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○フェオホルバイド等クロロフィル分解物を含有するクロレラによる衛生上の危害防止について
(昭和五六年五月八日)
(環食第九九号)
(各都道府県知事・各政令市市長・各特別区区長あて厚生省環境衛生局長通知)
フェオホルバイド等クロロフィル分解物を含有するクロレラ加工品については、皮膚障害を呈する衛生上の危害が発生し、これに対する対策をかねてより専門家を加え検討してきたところであるが、今般、クロレラ加工品(原末を含む)中のフェオホルバイド量及びクロレラの加工方法等を管理することにより衛生上の危害発生を未然に防止することが可能であるとの結論を得たので、それらの成分及び加工方法等について左記の指導事項に基づき貴管下関係者に対し指導方よろしくお願いする。
なお、指導に際しては、別添「フェオホルバイド等クロロフィル分解物に関する性状、生体影響等について」を参考とされたい。
記
1 成分に関する指導事項
既存フェオホルバイド量が一○○mg%をこえ、又は、総フェオホルバイド量(既存フェオホルバイド量とクロロフィラーゼ活性度の和をいう。)が一六○mg%をこえるものであつてはならない。
この場合の既存フェオホルバイド量及びクロロフィラーゼ活性度の測定は別紙〔試験法〕による。
2 加工方法に関する指導事項
(1) 原末は一○○℃で三分間加熱するか、又は、これと同等以上の効果を有する方法で加熱すること。
(2) 原末は水分や有機溶媒との接触を可能な限り少なくすること。
3 保存に関する指導事項
直射日光及び高温多湿を避けて保存すること。
別紙
試験法
1 既存フェオホルバイドの定量法
色素のエーテル抽出溶液から17%塩酸へ移行するクロロフィル分解物量をフェオホルバイドaに換算しmg%で現わし既存フェオホルバイド量とする。
〔試験操作〕
クロレラ100mgを乳鉢に秤り取り、約0.5gの海砂及び85%(V/V)アセトン20mlを加え、すみやかにすりつぶした後上清を遠心管に移す。さらに残査にアセトン10ml、10mlずつで同様に操作し、それぞれの上清を遠心管に<注1>移す。ついで、遠心分離(3000rpm、5分間)し、その上清をエチルエーテル30mlを入れた分液ロートに移す。次いで、このエーテル・アセトン混液に5%硫酸ナトリウム溶液50mlを加え、緩やかに振とうし、硫酸ナトリウム層を捨てる。更にこの洗浄操作を3回繰り返したのち、無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、エーテル層を取り、エチルエーテルで全量を50mlとし、色素原液とする。
この色素原液20mlを取り、17%塩酸20ml、10mlずつで順次振とう抽出後、塩酸層を飽和硫酸ナトリウム溶液150ml及びエチルエーテル20mlを入れた分液ロート中に移す。これを振とう抽出し、エーテル層を分取し、これにエチルエーテルを加え全量を20mlとしたものを分解物抽出液とする。
この分解物抽出液をエチルエーテルで必要な濃度にまで正確に希釈して、667nmの吸光度を測定する。
標準品のフェオホルバイドaの<注2>吸光度からクロロフィル分解物量を算出し、既存フェオホルバイド量(mg%)とする。
注1:エチルエーテルは蒸留精製したものを用いる。過酸化物の多いものを用いると667nmの吸収が670~680nmへ移行することがある。
注2:フェオホルバイドaの標準品が市販されていないため、試験者が自ら作製する必要がある。しかしながら純度の高いものを得るには大変困難であることからS.R.Brown(J.Fish Res.Bd.Canada 25、523―540.1968)のフェオホルバイドaの667nmの比吸光係数70.2(0.1%溶液、1cmの示す吸光度)を使用すること。
2 クロロフィラーゼ活性度の定量法
含水アセトン中でインキュベートし、クロロフィル分解物の生成増加量をフェオホルバイドa量に換算し、mg%で現わしクロロフィラーゼ活性度とする。
〔試験操作〕
クロレラ100mgを精秤し、これに冷M/15リン酸緩衝液(pH8.0)、アセトン混液(7:3)を10ml加え、37℃で3時間インキュベートする。その後10%塩酸で弱酸性とし、1の定量法によりフェオホルバイド量を測定し、その測定値から既存フェオホルバイド量を差し引き増加量をもとめ、その増加量をクロロフィラーゼ活性度とする。
別添
フェオホルバイド等クロロフィル分解物に関する性状、
生体影響等について
1 フェオホルバイド等の性状について
(1) フェオホルバイド等の構造
フェオホルバイド等はクロロフィルの分解産物であり、化学構造式は下図に示す通りである。
クロロフィルは、酸性条件において、Mgが脱離し、また、クロロフィラーゼによりフェオホルバイドあるいはピロフェオホルバイド等に分解される。
(2) フェオホルバイド等の生体影響
フェオホルバイド等による毒性の例としては、これまで春のアワビの内臓、クロレラ加工品の喫食による光過敏症の発生が知られている。その毒性の発現機構としては、フェオホルバイド等が血液を介して生体内各組織細胞に運ばれこの物質の存在下で光により活性化された酸素が細胞膜を構成している脂肪酸(アラキドン酸)等を酸化して過酸化脂質をつくり、この過酸化脂質が生体膜の組織細胞の破壊その他の各種の障害を誘発したり、毛細管の透過性を高めて、皮膚のそうよう感を生じるのであろうと言われている。
一方、カロチンやビタミンE等はこの毒性の発現を抑制する働きのあることが報告されている。
なお、光過敏症発現患者の摂食クロレラ中のフェオホルバイド量と摂食量との関係から最小作用量は25mg/man/dayであつた。マウスを用いた光過敏症発現試験の結果陽性となつたものの既存フェオホルバイド量の最低値は290mg%であり、陰性であつたものの既存フェオホルバイド量の最高値は160mg%であつた。
2 フェオホルバイド等の生成
フェオホルバイド等の生成には、クロロフィルの分解酵素であるクロロフィラーゼの存在が大きく関与しており、また、これは湿度による影響もあるという報告もある。また、クロロフィラーゼはアルコール、アセトン等の有機溶媒により活性化される。
一般に、クロロフィルからのフェオホルバイドの生成は、クロロフィル分子中のフィトールとのエステル部分がクロロフィラーゼによつて加水分解されクロロフィライドになり、さらに酸の影響でMgが脱離し、フェオホルバイドが生成すると考えられている。乳酸はつ酵、酢酸はつ酵を伴なう漬物などでは野菜中のクロロフィラーゼの存在及び酸性という条件があることから、わずかながらフェオホルバイド等が生成されているという報告もある。
事件を起こしたクロレラ加工品の場合は、原料として使用した乾燥クロレラ原末中に失活することなく存在したクロロフィラーゼによるクロロフィルの分解反応が、打錠する前の工程の顆粒製造に使われた含水エタノールによつて促進された結果、フェオホルバイドが多量に生成されたものであると考えられる。
3 食品加工工程におけるフェオホルバイド等の生成の防止
(1) 原料段階
一般に、採取直後のクロレラ生細胞のばあいクロロフィル分解物は、あまり生成されないことが報告されている。
原料として使用する乾燥クロレラは細胞が殆ど死滅しているため、原料中に残存するクロロフィラーゼ活性が作用することになるが、この作用は加熱処理(100℃3分間程度)により著明に低下させることができるので、加熱処理した原末を使用することも重要である。
(2) 製造段階
クロレラの加工方法によつては乾燥クロレラ(原料)に残存しているクロロフィラーゼによりクロロフィルが分解される。この分解は、水分、有機溶媒により促進されることが知られている。
また、比較的酸性の強い食品中では脱Mg反応等がおこりフェオホルバイド等が生成されやすい。そこでフェオホルバイド等を多量に含む製品を製造しないためには、クロロフィラーゼの活性度を極力低下させ、水分や有機溶媒との接触を出来るだけ少なくすることが必要である。