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○乳及び乳製品のリステリアの汚染防止等について

(平成五、八、二衛乳第一六九号)

(厚生省生活衛生局乳肉衛生課長から各都道府県政令市・特別区衛生主管部(局)長あて通知)

乳肉衛生行政の推進については、種々ご配意煩わせているところである。

さて、標記については、昭和六三年二月二日付け衛乳第三号「ソフト及びセミソフト・タイプのナチュラル・チーズのリステリア菌汚染防止について」により通知し、指導方お願いしているところであるが、近年、ソフト及びセミソフト・タイプ以外のものも含め、ナチュラル・チーズからリステリアが検出される等の事例が報告されている。

ついては、今般、チーズを始めとする乳及び乳製品のリステリア汚染防止対策等については、左記のとおりとしたので、関係営業者に周知方お願いするとともに、乳及び乳製品を媒体とするリステリア症の発生防止を図られるようお願いする。

なお、昨年一一月に生活衛生局に設置した「動物性食品に関する病原微生物汚染防止対策検討会」において動物性食品のリステリア汚染防止対策について検討が進められているところであるが、今般、中間報告が取りまとめられたので、参考までに添付する(別添)。

一 生乳の取扱いについて

生乳については、仮にリステリアに汚染されていても「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令別表二(三)」に定めた条件で加熱殺菌すれば、リステリアは死滅することから、その遵守について指導徹底すること。

二 チーズの取扱いについて

(一) ソフト及びセミソフト・タイプのナチュラル・チーズの取扱いについては、昭和六三年二月二日付け衛乳第三号により示したところであるが、引き続き検査等を継続し、リステリアを検出するものについては、食品衛生法第四条第三号に違反するものとして取り扱われたいこと。

(二) シュレッドチーズ(ハードタイプのナチュラルチーズを短冊形に切断し、混合したものをいう。以下同じ。)は、仮にリステリアに汚染されていても、その調理工程において加熱すればリステリアは死滅することから、「加熱用」、「ピザ用」、「トースト用」又は「グラタン用」の表示のあるものについては、リステリアを検出しても、食品衛生法第四条第三号に該当するものとして取り扱わないこと。

なお、シュレッドチーズについては、その加工及び包装工程における環境からの汚染も考えられることから、別紙一の管理指針により製造者を指導されたいこと。

(三) プロセスチーズについては、仮に原料チーズが汚染されていても製造工程において加熱殺菌されることから、リステリアは死滅することが明らかであるが、包装工程における微生物汚染防止に留意するよう製造者を指導されたいこと。

三 その他の乳製品の取り扱いについて

その他の乳製品については、製造工程において加熱殺菌されること等から、リステリアに汚染されるおそれはないが、製造後の製品は低温保持等その衛生確保に十分留意すること。

四 その他

(一) リステリアの検査は、今般IDF(国際酪農連盟)が提唱する方法に準拠することとし(別紙二)、今後は、これにより行うこと。なお、昭和六三年二月二日付け衛乳第三号により示した試験法については廃止する。

(二) 二、(一)によりリステリアを検出するものについては、その概要を当課まで報告されたいこと。

(別紙1)

シュレッドチーズの衛生管理指針

1 目的

この指針は、シュレッドチーズの加工、施設設備等の衛生管理等について定め、シュレッドチーズの衛生管理の向上を図ることを目的とする。

2 施設及び設備

(1) 施設は乳製品製造業の許可を得ていること。

(2) 施設は、原料保管庫、前処理室、製造室、包装室及び製品保管庫を有し、それぞれの室は区画されていること。

(3) 壁面は、1.5mまでは耐水性の材料で洗浄が容易な構造であること。

(4) 原材料庫及び保管庫は、冷蔵能力を有していること。

(5) 製造室及び包装室は、外部から汚染されない構造であること。

(6) 施設の床、内壁は洗浄・消毒が容易な構造であること。

(7) 設備は容易に解体・組み立てができ、洗浄・消毒が容易な構造であること。

(8) カッター、コンベア等の食品に直接触れる箇所は、腐食しない材質のものであること。

3 原材料

(1) 原材料のチーズについては、加工前に微生物モニタリング検査を計画的に行い、適正に管理すること。

(2) 原材料のチーズは、変質、カビ発生、容器包装の破損の有無等の異常がないことを確認すること。

(3) 原材料のチーズの受け入れに当たっては、その製造者、ロット番号(又は製造年月日)、受け入れ量、輸入業者等を記録すること。

(4) 原材料のチーズは、10℃以下に冷蔵し、長期間保管しないこと。

(5) 原材料のチーズは、製造者、ロット番号(又は製造年月日)別に区分し、スノコ等を設け、直接床に接することのないよう保管すること。

4 製造

(1) カッター、コンベア等の食品に直接触れる箇所は、作業開始前に洗浄・消毒すること。

(2) 原料チーズの外包装は、製造室以外の場所で除去すること。

(3) 原料チーズを内包装から取り出す際には、内包装の表面を消毒後、取り出すこと。

(4) カッター、コンベア等の製造設備で食品に直接触れる箇所及び器具は、一つのロットの加工が変わる都度、洗浄・消毒すること。

(5) 原料チーズの製造室から充てんまでの工程は、一貫して行うこと。

(6) 製品の充てんは、ガス置換法等微生物が発育し難い方法によること。

(7) 各製造所毎に重要管理点の管理基準を定め、衛生管理を行うこと。

(8) 施設及び設備は、作業の終了後、洗浄・消毒すること。

5 従事者

(1) 製造室へ入室する従事者は、定期的に健康診断を受ける等その健康状態が食品衛生上支障のないことが確認された者であること。

(2) 製造室へ入室する従事者は、専用の清潔な帽子、衣服、靴等を着用すること。

(3) 製造室へ入室する従事者は、手指を十分洗浄・消毒すること。

6 製品の保管

(1) 製品は、10℃以下に保管すること。

(2) 製品は、包装資材等他のものと区別して保管すること。

(3) 製品は、先入れ先出しを遵守し、長期間に渡って保管しないこと。

7 表示

乳及び乳製品の成分規格等に関する省令に定める事項の他、次の事項を表示すること。

(1) 10℃以下に保管すること。

(2) 品質保持期限

(3) 加熱して喫食すること。

8 検査

次の項目について、製品及び施設・設備等の定期的な検査及び拭き取り検査を実施し、異常があった場合は、その原因を究明しそれを除去するとともに、当該製品はプロセスチーズ等加熱加工を伴うものの原料とすること。

(1) 一般細菌数(製品を除く)

(2) 大腸菌群数

(3) リステリア

(4) 黄色ブドウ球菌

(別紙2)

乳、乳製品中のリステリア検査法手順(IDF標準法)

検 体        25g(ml)

選択増菌培地     EB培地 225ml

培 養        30℃ 48時間

選択分離培地     Oxford寒天培地又はパルカム寒天培地

培 養        30~35℃ 24~48時間

純培養        TSYEA培地

培 養        30℃ 24時間

集落観察       斜光法

確認培養       CAMP試験他

同 定

血清型別

1 使用培地及びその組成

1) 増菌培地

EB 培地(IDF組成)

基礎培地:トリプティケースソイ・ブロース      30g

酵母エキス                6g

蒸留水                1,000ml

添加薬剤:アクリフラビン塩酸塩         15mg/l

ナリジキシン酸            40mg/l

サイクロヘキシミド          50mg/l

IDF処方の市販製品があればそれを使用してもよい。

2) 分離培地

(1) オックスホード寒天培地

基礎培地:コロンビア血液寒天基礎培地    39g(製品により異なる)

エスクリン            1g

クエン酸鉄アンモニウム     0.5g

塩化リチウム           15g

蒸留水            1,000ml

添加薬剤:サイクロヘキサミド      400mg/l

硫酸コリスチン        20mg/l

アクリフラビン        5mg/l

セファテタン         2mg/l

ホスホマイシン        10mg/l

市販製品があればそれを使用してもよい。

(2) パルカム(PALCAM)寒天培地

基礎培地:コロンビア血液寒天基礎培地    39g(製品により異なる)

マンニット            10g

エスクリン           0.75g

クエン酸鉄アンモニウム     0.5g

塩化リチウム           5g

ブドウ糖            0.5g

フェノールレッド        0.08g

添加薬剤:硫酸ポリミキシンB      10mg/l

セフタジディム        20mg/l

アクリフラビン        5mg/l

市販製品があればそれを使用してもよい。

3) 確認培地

(1) TSYEA培地

トリプティケースソイ・ブロース     30g

酵母エキス               6g

寒天                12~18g

蒸留水                1,000ml

(2) VP半流動寒天培地

トリプトン               7g

ソイペプトン              5g

酵母エキス               1g

ブドウ糖                10g

塩化ナトリウム             5g

寒天                  3g

蒸留水                1,000ml

市販製品があればそれを使用してもよい。

(3) CAMP(Christic―Atkin―Munch―Peterson)試験用培地

基礎培地:TSYEA培地

基礎培地8mlをシャーレに分注し、寒天が固まったら直ちに5%にヒツジ脱繊維素血液を加えた同培地4mlを重層する。

なお、β―溶血性試験も本培地を用いる。

(4) 糖発酵性試験用培地

基礎培地:プロテオーゼペプトン     10g

肉エキス           1g

塩化ナトリウム        5g

ブロムクレゾールパープル   0.2g

蒸留水           1,000ml

試験対象糖:              5g

2 検査手順

定性的に以下に示す手順によりL. monocytogenesの有無を検査する。なお、分離株の血清型別は必ず行う必要がある。

1) 検体の採取と試料の調製

検体は少なくとも200g(または200ml)以上を採取し、その表面部分をできるだけ除いた25g(または25ml)をそのまま試料とする。

2) 増菌培養

試料は、EB培地225mlと共に30秒~1分間ホモジナイズし、30℃で48時間好気培養する。

3) 分離培養

増菌培養液1白金耳を、オックスホード寒天培地又はパルカム寒天培地にそれぞれ画線塗抹して、30℃で24~48時間好気培養する。平板上にエクスクリン分離陽性のリステリアと思われる集落が認められた場合は、1平板当たり5個の集落を釣菌してTSYEA培地に純培養とする。平板は30℃で24時間培養後、発育した集落を斜光法により観察して真珠様青緑色の特有の形態を認めたら確認培養を行う。

[斜光法]図のように、走査型実体顕微鏡を用いて45度の角度の反射光による透過光線(Henry illumination)で観察すると、リステリア属菌の集落は真珠様青緑色に見える。

4) 確認培養

確認培養では以下の性状試験を行ってL. monocytogenesと同定する。

――――――――――――――――――――――――――――――――

性状試験項目         L. monocytogenesの性状

――――――――――――――――――――――――――――――――

グラム染色                  +

カタラーゼ試験                +

運動性試験                  +(傘状発育)

糖発酵試験 ラムノース            +

キシロース            -

マンニット            -

VP試験                   +

β―溶血性                  +

CAMP試験 Staphylococcus aureus     +

Rhodococcus equi        -

――――――――――――――――――――――――――――――――

[CAMP試験]CAMP試験用培地平板上にS. aureus及びR. equiを平行に塗抹し、次いで両菌株から2~3mm離して直角に供試株を塗抹する。同時に、対照株としてL. monocytogenes,L. innocua, L. ivanoviiを塗抹することが望ましい。平板は35℃で24時間培養する。L. monocytogenesは塗抹線に沿って弱いβ―溶血を示し、この溶血はS. aureusのβ―溶血部分で鮮明に増強される。一方塗抹線に沿って鮮明な溶血が観察され、その溶血がR. equiの塗抹線近くで錨状に増強された場合はL. ivanoviiを疑う。なお、市販のβ―リジンディスクを使用してもよい。

図は、L. monocytogenes, L. innocua及びL. ivanoviiの所見を模式図として示したものであるが、縦の線はS. aureus(S)とR. equi(R)の塗抹線、横の線は各リステリア菌種の塗抹線を示す。

点線部分はS. aureusの増殖による影響領域を示す。

(別添)

リステリア汚染防止対策について(中間報告)

1 リステリアについて

1) リステリア属菌の分類と性状

リステリア属菌はグラム陽性の短桿菌で、分類学的にはListeria属に入る一群の菌を指す。この菌属には現在7菌種が知られているが、人および動物に起病性のあるものは今のところL. monocytogenes1菌種に限られると解されている。一般にリステリアという表現もこの1菌種を指している場合が多い。

したがって、以下本報告書ではリステリアという表現はL. monocytogenes1菌種を指すこととする。

リステリアはグラム染色陽性、通性嫌気性に発育する無芽胞の桿菌で、鞭毛を有する。鞭毛は周毛性であるが、数は少なく、37℃よりも20~30℃の方が産生がよい。本菌の発育至適温度は35~37℃であるが4℃以下の低温でも増殖可能なpsychrotrophicな性状に特徴がある。また、6%以上の食塩に耐性がある。

L. monocytogenesと他の菌種との鑑別にはマンニット、ラムノース、キシロースの分解能とβ溶血およびCAMPテスト等によってなされる。血清学的にはO抗原とH抗原の組合せによって13種以上に分類され、人および動物の症例から分離されるものは4b、1/2a、1/2bなど特定の血清型に偏りがみられる。

2) リステリアの病原性

リステリアの人および動物に対する病原性メカニズムについてはまだ十分に解明されていない。現在までに明らかにされている病原因子はある種の溶血毒(リステリオリジンO)で、本毒素の産生の有無が病原性を左右している。体内に侵入したリステリアはこの溶血毒の力で細胞内の生存と増殖が可能なことが証明されている。宿主の免疫学的抵抗性の低下は本菌の体内侵入と増殖を助けているといわれている。

しかしながら、本菌の人に対する起病性は患者の発生状況から推察してそれ程高いものではない。

3)リステリアの自然界における分布(自然環境、植物、健康な人及び動物保菌、食品汚染)リステリアは自然環境のきわめて広い範囲に分布している。

(1) 土壌、河川水

リステリアは土壌中で腐生的に生存が可能である。このため土壌そのものが「病原巣」となり得る。土壌のあらゆる所から本菌は検出されるが、砂地より泥や水分の多い土地、耕作地より休耕地、深部より表層地での検出率が高い。このことから河川水からもしばしば検出される。したがって、土壌等の自然環境が食品への汚染源となる可能性が十分にある。また、下水からも検出されるが、この場合はと畜場や食肉処理工場からの汚染が多く、通常の排水処理過程では完全に死滅しない。

(2) 植物

野菜他動物の飼料であるサイレージがリステリアに汚染されていることはよく知られている。野菜サラダが原因となった人体感染例が外国では発生している。また、品質の落ちた春先のサイレージは高率に本菌を分離することができ、家畜におけるリステリア症の一部はこうした汚染飼料が原因であるとされている。

(3) 健康動物の保菌

リステリアは多くの動物からの分離報告があり、ほとんどすべての哺乳類、鳥類は本菌に感受性があると考えられている。動物の健康保菌は人への感染源、動物性食品の汚染源として重要である。わが国の健康家畜での保菌は牛で2.0%、豚で0.7%、羊では2.4%である。ただし、わが国の家畜におけるリステリア症の発生は諸外国に比較してきわめて少なく、全家畜で年間に5~6例である。

(4) 健康人の保菌

リステリアはいずれの国においても健康人の糞便からある程度の割合で検出することができる。わが国における健康人の保菌率は0.1%である。動物と常時接触する特定の職業集団では通常人よりも保菌率の高いことが外国で報告されている。ただし、成人では人から人への水平感染は知られていないので、こうした保菌が感染源となる可能性は極めて低いものと思われる。

(5) 食品汚染

前述した野菜を含む多くの生または調理済み食品での汚染が証明されている。動物性食品では家畜からの直接の汚染の他に自然環境由来汚染も考えられる。魚介類や農産物あるいは調理済み食品での汚染が指摘されているが、わが国では食品汚染の総合的な実態がまだ十分に把握されていない。

2 人におけるリステリア症について

1) 一般健康人のリステリアに対する感受性

わが国における人リステリア症では食品を原因とするものは報告されていない。発生率は100万人当たり0.2で、サルモネラや腸炎ビブリオ食中毒(70~75)に比較してはるかに低い。しかも患者のほとんどは新生児、乳幼児、老人などの免疫機能の低い者で占められていることと併せ考えると健康成人がリステリアに感染し、発症する確率は極めて低いといえる。健康人がリステリアに感染するのは大量の菌に暴露された場合であろうと解されている。

人は一定の条件さえ整えば誰でもリステリアの侵入を受ける可能性があるが、ほとんどの人は無症状のままで経過する。しかし、特定の感受性の高いグループの人は重篤な症状にまで進展することがある。特定のグループとは妊婦、新生児、乳幼児、高齢者、細胞性免疫機能の低下している白血病患者、癌患者、透析治療者、副腎皮質ホルモンなど細胞性免疫活性を低下させる薬物の長期使用者などが含まれる。これらの人々はリステリアの感染について特に注意を要する。

2) 人リステリア症の症状

リステリアが体内に侵入し、おそらくマクロファージに喰食される段階になると軽い倦怠感、発熱などインフルエンザ様症状を起こす。しかし健康人ではほとんどの場合無症状に経過する。感受性の高い人では、侵入した菌は体内各所に伝播して敗血症、髄膜炎、髄膜脳炎にまで進行することがある。通常は急性胃腸炎の症状はほとんど示さない。特定の事例を除き、リステリアの侵入時期が不明なので潜伏期は明らかになされていない。一般に、潜伏期間は1週間から数週間とされているが、4日以内という記録もある。

3 動物性食品のリステリア汚染実態

リステリアは自然界に広く分布している為、幅広い食品が汚染を受けていることが明らかにされている。特に家畜がある程度健康保菌していることから動物性食品の汚染が高く、外国では牛乳、チーズ、食肉を介した集団発生も起きている。

1) 乳

生乳はいずれの国でもある程度の汚染がみられる。わが国ではまだ広い地域で調査が行われているわけではないが、ミルクプラントに搬入されるバルクタンク単位では0~5.3%の陽性がみられる。殺菌乳についても汚染のみられる国のあることが報告されているが、わが国ではそのような事例は発生していない。乳等省令に基づく牛乳の殺菌が行われている限り、殺菌乳の汚染は生じないものと考えられる。

2) チーズ

(1) ナチュラルチーズ

いずれの国においても、ナチュラルチーズには汚染がみられる。汚染率は1.5~10%である。ナチュラルチーズをソフトタイプ、セミソフトタイプ、ハードタイプに分けた場合、未殺菌乳を原料としたソフトタイプに高く、中でもウォッシュタイプと呼ばれる人の手間を要するタイプに汚染が高い傾向が見られる。ハードタイプにおける汚染はきわめて低い。

国産ナチュラルチーズは殺菌乳を原料とするため陽性例はない。殺菌乳を原料とするもののみが輸入されているが、輸入ナチュラルチーズに汚染があることが報告されている。

(2) シュレッドチーズ

わが国の国内で流通しているシュレッドチーズにリステリア汚染のあるものが発見されている。この種類のチーズは、その原料の多くが輸入ナチュラルチーズであることから原料が既に汚染されていた可能性もあるが、一方で、国内でのカット工程における環境からの汚染の可能性もあると思われる。今回のリステリアが検出された事例においては、原料の輸入チーズから同菌は検出されておらず汚染源は確定されていない。

(3) プロセスチーズ

国内で流通しているものからリステリアが検出されたことはない。

4 動物性食品中でのリステリアの挙動

1) 乳、乳製品中での熱抵抗性

(1) 乳

牛乳中におけるリステリアの熱抵抗性に関する研究は多く報告されている。例えば、わが国で行われた研究でも加熱温度とD値との関係は62℃のD値は0.19分であり、62℃30分間の加熱での殺菌効果は158Dになることが計算される。すなわち、わが国の乳等省令で規定されている殺菌条件であればリステリアに対する十分な殺菌効果のあることが認められている。

(2) シュレッドチーズ

実験的に市販チーズをリステリアで汚染させ、加熱溶解によるその死滅温度を検討した。

通常使用時にチーズを溶解する加熱条件は220~250℃、5分である。250℃、4分の加熱でチーズとクラスト(ピザの台)またはトーストとの接点である中心温度は81℃となり、汚染菌数が106/gであってもリステリアは完全に死滅した。したがって、シュレッドチーズの通常の使用方法ではリステリアが106/gに汚染されていても完全に死滅することが確認された。

(3) プロセスチーズ

製造中に82~85℃の加熱がされる工程があるため、原料チーズ中にリステリア汚染があったとしても完全に殺滅されることが実験的に確かめられている。

2) 乳・乳製品中での低温における生存性

生乳及び液状の乳製品中がリステリアに汚染した場合、リステリアは4℃で死滅せずに生存し、徐々に増殖する。

チーズ中のリステリアの低温保存時の挙動については数多くの研究報告があるが、チーズの製造時の温度と時間、組成、pH、熟成条件などによって異なる。生存の最も大きな要因の1つはpHである。pH5.5以下のチーズでは熟成および保存時に増殖することなくむしろ菌数は徐々に減少してゆくが、pH5.5以上のカマンベールタイプのチーズでは6℃で56日間熟成したとき103/gから107/gへと増加することが認められている。その他のタイプのチーズでも4℃では急激な増殖がみられないもののきわめて長期間にわたる生存が認められる。

5 リステリアの動物性食品汚染に関する当面の防止対策

わが国では人リステリア症の発生が諸外国に比較して少なく、また先進諸国で大きな問題となっている食品媒介リステリア症の発生も今のところ確認されていない。ただし自然環境や食品における本菌の汚染状況は多発国と同程度であり食品媒介リステリア症発生の可能性はある。しかし、本菌の生態および病原性から食品中に存在する全てが直ちに危険性を意味するものではない。したがって、リステリアの食品汚染に関する当面の防止対策は下記の一般的事項を考慮しつつ、主な食品の具体的方策をたてるべきであろう。

1) 一般的事項

(1) リステリア属の中で人に病原性のあるものはL. monocytogenes1菌種である。ただし、L. innocua等の他菌種も汚染指標とはなり得る。

(2) リステリアは4℃以下の低温でも増殖可能である。しかし、4℃以下の増殖速度は極めて緩慢である。

(3) リステリアは自然界に広く分布する環境生息菌であるが、その病原性から一般健康人への感染は極めて少ない。

(4) リステリアに感受性の高いグループ(妊婦、新生児、高齢者等)がある。

(5) 汚染防止対策の基本としては次に掲げるWHOの勧告の骨子(1988年)を尊重すること。

① 食品を生、加工済み等のカテゴリーに分類し、それぞれに見合った対策をたてること。

② 食品製造業者は自ら積極的に食品汚染防止対策をたて、これを短期的、中期的および長期的計画の中で実行すること。また、HACCPの取り組みを推進させ微生物制御を行うこと。

③ 公衆衛生専門家は上記食品分類にしたがった衛生監視、食品製造業者への指導さらには消費者への教育プログラムを作成し、これを実行すること。また、研究の推進とサーベイランスシステムを構築すること。

2) 乳、乳製品の汚染防止対策

わが国で製造される乳・乳製品は「乳等省令」の基準を厳守することが基本である。

(1) 生乳

搾乳時の環境にはリステリアは常時分布していると考え、環境からの汚染を防止し、保存運搬時の低温保持を守ること。

生乳中にたとえリステリアの混入があっても「乳等省令」に示された殺菌条件で殺菌すれば、菌は完全に死滅するのでこの条件を厳守すること。しかしながら、できるだけ汚染の少ない生乳を原料とし、その衛生向上に努力することが必要である。

(2) ナチュラルチーズ

① ソフト及びセミソフトタイプのチーズ

諸外国で生産されているソフト及びセミソフトタイプチーズにはある程度の汚染がみられ、わが国での輸入品にも過去に検出されたことがある。このため、原則的には輸入時に全ロット検査を実施し、リステリアが検出されたものについては、輸入を禁止する等の措置をとっているが、今後もこれらの対策を継続する必要がある。

② 国内産ナチュラルチーズ

国内で生産されるナチュラルチーズは殺菌乳を原料としており、リステリアの感染源になる恐れはないが、衛生確保を図る上で製造工程での汚染防止に努めること。

(3) シュレッドチーズ

原料チーズについては、加工前に常時モニタリング検査を行い、汚染のないものを使用すること。

シュレッドチーズはその製造工程で環境からの汚染が十分考えられるため、現在考えられる衛生管理指針を示した。

製品には使用に当たっての注意事項を特記すること。

(4) プロセスチーズ

原料チーズの溶解時に加熱を均等にかつ十分に行い、包装時またその後の二次汚染を防止すること。

(5) その他の乳製品

すべての製品は殺菌乳を原料とすること。

製造後の製品は低温保持に努めること。

6 検査法

乳・乳製品のリステリアはIDFが提案している方法を用いる。

7 今後の課題

食肉及び食肉製品等の他の動物性食品についても、今後、リステリアの汚染実態、汚染防止対策等について検討を加える必要がある。