添付一覧
○イクラ製品の衛生的取扱いについて
(平成一〇年九月一八日)
(衛乳第二三一号)
(各都道府県・各政令市・各特別区衛生主管部(局)長あて厚生省生活衛生局乳肉衛生課長通知)
本年五月から六月にかけて、北海道産イクラを原因食品とする腸管出血性大腸菌O一五七食中毒事件が発生したところである。これまでの原因究明において、汚染要因の特定はされていないが、本年の製造シーズンを迎えるにあたり、同様の食中毒の再発を未然に防止する必要があることから、この食中毒事例の発生要因として考えられるポイントを中心に別添のとおりイクラ製品の衛生管理マニュアルを作成したので、関係営業者の監視指導等について特段のご配慮をお願いしたい。
なお、今後、イクラ製品をはじめとする水産食品については、より一層の衛生水準の向上を図るため、規格基準等を整備することとしているので、念のため申し添える。
別添
イクラ製品の衛生管理マニュアル
今般の北海道産イクラを原因食品とする腸管出血性大腸菌O一五七食中毒事件において、O一五七汚染はイクラ醤油漬けの製造工程中に起きたものと考えられ、具体的な侵入経路についての特定はできなかったものの、当該施設における施設設備の衛生管理や食品等の衛生的取扱いなど一般衛生管理上の欠陥が多く見られ、汚染経路としては、廃棄物コンテナ、作業用車両、従事者の長靴等がO一五七を施設内に持ち込んだ可能性が高いと推測されている。
このため、イクラ製品を製造する施設の衛生管理にあたっては、食品衛生法第一九条の一八第二項に基づき、都道府県知事が定める管理運営の基準の他、次の事項について、衛生管理を行うことが必要である。
第一 イクラ製品の微生物規格目標値
イクラ製造施設から出荷される際の製品において、一般生菌数10^5/g以下を製造工程における衛生的取扱いの目標値とする。
第二 従事者等
1 施設内で作業する場合の作業着(長靴、帽子、ゴム手袋、マスク等を含む。)は、自宅や宿舎から着用せず、施設内専用とすること。
2 トイレに入室する際のはきものはトイレ専用のものを着用すること。
3 各従事者は、各担当作業を明確に区別し、専業とすること。ただし、やむを得ず専業とできない場合にあっては、従事者の移動による交差汚染を防止すること。
4 食品衛生責任者は、第四 食品の衛生的取扱い等について、従事者が適切に実施しているかどうか確認し、従事者を指導すること。
第三 施設設備等の構造及びその衛生管理
1 施設設備
(1) 原料鮭、原料魚卵等の搬入口の構造設備が、外部からの汚染を防止するような構造にすること。また、外部からの汚染とは以下のようなものをいうこと。
ア 野外を往来するフォークリフト等が持ち込むおそれのある泥、動物の糞等
イ 蝿等の昆虫
ウ 施設外部の塵、埃
(2) 製造室の面積は、製造量に応じた十分な広さを確保すること。
(3) 製造室内の設備は、作業工程と交差しないよう作業工程に沿って配置すること。
(4) 製造室内には、従事者が入室時又は手指が汚れた場合に必ず手洗いできるような位置に、従事者数に応じた数の手洗い設備を設けること。
(5) 製造室内は、適切に温度管理をすること。
(6) 製造室に直接出入りできない適切な位置に従事者の数に応じた数のトイレを設置すること。
(7) 営業者は、(1)~(6)の事項が満たされていることを確認し、記録すること。
2 使用機械・器具等
(1) 食品に使用する機械・器具等は、洗浄消毒が容易なものを使用し、使用前に必ず洗浄すること。使用中に汚染された場合は必ず洗浄し、また、使用後は洗浄消毒してその日の汚れを適切に落とし、衛生的に保管すること。
(2) 食品に使用する機械・器具等は、食用に専用とし、非食用のものに対して用いないこと。
(3) 非食用に使用する機械・器具等は、非食用に専用とし、食用のものに対して用いないこと。
(4) 食品衛生責任者は、(1)~(3)の事項を毎日一回以上確認し、記録すること。
第四 食品の衛生的取扱い
1 全般的事項
(1) 営業者は、工場の製造能力を把握し、一日の製造能力を超えるような製造をしないこと。また、製造ロット毎の製造記録をとること。
(2) 従事者の作業動線を交差しないようにすること。
(3) 製造工程中、次の製造工程のための製造室が別棟にあり、屋外を運搬する場合は、不浸透性の蓋付きの容器に入れる等食品の汚染を防止する措置をとった上で速やかに運搬すること。
(4) (3)の運搬作業のための搬入出入口での取扱いにおいて、鼠族昆虫の侵入を防止し、屋外からの汚染を製造室内に持ち込まないような措置をとること。
(5) フォークリフト等の作業用車両は、屋内・屋外の使用区分を明確にすること。
2 各製造工程における衛生的取扱い事項
(1) 鮭の搬入
ア 鮭の搬入時間経過、受入時の鮮度及び品温を確認するとともに、計画的に受け入れること。
イ 鮭の保管時の温度及び時間の管理を徹底すること。
ウ 鮭の搬入に鮭コンテナを用いる場合、鮭の搬入前に、コンテナ内の海水を排水し、コンテナ内の海水等による施設設備への汚染を防止すること。
(2) 鮭の開腹及び魚卵摘出
ア 魚卵摘出台上に土足で上がって作業しないこと。
イ 鮭の開腹及び魚卵摘出時には、内臓、排水等からの汚染を防止し、衛生的に取り扱うこと。
ウ まな板、包丁、ベルトコンベアなどの機械器具及び作業台は定期的に洗浄消毒を行うこと。
(3) 魚卵の洗浄(卵開及び揉みほぐし後等の洗浄において同じ。)
ア 魚卵の洗浄は流水を用いて行うこと。
イ 魚卵の洗浄に際しては、排水や床からのはね水による汚染を受けないようにすること。
ウ 魚卵は、床からの排水の跳ね返りを受けないような十分な高さのある台(最低三〇cm以上。以下同じ。)に置くこと。
エ ザル等の使用器具は洗浄し、常に清潔にすること。
(4) 卵開
ア 魚卵は、床からの排水の跳ね返りを受けないような十分な高さのある台に置くこと。
イ 使用器具は洗浄し、常に清潔にすること。
(5) 水切り及び揉みほぐし
ア 水切りの際、魚卵は、床からの排水の跳ね返りを受けないような十分な高さのある台に置くこと。
イ 使用器具は洗浄し、常に清潔にすること。特に揉みほぐし台及び揉みほぐし網については作業中においても定期的に洗浄消毒すること。
ウ 揉みほぐし台からの魚卵受けの作業については、汚染を防止するような措置をとること。
エ ゴム手袋は洗浄消毒し、常に清潔にすること。
(6) 計量、漬込
ア 漬込液(塩イクラの場合は、飽和食塩水の浸漬液)は、微生物が繁殖しないよう、常に衛生的なものを使用し、漬込・浸漬の時間や温度管理を徹底すること。
イ 使用済漬込液の排水により、魚卵が汚染しないようにすること。
ウ 魚卵は、床からの排水の跳ね返りを受けないような十分な高さのある台に置くこと。
エ 使用器具は洗浄し、常に清潔にすること。
オ 漬込液を自家調整する場合は、清潔な器具を用い衛生的に行うこと。
カ 亜硝酸ナトリウムを使用する場合は、正確に計量し、浸漬液中で均一になるよう、十分攪拌すること。
(7) 熟成
ア 熟成後の魚卵について微生物規格目標値に適合するような条件(温度、時間及び漬込液の組成)を設定し、それらの条件を一定に保つ等適切に管理すること。
イ 使用する器具は洗浄し、常に清潔にすること。
(8) 計量、包装
ア 使用器具は洗浄し、常に清潔にすること。
イ 使用する包装資材は衛生的なものであること。また、使用するまで衛生的に保管すること。
(9) 冷凍
製品を冷凍する場合にあっては、急速冷凍し、マイナス一五℃以下で冷凍保管すること。
(10) 表示
製造ロット毎に、製造ロット番号及び適切な品質保持期限を表示すること。
3 標準作業手順の作成及び記録
各製造工程における衛生的取扱い事項に関する標準作業手順書を作成し、食品衛生責任者はその実施状況を確認し、記録すること。なお、標準作業手順書は、次の事項を記載すること。
(1) 作業手順
(2) 担当者
(3) チェック頻度
(4) 規定した作業手順を誤った場合の改善措置
第五 鼠族昆虫の防除等
1 年二回以上、製造室内の鼠族昆虫の駆除作業を実施すること。
2 食品の製造中、製造室内の鼠族昆虫を排除し、食品の汚染を防止すること。
3 殺虫剤等鼠族昆虫の駆除剤は、食品を汚染しないような方法で使用すること。
4 食品衛生責任者は、1~3の事項について定期的に確認し、記録すること。
第六 使用水等
1 使用水及び使用海水
(1) 使用水は、飲用適のものであること。
(2) 使用海水は、消毒殺菌し、食品を汚染しないような衛生的な海水を用いること。
(3) 使用水及び使用海水の配管は、汚水及び排水の配管と交差しないものであること。
(4) 使用水及び使用海水の配管の構造は、汚水及び排水が逆流及び汚染しないものであること。
2 汚水及び排水の跳ね上がりにより食品を汚染しないよう必要な措置をとること。
3 食品衛生責任者は、1及び2の事項について月一回以上確認し、記録すること。
第七 廃棄物
1 鮭の頭、骨、内臓等の廃棄物と食品が交差汚染しないような方法で廃棄物を製造室から搬出すること。
2 廃棄物を入れる容器は、製造室内に搬入する前に必ず洗浄消毒すること。
3 廃棄物は、速やかに専門業者等により処分され、工場敷地内に長時間放置しないこと。
4 食品衛生責任者は、1~3の事項について月一回以上確認し、記録すること。
第八 苦情・回収プログラム
食品衛生上の不良製品やクレーム品については、返品日、返品者、返品理由、その後の対応等すべて記録するとともに、その都度、所轄の保健所に連絡し、指示を受けるとともに、原因を究明し、再発防止に努めること。
第九 製品等試験検査
1 出荷時の製品について、O一五七の陰性及び第一に規定する目標値を満たしているか、定期的に検査すること。また、第一に規定する目標値を満たさない場合は、製造工程における食品の取扱い状況等を再点検し、改善すること。
2 検体の採取記録及び検査成績の記録については、食品衛生責任者が内容を確認の上、適切に保管すること。
3 製品等試験検査成績の前提となるロット管理(ロットの例:一日の製造分を一ロットとし、一ロット分として五検体(一検体あたり約一〇〇g)を検査する。)を確実に行うこと。
第一〇 営業者団体の責務
1 イクラ製品の製造者を組合員とする営業者団体(以下、営業者団体という。)は、組合員に対し、食品衛生管理に関する講習会を開催する等教育訓練を徹底し、必要な試験検査等技術的な支援をするとともに、本マニュアルの周知を図ること。
2 営業者団体は、1のため、各都道府県等の衛生主管部局と連携を密にとること。