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○平成九年三月に多発した腸管出血性大腸菌O一五七による食中毒等に関する分析及び評価等について
(平成九年四月二五日)
(衛食第一三四号)
(各都道府県・各政令市・各特別区衛生主管部局長あて厚生省生活衛生局食品保健課長通知)
標記について、本日、食品衛生調査会食中毒部会食中毒サーベイランス分科会において検討し、別添のとおり検討結果がとりまとめられたところである。
貴職におかれては、本検討結果を踏まえ、食品等の汚染実態調査において、昨年以降腸管出血性大腸菌O一五七が検出された食材に留意して検査を実施するなど、適切な対応を図るようよろしくお願いする。
なお、食中毒サーベイランス分科会設置の趣旨を踏まえ、食中毒処理要領に基づく速報及び詳報などの厚生省への報告を徹底されるとともに、腸管出血性大腸菌O一五七が検出された場合には、国立感染症研究所細菌部への検体送付に御協力頂くよう重ねてお願いする。
食中毒サーベイランスの実施について
一 目的
食中毒の発生状況等を監視し、迅速に必要な対策の検討を行うとともに、国民に広く情報を提供するため、「食中毒健康管理実施要領」に基づき、食中毒サーベイランス分科会を食品衛生調査会食中毒部会に設置し、食中毒関連情報の定期的、継続的な収集、分析、評価、情報提供等を行うものである。
二 具体的進め方
(一) 収集する情報の範囲
① 食中毒処理要領等に基づき、厚生省へ報告される情報
② 感染研の菌検査結果
③ 病原微生物検出情報
④ 研究情報等(文献等)
⑤ その他、必要に応じて関係自治体より広域的検討に資する情報等を収集する。
(二) 分析、評価
前記(一)の情報を分析・評価するため、食中毒部会に食中毒サーベイランス分科会を設置する。同分科会は、定例的及び必要に応じて同分科会を開催する。また、毎月一度事務局が発生状況をまとめ公表する。なお、必要に応じて、関係自治体職員等も集め、広域的検討等を行う。
(三) 情報提供
評価結果は自治体及び国民等へ広く提供する。
三 分科会委員
井上 栄 国立感染症研究所 感染症情報センター長
大月邦夫 地方衛生研究所全国協議会会長、群馬衛生環境研究所長
熊谷 進 国立感染症研究所 食品衛生微生物部長
小池麒一郎 (社)日本医師会常任理事
竹田美文 国立国際医療センター研究所長
○丸山 務 食品衛生調査会食中毒部会長、麻布大学環境保健学部教授
柳川 洋 自治医科大学公衆衛生学教授
渡邊治雄 国立感染症研究所 細菌部長
(〇は座長。必要に応じ、国立衛生試験所、国立公衆衛生院等の専門家に参加を要請する。)
平成九年四月二五日
平成九年三月に多発した腸管出血性大腸菌O一五七による食中毒等に関する分析及び評価等について
食品衛生調査会食中毒部会
食中毒サーベイランス分科会
食品衛生調査会食中毒部会食中毒サーベイランス分科会は、三月に多発した腸管出血性大腸菌O一五七による食中毒等について、関係一都七県五市(茨城県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、静岡県、愛知県、千葉市、横浜市、川崎市、横須賀市、名古屋市)の担当者の出席も得て検討し、次のとおり、調査結果のとりまとめ並びに分析及び評価を行った。
一 調査結果の概要
(一) 全般的状況
ア 平成八年の腸管出血性大腸菌O一五七による食中毒等については、有症者九、四五一名うち、死者一二名が報告された。
イ 平成九年一月から二月までの間には、三〇名の有症者の発生が報告された。
ウ 三月には、関東南部及び東海地域において、有症者の発生が急増し、同月中には一〇九名(うち死者一名)の有症者の発生が報告された(ア~ウ:別添一、二)。
なお、四月については、二三日までに有症者五三名の発生が報告された。
エ 関係都県市(一都七県五市)における疫学調査については、そのほとんどが散発事例であることから、集団事例とは異なり献立等の調査が感染者の記憶のみに依存する場合が多く、収集した情報は断片的なものであった(別添三)。
オ 三月に発生した有症者及び保菌者から検出された腸管出血性大腸菌O一五七のDNAパターンの多くが一致した(別添四)。
(二) 原因が推定又は特定された事例
一月から三月までに発生した腸管出血性大腸菌O一五七による食中毒等について担当自治体の調査の結果、原因が推定又は特定された事例は以下のとおりである。
なお、三月の発生事例の一部の事例については、現在調査中である。
ア 山形県鶴岡市
平成九年一月一〇日から一四日の間に有症者四名、保菌者二名が腸管出血性大腸菌O一五七の検出者として届出され、有症者及び保菌者を含む一一名が一月一日から二日の間にシカ肉を生食していた(当該シカ肉の他の譲渡先では未喫食又は加熱調理しており感染者なし)。
残品のシカ肉の一部から腸管出血性大腸菌O一五七が検出され、原因食品は当該シカ肉と特定されたが、その汚染源は特定できなかった。
イ 愛知県蒲郡市
(ア) 原因食品の調査
三月一九日及び二一日に有症者五名、保菌者一名が腸管出血性大腸菌O一五七の検出者として届出された。
疫学調査により有症者及び保菌者を含む一一名が参加したホームパーティーにおいて提供された手巻き寿司が原因献立と推定され、①有症者宅の冷蔵庫から採取した残余の貝割れ大根から腸管出血性大腸菌O一五七が検出されたこと、②喫食調査の結果からも当該食材が疑われたこと、③有症者及び当該食材から検出された菌のDNAパターンが一致したことから、貝割れ大根が原因食材と疑われた。
(イ) 食材の汚染原因の調査
当該食材の流通経路については、関係県が調査したところ、生産施設を出荷されたのち、小売店まで外装は開梱されず、小売店において外装からパッケージが取り出されて販売され、流通途上において、他の物が食材に直接触れることがないことが確認された。
家庭内の調理過程については、愛知県が調査したところ、当該食材は家庭において根を切る等の調理がなされており、その残品は他の残品(ネギトロ)と同一容器に保存されていた。
当該食材の生産施設に係る調査の結果、三月二一日及び二六日、四月一五日に採取した貝割れ大根、種子、使用水等の四九検体からは、腸管出血性大腸菌O一五七は一切検出されなかった。
(ウ) その他
当該食材の生産施設から出荷されたものの流通範囲は、一都一道一二県(北海道、青森県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、長野県、静岡県、愛知県)であった。
ウ 横浜市
(ア) 原因食品の調査
三月二〇日発症し、二五日に腸管出血性大腸菌O一五七が検出された一歳女児の有症者及びその父親が二月二七日に腹痛により受診し、三月二七日に腸管出血性大腸菌O一五七が検出された事例において、①有症者宅の冷蔵庫から採取した残余の貝割れ大根から腸管出血性大腸菌O一五七が検出されたこと、②二名の有症者及び当該食材から検出された菌のDNAパターンが一致したことが判明した。
なお、女児及び母親は当該貝割れ大根を三月一七日又は一八日の昼食に喫食したが、父親は当該貝割れ大根を喫食していない。
また、母親は三月一二日ごろに下痢症状を示したが、腸管出血性大腸菌O一五七による症状か否かは不明である。
(イ) 食材の汚染原因の調査
家庭内の調理過程については、当該食材は容器から取り出すために必要な部分を開封し、まな板の上に横倒しにして貝割れ大根の上部を引き出し、包丁を用いて使用部分を根から切り取っており、流水で洗浄後、水道水で一〇分ほどさらしてから大根サラダに加えた(まな板は使用後には塩素消毒を行っていた。)。
(ウ) その他
当該事例で腸管出血性大腸菌O一五七が検出された貝割れ大根は、前記(二)の愛知県蒲郡市の事例で原因食材として疑われたものと同一の施設で生産されたものであることが確認された。
二 分析及び評価
(一) 平成九年一月から二月までの間に報告された三〇名の有症者について、全体的には時間的・地域的集積性は認められなかったが、三月の関東南部及び東海地域において報告された有症者の発生については、一月及び二月の発生状況と比較すると明らかな時間的・地域的集積性が認められた。
また、四月については、二三日までの状況としては、三月のような集積性は認められていない。
(二) 本年になってからの発生事例は、大規模な集団発生ではなく、家庭を発生場所としたものがほとんどであり、家庭における食中毒予防対策の普及を十分に図る必要がある。
(三) 三月の関東南部及び東海地域における多発の原因は明確ではないが、同期間中に同地域の感染者から分離された腸管出血性大腸菌O一五七のDNAパターンの多くが一致した。
また、これらの事例のうち、愛知県蒲郡市及び横浜市の事例においては同一の生産施設で生産された食材から腸管出血性大腸菌O一五七が検出され、そのDNAパターンが一致した。
さらに愛知県蒲郡市の事例では疫学調査結果等により特定の原因食材が推定されており、当該食材の流通経路において他物が直接触れることがないことも確認された。
これらの状況を踏まえ、汚染源、汚染経路としての可能性を有する施設、従事者、使用水、生産材料等の調査及び管理の徹底をさらに進めるとともに、昨年以降腸管出血性大腸菌O一五七が検出された食材に留意して流通しているものについて安全点検を実施する必要がある。
(四) 今後、気温の上昇とともに、散発事例の増加及び集団事例の発生も懸念されることから、引き続き、都道府県等における関係部局の連携による予防対策の実施及び有症者発生時の迅速な情報提供が必要であり、本分科会においても引き続き評価を進めていくこととしたい。
(五) 今回実施した散発事例の調査のうち多くは、集団事例と異なり関係者の記憶のみに依存することが多く、調査の障害となったが、一部の自治体において、関係者の家計簿、レシート等による情報の活用や普段利用している小売店の分布の特徴を把握することによって調査に有用な情報を得た例もあったことから、今後の調査においてこうした工夫に留意する必要がある。
三 その他
平成九年三月二四日付けで食中毒処理要領の一部が改正され、腸管出血性大腸菌O一五七のほか、エルシニア・エンテロコリチカO八、カンピロバクター・ジェジュニ/コリ、サルモネラ・エンテリティディス、腸管出血性大腸菌及びボツリヌス菌については、都道府県等に対し発生後速やかに厚生省に報告をすることとされた。
昨日までにカンピロバクター・ジェジュニによる食中毒計三件有症者三三名、サルモネラ・エンテリティディスによる食中毒計二件有症者一六二名、腸管出血性大腸菌(O一五七を除く。)三件有症者三名が報告された(別添五)。
四 終わりに
ゴールデンウイークに入り、食中毒の多発時期を迎えることから、腸管出血性大腸菌O一五七に限らず、広く食中毒に対する注意をひとりひとりが払っていただきたい。
(別添1) 略
(別添2) 略
(別添3) 略
(別添4) 略
(別添5) 略