添付一覧
○清浄野菜の普及について
(昭和三〇年三月二八日)
(衛発第二〇五号)
(各都道府県知事あて厚生省公衆衛生・農林省農業改良局長連名通知)
現下の野菜類は、相当部分が、衛生的に未処理の屎尿を肥料として栽培されているために、腸内寄生虫蔓延の要因となり、ときには赤痢等経口伝染病の原因となる例も稀でなく、他方かかる配意から野菜の生食を阻み、無機質、ビタミン類等の国民的不足を来す等保健上並びに食生活改善上幾多の支障がある現状である。
これを改善刷新することは、重大な意義を有するものであるが、このためには、屎尿処理方式の改良、栽培法及び市場取扱の改善等を行うことが前提となるものであって、一朝にして、その全きを期することは困難である。
しかしながら、今後の方向を示す意味において、今回別紙清浄野菜普及要綱を定め、その推進を図り、漸次野菜類に関する衛生の向上を図りたいと考える次第である。
よつて別紙要綱により、清浄野菜の普及推進について、特に御配慮を煩わしたく、通知に併せ依頼する。
おつて、貴管内における保健所を設置する市の長に対しては、貴職から本趣旨を伝達の上、実施に当つては、都道府県市相互間において、十分なる連絡を保たれるようお願いする。
(別紙)
清浄野菜普及要綱
一 目的
公衆衛生の向上及び食生活改善のため清浄野菜を普及させ、蛔虫症等の抜本的防遏を図るとともに経口伝染病の予防に資し、併せて各種ビタミン無機質等の補給源を確保せんとするものである。
二 対象とする野菜の種類
だいこん、かぶ、はくさい、つけな類、きやべつ、ねぎ、ちしや、セルリー、パセリー、トマト、きうり、いちご等国民の食生活において通例生食又は漬物とすることの多いものを、差し当りこの要綱の対象とするが、これら以外の種類も逐次本要綱の対象とするようとり進めるものとする。
三 清浄野菜の定義
清浄野菜とは左に掲げる条件下に栽培され、かつ、腸内寄生虫卵(仔虫を含む。以下同じ。)及び経口伝染病病原菌が付着しているおそれのない野菜類(果菜類及びいちごを含む。以下同じ。)をいうものとする。
1 栽培する耕地は、過去一箇年以上前から衛生的に未処理の屎尿を使用せず、かつ、隣接地又は流水その他により、衛生的に汚染の虞がない等、清浄野菜の栽培上支障がないと認められる処であること。
2 直接栽培に施用する肥料は堆肥、化学肥料、粕類等によることを原則とし、屎尿については、衛生的に未処理のものを絶対に使用しないこと。
3 屎尿については、堆肥の材料として用い、高温醗酵等により衛生的に完全に処理された場合、又は当初から分離集取せられた尿の場合に限り、その施用を認めること。ただし、この場合の堆肥等もなるべく前作又はその基肥としてのみ施用するものとし、その施用量も可及的に少量に止めること。
四 実施機関及び業務分担
(一) 国の機関
1 厚生省関係部局及び農林省関係部局は、相互に連繋を保つて地方公共団体及び民間機関等と協力し清浄野菜の普及を図るものとする。
生産の助長は農林省関係部局、衛生の指導取締は厚生省関係部局で担当することを原則とする。
2 厚生、農林両省関係部局は相互に連絡を保ち、清浄野菜の普及に関する企画及び地方公共団体、民間機関等の指導を行う。
(二) 地方の機関
1 都道府県及び市町村は、清浄野菜の生産の助長及び消費の促進につとめる。
2 衛生上の指導取締は、都道府県及び保健所を設置する市が行う。
(三) その他の機関
各種報道機関、衛生団体、農業団体、営業者組合、会社等の民間機関の協力を求める。
五 普及の方法
(一) 生産助長及び衛生指導の方法
1 清浄野菜の生産については、耕地を清浄に保つ上において、一定の地域を清浄化する必要がある。
このためには、その栽培条件に合致する地帯を、清浄野菜の産地として都道府県が条例等に基いて指定する等の方法を講ずるとともに、可及的にこのための生産者団体の育成と、その活動の促進を図るものとする。
2 清浄野菜には、その産地において、輸送及び販売途上における外部よりの汚染を防止するに足る措置をとるほか、清浄野菜である旨、その他必要な標示をするよう指導するものとする。
3 清浄野菜の産地を管轄する都道府県は、その栽培地、生産野菜等に関し必要な衛生指導及び検査を実施し、その結果清浄野菜たることを保証し得ると認めたときは、その生産者又はその団体に対し、別に定めるところにより、都道府県衛生部局の証明の標示を行うことを許可し、かつ、厚生省にその許可番号とともにその旨を報告するものとする。
厚生省は、右の報告をとりまとめ、関係方面にこれを通知するものとする。その成績により、その許可を取り消した場合もこれに準ずるものとする。
4 消費地の衛生当局は、清浄野菜について、随時抜取検査を行い、その指導を行うものとする。
5 都道府県は、これら清浄野菜の生産及び消費に関する普及のため必要がある場合は、条例の制定を考慮するものとする。
(二) 消費普及の方法
1 清浄野菜の消費の普及は、教育的及び啓蒙的指導によつて行うこととする。
なお、差し当り、給食施設、飲食店営業等に対し、少くとも生食する場合には、清浄野菜を利用するよう勧奨するものとする。
2 清浄野菜の重要性の徹底と消費の普及のため、農村に対しても必要な措置を講ずるものとする。