集団発生例が報告されている。

また、千葉県における前例に関連して同地域で水揚げされたカタクチイワシについて調査したところ年間を通じて三~一〇%の割合でアニサキスが検出された(別紙二〇―一)。なお、輸入サケ・マス類からもアニサキスが検出されているが、冷凍処理(マイナス二〇℃、二四時間以上)されていないものは感染源となる可能性がある(別紙二〇―二)。

② 旋尾線虫

主としてホタルイカの躍り食いや、内蔵付き未冷蔵のものの刺身という新しい食習慣により発生したものである。一九八〇年代半ば頃より次第に増加し現在までに本虫が原因の皮膚爬行症三二例、腸閉塞二〇例、眼寄生一例の報告がある。

一時期ホタルイカの内蔵付き生食が危険であることが指摘され、生産者が自主的に冷凍処理後出荷したこともあり、一九九五年には本症の報告が激減した。しかしながら最近になって発生報告が首都圏からも現れている(別紙二一―一、別紙二一―二)。

③ 裂頭条虫

サケ・マス類に寄生する裂頭条虫類の幼虫を摂取することで感染する。症状は比較的、軽微であり、無症状のものが多いが、下痢、腹痛などの症状を呈することもある。

一九七〇年代以前は北陸、東北、北海道に限局されていたが流通手段の革新に伴う流通域の拡大により首都圏や、西日本でもサケ・マス類の生食が行なわれるところとなり近年増加の傾向にある。発生報告は一九七〇年以降、全国で一、二〇〇例を超える(別紙二二)。

また、特にサクラマスの寄生率は三〇%と高率であり(別紙二二)、冷凍処理のない輸入冷蔵サケが感染源となる可能性が指摘されている(別紙二三)。

④ 大複殖門条虫

本虫はヒトへの感染源が特定されておらず、イワシ、カツオ等の海産魚の生食によると推定され、小腸で発育し成虫は最大で一〇mにもなることがあるが、患者は本虫の感染をその自然排虫によって知ることが多い。ほとんどは下痢、腹痛などの消化器症状にとどまる。

我が国における感染報告は約二〇〇例である(別紙二四―一)。一九九六年、静岡県内で一年間に四六例もの症例が発生した。原因は生シラス(マイワシ、カタクチイワシ、ウルメイワシの稚魚の総称)が疑われている(別紙二四―二)。

⑤ 横川吸虫

アユ、シラウオ等の淡水魚の生食により感染する。無症状であることが多いが、多数寄生した場合は下痢、腹痛を起こすこともある。

最近、浜名湖周辺の河川で行なわれた調査報告によれば、一九九三年から一九九六年までに捕獲したアユ四三七尾のうち横川吸虫幼虫が検出されたものは一六一尾(三七%)であった(別紙二五―一)。この調査は、依然として我が国のアユは横川吸虫の幼虫を高率に保持しており自然界で横川吸虫の生活環が維持されていることを示している。

わが国での感染者数を約一五万人と推定する報告がある(別紙二五―二)。

⑥ 顎口虫

本虫の感染によって腹部、胸部、腰背部に痒みや痛みを伴う移動性の皮膚腫脹(皮膚爬行症)をおこし、治療は現在においても虫体摘出以外に知られていない。

我が国においては感染報告数は一九一一年から一九九〇年までの間に三、一三三名にのぼるがその大部分は一九四六年から一九六五年の間に発生し原因は雷魚の生食によるものであった。当時、雷魚の生食が危険であることが広く喧伝され、一九七〇年代前半にはその患者は激減したが、一九八〇年頃より韓国、中国及び台湾から輸入されたドジョウを生食(「踊り食い」)することが一部で流行し皮膚爬行症を起こす顎口虫症(約五年間に九〇例)、その後、ヤマメ等の生食による顎口虫症(一九九二年現在一二例)、日本産のドジョウやナマズの生食による顎口虫症(一九九二年現在三例)も報告された(別紙二六)。

(二) その他の食品(獣生肉等)により感染するもの

① 肺吸虫

モクズガニやサワガニ等淡水産のカニの生食、不完全加熱調理又は調理器具等の二次汚染により感染幼虫を摂取する経路と、幼虫に感染したイノシシの生肉を摂取することにより感染する経路がある。血痰、胸水、気胸を起し、時に脳などへの異所寄生により重篤な疾患となる場合がある。近年では、我が国での発生事例のうち四~五割は九州地方に発生しているとも推定され(別紙二七)、この地方におけるイノシシ肉の生食の食習慣が関与していると考えられる。

② マンソン孤虫

ヘビ、カエル、トリ等の肉に寄生している幼虫をこれらの肉を刺身により摂取することにより感染し、体内各部に移動性の腫瘤を形成し種々の症状を起こす。幼虫の寄生部位は皮下織が最も多いが、眼瞼、頭蓋骨、脊髄又は心嚢に寄生し、重篤な症状を示した例もある。

本症の発生報告は全国にわたり一九七一年から一九九二年までに、一九九例をかぞえる(別紙二八)。

③ 有鈎嚢虫

成虫である有鈎条虫は広く世界に分布し、本症は、主に有鈎条虫卵の付着した食品の摂食により感染し、各種臓器に有鈎嚢虫の腫瘤を形成する。症状は重篤で、嚢虫が脳、脊髄または眼球に寄生すると痙攣、意識障害、麻痺、精神障害などを起こすことがある。

我が国における有鈎嚢虫症は一九〇八年の初発例以来三八九例を数えていて、その多くが沖縄での発生である(別紙二九―一)。近年、輸入キムチが原因として疑われている報告がある(別紙二九―二)。

④ 旋毛虫

本虫は成虫がほとんどの哺乳類に寄生することができ、成虫から生み出された幼虫は同一宿主の筋肉に移行して待機する。この宿主筋肉が他の動物に摂食されたとき新たな感染がおきる。従って本虫の感染を予防するには獣肉の生食を避ける事が重要である(別紙三〇)。さらに、筋肉中の本虫皮嚢幼虫は食品媒介寄生虫の中では例外的に低温に抵抗性があり、マイナス三〇℃で六ケ月冷凍の肉によって感染した例もある。

本症は大量の幼虫が筋肉中に寄生することにより起こり、重症の場合は、貧血、全身浮腫、心不全、肺炎等を併発し死亡することがある。

日本での集団感染例としては、一九七五年(一五名、青森県)、一九七九年(一二名、北海道)一九八二年(六〇名、三重県)の三事例で、いずれもクマ肉の生食が原因で起きている(別紙三一―一)。一九七五年から一九九四年までにヨーロッパでは馬肉による九事例の集団感染が発生し二、六〇〇人以上の患者が発症し、一九八五年のフランスの事例では六四二名の患者のうち五名が死亡した(別紙三一―二)。

四 評価

(一) 全体的事項

食品媒介の寄生虫疾患については、食品衛生に携わるものを含め国民に十分な関心と必要な知識や技能があるといえず、このことが必要な対策をとる上での問題となりうる。

寄生虫疾患については、最近新興感染症として注目されているもの(クリプトスポリジウム等の原虫)や、従来より我が国で発生しているもの(アニサキス等)があるが、患者発生状況や食品汚染状況については不明な点が多い。

(二) 原虫

我が国においては、食品媒介の原虫感染症はほとんど報告されていない。しかし、今後、原虫に汚染された食品が流通する可能性も考えられ、これにより、免疫低下状態にある者等が感染する場合や、健常者であっても赤痢アメーバに感染した者の場合、重篤な症状を呈するおそれもある。

一方、食品中からの検出技術が確立していないものが多く、また、食品汚染実態が不明である。

(三) 蠕虫

我が国において、食品媒介の蠕虫感染症は多くの事例が知られており、患者数も多いと推定されているものの、無症状な者や症状の軽微な者が多い。しかし、アニサキス、旋毛虫、旋尾線虫、有鈎嚢虫、マンソン孤虫等は重篤な疾患を引き起こす可能性がある。

寄生虫自体は充分な冷凍処理で旋毛虫の一部を除き、ほとんどが死滅し、十分加熱すれば、すべて死滅する。しかし、安全な喫食習慣のない人々が生食等により様々な寄生虫感染症に罹患しており、特に、イノシシ、クマ等の獣肉やは虫類等を生食(刺身での喫食)した場合、この感染の危険性が高い。

五 当面とるべき対策

以上の現状及び評価を踏まえ、当面、次の対策をとることが必要である。なお、食習慣や食生活は時代的、地域的に多様であり、具体的な対策は現状に即したものとなるよう配慮する必要がある。

(一) 国民及び関係者への安全な喫食方法等についての普及啓発

寄生虫に関する正しい知識及び現在知られている寄生虫疾患と食品との関係についての普及啓発が必要である。具体的には、生鮮野菜等については、調理・喫食前によく洗浄すること、魚介類・肉類については、充分な冷凍または加熱することが重要である。特に、イノシシ、クマ、は虫類等の生食による感染事例があることから、これらの生食の危険性を広く国民に周知する事が必要である。

一方、医療関係者に対しても、寄生虫疾患の診断・治療方法について、輸入寄生虫病薬物治療の手引き(平成七年厚生省「熱帯病治療薬の研究開発班」)等の普及をはかる必要がある。また、患者診察時に喫食状況の聞き取り等診断に必要な事項や免疫低下状態にある者等への指導方法等に関して周知する必要がある。

(二) 食品からの検出法の確立(主として原虫類)

食品からの原虫類の検出方法は未だ確立していない。このため、原虫類のうち、特に、諸外国において食品との関連が疑われているもの、及び水系感染例が多数発生しており二次汚染等、今後食品と関連する可能性が強いもの、といった観点から、クリプトスポリジウム、サイクロスポーラ及びジアルジアの食品からの検査法の確立が必要である。

また、赤痢アメーバについては限られたリスクグループ内での性感染症として注目されているが、我が国においても、食品関係従事者による食品汚染の危険性に配慮して、感染経路解明及び疫学調査に利用できる検査法の確立を進める必要がある。

(三) 寄生虫の知識や食品からの検査法に関する研修の実施

自治体職員に寄生虫に関する知識および食品からの検出技術の向上に関する研修が必要である。

(四) 国内外での食品の寄生虫汚染の実態および当該疾患の発生状況について情報把握現時点では、食品媒介の寄生虫の汚染実態や当該疾患の発生状況が十分に把握されていないことから、食品からの検出方法が確立された後、食品汚染実態調査を実施すべきである。また、国内外の文献調査に引き続き努めるとともに、患者の発生状況の把握に向けた調査研究を進めるべきである。

(五) その他

米国におけるラズベリー汚染が原因と考えられるサイクロスポーラ集団感染事例では、その後、HACCPに基づく生産段階での衛生管理が実施されている。我が国においても、水源の汚染実態を踏まえ(別紙三二)、生食用野菜・果実等の汚染の可能性を考慮して、栽培段階における衛生的な水の使用等、対策のあり方を検討すべきである。

Ⅱ 細菌性食中毒の発生状況等

一 腸管出血性大腸菌〇一五七

① 発生状況

本年の腸管出血性大腸菌〇一五七による食中毒等の発生状況は、九月一六日現在、有症者累計一、二三四名、うち死者三名である。(別紙三三)

なお、本年の有症者数一〇名以上の集団発生は、六月に岡山県市内の病院(有症者数一七一名)、七月に千葉県の保育園(有症者数二五名)及び兵庫県の保育園(有症者数二三名)、八月に群馬県の飲食店(有症者数一五名)がある。また、〇一五七感染症による死者は三月の横浜市における六歳の女子(〇一五七感染が強く疑われる事例)、七月の奈良県における八一歳の女性及び岩手県における七〇歳代の男性である。

② DNAパターン分析

前回の食中毒サーベイランス分科会(平成九年七月一〇日)以降に判明した腸管出血性大腸菌〇一五七のDNAパターン分析結果をみると、有症者数一〇名以上の集団発生(岡山市、千葉県、群馬県)、各々のDNAパターンは一致した。また、岡山市の事例については、昨年発生した広島県(東城町)及び福岡県(福岡市)の集団発生事例と同一のパターン(Ia、I、I)を示した。(別紙三四)

二 その他

① 発生状況

本年四月一日以降九月一一日現在、食中毒処理要領の対象とされたエルシニアエンテロコリチカ〇八、カンピロバクタージェジュニ/コリ、サルモネラエンテリティディス、腸管出血性大腸菌(〇一五七以外)、ボツリヌスによる有症者累計はそれぞれ〇名、一、四八〇名、四、〇五六名、二七〇名、〇名である。(別紙三五)

② サルモネラエンテリティディスのファージ型別分析

昨年までの二人以上(家族内事例も含む)の集団発生におけるファージ型(PT)の傾向をみると、PT一が一九九二年に三二%(三五/一一〇)に増加し、その後も平均四〇%を占め、PT四は一九九〇年より平均四〇%という高い検出率を占めていた。また、一九九一年に二九%(一七/五八)を占めていたPT三四がその後減少傾向を示したほか、一九九五年にはPT五が一過的に一四%を占め、PT八が少ないながらも毎年検出されていた。

本年(八月三一日現在)は、PT一及びPT四がそれぞれ四六%(一八/三九)、三八%(一五/三九)を占め、昨年までと同様の傾向がみられていることが明らかとなっている。(別紙三六)