添付一覧
○食品衛生法施行規則及び食品、添加物等の規格基準の一部改正について
(昭和三九年七月二五日)
(環衛第二二四号)
(各都道府県知事・各指定都市・各政令市市長あて厚生省環境衛生局長通知)
食品衛生法施行規則(昭和二三年七月厚生省令第二三号。以下「規則」という。)及び食品、添加物等の規格基準(昭和三四年一二月厚生省告示第三七○号。以下「規格基準」という。)の一部がそれぞれ昭和三九年七月一五日厚生省令第三四号及び厚生省告示第三七○号をもつて別添のとおり改正されたので、左記の諸点に留意のうえ、これが運用に遺憾のないようにされたい。
記
第一 改正の要旨
一 規則関係
(一) 食品衛生法(以下「法」という。)第六条の規定に基づき、新たに人の健康をそこなうおそれのない化学的合成品たる添加物として次の八品目が追加指定されたこと。
L―アスコルビン酸ステアリン酸エステル、L―アルギニン、L―グルタミン酸塩、5′―ウリジル酸ナトリウム、L―グルタミン酸、5′―シチジル酸ナトリウム、ステアリル乳酸カルシウム、L―テアニン、デンプンリン酸エステルナトリウム
(二) 法第六条の規定に基づき従来エステル類、エーテル類等として包括的に指定されていた着香料であつて、繁用されるものの中から今回次の二六品目が分離指定されたこと。
アセト酢酸エチル、アセトフエノン、α―アミルシンナミツクアルデヒド、カプロン酸アリル、ギ酸ゲラニル、ギ酸シトロネリル、ゲラニオール、酢酸ゲラニル、酢酸シトロネリル、酢酸シンナミル、酢酸テルピニル、酢酸フエニルエチル、L―酢酸メンチル、シクロヘキシルプロピオン酸アリル、シトロネラール、シトロネロール、テルピネオール、パラメチルアセトフエノン、ヒドロキシシトロネラール、フエニル酢酸イソブチル、フエニル酢酸エチル、プロピオン酸ベンジル、d―ボルネオール、マルトール、N―メチルアンスラニル酸メチル、ヨノン
(三) 従来、酒石酸、酒石酸水素カリウムおよび酒石酸ナトリウムとして指定されていたものが、今回それぞれd体とdl体とに分離指定されたこと。
(四) 従来指定されていたクロルスチロール、ブロムスチロールおよびメチルナフトキノンが削除されたこと。
(五) デンプンリン酸エステルナトリウムを含む酒精飲料(酒精分一容量パーセント以上を含有する飲料をいう。)および清涼飲料水ならびにその他の食品にあつてはかん詰、びん詰、たる詰またはつぼ詰のものにデンプンリン酸エステルナトリウムまたは合成糊料を含む旨を標示すべきこととされたこと。
二 規格基準関係
(一) 成分規格
ア 法第七条の規定に基づき、新たに指定されたL―アスコルビン酸ステアリン酸エステル等八品目、分離指定された着香料のアセト酢酸エチル等二六品目およびdl―酒石酸等三品目並びにイオン交換樹脂について成分規格が定められたこと。また、これに伴つて1―アミノ―2ナフトール―4―スルホン酸等一七品目の試薬1―アミノ―2―ナフトール―4―スルホン酸試液等六品目の試液が追加されたこと。
イ 従来法第七条の規定に基づき成分規格が定められていた添加物のうち、5′―イノシン酸ナトリウム等三五品目につき成分規格の一部が次のとおり定められたこと。
(ア) 5′―イノシン酸ナトリウムの含量について、従来は窒素およびリンの量で規定されていたものがイノシン―5′―一リン酸二ナトリウムとして規定され、他の核酸分解物を試験するため、純度試験中に吸光比の規定が追加されたこと。また、本品には結晶水があるため、従来の一二○度、四時間乾燥では正確な値が出難いので、乾燥減量の規定がカールフイツシヤー法による水分の規定に改め、定量法が吸光度測定法による方法に改められたこと。
(イ) 5′―グアニル酸ナトリウムの含量について従来は窒素およびリンの量で規定されていたものがグアノシン―5′―一リン酸二ナトリウムとして規定され、他の核酸分解物を試験するため、純度試験中に吸光比の規定が追加された。また結晶水を持つものができたため、乾燥減量が二五%以下に改められ、定量法が吸光度測定法による方法に改められたこと。
(ウ) グリセリン脂肪酸エステルナトリウムの純度試験(1)酸価中本品をアルコールに溶かすように規定されていたものが、アルコールでは溶けないものもあるので、アルコール・エーテル混液に溶かすよう改められたこと。
(エ) 酒石酸については、最近、化学工業の発達にともないマレイン酸を原料としてdl体の酒石酸が製造されるようになつたので、酒石酸水素カリウム及び酒石酸ナトリウムをd体とdl体とに分け、従来の酒石酸、酒石酸水素カリウムおよび酒石酸ナトリウムの成分規格をd体の規格として、それらの純度試験中に比施光度の規定が追加されたこと。
(オ) 食用タール色素については新たに粒状のものが製造されるようになつたので、二四品目の食用タール色素の性状中に粒が追加され、また、食用赤色三号、一○三号、一○四号、一○五号および一○六号の純度試験中液性は、従来六~九と規定されていたが、ph六・五以下のものは不溶性の色素酸が含まれている可能性があるため六・五~一○と改められたこと。
(カ) チアミン塩酸塩およびチアミン硝酸塩については、定量が蛍光法により行なわれているが、定量誤差のため、含量の上限値が一○○・五%をこえる場合があるので、含量規定が九八~一○二%と改められたこと。
(キ) 葉酸の含量規定については、七五~八○%で、四時間減圧乾燥した後定量するようになつているが、この程度の乾燥では十分に乾燥できないので、乾燥しないで、定量するように改められるとともに、含量が九○%以上に改められ、さらに乾燥減量の規定がカールフイッシャー法による水分の規定に改められたこと。
(ク) 5′―リボヌクレオタイドナトリウムについては、製造技術の向上にともない、高純度のものが製造されるようになつたので、含量規定、性状、確認試験、純度試験および定量法が改められ、乾燥減量の規定はカールフイッシャー法による水分の規定に改められたこと。
(ケ) リボフラビンの定量法中誤差を少くするため、ハイドロサルファイトナトリウムによる処理を行なうよう改められたこと。
(二) 使用基準
ア ステアリル乳酸カルシウム、デンプンリン酸エステルナトリウムおよび着香料のアセト酢酸エチル等二六品目について次のとおり使用基準が定められたこと。
(ア) ステアリル乳酸カルシウムはパン以外の食品に使用してはならないこととされたこと。
(イ) デンプンリン酸エステルナトリウムの使用量は食品の二%以下でなければならないこととされ、繊維素グリコール酸カルシウム、繊維素グリコール酸ナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム及びメチルセルロースの一種以上と併用する場合でもそれらの合計量が食品の二%以下とされたこと。
(ウ) 着香料のアセト酢酸エチル等二六品目は着香の目的以外に使用してはならないこととされたこと。
イ 従来法第七条の規定に基づき使用基準の定められていた添加物のうち、ソルビン酸等七品目について使用基準の一部が次のとおり改められたこと。
(ア) ソルビン酸、ソルビン酸カリウムおよびソルビン酸ナトリウムをケチャップ、みそ、たくあんずけ(いつちようずけたくあんおよびはやずけたくあんを除く。)ならびにかすずけ、こうじずけ、しよう油ずけ、酢ずけおよびみそずけの野菜および果菜のつけ物に使用することが認められたこと。
ケチャップには従来メチルナフトキノンの使用が認められていたものであるが、メチルナフトキノンは添加物として使用が認められなくなつたので、これにかわるものとして、ソルビン酸、ソルビン酸カリウムおよびソルビン酸ナトリウムの使用が認められたものである。またみそ、たくあんずけならびにかすずけ、こうじずけ、しよう油ずけ、酢ずけおよびみそずけの野菜および果菜のつけ物は最近、塩分の少ないものが製造される傾向にあり、また、プラスチック製の袋に包装されるようになつてきたため、ガス発生による膨張が問題になつてきたので、膨張の防止に効果のあるソルビン酸、ソルビン酸カリウムおよびソルビン酸ナトリウムの使用が、他の合成保存料を併用しないことを条件として、認められたものであること。
(イ) 繊維素グリコール酸カルシウム、繊維素グリコール酸ナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウムおよびメチルセルロースについては、今回新たに合成糊料としてデンプンリン酸エステルナトリウムが指定されたので、これらを二種以上併用する場合、それぞれの使用量の和が食品の二%以下でなければならないように改められたこと。
第二 運用上の注意
一 今回新たに規則第三条の規定に基づく別表第二から削除されたクロルスチロール、ブロムスチロールおよびメチルナフトキノンについては、昭和四○年一月一五日から施行されるので、それまでに関係業者を指導する等十分周知徹底を図られたいこと。
二 今回新たに分離指定されたアセト酢酸エチル等着香料二六品目およびd―酒石酸、d―酒石酸水素カリウム、d―酒石酸ナトリウムに関する名称の標示は、昭和三九年七月一五日から適用されるが、昭和四○年一月一四日までは猶予期間があるので、それまでに関係業者を指導する等十分周知徹底を図られたいこと。
三 今回新たに成分規格が規定されたアセト酢酸エチル等着香料二六品目およびイオン交換樹脂については、その成分規格の規定は昭和四○年一月一五日から適用されるので、それまでに関係業者を指導する等十分周知徹底を図られたいこと。
四 今回成分規格が改正された添加物のうち、 5′―イノシン酸ナトリウム、 5′―グアニル酸ナトリウム、d―酒石酸、d―酒石酸水素ナトリウム、d―酒石酸ナトリウム、チアミン塩酸塩、チアミン硝酸塩、葉酸および 5′―リボヌクレオタイドナトリウムについては、これらに関する成分規格が昭和四○年一月一五日から適用されるので、それまでに関係業者を指導する等十分周知徹底を図られたいこと。
五 今回新たにソルビン酸、ソルビン酸カリウムおよびソルビン酸ナトリウムの使用が認められた「たくあんずけ」は、いわゆる「ほんずけたくあん」といわれるもので、つけあがりの塩度が七~一四度のものであること。なお、「たくあんずけ」のうち「いつちようずけたくあん」および「はやずけたくあん」は保存料を必要としないので、除くように規定されたものであるので留意されたいこと。
ここでいう「いつちようずけたくあん」とは、あらかじめ天日により乾燥した大根を調味料、香辛料色素などを加えたぬかまたはふすまでつけたものでつけあがりの塩度が一五~二○度のものをいい、また「はやずけたくあん」とは、一般に美濃早生大根を原料とし、一旦塩づけした後調味料、香辛料、色素などを加えたぬかまたはふすまでつけたもので、一~二週間で製造され、つけあがり後一○日間程度で食用に供されるものである。このつけあがりの塩度は七~一○度である。
六 今回新たにソルビン酸、ソルビン酸カリウムおよびソルビン酸ナトリウムの使用が認められたみそならびにかすずけ、しよう油ずけ、酢ずけおよびみそずけの野菜および果菜のつけ物については、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸ナトリウムおよびパラオキシ安息香酸エステル類の他の合成保存料を使用した場合にはソルビン酸、ソルビン酸カリウムおよびソルビン酸ナトリウムの使用はできないこと。また、ソルビン酸ソルビン酸カリウムおよびソルビン酸ナトリウムを使用したものについては、他の合成保存料は、使用できないこと。
七 メチルナフトキノンの使用基準が規格基準から削除されたが、従来メチルナフトキンの使用が認められていた「ねりうに」は、ソルビン酸、ソルビン酸カリウムおよびソルビン酸ナトリウムの使用が認められている「うに」に含まれるものとして取り扱われたいこと。
第三 その他参考事項
新指定の添加物の特長および使用目的は次のとおりである。
一 L―アスコルビン酸ステアリン酸エステルは、L―アスコルビン酸(ビタミンC)としての生理作用があるほか、熱に安定で、油脂に可溶性があるという特長がある。したがつて、本品は特に油脂、バター、チーズ、食肉製品、魚肉製品等の酸化防止およびビタミンC強化の目的で使用することができる利点を有している。
二 L―アルギニン、L―グルタミン酸塩およびL―テアニンはともに緑茶の旨味成分として存在するアミノ酸であり、主として緑茶の風味向上の目的で緑茶製造の際に添加されるものである。
三 5′―ウリジル酸ナトリウムおよび 5′シチジル酸ナトリウムは、ともに 5′―イノシン酸ナトリウムおよび 5′―グアニル酸ナトリウム等と同様に酵母の核酸分解物から得られるもので、食品に旨味を与える調味料であり、特にこれらの併用によつて効果が発揮されるものである。
四 L―グルタミン酸は、アグリルニトリルから化学的にも合成されるようになつたので、新たに指定されたものである。本品は、L―グルタミン酸ナトリウムと同様食品の調味料として使用される。
五 ステアリル乳酸カルシウムは、パンの製造の際の捏ね粉に使用され、小麦粉中のグルテンの塑性を改善し、デンプン糊化温度(Lデンプン化)を引き上げる性質を持つている。また、パンの軟らかさを長時間保たせる特長がある。
六 デンプンリン酸エステルナトリウムは、デンプンリン酸ナトリウムを作用させて得られたものであり、原料デンプンおよび結合リン酸の量によつてその性質は異るが、一般に水に可溶で、無味無臭、比較的低濃度で高粘度の糊液ができ、低温においても安定であるという特長がある。したがつて、本品はジャム、マーマレード等に糊料として使用されるものである。